説明

渦電流を用いた熱アシスト磁気記録方法及び熱アシスト磁気記録用ヘッド

【課題】製造工程上大きな負担を要するヘッドを用いることなく、磁気記録媒体を局所的にかつ効率良く加熱することができる熱アシスト磁気記録方法を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体が有する磁気記録層の一部分又はこの一部分の近傍に高周波磁界を印加して渦電流を発生させることによってこの一部分を加熱し、この一部分の保磁力を一時的に低下させた状態にした上で、この一部分の少なくとも一部に書き込み磁界を印加して、磁気記録媒体に書き込みを行う熱アシスト磁気記録方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流を用いた熱アシスト磁気記録方式によりデータ信号の書き込みを行う磁気記録方法、並びに、渦電流を用いた熱アシスト磁気記録を行うための薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)及びこのHGAを備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置に代表される磁気記録再生装置の高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッドのさらなる性能の向上が要求されている。薄膜磁気ヘッドとしては、データ信号の読み出し用の読み出しヘッド素子としての磁気抵抗(MR)効果素子と、データ信号の書き込み用の書き込みヘッド素子としての電磁コイル素子とを積層した構造である複合型薄膜磁気ヘッドが広く用いられており、磁気ディスク等の磁気記録媒体に対してこれらの素子を用いることによって、データ信号の読み書きがなされている。
【0003】
一般に、磁気記録媒体は、いわば磁性微粒子が集合した不連続体であり、それぞれの磁性微粒子は単磁区構造となっている。ここで、1つの記録ビットは、複数の磁性微粒子から構成されている。従って、記録密度を高めるためには、磁性微粒子を小さくして、記録ビットの境界の凹凸を減少させなければならない。しかし、磁性微粒子を小さくすると、体積減少に伴う磁化の熱安定性の低下が問題となる。
【0004】
この問題への対処として、同時に磁性微粒子の磁気異方性エネルギーKを大きくすることが考えられるが、この磁気異方性エネルギーKの増加は、磁気記録媒体の保磁力の増加をもたらす。これに対して、磁気ヘッドによる書き込み磁界強度は、ヘッド内の磁極を構成する軟磁性材料の飽和磁束密度でほぼ決定されてしまう。従って、磁気記録媒体の保持力が、この書き込み磁界強度の限界から決まる許容値を超えると書き込みが不可能となってしまう。
【0005】
ここでさらなる対策として、磁気異方性エネルギーKの大きな磁性材料を用いる一方で、書き込み磁界印加の直前に磁気記録媒体を加熱することによって保磁力を小さくして書き込みを行う、いわゆる熱アシスト磁気記録方式が提案されている。
【0006】
この熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体の加熱方法として、現在、レーザ光を用いて発生させた近接場光を磁気記録媒体に照射する方法が主に提案されている。例えば、特許文献1においては、基板上に形成された円錐体等の形状をした金属の散乱体と、その散乱体の周辺に形成された誘電体等の膜とを備えた近接場光プローブが開示されている。また、特許文献2には、近接場光プローブを構成する散乱体を、その照射される面が磁気記録媒体に垂直となるように、垂直磁気記録用単磁極書き込みヘッドの主磁極に接して形成された構成が開示されている。ここで、このレーザ光を供給するための手段として、この特許文献2においては、ヘッド内に設けられた半導体レーザ素子が用いられている。また、例えば、特許文献3に開示された技術は、レーザ光の供給に光ファイバを用いている。
【0007】
一方、熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体の他の加熱方法として、例えば、特許文献4には、誘導書込みヘッド層を加熱するための発熱体を用いて、磁気記録媒体を間接的に加熱する技術が開示されている。また、特許文献5には、2つのヨークと、その各先端に位置する2つの磁気ポールの間にある磁気ギャップを埋めるスペーサとを備えたヘッドにおいて、2つのヨーク間に電流を印加することによってスペーサを発熱させて、磁気ディスクの磁気記録層を加熱する技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−255254号公報
【特許文献2】特開2004−158067号公報
【特許文献3】特開2000−173093号公報
【特許文献4】特開2005−4953号公報
【特許文献5】特開2004−253043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらのレーザ光又は発熱体からの熱を用いた熱アシスト磁気記録方式にも、技術上、種々の困難が生じており、問題となっている。
【0010】
確かに、レーザ光を用いた熱アシスト磁気記録方式においては、磁気記録媒体を局所的にかつ効率良く加熱し、適切な熱アシストが可能となる。しかしながら、熱アシスト磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを実現するためには、一般に、高い位置精度及び寸法精度の要求される微細な光学系部品をヘッド内部に形成する必要があり、製造工程上の大きな負担となっている。また、素子形成面と媒体対向面とが垂直である一般的な薄膜磁気ヘッドの構成において、素子形成面に平行な光を得ることができるようにレーザ光の供給源を設置することが、設計上相当に困難となっている。
【0011】
また、発熱体からの熱を用いた熱アシスト磁気記録方式においては、単なる熱伝導で磁気記録媒体が加熱されることから、磁気記録媒体の所定位置を所定時間内に十分な温度まで加熱することが困難となっている。さらに、発熱体からの熱によるヘッド素子端の突出(TPTP)が発生して、ヘッドの浮上量(ABS)を制御外で変化させてしまう問題が生じている。
【0012】
従って、本発明の目的は、製造工程上大きな負担を要するヘッドを用いることなく、磁気記録媒体を局所的にかつ効率良く加熱することができる熱アシスト磁気記録方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、このような熱アシスト磁気記録方法を実現するための薄膜磁気ヘッドを提供することにある。さらに、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明について説明する前に、明細書において使用される用語の定義を行う。基板の素子形成面に形成された磁気ヘッド素子の積層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。
【0014】
本発明によれば、磁気記録媒体が有する磁気記録層の一部分又はこの一部分の近傍に高周波磁界を印加して渦電流を発生させることによってこの一部分を加熱し、この一部分の保磁力を一時的に低下させた状態にした上で、この一部分の少なくとも一部に書き込み磁界を印加して、磁気記録媒体に書き込みを行う熱アシスト磁気記録方法が提供される。
【0015】
このような熱アシスト磁気記録方法においては、高周波磁界に誘導される渦電流を用いて、磁気記録層の書き込むべき部分を加熱するので、加熱が、局所的であって瞬時に効率良く行われる。また、レーザ光源、レンズ系、近接場光発生素子等の光学系を一切使用せずにこの方法を実施することができる。
【0016】
この際、高周波磁界を、磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に印加することが好ましい。この場合、磁気記録層又は軟磁性裏打ち層等の層面内に渦電流が誘導されるので、非常に効率良く加熱される。
【0017】
また、この本発明による熱アシスト磁気記録方法においては、磁気記録層の一部分の近傍にある軟磁性裏打ち層の一部分に高周波磁界を印加して磁気記録層の一部分を加熱することも好ましい。この際、磁気記録媒体として、ディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアを用いることも好ましい。
【0018】
さらに、本発明による熱アシスト磁気記録方法においては、高周波磁界の印加を、書き込み磁界の印加を行う際に用いる垂直磁気記録用の書き込みコイル素子を用いて行うことも好ましい。
【0019】
本発明によれば、さらに、書き込みの際、磁気記録媒体の一部分又はこの一部分の近傍に高周波磁界を印加して渦電流を発生させることによりこの一部分を加熱するための高周波磁界発生素子と、信号磁界を発生させてデータ信号を書き込むための書き込みヘッド素子とを備えている熱アシスト磁気記録用薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0020】
このような熱アシスト磁気記録用薄膜磁気ヘッドを用いて、磁気記録層の書き込むべき部分を誘導された渦電流によって加熱することによって、加熱が、局所的であって瞬時に効率良く行われる。その結果、熱アシスト磁気記録における高記録密度化のみならず記録時間の短縮化にも貢献することができる。
【0021】
この本発明による熱アシスト磁気記録用薄膜磁気ヘッドにおいて、高周波磁界発生素子が、高周波磁界を磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に印加するための主加熱磁極層と、一方の端部が主加熱磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部が主加熱磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助加熱磁極層と、少なくともこの主加熱磁極層及びこの補助加熱磁極層の間を通過するように形成されておりこの主加熱磁極層及びこの補助加熱磁極層に磁束を発生させるための加熱コイル層とを備えた加熱コイル素子であることが好ましい。
【0022】
さらに、この本発明による薄膜磁気ヘッドが、信号磁界を感受してデータ信号を読み出すための読み出しヘッド素子をさらに備えており、この読み出しヘッド素子と、高周波磁界発生素子と、書き込みヘッド素子とが、基板の素子形成面側からこの順に積層されていることも好ましい。
【0023】
さらに、この本発明による薄膜磁気ヘッドにおいて、書き込みヘッド素子が、書き込み磁界を磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に印加するための主磁極層と、一方の端部が主磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部が主磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助磁極層と、少なくともこの主磁極層及びこの補助磁極層の間を通過するように形成されておりこの主磁極層及びこの補助磁極層に磁束を発生させるための書き込みコイル層とを備えた垂直磁気記録用の書き込みコイル素子であることが好ましい。
【0024】
本発明によれば、さらにまた、以上に述べた薄膜磁気ヘッドと、この薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、書き込みヘッド素子用の信号線、この薄膜磁気ヘッドが読み出しヘッド素子を備えている場合にはこの読み出しヘッド素子用の信号線、及び高周波磁界発生素子用の信号線とを備えているHGAが提供される。
【0025】
本発明によれば、さらにまた、以上に述べたHGAを少なくとも1つ備えており、少なくとも1つの磁気記録媒体と、この少なくとも1つの磁気記録媒体に対して薄膜磁気ヘッドが行う書き込み及び読み出し動作を制御するとともに、高周波磁界発生素子の加熱動作を制御するための記録再生及び加熱制御回路とをさらに備えている磁気記録再生装置が提供される。
【0026】
この本発明による磁気記録再生装置において、少なくとも1つの磁気記録媒体が、磁気記録層と、この磁気記録層の下方に設けられた軟磁性裏打ち層とを備えていることが好ましい。さらに、この場合、少なくとも1つの磁気記録媒体が、ディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアであることも好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明による熱アシスト磁気記録方法によれば、製造工程上大きな負担を要するヘッドを用いることなく、磁気記録媒体を局所的にかつ効率良く加熱することができる。また、本発明による薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気記録再生装置によれば、このような熱アシスト磁気記録方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、
同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0029】
図1は、本発明による磁気記録再生装置及びHGAの一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。ここで、HGAの斜視図においては、HGAの磁気記録媒体表面に対向する側が上になって表示されている。
【0030】
同図において、磁気記録再生装置は、磁気ディスク装置であり、10は、スピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する複数の磁気記録媒体である磁気ディスク、12は、薄膜磁気ヘッド21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、13は、この薄膜磁気ヘッド21の書き込み及び読み出し動作を制御し、さらに後に詳述する熱アシスト磁気記録用の加熱コイル素子を制御するための記録再生及び加熱制御回路をそれぞれ示している。
【0031】
アセンブリキャリッジ装置12には、複数の駆動アーム14が設けられている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして角揺動可能であり、この軸16に沿った方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、スライダである薄膜磁気ヘッド21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及び薄膜磁気ヘッド21は、単数であってもよい。
【0032】
HGA17は、サスペンション20の先端部に、薄膜磁気ヘッド21を固着し、さらにその薄膜磁気ヘッド21の端子電極に配線部材203の一端を電気的に接続して構成される。サスペンション20は、ロードビーム200と、このロードビーム200上に固着され支持された弾性を有するフレクシャ201と、ロードビーム200の基部に設けられたベースプレート202と、フレクシャ201上に設けられておりリード導体及びその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材203とから主として構成されている。
【0033】
なお、本発明のHGA17におけるサスペンションの構造は、以上述べた構造に限定されるものではないことは明らかである。なお、図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップを装着してもよい。
【0034】
図2は、本発明による薄膜磁気ヘッド21の一実施形態を示す斜視図である。
【0035】
図2によれば、薄膜磁気ヘッド21は、適切な浮上量を得るように加工された媒体対向面であるABS2100を有するスライダ基板210と、ABS2100に垂直な素子形成面2101に形成されており、信号磁界を感受してデータ信号を読み出すための読み出しヘッド素子としてのMR効果素子33と、同じく素子形成面2101に形成されており、書き込みの際に磁気ディスクの一部分又はこの一部分の近傍に高周波磁界を印加して渦電流を発生させることによりこの一部分を加熱するための高周波磁界発生素子である加熱コイル素子35と、同じく素子形成面2101に形成されており、信号磁界を発生させてデータ信号を書き込むための書き込みヘッド素子としての書き込みコイル素子34と、MR効果素子33、加熱コイル素子35及び書き込みコイル素子34を覆うように素子形成面2101上に形成された被覆層39と、被覆層39の層面から露出した、MR効果素子33及び書き込みコイル素子34に2つずつ電気的に接続されている合計4つの信号端子電極37と、同じく被覆層39の層面から露出した、加熱コイル素子35の加熱コイル層の両端にそれぞれ電気的に接続されている2つの信号端子電極38とを備えている。
【0036】
MR効果素子33、加熱コイル素子35及び書き込みコイル素子34は、素子形成面2101側からこの順に積層されている。すなわち、リーディング側からトレーリング側に向けて、この順に配置されている。この配置は、後に詳しく説明するように、本発明による熱アシスト磁気記録方法を実施するのに適した配置であるが、その方法の実施形態によっては、必ずしもこの配置が限定事項とはならない。例えば、加熱コイル素子35が最もリーディング側又は最もトレーリング側に配置される場合もあり得る。
【0037】
これらMR効果素子33、加熱コイル素子35及び書き込みコイル素子34の一端は、ABS2100側のスライダ端面211に達している。ここで、スライダ端面211は、薄膜磁気ヘッド21のABS2100側の面であってABS2100以外の部分の面である。実際の書き込み又は読み出し動作時には、薄膜磁気ヘッド21は、回転する磁気ディスク表面上において流体力学的に所定の浮上量をもって浮上する。この際、MR効果素子33及び書き込みコイル素子34の端が磁気ディスクと微小なスペーシングを介して対向することによって、信号磁界の感受によるデータ信号の読み出しと、信号磁界の印加によるデータ信号の書き込みとが行われる。
【0038】
ここで、このデータ信号の書き込みの際、加熱コイル素子35から発生した高周波磁界が、磁気ディスクに到達し、磁気ディスクの表面に対して垂直な方向に印加されて、磁気ディスクの有する磁気記録層の一部分、又はこの一部分の近傍にある軟磁性裏打ち層等の一部分に渦電流を発生させる。これにより、この磁気記録層の一部分が加熱されてこの一部分の保磁力が一時的に低下する。その際、この磁気記録層の一部分の少なくとも一部に、書き込みコイル素子34を用いて書き込み磁界を印加することによって、熱アシスト磁気記録を実施することが可能となる。
【0039】
ここで、このような本発明による熱アシスト磁気記録方法においては、局所的に絞った高周波磁界に誘導される渦電流を用いて加熱するので、加熱が、局所的であって瞬時に効率良く行われる。また、レーザ光源、レンズ系、近接場光発生素子等の光学系を一切使用せずに実施することができる。また、高周波磁界が、磁気ディスクの表面に対して垂直な方向に印加されているので、渦電流が磁気記録層又は軟磁性裏打ち層等の層面内に誘導されることとなり、非常に効率良く加熱される。
【0040】
同じく図2によれば、加熱コイル素子35は、高周波磁界を磁気ディスクの表面に対して垂直な方向に印加するための主加熱磁極層350と、一方の端部が主加熱磁極層350の一方の端部に近接していると共に他方の端部が主加熱磁極層350の他方の端部に磁気的に接続されている補助加熱磁極層354と、少なくとも主加熱磁極層350及び補助加熱磁極層354の間を通過するように形成されており主加熱磁極層350及び補助加熱磁極層354に磁束を発生させるための加熱コイル層352とを備えた加熱コイル素子となっている。
【0041】
主加熱磁極層350は、加熱コイル層352への通電によって発生した磁束を、磁気ディスクの少なくとも表面まで収束させながら導くための導磁路となっている。ここで、主加熱磁極層350のスライダ端面211側の端部350aにおける層厚は、他の部分に比べて小さくなっている。この結果、微小な幅を有する記録トラックに対応した、微細な加熱用の高周波磁界が発生可能となる。
【0042】
また、加熱コイル層352は、1ターンの間に少なくとも主加熱磁極層350及び補助加熱磁極層354の間を通過するように形成されている。この加熱コイル層352のターン数は、必要となる高周波磁界の強度等を考慮して設定される。加熱コイル絶縁層353は、加熱コイル層352を取り囲んでおり、加熱コイル層352と主加熱磁極層350及び補助加熱磁極層354との間を電気的に絶縁するために設けられている。なお、加熱コイル層352は、図2において1層であるが、2層以上又はヘリカルコイルでもよい。
【0043】
さらに、補助加熱磁極層354のスライダ端面211側の端部354aは、補助加熱磁極層354の他の部分よりも層断面が広くなっていて、主加熱磁極層350の端部350aとギャップ層を介して対向している。このような端部354aを設けることによって、スライダ端面211近傍における端部350aと端部354aとの間において磁界勾配がより急峻になる。その結果、高周波磁界を磁気ディスクに対して、より局所的に印加することができる。
【0044】
以上述べたように、加熱コイル素子35の構造は、垂直磁気記録用の書き込みコイル素子の構造と同様であって、磁気ディスクの表面に対して垂直な方向の高周波磁界を局所的に発生させるのに非常に適している。また、ヘッド製造工程において加熱コイル素子35の形成の際には、従来の素子形成プロセスがそのまま適用でき、大きな負担を要しない。さらに、実施される形態によっては、例えば、同じく垂直磁気記録用として設計された書き込みコイル素子34と同一の構造及びサイズとすることもでき、製造工程において使用されるターゲット材料、マスク等を新たに追加する必要がなくなるので、製造資源の大幅な節約が可能となる。
【0045】
図3(A)は、図2に示した薄膜磁気ヘッド21の要部の構成を概略的に示す、図2のA−A線断面図であり、図3(B)は、MR効果素子33、加熱コイル素子35及び書き込みコイル素子34のスライダ端面211における端の形状を示す平面図である。
【0046】
図3(A)において、スライダ基板210はアルチック(Al−TiC)等から構成されており、磁気ディスク表面に対向するABS2100を有している。このスライダ基板210のABS2100を底面とした際の一つの側面である素子形成面2101に、MR効果素子33と、加熱コイル素子35と、書き込みコイル素子34とが順次形成され、さらに、これらの素子を覆うように被覆層39が形成されている。
【0047】
MR効果素子33は、MR積層体332と、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層330及び上部シールド層334とを含む。下部シールド層330及び上部シールド層334は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等による厚さ0.5〜3μm程度のNiFe(パーマロイ等)、CoFeNi、CoFe、FeN若しくはFeZrN等で形成することができる。
【0048】
MR積層体332は、面内通電型(CIP(Current In Plain))巨大磁気抵抗(GMR(Giant Magneto Resistive))多層膜、垂直通電型(CPP(Current Perpendicular to Plain))GMR多層膜、又はトンネル磁気抵抗(TMR(Tunnel Magneto Resistive))多層膜を含み、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。上下部シールド層334及び330は、MR積層体332が雑音となる外部磁界の影響を受けることを防止する。
【0049】
このMR積層体332がCIP-GMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330の各々とMR積層体332との間に絶縁用の上下部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、MR積層体332にセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体332がCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330はそれぞれ上下部の電極層としても機能する。この場合、上下部シールドギャップ層とMRリード導体層とは不要であって省略される。なお、図示されていないが、MR積層体332のスライダ端面211とは反対側のシールド層間には絶縁層が形成され、さらに、MR積層体332のトラック幅方向の両側には、絶縁層か、又は磁区の安定化用の縦バイアス磁界を印加するための、バイアス絶縁層及び強磁性材料からなるハードバイアス層が形成される。
【0050】
MR積層体332は、例えば、TMR効果多層膜を含む場合、IrMn、PtMn、NiMn、RuRhMn等からなる厚さ5〜15nm程度の反強磁性層と、例えば強磁性材料であるCoFe等から又はRu等の非磁性金属層を挟んだ2層のCoFe等から構成されており反強磁性層によって磁化方向が固定されている磁化固定層と、例えばAl、AlCu、Mg等からなる厚さ0.5〜1nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によって又は自然酸化によって酸化された非磁性誘電材料からなるトンネルバリア層と、例えば強磁性材料である厚さ1nm程度のCoFe等と厚さ3〜4nm程度のNiFe等との2層膜から構成されておりトンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす磁化自由層とが、順次積層された構造を有している。
【0051】
加熱コイル素子35は、主加熱磁極層350と、加熱ギャップ層351と、加熱コイル層352と、加熱コイル絶縁層353と、補助加熱磁極層354とを備えている。主加熱磁極層350は、例えば、ABS側の端部での全厚が約0.01μm〜約0.5μmであって、この端部以外での全厚が約0.5μm〜約3.0μmである、例えばフレームめっき法、スパッタリング法等によるNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。加熱ギャップ層351は、例えばスパッタリング法、CVD法等による、厚さ約0.01μm〜約0.5μmのAl又はDLC等から形成されている。加熱コイル層352は、例えばフレームめっき法等による、厚さ約0.5μm〜約3μmのCu等から形成されている。加熱コイル絶縁層353は、例えば、厚さ約0.1μm〜約5μmの熱硬化されたレジスト層等から形成されている。補助加熱磁極層354は、例えばフレームめっき法、スパッタリング法等による、厚さ約0.5μm〜約5μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。
【0052】
書き込みコイル素子34は、本実施形態において垂直磁気記録用であり、主磁極層340、ギャップ層341、書き込みコイル層342、書き込みコイル絶縁層343、及び補助磁極層344を備えている。主磁極層340は、書き込みコイル層342への書き込み電流の印加によって発生した磁束を、書き込みがなされる磁気ディスクの磁気記録層まで収束させながら導くための導磁路である。ここで、主磁極層340のスライダ端面211側の端部340aにおける層厚は、他の部分に比べて小さくなっている。この結果、高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界が発生可能となる。
【0053】
書き込みコイル層342は、1ターンの間に少なくとも主磁極層340及び補助磁極層344の間を通過するように形成されている。書き込みコイル絶縁層343は、書き込みコイル層342を取り囲んでおり、書き込みコイル層342と主磁極層340及び補助磁極層344との間を電気的に絶縁するために設けられている。なお、書き込みコイル層342は、図2において1層であるが、2層以上又はヘリカルコイルでもよい。
【0054】
補助磁極層344のスライダ端面211側の端部は、補助磁極層344の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部344aとなっている。このトレーリングシールド部344aは、主磁極層340の端部340aとギャップ層341を介して対向している。このようなトレーリングシールド部344aを設けることによって、スライダ端面211近傍におけるトレーリングシールド部344aと主磁極層340の端部340aとの間において磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0055】
ここで、主磁極層340、ギャップ層341、書き込みコイル層342、書き込みコイル絶縁層343及び補助磁極層344は、それぞれ、上述した加熱コイル素子35の主加熱磁極層350、加熱ギャップ層351、加熱コイル層352、加熱コイル絶縁層353及び補助加熱磁極層354と同様の構成を有していてもよい。
【0056】
同じく図2によれば、36は、加熱コイル素子35とMR効果素子33との間の磁気的シールドの役目を果たす、例えばパーマロイ(NiFe)等の軟磁性体からなる素子間シールド層である。素子間シールド層36は、その形状、サイズを調整することによって、又は絶縁体等の熱伝導性の低い材料を用いることによって、MR効果素子33に対する加熱コイル素子35からの熱の悪影響を防止するための断熱層としての役割を果たすことも可能である。
【0057】
また、図示されていないが、他の実施形態として、素子間シールド層36と加熱コイル素子35との間に、又は加熱コイル素子35と書き込みコイル素子34との間にバッキングコイル部が設けられていてもよい。バッキングコイル部は、バッキングコイル層及びバッキングコイル絶縁層から形成されており、主磁極層340及び補助磁極層344から発生してMR効果素子33内の上下部シールド層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させて、磁気ディスクへの不要な書き込み又は消去作用である広域隣接トラック消去(WATE)現象を抑制する役割を果たす。
【0058】
図3(B)によれば、スライダ端面211上において、MR積層体332の端部332aと、主加熱磁極層350の端部350aと、主磁極層340の端部340aとは、トラック方向の同一直線上にこの順番で配置されている。すなわち、端部350aは、端部340aのリーディング側に位置している。さらに、端部350a及び端部340aは互いに非常に近い位置にあるので、磁気ディスクの所定部分を加熱した直後に、ほとんど間を置かず、書き込み磁界を印加することが可能となる。その結果、熱アシストによる安定した書き込み動作が、確実に実行可能となる。
【0059】
また、端部350a及び端部340aのスライダ端面211における形状は、ともにトレーリング側に長辺を有する逆台形となっている。すなわち、ともにロータリーアクチュエータでの駆動により発生するスキュー角の影響によって隣接トラックに不要な高周波磁界の印加又は書き込みを及ぼさないように、ベベル角が付けられている。ベベル角の大きさは、ともに、例えば15°(度)程度である。このような逆台形においては、実際に、加熱用の高周波磁界又は書き込み磁界が主に発生するのは、トレーリング側の長辺近傍であり、この長辺の長さによって、加熱される領域の幅及び書き込みがなされるトラックの幅が決定される。
【0060】
ここで、主加熱磁極層350の端部350aにおけるトレーリング側の長辺の長さWHPと、主磁極層340の端部340aにおけるトレーリング側の長辺の長さWWPとの関係を考察する。
【0061】
一般に、熱アシスト磁気記録方式は、磁気ドミネント記録と熱ドミネント記録との2つに大別される。磁気ドミネント記録の場合、磁気ディスクの磁気記録層において書き込み磁界を印加する領域の幅(書き込み磁界印加幅)よりも、保持力Hを十分に低下させるまでに加熱する幅(加熱幅)を大きく設定する。すなわち、書き込み幅(トラック幅)は、磁界印加幅相当となる。この場合、WHPは、WWPと同程度か又はWWPよりも大きくなるように設定される。これに対して、熱ドミナント記録の場合、加熱幅が、磁界印加幅と同等に又はより狭くなるように設定される。すなわち、書き込み幅(トラック幅)は、加熱幅相当となる。この場合、WHPは、少なくともWWPよりも小さくなるように設定される。
【0062】
以上に述べたような、熱アシスト磁気記録方式を採用することにより、高保磁力の磁気ディスクに書き込みを行い、記録ビットを極微細化することによって、従来以上の非常に高い記録密度を達成することが可能となる。
【0063】
なお、書き込みコイル素子34が、長手磁気記録用であってもかまわない。この場合、主磁極層340及び補助磁極層344の代わりに、下部磁極層及び上部磁極層が設けられ、さらに、下部磁極層及び上部磁極層のスライダ端面211側の端部に挟持された書き込みギャップ層が設けられる。この書き込みギャップ層位置からの漏洩磁界によって書き込みが行われる。
【0064】
図4は、本発明による熱アシスト磁気記録方法において、磁気記録媒体を加熱する原理を説明するための、加熱コイル素子35及び磁気ディスク10の断面図である。
【0065】
最初に、同図を用いて、磁気ディスク10の構造について説明する。磁気ディスク10は、本実施形態において垂直磁気記録用であり、ディスク基板100上に、磁化配向層101と、磁束ループの一部として働く軟磁性裏打ち層102と、中間層103と、垂直磁気記録層104と、保護層105とを順次積層した多層構造となっている。磁化配向層101は、軟磁性裏打ち層102にトラック幅方向の磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層102の磁区構造を安定させて、再生出力波形におけるスパイク状ノイズの抑制を図っている。また、中間層103は、垂直磁気記録層104の磁化の配向及び粒径を制御する下地層の役割を果たしている。
【0066】
ここで、ディスク基板100は、ガラス、NiP被覆Al合金、Si等から形成されている。磁化配向層101は、反強磁性材料であるPtMn等から形成されている。軟磁性裏打ち層102は、軟磁性材料であるCoZrNb等のCo系アモルファス合金、Fe合金、軟磁性フェライト等、又は軟磁性膜/非磁性膜の多層膜等から形成されている。中間層103は、非磁性材料であるLu合金から形成されている。ここで、中間層103は、垂直磁気記録層104の垂直磁気異方性を制御可能であれば、その他の非磁性金属若しくは合金、又は低透磁率の合金等でもよい。保護層105は、化学的蒸着(CVD)法等によるカーボン(C)材料等から形成されている。
【0067】
また、垂直磁気記録層104を構成する材料の選択に際しては、渦電流損、すなわち渦電流による発熱量が十分に大きくなることが考慮される。また、記録ビットの磁化を安定させるためにヒステリシス損が十分抑制されることも必要となる。渦電流損は、一般に、印加される磁界の周波数fの2乗に比例し、磁性体の抵抗率ρに反比例する。また、透磁率μが高いほど大きくなる。従って、垂直磁気記録層104を構成する材料としては、高透磁率磁性材料であって抵抗率ρが大きくないもの、例えば、CoCrPt系合金、FePt系合金、又はCoPt/Pd系の人口格子多層膜等が選択可能である。また、導電性を有する酸化物磁性体、例えば元素の添加又は酸素欠陥の制御によって所定の導電性を持たせたバリウム(Ba)フェライト、又は導電性を持たせた酸化物系材料の中にCoPtなどの強磁性粒子をマトリックス状に含ませた材料等も採用することができる。
【0068】
図4によれば、高周波磁界に対応する磁束40は、加熱コイル素子35の主加熱磁極層350の端部350aから出発して、磁気ディスク10の表面10aに垂直に入射し、そのまま高密度で垂直磁気記録層104を貫き、軟磁性裏打ち層102において密度を大幅に下げながらその方向を変えて、補助加熱磁極層354の端部354aに帰着することによって、主加熱磁極層350及び補助加熱磁極層354内の磁路と合わせて、磁束ループを形成している。
【0069】
この際、渦電流が発生して渦電流損失によって加熱される部分は、主に、磁束40の磁束密度が十分に高くなっている垂直磁気記録層104の部分42となる。この部分42に生じた渦電流41によって、部分42が加熱されることにより、部分42の保磁力Hが書き込み可能な所定値に低下する。次いで、この加熱直後に、又は部分42の温度が放熱により低下して保磁力Hが書き込み限界を再び超える前に、書き込みコイル素子によってデータ信号の書き込みが行われる。
【0070】
図5(A)及び(B)はそれぞれ、本発明による熱アシスト磁気記録方法において、ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアを使用する実施形態を説明するための概略図である。
【0071】
図5(A)によれば、ディスクリートトラックメディア50においては、垂直磁気記録層504及び中間層503が、トラック長手方向に伸長した非磁性材料からなる非磁性離隔層50aによって分断されることによって、複数のディスクリートトラック50bが形成されている。すなわち、ディスクリートトラックメディア50は、高トラック密度化を図った磁気ディスクの1つとなっている。
【0072】
このディスクリートトラック50bを備えたディスクリートトラックメディア50においては、主加熱磁極層350の端部350aからの磁束51による渦電流52は、トラック幅方向の領域が限定された垂直磁気記録層504(及び中間層503)においてよりも、その下に広がる軟磁性裏打ち層502において多く誘導される。従って、磁束51による主な加熱領域は、軟磁性裏打ち層502の部分となるが、これにより、その部分の直上の、トラック幅方向において限定された垂直磁気記録層504の部分を選択的に加熱することが可能となる。この選択的な加熱は、熱アシスト磁気記録における高記録密度化に大きく貢献する。
【0073】
また、このように本発明の熱アシスト磁気記録方法にディスクリートトラックメディア50を用いることによって、垂直磁気記録層504の材料設計において、渦電流の発生効率の点からの制限がなく、材料選択の幅が広がる。例えば、バリウムフェライトに代表される酸化物磁性体等、相当に抵抗率ρの高い材料の選択も可能となる。
【0074】
次いで、図5(B)によれば、パターンドメディア53においては、垂直磁気記録層534及び中間層533が、トラック長手方向に伸長した非磁性材料からなる非磁性離隔層53aにより分断されることによって、複数のディスクリートトラックが形成され、さらに、この複数のディスクリートトラックの各々が、多数の非磁性離隔部53bにより分断されることによって、多数の垂直磁気記録部53cが形成されている。この多数の垂直磁気記録部53cは、非常に微細な磁性体パターンとなっており、それぞれ1つの記録ビットに対応している。すなわち、パターンドメディア53は、トラック間のみならず記録ビット間における信号磁界の干渉を低減させており、ディスクリートトラックメディア以上の高記録密度化を達成する可能性を有している。
【0075】
この垂直磁気記録部53cを備えたパターンドメディア53においては、主加熱磁極層350の端部350aからの磁束54による渦電流55は、領域の限定された微細な垂直磁気記録層534(及び中間層533)においてよりも、その下に広がる軟磁性裏打ち層532において多く誘導される。従って、磁束54による主な加熱領域は、軟磁性裏打ち層532の部分となるが、これにより、その部分の直上の、領域の限定された微細な垂直磁気記録層504を選択的に加熱することが可能となる。この選択的な加熱は、熱アシスト磁気記録における高記録密度化に大きく貢献する。
【0076】
また、このように本発明の熱アシスト磁気記録方法にパターンドメディア53を用いることによって、垂直磁気記録層534の材料設計において、渦電流の発生効率の点からの制限がなく、材料選択の幅が広がる。例えば、バリウムフェライトに代表される酸化物磁性体等、相当に抵抗率ρの高い材料の選択も可能となる。
【0077】
なお、パターンドメディアとして、上述した形態以外に、形状や大きさを人工的にそろえた単磁区構造体、例えば微粒子がアレイ状に配置しているものも挙げられる。これらの場合、各単磁区構造体を1ビットとして記録を行う。このようなパターンドメディアにおいても、軟磁性裏打ち層が使用される場合には、図6(B)のパターンドメディアと同様に、単磁区構造体を選択的に加熱し、熱アシスト磁気記録における高記録密度化をさらに促進することが可能となる。
【0078】
図6は、図1に示した磁気記録再生装置の一実施形態における記録再生及び加熱制御回路13の回路構成を示すブロック図である。
【0079】
図6において、60は制御LSI、61は、制御LSI60から記録データを受け取るライトゲート、62はライト回路、63は、加熱コイル素子35に供給する高周波電流値の制御用テーブル等を格納するROM、65は、MR効果素子33へセンス電流を供給する定電流回路、66は、MR効果素子33の出力電圧を増幅する増幅器、67は、制御LSI60に対して再生データを出力する復調回路、68は温度検出器、69は、加熱コイル素子35の動作の制御を行う高周波素子制御回路をそれぞれ示している。
【0080】
制御LSI60から出力される記録データ信号は、ライトゲート61に供給される。ライトゲート61は、制御LSI60から出力される記録制御信号が書き込み動作を指示するときのみ、記録データをライト回路62へ供給する。ライト回路62は、この記録データ信号に従って書き込みコイル層342に書き込み電流を流し、書き込みコイル素子34によって磁気ディスクに書き込みを行う。
【0081】
制御LSI60から出力される再生制御信号が読み出し動作を指示するときのみ、定電流回路65からMR積層体332に定電流が流れる。このMR効果素子33により再生された信号は増幅器66で増幅された後、復調回路67で復調され、得られた再生データ信号が制御LSI60に出力される。
【0082】
高周波素子制御回路69は、制御LSI60から出力される高周波ON/OFF信号及び高周波電流制御信号を受け取る。この高周波ON/OFF信号がオン動作指示である場合、高周波電流が加熱コイル素子35の加熱コイル層352に印加される。この際の高周波電流値は、高周波電流制御信号に応じた値に制御される。制御LSI60は、書き込みコイル素子34による書き込み動作の直前にタイミング良く高周波ON/OFF信号を発生させ、温度検出器68による磁気ディスクの磁気記録層の温度測定値等を考慮し、ROM63内の制御テーブルに基づいて、高周波電流値制御信号の値を決定する。
【0083】
ここで、ROM63内の制御テーブルは、高周波電流−高周波磁界特性の温度依存性のみならず、高周波磁界電流値と熱アシスト作用を受けた磁気記録層の温度上昇分との関係、及び保磁力の温度依存性についてのデータも含む。このように、記録/再生動作制御信号系とは独立して、高周波ON/OFF信号及び高周波電流値制御信号系を設けることによって、書き込み録動作に単純に連動した加熱コイル素子35への通電のみならず、多様であってより適切な通電モードを実現することができる。
【0084】
なお、記録再生及び加熱制御回路13の回路構成は、図6に示したものに限定されるものでないことは明らかである。例えば、記録再生用のプリアンプに高周波電源を持たせて、ライトゲートの動作と連動させて加熱コイル素子35に通電することも可能である。
【0085】
図7(A)〜(C)は、本発明による熱アシスト磁気記録方法の実施形態を説明するタイムチャートである。
【0086】
図7(A)によれば、書き込み動作の前に、加熱コイル素子35に高周波電流Iを印加することによって、磁気ディスクの磁気記録層の所定部分に、周波数が例えば約80MHz〜約500MHzであってその振幅が垂直磁気記録層の位置において例えば約8kOe(640kA/m)〜約12kOe(960kA/m)である高周波磁界を印加して渦電流を発生させる。これによって、この所定部分を例えば約300〜約350℃にまで加熱してその保磁力Hを例えば約2kOe(160kA/m)〜約8kOe(640kA/m)にまで低下させる。
【0087】
この高周波磁界の印加の直後に、すなわち、磁気ディスクがわずかに回転して磁気記録層の加熱部分が隣接する書き込みコイル素子34の主磁極層の直下に達した時点で又はその直前に、ライトゲートをON状態とし、書き込みコイル素子34による書き込み動作を開始する。この場合、薄膜磁気ヘッドとして、図2に示すように、加熱コイル素子が、書き込みコイル素子のリーディング側に設置されているものを使用することが好ましい。なお、このヘッドの場合、加熱コイル素子及び書き込みコイル素子の最適な構造設計を、それぞれ独立して行うことが可能となる。その後、書き込み動作が終了した後、適宜、MR効果素子33による読み出し動作が行われる。
【0088】
次いで、他の実施形態を説明する。図7(B)によれば、書き込み動作の前に、加熱コイル素子35に高周波電流Iを印加することによって、磁気ディスクの磁気記録層の所定部分に、図7(A)と同様の高周波磁界を印加して渦電流を発生させる。これによって、この所定部分を加熱してその保磁力Hを図7(A)と同様に低下させる。
【0089】
この高周波磁界の印加が終了した後、磁気ディスクが1周又は2周以上回転するのを待ち、この磁気記録層の加熱部分が書き込みコイル素子34の主磁極層の直下に達した時点で又はその直前に、ライトゲートをON状態とし、書き込みコイル素子34による書き込み動作を開始する。この場合、使用される薄膜磁気ヘッドは、図2に示す形態のものに限定されず、例えば、加熱コイル素子が、書き込みコイル素子のトレーリング側に設置されているヘッドを使用することも可能である。ただし、書き込みコイル素子34による書き込みの際に、磁気ディスクが回転を経て冷却されることにより磁気記録層の保磁力Hが書き込み限界以下に低下していない状態であることが必要となる。その後、書き込み動作が終了した後、適宜、MR効果素子33による読み出し動作が行われる。
【0090】
なお、この場合、図7(C)に示すように、トラック1の所定部分を加熱した後にトラック2の所定部分を加熱し、その後、トラック1及び2の加熱部分に順次書き込みを行ってもよい。また、同一トラックの異なる2つのセクタの部分をそれぞれ加熱した後、加熱されたこれらのセクタの部分に書き込みを行ってもよい。さらに、磁気記録層の保磁力Hが書き込み限界以下に低下することがなければ、3つ以上のトラック又はセクタ間において適宜加熱動作と書き込み動作とを混合させることも可能である。
【0091】
さらに、以上の図7(A)〜(C)に示した実施形態において、高周波磁界の印加と書き込み磁界の印加とを共に行う1つの書き込み(加熱)コイル素子を備えた薄膜磁気ヘッドを使用することも可能である。この場合、同素子の構造において、両機能の発揮を好適化する設計が必要となる。
【0092】
以上、図7(A)〜(C)にその実施形態を示した本発明による熱アシスト磁気記録方法によれば、レーザ光源、レンズ系、近接場光発生素子等の光学系を一切使用せずに、磁気ディスクを局所的であって瞬時に効率良く加熱することができる。その結果、熱アシスト磁気記録における高記録密度化のみならず記録時間の短縮化にも貢献することができる。
【0093】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明による磁気記録再生装置及びHGAの一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明による薄膜磁気ヘッドの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示した薄膜磁気ヘッドの要部の構成を概略的に示す、図2のA−A線断面図、及びMR効果素子、加熱コイル素子及び書き込みコイル素子のスライダ端面における端の形状を示す平面図である。
【図4】本発明による熱アシスト磁気記録方法において、磁気記録媒体を加熱する原理を説明するための、加熱コイル素子及び磁気ディスクの断面図である。
【図5】本発明による熱アシスト磁気記録方法において、ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアを使用する実施形態を説明するための概略図である。
【図6】図1に示した磁気記録再生装置の一実施形態における記録再生及び加熱制御回路の回路構成を示すブロック図である。
【図7】本発明による熱アシスト磁気記録方法の実施形態を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0095】
10 磁気ディスク
100、500、530 ディスク基板
101、501、531 磁化配向層
102、502、532 軟磁性裏打ち層
103、503、533 中間層
104、504、534 垂直磁気記録層
105 保護層
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生及び加熱制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)
20 サスペンション
200 ロードビーム
201 フレクシャ
202 ベースプレート
203 配線部材
21 薄膜磁気ヘッド
210 スライダ基板
2100 ABS
2101 素子形成面
211 スライダ端面
33 MR効果素子
330 下部シールド層
332 MR積層体
332a 端部
334 上部シールド層
34 書き込みコイル素子
340 主磁極層
340a 端部
341 ギャップ層
342 書き込みコイル層
343 書き込みコイル絶縁層
344 補助磁極層
344a トレーリングシールド部
35 加熱コイル素子
350 主加熱磁極層
350a、354a 端部
351 加熱ギャップ層
352 加熱コイル層
353 加熱コイル絶縁層
354 補助加熱磁極層
36 素子間シールド層
37、38 端子電極
39 被覆層
40、51、54 磁束
41、52、55 渦電流
50 ディスクリートトラックメディア
53 パターンドメディア
60 制御LSI
61 ライトゲート
62 ライト回路
63 ROM
65 定電流回路
66 増幅器
67 復調回路
68 温度検出器
69 高周波素子制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体が有する磁気記録層の一部分又は該一部分の近傍に高周波磁界を印加して渦電流を発生させることによって該一部分を加熱し、該一部分の保磁力を一時的に低下させた状態にした上で、該一部分の少なくとも一部に書き込み磁界を印加して、該磁気記録媒体に書き込みを行うことを特徴とする熱アシスト磁気記録方法。
【請求項2】
前記高周波磁界を、前記磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に印加することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録方法。
【請求項3】
前記磁気記録層の一部分の近傍にある軟磁性裏打ち層の一部分に高周波磁界を印加して該磁気記録層の一部分を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録方法。
【請求項4】
前記磁気記録媒体として、ディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアを用いることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録方法。
【請求項5】
前記高周波磁界の印加を、前記書き込み磁界の印加を行う際に用いる垂直磁気記録用の書き込みコイル素子を用いて行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気記録方法。
【請求項6】
書き込みの際、磁気記録媒体の一部分又は該一部分の近傍に高周波磁界を印加して渦電流を発生させることにより該一部分を加熱するための高周波磁界発生素子と、信号磁界を発生させてデータ信号を書き込むための書き込みヘッド素子とを備えていることを特徴とする熱アシスト磁気記録用薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
前記高周波磁界発生素子が、高周波磁界を磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に印加するための主加熱磁極層と、一方の端部が該主加熱磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部が該主加熱磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助加熱磁極層と、少なくとも該主加熱磁極層及び該補助加熱磁極層の間を通過するように形成されており該主加熱磁極層及び該補助加熱磁極層に磁束を発生させるための加熱コイル層とを備えた加熱コイル素子であることを特徴とする請求項6に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項8】
前記薄膜磁気ヘッドが、信号磁界を感受してデータ信号を読み出すための読み出しヘッド素子をさらに備えており、該読み出しヘッド素子と、前記高周波磁界発生素子と、前記書き込みヘッド素子とが、基板の素子形成面側からこの順に積層されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項9】
前記書き込みヘッド素子が、書き込み磁界を磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に印加するための主磁極層と、一方の端部が該主磁極層の一方の端部に近接していると共に他方の端部が該主磁極層の他方の端部に磁気的に接続されている補助磁極層と、少なくとも該主磁極層及び該補助磁極層の間を通過するように形成されており該主磁極層及び該補助磁極層に磁束を発生させるための書き込みコイル層とを備えた垂直磁気記録用の書き込みコイル素子であることを特徴とする請求項8に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッドと、該薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、前記書き込みヘッド素子用の信号線、該薄膜磁気ヘッドが読み出しヘッド素子を備えている場合には該読み出しヘッド素子用の信号線、及び前記高周波磁界発生素子用の信号線とを備えていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項11】
請求項10に記載のヘッドジンバルアセンブリを少なくとも1つ備えており、少なくとも1つの磁気記録媒体と、該少なくとも1つの磁気記録媒体に対して前記薄膜磁気ヘッドが行う書き込み及び読み出し動作を制御するとともに、前記高周波磁界発生素子の加熱動作を制御するための記録再生及び加熱制御回路とをさらに備えていることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの磁気記録媒体が、磁気記録層と、該磁気記録層の下方に設けられた軟磁性裏打ち層とを備えていることを特徴とする請求項11に記載の磁気記録再生装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの磁気記録媒体が、ディスクリートトラックメディア又はパターンドメディアであることを特徴とする請求項12に記載の磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−34004(P2008−34004A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204511(P2006−204511)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】