説明

渋味のマスキング方法

【解決手段】渋味を呈する製品に、1又は2種以上の高甘味度甘味剤を甘の閾値以下の量で用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。
【効果】 渋味を呈する各種の最終製品における過剰な渋味を、特別な工程/処理を追加することなく減少又は緩和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食品、医薬品及び医薬部外品などの経口摂取又は口内利用可能な製品の渋味のマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
味は、主として甘味、塩味、酸味、旨味、苦味の5種のほかに、渋味、えぐ味、辛味等がある。
なかでも、渋味は、例えば、渋柿等で代表されるように、未熟な果物を味わった場合に口をすぼめてひきしめられるような感覚であり、舌粘膜の収斂によるものとされている。強い渋味は不快であり、加工食品等を開発する場合には極力抑えることが好ましい。一方、淡い渋味は他の味と混ざり合って独特の風味を与え、緑茶等のように珍重されている。従って、渋味を緩和な程度に抑制して、この味覚の示す欠点部分を是正し、長所の部分のみを引き立てることが重要な課題となる。
【0003】
渋味を呈する代表的な成分は、タンニン、茶カテキン、茶タンニン、クロロゲン酸、シブオール等種々のものが知られており、これら成分は、主に渋柿、緑茶、コーヒー、紅茶、梅、豆腐、卵等の食品や、歯磨粉等の医薬部外品、さらにはたばこにまで広く含有されている。
【0004】
例えば、渋柿に含有されているタンニンやシブオールは、酵素処理、アルコール液噴霧によりタンニン自体を不溶性にして、渋味を呈しないように処理されることがある。また、茶に含有されているカテキン類は、茶葉にアルコール系水溶液を噴霧したり、デキストリンやサイクロデキストリン等の澱粉を添加した後酵素処理を行うことによって渋味を抑制することが知られている。さらに、豆腐の渋味には酵素エキスを添加したり、卵、特に加工卵白液にはプロテアーゼ処理を施したり、たばこに対してはアンモニア加湿空気混合ガスで処理したり、テルペンカルボン酸又はその低級脂肪酸エステルを添加する方法等により渋味の抑制を行うことが提案されている。
【0005】
しかし、上記のように、原料自体の渋味を抑制する方法は、一般に工程が複雑であり、設備や装置を変更することが必要で、製造/加工コストの増大を招くという問題があった。
【0006】
また、上記の渋味の抑制方法とは別に、渋味を呈する食品等に、キキョウ科植物の抽出物、クルクチン又は糖アルコールを添加することにより渋味をマスキングする方法が提案されている(特公平4−76659号、特開平2−284158号又は特開平7−274829号等)。
【0007】
しかし、キキョウ科植物抽出物やクルクチンは天然物であるために供給量や供給質が不安定であり、高品質で得ることが困難であるという問題があった。また、添加の際にはこれら物質は大量に必要となるため、渋味のマスキングという点では有効であっても、これら添加物の味を呈することにより他の味とのバランスを崩すという問題があった。さらに、上記と同様に製造/加工コストの問題も有している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を鑑み、本願の発明者らは、製品の物性などに影響を及ぼさないで、かつ渋味自体を改善することができる方法について種々の検討を行った。その結果、高甘味度甘味剤が、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な渋味を減少又は緩和させ、さらに総合的な味を何ら損なうことがないことを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
この発明によれば、渋味を呈する製品に、ステビア又はアスパルテームを甘味の閾値以下の量で用いることを特徴とする渋味のマスキング方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、渋味を呈する各種の最終製品における過剰な渋味を、特別な工程/処理を追加することなく減少又は緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における渋味を呈する製品とは、経口摂取又は口内利用時に渋味を呈する製品を意味し、このなかには本来渋味は必要でないが、他の目的等で添加したために結果的に渋味を呈することとなった製品を含む。また、摂取又は利用時は液体、固体又は半固体のいずれの形態のものであってもよい。
【0012】
このような製品として、茶(緑茶、抹茶、ほうじ茶等)、紅茶、コーヒー等の飲料;柿、栗、ぶどう、銀杏等の果実;これら果実の果汁又は果肉を含む製品;ワイン、ぶどう酒等のアルコール類;が挙げられる。また、これら以外にも、タンニン、カテキン類、クロロゲン酸、シブオール、AlCl3 、Al(NO3 3 、ZnSO4 、トリクロロ酢酸等の渋味を呈する成分を含有する食品、医薬品及び医薬部外品などの経口摂取又は口内利用可能な製品、さらに、渋味としては現れていないが、上記成分を含有する製品、例えば山芋、カカオ豆、ごぼう、ふき、さつまいも、ジャガイモ、なす、リンゴ、なし等又はこれらの加工品等をも含む。なお、これら渋味を呈する製品においては、塩味など他の味覚成分、又は賦形剤や保存剤など他の添加剤が用いられたものであってもよい。
【0013】
本発明において高甘味度甘味剤とは、微量で甘味を呈する天然又は合成の甘味剤を意味し、砂糖を基準として甘味倍率が50倍以上のものをいう。具体的には、天然のものとしてソーマチン、ステビア又は甘草等の植物からの抽出物、合成の高甘味度甘味剤としてスクラロース、アスパルテーム、サッカリンナトリウム又はアセスルファームK等が挙げられる。本発明においては、これらのうちステビア、スクラロース、アスパルテームの単独又は2種以上の混合物の使用が好ましい。ここで、ステビアとは、天然のステビアから抽出した抽出物及びこの抽出物を適当に酵素処理したものを含む。
【0014】
甘味の閾値とは、甘味物質の甘味を呈する最小値であるが、必ずしも絶対値としては表わされない。つまり、本発明者らの試験によれば、例えば、紅茶3gを100℃の熱水150gで3分間又は10分間抽出した液を試料としたとき、スクラロースの甘味の閾値は前者では0.0009重量%、後者では0.004重量%となることが確認されている。このため、甘味の閾値は、同一の高甘味度甘味剤でも製品中の渋味の種類あるいは強弱、塩味あるいは苦味などの他の味覚又は製品の保存あるいは使用温度などの条件により変動すると考えられるが、一般に甘味剤として使用する場合の量よりも小さい値である。したがって、本願における甘味の閾値以下の量とは、甘味を呈さない範囲の量であればよい。また、高甘味度甘味剤の種類に拘わらず、最少量は甘味の閾値の1/100以上の量で用いることが好ましい。
【0015】
渋味を呈する製品に1又は2種以上の高甘味度甘味剤を用いる方法としては、上述の甘味の閾値以下の量の高甘味度甘味剤(2種以上の混合物の場合には、合計の量で甘味閾値以下となる量)を、渋味を呈する製品に均一に添加できる方法である限り、特に限定されない。例えば、渋味を呈する最終製品が固体の場合は、成型されるまでの液体、半固体の形状の時に、所定量の高甘味度甘味剤をそのまま、又は希釈溶液の状態で均一に添加し、その後に固体形状に成型する方法、固体形状の製品に希釈溶液状の高甘味度甘味剤を塗付又は噴霧等により均一に添加する方法等が挙げられる。また、渋味を呈する製品の最終形態が液体、半固体の場合は、その製造工程中又は最終製品にそのまま又は溶液の状態で均一に添加する方法等が挙げられる。
【0016】
以上のような方法で通常より少ない量の高甘味度甘味剤を用いて、本発明は簡便に過剰な渋味を減少又は緩和し、味覚の改善を図ることができる。
【実施例】
【0017】
本発明の渋味のマスキング方法を以下の実施例によって説明する。しかしながら、この発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
試験例1
渋味成分としてタンニン酸アルミニウムを0.04(重量)%を含有する水溶液に、各種甘味量を閾値以下で、すなわちスクラロース0.0006%、アスパルテーム0.003%、ステビア0.005%、サッカリンナトリウム0.002%、ソーマチン0.00008%で添加したものと添加しないもの(ブランク)により、渋味のマスキング効果を、29人のパネラーにより順位づけして比較した。
この結果、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウムに渋味のマスキング効果があり、他の甘味料では効果がなかった(フリードマン検定とウィルコキソン検定により検定)。
【0019】
実施例1:ウーロン茶飲料
ウーロン茶エキストラクトNo. 14266(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)2.5重量部(以下「部」と記す)、L−アルコルビン酸ナトリウム0.025部、スクラロース0.0012部を水にて100部とする。
得られたウーロン茶飲料は、茶の渋味がマスキングされたウーロン茶飲料であった。
【0020】
実施例2:緑茶飲料
マッチャエキストラクトNo. 13115(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)7部、グルタミン酸ナトリウム0.0075部、マッチャフレーバーNo. 59252(N)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.1部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.0025部、スクラロース0.0014部又はアスパルテーム0.0035部を水にて合計100部とする。
得られた緑茶は、強すぎる渋味がマスキングされた緑茶であった。
【0021】
実施例3:紅茶飲料(ピーチ風味)
紅茶エキス(アッサムタイプ10倍抽出)10部、クエン酸(結晶)0.06部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.05部、カラメル色素0.025部、1/5白桃濃縮果汁(透明)1部、ピーチフレーバーNo. 66266(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.15部、スクラロース0.003部又はSKスイートZ−3)(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.01部を水にて合計100部とする。93℃まで加熱し、瓶に充填する。
得られた紅茶は、渋味がマスキングされ、ピーチ風味の良好な紅茶であった。
【0022】
実施例4:ブラックコーヒー
コーヒーエキスH(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)7.5部、ローストコーヒーエッセンス(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.1部、スクラロース0.0016部又はSKスイートZ−3(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部を水にて合計100部とする。このコーヒー液を缶に充填し、120℃、5分間レトルト殺菌する。
得られたコーヒーは、コーヒー特有の不快な渋味がマスキングされた缶コーヒーであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渋味を呈する製品に、ステビア又はアスパルテームを甘味の閾値以下の量で用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。

【公開番号】特開2006−61160(P2006−61160A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278485(P2005−278485)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【分割の表示】特願平9−63312の分割
【原出願日】平成9年3月17日(1997.3.17)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】