説明

混合された酸化物コーティングを有する溶融炭酸塩燃料電池用カソード

カソード基体と、混合された酸素イオン導電体材料のコーティングとを有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードである。混合された酸素イオン導電体材料は、セリア、あるいは、ガドリニウムドーピングセリア、またはイットリウムドーピングセリアなどのドーピングセリアから形成される。コーティングは、カソード基体上にゾル−ゲルプロセスを使用して堆積され、ゾル−ゲルプロセスは、前駆物質として有機金属化合物、有機塩および無機塩、水酸化物、およびアルコキシドを利用し、溶媒として、水、有機溶媒またはそれらの混合物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炭酸塩燃料電池に関し、特に、溶融炭酸塩燃料電池用カソードに関連する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学反応によって炭化水素燃料中に蓄えられた化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換するデバイスである。一般に、燃料電池は、電解質によって分離されたアノードとカソードを含み、電解質は電気的に帯電されたイオンを導通するのに役立つ。溶融炭酸塩燃料電池は、アノードに反応物の燃料ガスを通しカソードに酸化ガスを通すことによって稼働する。有用な出力レベルを生み出すために、電気伝導性の分離板を有する多くの各燃料電池が各燃料電池間に直列に積層される。
【0003】
溶融炭酸塩燃料電池の性能と稼働時間は、燃料電池で使用されたアノードとカソードの特性に一部依存している。例えば、燃料電池カソードは優れた伝導率を持つ必要があり、高い機械的強度と耐久性を持たなければならない。
【0004】
最も一般的に使用されている溶融炭酸塩燃料電池用カソードは、酸化ニッケル(NiO)材料から形成されている。酸化ニッケルは、燃料電池操業条件において高い伝導率を持つために他の材料よりもしばしば好まれている。しかしながら、溶融炭酸塩燃料電池の酸化ニッケルカソードの寿命は、燃料電池の電解質中のニッケルの溶解とそれに続く沈殿によって制限される。特に、カソードガス中に二酸化炭素が存在すると、カソード溶解を促進し、結果としてカソード中で以下の反応
NiO+CO2→Ni2++CO32-
を起こす。
【0005】
上の反応から得られるニッケル(Ni2+)は、電解質マトリクス中に蓄積して沈殿する。電解質マトリクス中にニッケルが存在すると、短絡を生成して、その結果、燃料電池の急速な性能低下を引き起こす。
【0006】
さらに、溶融炭酸塩燃料電池用カソードの特性と性能は、カソード溶解によってマイナスの影響を受ける。特に、カソードが溶解するに従ってカソードの耐久性はかなり減少する。さらに、NiOの溶解はカソードのNiO粒子を増加させ、それによってカソードの活性な表面積をかなり減少させる。
【0007】
従って、溶融炭酸塩燃料電池の耐久性と性能は、カソードの溶解を抑えることによって高められることが認められた。特に、カソード溶解のマイナスの影響を減少させるために、Li2CO3/Na2CO3電解質中のLi濃度を増加させることによって、あるいは、電解質にSrO,MgOまたはLa23などの酸化物を加えることによって、よりアルカリ性のpHを有する電解質を使うことが提案されている。さらに、LiCoO2、LiFeO2およびLi2MnO3などの燃料電池用カソードで使用する代替材料は、溶融電解質中でより低い溶解速度を有する材料として開発された。
【0008】
しかしながら、これらの方法は溶融炭酸塩燃料電池の性能を改善することにおいて完全に効果的ではなかった。電解質にSrO,MgOまたはLa23などの酸化物を添加すると、電解質のイオン伝導率が減少し、結果として性能が低下する。また、電解質中のLi濃度の増加もまた電解質の融点を増加させて、低温での燃料電池性能にマイナスの影響を与える。そのうえ、代替のカソード材料は、伝導率特性が低いまたは高圧の二酸化炭素中での電解質マトリクス中のカソード溶解度がかなり減少することにより、溶融炭酸塩燃料電池用カソードとして使用するには不適切である。
【0009】
セリアやドーピングされたセリア化合物などの混合された酸素イオン導電体は、固体酸化物燃料電池のアプリケーションにおいて、電極コーティングと燃料電池積層中で使用された。例えば、米国特許第4,702,971号および4,812,329号は、イオン−電子導電体コーティングを有する固体酸化物燃料電池用ニッケルアノードがドーピングされたセリアまたはドーピングされていないセリアを有することを開示している。さらに、米国特許出願公開第US2003/0082436号は、イオン伝導性セラミックのセリア膜でコーティングされている電極を記載している。特に、この出願は、酸素イオン伝導性セラミック膜を形成するために、セリアまたはドーピングされたセリアでアノードを浸積コーティングすることによって調製された、固体酸化物燃料電池中で使用するために被覆されたアノードを開示している。
【0010】
そのうえ、セリアおよびドーピングされたセリアは、溶融炭酸塩燃料電池用アノードをコーティングするために使用されてきている。例えば、米国特許出願公開第US2003/0096155号は、溶融炭酸塩燃料電池で使用するための、ゾル−ゲルプロセスを使用して形成された多孔性セラミック膜でコーティングされた、Ni基合金または金属化合物で作られたアノードを開示している。記載されている膜は、酸化アルミニウムのゾル、酸化セリウムのゾル、水酸化セリウムのゾルおよび他の化合物を含んでいる。
【0011】
上記から理解されるように、燃料電池用カソードは、さらに改善された特性、特に、NiOの溶解に対する高い抵抗を示すことが必要とされている。
【特許文献1】米国特許第4,702,971号
【特許文献2】米国特許第4,812,329号
【特許文献3】米国特許出願公開第US2003/0082436号
【特許文献4】米国特許出願公開第US2003/0096155号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、改善された性能の特性を有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードを供給することである。
【0013】
また、本発明の目的は低減された溶解を示す溶融炭酸塩燃料電池用カソードを供給することである。
【0014】
また、本発明の更なる目的は、低減された分極を有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードを供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要約
上記および他の目的は、カソード基体と、混合された酸素イオン導電体材料(mixed oxygen ion conductor material)からなるカソード基体上のコーティングとを有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードにおいて実現される。好ましくは、混合された酸素イオン導電体材料が、ガドリニウムがドーピングされたセリア(「GDC」)またはイットリウムがドーピングされたセリア(「YDC」)などのセリアまたはドーピングされたセリアを含む。また、ゾル−ゲルプロセスを使用してカソードを形成するための方法もまた開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記および他の特徴および本発明の態様は、付随の図面と関連する以下の詳細な記述を読むことによってより明確になるであろう。
【0017】
本発明の原理によると、溶融炭酸塩燃料電池の溶融炭酸塩燃料電池用カソードは、カソードの溶解を抑えるためとカソードの分極を改良するために、混合された酸素イオン導電体薄膜でコーティングされている。更に本発明によると、セリア(CeO2)、イットリウムによってドーピングされたセリア(Ce1-xx2)(「YDC」)およびガドリニウムによってドーピングされたセリア(Ce1-xGdx2)(「GDC」)は好ましいコーティング材料であり、xは0.1〜0.4の範囲であり、好ましくは、0.1または0.2に等しい。これらの材料は、LiCoO2など従来のコーティング材料の伝導率および溶解度と比較したときの燃料電池の動作温度(650℃)における高いイオン伝導率および溶融炭酸塩電解質中の低溶解度によって好まれる。さらに、セリアおよびドーピングされたセリアなどの混合された酸素イオン導電体は、良好な湿潤特性を持ち電解質を保持することができる。従って、カソード表面上の混合された酸素イオン導電体コーティングは、カソードと電解質との間の接触角度を減少させて表面張力を減少させることにより、溶融炭酸塩燃料電池での電解質分布を改良する。
【0018】
図1は、本発明に従ってコーティングされた溶融炭酸塩燃料電池用カソードを使用する溶融炭酸塩燃料電池を示している。図示されるように、燃料電池1はカソード2とアノード3を含んでいる。アルカリ炭酸塩電解質を含む電解質マトリクス4は、カソードとアノードの間にある。また、図1に示されるように、膜5で被覆されたカソード基体2Aは、本発明に従って混合された酸素イオン導電体を含んでいる。
【0019】
更に、本発明に従って、混合された酸素イオン導電体は、好ましくは、薄膜ゾル−ゲルコーティングプロセスを使用して、燃料電池カソード基体上にコーティングされる。ゾル−ゲルコーティングプロセスは、適切な粘度とpHを有するゾル−ゲルを形成するために、適切な溶媒中に要求された金属イオンを含む前駆物質の溶解を含んでいる。ゾル−ゲルの調製における前駆物質として、有機の塩、無機の塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩およびアルコキシドが使用され得る。ゾル−ゲルの調製に使用される溶媒は、水、有機溶媒または水と有機溶媒の混合物であり得る。
【0020】
ゾル−ゲルは、浸積または噴霧技術を利用して溶融炭酸塩燃料電池用カソード基体上にコーティングされる。コーティング後に、カソード基体は94℃から150℃の間の温度で空気中で乾燥され、続いて、350℃の温度で空気中で、焼成又は再結晶される。ゾル−ゲルは溶融炭酸塩燃料電池用カソード基体の表面によく接着するので、カソード基体は、ゾル−ゲルをその表面に堆積させる前に、前処理される必要はない。溶融炭酸塩燃料電用池カソード上に混合された酸素イオン導電体を堆積するためのゾル−ゲルの調製に関するいくつかの例が以下で記述される。
【0021】
実施例1
本実施例において、水溶性の塩基のGDCゾル−ゲルの調製が、GDCでコーティングされたカソードサンプルの調製およびテストとともに記載される。このゾル−ゲルのための主な前駆物質は、酢酸ガドリニウムと酢酸セリウムを含む。ガドリニウム水酸化物、セリウム水酸化物、ガドリニウム硝酸塩、セリウム硝酸塩および他のものなどの他の前駆物質もまた使用し得る。
【0022】
GDCゾル−ゲルの調製は、3ステップで実行される。第一ステップでは、酢酸ガドリニウム前駆物質は水に溶解され、次に、その水溶液に酢酸セリウム前駆物質が添加される。この水溶性の混合物は、前駆物質の両方が完全に溶解するまで攪拌される。第2ステップでは、クエン酸などの混合試薬は、ゆっくり水溶性の前駆物質混合物に加えられ、混合物は、強く攪拌される。水溶性の混合物へクエン酸を添加すると、乳白色の白い溶液がすぐに形成される。この水溶液は、次に、70℃から80℃に加熱され、4時間攪拌される。第3ステップでは、水酸化アンモニウムが約pH9に調整するために水溶液に加えられる。結果物であるゾル−ゲルは、数カ月、安定してかつ均質な状態である。
【0023】
同様のプロセスは、異なるセリウムのドーピングレベルを有するゾルを調製するために使用され得る。例えば、異なるセリウムのドーピングレベルを持つCe1-xGdx2を有するGDCゾル−ゲルが、xは0.1または0.2に等しいもので調製し得る。
【0024】
Ce0.9Gd0.12酢酸塩ゾル−ゲルは、水2リットル中に酢酸ガドリニウム33.4g溶解し、次に、酢酸セリウム285.5gを加えることによって調製される。この水溶液は、攪拌され、70−80℃まで加熱され、全ての成分が溶解される。水溶液を2時間攪拌後、クエン酸200gが水溶液に追加され、強くかき混ぜられる。クエン酸の添加のときに形成される乳白色の白い溶液は、70−80℃で4時間攪拌される。結果物である水溶液は、高濃度の水酸化アンモニウムを加えることによっておよそpH9に調整されて、水溶液の容積は、70−80℃で一昼夜(14〜16時間)加熱することによって1600−1400mlまで減少される。より高い粘度を有するゾル−ゲルが所望される場合には、水溶液の容積は1200ミリリットル未満まで減少され得る。さらに、水溶液の粘度は、初期の溶媒として水の代わりに80%の水と20%のエチレングリコールとからなる溶媒を使用することによって増加し得る。
【0025】
異なるセリウムのドーピングレベルを有するCe0.8Gd0.22は、Ce0.9Gd0.12酢酸塩に対して上記議論したような同様の方法を使用して調製され得る。しかしながら、前駆物質の、すなわち、酢酸セリウムおよび酢酸ガドリニウムの、異なる濃度が、Ce0.8Gd0.22ゾル−ゲルの調製で使用される。より明確には、酢酸セリウム前駆物質の量は253.8gであり、酢酸ガドリニウム前駆物質の量は66.8gである。
【0026】
コーティングされた溶融炭酸塩燃料電池用カソードは、調製されたGDCゾル−ゲルを使用して製造される。溶融炭酸塩燃料電池カソード基体の焼結したサンプルは、ニッケルから作られ、3.3cm2(ボタンの燃料電池用)あるいは250cm2(単一の燃料電池用)の表面積を有している。ディップ(浸積)コーティング方法は、ゾル−ゲルでカソードサンプルをコーティングするために使用される。汎用のディップコーターが25℃、適切な圧力で使用される。ディップコーティングは、1−4分間、好ましい浸積時間は2分である、カソードサンプルをゾル−ゲル中に浸積することによって実行される。ディップコーティング・プロセスの間、真空又は超音波がカソードのポア中に捕捉された空気を除去するために燃料電池用カソードサンプルに対して適用され得る。
【0027】
浸積プロセスが実行された後に、カソードサンプルは、一昼夜(すなわち、14〜16時間)、94〜100℃、空気中で乾燥され、続いて、450℃で45〜60分間で焼成される。
【0028】
カソード表面に堆積されたコーティングの量と厚みは、主にカソードのコーティングに使用されるゾル−ゲルの粘度に依存する。上記のプロセスを使用してカソードに堆積されたコーティングの量は、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)用カソードの2〜4重量%の範囲であり得る。また、カソードサンプルの表面とポア内をコーティングする結果物である膜の厚みは、1μm以下であり得る。この場合、ゾル−ゲルの低粘度は、カソード中のポアを被覆しかつカソードの気孔率のかなりの変化を防ぐために好まれる。ディップコーティングのプロセスの後のカソードの気孔率における変化が3%を超えるべきでないことが好まれる。
【0029】
図2は350から700℃までの異なった温度で焼成されたGDCゾル−ゲルコーティング材料に対するX線回折スペクトルを示している。図2で示されるように、GDC相は350℃の比較的低温度で形成し始め、追加の相やピークは観察されなかった。
【0030】
図3Aと3Bは、650℃で2時間焼成された本実施例のGDCでコーティングされたカソードサンプルの1500倍と5000倍の倍率のSEMイメージをそれぞれ示している。図3Cは、SEMイメージで示されたGDCでコーティングされたカソードサンプルのエネルギー分散スペクトロスコピー(EDS)分析を示している。EDS分析は、カソード表面上のコーティングの均一性を確かめるのに使用された。焼成プロセス後のカソードサンプル中に存在している元素、原子%および重量%は以下のようにまとめられる。
【0031】
元素 原子% 重量%
Ce 1.8 4.17
Gd 0.27 0.69
Ni 97.94 95.14
図3A、3Bおよび3Cに示されるように、GDCでコーティングされた材料はカソードのニッケル粒子上に均一に分散しており、強くカソード表面に結合している。より明確に、図3CのEDS分析は、カソードサンプル中のセリウムとガドリニウムの存在を示しており、これらの元素が焼成プロセス後に強くカソードと結合することを確認する。そのうえ、Ce/Gd比率は、コーティングされたカソードサンプルの異なる部分で比較的に一定である。しかしながら、カソードサンプルにおけるCe/Gdの実際の比率は、乾燥と焼成プロセスの間のいくらかの損失により、約9の理論比率よりもわずかに低い。
【0032】
本実施例に従って調製されたGDCがコーティングされたカソードサンプルは、また、Ni−Alアノードおよび62%Li2CO3と38%K2CO3を含む電解質で満たされたLiAlO2電解質マトリクスを含む単一の燃料電池中であるいはボタンの燃料電池中でテストされた。72%の水素、18.2%の二酸化炭素および9%の水を含むアノードガスがこれらのテストの間に使用された。カソードガスは、18.5%の二酸化炭素、12.1%の酸素、66.4%の窒素および3%の水を含んでいた。これらのテストは、アノードとカソードの利用率が75%、160mA/cm2の電流密度で実行された。
【0033】
単一の燃料電池のテストでは、250cm2の大きい表面積を持っている、GDCでコーティングされた電解質で満たされたカソードが使われた。ボタンの燃料電池テストでは、約3cm2の小さい表面積を持っている、GDCでコーティングされたカソードのサンプルが使用された。
【0034】
図4は、従来のコーティングをしていないNiOカソードを使う単一の燃料電池に対する性能データと比較したときの、GDCをコーティングしたカソードを使用する単一の燃料電池の性能データの図を示している。性能データは、160mA/cm2の電流密度、75%の燃料利用および75%の酸化剤利用で測定された。図4のX軸は、時間単位で単一の燃料電池の稼動時間を示し、Y軸は、mV単位でセル電圧を示している。テストされた単一の燃料電池の性能は、燃料電池中で得られたセル電圧に正比例している。
【0035】
図4に示されるように、本実施例に従って調製されたGDCでコーティングされたカソードを使用する単一の燃料電池は、従来のコーティングしていないカソードを使用する単一の燃料電池よりも10〜15mV高い電圧を産み出した。また、とりわけ、燃料電池の稼働の始めのときに、セル電圧は、両方の燃料電池でカソードの不完全なリチウム化(lithiation)およびカソードのフラッディングにより低かった。しかしながら、この段階の間さえ、GDCでコーティングされたカソードを使用する単一の燃料電池のセル電圧は、従来のコーティングをしていないカソードを使用する単一の燃料電池におけるセル電圧よりも高かった。約140時間の稼働後に、燃料電池の性能は安定するようになった、その時間、GDCでコーティングされたカソードを使用する単一の燃料電池中のセル電圧は、従来のカソードを使用する単一の燃料電池の電圧よりも高いままで維持された。
【0036】
ボタンの燃料電池のテストにおいて、性能における同様の改良が得られた。GDCでコーティングされたカソードを使用するボタンの燃料電池におけるテストもまた、カソード分極における改善を示した。特に、GDCにコーティングされたカソードの分極は、従来のコーティングをしていないカソードの分極よりも約10mV低いことが記録された。
【0037】
さらに、本実施例に従って調製されるGDCでコーティングされたカソードサンプルは、カソード溶解の範囲を測定するために1400時間の稼働期間を越えてテストされた。250cm2の大きい表面積を持っている、GDCでコーティングされたカソードサンプルは、単一の燃料電池中で160mA/cm2の電流密度および75%の利用率でテストされた。単一の燃料電池の稼働1400時間の終わりに、それぞれの燃料電池の電解質マトリクスは、ニッケル堆積が分析され、従来のコーティングをしていないカソードを使用する燃料電池のマトリクスと比較された。
【0038】
図5は、GDCでコーティングされたカソードおよび従来のベースラインのカソードを使用する単一の燃料電池に対して、期間中の電解質マトリクス中のニッケル堆積データを示す図である。図5に示されるように、X軸は時間単位での時間を示し、Y−軸はmg/cm2単位での電解質マトリクス中に堆積されたニッケル量を示している。図5で理解できるように、従来のベースラインのカソードを使用する単一の燃料電池の電解質中のニッケル堆積の量と比較すると、単一の燃料電池中でGDCでコーティングされたカソードが使用されたときの電解質マトリクス中においてニッケルの堆積が唯一最小であった。従って、GDCコーティングがNiOカソードの溶解速度を減少させることが確認された。
【0039】
実施例2
本実施例において、前駆物質として硝酸ガドリニウムおよび硝酸セリウムを使用するGDCゾル−ゲルの調製方法が記載される。この場合、クエン酸または水酸化アンモニウムの添加が必要ない点を除いて、実施例1で記載されたプロセスと同様のプロセスが使用される。
【0040】
本実施例におけるGDCゾル−ゲルの調製は、2ステップで実行される。第一ステップでは、34.3gの硝酸ガドリニウムは、1800ミリリットルの水と200mlのエチレングリコールを含む溶媒で溶解されて、次に、293.5gの硝酸セリウムが混合物に加えられる。この混合物は、両方の前駆物質が溶媒中に完全に溶解するまで、撹拌される。第2ステップでは、水溶液の総容量が1200ミリリットルに減少するまで、第一ステップからの水溶液は70−80℃の温度で一昼夜加熱される。この形成されたゾル−ゲルは、数カ月安定した状態であった。
【0041】
実施例3
本実施例において、ニッケルカソードにCe0.8Gd0.22を堆積するための水ベースのゾル−ゲルの調製方法が記載される。本ケースでは、実施例1で記載されたプロセスと同様のプロセスが使用される。酢酸イットリウムおよび酢酸セリウムは、YDCゾル−ゲルの調製において主要な前駆物質として使用される。また、硝酸イットリウム、水酸化イットリウム、硝酸セリウムおよび水酸化セリウムなどの他の前駆物質もまた使用し得る。
【0042】
YDCゾル−ゲル調製の第1ステップでは、酢酸イットリウムは脱イオン水で溶解される。次に、酢酸セリウムの適切な比率が酢酸イットリウム溶液に加えられ、これらの前駆物質が完全に溶解するるまで水溶液を強く撹拌する。第2ステップでは、クエン酸が前駆物質水溶液に加えられ、乳白色の白い黄色水溶液を形成する。水溶液は次に、70℃に加熱されて、4時間撹拌される。最後のステップでは、水酸化アンモニウムは、pH9に調整するために水溶液に加えられる。この水溶液は、70℃で2〜4時間加熱されて濃緑色のゾル−ゲルを形成する。結果物であるゾル−ゲルは、数カ月安定な状態が見積もられた。
【0043】
溶融炭酸塩燃料電池カソードサンプルは、実施例1で記載されたディップコーティング・プロセスを使用してYDCゾル−ゲルでコーティングされる。本実施例に従って調製されたコーティングされたカソードのサンプルは、3cm2のコーティングされたカソードサンプルを使用するボタンの燃料電池中で、および、250cm2のコーティングされたカソードサンプルを使用する単一の燃料電池中で、テストされた。理解されるように、カソード表面にYDCが存在すると、カソード分極は、コーティングをしていないカソードの分極と比較して、10〜12mVほど減少する。とりわけ、カソード表面にYDCが存在すると、反応サイトから中間反応生成物(O2-)を離す輸送を促進し、その結果、分極集中を減少する。従って、YDC-コーティングカソードにおける分極は、従来のコーティングしていないカソードよりも低い。
【0044】
カソード分極へのYDCコーティングの明確な効果は、図6で理解され得るように、従来のコーティングをしていないカソード(3-35と3-29)の分極と比べて、YDCでコーティングされたカソードの分極が異なる電流密度であることを示している。図示されるように、本実施例に従うYDCでコーティングされた溶融炭酸塩燃料電池用カソードの分極は、コーティングしていないカソードの分極よりも低い。さらに、電流密度が増加とともに、コーティングされたカソードとコーティングしていないカソードの分極の違いが増加する。
【0045】
単一の燃料電池中でのYDCでコーティングされたカソードを使用するテストは、約10mVの性能改善をも示した。これらのテストは、また、ボタンの燃料電池中で得られた低い分極結果もまた確認した。
【0046】
実施例4
本実施例において、溶融炭酸塩燃料電池用カソード基体上に堆積するためのセリア(CeO2)ゾル−ゲルの調製が記載される。この場合、実施例1と2で記載されたプロセスと同様のプロセスが使用され、酢酸セリウムは主要な前駆物質として使用される。
【0047】
CeO2ゾル−ゲル調製の第一ステップにおいて、酢酸セリウムは脱イオン水中で溶解される。次に、クエン酸はゆっくり前駆物質水溶液に加えられ、調製の第2ステップにおいて、乳白色の白い黄色水溶液を形成するために強く撹拌される。水溶液は、次に、70〜80℃に加熱されて、4時間撹拌される。最終ステップにおいて、水溶液をpH9に調整するために水酸化アンモニウムが加えられ、濃緑色のゾル−ゲル溶液を形成する。結果物であるゾル−ゲルは、数カ月、安定した状態が見積もられた。
【0048】
すべての場合において、上記記載された構成は、単に、本発明の応用を示す多くの可能な特別の実施例の単なる例示であることが理解される。本発明の精神と範囲から逸脱しないで、本発明の原理に従って、多くのおよび様々な他の構成が容易に工夫することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の原理によるコーティングを有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードを含む溶融炭酸塩燃料電池を示す図である。
【図2】異なった温度で処理されたGDCゾル−ゲルのX線回折スペクトルを示す図である。
【図3A】、
【図3B】GDCを有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードサンプルの横断の異なった倍率のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【図3C】GDCコーティングを有する溶融炭酸塩燃料電池用カソードサンプルのEDS分析を示す図である。
【図4】コーティングしていない溶融炭酸塩燃料電池用カソードと、GDCコーティングで被覆された溶融炭酸塩燃料電池用カソードとのセル電圧を示す図である。
【図5】コーティングしていない溶融炭酸塩燃料電池用カソードと、GDCコーティングで被覆された溶融炭酸塩燃料電池用カソードを使用する単一の燃料電池中での時間に対するニッケル堆積量を示す図である。
【図6】コーティングしていない溶融炭酸塩燃料電池用カソードと、YDCコーティングで被覆された溶融炭酸塩燃料電池用カソードの電流密度に対する分極を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード基体と、
混合された酸素イオン導電体材料からなる前記カソード基体上のコーティングと、
を有することを特徴とする溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項2】
前記コーティングが、セリアおよびドーピングされたセリアのうちの1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項3】
前記コーティングは、xが0.1〜0.4の範囲のガドリニウムがドーピングされたセリア(Ce1-xGdx2)を含むことを特徴とする請求項2に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項4】
xが0.1および0.2のうちの1つであることを特徴とする請求項3に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項5】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項4に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項6】
前記コーティングは、xが0.1〜0.4の範囲のイットリアがドーピングされたセリア(Ce1-xx2)を含むことを特徴とする請求項2に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項7】
xが0.1および0.2のうちの1つであることを特徴とする請求項6に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項8】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項6に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項9】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項10】
前記コーティングの厚さが1μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項11】
前記コーティングの量が前記溶融炭酸塩燃料電池用カソードの2から4重量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソード。
【請求項12】
カソード基体を供給する工程と、
前記カソード基体に混合された酸素イオン導電体材料のコーティングを適用する工程と、
を有することを特徴とする溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項13】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項12に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項14】
前記コーティングがセリアおよびドーピングされたセリアのうちの1つを含むことを特徴とする請求項12に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項15】
前記コーティングは、xが0.1〜0.4の範囲のガドリニウムがドーピングされたセリア(Ce1-xGdx2)を含むことを特徴とする請求項14に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項16】
前記コーティングは、xが0.1〜0.4の範囲のイットリアがドーピングされたセリア(Ce1-xx2)を含むことを特徴とする請求項14に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項17】
前記適用する工程が、ゾル−ゲルプロセスを用いて実行されることを特徴とする請求項12に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項18】
前記ゾル−ゲルプロセスは、有機金属化合物と、有機物又は無機物の塩と、水素化物またはアルコキシドとのうちの少なくとも1つを前駆物質として使用し、水と、有機溶媒と、水および有機溶媒の混合物とのうちの少なくとも1つを溶媒として使用するゾルを調製する工程を含むことを特徴とする請求項17に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項19】
前記適用する工程が、前記ゾル中に前記カソード基体を浸積することによって実行されることを特徴とする請求項18に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項20】
前記適用する工程が、前記ゾルを前記カソード基体に噴霧することによって実行されることを特徴とする請求項18に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項21】
前駆物質として酢酸ガドリニウムおよび酢酸セリウムを使用し、溶媒として水を使用してゾルを調製する工程を更に有し、
前記適用する工程が、前記ゾル中に前記カソード基体を浸積し、前記浸積後に前記カソード基体を乾燥し、前記乾燥後に前記カソード基体を焼成することによって実行されることを特徴とする請求項17に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項22】
前記乾燥は、94℃と100℃との温度範囲で空気中で実行されることを特徴とする請求項21に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項23】
前記焼成は、350℃以上で実行されることを特徴とする請求項22に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項24】
前記焼成は、450℃で45から60分間実行されることを特徴とする請求項23に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項25】
前駆物質として酢酸イットリウムおよび酢酸セリウムを使用し、溶媒として水を使用するゾルを調製する工程を更に有し、
前記適用する工程が、前記ゾル中に前記カソード基体を浸積し、前記浸積後に前記カソード基体を乾燥し、前記乾燥後に前記カソード基体を焼成することによって実行されることを特徴とする請求項17に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項26】
前記乾燥は、94℃と100℃との温度範囲で空気中で実行されることを特徴とする請求項25に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項27】
前記焼成は、350℃以上で実行されることを特徴とする請求項26に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項28】
前記焼成は、450℃で45から60分間実行されることを特徴とする請求項27に記載の溶融炭酸塩燃料電池用カソードの製造方法。
【請求項29】
アノードと、
カソードと、
前記カソードと前記アノードの間に配置された電解質と、を有し、
前記カソードが、カソード基体と、前記カソード基体上の混合された酸素イオン導電体材料からなるコーティングとを有することを特徴とする溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項30】
前記コーティングがセリアおよびドーピングされたセリアのうちの1つを含むことを特徴とする請求項29に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項31】
前記コーティングは、xが0.1〜0.4の範囲のガドリニウムがドーピングされたセリア(Ce1-xGdx2)を含むことを特徴とする請求項30に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項32】
xが0.1および0.2のうちの1つであることを特徴とする請求項31に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項33】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項31に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項34】
前記コーティングは、xが0.1〜0.4の範囲のイットリアがドーピングされたセリア(Ce1-xx2)を含むことを特徴とする請求項30に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項35】
xが0.1および0.2のうちの1つであることを特徴とする請求項34に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項36】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項35に記載の溶融炭酸塩燃料電池。
【請求項37】
前記カソード基体がニッケルおよびNiOのうちの1つを含むことを特徴とする請求項29に記載の溶融炭酸塩燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−518238(P2007−518238A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549258(P2006−549258)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/040099
【国際公開番号】WO2005/069768
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(502197161)フュエルセル エナジー, インコーポレイテッド (44)
【氏名又は名称原語表記】FUELCELL ENERGY, INC.
【住所又は居所原語表記】3 Great Pasture Road, Danbury, CT 06813, U.S.A.
【Fターム(参考)】