説明

清酒及びその製造方法

【課題】焼酎の様に水やお湯などで希釈して飲用に供することができる清酒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】原酒をイオン交換樹脂に接触処理させて、総酸度及び/又はアミノ酸度を0〜0.7mlの範囲内に調整することを特徴とする。このようにして得られた清酒は、雑味のないすっきりとした清酒であって、そのまま飲むこともでき、且つ焼酎の様に水やお湯、その他炭酸水などで希釈して自在な濃度で飲用に供することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎の様に水やお湯などで希釈して飲用に供することができる清酒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水やお湯,炭酸水などで割って低アルコール濃度にし、さらには適当な香りを添加して飲むことのできる焼酎は、飲み易く且つカクテル感覚で飲めるなどの理由から若者や女性などの新規の需要層に浸透している。そして、焼酎の消費量が増加し、焼酎市場は活況を呈している。
【0003】
一方、清酒市場は、食生活の変化に伴って消費者の嗜好が多様化したことや、若年層の清酒離れなどの理由から清酒の需要が停滞している。それゆえ、清酒の需要拡大のためには消費者の嗜好の変化に応えていく必要があった。
【0004】
このような背景において、新規な清酒や酒質を改善した清酒の開発が続けられている。例えば、特許文献1には、低阻止逆浸透圧膜を用いて加圧下で清酒を透過酒と非透過酒とに分離し、この非透過酒にイオン交換剤を接触させた後、水を添加する、清酒の製造方法が開示されている。この方法によれば、低阻止逆浸透圧膜を透過した透過酒は、アミノ酸、有機酸、糖類、エキスの一部が除去され、イオン交換剤に接触させた非透過酒は、雑味の原因となる清酒中のアミノ酸、酒質劣化因子のジスルフィド、又は着色起因物質の金属イオン、有機酸塩のプラス荷電物質等が除去される。この結果、酒質が淡麗で高甘味、高酸味を呈する清酒を得ることができると記載されている。
【特許文献1】特公平7−106139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の製造方法にて得られた清酒は、単に酒質を改善した清酒を提供することを目的としているため必ずしも満足されたものではなく、従来にはなかった新規な発想による清酒が待ち望まれていた。
【0006】
そこで本発明は、焼酎の様に水やお湯などで希釈して飲用に供することができる清酒を提供することを目的とする。さらに、本発明は、焼酎の様に雑味のないすっきりとした清酒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、従来の製法により醸造された清酒(原酒)をイオン交換樹脂と接触処理し、ある範囲の総酸度およびアミノ酸度を決定することにより、雑味がなく且つすっきり感があり、焼酎の様に水やお湯などで希釈して飲用に供することができる新規な清酒を見出し、本発明に想到した。
【0008】
本発明の請求項1記載の清酒は、アルコール度数が12%以上であって、総酸度及び/又はアミノ酸度が0〜0.7mlであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2記載の清酒の製造方法は、原酒をイオン交換樹脂に接触処理させて、総酸度及び/又はアミノ酸度を0〜0.7mlの範囲内に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1記載の清酒によれば、雑味のないすっきりとした清酒を提供することができる。また、そのまま飲むこともできるが、焼酎の様に水やお湯、その他炭酸水などで希釈して自在な濃度で飲用に供することもできる。さらに、清酒本来の風味を感じないため、ベースアルコールとして用いることもできる。
【0011】
本発明の請求項2記載の清酒の製造方法によれば、イオン交換樹脂処理により原酒中のアミノ酸や有機酸などを大幅に減少することができ、雑味のないすっきりとした清酒を得ることができる。また、焼酎の様に水やお湯、その他炭酸水などで希釈して自在な濃度で飲用に供することが可能な清酒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0013】
本発明の清酒とは、アルコール度数が12%以上であって、清酒(原酒)組成と比較して、総酸度及び/又はアミノ酸度を0〜0.7ml、好ましくは0〜0.55ml、さらに好ましくは0〜0.2mlの範囲内に減少させたものであり、これにより、清酒本来の風味を保持せず、苦味、渋味、雑味のないすっきりとした従来にない新規な清酒が得られる。また、本発明の清酒は、雑味のないすっきり感のある清酒であるため、そのまま飲むこともできるが、焼酎の様に水やお湯、その他炭酸水などで割って(希釈して)自在な濃度で飲用に供することもできる。さらに、割って飲むことができるので、梅やレモンなどを適宜添加することによって様々な味を楽しむことができ、カクテル感覚で飲むことができる。さらに、清酒本来の風味を感じないため、ベースアルコールとして用いることもできる。
【0014】
本発明の清酒を製造するに当たっては、清酒の総酸度及び/又はアミノ酸度を0〜0.7mlの範囲内に調整するために、常法により製造された原酒をイオン交換樹脂に接触処理すればよい。イオン交換樹脂処理により得られた総酸度及び/又はアミノ酸度が0〜0.7mlを有する目的の清酒は、そのまま容器に充填するか、または滅菌処理等の公知の処理を行った後容器に充填すればよい。
【0015】
本発明で用いられる原酒は、従来の清酒の製法に従い、即ち、まず白米を蒸す蒸米工程、蒸米の一部で麹を造る製麹工程、蒸米と麹と水で酒母を造る酒母造り工程、酒母に蒸米と麹と水を加えて醪を仕込む醪仕込み工程、更に濾過工程を経たものが挙げられ、例えば、米、米麹等を原料として醗酵させ、絞りを行ったもので、好ましくはオリ引きや火入れを行ったものが例示され、さらに、オリ引きや、火入れ、活性炭処理等を行ってもよい。その他、遠心分離や濾過処理等により夾雑物を適宜除去し精製してもよい。通常、原酒は以下に示す物性を有するものが多い:日本酒度;−4〜+7、アルコール度数(%);14〜21%、総酸度(ml);1.0〜2.5、アミノ酸度(ml);1.0〜2.5。
【0016】
本発明に用いられるイオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂を有するものであれば特に限定されない。陰イオンおよび陽イオン交換樹脂処理によって、原酒中の有機酸(乳酸、コハク酸、リンゴ酸など)やアミノ酸を除去できるため、清酒本来の風味を保持せず、且つ苦味、渋味、雑味のないすっきりとした清酒を得ることができる。
【0017】
また、本発明の清酒は、アルコール度数が12(%)以上、好ましくは約15〜18(%)であるため酒税のみみれば、アルコール度数が約25以上〜26未満(%)の焼酎に比べて安価である。
【0018】
上述したような本発明の清酒の製造方法は、これに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。例えば、陰イオン交換樹脂処理および陽イオン交換樹脂処理を相互に複数組合わせて処理してもよい。
【0019】
以下、本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
従来の清酒の製法に従い、即ち、まず白米を蒸す蒸米工程、蒸米の一部で麹を造る製麹工程、蒸米と麹と水で酒母を造る酒母造り工程、酒母に蒸米と麹と水を加えて醪を仕込む醪仕込み工程、更に濾過工程を経て、アルコール度数20.1%、総酸度1.65ml、アミノ酸度1.95ml、日本酒度+6.7、グルコース1.84%の原酒を得た。なお、このようにして得られた原酒を未処理清酒1とした。
【0021】
次に、図1の製造工程のフローチャートに示すように、未処理清酒1を活性炭2000ppmを用いて活性炭処理したものを処理清酒2;未処理清酒1を活性炭2000ppmを用いて活性炭処理後、陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL OH型)処理したものを処理清酒3;未処理清酒1を活性炭2000ppmを用いて活性炭処理後、陽イオン交換樹脂(アンバーライトIRA120B H型)処理したものを処理清酒4;未処理清酒1を活性炭2000ppmを用いて活性炭処理後、陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL OH型)処理および陽イオン交換樹脂(アンバーライトIRA120B H型)処理したものを処理清酒5とした。このようにして得られた未処理清酒1および処理清酒2〜5のグルコース(Glu)(%)、日本酒度、アルコール度数(%)、総酸度(ml)、アミノ酸度(ml)の各分析結果を表1に示した。また、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、酢酸、ピログルタミン酸の有機酸の各分析結果を表2に示した。さらに、アセトアルデヒド(AcH)、酢酸エチル(EtOAc)、n−プロピルアルコール(n−PrOH)、イソブチルアルコール(i−BtOH)、酢酸イソアミル(i−AmOAc)、イソアミルアルコール(i−AmOH)、カプロン酸エチル(EtOCap)の香気成分の各分析結果を表3に示した。また、比較例として原材料が酒粕の焼酎も同様に各成分を分析した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
表1に示すように、陰イオン交換樹脂による処理清酒3のアルコール度数18.4%、総酸度0ml、アミノ酸度0.20ml、日本酒度+8.7、グルコース1.52%であった。また、陽イオン交換樹脂による処理清酒4のアルコール度数18.7%、総酸度2.45ml、アミノ酸度0.45ml、日本酒度+7.8、グルコース1.61%であった。また、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂による処理清酒5のアルコール度数17.4%、総酸度0.25ml、アミノ酸度0.10ml、日本酒度+8.6、グルコース1.59%であった。処理清酒5を未処理清酒1と比較すると、アミノ酸度で約95%、総酸度で約84%の減少が見られた。
【0026】
また、表2に示すように、未処理清酒1の有機酸組成(ppm)は、クエン酸124、ピルビン酸34、リンゴ酸348、コハク酸386、乳酸813、フマル酸27、酢酸12、ピログルタミン酸161であった。それに対して、処理清酒5の有機酸は、クエン酸10、ピルビン酸5、リンゴ酸25、コハク酸28、乳酸121、フマル酸7、酢酸5、ピログルタミン酸7であり、未処理清酒1と比べて大幅に有機酸が減少していた。
【0027】
また、表3に示すように、未処理清酒1の香気成分組成(ppm)は、AcH19、EtOAc83、n−PrOH117、i−BtOH65、i−AmOAc2.7、i−AmOH183であり、処理清酒5の香気成分は、AcH4、EtOAc12、n−PrOH63、i−BtOH44、i−AmOH128であった。この結果より、清酒本来の香気成分が減少しているのがわかる。
【0028】
表1〜3に示される通り、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂による処理清酒5は、未処理清酒1と比べて総酸度、アミノ酸度、有機酸、および香気成分と、全てにおいてその分析数値が減少し、雑味のないすっきりとした清酒が得られた。以上の結果より、焼酎様清酒としての清酒は、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂による処理清酒5が優れているということができる。また、総酸度およびアミノ酸度が大幅に減少していることから、清酒本来の香味を感じることなく、焼酎の様に水やお湯、その他炭酸水などで割って自在な濃度で飲用に供することもできる。
【実施例2】
【0029】
焼酎の様に割って飲むことが可能な本発明の清酒の総酸度およびアミノ酸度を変化させて、官能評価を行った。具体的には、前記実施例1で得られた処理清酒5のイオン交換樹脂に供した清酒に、前記実施例1の未処理清酒1を添加して総酸度およびアミノ酸度の数値をそれぞれ総酸度(0.55、0.70、0.90、1.05)、アミノ酸度(0.55、0.75、1.05、1.15)に調整し、表4に示すように調整酒1、調整酒2、調整酒3および調整酒4を作製した。そして、これらの清酒を官能評価に供し、結果を表4に示す。ここで、官能評価により、日本酒らしい香味を感じるところを境界とし、日本酒らしい香味を感じないものを本発明の焼酎様清酒とした。
【0030】
【表4】

【0031】
表4に示すように、総酸度およびアミノ酸度ともに1.0以上の数値では、従来の日本酒本来の風味を感じることから、本発明の清酒は従来の日本酒らしい香味を感じることのない総酸度およびアミノ酸度の範囲0〜0.7ml程度、好ましくは0〜0.55ml程度、さらに好ましくは0〜0.2ml程度が望ましいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例1における製造工程のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール度数が12%以上であって、総酸度及び/又はアミノ酸度が0〜0.7mlであることを特徴とする清酒。
【請求項2】
原酒をイオン交換樹脂に接触処理させて、総酸度及び/又はアミノ酸度を0〜0.7mlの範囲内に調整することを特徴とする清酒の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−75044(P2006−75044A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260970(P2004−260970)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(592107440)菊水酒造株式会社 (3)
【Fターム(参考)】