説明

温度推定装置、温度推定方法、圧延機制御装置

【課題】圧延機の制御に用いる温度を、精度良く遅延なく推定する。
【解決手段】熱間圧延機で圧延される圧延材2の温度推定装置20において、復熱中の圧延材の温度履歴の予測値を求める温度履歴計算部21と、復熱中の圧延材の温度履歴の測定値を求める温度履歴測定部24と、前記予測値に基づき相関関数を求める相関関数導出部22と、前記予測値と前記測定値と前記相関関数に基づき前記圧延材の温度の推定値を求める温度履歴比較部23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延機の温度推定装置、温度推定方法、圧延機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延工程において、所望の寸法および材質を有する鋼材等の圧延材を生産するためには、圧延材の温度を精確に制御することが重要である。熱間圧延工程の中でも圧延材の温度が低くなる仕上げ圧延工程および冷却工程では、圧延材の内部で転位の蓄積、相変態などの現象が起きるため、圧延材の温度制御が特に重要である。
【0003】
実際の熱間圧延工程では圧延材の温度に基づいて圧延機を制御するために、数箇所で圧延材の表面温度を測定して、伝熱方程式を用いて、全工程における圧延材の内部温度を推定している。伝熱方程式を用いて圧延材の温度を計算する手法は周知であり、例えば非特許文献1に開示されている。
【0004】
圧延材の温度制御における課題の一つは復熱時間による遅延である。圧延材に水を噴射すると、圧延材表面が圧延材中心より速く冷却される。水噴射が終了すると、圧延材中心から表面に向けて熱が伝わり、圧延材表面の温度が上昇する。この圧延材の表面温度が上昇する現象が復熱である。復熱は圧延ロールと接触した後にも起きる。復熱中は圧延材表面温度と圧延材内部温度の差が大きいため、復熱終了を待って圧延材表面温度を測定し、圧延材内部の温度制御に用いる。そのため、復熱終了までの待ち時間が遅延になり、圧延機制御の応答性が低下する。
【0005】
特許文献1は、復熱後の表面温度TAiを所望温度‘TAiにするために、冷却前の表面温度TCiと復熱中の表面温度TBiを利用する。TCiとTBiを測定して、TBiをTCiの1次関数である目標温度‘TBi=C1−C2・TCiになるように冷却水の流量をフィードバック制御して冷却水の流量を調節することが開示されている。特許文献1によれば、フィードバック制御によって生じる、復熱時間のための検出遅れを短縮した状態で、より精度よく所定温度に下げることができるので、引張り張力等の品質を安定化することができる。
【0006】
特許文献2は、水冷装置の後段に、圧延方向に走査する走査式温度計、または圧延方向に配置された複数の固定式温度計を設けることが開示されている。特許文献2によれば、水冷後の圧延材表面温度を複数箇所で測定して、圧延材表面の水の影響がなくかつ復熱が終了した箇所で測定された温度を制御に供することで、多様な鋼種や板厚などの通板条件に対応できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−317941号公報
【特許文献2】特開平6−307936号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会著、「板圧延の理論と実際」、日本鉄鋼協会、1984年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された技術は、圧延材の表面状態に大きく依存する表面温度を測定するため、圧延材の表面に高温酸化膜(以下、スケール)や冷却水が存在すると、表面温度の測定誤差が生じる。特に、復熱中の圧延材の表面温度の測定値を圧延機の制御に用いる場合、圧延材の表面に残った冷却水によって表面温度の測定値の精度が低くなるという課題がある。
【0010】
特許文献2に開示された技術は、圧延材の復熱が終了して且つ圧延材表面に水がない状態で表面温度を測定し、その温度を用いて圧延機を制御する。しかし、圧延材表面のスケールによって表面温度の測定誤差が生じるのは特許文献1と同様である。また特許文献2の技術は、復熱終了後の温度測定値を用いるため、温度測定が遅延するという課題がある。
【0011】
本発明の目的は、圧延機の制御に用いる温度を、精度良く遅延なく推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明は、熱間圧延機で圧延される圧延材の温度推定装置において、復熱中の圧延材の温度履歴の予測値を求める温度履歴計算部と、復熱中の圧延材の温度履歴の測定値を求める温度履歴測定部と、前記予測値に基づき相関関数を求める相関関数導出部と、前記予測値と前記測定値と前記相関関数に基づき前記圧延材の温度の推定値を求める温度履歴比較部とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、熱間圧延機で圧延される圧延材の温度推定方法において、復熱中の圧延材の温度履歴の予測値を求め、復熱中の圧延材の温度履歴の測定値を求め、前記予測値に基づき相関関数を求め、前記予測値と前記測定値と前記相関関数に基づき前記圧延材の温度の推定値を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧延機の制御に用いる温度を、精度良く遅延なく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】熱間圧延工程の一部および圧延材の温度変化を示す模式図。
【図2】制御の構成を示す概略図。
【図3】圧延材温度推定方法を示すフローチャート。
【図4】相関関数導出方法の1復熱箇所分を示すフローチャート。
【図5】温度履歴測定部の一例を示す概略図。
【図6】温度履歴比較方法の一例を示すフローチャート。
【図7】表面温度履歴の予測値の一例を示すグラフ。
【図8】表面温度履歴の測定値の一例を示すグラフ。
【図9】温度履歴比較方法の中間データを示すグラフ。
【図10】推定した圧延材温度と真の圧延材温度の比較を示すグラフ。
【図11】圧延材温度制御の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例を薄板の熱間圧延工程を用いて説明する。
図1は、熱間圧延工程の一部および鋼板の温度変化を示す模式図である。スラブ状の圧延材は加熱炉100で圧延材全体が均一温度、例えば1200℃になるように加熱される。スラブ状の圧延材の板厚は例えば200mmである。スケールブレーカ(scale breaker)101から水を噴射して、スラブ表面に生成したスケールが除去される。スラブの表面温度(実線)は水の噴射により一旦低下して、噴射終了後に復熱する。スラブの中心温度(破線)は単調低下する。
【0017】
均一に加熱された圧延材は粗圧延機102を一回通過して、または複数回往復して、予め設定した圧延スケジュールに従って圧延される。ここで圧延スケジュールとは、各圧延ロールにおける圧延材の圧下率と温度、冷却装置における圧延材の所望温度履歴を含む圧延機設定の一式である。図1のグラフは、簡単な例として、2組の圧延ロールが設けられた粗圧延機102をスラブが1回通過する場合のスラブ温度変化を示す。スラブ表面温度は、圧延ロールとの接触により一旦低下して、圧延ロールを通過した後に復熱する。スラブの中心温度は単調低下する。
【0018】
粗圧延機102で圧延されたスラブは、中間冷却装置103を通過しながら圧延スケジュールで決められた仕上げ圧延開始時温度に冷却される。スラブは、スケールブレーカ104を通過してスケールが除去された後、仕上げ圧延機105に入る。仕上げ圧延機105は連続して設置された複数組の圧延ロールからなる。スラブは仕上げ圧延機105を通過しながら圧延スケジュールに従って圧延されて、所定厚さの薄鋼板に仕上げられる。
【0019】
中間冷却装置103とスケールブレーカ104および仕上げ圧延機105でも、スラブ表面温度は低下と復熱を繰り返し、スラブ中心温度は単調低下する。薄鋼板は冷却装置106の中で所定の冷却速度で冷却されながら移動して、巻き取り装置107によりコイル状に巻き取られる。薄鋼板の板厚は例えば2mmと薄いため、薄鋼板の表面温度と中心温度はほぼ一致し、復熱は殆ど見られず単調低下する。
【0020】
図2は制御の構成を示す概略図である。圧延機制御装置10は、圧延スケジュール設定部108と、圧延機制御部109と、温度推定装置20を有する。温度推定装置20は、温度履歴計算部21と、相関関数導出部22と、温度履歴比較部23と、温度履歴測定部24を有する。
【0021】
圧延スケジュール設定部108は、温度履歴計算部21に圧延スケジュールの設定値を出力する。温度履歴計算部21は、入力された該圧延スケジュールに基づき圧延材の温度履歴の予測値を計算し、相関関数導出部22と温度履歴比較部23に出力する。相関関数導出部22は、圧延材の温度履歴予測値に基づき相関関数を計算して、温度履歴比較部23に出力する。温度履歴測定部24は圧延中の圧延材温度履歴を測定して、温度履歴比較部23に出力する。温度履歴比較部23は、圧延材温度履歴の測定値と予測値を比較し、この比較結果に相関関数を適用することで各測定箇所の圧延材の温度を推定して、この推定値を圧延機制御部109に出力する。圧延機制御部109は推定値に基づいて圧延機1を制御する。圧延機1の制御は図11を用いて後述する。
【0022】
図3は圧延材温度推定方法を示すフローチャートである。ステップS11では、温度履歴計算部21が、圧延スケジュールに基づき、圧延工程にわたる圧延材の温度履歴を予測する。温度履歴計算部21は、圧延工程での圧延材の移動を追従しながら伝熱方程式の数値解を解くものであり、例えば非特許文献1に開示された圧延における伝熱方程式の数値解析技術をコンピュータに実装することで実現できる。次に、ステップS12では、相関関数導出部22が、予測した温度履歴に基づいて、復熱箇所における相関関数を導出する。相関関数の詳細例は後述する。次に、ステップS13では、温度履歴測定部24が、復熱箇所における圧延材の表面温度の履歴を測定する。温度履歴測定部24の詳細は後述する。次に、ステップS14では、温度履歴比較部23が、前記相関関数を用いて、温度履歴の予測値と温度履歴の測定値を比較して圧延材の温度を推定する。温度履歴比較部23の詳細は後述する。
【0023】
以下、相関関数導出部22と、温度履歴測定部24と、温度履歴比較部23を順に説明する。
【0024】
相関関数導出部22は、次に説明する相関関数導出方法を実施する電子手段、例えばコンピュータからなる。相関関数導出方法の一例を図4のフローチャートで示す。図4は1箇所の復熱箇所での相関関数を導出するフローチャートである。複数の復熱箇所の相関関数を導出するためには、図4の処理を復熱箇所ごとに実施すればよい。ステップS21では、温度履歴計算部21が出力した冷却開始時の温度分布T0(z)を、初期温度分布T_ini(z)に設定する。ここでzは板厚方向の座標である。T0(z)と実際の圧延材温度とは差があるが、この差の影響はステップS23以降で排除する。
【0025】
ステップS22では、T_ini(z)を初期温度分布として伝熱方程式を用いて、冷却および復熱時における温度分布の時系列を計算する。計算で得られた圧延材の表面温度の予測値T_p_s(t)を保存する。ステップS23では、T_ini(z)を所定温度差分布dTn(z)を用いて変える。dTn(z)は、温度履歴計算部21が予測した冷却開始時温度分布T0(z)と、運転時における圧延材温度分布との差の一予測値である。ステップS24では、新たなT_ini(z)を初期温度分布として伝熱方程式を用いて、冷却および復熱時における温度分布の時系列を計算する。計算で得られたT_ini(z)の各ケースに対する圧延材温度の計算値を保存する。図4では表面温度のケース値T_c_s(t)と中心温度のケース値T_c_c(t)を保存する例を示す。他に、例えば平均温度のケース値を保存してもよい。
【0026】
ステップS25では、S22で保存したT_p_s(t)とS24で保存したT_c_s(t)の差の平均を計算して、Enに保存する。ステップS23からS25を、dTn(z)を変えながらn_max回繰り返す。繰り返し回数n_maxはT_ini(z)を変化させる温度範囲と変化量dTn(z)の大きさによって決まるが、例えば数十回でもよい。ステップS26では、S25で保存したEnとS24で保存した圧延材温度のケース値を用いて、Enを独立変数として、所望時点t_eにおける圧延材温度のケース値の回帰式を求める。所望時点t_eは圧延材の温度を制御したい時点であり、例えば後段の圧延ロールに入る時点をいう。回帰式は例えば1次関数であるが、2次以上の関数に拡張することは容易である。
【0027】
図4では、表面温度の回帰式F_Ts(x)と、中心温度の回帰式F_Tc(x)を作成した。他に例えば平均温度の回帰式を求めるためには、ステップS24で平均温度のケース値を保存して、S26でEnと平均温度の回帰式を求めればよい。相関関数導出部22は、ステップS26で求めた一連の回帰式を相関関数として出力して終了する。これによれば、復熱途中に計測した圧延材の表面温度からでも圧延材の温度を精度良く推定できるので、復熱終了を待たずに圧延機の制御に用いる圧延材の温度を求めることができる。
【0028】
図5は温度履歴測定部24の一例を示す概略図である。図5は温度履歴測定部24をスケールブレーカ104の後段に設置した例を示すが、他の復熱箇所、例えば、圧延ロール102の後段、中間冷却装置103の後段に設置してもよい。
【0029】
スケールブレーカ104の散水を受けた圧延材2の表面には、水滴とスケールの破片が存在する。圧延ロールや冷却装置の後段位置でも、圧延材の表面に測定誤差要因が存在する点は、図5と同様である。このような箇所で圧延材温度を測定すれば、水の噴射、または圧延によってスケールが破壊されるため、圧延材表面のスケールによる温度測定誤差を低減できる。
【0030】
温度履歴測定部24は、回転鏡241と集光部242と放射光温度センサー(温度センサー)243と測定幅制御部244を備える。回転鏡241は、圧延材が移動する圧延方向と直交する方向(幅方向)を回転軸とし、回転軸の断面が多角形である。回転鏡241の圧延方向の下流側近傍に集光部242を配置する。集光部242には、例えば、図5の如く横長のレンズを用いればよい。放射光温度センサー243は集光部242の更に下流側であって、集光部242の焦点と略一致する場所に設けられる。
【0031】
横長の回転鏡241は、回転速度を圧延材の移動速度に同期させ、圧延材の所定幅から放出される放射光を集光部242に向けて反射する。この放射光は集光部242で光の行路が変更され放射光温度センサー243に集約される。回転鏡241の横幅は圧延材2の横幅と略同じ幅で良いが、圧延材2の幅方向の両端は中心部よりも低温となるため、幅方向の全てにわたって温度を測定すると誤差を含みやすい。そのため、低温部分の影響を排除するために回転鏡241の幅は圧延材の横幅より狭くすることが好ましい(例えば圧延材幅の3/4)。
【0032】
放射光温度センサー243は集光部242の焦点と略一致する場所に設けられる。回転鏡241と集光部242の間に測定幅制御部244を設ける。測定幅制御部244を設けることで、特定部分の光の入射を制限する。つまり圧延材2の端部の低温部分から放出される放射光をより精度良く遮断し、圧延材2の所定幅から放出される放射光のみを放射光温度センサー243に入射させることができる。
【0033】
測定幅制御部244は例えば駆動部(図示せず)を有する開閉シャッターであり、圧延機制御部109で駆動部を制御して、放射光を通すシャッターの開放幅を調整する。この構成によれば、放射光温度センサー243は、圧延材2の所定幅の温度を積算検出することができ、圧延材表面の測定誤差要因の影響を低減することができる。
【0034】
温度測定に用いる圧延材の詳細な幅は、温度履歴測定部24を通過する際の圧延材の幅と、圧延材の幅方向における温度分布予測結果から定めると良い。温度分布は、圧延材の幅と厚さ、圧延材の熱容量と熱伝導率、圧延材と雰囲気の温度差および熱伝達率に基づいて周知の伝熱方程式を解くことで求められる。この構成によれば、種々の圧延条件に対して安定した温度履歴測定が可能になる。
【0035】
なお、図5では測定幅制御部244を回転鏡241と集光部242の間の1箇所に設けた例を示したが、圧延材2と回転鏡241の間、または集光部242と放射光温度センサー243の間に設けてもよいし、複数箇所に設けてもよい。
【0036】
なお、図5には温度センサーを1個設ける例を示したが、複数の温度センサーを設けてもよい。この場合、装置の構成が複雑になる短所があるが、圧延材の幅方向の複数領域の温度を各々測定して、測定した各温度にディジタルフィルタなどのデータ処理を施すことで、測定誤差要因の影響を更に低減できる。また、温度センサーの数を十分増やした場合には、集光部242を省略することも可能である。
【0037】
また、図5には回転鏡241と固定された集光部242を用いる例を示したが、回転鏡241を設ける代わりに集光部242と温度センサー243を回転または移動させて、圧延材幅方向の放射光を積算しながら圧延方向に走査測定してもよい。
【0038】
更には、温度センサー243を回転または移動させる代わりに、集光部242と温度センサー243を圧延方向に1列または複数列に並べて、圧延方向の温度履歴を走査測定してもよい。
【0039】
温度履歴比較部23は、次に説明する温度履歴比較方法を実施する電子手段、例えばコンピュータを備える。温度履歴比較方法の一例を図6のフローチャートで示す。ステップS31では、温度履歴測定部24で測定した復熱中の表面温度履歴測定値T_m_s(t)と、温度履歴計算部21で予測した復熱中の表面温度履歴予測値T_p_s(t)の差の履歴を求める。ステップS32では、S31で求めた差の履歴の平均Emを計算する。ステップS33では、相関関数導出部22で求めた相関関数F_Ts(x)とF_Tc(x)の独立変数に、ステップS32で計算したEmを代入して、圧延材の温度推定値を求める。以上は温度履歴比較方法の一例であり、以上の方法に公知のデータ処理を適用してもよい。例えば、温度の有効範囲を設けて、有効範囲の外にある測定データは排除してもよい。または、差の履歴を平均する代わりに、ディジタルフィルタ処理してもよい。
【0040】
圧延材の冷却開始時温度を911℃〜1111℃の間で、20℃刻みに変えて、上記の方法で復熱後の圧延材温度を推定した。冷却開始温度の誤差の影響を評価するため、冷却開始時の予測温度は1011℃に固定した。冷却開始温度の予測値は、実際の冷却開始温度に対して−100℃〜100℃の誤差を持つ。
【0041】
図7は、冷却開始温度を1011℃として伝熱方程式を数値解析して得た表面温度履歴の予測値を示すグラフである。図8は、表面温度履歴の測定値を示すグラフである。グラフを分かりやすくするため、全11ケースの中から、4ケースだけを示した。表面温度履歴の測定は温度センサーの制約によって復熱過程の一部でのみ可能である。図8の例では復熱途中の2秒間のデータのみ取得した。データには−10℃〜10℃の測定誤差が含まれている。
【0042】
図9は、圧延材の冷却開始温度を横軸にとり、温度履歴測定値と温度履歴予測値の差の履歴の平均であるEmを縦軸にとったグラフである。200℃の冷却開始温度範囲内で、Emがほぼ直線状になっている。
【0043】
図10は、推定した圧延材温度と真の圧延材温度の比較を示すグラフである。圧延材温度の推定時点は冷却開始後5秒の時点とし、圧延材の表面温度と中心温度を推定した。横軸は、前記Emを前記相関関数の独立変数xに代入して得た推定温度である。縦軸は、圧延材の実際の表面温度と中心温度である。図10のデータがほぼy=xの直線上に位置することは、冷却開始温度の予測値の誤差と、温度測定値の誤差がある場合でも、高精度の温度推定が可能であることを示す。
【0044】
図11は、圧延材温度制御の一例を示すフローチャートである。ステップS41では、圧延材の寸法仕様と材質仕様および設備仕様を基に圧延スケジュールを設定する。圧延スケジュールの設定方法は種々の工夫がなされており、本発明とは別の技術であるため、省略する。ステップS42では、前記の温度履歴計算部21を用いて、設定した圧延スケジュールにおける圧延材の温度履歴を予測する。ステップS43では、前記の相関関数導出部22を用いて、相関関数を求める。ステップS44では、前記の温度履歴測定部24を用いて、復熱箇所における圧延材の温度履歴を測定する。ステップS45では、前記の温度履歴比較部23を用いて、所望箇所における圧延材の温度を推定する。ステップS451では、推定温度と圧延スケジュールで設定した温度の差を用いて、測定箇所より前段にある冷却装置の流量をフィードバック制御する。ステップS46では、推定温度と圧延スケジュールを用いて圧延材の変形抵抗または材質を予測する。変形抵抗または材質の予測は、例えば、次の文献に開示された方法を用いることで達成される。
【0045】
Jun Yanagimoto and Jinshan Liu, Incremental Formulation for the Prediction of Microstructural Change in Multi-pass Hot Forming, ISIJ International Vol.39, No.2, pp.171-175 (1999)。
【0046】
ステップS461では、予測した変形抵抗および材質を基に、測定箇所より後段に位置する圧延機の圧延荷重および冷却装置の流量をフィードフォワード制御する。以上のステップS44からS461までを一枚の項番の圧延が終了するまで繰り返す。一枚の項番の圧延が終了した後のステップS47では、ステップS44からS461の結果を用いて圧延スケジュールの修正(学習)を行う。圧延する鋼板が残っている場合は、学習した圧延スケジュールを基にステップS41へ戻り圧延スケジュールを設定する。圧延する鋼板が残ってない場合は、処理を終了する。
【符号の説明】
【0047】
1 圧延機
2 圧延材
10 圧延機制御装置
20 温度推定装置
21 温度履歴計算部
22 相関関数導出部
23 温度履歴比較部
24 温度履歴測定部
100 加熱炉
101、104 スケールブレーカ
102 粗圧延機
103 中間冷却装置
105 仕上げ圧延機
106 冷却装置
107 巻き取り装置
108 圧延スケジュール設定部
109 圧延機制御部
241 回転鏡
242 集光部
243 放射光温度センサー(温度センサー)
244 測定幅制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延機で圧延される圧延材の温度推定装置において、
復熱中の圧延材の温度履歴の予測値を求める温度履歴計算部と、
復熱中の圧延材の温度履歴の測定値を求める温度履歴測定部と、
前記予測値に基づき相関関数を求める相関関数導出部と、
前記予測値と前記測定値と前記相関関数に基づき前記圧延材の温度の推定値を求める温度履歴比較部と
を備えることを特徴とする温度推定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記温度履歴計算部は前記予測値を前記相関関数導出部と前記温度履歴比較部に出力し、
前記温度履歴測定部は前記測定値を前記温度履歴比較部に出力し、
前記相関関数導出部は前記相関関数を前記温度履歴比較部に出力することを特徴とする温度推定装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記温度履歴測定部は、前記圧延材から放出される光を反射する回転鏡と、前記回転鏡で反射される光を集める集光部と、前記集光部を通る光を検出する温度センサーを備え、
前記回転鏡の回転軸は前記圧延材の圧延方向と直角に配置され、前記回転鏡は前記圧延材の移動速度に同期して回転されることを特徴とする温度推定装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記温度履歴測定部は、前記圧延材の圧延方向と直交する方向の幅より狭い幅の温度センサーを備え、
前記温度センサーの回転軸は前記圧延材の圧延方向と直角に配置され、前記温度センサーは前記圧延材の移動速度に同期して回転されることを特徴とする温度推定装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記温度履歴測定部は、前記圧延材の圧延方向と直交する方向の幅より狭い幅の温度センサーを備え、
前記温度センサーは前記圧延材の移動速度に同期して移動されることを特徴とする温度推定装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記温度履歴測定部は、前記圧延材と前記回転鏡との間、前記回転鏡と前記集光部との間、前記集光部と前記温度センサーとの間の少なくとも1箇所に、光の入射を制限する測定幅制御部を備え、
前記測定幅制御部は、前記温度履歴測定部を通過する際の前記圧延材の幅と、前記圧延材の幅方向における温度分布予測結果に基づき制御されることを特徴とする温度推定装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記温度履歴測定部は、前記圧延材が復熱する箇所に配置されることを特徴とする温度推定装置。
【請求項8】
請求項1の温度推定装置と、前記推定値に基づき前記圧延材を冷却する冷却装置及び圧延する圧延ロールを制御する圧延機制御部とを備える圧延機制御装置。
【請求項9】
熱間圧延機で圧延される圧延材の温度推定方法において、
復熱中の圧延材の温度履歴の予測値を求め、
復熱中の圧延材の温度履歴の測定値を求め、
前記予測値に基づき相関関数を求め、
前記予測値と前記測定値と前記相関関数に基づき前記圧延材の温度の推定値を求めることを特徴とする温度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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