説明

混合物分離膜の製法

【課題】 パーベーパレーション法、ベーパーパーミエーション法等による液体または/および気体混合物の分離に使用される耐酸性の混合物分離膜を提供する。
【解決手段】 多孔質支持体上にT型ゼオライトの種結晶を担持させる工程、原料であるシリカ源、アルミナ源、ならびにナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む水性混合液を攪拌後、所定時間エージングを行う工程、前記エージングを行った混合液中に前記種結晶を担持させた多孔質支持体を浸漬し、水熱反応を行って前記多孔質支持体上にT型ゼオライトを析出させる工程を含む混合物分離膜の製法。
【効果】 ゼオライト自体の分子ふるい能に加え、耐酸性、耐アルカリ性等の耐薬品性、および耐久性を備えた分離膜を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は混合物分離膜の製法に関し、特に、パーベーパレーション法、ベーパーパーミエーション法等による液体または/および気体混合物の分離に使用される混合物分離膜の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】液体または気体の混合物の分離膜には、ポリジメチルシロキサンやポリイミドなどの高分子材料に代表される有機質材料が使用されているが、耐熱性、耐久性、さらには分離の際の選択性や透過速度などに問題が残されていた。
【0003】近年、このような有機質材料の問題点を解決するため、無機質材料を用いた分離膜が研究されつつあり、その中でもゼオライト膜が注目されている。これまでに開発されたゼオライト膜には、例えばシリカ源およびアルカリ金属源を含む水性混合物をアルミナ多孔質担体の存在下で水熱合成していられたNaA型ゼオライト膜(日本特許第2501825号)や多孔質支持体上にA型ゼオライト膜を析出させたもの(特開平8−318141号)などが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記NaA型ゼオライト膜は、水/有機溶媒系の浸透気化分離において、機械的強度、耐熱性、および水選択透過性には優れているものの、酸には弱く、例えば混合物中に不純物として微量な酸が含まれていた場合には、NaA型ゼオライト膜を劣化させるので、混合物の前処理を必要とするか、または膜の適用を断念せざるを得なかった。またA型ゼオライト膜を析出させた分離膜は、高い水選択透過性を有し、特に水−エタノール系混合液の分離に有効であるが、やはり酸により劣化が著しいという問題がある。本発明の課題は、上記従来の分離膜の欠点を解消し、液体または気体混合物を効率よく分離することができ、しかも酸にもアルカリにも強い混合物分離膜を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本願で特許請求される発明は以下のようである。
(1)多孔質支持体上にT型ゼオライトの種結晶を担持させる工程、原料であるシリカ源、アルミナ源、ならびにナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む水性混合液を攪拌後、所定時間エージングを行う工程、前記エージングを行った混合液中に前記種結晶を担持させた多孔質支持体を浸漬し、水熱反応を行って前記多孔質支持体上にT型ゼオライトを析出させる工程を含む混合物分離膜の製法。
(2)原料の仕込組成比(モル比)をSiO2 /Al2 3 =30〜150、OH- /SiO2 =0.1〜1.0、Na+ /(Na+ +K+ )=0.1〜1.0、H2 O/(Na+ +K+ )=10〜50となるように調整することを特徴とする(1)記載の混合物分離膜の製法。
(3)水熱反応が温度80〜150℃、常圧下、1〜168時間で行われる(1)または(2)記載の混合物分離膜の製法。
(4)支持体上に析出したT型ゼオライトの組成比(モル比)がエリオナイト0.5〜0.95、オフレタイト0.5〜0.05であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の混合物分離膜の製法。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に用いる多孔質支持体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チッ化ケイ素、炭化ケイ素等のセラミックス、アルミニウム、銀、ステンレス等の金属、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド等の有機高分子からなる多孔質材料を用いることができる。多孔質支持体の平均気孔径は0.05〜10μm、気孔率が10〜60%程度のものが好適である。これらの内、特に平均気孔径0.1〜2μm、気孔率30〜50%で、Al2 3 含有率が50〜100wt%であるAl2 3 −SiO2 系セラミックスが好ましい。
【0007】また、多孔質支持体の形状としては、パーベーパレーション法またはベーパーパーミエーション法に用いられる分離膜の支持体として、外径10mm前後、長さ20〜100cmのパイプであって、その厚さは0.2〜数mmのもの、または外径30〜100mm程度、長さ20〜100cmおよびそれ以上の円柱に内径2〜12mm程度の孔が軸方向に多数個形成された蓮根状であるものが好ましい。
【0008】多孔質支持体上にT型ゼオライト膜を形成するには、多孔質支持体上に種結晶を担持させたのち、T型ゼオライト膜を析出させる。この場合の種結晶としては、平均粒径が500μm以下、特に10〜150μmのT型ゼオライト結晶が好適である。この種結晶の多孔質支持体への担持量は1〜500mg/cm2 、特に10〜60mg/cm2 が好ましい。先ず支持体上に種結晶を担持させるには、種結晶の粉末を溶媒、好ましくは水中に分散させ、これを多孔質支持体上に塗布するのが好ましいが、多孔質支持体製造時に原料の一部としてT型ゼオライトの粉末を混入させてもよい。
【0009】次にT型ゼオライト膜を支持体上に析出させるには、シリカ源としてコロイダルシリカ(シリカゲルやゾル)、シリカ粉末、ケイ酸ナトリウムなど、アルミナ源としてアルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムなど、カオチン源として水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどを出発原料とし、これに蒸留水を所定比混合、攪拌し、所定時間エージングした後、T型ゼオライトの種晶を付着させた支持体を浸漬し、所定温度で所定時間、水熱合成を行う。なお、水熱合成法以外に、気相法などの方法で支持体上に析出させる方法が挙げられる。
【0010】水熱合成法によるT型ゼオライトの成膜を行う際の条件としては、温度60〜150℃、好ましくは80〜100℃で1〜48時間、特に12〜36時間、さらに好ましくは20〜24時間の反応を1回行うことにより、高い分離特性の膜を合成することができる。
【0011】多孔質支持体がAl2 3 含有量50〜100wt%のAl2 3 −SiO2系セラミックスの場合には、90〜100℃で10時間以上、好ましくは20〜24時間で反応を行うことにより、1回の操作で分離性能に優れたT型ゼオライトを成膜することができる。
【0012】原料の仕込み組成比(モル比、以下組成比はモル比で示す。)は、例えばSiO2 /Al2 3 =30〜150、OH- /SiO2 =0.1〜1.0、Na+/(Na+ +K+ )=0.1〜1.0、H2 O/(Na+ +K+ )=10〜50となるように調整することが好ましい。
【0013】このようにしてT型ゼオライト膜を多孔質支持体の表面に種結晶を担持させたのち、T型ゼオライト膜の膜厚が3〜100μm、好ましくは10〜50μm、支持体を含む分離膜の全膜厚が1〜3mm程度となるように析出させることにより、本発明の好適な分離膜を得ることができる。このようにして得られた本発明の分離膜は、パーベーパレーション法またはベーパーパーミエーション法による液体または気体混合物の分離に極めて有効に用いることができる。
【0014】本発明で得られた混合物分離膜の分離対象とする混合物としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、四塩化炭素、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素のような有機液体、CO2 、N2 のような気体の2種またはそれ以上を含む混合物が挙げられるが、特に混合物中に不純物として酸が含まれる場合に好適に用いられる。本発明の混合物分離膜が特に優れた分離選択性を示す混合物の例としては、水−有機液体混合物、特に水−メタノール、水−エタノール等の水−アルコール系炭化水素混合物を挙げることができる。
【0015】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1シリカ源としてコロイダルシリカ、アルミナ源としてアルミン酸ナトリウム、カチオン源として水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、並びに蒸留水を組成比SiO2 /Al2 3 =30〜150、OH- /SiO2 =0.1〜1.0、Na+ /(Na+ +K+ )=0.1〜1.0、H2 O/(Na+ +K+ )=10〜50となるように調整し、混合、攪拌したものを室温で空気中、28〜48時間エージングした。T型ゼオライトの種晶を塗布した孔質アルミナ支持体(ニッカトー製ムライト支持体:直径1.2cm、長さ14cm、肉厚1.5mm、孔径1μm、気孔率40%)を、前記エージングを終えて得られたゲル中に浸漬し、温度80〜150℃で常圧下に5〜168時間水熱合成を行った。合成後、成膜された支持体を蒸留水で洗浄し6〜24時間浸漬後、70℃の乾燥機で乾燥したT型ゼオライト膜のX線回折図のピークパターンは、T型ゼオライトの特徴であるエリオナイト0.7とオフレタイト0.3の混晶であるものと良く一致し、支持体表面にT型ゼオライトが生成していることがわかった。上記製膜法で製膜した膜厚は30〜100μm程度であることがわかった。
【0016】上記実施例1で得られたT型ゼオライト膜によるパーベーパレーション性能を測定した。図1はその測定装置の一例を示す説明図である。前記のように管状の多孔質アルミナ支持体上に形成されたT型ゼオライト膜は、筒状の分離セル2内に同心状に設けられており、その有効膜面積は47cm2 である。分離セル2は、T型ゼオライト膜1によって被透過液室3と透過液室4とに隔てられ、恒温槽6内に配置される。被透過液室3の一方の端部に被透過液7の供給管8が接続され、他方の端部に排出管9が接続されている。前記供給管8にはポンプ10を介して被透過液貯槽11が設けられ、また排出管9には熱交換器12を介して排出液溜13が設けられている。透過液室4には分離液取り出し用の配管14が接続され、この配管はさらに配管14Aと配管14Bとに分岐され、それぞれ冷却トラップ15A、15Bを介して真空ポンプ16に接続されている。なお、図において、17は切換コック、18は弁である。T型ゼオライト膜1を透過した分離液は、真空ポンプ16により蒸気相が取り出され、この蒸気相は、冷却トラップ15Aまたは15Bにより冷却、固化され、回収される。
【0017】上記装置において、被分離液である供給液は流速12〜30cm3 /minで被透過液室3に供給され、また供給液の温度は恒温槽7により調整された。また透過側の真空度は真空ポンプ16によりコールドトラップ15Aまたは15Bを介して0.1Torrに保持された。透過物はコールドトラップ内の液体窒素により凝固して捕集された。液組成はガスクロマトグラフにより測定した。膜の透過性能は、単位面積、単位時間当たりの全透過量Q(kg/m2 h)と、下記式で定義される分離係数αとにより評価された。
【0018】


式中、FA 、FB は、それぞれ供給液中の有機物液体A、水Bの平均濃度(wt%)であり、PA 、PB は、それぞれ透過液中の有機液体A、水Bの平均濃度(wt%)である。以下、製膜条件と評価結果を図および表により説明する。
【0019】図2は,異なる構成ゲル組成(SiO2 /Al2 3 =60〜112)で合成したT型ゼオライト膜(製膜条件100℃×24h)のX線回折図、また図3R>3は、異なる合成時間で合成したT型ゼオライト膜(製膜条件SiO2 /Al2 3=112、温度100℃)のX線回折図、表1は、図3に対応するT型ゼオライト膜のPV分離性能(被透過液:水/エタノール系(10/90wt%)、75℃)を示す。表中、Qは全透過流束、QH2O は水透過流束、αは分離係数をそれぞれ示す。
【0020】図4は、異なる合成温度とエージングなしで製膜したT型ゼオライト膜(製膜条件SiO2 /Al2 3 =112、24h)のX線回折図、表2は、図4に対応するT型ゼオライト膜のPV分離性能(被透過液:水/エタノール系(10/90wt%)、75℃)を示す。
【0021】
【表1】


【0022】
【表2】


【0023】上記の図および表に示したように、本発明によって得られたT型ゼオライト膜は長期間に亘って良好な分離性能を示すことが分かった。
実施例2コロイダルシリカ、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水を組成比(重量比)SiO2 /Al2 3 =112、OH- /SiO2 =0.77、Na+ /(Na+ +K+ )=0.77、H2 O/(Na+ +K+)=20.75となるように調整し、得られた混合液を攪拌後48時間エージングし、これに予め実施例1と同様に種結晶処理された管状の多孔質アルミナ支持体を浸漬して、100℃で24時間水熱反応を行った。合成後、蒸留水で洗浄し、半日蒸留水に浸漬した後、これを引き上げて70℃の乾燥機で乾燥し、支持体上にT型ゼオライト膜を形成させた。
【0024】図5は、PH4の酢酸水溶液に浸漬した上記T型ゼオライト膜(製膜条件SiO2 /Al2 3 =112、100℃×24h)のPV分離性能(被透過液:水/エタノール系(10/90wt%)、75℃)の変化を示す図、図6は、PH3の酢酸水溶液に浸漬したT型ゼオライト膜(製膜条件SiO2 /Al2 3 =112、100℃×24h)のPV分離性能(被透過液:水/エタノール系(10/90wt%)、75℃)の変化を示す図である。また本発明のT型ゼオライト膜と従来のA型ゼオライト膜の耐酸性(被透過液:水/エタノール系(10/90wt%)、75℃)について比較した結果を表3に示す。
【0025】上記の図および表から、本発明のT型ゼオライト膜は、酢酸水溶液中に長時間浸漬しても、膜性能の劣化は見られず、またA型ゼオライト膜と比較しても、極めて耐酸性に優れていることが分かった。
【0026】
【表3】


【0027】
【発明の効果】本発明の混合物分離膜の製法によれば、多孔質支持体上に特定の方法でT型ゼオライトを製膜したことにより、ゼオライト自体の分子ふるい能に加え、耐酸性、耐アルカリ性等の耐薬品性、および耐久性を備えた分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例によって得られたT型ゼオライト膜の分離性能を測定するための装置構成を示す図。
【図2】異なる条件下で合成されたT型ゼオライト膜のX線回折図。
【図3】異なる条件下で合成されたT型ゼオライト膜のX線回折図。
【図4】異なる条件下で合成されたT型ゼオライト膜のX線回折図。
【図5】酢酸水溶液に浸漬したT型ゼオライト膜の分離性能の経時変化を示す図。
【図6】酢酸水溶液に浸漬したT型ゼオライト膜の分離性能の経時変化を示す図。
【符号の説明】
1…T型ゼオライト膜、2…分離セル、3…被透過液室、4…透過液室、6…恒温槽、7…被透過液、11…被透過液貯槽、13…排出液溜、15A…冷却トラップ、15B…冷却トラップ、16…真空ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多孔質支持体上にT型ゼオライトの種結晶を担持させる工程、原料であるシリカ源、アルミナ源、ならびにナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む水性混合液を攪拌後、所定時間エージングを行う工程、前記エージングを行った混合液中に前記種結晶を担持させた多孔質支持体を浸漬し、水熱反応を行って前記多孔質支持体上にT型ゼオライトを析出させる工程を含む混合物分離膜の製法。
【請求項2】 原料の仕込組成比(モル比)をSiO2 /Al2 3 =30〜150、OH- /SiO2 =0.1〜1.0、Na+ /(Na+ +K+ )=0.1〜1.0、H2 O/(Na+ +K+ )=10〜50となるように調整することを特徴とする請求項1記載の混合物分離膜の製法。
【請求項3】 水熱反応が温度80〜150℃、常圧下、1〜168時間で行われる請求項1または2記載の混合物分離膜の製法。
【請求項4】 支持体上に析出したT型ゼオライトの組成比(モル比)がエリオナイト0.5〜0.95、オフレタイト0.5〜0.05であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の混合物分離膜の製法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【公開番号】特開2000−42387(P2000−42387A)
【公開日】平成12年2月15日(2000.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−210736
【出願日】平成10年7月27日(1998.7.27)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】