説明

渦流探傷装置

【課題】電気的走査に際して生じる時間ロスを低減し、高速且つ正確に鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥を検査することが可能な渦流探傷装置を提供する。
【解決手段】渦流探傷装置1aに、被検査材に励起磁場を印加することで渦電流を発生させる複数の送信コイル2Aと、発生した渦電流が作る磁場を検出する複数の受信コイル3と、受信コイル3からの検出信号に基づいて被検査体の欠陥を検出する探傷信号処理装置9と、を設ける。複数の受信コイル3を、互いに隣り合うように配置する。その上で、送信コイル2Aによって、受信コイル3を1つずつ取り巻くとともに、隣接する送信コイル2A同士で互いに逆方向を向く励起磁場を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する被検査材に生じさせた渦電流の変化を検出することで、被検査材の表面欠陥などを検知する渦流探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥(表面欠陥)の検査に、渦流式探傷法が採用されている。
渦流式探傷法では、まず交流電流を印可したコイルを被検査材に近接させて、被検査材に渦電流を発生させる。被検査材に割れや絶縁性の異物等の表面欠陥があると、それら欠陥によって被検査材を流れる渦電流の分布が変化する。この渦電流の分布の変化は、当該コイルにおける誘起電圧の変化として検出されるので、この誘起電圧の変動を利用して被検査材の表面皮下を探傷する。
【0003】
この渦流式探傷法には、大きく分けて2つの方法が存在する。1つは、1つのコイルの自己インピーダンスの変化を検出することで探傷する方法である。もう一つは、先の方法におけるコイルの役割を、被検査材に渦電流を発生させる送信コイルと渦電流の分布の変化を検出する受信コイルに分離し、2つのコイルの相互インダクタンスの変化による受信コイルの誘起電圧変化を検出する方法である。
【0004】
渦流式探傷法によって微小な欠陥を検出するには、小型のコイルを採用し、かつ被検査材に近接させることが重要となる。小型のコイルを採用して被検査材の広い範囲を探傷するためには、小型のコイルを広範囲に移動させて機械的に走査する必要があるが、それには膨大な時間を要するという問題があった。この問題を解決するための手段として、小型コイルをアレイ状に配置したマルチコイル式プローブが既に開発されている。
【0005】
このような渦流式探傷法を応用したマルチコイル式プローブに関して、特許文献1及び特許文献2に開示されたものがある。
特許文献1には、渦流探傷装置のマルチコイル式プローブが開示されている。このマルチコイル式プローブは、電源回路と制御部を内蔵した探傷装置本体にケーブルによって接続されたマルチプレクサ基板と、このマルチプレクサ基板に電気的に接続された複数の探傷コイルと、を備え、前記探傷コイルの単体、若しくは、その幾つかを一セットにしたコイル群が前記マルチプレクサ基板を介して時分割駆動される渦流探傷装置のマルチコイル式プローブにおいて、前記マルチプレクサ基板が一体に組付けられた支持母材を設けると共に、前記複数の探傷コイルとその探傷コイルを結線したコイル基板とが一体に組付けられた複数のコイルユニットを設け、この複数のコイルユニットのコイル基板の任意の一つが、前記支持母材のマルチプレクサ基板に選択的に接続される構造としたことを特徴とするものである。
【0006】
このようなマルチコイル式プローブとして、例えば、微小な探傷コイルを複数個、2列に配列して構成されたものが開示されている。2列のコイル配列は、探傷コイルのピッチの半分だけ配列方向にずらして平行となるように構成されており、配列方向におけるコイル間の隙間を相互に補完している。2列に配列された複数の探傷コイルから、マルチプレクサ基板によってブロックごとに順番に2個ずつ選択され、選択された2つの探傷コイルの差動をとることで探傷が行われる。
【0007】
この技術によれば、マルチプレクサ基板による選択を、探傷コイルの配列方向に切り換えると共に、このマルチコイル式プローブを、探傷コイルの配列方向と直交した方向に走査することで、2次元平面全体を探傷することが出来るとされている。
また、特許文献2には、渦流探傷装置のプローブバランス調整方法が開示されている。このプローブバランス調整方法における渦流探傷装置は、マルチコイルと発振器の間と、マルチコイルと同期検波器の間のそれぞれに、スイッチが設けられている。このスイッチによって、マルチコイルの中から時系列的に適切なコイルを切り替えて選択できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−337909号公報
【特許文献2】特開平9−133653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2に開示されるようなマルチコイル式プローブは、複数の小型コイルを時系列で切り替えて探傷を行うものである。複数の小型コイルを用いることにより、小型のコイルを被検査材の表面で広範囲に移動させるといった機械的走査はなくなるが、コイルの切り替え(電気的走査)に伴う時間的なロスが無視できなくなる。この時間的なロスは、配列されるコイルの数が多くなるほど大きくなる。
【0010】
微少な欠陥を探傷すべく小型コイルを採用する場合、プローブに設けられるコイルの個数が必然的に多くなるので、全コイルの切り替えに要する時間が長くなる。加えて、このプローブを機械的に移動させて被検査材の表面を探傷する場合、全コイルの切り替えに要する時間内には、小型コイルのサイズ以上にプローブを機械的に移動させることができないので、小型コイルのサイズに合わせてプローブの送りピッチが微小となる。
【0011】
上述の電気的走査の速度を決定する要因(律速)としては、以下のものがあると考えられている。
(1)被検査材内の渦電流が定常化するまでの時間ロス(被検査材に発生する渦電流が、表層から浸透し始めて深部にまで広がっていくのに要する時間)。
(2)複数の探傷コイルを切り替える切り替え器(マルチプレクサ)が定常化するまでの時間ロス。
【0012】
(3)探傷コイルの受信出力を送信出力に同期させて検波する同期検波出力が定常化するまでの時間ロス(キャリア周波数の10〜50倍)。例えば100kHzでの探傷の場合、0.01msec〜0.05msec程度の時間ロスが発生する。
(4)A/D変換に要する時間ロス、及び探傷コイルの受信出力をA/D変換器で処理するのに要する時間ロス。
【0013】
上記の内、(2)、(4)に挙げた要因で発生する時間ロスは、昨今の電子デバイスの進歩により、十分に高速なデバイスを選択する事で十分回避可能である。しかし、(1)に挙げた要因で発生する時間ロスは、そもそも渦流探傷の原理上から発生する物理現象であり、(3)に挙げた要因で発生する時間ロスは、電気信号処理の原理上の制約であるので、不可避であると考えられる。特許文献1および特許文献2によっても、(1)、(3)に挙げた要因で発生する時間ロスを回避する技術は開示されていない。
【0014】
上述の問題に鑑みて、本発明は、小型コイルをアレイ状に配置したマルチコイル式渦流探傷プローブを有する渦流探傷装置において、電気的走査に際して生じる時間ロス(特に、上記した要因(1),(3)に起因する時間ロス)を低減し、高速に且つ正確に鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥を検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係る渦流探傷装置は、被検査材に励起磁場を印加することで渦電流を発生させる複数の送信コイルと、前記発生した渦電流が作る磁場を検出する複数の受信コイルと、前記受信コイルからの検出信号に基づいて前記被検査体の欠陥を検出する探傷信号処理装置と、を備える渦流探傷装置であって、前記複数の受信コイルが、互いに隣り合うように配置され、前記送信コイルは、前記受信コイルを1つずつ取り巻くとともに、隣接する送信コイル同士で互いに逆方向を向く励起磁場を形成することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る渦流探傷装置は、被検査材に励起磁場を印加することで渦電流を発生させる複数の送信コイルと、前記発生した渦電流が作る磁場を検出する複数の受信コイルと、前記受信コイルからの検出信号に基づいて前記被検査体の欠陥を検出する探傷信号処理装置と、を備える渦流探傷装置であって、前記複数の受信コイルが、互いに隣り合うように配置され、前記送信コイルは、前記受信コイルを1つずつ取り巻くとともに、隣り合う送信コイル同士の隣接する部位において、同方向に電流を流すことを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記複数の送信コイルは、電気的に1本の導体と見なせる線状の導体によって1つの送信コイル体として構成されており、前記線状の導体は、隣り合う2つの受信コイルの間を交差するように巻回方向を反転させながら、八の字状に掛け渡されて巻回されているとよい。
ここで、好ましくは、前記複数の受信コイルは、一列に直線状に配置されているとよい。
【0018】
さらに、好ましくは、前記複数の受信コイルからの検出信号は、マルチプレクサにて切り換えられて、探傷信号処理装置へ出力されるとよい。
また、好ましくは、前記複数の受信コイルからの検出信号は、アナログ加算器によって加算されて、探傷信号処理装置へ出力されるとよい。
加えて、好ましくは、前記受信コイルは、第1コイル及び第2コイルの2つのコイルを有しているとよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のマルチコイル式渦流探傷プローブを有する渦流探傷装置を用いれば、電気的走査に際して生じる時間ロスを低減し、高速に且つ正確に鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥を検査することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】マルチコイル式プローブをセンサ面から見たときの斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による渦流探傷装置の概略構成を示す図である。
【図3】受信コイルの概略構成を示す図である。
【図4】マルチコイル式プローブのセンサ面の正面図である。
【図5】本発明の第2実施形態による渦流探傷装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。なお、以下の説明では、同一の構成要素には同一の符号を付している。また、同一の構成要素に関しては、名称も機能も同じである。したがって、同一のものについての詳細な説明は繰返さない。
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による渦流探傷装置1aについて説明する。
【0022】
本実施形態による渦流探傷装置1aは、渦流式探傷法を用いて、鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥(表面欠陥)を検査するものである。渦流探傷装置1aは、渦流式探傷法を適用するために、被検査材に励起磁場を印加することで渦電流を発生させる送信コイル体2と、被検査材を流れる渦電流が作る磁場の分布の変化を検出する複数の受信コイル3(3−1〜3−n)と、を含むマルチコイル式プローブ4を有している。
【0023】
渦流探傷装置1aは、マルチコイル式プローブ4を被検査材に近付けることで、交流電流が印可された送信コイル体2を被検査材に近接させて、被検査材に渦電流を発生させる。このとき、被検査材に割れや絶縁性の異物等の表面欠陥があると、それら欠陥によって被検査材を流れる渦電流の分布が変化する。この渦電流の分布の変化を受けて、受信コイル3における誘起電圧(言い換えるならば、インピーダンス)が変化する。
【0024】
図2に示すように、渦流探傷装置1aは、受信コイル3における誘起電圧の変動を検出して被検査材の表面皮下の欠陥を検知するために、2系統マルチプレクサ5(以下、単にマルチプレクサ5という)、ブリッジ回路6、同期検波器7、A/D変換器8、及び探傷信号処理装置9を備えると共に、送信コイル体2に交流電流を印可するための発振器10及び励磁アンプ11を備えている。
【0025】
まず、マルチコイル式プローブ4の構成を説明する。
図1は、マルチコイル式プローブ4をセンサ面12から見たときの斜視図である。マルチコイル式プローブ4のセンサ面12には、一列に直線状に配置された複数の受信コイル3と、これら受信コイル3を1つずつ取り巻く送信コイル2A(2A1〜2An)が複数連なって形成される送信コイル体2とで構成される直線状のコイルアレイ13が2列設けられている。
【0026】
2列のコイルアレイ13は、その長手方向が互いに略平行(平行を含む)となるように配置されている。このとき、コイルアレイ13の長手方向に沿った1つの送信コイル2Aの幅を1ピッチとすると、2列のコイルアレイ13は、長手方向に沿って互いに半ピッチずれるように配置されている。
以下に、コイルアレイ13を構成する受信コイル3及び送信コイル2Aについて説明する。
【0027】
図3を参照しながら、受信コイル3の構成について説明する。
受信コイル3(3−1)は、第1コイルA(A1)と第2コイルB(B1)の2つのコイルで構成されたコイル対である。同一形状を有する第1コイルAと第2コイルBは、互いに近接して隣り合うように配置されており、巻回される導体の巻径及び巻数が同一である。第1コイルAと第2コイルBは、互いの軸芯が略平行(平行を含む)で被検査材を向くものとし、互いのコイル端面を同一水平面上で揃えて配置されている。
【0028】
図3に示すように、第1コイルA及び第2コイルBは、差動型となるように接続され、接続された端子は接地している(例えば、第1コイルAの一方端と第2コイルBの他方端が接地されている)。接地していない残りの入力端及び出力端は、後述するマルチプレクサ5に接続される。
このような構成によって、第1コイルAと第2コイルBは、互いのコイル端面に対して同じ方向で同じ大きさの磁場変化が起こったときに、互いに逆方向に同じ大きさの電圧を発生する。つまり、被検査材の表面に均一な渦電流が流れている限り、第1コイルAと第2コイルBは互いに逆方向に同じ大きさの電圧を発生させて打ち消しあうので、受信コイル3全体としての出力(言い換えれば、インピーダンス)は、実効的に0となる。
【0029】
ところで、被検査材の表面欠陥の検査中は、被検査材の振動などにより、被検査材から受信コイル3までの距離(リフトオフ量)が変動する可能性がある。このリフトオフ量の変動は、受信コイル3を流れる誘導電圧値を変動させるので、受信コイル3が出力する検出信号中のノイズ要因となる。しかし、この場合においても、第1コイルAと第2コイルBは近接しているので、リフトオフ量の変動は、第1コイルA及び第2コイルBに対して等しく影響を及ぼす。よって、リフトオフ量の変動に起因して起こる第1コイルA及び第2コイルBにおける電圧値の変動は、等しくなって互いに打ち消し合うため、受信コイル3が出力する検出信号中にはほとんど含まれない。
【0030】
ここで、検出すべき欠陥は小さなものであって、被検査材に局所的に存在するので、当該小さな欠陥による渦電流の変動は、第1コイルA及び第2コイルBの両方に等しくではなく、いずれか一方に偏って強く影響を及ぼす。よって、受信コイル3は、第1コイルAと第2コイルBの差動をとった検出信号を出力することで、リフトオフ量の変動に起因するノイズ要因をキャンセルする構成となっている。
【0031】
図1、図4に示すように、コイルアレイ13において、上述の第1コイルAと第2コイルBのコイル対である受信コイル3が複数個、一列に直線状に配置されている。
図1、図4を参照しながら、送信コイル2A及び送信コイル体2の構成について説明する。
図1、図4には、マルチコイル式プローブ4の筐体における受信コイル3と送信コイル2Aの配置が示されている。図1に示すコイルアレイ13では、一列に直線状に配置された複数個の受信コイル3を1つずつ取り巻く送信コイル2Aで構成された送信コイル体2が設けられている。送信コイル体2は、電気的に1本の導体と見なせる線状の導体である。
【0032】
送信コイル体2は、複数の受信コイル3を1つずつ取り巻いているが、その取り巻き方が、本実施形態によるマルチコイル式プローブ4の1つの特徴である。複数の受信コイル3を1本の導体である送信コイル体2によって1つずつ取り巻く巻回方法を説明する。
図4の上段のコイルアレイ13を参照して説明する。矢印で示すように、交流の発信器10から励磁アンプ11を介して出た導体は、コイルアレイ13の一端から他端に向かって、第1コイルAと第2コイルBのコイル対である複数個の受信コイル3の間を、ジグザグに縫うように八の字状に掛け渡されて交差しつつ巻回されている。受信コイル3の間において、第1コイルA側から隣の受信コイル3の第2コイルB側へ向かって交差すると、次の受信コイル3の間では、第2コイルB側から隣の受信コイル3の第1コイルA側へ向かって交差するといったように、受信コイル3の間を交差する方向(巻回方向)を反転させている。
【0033】
導体は、コイルアレイ13の他端まで巻回されると、他端に配置された受信コイル3の回りを取り囲むように折り返される。折り返された導体は、巻回方向がコイルアレイ13の他端から一端に向かうように変更される。折り返された導体は、同様の方法で、コイルアレイ13の一端から他端に向かって、受信コイル3の間をジグザグに縫うように交差しつつ巻回されて、発信器10に戻る。このように導体を巻回することで、折り返される前の導体と折り返された導体が、受信コイル3の間で交差する。加えて、導体は、コイルアレイ13の一端側と発信器10との間でも交差するように巻回されている。
【0034】
このように1本の導体を巻回することで、各受信コイル3を取り囲む送信コイル2Aが形成されると共に、形成された複数の送信コイル2Aが連なった送信コイル体2が構成される。
交流の発信器10から送信コイル体2に出力された電流は、ある時点において矢印で示された方向に流れる。つまり、受信コイル3の間で交差する2本の導体に流れる電流の方向が同一方向であり、図4の紙面に向かって上向き又は下向きとなっている。これは、2本の導体が交差する点、すなわち、隣り合う送信コイル2A同士の隣接する部位において、電流が同方向に流れることを示している。
【0035】
隣り合う送信コイル2A同士の隣接する部位において電流が同方向に流れると、互いの電流によって発生する磁場が同方向を向くので、隣接する送信コイル2A同士で互いに逆方向を向く励起磁場が形成される。従って、隣り合う送信コイル2Aが作る磁場が相互に打ち消し合うことなく、送信コイル2Aの1つ1つで励磁磁場が発生する。このように、隣接する送信コイル2Aの間で互いに打ち消されることなく励磁磁場を発生させることのできる送信コイル体2であれば、被検査材の検査中に、交流電流を印加する送信コイル2Aを切り替える必要が無く、全ての送信コイル2Aに常時交流電流を流して励磁磁場を発生させ続けることができる。
【0036】
よって、交流電流を印加する送信コイル2Aを切り替える度に発生する被検査材内の渦電流が定常化するまでの時間ロスを排除することができ、探傷検査の時間を短縮することができる。
なお、上記の説明では、一列に直線状に配置された複数個の受信コイル3に対して、導体を1回(一重)だけ巻回して送信コイル体2を構成したが、2回又は3回(二重又は三重))、もしくはそれ以上に巻回して送信コイル体2を構成してもよい。
【0037】
また、マルチコイル式プローブ4は、上述の受信コイル3及び送信コイル2Aで構成されたコイルアレイ13を備えており、図2に示すコイルアレイ13以外の構成要素は、マルチコイル式プローブ4の筐体外に設けられている。
また、上述した交流の発振器10は、交流をつくるために周期的な信号を発生させる回路であり、一般的な電気回路で用いられる公知のものである。また、励磁アンプ11は、発信器10から出力された周期信号を基に、励磁電流を送信コイル体2に出力する回路であり、発振器10と同様に公知のものである。
【0038】
ところで、本実施形態の場合、前述した複数の受信コイル3は、2系統マルチプレクサ5(以下、単にマルチプレクサ5という)に接続されている。
マルチプレクサ5は、後述する探傷信号処理装置9から出力された切替信号に基づいて、第1コイルA1〜第1コイルAnの入力を順次切り替えて順に出力Aとして出力すると共に、第2コイルB1〜第2コイルBnの入力を順次切り替えて順に出力Bとして出力する電子部品回路である。すなわち、マルチプレクサ5は、第1コイルA1〜第1コイルAnの入力と第2コイルB1〜第2コイルBnの入力の2系統の入力を切り替えてそれぞれ出力可能となっている。
【0039】
これら2系統の入力の切り替えは、独立に行われるものではなく、互いに連動して行われる。つまり、切り替えは、受信コイル3単位で行われ、同一の受信コイル3を構成する第1コイルAと第2コイルBの入力がマルチプレクサ5の出力A及び出力Bとして出力される。具体的には、第1コイルA1と第2コイルB1の入力、第1コイルA2と第2コイルB2の入力、第1コイルA3と第2コイルB3の入力といったように、受信コイル3単位で第1コイルAと第2コイルBの入力がマルチプレクサ5の出力A及び出力Bとして出力される。
【0040】
マルチプレクサ5の出力A及び出力Bは、ブリッジ回路6に入力される。
このブリッジ回路6にて、出力Aと出力Bとの差、言い換えるならば、受信コイル3の微細なインピーダンス変化を取り出すようにしている。
すなわち、被検査材の正常部分においては、第1コイルAと第2コイルBの出力の差が略0であり、ブリッジ回路6の平衡バランスがとれていてその出力電圧は略0である。ところが、表面傷が存在した場合、第1コイルAと第2コイルBの出力の差が発生すると共にブリッジ回路6の平衡バランスが崩れ、ブリッジ回路6から所定の電圧値が出力される。
【0041】
図2に示す同期検波器7は、ブリッジ回路6からの出力された信号(電圧値)を受け取ると共に、発信器10から出力された同期信号を受信して、ブリッジ回路6からの出力のうち受信した同期信号に同期した成分のみを取り出して出力する回路である。
本実施形態で採用される同期検波器7は、一般にラジオの受信機などで用いられる同期検波回路と同様の構成及び機能を有する回路であって、公知のものである。同期検波器7では、発信器10からの同期信号に同期した成分のみを取り出すので、渦流探傷装置1aの外部から混入するランダムノイズ成分が除去されて、出力する信号のS/N比が向上する。
【0042】
同期検波器7は、ブリッジ回路6から受け取った信号の中から、同期信号と同相のX信号と、X信号とは90度位相が異なるY信号の2つの信号が、出力X及び出力Yとして出力される。
A/D変換器8は、アナログ信号をデジタル信号に変換する公知の回路である。A/D変換器8は、同期検波器7から出力されたアナログ信号である出力X及び出力Yを受信して、それぞれをデジタル信号に変換して出力する。
【0043】
探傷信号処理装置9は、例えばパソコンなどで構成されるCPUを備えた情報処理装置であって、受信コイル3からの検出信号に基づいて被検査体の欠陥を検出する装置である。
探傷信号処理装置9は、マルチプレクサ5に切替信号を出力して信号を取り出す受信コイル3を選択すると共に、選択した受信コイル3からの信号がブリッジ回路6及び同期検波器7を経てA/D変換器8から出力された結果であるデジタル信号を受信する。
【0044】
このデジタル信号における出力X及び出力Yの信号レベルを基に、被検査材に欠陥が存在するか否かを判定する。この欠陥の判定では、出力X及び出力Yの信号レベルを単純に比較するだけでなく、ある位相における出力X及び出力Yの信号レベルの比率や、各信号の時間的な連続性の変化などを加味して、欠陥の存在が判定される。この判定方法は、従来から一般的に行われている方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。
【0045】
上述の通り、探傷信号処理装置9が信号を取り出す受信コイル3を選択するので、コイルアレイ13の受信コイル3を連続的に切り替えても、欠陥を検出した受信コイル3を容易に特定することができる。これによって、被検査材上での欠陥の位置を正確に検知することができる。
図2に戻って、上述のコイルアレイ13を1つ設けることでマルチコイル式プローブ4を構成することができる。また、マルチコイル式プローブ4に対して、1つのコイルアレイ13の送信コイル体2に発信器10及び励磁アンプ11を接続し、該コイルアレイ13の複数の受信コイル3にマルチプレクサ5以下の回路及び装置を接続することで本実施形態による渦流探傷装置1aが構成される。
【0046】
なお、図2において、マルチコイル式プローブ4はコイルアレイ13を1つしか有していないが、図1に示すとおり、コイルアレイ13を2つ(2列)備えるようにマルチコイル式プローブ4を構成することもできる。
図1及び図4に示すように、コイルアレイ13を2列備える場合は、コイルアレイ13の長手方向に沿った1つの送信コイル2Aの幅を1ピッチとして、2列のコイルアレイ13は、長手方向に沿って互いに半ピッチずれるように配置されている。2列のコイルアレイ13は、電磁気的な干渉が発生しない程度に適切な間隔をおいて配置される。
【0047】
図4に示すとおり、このような2列配置を採れば、マルチコイル式プローブ4を、コイルアレイ13の長手方向に対して略垂直(垂直を含む)となる方向(図中、通材方向として矢印で示す方向)に移動させることで、一方のコイルアレイ13の隣り合う受信コイル3の間に存在する欠陥であって、両受信コイル3で検出できない欠陥を、もう一方のコイルアレイ13の受信コイル3で検出することができる。
【0048】
つまり、図1及び図4に示す2つのコイルアレイ13を備えたマルチコイル式プローブ4は、一方のコイルアレイ13の受信コイル3の間に存在する探傷不能領域を、他方のコイルアレイ13の受信コイル3がカバーする構成を有している。
以上述べた構成のマルチコイル式プローブ4を有する渦流探傷装置1aを用いれば、被検査材内の渦電流が定常化するまでの時間ロスなどの電気的走査に際して生じる時間ロスを低減し、高速に且つ正確に鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥を一度で広範囲に検査することが可能となる。
(第2実施形態)
図5を参照しながら、本発明の第2実施形態による渦流探傷装置1bについて説明する。
【0049】
本実施形態による渦流探傷装置1bは、図2に示す第1実施形態による渦流探傷装置1aと類似の構成を有している。本実施形態による渦流探傷装置1bは、図2の渦流探傷装置1aから2系統マルチプレクサ5を廃し、その代わりに、受信コイル3からの出力の全てを加算し出力するアナログ加算器15を備えたものである。
詳しくは、受信コイル3の第1コイルA及び第2コイルBからの出力は、ブリッジアンプ14(14−1〜14−n)に入力される。ブリッジアンプ14は第1実施形態で述べたブリッジ回路6と同様の働きをするものであり、ブリッジ回路から出力される信号を増幅するアンプ回路も備えている。
【0050】
このブリッジアンプ14は、各受信コイル3毎、言い換えれば(第1コイルA1・第2コイルB1)〜(第1コイルAn・第2コイルBn)のそれぞれに設けられている。
これら各ブリッジアンプ14からの出力は、1つのアナログ加算器15に入力される。
アナログ加算器15としては、一般的な電気回路で用いられる公知のものが採用されており、加算したアナログ信号は、同期検波器7に出力される。このアナログ信号からの出力中には、複数の受信コイル3(3−1〜3−n)の少なくとも1つ以上が検出した表面欠陥に起因する信号が含まれるものとなっている。
【0051】
同期検波器7以降は、第1実施形態による渦流探傷装置1aと同様の動作により欠陥の検出が行われる。本実施形態による渦流探傷装置1bでは、受信コイル3の切り替え機能を備えていないため欠陥の位置を正確に検出することは難しいものの、マルチプレクサ5の切替動作に要する時間が必要でなくなるため、その分だけ探傷検査の時間を短縮することができる。
【0052】
以上述べた、第2実施形態による渦流探傷装置1bを用いれば、常時励磁可能な送信コイル体2を実現できると共に、受信コイル3の切り替えに要する時間ロスを排除することができる。当然ながら、第2実施形態による渦流探傷装置1bを用いることで、高速に且つ正確に鋼材など導電性被検査材の表面皮下に存在する欠陥を一度で広範囲に検査することが可能となる。
【0053】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0054】
例えば、コイルアレイ13では、複数の受信コイル3が一列に直線状に配置されているが、複数の受信コイル3は、一列や直線状に限らず、湾曲した弧を描くように配置されていてもよい。複数の受信コイル3は、隣り合いつつ連続的に配置されていれば、被検査材の形状や渦流探傷装置1a,1bが設置される環境に応じて様々に配列することができる。
【符号の説明】
【0055】
1a,1b 渦流探傷装置
2 送信コイル体
2A 送信コイル
3 受信コイル
4 マルチコイル式プローブ
5 2系統マルチプレクサ
6 ブリッジ回路
7 同期検波器
8 A/D変換器
9 探傷信号処理装置
10 発振器
11 励磁アンプ
12 センサ面
13 コイルアレイ
14 ブリッジアンプ
15 アナログ加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査材に励起磁場を印加することで渦電流を発生させる複数の送信コイルと、前記発生した渦電流が作る磁場を検出する複数の受信コイルと、前記受信コイルからの検出信号に基づいて前記被検査体の欠陥を検出する探傷信号処理装置と、を備える渦流探傷装置であって、
前記複数の受信コイルが、互いに隣り合うように配置され、
前記送信コイルは、前記受信コイルを1つずつ取り巻くとともに、隣接する送信コイル同士で互いに逆方向を向く励起磁場を形成することを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項2】
被検査材に励起磁場を印加することで渦電流を発生させる複数の送信コイルと、前記発生した渦電流が作る磁場を検出する複数の受信コイルと、前記受信コイルからの検出信号に基づいて前記被検査体の欠陥を検出する探傷信号処理装置と、を備える渦流探傷装置であって、
前記複数の受信コイルが、互いに隣り合うように配置され、
前記送信コイルは、前記受信コイルを1つずつ取り巻くとともに、隣り合う送信コイル同士の隣接する部位において、同方向に電流を流すことを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項3】
前記複数の送信コイルは、電気的に1本の導体と見なせる線状の導体によって1つの送信コイル体として構成されており、
前記線状の導体は、隣り合う2つの受信コイルの間を交差するように巻回方向を反転させながら、八の字状に掛け渡されて巻回されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の渦流探傷装置。
【請求項4】
前記複数の受信コイルは、一列に直線状に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の渦流探傷装置。
【請求項5】
前記複数の受信コイルからの検出信号は、マルチプレクサにて切り換えられて、探傷信号処理装置へ出力されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の渦流探傷装置。
【請求項6】
前記複数の受信コイルからの検出信号は、アナログ加算器によって加算されて、探傷信号処理装置へ出力されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の渦流探傷装置。
【請求項7】
前記受信コイルは、第1コイル及び第2コイルの2つのコイルを有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の渦流探傷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−242358(P2012−242358A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116022(P2011−116022)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】