説明

渦電流検出器と位相制御回路

【課題】探傷深度をより深くし、より小さな傷まで検出できる高感度な探傷センシング回路。
【解決手段】励磁器と受信器を被金属検体に近接又は接触させて、励磁器から発生する一次磁界により被金属検体に渦電流を誘導し、渦電流から発生する二次磁界による磁場の変化を受信器で検出し、受信器から得られる検出信号で金属探傷する装置において、受信器から得られた信号をダイナミックレンジ範囲まで一次増幅し、発振器から得られる信号の位相と振幅を調整して生成した位相調整信号を、これに加算して振幅の小さな合成信号を作り出し、この合成信号を再度ダイナミックレンジ範囲まで二次増幅することを特徴とする渦電流探傷装置、または被金属検体内部または内側にある異種金属を検出する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次磁界を被金属検体に印加することによって、渦電流を被金属検体に誘導し、渦電流から返される二次磁界を検出し、被金属検体の表層、及び内部、又は裏面の傷、空孔を高感度で検出する技術に関する。また、金属内にある別金属体の有無検出や測定に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性の金属検体を探傷、又は検査する場合、励磁コイルと受信コイルを被金属検体の表面に近接して配置し、励磁コイルに交流電流を流し、一次磁界を励磁コイルに発生させる。すると、被金属検体には、渦電流が誘導される。渦電流からは二次磁界が発生する。一次磁界と二次磁界の両磁場内にある受信コイルには、両磁界の合成鎖交磁束が受信起電力を誘起する。受信コイルの受信起電力である検出信号に基づいて傷の有無を判断する。
【0003】
励磁コイルと受信コイルを分離した探傷方法において、励磁コイルを被金属検体の表面である検出面に対して配置するに当たり、励磁コイル面を導電体の被探傷面と平行させる方式と、直交させる方式がある。さらに、特許文献1には、励磁コイルを門型断面形状の鉄心に巻いた励磁器と、受信コイルを棒状鉄心に巻いた受信器を励磁器の前側に配置して、さらに検出面に対して受信器を傾斜させる方式が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−241685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[背景技術の課題]
特許文献1では、被金属検体の励磁箇所の表面あたりでは、金属内部の渦電流から発生する二次磁界ベクトル方向が、励磁コイルから発生する一次磁界のベクトル方向と異なる事を利用し、門型フェライトによる励磁、及び門型フェライトの近傍に置かれる受信器の傾斜角度の調整によって、渦電流の流れの阻害から生まれる二次磁界の変化をより精細に検出できる構造を特徴としている。しかし、金属の裏面や内部の微少傷や金属内部の微少空孔をより深くまで検出するには、さらなる高感度化が求められる。
【0006】
特許文献1では、ステンレス材やアルミ材等の非磁性金属の厚みに対して出力信号が一貫して増加又は減少する出力特性によって、非磁性金属検体の厚さを測定することを主眼としていた。一方で、自動車用鋳物部品の鋳物巣を検出したい場合、溶接部のブローホールを検出したい場合、配管の内面の割れ、傷、欠損を検出いたい場合、等、必ずしもその被金属検体の厚さ情報は必要とされない。厚さが一定である、又は電磁界が浸み込む以上の充分な厚さがある被金属検体を検査対象とする場合、被金属検体の厚さ観測よりも、被金属検体の内部又は裏面の欠陥を、より小さな傷までより深くまで検出したい。
【0007】
特許文献1において、導電率が低い非磁性ステンレスを被金属検体とする場合、励磁一次磁界を無感状態として金属検体から返される二次磁界のみを受信させる。導電率が高いアルミ合金を被金属検体とする場合、ある一定レベルの励磁一次磁界と二次磁界を重ね合わせた受信を行う。この受信信号を増幅することによって、被金属検体の厚さに一貫した出力特性が得られる。その出力特性に基づきながら、裏面や内部の傷、減肉を検査する。しかし、厚さゼロから最大観測可能厚みまでをダイナミックレンジ内に収める必要から、受信信号の増幅度が限られている。また、受信可能となる渦電流流域の幅、長さ、厚さの体積範囲に対する微少傷や微少空孔の体積変化は小さく、同じくその信号変化レベルは小さく、一般の電気信号ノイズ成分に隠れてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決する為に、受信信号とほぼ同程度の振幅であり且つほぼ180度逆位相となる位相調整信号を受信信号に加えて、振幅の小さな合成信号とし、この合成信号をさらに増幅する事によって、被金属検体の裏面の微少傷または内部の微少空孔を大きな信号変化として捕らえる。被金属検体の厚さ情報はなくなるが、被金属検体の内部や裏面の傷をより小さな傷まで、より深くまで検出できる。
【0009】
被金属検体の厚み情報である背景信号波を、ほぼ同振幅逆位相の位相調整信号波と重ね合わせることによってこれを打ち消し、振幅レベルの低い合成波を得る。合成波として振幅レベルは小さくなるが、傷による信号振幅レベル変化がこれによって小さくなる事は無い。ただし、傷によって信号極性が変わる場合がある。この合成波を増幅する事によって、背景信号によって隠れていた僅かな傷信号のレベル変化を拡大することが出来る。
【0010】
背景信号を打ち消した事により、厚さに対する一貫した増減の出力特性は失われる。一方で、小さく深くに存在する傷を検出することが出来る。
【0011】
図1から3まで各信号波形を図示し説明する。図1の波形1は、受信器から得られた受信信号を、ダイナミックレンジ4の範囲内で一次増幅された波形であり、特許文献1に示された渦電流センサーが、ある一定厚みを有する無傷な被金属検体に一定距離で近接したまたは接触した場合に得られる。波形1の振幅が、被金属検体の無傷の厚さを表している。波形2は、この被金属検体に傷又は空孔が有る場合に当該渦電流センサーから得られる信号であり、傷による信号1の変化である。非磁性ステンレス用の当該渦電流センサーでは、傷、空孔、等の体積欠損は、正常波形1から振幅減少波形2となる。一方、アルミ用当該渦電流センサーでは、傷、空孔、等の体積欠損は、正常波形1から振幅減少の波形2となる場合と振幅増加の波形2となる場合の両方の場合がある。これは、一次磁界と二次磁界の混合度合いを決定する受信器の傾斜角度の設定に依存する。位相調整信号である波形3は、波形1の同振幅逆位相の信号であり、波形1と波形3を加算する事によって、波形1の振幅を非常に小さく出来る。信号増幅の飽和限界は、ダイナミックレンジ4に示されている。
【0012】
図2は、波形1と波形3を加算した合成信号の波形5を表している。合成信号波形5は、当該渦電流センサーが、ある一定厚みを有する無傷の被金属検体に一定距離で近接または接触した場合に得られる。波形6は、波形2が位相調整信号である波形3と加算されることによって得られる。当該渦電流センサーが被金属検体をスキャンし、無傷箇所から傷又は空孔を検出した場合、受信増幅信号である波形1は波形2に変化し、合成信号である波形5が波形6に変化する。正常波形1から振幅増加する波形2の場合、合成波の傷波形6は、受信信号と同極性を保つ。しかし、振幅減少する波形2の場合、合成波の傷波形6は逆極性に転じる。
【0013】
図3は、図2で得られた合成信号を増幅した波形を表す。図2で小さな振幅となった合成信号を、図3では、この合成信号をダイナミックレンジ範囲まで増幅している。増幅によって無傷の合成信号波形5は、波形7となり、傷の合成信号波形6は波形8となる。図1と図2では、傷による振幅レベル差は小さい。図3では、同じ傷による振幅レベル差は、増幅分拡大される。被金属検体の厚さに対する一貫した増減の出力特性は失われるが、深層または裏面の小さな傷や欠陥を高感度で検出できる。
【発明の効果】
【0014】
被金属検体の内部深層や裏面にある傷、空孔、凹み、等の欠陥を、より深くより小さな欠陥まで高感度に検出する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図4は、当概渦電流センサーから得られた信号と位相調整信号を加算して出力とする電気回路ブロック図を示す。発振器からは周波数選択された正弦波が発信される。これを電流増幅し励磁コイルを駆動する。受信コイルによって誘起された起電力は受信信号として一次増幅される。周波数フィルターによって、この信号からノイズ成分を除去し、周波数選択された周波数の信号成分を取り出して加算器の一方の入力に加える。加算器の他方の入力には、位相調整信号を加える。 位相調整信号は、発振器から取り出した信号を使い、正相/逆相選択と位相シフト器によって受信信号とほぼ180度逆位相の信号とし、さらに増幅器と減衰器を合わせた振幅調整器によって受信信号とほぼ同等の振幅信号に整えられる。加算器から出力された信号をもう一度周波数フィルターでノイズ成分を除去し、これを二次増幅器で増幅し、RMS/DC変換器で直流信号とし、出力バッファー回路によって電圧出力を得る。このブロック図では、180度位相シフト器を使用し、正相/逆相選択器を使用しているが、正相/逆相選択器は受信信号入力側で行っても良い。また180度位相シフト器の代りに、90度位相差波形を作り出し、360度位相シフト回路を使用してもよい。
【0016】
位相調整信号は、受信信号と完全な逆位相同振幅としない。位相調整信号を完全な逆位相同振幅として、合成信号をほぼゼロとすると、傷をスキャンする事によって現われる出力信号は、位相変化を主として振幅変化が現われ難くなる。振幅を取り出して出力としている当概回路では、傷信号が現われ難くなる。例えば空孔のような単一傷信号を一つの大きなピーク信号として取り出すには、当概渦電流センサーが無傷の被金属検体に近接または接触している状態で、位相調整信号の位相は、受信信号の180度逆位相からどちらかに5〜10度ずらす、又は振幅を受信信号の振幅から5%ほど上げる又は下げて、合成信号が小さくもある程度の大きさを持ったほうが良い。位相調整信号は、完全な逆位相同振幅からずらす事によって、傷を振幅差として現われ易くする。
【0017】
励磁周波数が充分低いと、被金属検体に流れる渦電流から返される二次磁界の位相は、一次磁界と180度逆位相とはならない。励磁周波数が低い場合、二次磁界の位相は、被金属検体の導電率、励磁周波数と渦電流密度に依存し、励磁箇所からの距離や被金属検体の厚さによっても変わり、90度から180度までシフトする。この二次磁界を受信する受信コイルから得られる受信信号も発振信号と逆位相とならない。従って、位相調整信号は、受信信号を観測して、受信信号のほぼ逆位相に位相を調節する必要がある。位相調整信号の位相と振幅は、被金属検体が常に同一であれば固定されてもよく、または、受信信号の位相検波と振幅検波によって自動調節されてもよい。
【0018】
図5は、図4ブロック図のうち正相/逆相選択から180度位相シフト器、振幅調整、加算器まで一連の電気回路例を示す。REFINには発振器から得られる発信信号を入力する。回路10は、反転増幅器で信号を反転する。スイッチ11で正相入力が逆相入力か選択する。回路12は位相シフト回路で、LOG可変抵抗器13で入力信号の位相を0度から180度までシフトさせる。回路14は減衰器であり、回路15は増幅器であり、それぞれリニア可変抵抗器で振幅を調整する。リニア可変抵抗器16はオペアンプの増幅率を調整する。回路10、12、15によって、受信信号とほぼ逆位相同振幅の位相調整信号を作り出す。 RFINには、一次増幅された受信器からの信号を入力する。回路17は、位相調整信号と受信器からの信号を加算し、RFOUTから加算結果である合成信号を出力する。
【0019】
受信信号と位相調整信号を加算し、これを二次増幅することによって、より深く小さな傷が探傷できる。この探傷方法は、探傷目的以外にも利用できる。ある非鉄金属板材の裏側に別の金属膜又は金属層が形成されており、非鉄金属板材の表側から当非鉄金属板材を通して裏側にある別の金属膜または金属層の有無の検出、またはその厚さを測定する目的にも利用できる。 図6では、センサー20は、非鉄表層金属21の内側にある裏層金属22の有無検出または厚さを測定する。非鉄表層金属21は、厚さ一定で傷も無い状態にある。
【0020】
また、非鉄金属板材の裏側にある別金属は、当金属板材に接触している必要が無く、近接していればよい。裏側金属が非鉄表側金属から離れていても、センサーがある表側の非鉄金属材を越してその裏側にある別金属の存在を検出できる。図7では、センサー20は、一定厚みで無傷の非鉄表側金属23を越して裏側金属24を検出する。非鉄表側金属23と裏側金属24はおよそ1mm離間している。図7では、非鉄表側金属と裏側金属間を空間ギャップとしているが、プラスチック、液体、セラミック、等の不導体が介在していても良い。ただし、ギャップ距離が大きい場合は、検出できない。
【0021】
さらに、励磁器と受信器を、被金属検体を挟んでその両側に配置する交流磁界透過型では、非鉄金属箱内の別金属の有無検査、多層状金属内部の別金属層の有無検出または厚さ測定にも利用できる。図8では、励磁器30と受信器31が同軸上に配置され、その間にある非鉄表面金属層と非鉄裏面金属層32に挟まれた非鉄中間金属層33の有無検出と厚さ測定を行う。励磁器と受信器は天地逆でもよい。
【0022】
図9では、励磁器30と受信器31が同軸上に配置され、非鉄箱型金属体34の内部にある金属片35を検出する。金属片は鉄でも良い。表皮効果により非鉄金属体内に浸透する交流電磁界の浸透深さが決定される。周波数が高いほど浅く、周波数が低いほど深い。これは同時に、周波数が低く、非鉄金属検体の厚さが薄い場合、交流電磁界は非鉄金属検体を透過する事を意味する。交流磁界透過型は、この透過効果を利用して、ある非鉄金属内部にある別の金属の検出や測定を行う。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、金属材料加工工程や組み立て工程での金属製品の欠陥や不良を発見する、又は金属部品の存在検出や厚みを測定し、品質の向上をはかる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】傷成分を含む受信信号波形と位相調整信号波形
【図2】傷成分を含む合成信号波形
【図3】増幅後の傷成分を含む合成信号波形
【図4】電気回路ブロック図
【図5】位相シフト器から加算器までの電気回路図
【図6】裏層金属の厚さ測定
【図7】表側金属から離間した裏側金属の検出
【図8】表裏金属層に挟まれた中間金属層の厚さ測定
【図9】箱金属体内に納められた金属片の有無検出
【符号の説明】
【0025】
1 一定厚みの被金属検体が無傷の場合に得られる正常信号波形
2 被金属検体に傷があった場合の異常信号波形
3 受信信号とほぼ逆位相同振幅の位相調整信号
4 ダイナミックレンジ
5 一定厚みの被金属検体が無傷の場合に得られる合成信号波形
6 被金属検体に傷があった場合の合成信号波形
7 一定厚みの被金属検体が無傷の場合に得られる合成信号を増幅した波形
8 被金属検体に傷があった場合の合成信号を増幅した波形
10 反転増幅器
11 正相/逆相選択スイッチ
12 位相シフト回路
13 位相シフト調整用LOG可変抵抗器
14 減衰器
15 増幅器
16 増幅率調整用リニア可変抵抗器
17 加算器
20 渦電流センサー
21 非鉄表層金属
22 裏層金属
23 非鉄表側金属
24 裏側金属
30 励磁器
31 受信器
32 非鉄表面金属層と非鉄裏面金属層
33 非鉄中間金属層
34 非鉄箱型金属体
35 金属片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁器と受信器を被金属検体に近接又は接触させて、励磁器から発生する一次磁界により被金属検体に渦電流を誘導し、渦電流から発生する二次磁界による磁場の変化を受信器で検出し、受信器から得られる検出信号で金属を探傷する装置において、
受信器から得られた信号をダイナミックレンジ範囲まで一次増幅し、発振器から得られる信号の位相と振幅を調整して生成した位相調整信号を、これに加算して振幅の小さな合成信号を作り出し、この合成信号を再度ダイナミックレンジ範囲まで二次増幅することを特徴とする渦電流探傷装置。
【請求項2】
励磁器と受信器を被金属検体の表面に近接又は接触させて、励磁器から発生する一次磁界により被金属検体及びその内部または内側にある異種金属に渦電流を誘導し、渦電流から発生する二次磁界による磁場の変化を受信器で検出し、受信器から得られる検出信号で被金属検体の内部または内側にある異種金属を検出する装置において、
受信器から得られた信号をダイナミックレンジ範囲まで一次増幅し、発振器から得られる信号の位相と振幅を調整して生成した位相調整信号を、これに加算して振幅の小さな合成信号を作り出し、この合成信号を再度ダイナミックレンジ範囲まで二次増幅することを特徴とする被金属検体内部または内側にある異種金属を検出する装置。
【請求項3】
互いに向き合う励磁器と受信器の間に被金属検体を通過させる又は在席させ、励磁器から発生する一次磁界により被金属検体に渦電流を誘導し、渦電流から発生する二次磁界による磁場の変化を受信器で検出し、受信器から得られる検出信号で被金属検体の有無またはその内部の状態を検出する装置において、
受信器から得られた信号をダイナミックレンジ範囲まで一次増幅し、発振器から得られる信号の位相と振幅を調整して生成した位相調整信号を、これに加算して振幅の小さな合成信号を作り出し、この合成信号を再度ダイナミックレンジ範囲まで二次増幅することを特徴とする励磁器と受信器を対向させた検出装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate