説明

添加剤濃厚物

【課題】燃料油、特にディーゼル燃料、灯油及びジェット燃料のような中間留分燃料用の潤滑性向上剤を含む添加剤濃厚物の低温安定性を向上させる添加剤濃厚物を提供する。
【解決手段】溶媒に溶解された潤滑性向上剤を含む添加剤濃厚物であって、前記潤滑性向上剤を前記濃厚物の10〜90重量%含み、前記潤滑性向上剤をカルボン酸とジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される塩として含み、-30℃で保持したときに少なくとも14日間透明である前記濃厚物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は添加剤濃厚物、及び燃料油、特にディーゼル燃料、灯油及びジェット燃料のような中間留分燃料の特性を向上させる添加剤濃厚物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境への懸念から硫黄含量を低減した燃料、特にディーゼル燃料、暖房用オイル及び灯油が必要とされている。しかしながら、低硫黄含量の燃料を生成する精製処理により、低粘度の生成物が生じ、その潤滑性に寄与する燃料中の他の成分、例えば多環式芳香族化合物や極性化合物の含量が低くなる。さらに、一般に、硫黄含有化合物はいくらかの耐摩耗性を提供すると考えられており、潤滑性を提供する他の成分の比率の減少に伴うそれらの特性の低下により、ディーゼルエンジンの燃料ポンプにおいて報告されている問題が増加する。その問題は、例えばカムプレート、プランジャー、ローラー、スピンドル及びドライブシャフトにおける摩耗によって生じ、これはエンジン寿命中の比較的早い時期に突然のポンプの故障を生じるかもしれない。
この問題は将来深刻になるかもしれないと予想されている。なぜなら、一般的な排気物質に関する厳密な要求を満足するために、より高い圧力の燃料システム(インラインポンプ、ロータリーポンプ、コモンレールポンプ及びユニットインジェクタシステムを含む)が導入されており、これらが現在の装置よりも厳しい潤滑性要求を有し、同時に燃料における硫黄含量の低さがより広く要求されるようになることが予想されるからである。
【0003】
歴史的には、ディーゼル燃料の典型的な硫黄含量は0.5重量%未満であった。ヨーロッパでは、最大硫黄濃度は0.02%〜0.05%に減らされており、スウェーデンでは、0.005%未満(クラス2)及び0.001%未満(クラス1)の濃度の燃料グレードが使用されている。本明細書において、0.05重量%未満の硫黄濃度の燃料油組成物を低硫黄燃料と呼ぶ。
そのような低硫黄燃料は、その潤滑性を向上させるために添加剤を含む場合がある。これらの添加剤は数種類ある。国際公開第94/17160号には、潤滑性を向上させるためのカルボン酸エステル、より詳細には酸部分が2〜50個の炭素原子を含み、かつ、アルコール部分が1個又は2個以上の炭素原子を含むエステルを含む低硫黄燃料が開示されている。米国特許第32473981号には、ダイマー酸、例えばリノール酸のダイマーと、部分エステル化多価アルコールとの混合物が同じ目的のために記載されている。米国特許第3287273号には、水素化されていてもよいダイマー酸のグリコールエステルの使用が記載されている。潤滑性向上剤として使用される、又は耐摩耗剤と称される他の材料としては、硫化ジオレイルノルボルネンエステル(欧州特許出願公開第99595号)、ヒマシ油(米国特許第4375360号及び欧州特許出願公開第605857号)及びメタノール含有燃料において、6〜30個の炭素原子を有する種々のアルコール及び酸、酸及びアルコールエトキシレート、モノ及びジエステル、ポリオールエステル、及びオレフィン-カルボン酸コポリマー及びビニルアルコールポリマー(米国特許第4375360号)が挙げられる。
【0004】
前記添加剤は添加剤濃厚物の形態で一般に提供され、活性種は溶媒に、必要に応じて他の添加剤と一緒に溶解される。潤滑添加剤としておおむね有効であるが、ある特定のカルボン酸及びカルボン酸エステル並びに他の公知の潤滑添加剤が低温で溶解度が低いという欠点があることが分かっている。この溶解度の低さは、添加剤濃厚物を提供するために使用される溶媒(一般に炭化水素系)に関して見出されており、また添加剤が加えられる燃料に関連して見出されている。これは、低い周囲温度で、ある特定の公知の潤滑添加剤濃厚物を貯蔵及び使用することを制限する。
欧州特許出願公開第0798364号には、カルボン酸と脂肪族アミンとの間の反応によって形成される塩を使用して、特にディーゼル燃料の潤滑性を向上させることが記載されている。使用されるアミンは2〜50個の炭素原子の、好ましくは8〜20個の炭素原子のヒドロカルビル基を有し、オレイルアミンのようなアミンが例示されている。その塩の低温挙動についての考察はない。
米国特許第6277158号には、自動車用ガソリンに添加するための摩擦改質剤としてn-ブチルアミンオレアートを含む濃厚物が開示されている。著者は、広範囲の摩擦改質剤化合物を調べる実質的な研究にもかかわらず、n-ブチルアミンオレアートがある温度範囲にわたって所望の安定性を与える2つの化合物の1つであり、洗浄剤と組み合わせて使用したときに有効であると述べている。n-ブチルアミンオレアートを含む濃厚物は-20℃で長期間安定であることが示されているが、濃厚物に存在する化合物の量は示されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2002/0095858号は、6〜50個の炭素原子のモノ又はジカルボン酸と、少なくとも1つの分岐アルキル置換基を有するアミンとの反応によって形成される添加剤を含む燃料油組成物に関するものである。これらの添加剤は燃料用の有効な潤滑性向上剤であることが示されている。掲載されたデータは、添加剤自体がよい低温特性(例えば、流動点)を有し、-25℃で3日間保持したときに安定であることを示す。添加剤の有利な特性を示すために、分岐よりも直鎖状のアルキル基を有するアミン、すなわちトリ-n-ブチルアミンによって中和されたオレイン酸から誘導される同様の種と比較される。データは、この比較化合物の低温特性がより悪く、-25℃で3日後に結晶化したことを示す。任意の添加剤濃厚物、すなわち分散媒又は溶媒に溶解された化合物に関するデータはない。
米国特許出願公開第2002/0014034号には、燃料油の潤滑性を向上させるために添加剤を使用することが記載されている。適した添加剤は、N,N-ジブチルアミンと、70%の脂肪酸及び30%の樹脂系酸からなる酸混合物との反応によって形成することができる。この添加剤は5重量%の量でディーゼル燃料中に溶解していることが示されている。HFRRデータはあるが、添加剤の低温特性の考察はない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、密接に関連した塩と比較したときに、ある特定の脂肪族アミンから誘導されるある特定の塩を含む添加剤濃厚物が低温安定性を大幅に向上させるという発見に基づいている。前記塩は低硫黄含量燃料のための効果的な潤滑性向上剤である。本発明で使用される塩は相対的に高い引火点を有するという利点もある。これは、その取り扱い及び輸送の容易さ(及び伴う危険)の点で利点となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
このように、第1の局面に従って、本発明は溶媒に溶解された潤滑性向上剤を含む添加剤濃厚物を提供し、前記濃厚物は潤滑性向上剤を濃厚物の10〜90重量%含み、潤滑性向上剤はカルボン酸とジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される塩を含み、濃厚物は-30℃で保持したときに少なくとも14日間透明(clear and bright)である。
好ましくは、前記濃厚物は潤滑性向上剤を濃厚物の10〜80重量%、より好ましくは20〜80重量%、例えば33〜75重量%含み、濃厚物は-30℃で保持したときに少なくとも14日間透明(clear and bright)である。
特に好ましい実施態様では、前記濃厚物は潤滑性向上剤を濃厚物の33〜50重量%含み、濃厚物は-40℃で保持したときに少なくとも14日間透明(clear and bright)である。
さらに好ましい実施態様では、前記濃厚物は潤滑性向上剤を濃厚物の33〜50重量%含み、濃厚物は-30℃で保持したときに少なくとも28日間透明(clear and bright)である。
【0008】
本明細書において、カルボン酸とアミンとの反応によって形成される生成物を説明するために「塩」という用語の使用しても、それが、反応によって必然的に純粋な塩が形成されることを意味すると解釈されるべきではない。今のところ、反応によって塩が形成され、したがって反応生成物は例えば塩を含んでいると考えられているが、反応は複雑であるために、他の種も存在していることが考えられる。したがって、「塩」という用語は純粋な塩種のみならず、カルボン酸とアミンとの反応の際に形成される種の混合物をも含むものと解釈されるべきである。
濃厚物を説明するために本明細書において使用される「透明(clear and bright)」という用語は当業者によって理解されるであろう。それは目測であり、濃厚物が本質的に固体、懸濁粒子を含まず、見た目に、ヘイズや相分離が完全にないことを意味すると解釈されるべきである。
【0009】
ジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンから形成される塩を含む濃厚物が特に良い低温特性を示すということが見出された。これは、高価で複雑な加熱貯蔵設備を必要としないで、低い周囲温度条件で貯蔵される多量の活性成分を含む濃厚物を可能にする。本出願人は、短鎖線状ジアミン、例えばジ-n-エチルアミン及び長鎖線状ジアミン、例えばジヘキシルアミンの両方から調製される塩の効果が弱いと分かって驚いた。また、モノ-n-ブチルアミンを用いて調製される対応する塩でさえ効果が弱いと知って驚いた。
都合の良いことには、ジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンのいずれかが使用されるが、所望ならば、これら2つの混合物を使用してもよい。最も好ましくは、前記塩はジ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される。
【0010】
カルボン酸として、式[R’(COOH)xyのもの(式中、各R’は独立して2〜45個の炭素原子の炭化水素基であり、xは1〜4の整数である。)が好ましい。好ましくは、R’は8〜24個の炭素原子、より好ましくは12〜20個の炭素原子の炭化水素基である。好ましくは、xは1又は2であり、より好ましくはxは1である。好ましくは、yは1であり、その場合、前記酸は単一のR’基を有する。あるいは、前記酸はダイマー、トリマー又はより高次のオリゴマー酸であってもよく、その場合、yは1よりも大きい数、例えば2、3又は4又はそれ以上である。R’は、適切には、アルキル又はアルケニル基であり、線状であっても、分岐していてもよい。本発明で使用されるカルボン酸の例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ネオデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、カプロレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、やし油脂肪酸、ダイズ脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、魚油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、獣脂(tallow oil)脂肪酸及びパーム油脂肪酸が挙げられる。任意の比率の2又は3以上の酸の混合物も適している。また、適切には、カルボン酸の無水物、その誘導体及びこれらの混合物である。好ましい実施態様では、カルボン酸はトール油脂肪酸(TOFA)を含む。5重量%未満の飽和成分含量(saturate content)を有するTOFAが特に適していることが見出された。当該技術分野で知られているように、TOFAは少量であるが可変量のロジン酸及びその異性体を含む。好ましくは、5重量%未満、例えば2重量%未満のアビエチン酸を含むTOFAを使用する。
別の好ましい実施態様では、カルボン酸はナタネ油脂肪酸を含む。
別の好ましい実施態様では、カルボン酸はダイズ脂肪酸を含む。
別の好ましい実施態様では、カルボン酸はヒマワリ油脂肪酸を含む。
また、芳香族カルボン酸及びそのアルキル誘導体並びに芳香族ヒドロキシ酸及びそのアルキル誘導体が適している。具体的な例としては、安息香酸、サリチル酸及びそのような種から誘導される酸が挙げられる。
【0011】
好ましくは、カルボン酸は少なくとも80g/100g、より好ましくは少なくとも100g/100g、例えば少なくとも130g/100g又は少なくとも150g/100gのヨウ素価を有する。これにより、本発明の塩の低温安定性がさらに改善することが分かった。
このように、本発明の特に好ましい実施態様は、潤滑性向上剤が、
トール油脂肪酸とジ-n-ブチルアミンとの反応によって、
トール油脂肪酸とトリ-n-ブチルアミンとの反応によって、
ナタネ油脂肪酸とジ-n-ブチルアミンとの反応によって、
ナタネ油脂肪酸とトリ-n-ブチルアミンとの反応によって、
ダイズ脂肪酸とジ-n-ブチルアミンとの反応によって、
ダイズ脂肪酸とトリ-n-ブチルアミンとの反応によって、
ヒマワリ脂肪酸とジ-n-ブチルアミンとの反応によって、又は
ヒマワリ脂肪酸とトリ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される塩を含む。
好ましくは、前記塩は少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも60℃の引火点を有する。
前記塩は、便利にはカルボン酸とアミンとを混合することによって生成してもよい。1つの成分が他の成分に加えられる順序は重要ではない。酸の量とアミンの量とのモル比は、好適には10:1〜1:10であり、好ましくは10:1〜1:2であり、より好ましくは2:1〜1:2であり、例えば約1:1である。ある実施態様では、1.1:1〜1:1.1のモル比が適していると分かった。反応は室温で行っても良いが、好ましくは例えば40℃までゆっくりと加熱される。
【0012】
好ましくは、溶媒は炭化水素溶媒であり、例えば芳香族炭化水素溶媒である。炭化水素溶媒の例としては、ナフサ、灯油、ディーゼル及び暖房用オイルのような石油留分、芳香族留分、例えば「ソルベッソ(SOLVESSO)」(商標)として売られているもののような芳香族炭化水素、アルコール及び/又はエステル、並びにヘキサン及びペンタンのようなパラフィン系炭化水素及びイソパラフィンが挙げられる。また、添加剤濃厚物は必要に応じてさらに添加剤を含んでいてもよい。そのような追加の添加剤は当業者に公知であり、例えば洗浄剤、酸化防止剤(燃料劣化を防止するため)、腐食防止剤、曇り止め(dehazers)、解乳化剤、金属活性低下剤、消泡剤、セタン価向上剤、共溶媒、パッケージ適合剤(package compatibilisers)、脱臭剤、粒子状物質トラップの再生を向上させるための添加剤、中間留分コールドフロー向上剤及び他の潤滑添加剤が挙げられる。
【0013】
第2の局面に従って、本発明は多割合の燃料油と少割合の第1の局面に従う添加剤濃厚物とを含む燃料油組成物を提供する。
好ましくは、前記油は燃料油、例えば石油系燃料油、特に中間留分燃料油である。そのような留分燃料油は、一般に110℃〜500℃、例えば150℃〜400℃の範囲内で沸点に達する。燃料油は常圧留分若しくは減圧留分、分解軽由(cracked gas oil)、又は接触分解及び水素化分解留分のような直留及び熱及び/又は製油所ストリームの任意の部分のブレンドを含んでもよい。最も一般的な石油留分燃料は経由、ジェット燃料、ディーゼル燃料、暖房用オイル及び重油燃料である。暖房用オイルはストレート常圧留分であってもよく、又は少割合、例えば35重量%までの減圧軽油若しくは分解軽油又はこれらの両方を含んでもよい。
燃料油の他の例としては、フィッシャー-トロプシュ燃料が挙げられる。フィッシャー-トロプシュ燃料(FT燃料としても知られる)としては、ガスツーリキッド(GTL)燃料、バイオマスツーリキッド(BTL)燃料及び石炭転換燃料として記載されるものが挙げられる。前記燃料を製造するために、最初に合成ガス(CO+H2)を発生させ、次いでフィッシャー-トロプシュ法により直鎖状のパラフィンに変換する。次いで、直鎖状のパラフィンを、接触分解/改質又は異性化、水素化分解及び水素化異性化(hydroisomerisation)のような方法によって変性してイソパラフィン、シクロパラフィン及び芳香族化合物のような種々の炭化水素を得てもよい。得られるFT燃料は、単独で、又は本明細書に記載されるもののような他の燃料成分及び燃料種と組み合わせて用いてもよい。また、FAMEのような植物又は動物源から誘導される燃料は適している。これらは、単独で、又は他の種類の燃料と組み合わせて用いてもよい。
【0014】
好ましくは、燃料油は0.05重量%以下、より好ましくは0.035重量%以下、特に0.015重量%以下の硫黄含量を有する。また、例えば重量で50ppm未満、好ましくは20ppm未満、例えば10ppm以下の硫黄を含む燃料のように、硫黄の濃度が十分に低い燃料は適している。
好ましくは、使用される添加剤濃厚物の量は、前記塩が燃料油中に重量で5〜1000ppm、より好ましくは10〜500ppm、さらにより好ましくは10〜250ppm、特に10〜150ppm、例えば50〜150ppmの濃度で存在するような量である。
第3の局面に従って、本発明は、0.05重量%未満の硫黄含量を有する燃料油の潤滑性を向上させるための第1の局面に従う添加剤濃厚物の使用を提供する。
第4の局面に従って、本発明は、添加剤濃厚物が少なくとも14日間透明(clear and bright)であるように、潤滑性向上剤を含む添加剤濃厚物を-30℃の温度で貯蔵する方法を提供し、前記方法は、カルボン酸とジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される塩を10〜90重量%の量で炭化水素溶媒に溶解することを含む。
本発明の添加剤は単一の塩又は2種以上の塩の混合物を含んでもよい。また、1又は2以上の補助添加剤(co-additives)と組み合わせて使用してもよい。
以下、本発明を一例としてのみ説明する。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
トール油脂肪酸(約2%の飽和含有量及び約1.8%のロジン酸含有量を有する)(TOFA−1)(50.0g、173ミリモル)を攪拌しながらビーカーに加えた。ジ-n-ブチルアミン(22.36g、173ミリモル)を、次いでビーカーに加えた。2つの成分が反応したことを示す約38.3℃の発熱線を測定した。反応生成物のFTIR分析は、原料の酸と比較して1710cm-1の強いカルボン酸のピークの減少を示し、対応する1553及び1399cm-1のカルボキシラートの反対称及び対称伸縮の出現及びアンモニウム種に起因するピーク2300-2600cm-1のブロードな領域の出現を示した。これは、塩の形成を明確に示す。反応生成物の引火点は67℃であった。
【0016】
(実施例2)
ジ-n-ブチルアミンに代えてトリ-n-ブチルアミンを用いて実施例1を繰り返した。トール油脂肪酸(約2%の飽和含有量及び約1.8%のロジン酸含有量を有する)(TOFA−1)(30.0g、94.5ミリモル)をビーカーに加えて攪拌した。トリ-n-ブチルアミン(17.52g、94.5ミリモル)を、次いでビーカーに加えた。2つの成分が反応したことを示す約13℃の発熱線を測定した。反応生成物のFTIR分析は、原料の酸と比較して1710cm-1の強いカルボン酸のピークの減少を示し、対応する1571及び1371cm-1のカルボキシラートの反対称及び対称伸縮の出現及びアンモニウム種に起因するピーク2300-2600cm-1のブロードな領域の出現を示した。これは、塩の形成を明確に示す。反応生成物の引火点は90℃であった。
【0017】
(実施例3)
トール油脂肪酸(約2%の飽和含有量及び約0.8%のロジン酸含有量を有する)(TOFA−2)を用いて実施例1を繰り返した。
【0018】
(実施例4)
トール油脂肪酸(約2%の飽和含有量及び約0.8%のロジン酸含有量を有する)(TOFA−2)を用いて実施例2を繰り返した。
【0019】
(実施例5)
ナタネ油脂肪酸(33.87g)を溶媒(Atasol 150、50g)に約30℃で添加し、よく混ざるまで攪拌した。ジ-n-ブチルアミン(16.13g)を、次いで周囲温度で混合物に加えた。2つの成分が反応したことを示す発熱線を観測した。発熱線が減少した後、さらに4時間攪拌を続けた。溶媒の引火点未満で生成物を取り出した。
【0020】
(比較例6)
ジ-n-ブチルアミンに代えてジ-n-エチルアミンを用いて実施例1を繰り返した。得られた生成物の引火点は42℃であった。
【0021】
(比較例7)
ジ-n-ブチルアミンに代えてジ-n-エチルアミンを用いて実施例3を繰り返した。得られた生成物の引火点は42℃であった。
【0022】
(比較例8)
ジ-n-ブチルアミンに代えてジ-n-ヘキシルアミンを用いて実施例1を繰り返した。得られた生成物の引火点は122℃であった。
【0023】
(比較例9)
ジ-n-ブチルアミンに代えてジ-n-ヘキシルアミンを用いて実施例3を繰り返した。得られた生成物の引火点は122℃であった。
【0024】
(安定性試験)
実施例1〜4の塩の添加剤濃厚物を、Solvesso 100で33、50及び75重量%の溶液として調製し、比較例5〜8の同様の溶液と一緒に、-30℃及び-40℃で低温安定性について試験した。結果を下記表1に示す。表1において、データは試験サンプルが透明(clear and bright)であった日数を示す。すべての試験を最大28日間行ったため、表1の「28」の結果は、必ずしも28日で不良を示すものではない。得られた結果から、明らかに本発明の濃厚物が、より長い又はより短い鎖長の線状アミンから生成される塩を含むものと比較して、高濃度及び低温で改善された安定性を示す。
【0025】
(比較例10)
更に比較として、実施例1及び3と同じ手順で、n-ブチルアミンとTOFA−1及びTOFA−2との反応によって塩を生成した。Solvesso 100に50重量%含む濃厚物は-40℃で非常に制限された安定性のみを示した(TOFA−1塩について3日)。Solvesso 100に75重量%含む濃厚物は-40℃で少しも安定でなかった。
【0026】
【表1】

【0027】
(HFRR試験)
2つの低硫黄ディーゼル燃料(詳細は表2で示される)でBS EN ISO 12156-1(2000)に従う高頻度往復装置(HFRR)試験を用いて上記の実施例1〜4で調製した塩を試験した。結果を表3に示す。未処置の燃料1のHFRR値は664μmであり、未処置の燃料2のHFRR値は518μmであった。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
本発明の添加剤濃厚物が低硫黄含量ディーゼル燃料の効果的な潤滑性向上剤であることが表3に示す結果から明らかである。
実施例5で生成された塩を複数のディーゼル燃料で試験した。Solvesso 150の50%溶液として材料を用い、100wppm(活性成分含量をベースとして計算した)の処置率でディーゼル燃料に添加した。HFRR試験結果を下記表4に示す。表4の各値は複数の試験の平均である。使用した燃料、例えば韓国のULSD(1)及び韓国のULSD(2)の表示は、同じ一般的な種類の2つの異なる燃料を使用したことを示す。
【表4】

【0031】
潤滑性におけるよい改善はすべての燃料で見られた。さらに、低温安定性について、実施例5の塩を50%含むSolvesso 150の溶液を試験した。-30℃で28日間保持したときにサンプルは透明(clear and bright)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解された潤滑性向上剤を含む添加剤濃厚物であって、前記濃厚物は前記潤滑性向上剤を前記濃厚物の10〜90重量%含み、前記潤滑性向上剤はカルボン酸とジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される塩を含み、-30℃で保持したときに少なくとも14日間透明である前記濃厚物。
【請求項2】
前記潤滑性向上剤を前記濃厚物の33〜50重量%含み、-40℃で保持したときに少なくとも14日間透明である請求項1記載の濃厚物。
【請求項3】
前記潤滑性向上剤を前記濃厚物の33〜50重量%含み、-30℃で保持したときに少なくとも28日間透明である請求項1記載の濃厚物。
【請求項4】
カルボン酸が脂肪酸又は脂肪酸の混合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の濃厚物。
【請求項5】
カルボン酸がトール油脂肪酸又はナタネ油脂肪酸を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の濃厚物。
【請求項6】
溶媒が炭化水素溶媒、例えば芳香族炭化水素溶媒である、請求項1〜5のいずれか1項記載の濃厚物。
【請求項7】
多割合の燃料油と少割合の請求項1〜6のいずれか1項記載の添加剤濃厚物を含む燃料組成物。
【請求項8】
燃料油が0.05重量%以下の硫黄含量を有する中間留分燃料油を含む、請求項7記載の燃料組成物。
【請求項9】
0.05重量%以下の硫黄含量を有する燃料油の潤滑性を向上させるための、請求項1〜6のいずれか1項記載の添加剤濃厚物の使用。
【請求項10】
添加剤濃厚物が少なくとも14日間透明であるように、潤滑性向上剤を含む添加剤濃厚物を-30℃の温度で貯蔵する方法であって、カルボン酸とジ-n-ブチルアミン又はトリ-n-ブチルアミンとの反応によって形成される塩を10〜90重量%の量で炭化水素溶媒に溶解することを含む前記方法。

【公開番号】特開2007−100087(P2007−100087A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267189(P2006−267189)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】