説明

渦発生防止装置を備えた水中ポンプ

【課題】低水位運転を可能とし、水中渦の発生を抑制する渦発生防止装置を備えた水中ポンプの提供。
【解決手段】水路の水門の扉体5に設置され、水路の一方からの流水を吸込み水路の他方へ流水を排水させる水中ポンプ7の吸込口9下部近傍に、流水の渦発生を防止するための渦発生防止部材10を設けた。この渦発生防止部材10は合成ゴム材で流水方向を変えられるとともに両面の圧力差により先端部が弾性変形する。又、水中ポンプ7は傾斜させて設置し、吸込口9上部にはカバー8を設け、このカバー8にはサイドフィン11を取り付け、低水位のポンプ運転を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸込口近傍に渦発生を防止する渦発生防止装置を備え、河川等の水路の水門の扉体に設置される水中ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
治水等の目的で河川等の水路には多くの水門が設けられている。この水門には排水口があり、水中ポンプを有するゲートが備えられていることが多い。ゲートに水中ポンプが直接配置されているが、この水中ポンプはゲートが閉じたとき水路の流水を強制的に排水するためのものである。この水中ポンプは種々のタイプがあり、同一出願人もゲートポンプ(本出願人の登録商標)として種々提案している。
【0003】
この水中ポンプは主にポンプ回転軸を設置する向きによって種類が異なり、横軸タイプ(形式)のものと立軸タイプ(形式)のものがある。又、水中ポンプの吸込み性能を向上させるためには、吸込み口をできるだけ河床(又は水路底)に近く設置しなければならない。水中ポンプは、水路側の事情で水位が低下した場合に水中ポンプの必要没入深さを確保できないと、空気吸込み渦、水中渦、旋回流等が発生し、水の吸込みが悪くなる。これらの空気吸込み渦、水中渦、旋回流は揚水量低下、キャビテーション、揚程低下などを生じ、水中ポンプの性能低下や騒音、振動、軸受の磨耗、損傷、羽根の壊食などの機械的問題を引き起こす。
【0004】
従って、これらの問題点を回避するため、連続的な渦の吸込みが起きないように一般的にポンプ口径に対する最適な水位設置条件を決めている。水路底面隙間や没水深が適正値であれば、掘り込み等をしないで低い水位まで運転は可能である。又、横軸タイプの水中ポンプについては、水中ポンプ上の水面側で空気吸込み渦が発生しやすく、これを回避するため、水中ポンプ取り付け高さや必要没水深さの推奨値が決められている。さらに必要水位を下げ低水位運転を可能とする努力がなされている。
【0005】
これらを解決する水中ポンプ(ゲートポンプ)の設備として、横軸タイプのものであると、例えば特許文献1、2でゲートポンプのポンプ回転軸を傾斜させて設置し低水位運転可能とする構成のものが提案されている。これはゲートポンプのポンプ回転軸(羽根車軸)を傾斜させ、吸込み口を水路底に近づける構成のものとして知られている。特に特許文献1は同一出願人の出願になるものであるが、ゲートポンプ吸込み口の水面側縁部流入方向に突出したカバーを設けて空気吸込み渦の発生を防止する対策が施されている。また、ガイドケーシングの吸込み口流水通過断面積を前記ガイドケーシング内孔断面積より広くしてくぼみ渦が空気吸込み渦に成長しにくくしていることも記載されている。
【0006】
又、ポンプ吸い込み口が先端側開口部に向かって径が大きくなるテーパ形状の筒状部材から構成され、先端側開口部を上端部が下端部よりも先端側に突き出すように傾斜させるとともに、先端側開口部にバッフル、下部垂直バッフル及び、上部垂直バッフルを備えたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。更に、吸込口に設けられるカバーの吸込み開口面積をポンプの吸込み部開口面積より大きくした上で、吸入口カバーの下壁又は側壁に開孔部を形成して渦流の発生を防止する構成にしたものも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2002−021050号公報
【特許文献2】特開2003−055946号公報
【特許文献3】特開2005−002876号公報
【特許文献4】特開2004−360503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空気吸込み渦の発生を抑制するため、必要水位を最低限確保することで、水中ポンプの設置は可能であり、従来からもそれなりの対応策は講じられている。しかし、水中ポンプにおいて水流対象のものは必ずしも方向が一定な正流だけのものではなく、又、水面に近い水流のみを対象とするものではない。水中ポンプの外側を通過して流れる流水は水路の側壁や扉体にぶつかり向きを変えてすなわち反転し逆流する。この逆流した流水が水中ポンプの吸込口近傍で正流と合流しポンプ吸込口から吸込まれる。
【0008】
このときに流れの条件によって水中渦を発生させる。この水中渦は水流が早い場合、水圧の高い場合等の悪い条件が重なった場合に発生しやすい。この水中渦はポンプに取り込まれると、水中ポンプの性能低下を招き、騒音、振動、軸受の磨耗、損傷、ポンプ羽根の壊食等の機械的不具合をもたらす。この水中渦は、水路内において水中ポンプの前部側から流入する正流の流水に対して、水路壁や扉体で反転して水中ポンプの後部側から流入する流水が境界部分で衝突等することによって発生する。
【0009】
即ち、吸込口の外側を流れる流水は水路壁や扉体により反転され逆流の形で吸込口近傍にもたらされ、正流と合流して吸込口に取り込まれる。このとき水中ポンプに沿って後部側から逆流する流れは正流に対し略180度の異なる方向に流れて、境界部分C(図11参照)で正流とぶつかる。このとき相互の流れは急激に流れの方向を変え抑制され、即ちUターンして流れの方向を変えることになり、流れの勢いが大きいと相互間に局部的に負圧が生じ水中渦が発生するのである。
【0010】
前述の従来の技術でこの水中渦を解消するものは開示されていない。例えば特許文献1、2に示されているものは水中ポンプの吸込口をなるべく水路底に近づける技術であり、水中渦を積極的に解消するものではない。この対策を施しても、低水位になると、流速が早くなり、空気吸込み渦は発生する。このようにポンプを傾斜させても設置構成には限界があり、水中渦を解消することはできず、完全とは言い難い。
【0011】
又、前述の特許文献3に示されている技術は、下部垂直バッフルは河床に土砂の堆積等の障害物があれば、下部垂直バッフルが干渉して扉体の全閉動作に支障をきたし、渦発生防止が不完全である上、渦発生以外の問題点も生じることになる。更に、前述の特許文献4には、吸込口カバーの下壁又は側壁に開孔部を形成してこの開口孔から逆流に相当する流水を吸込み正流と合流させるものであるが、しかしこの方法も極めて限られた空間から限られた流水を取り込むことになり、吸込口からの逆流取り込みを緩和するに過ぎず根本的な解決策とは言い難い。吸込口からの逆流による問題点は解消されていない。吸込口内で合流したときにスムースに渦が発生せず正流に合流されるとは限らない。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点を解決するために開発されたもので、特に、前述の特許文献1の技術を発展改良させたものであり、次の目的を達成する。
本発明の目的は、ポンプの吸込口に渦発生防止部材を設けて水中渦を積極的にその発生を防止するようにして、さらなる低水位運転を可能とし、低水位運転時においても水中ポンプのスムースな運転動作を確保するようにした渦発生防止装置を備えた水中ポンプの提供にある。本発明の他の目的は、渦発生防止装置を簡素な構成にして、既存の水中ポンプにも取り付け可能とし、コスト低減を図った渦発生防止装置を備えた水中ポンプの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、水路の水門の扉体に設置され前記水路の一方からの流水を吸込み前記水路の他方へ流水を排水する水中ポンプであって、前記水中ポンプの吸込口下部近傍から吸込まれる流水の渦発生を防止するため、前記水中ポンプの後部側から回り込む流水の流れの方向を変換可能な渦発生防止部材を、前記吸込口下部近傍に設けたことを特徴とする。
【0014】
本発明2の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明1において、前記水中ポンプは、横軸タイプの水中ポンプであって、水平軸に対し回転軸が所定角度傾斜して前記水門の扉体に設置可能なものであり、ポンプ運転可能な最低水位を前記水中ポンプのポンプ口径より小さい所定の数値にできることを特徴とする。
【0015】
本発明3の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明1において、前記水中ポンプは、横軸タイプの水中ポンプであって前記吸込口上部にカバーを設けたことを特徴とする。
【0016】
本発明4の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明1において、前記吸込口に設けられるカバーの吸込口面積はポンプ内吸込口面積より大きく構成していることを特徴とする。
【0017】
本発明5の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明1において、前記渦発生防止
部材は、前記水路の流水の流れに略対向する方向に先端を向け、断面視略L字形状で且つ弾性変形可能なものであることを特徴とする。
【0018】
本発明6の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明1において、前記渦発生防止部材は、前記水路の流水の流れに略対向する方向に先端を向け、断面視曲線形状で且つ弾性変形可能なものであることを特徴とする。
【0019】
本発明7の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明1において、前記渦発生防止部材は、前記水路の流水の流れに略対向する方向に先端を向け、断面視略L字形状の部材が揺動可能になっているものであることを特徴とする。
【0020】
本発明8の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明3において、前記カバーの縁部に所定幅を有する縁材を設けたことを特徴とする。
【0021】
本発明9の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明5又は6において、前記渦発生防止部材は、合成ゴム材で形成されたものであることを特徴とする。
【0022】
本発明10の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明5又は6において、前記渦発生防止部材は、プラスチック材で形成されたものであることを特徴とする。
【0023】
本発明11の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、本発明5又は6において、前記渦発生防止部材は、板ばね材で形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の渦発生防止装置を備えた水中ポンプは、渦発生防止部材を設けたことにより、渦のないあるいは渦発生の抑制された水中ポンプの運転が可能となったので、スムースで安定した流水の吸込みでの運転となり、水中ポンプの運転効率を向上させることができた。又、従来の水中ポンプに比べ、より一層の低水位運転を可能とすることができた。更に、簡素な構成にしたので、機能向上に比し低コストの水中ポンプとすることができた。
又、渦発生防止部材を弾性変形可能なものとしたことで、扉体を全閉側に下降させるとき、河床に土砂の堆積物等の障害物があっても、渦発生防止部材の弾性変形により水中ポンプを構成する部品の損傷を回避でき、扉体を全閉状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明による渦発生防止装置を備えた水中ポンプの実施の形態を図にもとづき、詳細に説明する。本実施の形態においての水中ポンプは横軸タイプのものである。図1は、水中ポンプ(以下、「ゲートポンプ」という。)を設置した扉体を有する水門構成設備の側面断面図である。この水門3は、通常支川側水路1と本川側水路2の境界部に設けられ、流水は矢印のように流れる。図1の状態は、扉体5が下降し全閉の状態である。
【0026】
この水門3は、コンクリートで構成され、下部が排水口4になっていて、扉体5(ゲートともいう)がこの排水口4を開閉する構成になっている。水門3の上部には、扉体5を開閉するための開閉機6が取り付けられている。又、詳細は図示していないが水門3の両側には、上下方向に扉体5用の案内ガイドが設けられている。この案内ガイドは溝を有する鋼板で、水門3のコンクリートに埋設されている。
【0027】
一方、扉体5は略四角形状で、排水口4を覆う状態で設置され、水門の両側に配置された案内ガイドに案内され上下動する。他方、扉体5の下部にはゲートポンプ7が設けられている。このゲートポンプ7は横軸タイプのもので、ポンプの回転軸の軸線を吸込口側に傾斜させて設置し、吸込口を河床(又は水路底)に近い位置になるようにしている。ゲートポンプ7の基本構成については、同一出願人の出願になる前述の特許文献1に詳述されているので、構成上の詳細説明は省略する。
ゲートポンプ7は、扉体5が下がり排水口4を閉じたとき、水路の流水を強制的に排水するための水中ポンプで、流水はゲートポンプ7内を通過する。強制排水時には、扉体5を図のように閉じて水路を閉鎖し、扉体5に設けられたゲートポンプ7を運転して、支川側水路1の流水を本川側水路2へ排水する。自然排水時は、扉体5を水門3上部へ開閉機6により上昇させ全開状態又は開状態とし、水路を開放して支川側水路1の流水を本川側水路2へ自然流下させ排水する。次にこの扉体5に設けるゲートポンプ7の構成について説明する。
【0028】
図9、図10は従来のゲートポンプ51の構成を示し、図9は正面図で、図10は側面断面図である。ゲートポンプ51の運転可能な最低水位S’は、騒音、振動、軸受の磨耗、損傷、ポンプ羽根の壊食等の機械的不具合を生じさせないようにするために、水中渦の吸込みが発生しないように決められていて、ポンプ口径より大きい数値であるポンプ口径+α(例えば、ポンプ口径+300mm)である。図はゲートポンプ51の回転軸を水平状態に設置しているが、回転軸を傾斜させた状態の方がより最低水位を下げることができ、この例も従来から公知である。この従来のゲートポンプ51には、上部にカバーの設けられているものはあるが、吸込口下部近傍には何も設けられていない。
【0029】
図2は、本実施の形態のゲートポンプ7の正面図であり、図3はその側面断面図である。扉体5にゲートポンプ7が吸込口9側端部を下方側に向けるように、ゲートポンプ7の回転軸の軸線を傾斜して取り付けられている。本実施の形態は回転軸の軸線を傾斜した構成にしているが、本発明はこれに限定はされず回転軸の軸線を水平にした構成のものであってもよい。ゲートポンプ7の吸込口9上部にはカバー8が設けられている。従って、水路の水面は流速が遅く、自然流水の場合であれば、流水を吸込む限界として水位Sがカバー8の下端部位置であっても空気を吸込むことなく流すことは可能である。水中渦を防止するための渦発生防止部材10は吸込口9下部に設けられている。
【0030】
図4は、ゲートポンプ7の吸込口9周辺の流水の流れを示す側面図である。ゲートポンプ7の吸込口9近傍の流れは、ゲートポンプ7の前面側からカバー8内に直接流入する流れA(以下、「正流」という。)が主となっている。しかし、ゲートポンプ7近傍の流れは正流Aのみでなく、ゲートポンプ7のカバー8を外れカバー8及びゲートポンプ7の外側を通過して流れる流れB(以下、「反正流」という。)もある。
【0031】
これらの流れは図に示すように、カバー8の外側を通過して扉体5あるいは水路壁に衝突して向きを変え、反転して逆流を構成する。この逆流となった反正流Bはゲートポンプ7の後部側から吸込口9側に流入する。流入する反正流Bは正流Aと合流して正流Aとなり、吸込口9から吸込まれる。従来構成であると、図11に示すように、反正流Bは正流Aに対し略180度向きが異なる方向に逆流して流れるので、相互の流れの衝突する境界部分Cは流れ同士がその流れを妨げられる状態となる。流れの勢いが強いと流れ摩擦が大きくなり、この合流のとき正流と反正流の境界部分に局部的に負圧が生じ水中渦が発生する。
【0032】
本実施の形態においては、ゲートポンプ7の吸込口9下部に水路幅に沿って所定幅を有する断面(又は、側面)が略L字形状の渦発生防止部材10を取り付けている。この渦発生防止部材10は合成ゴム材で形成されたものである。この渦発生防止部材10は、少なくとも吸込口9側の先端部10bが弾性変形可能で、吸込口9側に弾性変形する。略L字形状の渦発生防止部材10は、正流Aの流れと対向又は略対向する側に先端部10bを向けるように取り付けられている。渦発生防止部材10が弾性変形することで、扉体5が下がるに伴ない、河床に土砂等があってもゲートポンプ7を損傷することなく、扉体5を最下部まで下降させ全閉状態とすることができる。又、図5に示すように、カバー8の縁部には、水平方向からみて水路壁側に沿って水平状態に所定幅を有したサイドフィン11が設けられている。このサイドフィン11は、カバー8の両側に設けられ、鋼板製の平板材である。
【0033】
このサイドフィン11は固定的に設けられているが、弾性変形する構成であってもよい。このような構成により、図4、図5に示すような反正流Bが生じた場合、水位が最低限の位置を保持している場合は、反正流Bは主にカバー8の両側と吸込口9の下部からカバー8を回り込む状態で、吸込口9に逆流して吸込まれる。サイドフィン11に対して流水は、サイドフィン11により阻害された流れとなり、吸込口9には間接的な緩衝流れとなって吸込まれる。又、反正流Bの吸込口9近傍の下部からの流れは、渦発生防止部材10を介して流れが遮断され、渦発生防止部材10等を回り込むような流れとして吸込口9側に流れ込む。
【0034】
この状態は、図6の説明図に示す。図11の従来構成であると、反正流Bと正流Aとは、互いに略180度反対の方向に流れ、境界部分Cにおいてぶつかる。反正流Bは正流Aの抵抗にあってUターン状態で向きを変え正流Aに合流する。このとき境界部分Cに渦が発生することは前述のとおりである。渦発生の理由は必ずしもこのことだけではないが、大きな要因にはなっている。これに対して、図6の場合は、吸込口9側先端部が弾性変形する略L字形状の渦発生防止部材10を介して反正流Bは流れる。このL字形状の渦発生防止部材10はボルト10aを介してゲートポンプ7の吸込口9の下部端部に取り付けられている。
【0035】
流れがこの渦発生防止部材10を介するとき、流れは阻害された形となり流れの勢いは低下する。この流れが弱いと渦発生の可能性は少なくなり、L字形状の渦発生防止部材10も変形する度合いは小さい。流れが強いと図6に示すように流れはL字形状の渦発生防止部材10により抵抗を受けて阻害された流れとなり、図11に示すような流れとならず角度を略90度に向けて、又流れが緩和されて正流Aに合流する。
【0036】
又、流れが強くなると、反正流Bは正流Aに引き寄せられ吸込口9側が負圧になるので、この反正流Bは図に示すように渦発生防止部材10のL字形状の先端部10bが吸込口9側に図の二点鎖線に示すように弾性変形する。この弾性変形に伴う流れで負圧は解消される。これにより流れは180度の方向から変わり、流れはこのL字形状の渦発生防止部材10に遮断されつつ、L字形状に沿って略90度に向けた角度の流れに変わり引き寄せられ正流Aに合流することになる。このため流れの境界部分がほとんどなくなり渦が発生し難くくなる。
又、渦発生防止部材10の略L字の前面(吸込口9)側に初期渦が発生すると、渦発生部分は圧力が低下する。圧力が低下した分、渦発生防止部材10が弾性変形して略L字の前面側に引き寄せられる。引き寄せられると圧力が上がり、渦の発生又は渦の成長を抑制することができる。渦が消滅すると、渦発生防止部材10は、略L字の元の形状に戻る。運転中はこれを繰り返して、自動的に圧力差をバランスし、渦の成長を抑制している。
【0037】
流れの強さにより弾性変形は変化するので、流れが強ければ強いほど変形し、これに伴ない流れは緩和される。水路は水流条件により種々変化する。例えば、流速、流圧、水位、水路の通過面積、方向、ポンプの回転、異物の存在等により微妙に変化している。これらに合わせて理論的に水中渦を完全に除去するための固定手段を設けることは困難である。弾性変形可能な渦発生防止部材を設けたことは、これらの問題点を解消する一助になる。条件に応じて追随し弾性変形すれば渦の発生を抑制するのに寄与し、最適状態にすることができ効果的である。
【0038】
このようにサイドフィン11と渦発生防止部材10により反正流Bは柔軟に変わり、境界部分Cから渦が発生することなく吸込口9に吸込まれる。即ち、渦発生防止部材10の先端部を弾性変形可能としたことは、流れの合流方向を変えると同時に、圧力差を流れの強さに追随し自動的にバランスさせ、渦の発生を抑制することになる。これらのことから、本実施の形態において、連続安定運転が可能な水位Sを小さくすることができ、その水位Sはポンプ口径より小さな数値(例えば、ポンプ口径×0.8)とすることができる。例えば、ポンプ口径が500mmのゲートポンプであれば、その水位は400mmとすることができる。
【0039】
図7は、他の実施の形態を示す図であり、渦発生防止部材12を断面視L字形状に変え断面視R形状にした例を示している。取り付け構成は図6と同様である。渦発生防止部材12は、正流Aの流れに対して対向又は略対向する側に、R形状の先端部が向くように取り付けられている。この場合、反正流Bは形状に沿って引き付けられるように流れるのが期待できる。図8は、更に他の実施の形態を示す図であり、断面視L字形状のL字形状部材13を吸込口9端部に設けられた支点14を介して吸込口9側に揺動可能にした構成の例を示している。揺動範囲を規制し又流れが弱くなったときにはすぐ復帰するような設計上の工夫は要するが、この場合のL字形状部材13は弾性変形しない部材でもよい。この形態でも、正流Aの流れに対して対向又は略対向する側に、L字形状部材13の先端部が向くように取り付けられている。
更に図示していないが、反正流Bの流れ方向を略90度向きに変えられる部材を固定的に吸込口9側に取り付ける構成であってもよい。正流に対して180度向きが異なる反正流とが境界部分Cでぶつかることを避ける構成にすることで、渦発生はかなり抑制される。渦発生防止部材を弾性部材にしたことで、河床に土砂の堆積物等の障害物があっても、弾性変形によりゲートポンプを構成する部品の損傷も回避できることになり、渦発生防止以外の効果もある。以上のような構成により、一部重複するが、結果的に次のような効果が期待できる。
【0040】
ゲートポンプ後方からの回りこむ流れを遮断し、流れの境界部分Cをなくすことにより水中渦の発生を抑制し、又、カバーの両側部から落ち込む水流を阻害して空気吸込み渦の発生を抑制し、より低水位での運転が可能となる。又、低水位での運転が可能になることで、従来ゲートポンプの運転が不可能であった水路でもゲートポンプの設置が可能となる。
扉体を全閉側に下降させる際、河床に土砂の堆積等の障害物があっても、渦発生防止部材は柔軟性がありその弾性変形により、ゲートポンプを構成する部品の損傷を避け扉体を全閉状態とすることを可能とする。河床を掘り下げる等の必要はなく、低コストのゲートポンプ設置が可能である。更に、渦発生防止部材は柔軟性があり、略L字形状であることから、圧力の不均衡により発生する水中渦、回り込みによる偏流渦等を弾性変形することで自動的に圧力差をバランスさせ、渦の成長を抑制する。
【0041】
水路の諸条件によって変化するゲートポンプの吸込口への流れにも弾性変形を介して柔軟に、適切に追随でき、水中渦の発生を抑制する。サイドフィンは、カバーの両側部から落ち込む水流を阻害して空気吸込み渦の発生を抑制する。更に、渦発生防止部材はボルト等により簡素な構成で吸込口に取り付けが可能であり、低コストなゲートポンプの実現が可能である。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されないことはいうまでもない。例えば、渦発生防止部材を合成ゴム材で形成したものとしたが、プラスチック材や板ばね等で形成したものであってもよい。サイドフィンはカバーの両側に鋼板製平板状の部材を水平に設置することで説明したが、材質は他のものでもよく、水平設置に限定されることはない。
【0043】
本発明の特徴は、以上説明したとおり、水中ポンプの運転可能な最低水位を低く設定することが可能とした上で、空気吸い込み渦等の影響を少なくすると同時に水中渦の発生を防止し、水中ポンプの運転の信頼性を向上させたことにある。従って、この目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の渦発生防止装置を備えた水中ポンプを有する水門構成を示す全体断面図である。
【図2】図2は、渦発生防止装置を備えた水中ポンプの正面図である。
【図3】図3は、渦発生防止装置を備えた水中ポンプの側面断面図である。
【図4】図4は、渦発生防止装置を備えた水中ポンプの流水構成を側面断面図で示す説明図である。
【図5】図5は、渦発生防止装置を備えた水中ポンプの流水構成を平面図で示す説明図である。
【図6】図6は、略L字形状の渦発生防止部材の構成を示す説明図である。
【図7】図7は、渦発生防止部材の他の実施の形態でR形状構成を示す説明図である。
【図8】図8は、渦発生防止部材のさらに他の実施の形態で揺動可能な構成を示す説明図である。
【図9】図9は、従来のゲートポンプの構成を示す正面図である。
【図10】図10は、従来のゲートポンプの構成を示す側面断面図である。
【図11】図11は、従来のゲートポンプの吸込み口近傍の流れ状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1…支川側水路
2…本川側水路
3…水門
4…排水口
5…扉体
6…開閉機
7…ゲートポンプ
8…カバー
9…吸込口
10,12…渦発生防止部材
11…サイドフィン
A…正流
B…反正流
C…境界部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路の水門の扉体に設置され前記水路の一方からの流水を吸込み前記水路の他方へ流水を排水する水中ポンプであって、
前記水中ポンプの吸込口下部近傍から吸込まれる流水の渦発生を防止するため、前記水中ポンプの後部側から回り込む流水の流れの方向を変換可能な渦発生防止部材を、前記吸込口下部近傍に設けた
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記水中ポンプは、横軸タイプの水中ポンプであって、水平軸に対し回転軸が所定角度傾斜して前記水門の扉体に設置可能なものであり、ポンプ運転可能な最低水位を前記水中ポンプのポンプ口径より小さい所定の数値にできる
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記水中ポンプは、横軸タイプの水中ポンプであって前記吸込口上部にカバーを設けた
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記吸込口に設けられるカバーの吸込口面積はポンプ内吸込口面積より大きく構成している
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記渦発生防止部材は、前記水路の流水の流れに略対向する方向に先端を向け、断面視略L字形状で且つ弾性変形可能なものである
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項6】
請求項1に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記渦発生防止部材は、前記水路の流水の流れに略対向する方向に先端を向け、断面視曲線形状で且つ弾性変形可能なものである
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項7】
請求項1に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記渦発生防止部材は、前記水路の流水の流れに略対向する方向に先端を向け、断面視略L字形状の部材が揺動可能になっているものである
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項8】
請求項3に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記カバーの縁部に所定幅を有する縁材を設けた
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記渦発生防止部材は、合成ゴム材で形成されたものである
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記渦発生防止部材は、プラスチック材で形成されたものである
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。
【請求項11】
請求項5又は6に記載の渦発生防止装置を備えた水中ポンプにおいて、
前記渦発生防止部材は、板ばね材で形成されたものである
ことを特徴とする渦発生防止装置を備えた水中ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−31968(P2007−31968A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213023(P2005−213023)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000168193)株式会社ミゾタ (12)
【Fターム(参考)】