深みぞ玉軸受用保持器およびその保持器を用いた深みぞ玉軸受ならびに軸受装置
【課題】軸受内部での異物の滞留およびトルク損失の低減と通油性の向上を図ることができる深みぞ玉軸受用保持器を提供することである。
【解決手段】テーパ状とされた第1分割保持器41と、テーパ状とされた第2分割保持器42のテーパ角度を同一とし、第1分割保持器41の大径端面の外径および内径を第2分割保持器42の小径端面の外径および内径と同一とする。第1分割保持器41の大径端に半円形の複数のポケット43を等間隔に形成し、第2分割保持器42の小径端に第1分割保持器41のポケット43とで円形のポケット45を形成する半円形の複数のポケット44を等間隔に形成する。第1分割保持器41のポケット43間の柱部46に係合爪47を設け、その係合爪47を
第2分割保持器42のポケット44間の柱部48に形成された係合凹部49に係合させて、第1分割保持器41と第2分割保持器42とを軸方向に連結してテーパ状の保持器40を組み立てる。
【解決手段】テーパ状とされた第1分割保持器41と、テーパ状とされた第2分割保持器42のテーパ角度を同一とし、第1分割保持器41の大径端面の外径および内径を第2分割保持器42の小径端面の外径および内径と同一とする。第1分割保持器41の大径端に半円形の複数のポケット43を等間隔に形成し、第2分割保持器42の小径端に第1分割保持器41のポケット43とで円形のポケット45を形成する半円形の複数のポケット44を等間隔に形成する。第1分割保持器41のポケット43間の柱部46に係合爪47を設け、その係合爪47を
第2分割保持器42のポケット44間の柱部48に形成された係合凹部49に係合させて、第1分割保持器41と第2分割保持器42とを軸方向に連結してテーパ状の保持器40を組み立てる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、深みぞ玉軸受用の保持器およびその保持器を用いた深みぞ玉軸受ならびに軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インプットシャフトとアウトプットシャフトを同軸上に配置し、その両軸に平行にカウンタシャフトを設け、その平行する2軸の相互間に変速比の異なる複数の歯車式減速部を設けて、インプットシャフトの回転を複数段に変速してアウトプットシャフトから出力するようにしたトランスミッションにおいては、一般的に、歯車式減速部にヘリカルギヤを採用しているため、インプットシャフトからアウトプットシャフトへの回転トルクの伝達時、インプットシャフト、アウトプットシャフトおよびカウンタシャフトのそれぞれにスラスト力が負荷されることになる。
【0003】
このため、インプットシャフト、アウトプットシャフトおよびカウンタシャフトを支持する軸受には、ラジアル荷重とスラスト荷重の両方の荷重を支持することができる軸受を用いる必要がある。
【0004】
円すいころ軸受においては、負荷容量が大きく、スラスト荷重およびラジアル荷重の両方を受けることができるため、トランスミッション用軸受に好適である。しかし、円すいころ軸受においては、損失トルクが大きく、燃料の消費量が多くなるという問題が生じる。その低燃費化を図るため、損失トルクの少ない深みぞ玉軸受が使用されるケースが多くなってきている。
【0005】
ところで、標準の深みぞ玉軸受においては、過大なスラスト荷重が負荷された際に、そのスラスト荷重を受ける負荷側の肩にボールが乗り上げて、肩のエッジが損傷する懸念がある。
【0006】
そのような不都合を解消するため、特許文献1に記載された深みぞ玉軸受においては、外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に形成された肩のうち、スラスト荷重を受ける側の肩を高くして、ボールの乗り上げを阻止し、軸受の耐久性の低下を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−7286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に記載された深みぞ玉軸受においては、内輪および外輪の肩高さが左右非対称であるため、径の異なる2つの分割保持器を内外に嵌合し、一方の分割保持器に形成された係合爪を他方の分割保持器に設けられた係合凹部に係合させて、一対の分割保持器を軸方向に結合してボールを保持する保持器を形成するようにしているため、保持器の外径面および内径面に多くの凹凸部が形成され、その凹凸部にギヤの摩耗粉等の異物が付着滞留し易く、また、潤滑オイルが撹拌されることになってトルク損失が多く、異物の滞留やトルク損失の低減を図る上においても改善すべき点が残されていた。
【0009】
また、大径側分割保持器と小径側分割保持器の外径面間および内径面間に径方向の段差が形成されるため、その段差で潤滑オイルの流れが阻害されて軸受内部に潤滑オイルをスムーズに流通させることができず、通油性を向上させる上において改善すべき点が残されていた。
【0010】
この発明の課題は、軸受内部での異物の滞留およびトルク損失の低減と通油性の向上を図ることができる深みぞ玉軸受用保持器および深みぞ玉軸受ならびに軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明に係る深みぞ玉軸受用保持器においては、テーパ状とされた第1分割保持器と、その第1分割保持器とテーパ角度が同じとされて、小径端面の外径および内径が第1分割保持器の大径端面の外径および内径と同径とされたテーパ状の第2分割保持器とからなり、前記第1分割保持器の大径端と第2分割保持器の小径端のそれぞれに、第1分割保持器の大径端面に第2分割保持器の小径端面を衝合させる接続状態でボール収容用の円形のポケットを形成する複数の半円形ポケットを周方向に等間隔に設け、前記第1分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面と第2分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面の、一方の端面の外周部または内周部に、先端が鈎部とされた係合爪を設け、他方の端面に、その係合爪が係合可能とされ、係合状態で第1分割保持器と第2分割保持器とを軸方向に結合する係合凹部を設けた構成を採用したのである。
【0012】
また、この発明に係る深みぞ玉軸受においては、内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールと、そのボールを保持する保持器とからなり、前記外輪軌道溝の一側の肩と内輪軌道溝の他側の肩の少なくとも一方の高さを、外輪軌道溝の他側の肩または内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、その高さの高い肩の肩高さをH1、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH1の比率H1/dを0.25〜0.50の範囲とした深みぞ玉軸受において、前記保持器として、この発明に係る上記構成の保持器を採用したのである。
【0013】
上記の構成からなる深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪と内輪の軌道溝間に複数のボールを組み込んだのち、外輪と内輪の対向部間に第1分割保持器および第2分割保持器を挿入する。
【0014】
このとき、第1分割保持器は、外輪の高さの高い肩側からポケット形成側端を先にして対向部間に挿入し、一方、第2分割保持器は、外輪の高さの低い肩側からポケット形成側端を先にして対向部間に挿入し、一方の分割保持器に形成された係合爪が他方の分割保持器に設けられた係合凹部に軸方向で対向し、かつ、半円形ポケットがボールと軸方向で対向するよう、第1および第2の分割保持器の向きを調整して、その第1および第2の分割保持器を軸方向に押し込むようにする。
【0015】
上記のように、第1および第2の分割保持器の向きを調整して、双方の分割保持器を軸方向に押し込むことにより、係合爪が相手方の分割保持器の係合凹部に係合し、第1分割保持器と第2分割保持器が互いに結合されて保持器が形成され、複数のボールは円形に組み合わされたポケットのそれぞれで保持されて、深みぞ玉軸受が組立状態とされる。
【0016】
ここで、保持器を形成する第1分割保持器と第2分割保持器はテーパ状とされ、第1分割保持器の大径端面の外径および内径が第2分割保持器の小径端面の外径および内径と同径であるため、外表面および内表面に段差のないテーパ状の保持器を組み立てることができる。そのため、その保持器を用いて深みぞ玉軸受を組み立てることにより、軸受内部に侵入する異物が保持器の表面に付着して滞留することが少なく、異物の滞留を低減することができる。
【0017】
また、保持器は、テーパ状をなし、大径端と小径端は径差を有するため、保持器の回転時、大径端部と小径端部の周速差によってポンプ作用が生じ、軸受空間内に潤滑オイルが送り込まれることになる。このとき、保持器は、その外表面および内表面が滑らかであるため、潤滑オイルはスムーズに流れ、また、潤滑オイルの撹拌抵抗も小さく、トルク損失も少ない。
【0018】
ここで、第1分割保持器および第2分割保持器は、低コスト化を図るため、合成樹脂の成形品とするのが好ましい。この場合、深みぞ玉軸受は、オイル潤滑されるため、耐油性および耐久性に優れた合成樹脂で成形するのが好ましい。そのような樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を挙げることができる。それらの樹脂のうち、ポリフェニレンスルファイド(PPS)は、他の樹脂に比較して耐油性が優れているため、耐油性を考慮するならば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を用いるのが最も好ましい。
【0019】
また、樹脂材料の価格を考慮するならば、ポリアミド66(PA66)を用いるのが好ましく、潤滑オイルの種類に応じて適宜に決定すればよい。
【0020】
この発明に係る軸受装置においては、ヘリカルギヤが設けられたシャフトを油浴に一部が浸かる一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、前記一対の転がり軸受として、この発明に係る上記の深みぞ玉軸受を用いた構成としたのである。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係る深みぞ玉軸受用保持器においては、上記のように、テーパ状の第1分割保持器と第2分割保持器とを、そのテーパ角度を同一とし、第1分割保持器の大径端面の外径および内径を第2分割保持器の小径端面の外径および内径と同径とし、その第1分割保持器と第2分割保持器とを、係合爪と係合凹部の係合により軸方向に結合してテーパ状としたので、外輪の左右の肩高さおよび内輪の左右の肩高さを相違させて大きなスラスト荷重やラジアル荷重を受けることができるようにした深みぞ玉軸受に適用することができる。
【0022】
また、第1分割保持器と第2分割保持器の結合によって組み立てられた保持器は、段差のない滑らかなテーパ状外表面およびテーパ状内表面を形成するため、深みぞ玉軸受への採用において、異物滞留の少ない、トルク損失の少ない深みぞ玉軸受を得ることができる。しかも、保持器は、大径端部と小径端部の径差による周速の相違によってポンプ作用を生じさせるため、通油性に優れた深みぞ玉軸受を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る深みぞ玉軸受の実施の形態を示す縦断面図
【図2】図1の一部を拡大して示す断面図
【図3】第1分割保持器と第2分割保持器の結合手段の他の例を示す断面図
【図4】図1に示す保持器の側面図
【図5】図4に示す保持器の第1分割保持器と第2分割保持器の結合前の状態を示す側面図
【図6】図4に示す保持器の一部切欠正面図
【図7】この発明に係る軸受装置の実施の形態を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、深みぞ玉軸受Aは、外輪11の内径面に形成された軌道溝12と内輪21の外径面に設けられた軌道溝22間にボール31を組込み、そのボール31を保持器40で保持している。
【0025】
外輪11の軌道溝12の両側に形成された一対の肩13a、13bのうち、軌道溝12の一側方に位置する肩13aの高さは他側方に位置する肩13bの高さよりも高くなっている。一方、内輪21の軌道溝22の両側に形成された一対の肩23a、23bのうち、軌道溝22の他側方に位置する肩23bの高さは一側方に位置する肩23aの高さより高くなっている。
【0026】
ここで、高さの低い肩13bおよび23aの肩の高さは、標準型深みぞ玉軸受の肩と同じ高さとされているが、標準型深みぞ玉軸受の肩の高さより低くしてもよい。
【0027】
なお、説明の都合上、高さの高い肩13a、23bをスラスト負荷側の肩13a、23bといい、高さの低い肩13b、23aをスラスト非負荷側の肩13b、23aという。
【0028】
スラスト負荷側の肩13a、23bの肩高さをH1とし、ボール31の球径をdとすると、ボール31の球径dに対する肩高さH1の比率H1/dは、H1/d=0.25〜0.50の範囲とされている。
【0029】
図2、図4および図5に示すように、保持器40は、第1分割保持器41と、第2分割保持器42とからなる。第1分割保持器41はテーパ状をなし、その大径端には半円形の複数のポケット43が周方向に等間隔に形成されている。
【0030】
第2分割保持器42も第1分割保持器41と同様にテーパ状をなし、そのテーパ角度は第1分割保持器41のテーパ角度と同一とされ、その小径端面の外径および内径は、第1分割保持器41の大径端面の外径および内径と同径とされている。
【0031】
また、第2分割保持器42の小径端には、第1分割保持器41に形成されたポケット43と同数の半円形のポケット44が周方向に等間隔に形成され、その複数のポケット44は、第1分割保持器41の大径端面に第2分割保持器42の小径端面を衝合させる接続状態でボール収容用の円形のポケット45を形成するようになっている。
【0032】
図2、図5および図6に示すように、第1分割保持器41の隣接するポケット43間に形成された柱部46の端面外周部には、第2分割保持器42に向けて鈎部47aを先端に有する係合爪47が形成され、一方、第2分割保持器42の隣接するポケット44間に形成された柱部48の外周には上記係合爪47が係合可能な係合凹部49が設けられ、その係合凹部49に対する係合爪47の係合によって第1分割保持器41と第2分割保持器42とは軸方向に結合されて、軸方向に非分離とされる。
【0033】
ここで、図2では、第1分割保持器41の柱部46の端面外周部に係合爪47を形成し、第2分割保持器42の柱部48の外周に係合凹部49を設けたが、図3に示すように、第1分割保持器41の柱部46の端面内周部に係合爪47を形成し、第2分割保持器42の柱部48の内周に係合凹部49を設けるようにしてもよい。また、図では省略したが、第2分割保持器42の柱部48端面に係合爪を設け、第1分割保持器41の柱部46に係合凹部を設けるようにしてもよい。
【0034】
図3に示すように、第1分割保持器41の柱部46の端面内周部に係合爪47を形成する場合は、係合爪47の先端部に上向きに鈎部47aを設けるようにする。
【0035】
第1分割保持器41および第2分割保持器42のそれぞれは、合成樹脂の成形品とされている。この場合、保持器40は、深みぞ玉軸受を潤滑する潤滑オイルに曝されるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いるようにする。
【0036】
そのような樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を挙げることができる。これらの樹脂は、潤滑オイルの種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。
【0037】
実施の形態で示す深みぞ玉軸受は上記の構造からなり、その深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪11の内側に内輪21を挿入し、その内輪21の軌道溝22と外輪11の軌道溝12間に所要数のボール31を組込む。
【0038】
このとき、内輪21を外輪11に対して径方向にオフセットして、内輪21の外径面の一部を外輪11の内径面の一部に当接して、その当接部位から周方向に180度ずれた位置に三日月形の空間を形成し、その空間の一側方から内部にボール31を組込むようにする。
【0039】
そのボール31の組込みに際して、外輪11のスラスト負荷側の肩13aや内輪21のスラスト負荷側の肩23bの肩高さH1が必要以上に高い場合には、ボール31の組込みを阻害することになるが、実施の形態では、ボール31の球径dに対する肩高さH1の比率H1/dが、0.50を超えることのない高さとされているため、外輪11と内輪21間にボール31を確実に組込むことができる。
【0040】
ボール31の組込み後、内輪21の中心を外輪11の中心に一致させてボール31を周方向に等間隔に配置し、外輪11と内輪21の対向部間に第1分割保持器41と第2分割保持器42を挿入する。
【0041】
このとき、第1分割保持器41は、外輪11の高さの高い肩13a側からポケット43を先にして外輪11と内輪21の対向部間に挿入し、一方、第2分割保持器42は、外輪11の高さの低い肩13b側からポケット44を先にして外輪11と内輪21の対向部間に挿入する。
【0042】
第1分割保持器41および第2分割保持器42の挿入後、第1分割保持器41に形成された係合爪47が第2分割保持器42に設けられた係合凹部49に軸方向で対向し、かつ、半円形ポケット43、44がボール31と軸方向で対向するよう、第1分割保持器41および第2分割保持器42の向きを調整して、その第1分割保持器41および第2分割保持器42を軸方向に押し込むようにする。
【0043】
上記のように、第1分割保持器41および第2分割保持器42の向きを調整して、双方の分割保持器41、42を軸方向に押し込むことにより、図2に示すように、係合爪47が係合凹部49に係合し、第1分割保持器41と第2分割保持器42が互いに結合されて保持器40が形成され、複数のボール31は円形に組み合わされたポケット45のそれぞれで保持されて、深みぞ玉軸受Aが組立状態とされる。
【0044】
ここで、ボール31を保持する保持器40は、テーパ角度を同一とするテーパ状第1分割保持器41とテーパ状第2分割保持器42とからなり、その第1分割保持器41の大径端面の外径および内径は、その大径端面に衝合される第2分割保持器42の小径端面の外径および内径と同径であるため、第1分割保持器と第2分割保持器の結合によって組み立てられた保持器40の外表面および内表面は、段差のない滑らかなテーパ面を形成することになる。
【0045】
このため、上記保持器40の深みぞ玉軸受への採用において、異物滞留の少ない深みぞ玉軸受Aを得ることができる。また、潤滑オイルの撹拌抵抗も小さく、トルク損失の少ない玉軸受Aを得ることができる。
【0046】
さらに、保持器40はテーパ状であるため、回転時、大径端部と小径端部の径の相違によって周速が相違し、軸受内部にポンプ作用が生じる。そのポンプ作用によって、潤滑オイルが軸受内に強制的に送り込まれることになり、通油性の良好な深みぞ玉軸受Aを得ることができる。
【0047】
図7は、実施の形態で示す深みぞ玉軸受Aを用いて従動側のヘリカルギヤ50を支持するシャフト51を回転自在に支持した軸受装置を示す。この場合、深みぞ玉軸受Aは、内輪21のスラスト負荷側の肩23bがヘリカルギヤ50側に位置する組付けとする。また、深みぞ玉軸受Aは、一部が油浴に浸かる組付けとする。
【0048】
上記軸受装置において、駆動側ヘリカルギヤ52から従動側ヘリカルギヤ50に回転を伝達すると、シャフト51にスラスト力が負荷され、そのスラスト力は深みぞ玉軸受Aにおける内輪21のスラスト負荷側の肩23bと外輪11のスラスト負荷側の肩13aで支持される。
【0049】
このとき、ボール31にもスラスト力が負荷され、内輪21のスラスト負荷側の肩23bと外輪11のスラスト負荷側の肩13aが必要以上に低い場合、ボール31が肩13a、23bに乗り上がり、肩13a、23bのエッジを損傷させる可能性がある。
【0050】
実施の形態では、ボール31の球径dに対する肩高さH1の比率H1/dを0.25以上としているため、ボール31の乗り上げを確実に阻止することができる。
【符号の説明】
【0051】
11 外輪
12 軌道溝
13a 肩
13b 肩
21 内輪
22 軌道溝
23a 肩
23b 肩
31 ボール
40 保持器
41 第1分割保持器
42 第2分割保持器
43 半円形ポケット
44 半円形ポケット
45 円形ポケット
46 柱部
47 係合爪
47a 鈎部
48 柱部
49 係合凹部
50 ヘリカルギヤ
51 シャフト
【技術分野】
【0001】
この発明は、深みぞ玉軸受用の保持器およびその保持器を用いた深みぞ玉軸受ならびに軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インプットシャフトとアウトプットシャフトを同軸上に配置し、その両軸に平行にカウンタシャフトを設け、その平行する2軸の相互間に変速比の異なる複数の歯車式減速部を設けて、インプットシャフトの回転を複数段に変速してアウトプットシャフトから出力するようにしたトランスミッションにおいては、一般的に、歯車式減速部にヘリカルギヤを採用しているため、インプットシャフトからアウトプットシャフトへの回転トルクの伝達時、インプットシャフト、アウトプットシャフトおよびカウンタシャフトのそれぞれにスラスト力が負荷されることになる。
【0003】
このため、インプットシャフト、アウトプットシャフトおよびカウンタシャフトを支持する軸受には、ラジアル荷重とスラスト荷重の両方の荷重を支持することができる軸受を用いる必要がある。
【0004】
円すいころ軸受においては、負荷容量が大きく、スラスト荷重およびラジアル荷重の両方を受けることができるため、トランスミッション用軸受に好適である。しかし、円すいころ軸受においては、損失トルクが大きく、燃料の消費量が多くなるという問題が生じる。その低燃費化を図るため、損失トルクの少ない深みぞ玉軸受が使用されるケースが多くなってきている。
【0005】
ところで、標準の深みぞ玉軸受においては、過大なスラスト荷重が負荷された際に、そのスラスト荷重を受ける負荷側の肩にボールが乗り上げて、肩のエッジが損傷する懸念がある。
【0006】
そのような不都合を解消するため、特許文献1に記載された深みぞ玉軸受においては、外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に形成された肩のうち、スラスト荷重を受ける側の肩を高くして、ボールの乗り上げを阻止し、軸受の耐久性の低下を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−7286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に記載された深みぞ玉軸受においては、内輪および外輪の肩高さが左右非対称であるため、径の異なる2つの分割保持器を内外に嵌合し、一方の分割保持器に形成された係合爪を他方の分割保持器に設けられた係合凹部に係合させて、一対の分割保持器を軸方向に結合してボールを保持する保持器を形成するようにしているため、保持器の外径面および内径面に多くの凹凸部が形成され、その凹凸部にギヤの摩耗粉等の異物が付着滞留し易く、また、潤滑オイルが撹拌されることになってトルク損失が多く、異物の滞留やトルク損失の低減を図る上においても改善すべき点が残されていた。
【0009】
また、大径側分割保持器と小径側分割保持器の外径面間および内径面間に径方向の段差が形成されるため、その段差で潤滑オイルの流れが阻害されて軸受内部に潤滑オイルをスムーズに流通させることができず、通油性を向上させる上において改善すべき点が残されていた。
【0010】
この発明の課題は、軸受内部での異物の滞留およびトルク損失の低減と通油性の向上を図ることができる深みぞ玉軸受用保持器および深みぞ玉軸受ならびに軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明に係る深みぞ玉軸受用保持器においては、テーパ状とされた第1分割保持器と、その第1分割保持器とテーパ角度が同じとされて、小径端面の外径および内径が第1分割保持器の大径端面の外径および内径と同径とされたテーパ状の第2分割保持器とからなり、前記第1分割保持器の大径端と第2分割保持器の小径端のそれぞれに、第1分割保持器の大径端面に第2分割保持器の小径端面を衝合させる接続状態でボール収容用の円形のポケットを形成する複数の半円形ポケットを周方向に等間隔に設け、前記第1分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面と第2分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面の、一方の端面の外周部または内周部に、先端が鈎部とされた係合爪を設け、他方の端面に、その係合爪が係合可能とされ、係合状態で第1分割保持器と第2分割保持器とを軸方向に結合する係合凹部を設けた構成を採用したのである。
【0012】
また、この発明に係る深みぞ玉軸受においては、内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールと、そのボールを保持する保持器とからなり、前記外輪軌道溝の一側の肩と内輪軌道溝の他側の肩の少なくとも一方の高さを、外輪軌道溝の他側の肩または内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、その高さの高い肩の肩高さをH1、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH1の比率H1/dを0.25〜0.50の範囲とした深みぞ玉軸受において、前記保持器として、この発明に係る上記構成の保持器を採用したのである。
【0013】
上記の構成からなる深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪と内輪の軌道溝間に複数のボールを組み込んだのち、外輪と内輪の対向部間に第1分割保持器および第2分割保持器を挿入する。
【0014】
このとき、第1分割保持器は、外輪の高さの高い肩側からポケット形成側端を先にして対向部間に挿入し、一方、第2分割保持器は、外輪の高さの低い肩側からポケット形成側端を先にして対向部間に挿入し、一方の分割保持器に形成された係合爪が他方の分割保持器に設けられた係合凹部に軸方向で対向し、かつ、半円形ポケットがボールと軸方向で対向するよう、第1および第2の分割保持器の向きを調整して、その第1および第2の分割保持器を軸方向に押し込むようにする。
【0015】
上記のように、第1および第2の分割保持器の向きを調整して、双方の分割保持器を軸方向に押し込むことにより、係合爪が相手方の分割保持器の係合凹部に係合し、第1分割保持器と第2分割保持器が互いに結合されて保持器が形成され、複数のボールは円形に組み合わされたポケットのそれぞれで保持されて、深みぞ玉軸受が組立状態とされる。
【0016】
ここで、保持器を形成する第1分割保持器と第2分割保持器はテーパ状とされ、第1分割保持器の大径端面の外径および内径が第2分割保持器の小径端面の外径および内径と同径であるため、外表面および内表面に段差のないテーパ状の保持器を組み立てることができる。そのため、その保持器を用いて深みぞ玉軸受を組み立てることにより、軸受内部に侵入する異物が保持器の表面に付着して滞留することが少なく、異物の滞留を低減することができる。
【0017】
また、保持器は、テーパ状をなし、大径端と小径端は径差を有するため、保持器の回転時、大径端部と小径端部の周速差によってポンプ作用が生じ、軸受空間内に潤滑オイルが送り込まれることになる。このとき、保持器は、その外表面および内表面が滑らかであるため、潤滑オイルはスムーズに流れ、また、潤滑オイルの撹拌抵抗も小さく、トルク損失も少ない。
【0018】
ここで、第1分割保持器および第2分割保持器は、低コスト化を図るため、合成樹脂の成形品とするのが好ましい。この場合、深みぞ玉軸受は、オイル潤滑されるため、耐油性および耐久性に優れた合成樹脂で成形するのが好ましい。そのような樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を挙げることができる。それらの樹脂のうち、ポリフェニレンスルファイド(PPS)は、他の樹脂に比較して耐油性が優れているため、耐油性を考慮するならば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を用いるのが最も好ましい。
【0019】
また、樹脂材料の価格を考慮するならば、ポリアミド66(PA66)を用いるのが好ましく、潤滑オイルの種類に応じて適宜に決定すればよい。
【0020】
この発明に係る軸受装置においては、ヘリカルギヤが設けられたシャフトを油浴に一部が浸かる一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、前記一対の転がり軸受として、この発明に係る上記の深みぞ玉軸受を用いた構成としたのである。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係る深みぞ玉軸受用保持器においては、上記のように、テーパ状の第1分割保持器と第2分割保持器とを、そのテーパ角度を同一とし、第1分割保持器の大径端面の外径および内径を第2分割保持器の小径端面の外径および内径と同径とし、その第1分割保持器と第2分割保持器とを、係合爪と係合凹部の係合により軸方向に結合してテーパ状としたので、外輪の左右の肩高さおよび内輪の左右の肩高さを相違させて大きなスラスト荷重やラジアル荷重を受けることができるようにした深みぞ玉軸受に適用することができる。
【0022】
また、第1分割保持器と第2分割保持器の結合によって組み立てられた保持器は、段差のない滑らかなテーパ状外表面およびテーパ状内表面を形成するため、深みぞ玉軸受への採用において、異物滞留の少ない、トルク損失の少ない深みぞ玉軸受を得ることができる。しかも、保持器は、大径端部と小径端部の径差による周速の相違によってポンプ作用を生じさせるため、通油性に優れた深みぞ玉軸受を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る深みぞ玉軸受の実施の形態を示す縦断面図
【図2】図1の一部を拡大して示す断面図
【図3】第1分割保持器と第2分割保持器の結合手段の他の例を示す断面図
【図4】図1に示す保持器の側面図
【図5】図4に示す保持器の第1分割保持器と第2分割保持器の結合前の状態を示す側面図
【図6】図4に示す保持器の一部切欠正面図
【図7】この発明に係る軸受装置の実施の形態を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、深みぞ玉軸受Aは、外輪11の内径面に形成された軌道溝12と内輪21の外径面に設けられた軌道溝22間にボール31を組込み、そのボール31を保持器40で保持している。
【0025】
外輪11の軌道溝12の両側に形成された一対の肩13a、13bのうち、軌道溝12の一側方に位置する肩13aの高さは他側方に位置する肩13bの高さよりも高くなっている。一方、内輪21の軌道溝22の両側に形成された一対の肩23a、23bのうち、軌道溝22の他側方に位置する肩23bの高さは一側方に位置する肩23aの高さより高くなっている。
【0026】
ここで、高さの低い肩13bおよび23aの肩の高さは、標準型深みぞ玉軸受の肩と同じ高さとされているが、標準型深みぞ玉軸受の肩の高さより低くしてもよい。
【0027】
なお、説明の都合上、高さの高い肩13a、23bをスラスト負荷側の肩13a、23bといい、高さの低い肩13b、23aをスラスト非負荷側の肩13b、23aという。
【0028】
スラスト負荷側の肩13a、23bの肩高さをH1とし、ボール31の球径をdとすると、ボール31の球径dに対する肩高さH1の比率H1/dは、H1/d=0.25〜0.50の範囲とされている。
【0029】
図2、図4および図5に示すように、保持器40は、第1分割保持器41と、第2分割保持器42とからなる。第1分割保持器41はテーパ状をなし、その大径端には半円形の複数のポケット43が周方向に等間隔に形成されている。
【0030】
第2分割保持器42も第1分割保持器41と同様にテーパ状をなし、そのテーパ角度は第1分割保持器41のテーパ角度と同一とされ、その小径端面の外径および内径は、第1分割保持器41の大径端面の外径および内径と同径とされている。
【0031】
また、第2分割保持器42の小径端には、第1分割保持器41に形成されたポケット43と同数の半円形のポケット44が周方向に等間隔に形成され、その複数のポケット44は、第1分割保持器41の大径端面に第2分割保持器42の小径端面を衝合させる接続状態でボール収容用の円形のポケット45を形成するようになっている。
【0032】
図2、図5および図6に示すように、第1分割保持器41の隣接するポケット43間に形成された柱部46の端面外周部には、第2分割保持器42に向けて鈎部47aを先端に有する係合爪47が形成され、一方、第2分割保持器42の隣接するポケット44間に形成された柱部48の外周には上記係合爪47が係合可能な係合凹部49が設けられ、その係合凹部49に対する係合爪47の係合によって第1分割保持器41と第2分割保持器42とは軸方向に結合されて、軸方向に非分離とされる。
【0033】
ここで、図2では、第1分割保持器41の柱部46の端面外周部に係合爪47を形成し、第2分割保持器42の柱部48の外周に係合凹部49を設けたが、図3に示すように、第1分割保持器41の柱部46の端面内周部に係合爪47を形成し、第2分割保持器42の柱部48の内周に係合凹部49を設けるようにしてもよい。また、図では省略したが、第2分割保持器42の柱部48端面に係合爪を設け、第1分割保持器41の柱部46に係合凹部を設けるようにしてもよい。
【0034】
図3に示すように、第1分割保持器41の柱部46の端面内周部に係合爪47を形成する場合は、係合爪47の先端部に上向きに鈎部47aを設けるようにする。
【0035】
第1分割保持器41および第2分割保持器42のそれぞれは、合成樹脂の成形品とされている。この場合、保持器40は、深みぞ玉軸受を潤滑する潤滑オイルに曝されるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いるようにする。
【0036】
そのような樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を挙げることができる。これらの樹脂は、潤滑オイルの種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。
【0037】
実施の形態で示す深みぞ玉軸受は上記の構造からなり、その深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪11の内側に内輪21を挿入し、その内輪21の軌道溝22と外輪11の軌道溝12間に所要数のボール31を組込む。
【0038】
このとき、内輪21を外輪11に対して径方向にオフセットして、内輪21の外径面の一部を外輪11の内径面の一部に当接して、その当接部位から周方向に180度ずれた位置に三日月形の空間を形成し、その空間の一側方から内部にボール31を組込むようにする。
【0039】
そのボール31の組込みに際して、外輪11のスラスト負荷側の肩13aや内輪21のスラスト負荷側の肩23bの肩高さH1が必要以上に高い場合には、ボール31の組込みを阻害することになるが、実施の形態では、ボール31の球径dに対する肩高さH1の比率H1/dが、0.50を超えることのない高さとされているため、外輪11と内輪21間にボール31を確実に組込むことができる。
【0040】
ボール31の組込み後、内輪21の中心を外輪11の中心に一致させてボール31を周方向に等間隔に配置し、外輪11と内輪21の対向部間に第1分割保持器41と第2分割保持器42を挿入する。
【0041】
このとき、第1分割保持器41は、外輪11の高さの高い肩13a側からポケット43を先にして外輪11と内輪21の対向部間に挿入し、一方、第2分割保持器42は、外輪11の高さの低い肩13b側からポケット44を先にして外輪11と内輪21の対向部間に挿入する。
【0042】
第1分割保持器41および第2分割保持器42の挿入後、第1分割保持器41に形成された係合爪47が第2分割保持器42に設けられた係合凹部49に軸方向で対向し、かつ、半円形ポケット43、44がボール31と軸方向で対向するよう、第1分割保持器41および第2分割保持器42の向きを調整して、その第1分割保持器41および第2分割保持器42を軸方向に押し込むようにする。
【0043】
上記のように、第1分割保持器41および第2分割保持器42の向きを調整して、双方の分割保持器41、42を軸方向に押し込むことにより、図2に示すように、係合爪47が係合凹部49に係合し、第1分割保持器41と第2分割保持器42が互いに結合されて保持器40が形成され、複数のボール31は円形に組み合わされたポケット45のそれぞれで保持されて、深みぞ玉軸受Aが組立状態とされる。
【0044】
ここで、ボール31を保持する保持器40は、テーパ角度を同一とするテーパ状第1分割保持器41とテーパ状第2分割保持器42とからなり、その第1分割保持器41の大径端面の外径および内径は、その大径端面に衝合される第2分割保持器42の小径端面の外径および内径と同径であるため、第1分割保持器と第2分割保持器の結合によって組み立てられた保持器40の外表面および内表面は、段差のない滑らかなテーパ面を形成することになる。
【0045】
このため、上記保持器40の深みぞ玉軸受への採用において、異物滞留の少ない深みぞ玉軸受Aを得ることができる。また、潤滑オイルの撹拌抵抗も小さく、トルク損失の少ない玉軸受Aを得ることができる。
【0046】
さらに、保持器40はテーパ状であるため、回転時、大径端部と小径端部の径の相違によって周速が相違し、軸受内部にポンプ作用が生じる。そのポンプ作用によって、潤滑オイルが軸受内に強制的に送り込まれることになり、通油性の良好な深みぞ玉軸受Aを得ることができる。
【0047】
図7は、実施の形態で示す深みぞ玉軸受Aを用いて従動側のヘリカルギヤ50を支持するシャフト51を回転自在に支持した軸受装置を示す。この場合、深みぞ玉軸受Aは、内輪21のスラスト負荷側の肩23bがヘリカルギヤ50側に位置する組付けとする。また、深みぞ玉軸受Aは、一部が油浴に浸かる組付けとする。
【0048】
上記軸受装置において、駆動側ヘリカルギヤ52から従動側ヘリカルギヤ50に回転を伝達すると、シャフト51にスラスト力が負荷され、そのスラスト力は深みぞ玉軸受Aにおける内輪21のスラスト負荷側の肩23bと外輪11のスラスト負荷側の肩13aで支持される。
【0049】
このとき、ボール31にもスラスト力が負荷され、内輪21のスラスト負荷側の肩23bと外輪11のスラスト負荷側の肩13aが必要以上に低い場合、ボール31が肩13a、23bに乗り上がり、肩13a、23bのエッジを損傷させる可能性がある。
【0050】
実施の形態では、ボール31の球径dに対する肩高さH1の比率H1/dを0.25以上としているため、ボール31の乗り上げを確実に阻止することができる。
【符号の説明】
【0051】
11 外輪
12 軌道溝
13a 肩
13b 肩
21 内輪
22 軌道溝
23a 肩
23b 肩
31 ボール
40 保持器
41 第1分割保持器
42 第2分割保持器
43 半円形ポケット
44 半円形ポケット
45 円形ポケット
46 柱部
47 係合爪
47a 鈎部
48 柱部
49 係合凹部
50 ヘリカルギヤ
51 シャフト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパ状とされた第1分割保持器と、その第1分割保持器とテーパ角度が同じとされて、小径端面の外径および内径が第1分割保持器の大径端面の外径および内径と同径とされたテーパ状の第2分割保持器とからなり、前記第1分割保持器の大径端と第2分割保持器の小径端のそれぞれに、第1分割保持器の大径端面に第2分割保持器の小径端面を衝合させる接続状態でボール収容用の円形のポケットを形成する複数の半円形ポケットを周方向に等間隔に設け、前記第1分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面と第2分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面の、一方の端面の外周部または内周部に、先端が鈎部とされた係合爪を設け、他方の端面に、その係合爪が係合可能とされ、係合状態で第1分割保持器と第2分割保持器とを軸方向に結合する係合凹部を設けたことを特徴とする深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項2】
前記第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれが、合成樹脂の成形品からなる請求項1に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項3】
前記合成樹脂が、ポリアミド樹脂からなる請求項2に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂が、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド9Tのうちの一種からなる請求項3に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項5】
前記合成樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる請求項2に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる請求項2に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項7】
内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールと、そのボールを保持する保持器とからなり、前記外輪軌道溝の一側の肩と内輪軌道溝の他側の肩の少なくとも一方の高さを、外輪軌道溝の他側の肩または内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、その高さの高い肩の肩高さをH1、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH1の比率H1/dを0.25〜0.50の範囲とした深みぞ玉軸受において、
前記保持器が請求項1乃至6のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受用保持器かなることを特徴とする深みぞ玉軸受。
【請求項8】
ヘリカルギヤが設けられたシャフトを油浴に一部が浸かる一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、
前記一対の転がり軸受が、請求項7に記載の深みぞ玉軸受からなることを特徴とする軸受装置。
【請求項1】
テーパ状とされた第1分割保持器と、その第1分割保持器とテーパ角度が同じとされて、小径端面の外径および内径が第1分割保持器の大径端面の外径および内径と同径とされたテーパ状の第2分割保持器とからなり、前記第1分割保持器の大径端と第2分割保持器の小径端のそれぞれに、第1分割保持器の大径端面に第2分割保持器の小径端面を衝合させる接続状態でボール収容用の円形のポケットを形成する複数の半円形ポケットを周方向に等間隔に設け、前記第1分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面と第2分割保持器の半円形ポケット間に形成された柱部の端面の、一方の端面の外周部または内周部に、先端が鈎部とされた係合爪を設け、他方の端面に、その係合爪が係合可能とされ、係合状態で第1分割保持器と第2分割保持器とを軸方向に結合する係合凹部を設けたことを特徴とする深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項2】
前記第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれが、合成樹脂の成形品からなる請求項1に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項3】
前記合成樹脂が、ポリアミド樹脂からなる請求項2に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂が、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド9Tのうちの一種からなる請求項3に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項5】
前記合成樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる請求項2に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなる請求項2に記載の深みぞ玉軸受用保持器。
【請求項7】
内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールと、そのボールを保持する保持器とからなり、前記外輪軌道溝の一側の肩と内輪軌道溝の他側の肩の少なくとも一方の高さを、外輪軌道溝の他側の肩または内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、その高さの高い肩の肩高さをH1、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH1の比率H1/dを0.25〜0.50の範囲とした深みぞ玉軸受において、
前記保持器が請求項1乃至6のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受用保持器かなることを特徴とする深みぞ玉軸受。
【請求項8】
ヘリカルギヤが設けられたシャフトを油浴に一部が浸かる一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、
前記一対の転がり軸受が、請求項7に記載の深みぞ玉軸受からなることを特徴とする軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−92242(P2013−92242A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236051(P2011−236051)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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