説明

渦電流法による内部欠陥評価方法

【課題】 簡便かつ迅速に内部欠陥を評価することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 鋼材の表面を渦電流プローブを用いて測定された信号からノイズ信号ときず信号とを抽出し、きず信号のピークの値をSとし、ノイズ信号のピークの値をNとして、S/N比を求め、S/N比のn乗(n>1)の値が2.5もしくは3.0以上の場合に内部欠陥が存在すると判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流法により内部欠陥の検出を行うことにより迅速な評価を可能とした内部欠陥評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラント内の配管には数多くの溶接部が存在する。このような溶接部に内部欠陥があると、計画通りの強度が確保されず使用中に漏洩を起す可能性があるため、内部欠陥の発生を検査する必要がある。
【0003】
放射線透過試験を用いればこのような溶接部内の欠陥は検出できるが、放射線を用いるため管理区域の設定などが必要になり、準備の大変さや経費等を考慮すると採用することは避けたい。また、例えば、工場内の配管の調査等入り組んだ場所における欠陥検出には適していない。したがって、より簡便かつ迅速な検査方法が求められている。
【0004】
簡便かつ迅速な検査方法には、例えば、渦電流による検出方法がある。渦電流による欠陥検出は、その原理的なことから表面欠陥の検出に使用されている。その特徴は、表面に接触せずに検査が出来、検査速度が速いことである。ただし、表面形状などの影響を受けやすく、その対策がいろいろ実施されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小山潔、星川洋、谷山紀之、「一様渦電流プローブを用いた溶接部の渦流探傷試験に関する研究」、非破壊検査第50巻5号(2001)p.321〜327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1によれば、渦電流法による欠陥の検出法は、欠陥によるピーク波(S)とノイズによるピーク波(N)の比(S/N)を取り、S/N比が4.7で検出できると評価している。
【0007】
しかしながら、この方法は、もっぱら表面欠陥検出用ツールとして活用されており、内部欠陥に活用された例は無い。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、渦電流法により内部欠陥を検出することを可能とした評価方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の渦電流法による内部欠陥評価方法は、鋼材の表面を渦電流プローブを用いて測定された信号からノイズ信号ときず信号とを抽出し、きず信号のピークの値をSとし、ノイズ信号のピークの値をNとして、S/N比を求め、S/N比のn乗(n>1)の値が2.5もしくは3.0以上の場合に内部欠陥が存在すると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の渦電流法による内部欠陥評価方法によれば、渦電流プローブを用いることにより簡便かつ迅速に内部欠陥を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の内部欠陥評価方法の試験に使用した試験片を示す図である。
【図2】本実施形態の内部欠陥評価方法で得られたきず信号の一例を示す図である。
【図3】本実施形態の内部欠陥評価方法の他の試験に使用した試験片を示す図である。
【図4】本実施形態の内部欠陥評価方法で得られたきず信号の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態である渦電流法による内部欠陥評価方法について、図を参照して詳細に説明をする。
【0013】
(評価例1)
本実施形態で用いる渦電流プローブには、特には限定が無く、例えば、マークテック株式会社のシータプローブ(商品名)を使用することが可能である。なお、本実施形態の渦電流プローブはこれに限られるものではなく、例えば、溶接部での比較試験を行い、結果が良好なものを選択すればよい。
【0014】
試験に使用した試験片を図1に示す。試験片の端面に表面からの距離を2〜5.5mmとしてφ3mmのドリル穴を空けることにより、表面からの深さ0.5、1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0mmの内部欠陥を模擬した。そして試験片上を図中のA方向に渦電流プローブをスキャンすることにより、各ドリル穴からのきず信号を検知した。
【0015】
図2は、得られたきず信号の一例を示す図である。図に示すように、端部信号の間にノイズ信号部分、及び、きず信号部分が現れる。ここで、きず信号のピークの値(電圧)をSとし、ノイズ信号のピークの値(電圧)をNとして、S/N比を求める。
【0016】
そして、一般的には渦電流法による欠陥の検出は、S/N比の値が3以上をきず検出良好とみなし、2.5以上であればきず検出とみなすことが可能である。
【0017】
まず、渦電流プローブを用いて内部欠陥の検出に使用できないか予備的な調査を行った。表1は、母材としてステンレス鋼(SUS316L)を用いて評価を行った結果を示す表である。
【0018】
【表1】



【0019】
表1に示すように、ステンレス鋼(SUS316L)(母材)の内部欠陥は、周波数を調整することで、2.0mm位まで検出できることが確認できた。
【0020】
次に、深さ方向に対してもっと深い位置まで欠陥の検出が出来れば、体積検査への活用も可能となる。そこで、評価法についてさらに検討した。
【0021】
表1からは、S/N比が3又は2.5より小さいと欠陥は検出できないが、一方、欠陥を検出はしているものの明瞭には判断できない状況であることもわかる。
【0022】
そこで、S/N比による評価ではなく、本実施形態ではS/N比を用いることを検討した。検討した結果を表2に示す。
【0023】
【表2】



【0024】
表2からは、S/N比をとることによって、ノイズ信号及びきず信号の差を大きくし、評価することで欠陥は深さ4mmまで検出できることがわかる。
【0025】
このように、S/N比が1より大きい場合は、大きい値を掛け合わせる事で更に大きくなる。従って、本実施形態の渦電流法による内部欠陥評価方法は、欠陥信号がノイズ信号より大きい場合に一般的に適用できる方法である。
【0026】
そして、S/N比が1.8以上又は1.6以上であれば、S/N比は、3又は、2.5以上となり、欠陥検出が可能となるので、深さ方向の欠陥検出に有効な方法となる。このように、S/N比のみでは欠陥検出深さは2mm程度であったものが、S/N比を使用することにより、3〜4mmと深いところまで欠陥検出が出来ることがわかる。
【0027】
表3は母材としてステンレス鋼(SUS304)を用いて評価を行った結果を示す表である。
【0028】
【表3】



【0029】
表からわかるように、S/N比を用いた評価では、深さ2.0mm程度までの検出しかできないが、S/N比を用いた評価では深さ3.0mmまでの評価が可能となる。
【0030】
(評価例2)
次に、この方法を溶接部へも適用した。図3は、試験に使用した試験片を示す図である。試験片は母材としてステンレス鋼(SUS316L)を用いている。
【0031】
試験片上に溶接線Bを形成し、試験片の端面の溶接線B上に表面からの距離を2.5、3.5mmとしてφ3mmのドリル穴を空けることにより、表面からの深さ1.0mm及び2.0mmの内部欠陥を再現した。
【0032】
図4は、得られたきず信号を示す図である。図に示すようにノイズ信号が大きく現れることがわかる。ステンレス鋼の溶接部は、高温割れ対策としてフェライトを数%含有するよう設計されており、オーステナイト相にフェライト相が混合した組織になっている。従って、渦電流法では、このフェライト相がノイズの原因になり内部欠陥の検出は非常に困難であった。
【0033】
表4は、母材としてステンレス鋼(SUS316L)を用いて評価を行った結果を示す表である。
【0034】
【表4】



【0035】
表4に示すように、SUS316Lの溶接部の欠陥検出は従来法のS/N比であれば1mmまでしか欠陥検出は出来ないが、本実施形態のS/N比であれば、2mm深さの欠陥まで検出できることがわかる。2mm深さ程度の欠陥まで検出できれば配管すみ肉溶接部等の欠陥を検出できるため実用上は有効といえる。
【0036】
さらに、図4からわかるように、1つのきずの検査に必要な時間は1秒強であり、迅速な溶接部の検査が可能となっていることがわかる。
【0037】
なお、本実施形態ではS/N比による説明を行ったがこれに限られず、S3/N3比や、S4/N4比等のS/N比のn乗(n>1)を使用して評価を行うことも考えられる。S3/N3比やS4/N4比を使用することにより、より深い位置の欠陥を検出することが可能となる。例えば、表3の評価をS3/N3比に拡張した場合を表5に示す。表5に示すように、深さ4.0mmまでの評価が可能となる。
【0038】
【表5】



【0039】
ただし、S3/N3比が2.5以上になるには、S/N比は1.4以上必要であり、ノイズとの差が小さくなる。したがって、S3/N3比やS4/N4比を使用する場合には、図1に示すような冶具や、図3に示すような溶接部を設けた冶具を作成して、このような予備調査用の冶具による測定結果に基づいてノイズの影響を見極めつつ、欠陥を検出する必要のあるきず深さから適宜n乗(n>1)を選択し、実際の測定を行えばよい。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面を渦電流プローブを用いて測定された信号からノイズ信号ときず信号とを抽出し、
前記きず信号のピークの値をSとし、前記ノイズ信号のピークの値をNとして、S/N比を求め、
前記S/N比のn乗(n>1)の値が2.5もしくは3.0以上の場合に内部欠陥が存在すると判定する
ことを特徴とする渦電流法による内部欠陥評価方法。
【請求項2】
前記n乗は、2乗であることを特徴とする請求項1に記載の渦電流法による内部欠陥評価方法。
【請求項3】
前記n乗は、予備調査用の冶具による測定結果に基づいて選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の渦電流法による内部欠陥評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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