説明

減速装置

【課題】軸に対し回転自在に外嵌される外歯歯車の軸方向の位置規制を摺動抵抗の小さな構成にて行うことにより、伝達効率の高い減速装置を得る。
【解決手段】入力軸16と、該入力軸16に外嵌される外歯歯車26と、入力軸16と外歯歯車26の間に配置される軸受B2と、を有し、該軸受B2は、その外輪が、外歯歯車26によって兼用されている減速装置G1において、軸受B2のころ62、63が、入力軸16に固定された内輪(第1位置規制部材)60と、外歯歯車26に固定された止め輪(第2位置規制部材)とによって軸方向の移動が規制されることにより、外歯歯車26の入力軸16に対する軸方向の移動が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置、特に、軸に外嵌された外歯歯車を有する減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に偏心体軸と、該偏心体軸の外周に組み込まれた(外嵌された)外歯歯車と、偏心体軸と外歯歯車との間に配置される軸受と、を有する偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、外歯歯車が内接噛合する内歯歯車を有し、外歯歯車と内歯歯車との相対回転を減速出力として取り出している。このような減速装置にあっては、外歯歯車は、いわゆる遊星歯車として機能しており、偏心体軸に軸受を介して回転自在に組み込まれる。そのため、とりわけ、該軸受が、内輪または外輪の一方、あるいは双方を有していない場合には、外歯歯車の軸方向の位置規制をどのように行うかが問題となる。
【0004】
特許文献1に係る減速装置にあっては、外歯歯車が軸方向に2枚並んで組み込まれていることから、該2枚の外歯歯車の軸方向両側部に存在するキャリヤ部材およびケーシング部材をそれぞれ「位置規制部材」として機能させ、該キャリヤ部材およびケーシング部材によって両外歯歯車の離反方向の位置規制を行っている。また、各外歯歯車の間にスペーサを介在させ、該スペーサを両外歯歯車の接近方向の位置規制を行う「位置規制部材」として機能させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−41747号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように外歯歯車の軸方向側部に位置する部材や、外歯歯車の間に介在させた部材を外歯歯車の位置規制部材として機能させる構造は、外歯歯車と当該位置規制部材との間の摺動抵抗が大きくなり易く、減速装置のエネルギ(トルク)伝達ロスが増大する傾向があるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、この種の外歯歯車、すなわち内輪また外輪の少なくとも一方を有しない軸受を介して軸に対し回転自在に外嵌される外歯歯車の軸方向の位置規制を、摺動抵抗の小さな構成にて行うことにより、伝達効率の高い減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸と、該軸に外嵌される外歯歯車と、前記軸と前記外歯歯車の間に配置される軸受と、を有し、該軸受は、その内輪および外輪の少なくとも一方が、前記軸または前記外歯歯車によって兼用されている減速装置であって、前記軸受の転動体が、前記軸に固定または一体化された第1位置規制部材と、前記外歯歯車に固定または一体化された第2位置規制部材とによって軸方向の移動が規制されることにより、前記外歯歯車の前記軸に対する軸方向の移動が規制されている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明によれば、軸受の転動体は、前記軸に固定または一体化された第1位置規制部材によって軸に対して軸方向の位置規制がなされ、一方、外歯歯車に固定または一体化された第2位置規制部材によって外歯歯車に対して軸方向の位置規制がなされる。
【0010】
このため、軸受の転動体は、軸に対しても、また外歯歯車に対しても軸方向の移動が規制されことから、結局、外歯歯車は、該軸受の転動体を介して「軸」に対して軸方向の移動が規制されることになる。
【0011】
なお、前記軸受が、(例えば圧入等によって)軸に固定された内輪を有する場合には、前記第1位置規制部材の概念には、当該内輪が含まれる。また、軸受が、外歯歯車に固定された外輪を有する場合には、前記第2位置規制部材の概念には当該外輪が含まれる。
【0012】
軸に固定または一体化された第1位置規制部材と転動体との間の摺動抵抗、あるいは、外歯歯車に固定または一体化された第2位置規制部材と転動体との間の摺動抵抗は、従来のように、外歯歯車をキャリヤ部材やケーシング部材に当接させて位置規制する場合に比べて小さい。そのため、結果として、小さな摺動抵抗にて外歯歯車の位置規制ができるようになり、伝達効率の高い減速装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸に対し回転自在に外嵌される外歯歯車の軸方向の位置規制を摺動抵抗の小さな構成にて行うことにより、伝達効率の高い減速装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る減速装置が組み込まれたフォークリフトの車輪駆動装置の構成を示す断面図
【図2】図1の要部断面図
【図3】上記実施形態の変形例を示す図2相当の要部断面図
【図4】本発明の他の実施形態の一例を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る減速装置がフォークリフトの車輪駆動装置に適用されている構成例を示す断面図、図2は、その要部断面図である。
【0017】
モータ12の出力軸12Aは、スプライン14を介して減速装置G1の入力軸16と連結されている。本実施形態では、入力軸16が本発明に係る「軸」に相当している。入力軸16は、後述する外歯歯車24、26の半径方向中央に配置されている。入力軸16には、該入力軸16と軸心のずれた軸心を有する2つの偏心体18、20が一体に形成されている。二つの偏心体18、20は、互いに180度の位相差を有して偏心している。
【0018】
なお、偏心体は、入力軸と別体で構成された上で、キー等によって入力軸に固定されたものであってもよい。この場合には、(入力軸と別体とされた)偏心体を備える軸が、本発明の「軸」に相当することになる。
【0019】
各偏心体18、20の外周(軸の外周)には、軸受B1、B2を介して外歯歯車24、26が外嵌されている。外歯歯車24、26の軸受B1、B2近傍の構成については、後に詳述する。
【0020】
外歯歯車24、26は、内歯歯車28に内接噛合している。
【0021】
内歯歯車28は、内歯を構成する円筒状の内歯ピン28A、28Bと、該内歯ピン28A、28Bを貫通してこれを回転自在に保持する保持ピン28Cと、該保持ピン28Cを回転自在に支持するとともに、ケーシング30と一体化された内歯歯車本体28Dとで、主に構成されている。
【0022】
内歯歯車28の内歯の歯数(内歯ピン28A、28Bの数)は、外歯歯車24、26の外歯の歯数よりも僅かだけ(この実施形態では1だけ)多い。
【0023】
なお、外歯歯車24、26の軸方向車体側には車体フレーム32に固定されたフランジ体34が配置され、軸方向反車体側にはキャリヤボルト36およびキャリヤピン42を介して該フランジ体34と一体化されたキャリヤ体38が配置されている。キャリヤ体38には、内ピン40が一体に形成されている。
【0024】
内ピン40は、周方向に等間隔に複数本が設けられ、摺動促進部材44と共に、外歯歯車24、26にその中心からオフセットして周方向に等間隔に貫通形成された内ピン孔24A、26Aを隙間を有して貫通し、フランジ体34の凹部34Aに嵌め込まれている。内ピン40は、外歯歯車24、26の前記内ピン孔24A、26Aの一部と摺動促進部材44を介して当接しており、外歯歯車24、26の自転を拘束している(揺動のみを許容している)。
【0025】
キャリヤピン42も周方向に等間隔に複数本が設けられ、外歯歯車24、26にその中心からオフセットして周方向に等間隔に貫通形成されたキャリヤピン孔24B、26Bを隙間を有して貫通し、フランジ体34の軸方向端部に当接している。但し、キャリヤピン42は、外歯歯車24、26の前記キャリヤピン孔24B、26Bとは全く当接しておらず、外歯歯車24、26の自転の拘束には寄与していない。
【0026】
減速装置G1のケーシング30は、主軸受46、47を介して(車体フレーム32に固定された)フランジ体34およびキャリヤ体38に回転自在に支持されている。ケーシング30には、フレーム48を介してフォークリフト(全体は図示略)51のタイヤ50が装着される。図1から明らかなように、減速装置G1は、タイヤ50の軸方向範囲内(図1の2点鎖線の範囲内)に収められている。
【0027】
入力軸16は、一対のアンギュラ玉軸受52、54を介してフランジ体34およびキャリヤ体38に回転自在に支持されている。
【0028】
車体側のアンギュラ玉軸受52は、フランジ体34の凹部34Aと入力軸16の車体側段部16Aとで軸方向の動きが拘束されている。反車体側のアンギュラ玉軸受54は、キャリヤ体38の段部38Aと入力軸16の反車体側段部16Bとで軸方向の動きが拘束されている。そのため、入力軸16は、フランジ体34およびキャリヤ体38によって軸方向の動きがいずれの方向に対しても拘束されている。
【0029】
なお、この一対のアンギュラ玉軸受52、54は、本実施形態においては正面合わせで配置され、フランジ体34およびキャリヤ体38が連結されるときに適切な予圧が与えられる。このため、入力軸16は、ガタなく軸方向に位置決めされる。
【0030】
図2を参照して、外歯歯車24、26の軸受B1、B2近傍の構成を示す。
【0031】
図2には、反車体側の外歯歯車26の軸受B2の近傍が描写されている。車体側の外歯歯車24の軸受B1近傍の構成も同様の構成を有しているため、ここでは便宜上、軸受B2の近傍に着目して説明する。
【0032】
この実施形態に係る軸受B2は、入力軸(軸)16と外歯歯車26との間に配置され、外輪が外歯歯車26によって兼用されている。すなわち、軸受B2は、内輪60と、ころ(転動体)62、63と、外輪でもある外歯歯車26と、ころ62、63同士を一体に保持するリテーナ64とで構成されている。
【0033】
ころ(転動体)62、63は、入力軸(軸)16に固定された内輪(第1位置規制部材)60によって入力軸16に対する軸方向の移動が規制されている。同時に、このころ62、63は、外歯歯車26に固定された止め輪(第2位置規制部材)66によって外歯歯車26に対する軸方向の移動が規制されている。以下、詳細に説明する。
【0034】
軸受B2の内輪60は、本発明の第1位置規制部材として機能している。すなわち、内輪60は、入力軸16に圧入されることによって固定されており、内輪60の軸方向両端部には、ころ62、63の位置規制を行うための突起部(位置規制部)60A、60Bが形成されている。この実施形態では、1つの外歯歯車26(あるいは外歯歯車24)に対して複数のころ62、63が軸方向に配置されており、この内輪60の突起部60A、60Bは、複数並べられたころ62、63の最も外側の側面62A、63Aと当接することにより、入力軸16に対するころ62、63の軸方向の移動(特にころ62、63同士の離反方向の移動)を拘束している。
【0035】
一方、外歯歯車26は、軸受B2の外輪を兼ねており、内周面26Cがころ62、63の転走面を構成している。内周面26Cの軸方向中央には溝26Dが形成されている。この溝26Dには、止め輪66が嵌入されている。
【0036】
止め輪66は、本発明の第2位置規制部材として機能している。すなわち、止め輪66は、外歯歯車26に固定されると共に、スラストプレート70、71を介してころ62ところ63の間に配置され、ころ62、63の外歯歯車26に対する軸方向の移動(特にころ62、63同士の接近方向の移動)を規制している。
【0037】
なお、この実施形態に係る止め輪66は、半径方向に沿って切り欠き(図示略)が形成されており、弾性変形を利用してこの切り欠きの寸法を詰めて外径を小さくした状態で組み込まれる。すなわち、止め輪66は、縮径された状態で内輪60、ころ62、63、リテーナ64およびスラストプレート70、71とともに軸方向に沿って入力軸16と外歯歯車26との間に組み込まれる。外径の縮められた止め輪66は、外歯歯車26の溝部26Dの位置で拡径され(元の寸法に戻り)、該溝部26Dに固定される。
【0038】
軸受B2のリテーナ64は、ころ62、63を回転自在に保持している。すなわち、リテーナ64は、複数のころ62、63を単一の「ころ群の纏まり」として保持し、1個1個のころ62、63同士の周方向の位置規制および軸方向の位置規制を行っている。なお、リテーナ64は、この実施形態においては、ころの回転姿勢を保持するために用意されているものであり、「ころ(転動体)62、63の軸方向の位置規制」という観点では、必ずしもなくてもよい。リテーナがない場合には、ころの組み込む数をより増やせる(軸受B2としての伝達容量をより増大できる)というメリットが得られる。
【0039】
以下、この実施形態に係る減速装置G1の作用を説明する。
【0040】
モータ12の出力軸12Aの回転は、スプライン14を介して減速装置G1の入力軸16に伝達される。入力軸16が回転すると、偏心体18、20(の外周)が偏心運動を行い、軸受B1、B2を介して外歯歯車24、26が揺動する。この揺動により、外歯歯車24、26と内歯歯車28との噛合位置が順次ずれてゆく現象が生じる。
【0041】
外歯歯車24、26と内歯歯車28との歯数差は、1に設定されており、また、各外歯歯車24、26の自転は、車体フレーム32側に固定された内ピン40によって拘束されているため、入力軸16が1回回転する毎に、自転の拘束されている外歯歯車24、26に対して内歯歯車28が歯数差に相当する分だけ自転(回転)することになる。この結果、入力軸16の回転により、1/(内歯歯車の歯数)に減速された回転速度にて内歯歯車本体28Dと一体化されているケーシング30が回転し、該ケーシング30に固定されているフレーム48を介してフォークリフト51のタイヤ50が回転する。
【0042】
ここで、入力軸16は、一対のアンギュラ玉軸受52、54を介してフランジ体34およびキャリヤ体38に回転自在に支持されている。このうち、車体側のアンギュラ玉軸受52は、フランジ体34の段部34Aと入力軸16の車体側段部16Aとで軸方向の動きが拘束されており、反車体側のアンギュラ玉軸受54は、キャリヤ体38の段部38Aと入力軸16の反車体側段部16Bとで軸方向の動きが拘束されている。そのため、入力軸16は、フランジ体34およびキャリヤ体38によって軸方向の動きがいずれの方向に対しても拘束されている。
【0043】
一方、図2を参照して、軸受B2(軸受B1側も同様)の内輪60は(この軸方向の動きが拘束された)入力軸16(の偏心体20の外周)に圧入されることによって固定されており、ころ62、63は、該内輪60の軸方向両端部に形成された突起部(位置規制部)60A、60Bに当接している。さらに、外歯歯車26には、該外歯歯車26の内周面(転走面)26Cの軸方向中央に形成された溝26Dに嵌入することで止め輪66が固定されており、この止め輪66に(スラストプレート70、71を介して)ころ62、63が当接している。
【0044】
この結果、a)入力軸(軸)16が、一対のアンギュラ玉軸受52、54を介してフランジ体34およびキャリヤ体38に対して軸方向に位置規制され、b)内輪(第1位置規制部材)60が、該入力軸16に圧入固定されることによって入力軸16に対して軸方向に位置規制され、c)ころ62、63が、該内輪60の突起部(位置規制部)60A、60Bによって内輪60に対して軸方向に位置規制され、さらに、d)該ころ62、63を介して外歯歯車26に固定された止め輪(第2位置規制部材)66によって外歯歯車26がころ62、63に対して軸方向に位置規制されることになり、結果として、e)外歯歯車26は、フランジ体34およびキャリヤ体38に接触することなく、フランジ体34およびキャリヤ体38に対して軸方向に位置規制される。
【0045】
内輪60の突起部60A、60Bところ62、63との当接部、スラストプレート70、71ところ62、63との当接部の外歯歯車26の中心からの距離は、従来の外歯歯車とキャリヤ部材やケーシング部材との当接部の外歯歯車の中心からの距離よりも小さい。このため、内輪60の突起部60A、60Bところ62、63との間の摺動抵抗、あるいは、止め輪66(およびスラストプレート70、71)ところ62、63との間の摺動抵抗は、従来のように、外歯歯車をキャリヤ部材やケーシング部材に当接させて位置規制する場合に比べて小さい。そのため、結果として、小さな摺動抵抗にて外歯歯車26(24)の位置規制ができるようになり、伝達効率の高い減速装置G1を得ることができる。
【0046】
また、単に止め輪66ところ62、63を直接摺動させるのではなく、スラストプレート70、71を介して摺動させているため、一層摺動抵抗は小さくなっている。なお、このスラストプレート70、71は、止め輪66の半径方向に沿って形成されたスリットにころ62、63が嵌まって回転が阻害されるのを防止するという効果も奏している。例えば、スリットなしの止め輪を冷やし嵌め(または外歯歯車を焼き嵌め)する場合には、このスラストプレート70、71はなくてもよい。
【0047】
また、この実施形態では、専用の内輪60を有するとともに外輪が外歯歯車26と兼用されている構成が採用されている。この構成は、外輪を有するとともに内輪が軸と兼用されている構成と比較した場合に、軸受のころのピッチ円径を、(外輪がない分)より大きく取ることができるため、より大きな伝達容量を確保することができるという点で優れる。また、外歯歯車26の歯車としての高い硬度を転動体の転走面の硬度として活用できるという点でも優れている。
【0048】
以上の構成および作用により、本実施形態によれば、従来のような外歯歯車の側部を直接規制する構成と比べて、より小さな摺動抵抗にて外歯歯車26の軸方向の位置規制を行うことができ、その分、減速装置G1の伝達ロスを低減できる。
【0049】
本発明には、種々のバリエーションが考えられる。
【0050】
図3(A)〜(C)は、図2相当の部分拡大図であり、それぞれ本発明のバリエーションの構成例を示している。なお、先の実施形態と同様の構成の部位については、図中で先の実施形態と同一の部材に同一の符号を付すことで重複説明を省略する。
【0051】
図3の(A)に示した軸受B3は、外輪が外歯歯車26によって兼用されるとともに、内輪も入力軸16によって兼用されている。すなわち、この図3(A)の構成では、軸受B3は専用の内輪および外輪は、いずれも有していない。
【0052】
この実施形態においては、ころ62、63は、入力軸76の偏心体76Aの軸方向端部に一体的に形成された突起部76Bによって入力軸76に対して位置規制されるとともに、偏心体76Aに隣接する偏心体(図示略)の間に設けられた溝76Cに固定された(スラストプレートを兼ねた)止め輪82とによっても入力軸76に対して位置規制される。
【0053】
すなわち、この実施形態では、入力軸76と一体化された偏心体76Aの突起部76Bおよび入力軸76に固定された止め輪82が、それぞれ第1位置規制部材を構成していることになる。
【0054】
このように、本発明では、軸受は、(専用の内輪及び外輪のいずれも有しておらず)軸と外歯歯車との間にころ(転動体)が直接、配置されるような構成であっても適用可能である。
【0055】
さらには、図示はしていないが、専用の外輪のみを有し、軸が軸受の内輪を兼用するような構成においても同様に適用可能である。この場合には、外輪の方を圧入、あるいは焼き嵌め等により外歯歯車に固定することで、該外輪を外歯歯車に固定された第2位置規制部材として機能させることができる。
【0056】
図3の(B)の構成では、第1、第2位置規制部材の構成については、先の第1の実施形態と同様であるが、軸受B4のころ62、63を回転自在に保持するリテーナ86の構成が先の実施形態と異なっている。
【0057】
具体的には、この図3(B)の軸受B4のリテーナ86は、内輪(第1位置規制部材)60において半径方向に突出している位置規制部60A、60Bと径方向に重なる部分の内径D1が、最も大きな内径とされており、それ以外の部分の内径は、該内径D1より軸方向内側に向けて直線的に傾斜して小さくなっている(異なっている)。また、止め輪(第2位置規制部材)66において半径方向に突出している突起部(位置規制部)66Aと径方向に重なる部分の外径d2が、最も小さな外径とされており、それ以外の部分の外径は該外径d2より軸方向内側から外側に直線的に傾斜して大きくなっている(異なっている)。
【0058】
これにより、内輪60の突起部60A、60Bおよび外歯歯車26の止め輪66とリテーナ86との干渉を防止しつつ、該リテーナ86によりころ62、63をより確実に保持することができる。
【0059】
図3の(C)に示した構成では、軸受B5のころ(転動体)88が、入力軸16の各偏心体18、20および外歯歯車24、26に対してそれぞれ1個のみ配置されている。ころ88の入力軸16に対する位置規制については、第1位置規制部材として、内輪61が入力軸16に圧入固定されており、先の第1の実施形態と同様の構成が採用されている。しかし、ころ88の外歯歯車26(24側も同じ)に対する位置規制については、第2位置規制部材として、2つの止め輪89、90が、外歯歯車26の軸方向両端部に形成された2つの溝26E、26Fにそれぞれ配置・固定されている。なお、符号85はリテーナである。
【0060】
このような構成によっても、入力軸16、内輪60、ころ88、止め輪89、90の各要素によって、外歯歯車26(24)の入力軸16に対する軸方向の移動規制を行うことができる。
【0061】
先の実施形態およびそのバリエーションは、いずれも、本発明を入力軸が偏心体を有する偏心体軸を兼用するタイプの偏心揺動型の遊星減速装置に適用していたが、本発明は、例えばいわゆる「振り分けタイプ」と称される公知の偏心揺動型の遊星減速装置にも適用可能である。
【0062】
振り分けタイプの偏心揺動型の遊星減速装置では、入力軸の回転を、該入力軸の回転中心からオフセットした位置に配置した複数の偏心体軸に振り分け、該複数の偏心体軸に同位相でそれぞれ設けた偏心体を同時に回転させることで外歯歯車を偏心揺動させる。
【0063】
各偏心体軸の公転(外歯歯車の自転)を拘束した場合には、内歯歯車(ケーシング)の回転を出力として取り出すことができ、内歯歯車(ケーシング)側を固定した場合には各偏心体軸の公転(外歯歯車の自転)を出力として取り出すことができる。
【0064】
この振り分けタイプの偏心揺動型の遊星減速装置においても、偏心体を含めた偏心体軸と外歯歯車との間に配置される軸受の構造が、先の実施形態の偏心体を含めた入力軸と外歯歯車との間に配置された軸受の構造と同様となり、本発明を先の実施形態と同様の態様で適用することができる。
【0065】
さらには、このような偏心揺動型の遊星減速装置に限らず、本発明は、例えば単純遊星歯車減速装置にも適用することが可能である。
【0066】
図4に本発明を、単純遊星歯車減速装置G2に適用した構成例を示す。
【0067】
この実施形態においては、キャリヤピン(軸)102と、該キャリヤピン102に外嵌される遊星歯車(外歯歯車)104と、前記キャリヤピン102と遊星歯車104との間に配置される軸受B6と、を有する単純遊星歯車減速装置G2に本発明が適用されている。なお、符号106は太陽歯車、108は内歯歯車である。
【0068】
この軸受B6では、外輪が遊星歯車104によって兼用されている。内輪(第1位置規制部材)110がキャリヤピン102に圧入によって固定され、キャリヤピン102に対するころ(転動体)112、114の軸方向の移動を規制している。キャリヤピン102は、その両端が図示せぬフランジ部材(キャリヤ部材)に圧入されて軸方向に移動規制されている。また、遊星歯車104の内周に固定された止め輪(第2位置規制部材)124によりころ(転動体)112、114の遊星歯車104に対する軸方向の移動が規制されている。ころ112、114を軸方向に複数に有し、各ころ112、114の間に、スラストプレート120、122を介して遊星歯車104に固定された止め輪124が配置されている点は先の実施形態と同様である。
【0069】
この実施形態においても、内輪110の突起部110A、110Bところ112、114との当接部、スラストプレート120、122ところ112、114との当接部の遊星歯車(外歯歯車)104の中心からの距離は、従来の遊星歯車とキャリヤ部材やケーシングとの当接部の(遊星歯車104の公転の中心である)太陽歯車の中心からの距離よりも小さい。このため、内輪110の突起部110A、110Bところ112、114との間の摺動抵抗、あるいは、止め輪124(およびスラストプレート120、122)ところ112、114との間の摺動抵抗は、従来のように、外歯歯車をキャリヤ部材やケーシング部材に当接させて規制する場合に比べて小さい。
【0070】
この結果、小さな摺動抵抗で遊星歯車104の位置規制ができるようになり、単純遊星歯車減速装置G2全体の伝達効率を向上させることができる。
【0071】
特に、単純遊星歯車減速装置G2にあっては、円周方向に不連続に存在する遊星歯車104が公転する構成となることが多いため、それぞれの遊星歯車104を軸方向側部から位置規制する構成は困難を伴うことが多かったが、本発明によれば、遊星歯車の位置規制がキャリヤピン102および軸受B6との関係で完結するため、各部材の配置に関する設計上得られるメリットも大きい。
【0072】
なお、軸に対して軸受を介して外嵌される外歯歯車の適用例としては、遊星歯車減速装置の遊星歯車が代表的な適用例であるが、本発明に係る外歯歯車は、必ずしも遊星歯車減速装置の遊星歯車に限定されない。要するに、軸と、該軸に外嵌される外歯歯車と、軸と外歯歯車の間に配置される軸受と、を有し、該軸受は、その内輪および外輪の少なくとも一方が、前記軸または前記外歯歯車によって兼用されている減速装置ならば、同様に適用可能である。
【0073】
また、先の実施形態においては、本発明をフォークリフトの車輪駆動装置に組み込まれる減速装置に適用していたが、本発明に係る減速装置が組み込まれる駆動装置あるいは機械装置は、フォークリフトの車輪駆動装置に限定されるものではなく、ロボットや工作機械、あるいは搬送機械等、種々の駆動装置あるいは機械装置に適用可能である。
【0074】
また、先の実施形態においては、1つの外歯歯車に対してころ2個が配置されている場合に、1個のみの内輪を組み込むようにしていたが、本発明においては、各ころに対しそれぞれ別々の内輪を組み込むようにしてもよい。これは、外輪のみを有する場合においても同様である。
【符号の説明】
【0075】
B1、B2…軸受
16…入力軸
18、20…偏心体
24、26…外歯歯車
28…内歯歯車
30…ケーシング
60…内輪
62、63…ころ
64…リテーナ
66…止め輪
70、71…スラストプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、該軸に外嵌される外歯歯車と、前記軸と前記外歯歯車の間に配置される軸受と、を有し、該軸受は、その内輪および外輪の少なくとも一方が、前記軸または前記外歯歯車によって兼用されている減速装置であって、
前記軸受の転動体が、前記軸に固定または一体化された第1位置規制部材と、前記外歯歯車に固定または一体化された第2位置規制部材とによって軸方向の移動が規制されることにより、前記外歯歯車の前記軸に対する軸方向の移動が規制されている
ことを特徴とする減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記外輪が前記外歯歯車によって兼用されている
ことを特徴とする減速装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2位置規制部材が、前記外歯歯車に固定された止め輪によって構成されている
ことを特徴とする減速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記転動体を軸方向に複数有し、各転動体間に、前記第1位置規制部材または第2位置規制部材が配置されている
ことを特徴とする減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記軸受は、前記転動体を回転自在に保持するリテーナを備え、
該リテーナは、前記第1位置規制部材または第2位置規制部材の位置規制部と径方向に重なる部分と、それ以外の部分とで外径または内径が異なる
ことを特徴とする減速装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記第1位置規制部材または第2位置規制部材が止め輪によって構成され、かつ、該止め輪と前記転動体との間にスラストプレートが介在されている
ことを特徴とする減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19443(P2013−19443A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152316(P2011−152316)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】