説明

液面計

【課題】不活性ガスが充填される液面計において、高温の環境下においても、常温の地域あるいは寒冷地に行ったと仮定した場合に、シーリング漏れの可能性があることを検出することができ的確な処置をとることができるようにする。
【解決手段】不活性ガスが充填される気密構造の本体ケース10と、本体ケース10に内蔵され液面までの距離を検出する液面レベル測定用センサ部33と、本体ケース10内の気圧を検出する内圧センサ43と、本体ケース10内の温度を検出する温度センサ41と、内圧センサ43の検出信号を温度センサ41の検出信号に基づいて常温時の本体ケース10内の気圧に換算しこの換算値が規定の範囲内か否かを判断する信号処理部35と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンカーその他の貯蔵タンク内に貯蔵される液体の上端面(以下「液面」という)のレベルを測定する液面計に関するもので、特に、本体ケースのシーリング漏れによる故障を未然に防ぐことができるようにした液面計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種貯蔵タンク、例えば、タンカーの積荷タンク、バラストタンクなどには、液体の残量あるいは液体の積み込み量や出庫量を計測するために、貯蔵される液体の液面を計測することができる液面計が設置されている。液面計の測定方式には各種の方式がある。例えば、(1)フロート方式、(2)圧力センサ方式、(3)超音波センサ方式、(4)電波方式などがある。また、用途によっても、a.陸上備蓄タンク用、b.タンカーなどの船舶用(以下「舶用」という)などがある。
【0003】
いずれの方式、いずれの用途の液面計にせよ、構成部材が外気や計測対象である液体(以下、この液体のことを「カーゴ」という)に暴露された状態で使用されるのが通常である。しかしながら、液面計の内部、特に計測装置や演算装置などの電気的構成部分にカーゴ、雨水、海水などが浸入しない構造であることが望まれる。その理由は、カーゴには油脂や薬品、原油などさまざまなものがあり、これらのカーゴまたはその蒸気、海水、雨水などが液面計の本体ケース内に浸入すると、液面計の構成部品を化学的に変質させ、液面計として機能しなくなることがあるからである。
【0004】
そこで、貯蔵タンクの内部空間と液面計の本体ケースの内部空間を区画し、液面計の本体ケースの内部空間を気密にして不活性ガスを充填しているものがある。液面計の本体ケースの内部空間を気密にしておけば、カーゴ、その気化ガス、海水などが上記本体ケース内に浸入することはなく、仮に僅かずつでも上記本体ケース内にカーゴなどが浸入したとしても、不活性ガスによって液面計の構成部品の変質が抑制されるからである。
【0005】
図5は、従来考えられている液面計の本体ケース内の構成例を示す。図5において、符号20はカーゴタンクを示している。カーゴタンク20の上端部から、液面計を装着するための筒型のスタンドピース21が立ち上がっていて、スタンドピース21の上端に形成されているフランジの上にガスケット22を介在させて液面計が装着されている。
【0006】
液面計は、円筒形の本体ケース10を主体としてなる。本体ケース10は下端部にフランジ101を一体に有していて、このフランジ101の下面がパッキン12を介してベースフランジ11に載せられている。上記フランジ101とパッキン12を貫通したボルト13がベースフランジ11にねじ込まれることによって本体ケース10とベースフランジ11がパッキン12の介在のもとに一体化されている。ベースフランジ11は本体ケース10の中心軸線と同心円をなすリング状の部材で、内周縁部が上面側から切削されて段状の受け部14が形成されている。この受け部14には、電波を通すことができる素材、例えばフッ素樹脂からなる円板状のパッキン15の外周縁部が落とし込まれている。パッキン15の外周縁部とベースフランジ11の内周縁部にまたがって、押さえリング16が載せられ、押さえリング16を貫通したボルト17がベースフランジ11にねじ込まれることによってパッキン15がベースフランジ11に一体に結合されている。ベースフランジ11と押さえリング16との間、ベースフランジ11の上記受け部14および押さえリング16とパッキン15との間には適宜のシール材が介在して、これらの部材間の空気の流れが遮断されている。本体ケース10は上端部に内向きのフランジ102を一体に有し、このフランジ102の上にはリング状のパッキン18の介在のもとに保守蓋31が載せられている。保守蓋31とパッキン18を貫通したボルト19が上記フランジ102にねじ込まれることによって、本体ケース10に保守蓋31が一体に結合されている。以上のようにして、本体ケース10に、ベースフランジ11、パッキン15、保守蓋31が一体に結合されることにより、本体ケース10内が気密構造となっている。
【0007】
気密構造の本体ケース10内には、上方寄りに端子板38が固定され、端子板38と本体ケース10の内周面と保守蓋31によって区画された端子箱部30が形成されている。端子箱部30には、端子部32が端子板38に取り付けられて配置されている。本体ケース10内の、端子板38よりも下側の空間には、センサ部33、計測処理部34、信号処理部35、通信部36が配置されている。上記センサ部33は液面レベル測定用センサ部であって、この液面レベル測定用センサ部は、電波発生器と、電波発生器にて発生した電波を案内して照射する同軸接栓と、同軸接栓から照射された電波を放射するアンテナと、アンテナに電波を案内する導波管が一体構造となった電波式液面計のセンサ部を構成している。
【0008】
以上のように、内部空間に電波式液面計が組み込まれ、かつ、ベースフランジ11、パッキン15、保守蓋31が結合されて内部空間が気密に構成された本体ケース10は、前述のように、ベースフランジ11がガスケット22の介在のもとにカーゴタンク20のスタンドピース21上に結合されることにより、カーゴタンク20の内部空間と液面計の本体ケース10の内部空間を区画してカーゴタンク20に装着されている。カーゴタンク20にはさまざまな種類の油脂や薬品などのカーゴが貯蔵されるため、これらのカーゴが液面計内部に浸入しないようにフッ素樹脂などからなるパッキン15で、本体ケース10とカーゴタンク20を区画している。カーゴが本体ケース10内に浸入すると、構成部品を酸化させ、故障の原因となる。フッ素樹脂はあらゆる薬品類に不活性で安定なパッキン材料である。また、電波式液面計の場合、電波が透過するように、パッキン15の素材をフッ素樹脂としている。その他のパッキン12,18の素材としては、海水、雨水などに強い、例えば、アクリルニトリロ・ブタジェン・ラバー(以下「NBR」という)が適しており、これらのパッキン12,18を用いることによって海水や雨水が液面計内部に浸入することを防止している。
【0009】
カーゴタンクの内部空間と液面計の本体ケースの内部空間を区画した従来技術として、タンク内に貯まっている液面に向かってマイクロ波を発射するとともに液面からの反射波を受信する平面アンテナと、マイクロ波と反射波とをデータ処理部に送信する送受信装置と、平板アンテナを防護する防護板とを有する電波式液面計が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記防護板がカーゴタンクの内部空間と液面計の本体ケースの内部空間を区画している。
【0010】
【特許文献1】特開平10−197617号公報
【0011】
以上の説明から明らかなように、液面計の本体ケースの内部空間は気密に保たれ、本体ケース内へのカーゴ、海水などが浸入することを完全に阻止することができれば、液面計の構成部品の酸化による故障などを防ぐことができる。また、仮に、カーゴ、海水などが本体ケース内に多少浸入したとしても、内部の構成部品の酸化を防止することができるように、本体ケース内に不活性ガスを充填することも行なわれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、温度などの条件が変化する環境の下では、液面計の本体ケースの内部空間を完全に気密に保つことは不可能に近い。すなわち、前述のような液面計に用いられているパッキンの素材であるフッ素樹脂やNBRは、液面計の本体ケースを構成する金属、例えばステンレス鋼や鋳鉄などと比べると熱膨張率が大きいため、環境温度が低下するとパッキン材料の収縮が金属の収縮より大きく、本体ケースとパッキンとの間に微細な隙間が生じるからである。隙間が生じると、この隙間からカーゴや海水、雨水などが液面計の本体ケース内に浸入し、内部の構成部品が酸化して、液面計として機能しなくなる。液面計の本体ケース内に不活性ガスを充填している場合も、隙間が生じるとこの隙間から不活性ガスが漏れ、時間の経過とともに不活性ガス濃度が低下し、不活性ガスを充填することの効果がなくなる。
【0013】
特に、舶用の液面計は、船舶とともに世界中を移動し、赤道直下の高温の環境から、北極や南極に近い地域での例えば−30度というような極低温の環境まで、苛酷な環境に晒される。したがって、たとえ常温のもとで本体ケース内が完全にシーリングされていたとしても、極低温の条件下ではパッキン材料の収縮が大きく、本体ケースとパッキンとの間に微細な隙間が生じ、シーリングを完璧に維持することは極めて困難な現状にある。
【0014】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑み、温度変化が大きい条件の下では、本体ケースとパッキンとの間に微細な隙間が生じることは止むを得ないこととし、隙間ができることによって生じるシーリング漏れを検出することができるようにして、的確な処置をとることができるようにした液面計を提供することを目的とする。
本発明はまた、寒冷な環境の下でシーリング漏れを検出することができることはもちろん、高温の環境下においても、そのまま常温の地域あるいは寒冷地に行ったと仮定した場合に、シーリング漏れの可能性があることを検出することができる液面計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかる液面計は、不活性ガスが充填される気密構造の本体ケースと、本体ケースに内蔵され液面までの距離を検出する液面レベル測定用センサ部と、本体ケース内の気圧を検出する内圧センサと、本体ケース内の温度を検出する温度センサと、内圧センサの検出信号を温度センサの検出信号に基づいて常温時の本体ケース内の気圧に換算しこの換算値が規定の範囲内か否かを判断する信号処理部と、を備えていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
内圧センサは、本体ケース内の不活性ガスの圧力を検出する。この検出信号は、信号処理部において、温度センサによって検出される本体ケース内の温度に基づいて常温時の本体ケース内の気圧に換算され、信号処理部はさらに上記換算値が規定の範囲内か否かを判断する。したがって、高温の環境のもとではシーリング漏れが生じていないとしても、高温の環境下で測定した本体ケース内の圧力が本来あるべき圧力よりも低い場合は、温度センサの検出信号で換算した結果によって、常温または低温の環境の下でシーリング漏れが生じると判断することができ、この判断の結果に基づいて、不活性ガスを本体ケース内に補充するなど、液面計が機能しなくなる前に的確な処置をとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明にかかる液面計の実施例について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の実施例は、図5に示す従来例に構成を付加した例となっているので、図5に示す従来例の構成と同じ構成部分には共通の符号を付している。
【0018】
図1において、符号20で示すカーゴタンク20の上端部からは、液面計を装着するための円筒型のスタンドピース21が立ち上がっていて、スタンドピース21の上端に形成されているフランジの上にガスケット22が載せられ、ガスケット22の上に液面計が載せられ、ボルトとナットで液面計がスタンドピース21に固定されている。すなわち、ガスケット22の介在のもとに液面計がスタンドピース21上に装着されている。
【0019】
液面計は、円筒形の本体ケース10を主体としてなる。本体ケース10は下端部にフランジ101を一体に有していて、このフランジ101の下面がリング状のパッキン12を介してベースフランジ11に載せられている。上記フランジ101とパッキン12を厚さ方向に貫通したボルト13がベースフランジ11にねじ込まれることによって、本体ケース10とベースフランジ11がパッキン12の介在のもとに一体化されている。ベースフランジ11は本体ケース10の中心軸線と同心円をなすリング状の部材で、内周縁部が上面側から切削されて段状の受け部14が形成されている。この受け部14には電波を通すことができる素材、例えばフッ素樹脂からなる円板状のパッキン15の外周縁部が落とし込まれている。パッキン15の外周縁部とベースフランジ11の内周縁部にまたがって、押さえリング16が載せられ、押さえリング16を厚さ方向に貫通したボルト17がベースフランジ11にねじ込まれることによってパッキン15がベースフランジ11に一体に結合されている。ベースフランジ11と押さえリング16との間、ベースフランジ11の上記受け部14および押さえリング16とパッキン15との間には適宜のシール材が介在して、これらの部材間の空気の流れが遮断されている。
【0020】
本体ケース10は上端部に内向きのフランジ102を一体に有し、このフランジ102の上にはリング状のパッキン18の介在のもとに保守蓋31が載せられている。保守蓋31とパッキン18を貫通したボルト19が上記フランジ102にねじ込まれることによって、本体ケース10に保守蓋31が一体に結合されている。以上のように、本体ケース10に、ベースフランジ11、パッキン15、保守蓋31が一体に結合されることにより、本体ケース10内が気密構造となっている。
【0021】
気密構造の本体ケース10内には、上方寄りに端子板38が固定され、端子板38と本体ケース10の内周面と保守蓋31によって区画された端子箱部30が形成されている。端子板38と本体ケース10の内周面との間にも適宜のシール材が介在されていて、本体ケース10の、端子板38より下面側の空間と、端子板38より上面側の上記端子箱部30もそれぞれ気密構造となっている。端子箱部30には、端子部32が端子板38に取り付けられて配置されている。本体ケース10内の、端子板38よりも下側の空間には、センサ部33、計測処理部34、信号処理部35、通信部36が配置され、さらに、温度センサ41、浸水センサ42、内圧センサ43が配置されている。上記浸水センサ42は、例えば湿度センサで構成することができる。温度センサ41、浸水センサ42、内圧センサ43の検出信号は信号処理部35に入力されて、後で説明するような信号処理が行なわれるようになっている。
【0022】
上記センサ部33は液面レベル測定用センサ部であって、この液面レベル測定用センサ部は、電波発生器と、電波発生器にて発生した電波を案内して照射する同軸接栓と、同軸接栓から照射された電波を放射するアンテナと、アンテナに電波を案内する導波管が一体構造となっている。すなわち、この実施例にかかる液面計は電波式液面計であって、上記センサ部33は、電波式液面計のセンサ部を構成している。もっとも、本願発明にかかる液面計の液面測定方式は電波式に限られるものではなく、前述のフロート方式、圧力センサ方式、超音波センサ方式などの中から任意のものを選択して採用することができる。
【0023】
以上のように、内部空間に液面計が組み込まれ、かつ、ベースフランジ11、パッキン15、保守蓋31が結合されて内部空間が気密に構成された本体ケース10は、前述のように、ベースフランジ11がガスケット22の介在のもとにカーゴタンク20のスタンドピース21上に結合されている。かかる構成とすることにより、カーゴタンク20の内部空間と液面計の本体ケース10の内部空間がパッキン15で区画されてカーゴタンク20に装着されている。カーゴタンク20にはさまざまな種類の油脂や薬品などのカーゴが貯蔵されるため、これらのカーゴが液面計内部に浸入しないようにフッ素樹脂などからなるパッキン15で、本体ケース10とカーゴタンク20を区画している。カーゴが本体ケース10内に浸入すると、構成部品を酸化させ、故障の原因となる。フッ素樹脂はあらゆる薬品類に不活性で安定なパッキン材料である。また、電波式液面計の場合、電波が透過するように、パッキン15の素材をフッ素樹脂としている。その他のパッキン12,18の素材としては、海水、雨水などに強い、例えば、NBRが適しており、これらのパッキン12,18を用いることによって海水や雨水が液面計内部に浸入することを防止している。
【0024】
本体ケース10内の前記端子板38には、本体ケース10内、より正確には本体ケース10内の端子板38よりも下側の空間に不活性ガスを注入するための注入バルブ51と、本体ケース10内を大気に開放する排圧バルブ52が配置されている。注入バルブ51からは、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、ハロゲン化物ガスなどの化学的に不活性で安定なガスを、大気圧より十分に高くなるように注入し充填する。不活性ガスの充填法に関しては後で詳細に説明する。
【0025】
前記計測処理部34は、センサ部33からの検出信号を演算処理して、カーゴタンク20内の液面レベルを求める。信号処理部35は、内圧センサ43の検出信号を温度センサ41の検出信号に基づいて常温時の本体ケース10内の気圧に換算し、この換算値が規定の範囲内か否かを判断し、規定の範囲から外れている場合は警報信号を出力する。信号処理部35はまた、浸水センサ42の検出信号に基づいて、本体ケース10内が海水や雨水などで浸水していないかどうかを判断する。信号処理部35は、浸水センサ42の検出信号レベルが一定のレベル以上になっていれば本体ケース10内が浸水しているものとして警報信号を出力する。信号処理部35はさらに、上記各警報信号および液面レベルの計測信号を外部に送信するのに適した信号となるように処理し、この信号を通信部36から外部に送信するように構成されている。
【0026】
次に、本体ケース10内に不活性ガスを充填する方法の具体例を、図2、図3を参照しながら説明する。図3に示すように、組立が完了し、ただ保守蓋31が取り除かれた状態において、液面計の注入バルブ51に、レギュレータ56を介して充填ガスボンベ55を接続する。充填ガスボンベ55には、窒素ガスなどの不活性ガスが充填されていて、この不活性ガスを本体ケース10内に充填する。図2はその手順を示す。各ステップを「S1」「S2」・・・のように表している。
【0027】
図2において、装置すなわち液面計の組み立てが完了し(S1)、完成検査に合格すると(S2)、図3に示すように注入バルブ51にレギュレータ56を取付け(S3)、レギュレータ56の一次側に充填ガスボンベ55を取り付ける(S4)。次に、排圧バルブ52を開放し(S5)、ボンベ55の元バルブを開放し(S6)、さらに注入バルブ51を開放する(S7)。これによって本体ケース10内に不活性ガスが導入されるとともに、本体ケース内の空気が不活性ガスに押されて排圧バルブ52から排出され、本体ケース10内の空気が不活性ガスにほぼ完全に置換される。空気を排出するのに必要な一定時間が経過すると(S8)、排圧バルブ52を締め切る(S9)。これによって本体ケース10内のガス圧が上昇する。このガス圧はレギュレータ56の指示を見ることによって読み取ることができる。レギュレータ56の指示値が規定値に達したら(S10)、注入バルブ51を締め切り(S11)、レギュレータ56およびボンベ55を取り外し(S12)、前述の保守蓋31を取り付ける(S13)。これで不活性ガスの充填が終了し、液面計を製品として出荷する(S14)。以上の操作は例えば25℃の常温のもとで行い、この温度条件のもとでのガス圧の規定値は、例えば、−30℃程度の寒冷地であっても大気圧より十分高い気圧を保つことができるように、大気圧の2〜3倍とする。
【0028】
以上説明した液面計が船舶などのタンクに装着されたあとの調整操作およびこれに続く運用時の動作フローを図4に示す。液面計がタンクに装着され組み立てが完了した時点(S21)で、まずそのときの装置(液面計)内部の温度を測定する(S22)。温度測定は前記温度センサ41の検出出力を信号処理部35で処理することによって行われる。装置内部温度が常温かどうか、具体的には25±3℃の範囲かどうかを判断し(S23)、この範囲から外れていれば、この範囲に入るように加熱または冷却して装置内部温度を調節する(S24)。温度が規定値内であれば、次にガス充填直後の装置内部圧力を測定する(S25)。内部圧力は内圧センサ43からの検出信号を信号処理部35で処理することによって行われる。この内部圧力の測定値をAとする。次に、この測定値Aが規定値の範囲内かどうかを判断する(S26)。この場合の規定値とは、例えば、大気圧の2〜3倍とし、この範囲内かどうかをS26で判断する。範囲から外れていれば、装置内部のガス圧を調整し(S27)、再度S25に戻ってS25、S26、さらにはS27を繰り返し、最終的には上記測定値Aが規定値の範囲内に入るように調整する。
【0029】
以上の調整が終了すると装置の運用が開始される(S28)。運用が開始されると、装置内部温度測定(S29)、装置内部圧力測定(S30)が定期的に行われる。温度の測定値をT、内部圧力の測定値をPとする。これらの測定値T,Pにより、信号処理部35が装置内部圧力を常温時の内部圧力に換算する(S31)。この換算値をBとすると、換算式は以下のように表すことができる。
B={(273+25)/273+T)}×P
内部圧力の測定値Pが高い値であっても、高温の環境の下での測定値であれば、常温のもとでの圧力は低くなる。低温の環境の下での測定値であれば、常温のもとでの圧力は高くなる。そこで、上記の換算式を適用することによって常温時の内部圧力に換算する。
【0030】
次に、上記換算値Bから、装置内部圧力が規定値の範囲内かどうかを判断する(S32)。規定値内かどうかの判断基準は、例えば、S25において測定しかつ調整して得られた測定値Aに対する上記換算値Bを+20%〜−50%の範囲であるか否かとする。この範囲内に換算値Bが入っていれば規定値内と判断する。上記判断基準を上記のように設定する根拠は、常温で設定した内部圧力が、寒冷地においても大気圧より高い値に保たれている必要があること、また、高温の環境条件の下で測定した値を寒冷地での値に換算しても大気圧より高い値に保たれている必要があることによる。S32において、装置内部圧力が規定値の範囲内であれば、S28に戻ってS32までの動作を繰り返す。S32において、装置内部圧力が規定値の範囲から外れたと判定すると、内部圧力異常と判断し(S33)、アラームを発する(S34)。
【0031】
液面計の使用時間の経過とともに内部の充填ガスの圧力が規定の値以下に低下する場合がある。これには以下の二つの原因が考えられる。一つは、使用環境温度が著しく低下し、それに伴って装置内部の充填ガスの圧力が低下する場合である。一般に、気体の圧力は絶対温度に比例する関係にあるから、温度センサの検出信号によって、そのときの温度に相応した装置内部の圧力を算出することができる。したがって、温度と装置内部の圧力を照らし合わせることによって、圧力の低下が温度低下によるものであるかどうかを判定することができる。温度低下によるものであると判定できればなんら問題はない。
圧力低下のもう一つの原因は、装置のシーリングに異常が生じ、充填ガスが漏出した場合である。この場合は、装置の温度と対比して装置内部圧力が異常に低い値、例えば常温での大気圧の1.5倍以下というような値になるため、内部充填ガスが漏出しているものと判定することができる。充填ガスが漏出しているとしても、時間を経て徐々に漏出しているので、図3に示すようにガスボンベ55を注入バルブ51に接続して補充すればよい。また、必要に応じてパッキン類を交換するなどの処置をとる。
【0032】
内部充填ガスが漏出している場合、カーゴや雨水、海水などが装置内部に浸入する恐れがある。これらが装置内部に浸入し、一定の湿度以上になると、装置内部の浸水センサ42が検出信号を出力するので、この検出信号に基づき信号処理部が警報信号を出力し、カーゴ等の浸入を知らせる。
装置内部圧力が規定値から外れたときの警報信号、カーゴ等の浸入を知らせる警報信号などは、通信部36から外部の制御盤などに伝達される。
【0033】
以上説明したとおり、本発明の実施例によれば、装置内部に装備された内部圧力センサ、温度センサ、浸水センサなどの物理センサの検出信号と、これらのセンサの検出信号を処理する信号処理部の作用によって、装置の内部にカーゴや海水、雨水などが浸入した可能性があることを検出し、また、装置内に充填した不活性ガスが漏出した可能性があることを検出することができる。そして、その場合は、カーゴや海水、雨水などの浸入によって液面計の機能が損なわれる前に、カーゴや海水、雨水などの除去、シーリング材の交換などのメンテナンスを行い、液面計の信頼性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかる液面計の実施例を模式的に示す縦断面図および機能ブロック図である。
【図2】上記実施例の組立完了時における不活性ガス充填操作の例を示すフローチャートである。
【図3】上記不活性ガス充填操作の例を模式的に示す縦断面図である。
【図4】上記実施例の設置時における不活性ガス圧調整操作と運用時のガス圧適否判定動作の例を示すフローチャートである。
【図5】従来の液面計の例を模式的に示す縦断面図および機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
10 本体ケース
15 パッキン
20 カーゴタンク
30 端子箱部
31 保守蓋
33 液面レベル測定用センサ部
35 信号処理部
36 通信部
41 温度センサ
42 浸水センサ
43 内圧センサ
51 注入バルブ
52 排圧バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスが充填される気密構造の本体ケースと、
本体ケースに内蔵され液面までの距離を検出する液面レベル測定用センサ部と、
本体ケース内の気圧を検出する内圧センサと、
本体ケース内の温度を検出する温度センサと、
内圧センサの検出信号を温度センサの検出信号に基づいて常温時の本体ケース内の気圧に換算しこの換算値が規定の範囲内か否かを判断する信号処理部と、を備えている液面計。
【請求項2】
本体ケース内の不活性ガスの気圧は大気圧よりも高く、信号処理部は不活性ガスの気圧の換算値が規定の範囲より低くなったとき警報信号を出力する請求項1記載の液面計。
【請求項3】
本体ケース内にはさらに本体ケース内の浸水を検出する浸水検出センサが配置され、信号処理部は、浸水検出センサの検出信号から本体ケース内の浸水を検出することによっても警報信号を出力する請求項1記載の液面計。
【請求項4】
浸水検出センサは、湿度センサからなる請求項3記載の液面計。
【請求項5】
本体ケース内に端子箱部が設けられ、端子箱部に、本体ケース内に不活性ガスを注入するための注入バルブと本体ケース内を開放する排圧バルブが配置されている請求項1記載の液面計。
【請求項6】
製造当初または不活性ガス補充時の本体ケース内の不活性ガスの圧力は、常温に換算して大気圧の2倍以上3倍以下である請求項1または2記載の液面計。
【請求項7】
液面レベル測定用センサ部は、電波発生器と、電波発生器にて発生した電波を案内して照射する同軸接栓と、同軸接栓から照射された電波を放射するアンテナと、アンテナに電波を案内する導波管が一体構造となっている電波式液面レベル測定用センサ部である請求項1記載の液面計。
【請求項8】
本体ケースは液体を貯蔵するカーゴタンク上に設置され、本体ケースとカーゴタンクとが電波を通すことができる素材からなるパッキンによって区切られている請求項7記載の液面計。
【請求項9】
本体ケース内には、液面レベル測定用センサ部による測定信号および信号処理部からの警報信号を外部に伝達する通信部が配置されている請求項1記載の液面計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−248416(P2007−248416A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76203(P2006−76203)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(391014631)ムサシノ機器株式会社 (14)
【Fターム(参考)】