説明

温度履歴表示材料及びそれを用いた包装材料

【課題】 特定の温度に達すると透明性が低下して当該温度に達したことを示す温度履歴表示材料を提供すること。
【解決手段】 本発明の温度履歴表示材料は、ワックスを含有する組成物からなるワックス組成物膜2を具備し、特定の温度以上に達する温度履歴を受けることでワックス組成物膜2の透明性が低下する。前記温度履歴を受ける前の前記ワックス組成物膜2のX線回折による回折角2θの21°付近に発現するアルキル鎖由来の回折ピークにおける、該ワックス組成物膜表面の法線方向の回折強度Iaと該法線と90度をなす方向の回折強度Ibとの比Ib/Iaが、前記温度履歴を受ける前に比べ、温度履歴を受けた後に小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の温度以上に達する温度履歴を受けると透明性が低下する温度履歴表示材料及びそれを用いた包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の温度以上に達したことを示す温度履歴表示材料に関する従来技術としては、例えば下記特許文献1、2に記載の技術が提案されている。これらの技術は、ワックスが融解するに伴って紙にしみ込むことで、紙が着色されたり透明になることを利用したものである。
【0003】
その一方で、特定の温度以上に達すると透明性が低下して不透明となることで温度履歴が表示できると、遮蔽効果等の種々の効果が期待できる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−62269号公報
【特許文献2】特開2001−83020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明は、特定の温度以上に達すると透明性が低下して当該温度に達したことを示す温度履歴表示材料、及びそれを用いた包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ワックスを含有する組成物からなるワックス組成物膜を具備し、特定の温度以上に達すると透明性が低下する温度履歴表示材料及びそれを備えた包装材料を提供するものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明の温度履歴表示材料の一実施形態を模式的に示したものである。図1に示すように、温度履歴表示材料1は、ワックス組成物膜(ワックス組成物膜の層)2及びワックス組成物膜2の両側に積層されたシート(樹脂層)3、4の三層の構成を有し、特定の温度以上に達すると透明性が低下するものである。
【0008】
透明性が低下する特定の温度は、温度履歴表示材料の用途に応じ、使用するワックス組成物の配合、特に使用するワックスの融点によって設定することができる。
【0009】
また、透明性の低下の度合いは、温度履歴表示材料の用途に応じ、使用するワックス組成物の配合、ワックス組成物を膜化する際の温度によって設定することができる。適当なワックスを配合し、そのワックスに適した温度でワックス組成物を膜化する事により、温度履歴を受ける前はヘーズ値が低く、特定の温度以上に達した場合にヘーズ値が高くなる膜が得られる。温度履歴を受ける前後でのヘーズ値の変化量としては、好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上である。温度履歴を受ける前のヘーズ値は60.0%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましく、30.0%以下がさらに好ましい。また、特定の温度以上に達する温度履歴を受けた後のワックス組成物薄膜2のヘーズ値は、60.0%を超える事が好ましく、70.0%以上がより好ましく、80.0%以上がさらに好ましい。
【0010】
温度履歴表示材料1は、後述する厚みを考慮すると、へーズ値は60.0%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましく、30.0%以下がさらに好ましい。ここで、温度履歴表示材料1のヘーズ値は、以下の式により計算される(JIS K7105)。
H = (Td/Tt)×100
ここで、Hはヘーズ(%)、Tdは拡散透過率(%)、Ttは全光線透過率(%)である。
【0011】
温度履歴表示材料1を構成するワックス組成物膜2は、ワックスを含有する組成物からなり、ワックス単独でも良い。ワックスの含有量は、用途に応じて適切に設定すればよく、好ましくは体積分率で20%以上、より好ましくは30%以上である。高い防湿性を得る必要がある場合には、ワックスが好ましくは体積分率で40%以上、より好ましくは50%以上である。
【0012】
ワックス組成物膜2には、高分子化合物を含ませることができる。この場合、ワックス組成物中のワックスの含有量は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは65〜75質量%である。ワックス組成物中の高分子化合物の含有量は好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜60質量%である。ワックス組成物膜2には、必要に応じ無機物や有機物の粉体、可塑剤、酸化防止剤や着色剤などの各種添加剤を適量含ませることができる。
【0013】
前記ワックスには、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックス等を用いることができる。
該植物系ワックスとしては、ライスワックス、カルナバワックス、木ろう、キャンデリラワックス等が、該動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ろう等が、該鉱物ワックスとしては、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等が、該石油系ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等が、該合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成炭化水素、硬化パーム油、ステアリン酸ステアリル、ジステアリルケトン等の油脂合成ワックス等が挙げられる。使用するワックスの融点に関しては、温度履歴表示材料が使用される温度によって適時選択する事ができる。
【0014】
また、前記ワックス組成物に生分解性が要求される場合には、該組成物の構成成分として生分解度(JIS K6950に定められた)が50%以上のものを用いることが好ましく、60%以上のものを用いることがより好ましい。
【0015】
前記高分子化合物は、ワックスの固体状態もしくは溶融状態の物性改質や機能付加等を目的として用いることができる。例えば、固体状態の力学強度(破断強度、衝撃強度、曲げ強度、柔軟性付与等)、他の材料への接着性向上や、溶融状態での溶融粘度向上等である。
【0016】
前記高分子化合物としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の結晶性高分子化合物、未架橋のゴムやポリエステル系、ポリアミド系、ポリスチレン系、ポリ(メタ)アクリル系の共重合体等の非晶性高分子化合物若しくは低結晶性高分子化合物等が挙げられる。ただし、混合する高分子化合物を微細に分散するためには、結晶性高分子化合物の場合にはワックスの融解完了温度以下である所望の混合温度において溶融するものが好ましく、非晶性高分子化合物の場合にはワックスの融解完了温度以下である所望の混合温度以下にガラス転移温度を有するものが好ましい。
【0017】
具体的には、前記結晶性高分子化合物としては、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンテレフタレートアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の低融点高分子化合物が挙げられる。また、前記非晶性高分子化合物としては、イソプレンゴム、天然ゴム、ポリd,l−乳酸等が挙げられる。
【0018】
ワックス組成物膜2に生分解性が要求される場合には、物性改質に高い効果を有する生分解性の高分子化合物として、上記の中でも特に天然ゴム又は合成イソプレンゴムが好ましく用いられる。ワックスと、天然ゴム又は合成イソプレンゴムとの混合において、本発明は非常に高い効果を発現し、従来得られなかった物性改質効果を有する組成物を、溶剤等を用いることなしに得ることができる。ワックスと天然ゴム又は合成イソプレンゴムを後述の方法により混合することで、天然ゴム又は合成イソプレンゴムをワックス中に極めて均一に混合させることが可能となり、ワックス組成物の溶融粘度を非常に高くしたり、ワックス融点以下でのワックスの脆さを大きく改善するなどの効果が得られる。
前記高分子化合物は、それぞれ単独で使用することもでき、二種以上を併用することもできる。
【0019】
また、前記有機物粉体としては、コーンスターチ、デンプン、各種高分子化合物粉体などが挙げられ、前記無機物粉体としては、酸化チタン、タルク、雲母、スメクタイト、シリカ等が挙げられる。
【0020】
特に、疎水性の高いワックス中に、親水性の比較的高い粉体を分散させる場合、ワックスの融点以上では粉体が凝集してしまい細かな分散が不可能であるが、後述の方法を用いることで高い分散性を得ることが可能となる。
【0021】
前記ワックス組成物には、混合に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、分散助剤、その他必要に応じて適宜添加剤等を含ませることもできる。
【0022】
ワックス組成物膜2は、組成物中のワックスの結晶が当該膜の面方向に配向している為、X線回折による該膜表面の法線方向の回折強度Iaと該法線方向と90度をなす方向の回折強度Ibとの比Ib/Iaが1.0よりも大きい値となる。Ib/Iaの値は、配向した結晶の割合が多い方が、透明性が高いという観点から1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。
ここで、X線回折によるワックス組成物膜表面の法線方向の回折強度Iaと、該法線方向と90度をなす方向の回折強度Ibは、例えば後述する実施例のような広角X線回折測定により求めることができ、その回折角2θが21°付近(20.8°から21.8°の間)に発現するアルキル鎖由来の回折ピークにおける、膜前記法線方向の回折強度Iaと、該法線と90度をなす方向の回折強度Ibを測定することにより求めることができる。
【0023】
上記ワックス組成物膜2が特定の温度以上に達する温度履歴を受けると、一部または全てのワックス結晶が一度融解し、さらにそれぞれの結晶の結晶化温度まで温度が下がる過程でせん断等を受けない場合には、結晶が乱雑な方向に成長し、該温度履歴を受ける前と比較して配向状態が乱れ、その結果Ib/Iaの値が小さくなり透明性が低下する。ワックスの種類やワックス組成物の組成によりIb/Iaとヘ−ズ値の関係は異なるため、Ib/Iaの好ましい範囲を一概に規定することは困難だが、一般的な値として挙げると、特定の温度以上に達する温度履歴を受ける前のIb/Iaの値は2.6以上、該温度履歴を受けた後のIb/Iaの値は2.4以下、該温度履歴を受けた前後でのIb/Iaの変化量は0.5以上であることが好ましい。
【0024】
温度履歴表示材料1のワックス組成物膜2の厚みは、その用途に応じて設定される。温度履歴表示性能を考慮すると、5μm〜2000μmが好ましく、10μm〜1000μmがより好ましい。薄すぎても、厚すぎても透明性の変化が小さくなり、温度履歴の確認を行い難くなる。温度履歴表示材料1を容器等の包装材の一部に用いることもできる。その場合には、その厚みは、10μm〜5000μmが好ましく、20μm〜3000μmがより好ましい。
【0025】
温度履歴表示材料1のワックス組成物膜2は、ワックス組成物の特性により優れた防湿性を有しており、包装材料の一部として用いることで、温度履歴表示機能と同時に防湿性能も付与することが可能である。その場合、ワックス組成物膜2の透湿度は用途に応じて設定される。温度履歴表示材料1を防湿性が要求される容器等の包装材に用いる場合には、その40℃、90%RHにおける透湿度は3.0g・mm/(m2・24h)以下が好ましく、2.0g・mm/(m2・24h)以下がより好ましい。ワックス組成物膜の透湿度は、所定厚みのフィルムを作製し、そのフィルムについてカップ法(JIS Z0208 条件B)によって測定した透湿度を厚み1mmのフィルムに換算した値である。この透湿度の換算値は、透湿度がフィルム厚みに反比例すると仮定し、カップ法で測定した透湿度にフィルム厚みを乗じることにより算出される。
【0026】
ワックス組成物膜2のヘーズ値は、低い程好ましいが、上述の厚みを考慮すると、60.0%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましく、30.0%以下がさらに好ましい。また、特定の温度以上に達する温度履歴を受けた後のワックス組成物薄膜2のヘーズ値は、60.0%を超える事が好ましく、70.0%以上がより好ましく、80.0%以上がさらに好ましい。該温度履歴を受ける前後でのヘーズ値の変化量としては、好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上である。
【0027】
前記シート3、4(図1参照)の材質は、温度履歴表示材料1の用途に応じて選択される。シート3、4としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂が挙げられる。
具体的には、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンとポリブチレンサクシネートとの混合物若しくは共重合物、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシバリレートとの共重合物、ポリブチレンサクシネートとポリブチレンアジペートとの混合物若しくは共重合物、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンサクシネートとの共重合物、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンアジペートとの共重合物が挙げられる。また、上記熱可塑性ポリエステル樹脂には、共重合成分として、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、p−オキシ安息香酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸や、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ナフタレンジオール等のグリコール成分の1種もしくは2種以上が、重合体中に共重合されていても良い。上記ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−メタクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩、無水マレイン酸等で変性された酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体、グリシジルメタクリレート等を共重合したエポキシ変性ポリエチレン等のオレフィン系樹脂等、上記ポリ(メタ)アクリル系樹脂としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート(以下、両方を総称して、(メタ)アクリレートと称する)、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの低級アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等の単独重合体またはこれらを共重合した共重合(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル共重合体等、上記ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリメチルスチレン等、上記ポリカーボネート系樹脂としては、ポリ(オキシカルボニルオキシビス(1,4−(3,5−ジクロロフェニレン))、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレンブチリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレンシクロヘキシリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレン−1,3−ジメチル−ブチリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレンジフェニル−メチレン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレンエチリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレンイソブチリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレンイソプロピリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレン−1−メチル−ブチリデン−1,4−フェニレン)、ポリ(オキシカルボニルオキシ−1,4−フェニレン−1−プロピル−ブチリデン−1,4−フェニレン)等のビスフェノール系の樹脂等、上記ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂が挙げられ、使用に際しては1種若しくは2種以上を併用して用いることができる。温度履歴表示材料1を生分解性とする場合には、シート3、4にも生分解性の材料を用いる。この場合シート3、4の材質としては、生分解性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルとの共重合系樹脂、又は脂肪族ポリカーボネート系樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトンとポリブチレンサクシネートとの混合物若しくは共重合物(PCL/PBS)、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシバリレートとの共重合物(PHB/PHV)、ポリブチレンサクシネートとポリブチレンアジペートとの混合物若しくは共重合物(PBS/PBA)、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンサクシネートとの共重合物(PET/PES)、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンアジペートとの共重合物(PBT/PBA)等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。またシート3、4には、ガラス、セラミック、金属、布、不織布、紙などの樹脂以外の材質を使用することもできる。シート3、4は同じ材質としても異なる材質としてもよく、透明な樹脂フィルムと紙、ガラスと金属といった透明性や各種の物性の異なる材質の組み合わせでもよい。ただし、紙などのワックス組成物が浸透しやすい素材を用いる場合には、表面処理を行うなどしてワックス組成物の浸透を抑制することが好ましい。
【0028】
シート3、4の、厚み及びヘーズ値は、温度履歴表示材料1の用途に応じて設定される。温度履歴表示材料1を包装材に用いる場合には、シート3、4の厚みは5μm〜4000μmが好ましく、10μm〜1000μmがより好ましく、ヘーズ値は、20.0%以下が好ましく、10.0%以下がより好ましい。ただし、シート3または4のいずれか一方の透明性が、ワックス組成物膜の透明性の変化を確認するのに必要なヘーズ値を有していればよく、もう一方は不透明でも構わない。
その他、用途に応じて、酸素などのガス透過度、光透過度、弾性率、衝撃強度、生分解性など各種物性が最適な温度履歴表示材料1を得ることができる。
温度履歴表示材料の他の好ましい形態としては、樹脂、金属、ガラス、セラミック、木材などの加工品の表面にワックス組成物膜を形成し、その上から透明なシート等で被覆した形態も可能である。また、異なる温度で透明性の変化が生じる複数の温度履歴表示材料を組み合わせて用いたり、異なる温度で透明性の変化が生じる複数のワックス組成物膜を持つ温度履歴表示材料を用いることで、受けた熱履歴の最高温度を記録することも可能である。
【0029】
温度履歴表示材料1は、温度履歴表示効果に加え、透明性が高く、薄くて防湿性に優れる点を利用することで種々の用途に適用することができる。例えば、容器本体表面の被覆に用いられるほか、各種包装材に用いられる。また、カップや箱等の形態に折曲加工や成形した容器等の各種成形体にも用いることができる。さらに、温度履歴表示材料1をプレス成形や真空圧空成形等により成形して単体でパウチ容器等の容器(成形体)としたり、該容器が内容器に用いられたいわゆるバッグ・イン・ボックスの形態の容器(成形体)にも用いることもできる。
【0030】
温度履歴表示材料1は、上述のような最終的な使用形態においても、前記その端部から前記ワックス組成物膜2の成分が外部にもれ出さないように上述の二つのシート3、4どうしの融着処理が施された形態とすることが好ましい。例えば、包装袋やパウチ容器の形態とする場合には、その封止部分において各材料の端部どうしを融着し、前記成分のもれを防止することが好ましい。また、容器本体に温度履歴表示材料1を被覆する容器の場合には、容器を覆うように圧空成形や真空成形によって温度履歴表示材料1を成形した後、不要な部分をカットする際に、加圧しながら溶断する等して二つの前記材料の融着処理を施し、前記成分のもれを防止することが好ましい。さらに、温度履歴表示材料1を成形して単体で容器の形態とする場合にも、温度履歴表示材料1による被覆の場合と同様に、不要部分のカット時に加圧しながら溶断する等して前記シート3、4の融着処理を施すことが好ましい。
【0031】
次に、本発明の温度履歴表示材料の製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0032】
実施形態の温度履歴表示材料の製造方法では、先ず、ワックス組成物膜の原料となるワックス組成物を次のようにして調製する。
【0033】
前記ワックスと前記被混合物とを該ワックスの融解完了温度未満の温度、好ましくはDSC測定により得た融解曲線から求めたワックスの融解ピーク温度以下の温度で混練機によって混合して組成物を得るのが好ましい。溶融ピークが複数ある場合は、融解熱量の最も大きなピークのピーク温度以下で混合することが好ましい。
かかる条件で混合することで、ワックスの融解によるワックスの急激な粘度低下もなく、被混合物に十分な剪断力が加わり、均一なワックス組成物を得ることができる。ワックスの融解完了温度未満の温度で混合すると、未融解状態のワックスの結晶が残っているため、ワックスを見かけ上高粘度の流動体として扱うことができるので、一般的に行われているプラスチック材料のコンパウンドと同様の方法により、ワックスと被混合物の混合を行うことができる。
【0034】
より好ましい混合温度の選定方法を述べる。すなわち、DSC測定により得た図2に示すようなワックスの融解曲線から、融解ワックス成分の全吸熱量をΔHと、混合温度よりも低温側の吸熱量のΔH’の比ΔH’/ΔHが、好ましくは0.7以下となる温度範囲、より好ましくは0.5以下となる温度範囲、さらに好ましくは0.3以下となる温度範囲を選定することで、一層良好な混合が可能となる。ワックスの融解開始温度よりも低い温度で混合を行うことに支障は無いが、結晶性の高い硬いワックスなどの場合には、混合温度で粘性を有することが均一な混合物を得る上で好ましい場合があり、その場合にはΔH’/ΔHの下限の温度として、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上となるよう選択する。同様の考え方として、ワックスの融解開始温度近傍もしくはそれよりも低い温度で混合する場合に、ワックスの可塑化効果を有するオイル成分などを適量(ワックス組成物中に好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下となるように)を添加することも可能である。
【0035】
最適な混合温度は、被混合物の物性に合わせて、前記の混合温度の範囲から適宜選択することができる。例えば、被混合物が非晶性高分子である場合は、高分子化合物のガラス転移温度以上で混合することが好ましい。被混合物が結晶性高分子化合物である場合は、高分子化合物の融点以上の温度であることが好ましい。被混合物が無機又は有機の粉体である場合は、粉体の均一分散を行いやすいよう、ワックスの融解完了温度よりも十分に低い温度(例えば、ワックスの融解開始温度よりも低い温度)で混合することが好ましい。ただし、ワックスのガラス転移温度よりも低い温度での混合は、ワックスが硬過ぎて、分散状態が悪化したり、混合装置に過度の負荷がかかるなどの悪影響がでる場合があるので、ワックスのガラス転移温度以上で混合することが好ましい。また、ワックスや被混合物の温度依存性を考慮し、前記の好ましい範囲の中でも、両者の物性が混合に最適な状態になるように混合温度を調整することが好ましい。
【0036】
本実施形態におけるワックスの融解完了温度、融解ピーク温度、ΔHとΔH’の比ΔH’/ΔHは、例えば、以下の方法で求めることができる。
測定機:セイコー電子工業(株)の型式DSC220
試料容器:品番PN/50−020(アルミ製オープン型試料容器、容量15μl)および品番PN/50−021(アルミ製オープン型試料容器クリンプ用カバー)
試料重量:約10mg
昇温速度、降温速度:5℃/min
測定温度範囲:用いるワックスに応じて、最適な範囲を選択する。融解完了温度および融解ピーク温度は、一度融解させた後に5℃/minの速度で結晶化させた後、再度5℃/minの速度で昇温させたときのデータを使用して求める。
具体例を挙げると、[第1昇温過程]−30℃から130℃、[降温過程]130℃(5分間保持)から−30℃、[第2昇温過程]−30℃から130℃と連続して測定を行い、第2昇温過程のデータを使用する。
融解完了温度:図3に示すように、融解ピークの高温側のベースラインの接線と、ピークの高温側傾斜ラインの1/5ピーク高さに位置する点の接線とが交差する点の温度を融解完了温度とする。複数のピークが存在する場合は、最も高温側に位置するピークを選択して、融解完了温度を求める。
主ピーク温度:融解曲線のピークの温度を前記データから求める。複数のピークを持つ場合は、融解熱量の最も大きなピークを選択し、それを融解ピーク温度とする。
ΔH:全ての融解ピークの吸熱量の合計値
ΔH’:混合温度以下の吸熱量
【0037】
ワックス組成物の調整にあたり、特にワックスの含有量が体積分率で40%以上の場合や大容量のバッチ式混練機を用いる場合には、マスターバッチ調整工程を取り入れる事で、効率良く均一なワックス組成物を調整できる。そこで、本実施工程におけるワックス組成物の調整方法では、マスターバッチ法によるワックスの調整方法について説明する。マスターバッチ法におけるワックス組成物の調整方法は、マスターバッチ調整工程と本練工程とに大別される。
【0038】
ここでは、ワックスと高分子化合物からなるワックス組成物で、ワックスの含有量が50重量%を超える場合を例に、ワックス組成物の製造方法を説明する。マスターバッチ調製工程においては、本練り工程に先立ち予めマスターバッチを調製する。マスターバッチは、該マスターバッチの質量基準で5〜45質量%のワックス及び55〜95質量%の高分子化合物を含む。ここで留意すべきことは、マスターバッチの組成が、目的物であるワックス組成物の組成に対して逆転していることである。即ち、マスターバッチでは高分子化合物が主成分であり且つワックスが副成分であるのに対して、目的物であるワッスク組成物ではワックスが主成分であり且つ高分子化合物が副成分である。このような組成のマスターバッチを予め調製しておき、該マスターバッチにワックスを添加し混練することで、ワックスと高分子化合物とが均一に且つ短時間で混合されることを本発明者らは知見したものである。特に大容量のバッチ式混練機を用いて混練する場合には、初めからワックス組成物の組成通りにワックスと高分子化合物とを混練しても、つまり主成分たるワックスに副成分である高分子化合物を混練しても、混練物中に高分子化合物の小粒が残存してしまい両者を均一に混合させることができない。
【0039】
逆に、5〜45質量%のワックスと55〜95質量%の高分子化合物とを混練すると、つまり主成分たる高分子化合物に副成分たるワックスを混練すると、両者は容易に混合し、両者が均一に混合されたマスターバッチが得られることを本発明者らは知見した。そして、このようにして得られたマスターバッチにワックスを添加して、高分子化合物の濃度を希釈することで、ワックスと高分子化合物とが均一に混合して、目的物であるワックス組成物が得られる。したがって、ワックスの含有量が少ない場合には、マスターバッチ法を用いる必要はない。
【0040】
ワックス組成物の製造には、各種の混練機、例えばバッチ式の加圧ニーダー、オープンニーダー、二軸混練機、ロール混練機等を用いることができる。これらの混練機においては、混練時の温度制御の観点から、混合槽や、ローター及びスクリューなどの可動部を冷却できる仕様となっていることが好ましい。
【0041】
バッチ式の混練機を用いてワックスと高分子化合物とを混練する場合には、該混練機に投入するワックス及び高分子化合物の総容量が、該混練機の容量の60〜100%、特に75〜85%となるように、ワックス及び高分子化合物を該混練機に投入することが、十分な剪断力下に両者が混合されるようになる点から好ましい。混合槽の容量は、使用するバッチ式の混練機のタイプに応じて様々であり特に制限はない。目的物であるワックス組成物の生産量に応じて適切な容量を選択すればよい。
【0042】
マスターバッチの調製においては、ワックスの融解完了温度未満の温度で該ワックスと高分子化合物とを混練することが好ましい。ワックスの融解完了温度未満の温度であれば未融解状態のワックスの結晶が残っていることから、ワックスを見かけ上高粘度の流動体として扱うことができるので、一般的に行われているプラスチック材料のコンパウンドと同様の方法により、ワックスと高分子化合物とを混練させることができる。また、ワックスの融解に起因するワックスの急激な粘度低下がなく、高分子化合物に十分な剪断力が加わり十分な混練がなされる。
【0043】
マスターバッチの調製においては、ワックス及び高分子化合物を混練機に投入する手順に特に制限はない。例えば、ワッスクの全量と高分子化合物の全量を何れも一括して混練機に投入し混練する方法を採用することができる。しかし、この方法よりも、全量の高分子化合物を混練機に一括投入し、次いでワックスを混練機に分割投入する方法を採用する方が、両者を一層均一に混合させ得ることが判明した。
【0044】
ワックスを分割投入する場合には、一回当たりのワックスの投入量が、先に混練機に投入してある非晶性高分子の全量に対して1〜15質量%、特に2〜6質量%となるようにすることが好ましい。つまり一回当たりのワックス投入量を比較的少量とすることが好ましい。このような分割投入をすることで、ワックスと高分子化合物とを一層均一に混合させることができる。
【0045】
またワックスを分割投入する場合には、分割投入の初期においては、投入量を相対的に少量とし、後期においては相対的に多量とすることが好ましい。特に、ワックスの投入回数に連れてその投入量が漸次多くなるようにすることが好ましい。このような分割投入をすることで、混練時間を短縮化できる。混練時間の短縮は、製造コストの低減のみならず、剪断力等に起因する高分子化合物の分子量低下を防止する点から特に効果的である。
【0046】
以上の操作によってマスターバッチが得られる。次に得られたマスターバッチとワックスとを混練する本練り工程を行う。この場合、マスターバッチを混練機から一旦取り出し、別の混練機を用いて本練り工程を行うことができる。その場合の混練機としては、マスターバッチ調製工程において用い得るとして先に列挙したものと同様の混練機を用いることができる。或いは、マスターバッチ調製工程で用いた混練機を引き続き用いて本練り工程を行ってもよい。マスターバッチ調製工程で用いた混練機を引き続き用いる場合であっても、マスターバッチを混練機から一旦取り出し、その一部を用いることが好ましい。この理由は次の通りである。先に述べた通り、マスターバッチ調製工程において、十分な剪断力下にワックスと高分子化合物とを混合させるには、混練機に投入する両者の総容量を混練機の混合槽の容量の60〜100%とすることが好ましい。従って、マスターバッチが出来上がった時点においては、混練機の混合槽はマスターバッチでほぼ満たされている。それ故、マスターバッチを取り出さずに更にワックスを添加する余裕がないこともあるからである。
【0047】
マスターバッチ調製工程と同様に本練り工程においても、バッチ式の混練機に投入するワックス及びマスターバッチの総容量が、該混練機の容量の60〜100%、特に80〜90%となるように、ワックス及びマスターバッチを混練機に投入することが、十分な剪断力下に両者が混合されるようになる点から好ましい。
【0048】
混練時の温度条件もマスターバッチ調製工程の場合と同様とすることができる。つまりワックスの融解完了温度未満の温度で混練することが好ましく、またワックスのガラス転移温度以上で混練することも好ましい。更に高分子化合物のTm以上もしくはガラス転移温度以上で混合することも好ましい。
【0049】
本練り工程においては、ワックス及びマスターバッチを混練機に投入する手順に特に制限はない。例えば、ワッスクの全量とマスターバッチの全量を何れも一括して混練機に投入し混練する方法を採用することができる。また、全量のマスターバッチを混練機に一括投入し、次いでワックスを混練機に分割投入する方法を採用することもできる。後者の方法の方が、ワックスとマスターバッチとを一層均一に混合させることができる。この事情はマスターバッチ調製工程の場合と同様である。
【0050】
ワックスを分割投入する場合には、一回当たりのワックス投入量を比較的少量とすることが好ましい。具体的には、一回当たりのワックスの投入量が、先に混練機に投入してあるマスターバッチの全量に対して5〜50質量%、特に6〜30質量%となるようにすることが好ましい。このような分割投入をすることで、ワックスとマスターバッチとを一層均一に混合させることができる。
【0051】
またワックスを分割投入する場合には、分割投入の初期においては、投入量を相対的に少量とし、後期においては相対的に多量とすることが好ましい。特に、ワックスの投入回数に連れてその投入量が漸次多くなるようにすることが好ましい。このような分割投入をすることで、マスターバッチ調製工程の場合と同様に混練時間を短縮化できる。
【0052】
以上の本練り工程によって、ワックスと高分子化合物とが均一に混合したワックス組成物が得られる。得られたワックス組成物は、混練中に気泡を含むことがある。その気泡を抜くために脱泡を行ってもよい。脱泡には一般的な方法を用いることができる。例えば、減圧下にある恒温槽中でワックス組成物をワックスの融解完了温度以上の温度に保持する方法がある。また混練操作を、減圧手段を持つ混練装置を用いて減圧下でワックスの融解完了温度以上で混合する方法などが用いられる。
【0053】
二軸混練機などを用いて混練を行う場合には、ワックスの融解完了温度未満の温度に制御した混合ゾーンの後ろに、ワックスの融解完了温度以上の温度に加熱した減圧ゾーンを設けて脱泡するという方法も選択できる。複数の二軸押出機、または二軸押出機と単軸押出機を組み合わせて、それぞれで混合と脱泡を行うことも可能である。勿論ワックス組成物の具体的な用途や、本練り工程以降のワックス組成物の加工内容によっては、脱泡の必要がない場合もある。
【0054】
ワックス組成物中への有機物粉体や無機物粉体、可塑剤、酸化防止剤などを添加する場合は、添加する物質により適切なタイミングで、必要に応じて分割して投入すればよい。
【0055】
本実施形態におけるワックス組成物の調製方法によれば、前記ワックス組成物を短時間で収率よく製造することができ、被混合物をワックス中に均一に分散させることができる。特に、ワックスと天然ゴムもしくはイソプレンゴムとの混合を行った場合には、ワックスが未溶融の状態であっても極めて均一な分散が可能となる。
【0056】
次に、上述のようにして得られたワックス組成物をその99%融解温度以下においてシート3、4の間に挟んでワックス組成物を膜化しながら積層させる。
この様にしてワックス組成物が膜化される際、結晶が面方向に配向した構造になり、透明性が高く、防湿性がより向上したワックス組成物膜が得られる。なお、膜化時のワックス組成物の好ましい温度は、用いるワックスの種類によって異なる。
【0057】
ここで、ワックス組成物の99%融解温度とは、DSC測定により得たワックス組成物の融解曲線から、融解成分の全吸熱量ΔHと、膜化温度よりも低温側の吸熱量ΔH”の比ΔH”/ΔHが、0.99になる温度である。一般的な傾向としては、膜化する温度が低いほどヘーズ値を下げることができるため、膜化する温度、使用するワックスの融点を調整することで、透明性と透湿性を制御することができる。できるだけヘーズ値を小さくするという考えに立つと、99%融解温度よりも10℃以上低い温度が好ましく、より好ましくは20℃以上低い温度、さらに好ましくは30℃以上低い温度が好ましい。ただし、あまり低すぎる場合にはワックス組成物が硬くなりすぎ膜にすることが難しくなるので、99%融解温度よりも100℃以上低い温度での処理は良好な結果をもたらさない場合があるので注意が必要である。
【0058】
本実施形態では、図4に示すように、前記ワックス組成物をシート3、4の間に供給し、これらを所定温度に設定された一対のローラー5、6間に送り込んで圧延させ、ワックス組成物を膜化しながらシート3、4と積層させ、温度履歴表示材料1とする。
【0059】
シート3、4に透明な材料を用いた場合、このようにして製造された温度履歴表示材料1は、前記防湿性及び透明性を有するワックス組成物膜2を具備しているため、防湿性及び透明性にも優れている。
【0060】
ワックス組成物膜2のみを得る場合には、前記シート3、4のワックス組成物との接触面に剥離性処理を施しておき、温度履歴表示材料1を作製した後シート3、4を分離することによって得ることができる。剥離性処理には、シリコーン樹脂の塗布等の公知の処理方法が採用される。
【0061】
ワックス組成物膜2及び温度履歴表示材料1は、上述した実施形態の製造方法以外に、以下の実施形態によって製造することもできる。なお、得られたワックス組成物膜や温度履歴表示材料のワックスの結晶の配向性、透明性及び透湿性の制御は前述の方法と同様にして行うことができる。
【0062】
この実施形態では、前記ワックス組成物を両側から前記シート3、4となる樹脂層で挟んだ構造の積層中間体を得る。この積層中間体は、前述の一対のローラーによって作製しても良いし、該樹脂層を形成する樹脂とワックス組成物を共押出しする事によって作製する等の方法もある。また、この積層中間体のワックス組成物層は、ワックスの結晶が配向している必要は無いので、成形温度等の条件は、積層中間体を作製するのに適した条件を選択すれば良い。積層中間体のワックス組成物膜層の厚みは、前記温度履歴表示材料1の所望の厚みよりも1〜100%程度厚くしておく事が好ましく、3〜50%である場合がより好ましく、5〜30%である場合がさらに好ましい。該積層中間体のワックス組成物膜の両側の樹脂層に関しては、次の工程で厚みが減少する場合には、温度履歴表示材料1のシート3、4が所望の厚みとなる様に、減少する分を見越した厚みとする。
【0063】
次に、積層中間体を前記ワックス組成物の99%融解温度以下において圧延又は延伸し、ワックスの結晶が面方向に配向した、所望の厚みの透明材料を得る。圧延する場合には、前記図4の様な一対のロールを使用しても良いし、プレス装置を使用する方法もある。
延伸する場合には、1軸延伸又は2軸延伸等の通常の方法が使用できる。延伸倍率は、延伸前後の面積比で1.1倍以上が好ましく、より好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上である。この場合には、前記シート3、4の材質には、前記ワックス組成物の99%融解温度以下で延伸できることが可能なものを選択する必要がある。したがってシート3、4の材質には、ガラス転移温度が低く、融点もしくは結晶化度が低い樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
本実施形態の温度履歴表示材料の製造方法は、上述のような積層中間体の作製工程と、積層中間体から温度履歴表示材料への加工工程を具備しているため、この加工工程を複合容器や温度履歴表示材料の製造工程に組み込むことで、温度履歴表示材料を備えた複合容器や温度履歴表示材料を効率よく製造することができる。
【0065】
次に、本発明の包装材料をその好ましい実施形態として前記実施形態の温度履歴表示材料を用いた包装材料に基づいて説明する。
【0066】
温度履歴表示材料1を用いた包装材料の実施形態としては、包装材料本体の表面に、前記温度履歴表示材料1が被覆されてなる形態、温度履歴表示材料1自体を、真空成形、圧空成形した形態、いわゆるパウチ容器のように温度履歴表示材料1で容器の部材を形成しこれを組み立てた形態、温度履歴表示材料をラミネートした板紙材を形成し、該板紙材で形成した形態等が挙げられる。
【0067】
本実施形態の包装材料は、温度履歴表示機能を有しているため、当該包装材料がその温度に達したか否かを識別することができる。従って、例えば、食品の搬送中に高温にさらされていないか、調理過程で適切な温度に達したか等の把握を容易に行うことができる。
また包装材料以外にも、各種の機器や装置の運転中の温度管理、高温で劣化する化学物質や工業材料などの保管や輸送における温度管理などに使用する事ができる。
【0068】
本実施形態の包装材料の用途に特に制限はなく、食品容器のほか、洗剤等の日用品容器、各種工業素材の容器等の各種包装材料に適用することができる。
【0069】
本実施形態の容器は、温度履歴表示材料1が防湿性及び透明性を有しているため、特定の温度に達する前は包装材料本体の外観や内容物の視認性を損なわずに高い防湿性を備えたものである。
【0070】
もちろん、温度履歴表示材料1は、材料単体として包装材料などに貼付けて使用することもできる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は本実施例に何等制限されるものではない。
【0072】
下記実施例1〜2のようにして温度履歴表示材料を作製した。そして、得られた膜温度履歴表示材料について下記のような広角X線回折試験により前記回折強度の比Ib/Iaを求めるとともに、JIS K7105に準じてヘーズ値を測定し、さらに前述のカップ法(JIS Z0208 条件B)に準じた方法で透湿度を測定した。それらの結果を表1に示した。また、得られた材料の温度履歴表示の評価を下記のようにして行った。その結果を表2に示す。
【0073】
〔実施例1〕
<ワックス組成物の調製>
高分子化合物〔イソプレンゴム(日本ゼオン(株)製、品番Nipol−IR2200)〕810gを3リットル加圧ニーダーに一括投入し、ワックス〔マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋(株)製、品番「Hi−Mic−1045」、融点70℃)〕1890gを10回に分割して前記加圧ニーダーに投入した。そして前記加圧ニーダーでこれらを合計20分間混練し、ワックス:高分子化合物=7:3(質量比)のワックス組成物を調製した。
【0074】
<温度履歴表示材料の作製>
40℃に温度調節した一対のロールに厚み25μmの二軸延伸ポリ乳酸フィルムの材料をセットし、これらの材料の間に前記ワックス組成物を置いて5分間予熱した。予熱後の該ワックス組成物の温度は39℃であった。次いで40℃に温度調節した前記ロールを周速0.3m/分で回転させ、前記ワックス組成物を前記シートで挟んだ状態で前記ローラー間の隙間に送り込んで圧延し、該ワックス組成物を膜化しながら該シートと積層させ、該ワックス組成物層の厚み200μm、全積層材料厚み250μmの温度履歴表示材料を得た。
【0075】
〔実施例2〕
ワックスに日本精蝋(株)製、品番「Hi−Mic−1070」、融点75℃)〕を用いたことと、一対のロールを50℃に温調した以外は実施例1と同様にして、温度履歴表示材料を得た。ただし、予熱後の該ワックス組成物の温度は49℃であった。
【0076】
<広角X線回折測定>
作製した温度履歴表示材料を10mm×2mmで圧延方向に垂直に切り出し、10層に積層したものを試料とした。そして、(株)RIGAKU社製、湾曲IPX線回折装置の型式RINT−RAPIDを用い、管電圧40kV、管電流36mAで発生させたCuKα線を、コリメータ(100μmφ)を用い、装置付属の繊維試料台に固定した試料の断面からX線を照射した。カメラ長は127.4mm、照射時間は500秒とし、透過回折像をイメージングプレートにより記録した。
【0077】
〔温度履歴表示の評価〕
得られた温度履歴表示材料を所定の温度に設定した熱風恒温槽中に10分間静置した後、該恒温槽から取り出して室温まで自然冷却させた。そして、透明性の変化を目視にて下記三段階で評価した。
◎:白化
○:透明感低下
×:変化なし
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表2に示したように、本発明の温度履歴表示材料は、特定の温度以上に達すると透明性が低下し、特定の温度に到達したことを表示できることがわかった。また、実施例1において80℃の恒温槽内で処理した温度履歴表示材料のワックス組成物のX線回折強度比(Ib/Ia)は2.00、同様に実施例2において90℃の恒温槽内で処理した温度履歴表示材料のワックス組成物のIb/Iaは1.39と小さくなっており、ワックス結晶の配向状態が変化していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の温度履歴表示材料の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のワックス組成物膜を構成するワックス組成物の一実施形態についてのDSC曲線を示す図である。DSC測定結果から融解完了温度、融解ピーク温度を求める説明図である。
【図3】DSC測定結果から融解完了温度、融解ピーク温度を求める説明図である。
【図4】本発明の温度履歴表示材料の製造工程の一部を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 温度履歴表示材料
2 ワックス組成物膜(ワックス組成物膜の層)
3、4 シート(樹脂層)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスを含有する組成物からなるワックス組成物膜を具備し、特定の温度以上に達する温度履歴を受けることでワックス組成物膜の透明性が低下する温度履歴表示材料。
【請求項2】
前記温度履歴を受ける前の前記ワックス組成物膜のX線回折による、回折角2θの21°付近に発現するアルキル鎖由来の回折ピークにおける、該ワックス組成物膜表面の法線方向の回折強度Iaと該法線と90度をなす方向の回折強度Ibとの比Ib/Iaが、前記温度履歴を受ける前に比べ、前記温度履歴を受けた後に小さくなる請求項1記載の温度履歴表示材料となる。
【請求項3】
前記温度履歴を受ける前のへーズ値が60%以下であり、前記温度履歴を受けた後のヘーズ値の変化量が20%以上である請求項1又は2に記載の温度履歴表示材料。
【請求項4】
前記ワックス組成物に、高分子化合物を含有する請求項1〜3の何れかに記載の温度履歴表示材料。
【請求項5】
前記高分子化合物が天然ゴム又はポリイソプレンである請求項4記載の温度履歴表示材料。
【請求項6】
前記ワックス組成物膜の層及びその両側の樹脂層の少なくとも三層の構成を有する請求項1〜5の何れかに記載の温度履歴表示材料。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の温度履歴表示材料を備えた包装材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−78372(P2007−78372A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263062(P2005−263062)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】