説明

温度検出方法、及び送信機、受信機

【課題】 高出力増幅器の温度検出のため、人工衛星には温度センサを搭載しなくてはならない。また、人工衛星の送信するテレメトリ信号は、他の情報に関するテレメトリ信号も送信しているため、温度テレメトリ信号を常時出力しているわけではなく、高発熱機器の温度の検出が遅れる可能性がある、という問題点があった。
【解決手段】 高発熱機器の近傍に配置される発振回路が高発熱機器の発熱による温度で周波数を偏移させた連続波を発振し、その連続波で送信信号をアップコンバートさせる周波数偏移工程と、送信周波数の連続波で受信信号をダウンコンバートさせた出力信号より周波数オフセット量を検出し、周波数オフセット量を送信機の発振回路近傍に配置した高発熱機器の温度に換算して、高発熱機器の温度を検出する温度検出工程と、を備えることを特徴とする温度検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工衛星より出力される温度テレメトリ信号よりも早くコンポーネント内部の温度検出を行う温度検出方法、および温度検出方法を用いる送信機、受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人工衛星に搭載されるコンポーネントには、送信信号を増幅するための高電力トランジスタ、高出力増幅器等、発熱素子または発熱部品がある(例えば、特許文献1参照)。従って、高出力増幅器等の発熱素子または発熱部品は、金属ケース等で覆い、他の構成部品と熱的に隔離する必要がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−135027号公報(第3〜5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高出力増幅器を金属ケースで覆うことで金属ケース内に熱がこもるため、金属ケース内の温度は上昇する。そこで従来は、人工衛星に搭載する高出力増幅器などの発熱温度を、温度センサ等により検出する、などの方法があった。これにより人工衛星は、温度テレメトリ信号を送信することで、地上局に高発熱機器の温度を伝えることができる。
【0005】
つまり、高出力増幅器の温度検出のため、人工衛星には温度センサを搭載しなくてはならない。また、人工衛星の送信するテレメトリ信号は、温度情報以外にも、他の情報に関するテレメトリ信号を送信しているため、温度テレメトリ信号を常時出力しているわけではない。従って、高発熱機器の温度の検出が遅れる可能性があるという問題点があった。
【0006】
そのため、温度テレメトリ信号より早く人工衛星のコンポーネントの温度を検出できることが望まれていた。
【0007】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、人工衛星本体に新たに温度センサ等の素子や装置を追加することなく、人工衛星が出力する温度テレメトリ信号よりも早くコンポーネント内部の温度を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る温度検出方法は、
高発熱機器の近傍に配置される発振回路が前記高発熱機器の発熱による温度で周波数を偏移させた連続波を発振し、前記連続波で送信信号をアップコンバートさせる周波数偏移工程と、
送信周波数の連続波で受信信号をダウンコンバートさせた出力信号より周波数オフセット量を検出し、前記周波数オフセット量を送信機の発振回路近傍に配置した高発熱機器の温度に換算して、前記高発熱機器の温度を検出する温度検出工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、人工衛星に新たなセンサや素子を搭載することなく、高出力増幅器などの高発熱機器の温度を検出し、高発熱機器の動作状態を監視することが可能となる。
また地上局は、人工衛星の送信信号を受信する毎に、局所発振器の周波数オフセット量を計測することが可能であるから、常に出力しない温度テレメトリ信号よりも温度を早く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における人工衛星の送信機を示すブロック図である。人工衛星11の送信機は、送信信号作成部12、周波数変換器13、第1局所発振器14、BPF(Band Pass Filter)部15、周波数変換器16、第2局所発振器17、BPF部18、高出力増幅器19、を有する。
【0011】
次に、図1の構成要素における動作について説明する。送信信号作成部12では、地上局への送信信号を作成し、周波数変換器13へ出力する。第1局所発振器14では、周波数F1の連続波を周波数変換器13へ出力する。周波数変換器13では、送信信号作成部12より入力された送信信号と第1局所発振器14より入力された周波数F1の連続波を用いて、ベースバンド周波数帯から中心周波数F1帯へアップコンバートされた送信信号をBPF部15へ出力する。
【0012】
BPF部15では、中心周波数F1帯にアップコンバートされた送信信号に対して、不要波を除去した送信信号を周波数変換器16へ出力する。第2局所発振器17では、周波数(F2+ΔF2)の連続波を周波数変換器16へ出力する。ここで、後述するように、第2局所発振器17は発振周波数F2に対して、周波数オフセットΔF2を持っている。周波数変換器16では、BPF部15より入力された送信信号と第2局所発振器17より入力された周波数(F2+ΔF2)の連続波を用いて、中心周波数(F1+F2+ΔF2)帯へアップコンバートされた送信信号をBPF部18へ出力する。
【0013】
BPF部18では、中心周波数(F1+F2+ΔF2)帯にアップコンバートされた送信信号に対して、不要波を除去した送信信号を高出力増幅器19へ出力する。ここで、BPF部18の通過帯域幅は、周波数オフセット量ΔF2分を持っていても通過できるように設計を行ってもよい。高出力増幅器19では、BPF部18より入力された送信信号を高出力増幅して、アンテナ(図示せず)より外部へ送信出力する。
【0014】
なお、送信信号作成部12から高出力増幅器19までにおいて、必要に応じて適宜増幅器を挿入して、送信信号を増幅させてもよい。また第1局所発振器14は、局所発振器とPLL(Phase Lock Loop)とを適宜組み合わせて、周波数F1の連続波を出力させるようにしてもよい。第2局所発振器17も同様に、局所発振器とPLLとを適宜組み合わせて、連続波を出力させるようにしてもよい。
【0015】
ここで高出力増幅器19は、送信信号を増幅させるので、例えばDC(Direct Current)カット用に実装したチップキャパシタに僅かに残っている抵抗成分による発熱や、高電力トランジスタ等の素子を用いた場合の発熱が生じる。そこで、例えば高出力増幅器19のような高発熱機器の近傍に第2局所発振器17を配置する。これにより、第2局所発振器17は、高出力増幅器19の発熱による温度の影響を受け、本来発振する周波数F2が偏移し、周波数オフセットΔF2をもつ。
【0016】
本発明において、人工衛星等の送信機は、高発熱機器の近傍に局所発振器等の発振回路を配置し、高発熱機器の発熱による温度で周波数を偏移させた連続波を発振回路より発振させる。そして、発振回路より出力する周波数を偏移させた連続波で、送信信号を周波数変換器でアップコンバートさせ、送信信号を出力する。また送信機は、上記動作を行う周波数偏移工程を含む。なお上記発明内容は、通信に影響を与えない周波数の範囲内で適用する。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態1における地上局の受信機を示すブロック図である。地上局21の受信機は、低雑音増幅器22、周波数変換器23、第2局所発振器24、BPF部25、周波数変換器26、第1局所発振器27、LPF(Low Pass Filter)部28、受信信号作成部29、温度検出部30、FFT部(または周波数オフセット検出部)31、温度計測部32、データベース33、を有する。
【0018】
次に、図2の構成要素における動作について説明する。低雑音増幅器22では、外部よりアンテナ(図示せず)を介して受信入力される受信信号に対して、付加雑音を低くしながら受信信号を増幅させて、周波数変換部23へ出力する。第2局所発振器24では、周波数F2の連続波を周波数変換器23へ出力する。
【0019】
周波数変換器23では、低雑音増幅器22より入力された受信信号と第2局所発振器24より入力された周波数F2の連続波を用いて、中心周波数(F1+ΔF2)帯へダウンコンバートされた受信信号をBPF部25へ出力する。BPF部25では、中心周波数(F1+ΔF2)帯にダウンコンバートされた受信信号に対して、不要波を除去した受信信号を周波数変換器26へ出力する。
【0020】
第1局所発振器27では、周波数F1の連続波を周波数変換器26へ出力する。周波数変換器26では、BPF部25より入力された受信信号と第1局所発振器27より入力された周波数F1の連続波を用いて、ベースバンド周波数帯へダウンコンバートされた受信信号をLPF部28へ出力する。ただしベースバンド周波数帯にダウンコンバートされた受信信号には、周波数オフセットΔF2は残ったままである。
【0021】
LPF部28では、ベースバンド周波数帯にダウンコンバートされた受信信号に対して、不要波を除去した受信信号を受信信号作成部29へ出力する。受信信号作成部29では、ベースバンド復調を行い、受信信号を作成する。ここで、BPF部25とLPF部28の通過帯域幅は、周波数オフセット量ΔF2分を持っていても通過できるように設計を行ってもよい。
【0022】
人工衛星11より出力された送信信号は、周波数オフセットΔF2を持っているため、上記受信機の構成では、受信信号作成部29において周波数オフセットΔF2は残ったままである。従って、例えば、受信信号作成部29の内部にAFC(Automatic Frequency Control:自動周波数制御)回路を備え、周波数オフセットΔF2を自動補正させてベースバンド復調を行い、受信信号を作成する。
【0023】
なお、低雑音増幅器22から受信信号作成部29までにおいて、必要に応じて適宜増幅器を挿入して、受信信号を増幅させてもよい。また第1局所発振器27は、局所発振器とPLLとを適宜組み合わせて、周波数F1の連続波を出力させるようにしてもよい。第2局所発振器24も同様に、局所発振器とPLLとを適宜組み合わせて、連続波を出力させるようにしてもよい。
【0024】
上記一連の動作とは別に、地上局21には温度検出部30を備え、受信信号の周波数オフセットを求め、高出力増幅器19の温度を求める。例えば実施の形態1においては、温度検出部30は、FFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)部31、温度計測部32、データベース33により構成される。
【0025】
例えば、LPF部28より出力された受信信号を温度検出部30のFFT部31に入力する。ここで、LPF部28より出力された受信信号が、AD変換器によりアナログ信号からディジタル信号に変換されている場合は、受信信号をそのまま用いる。しかし、受信信号がアナログ信号のままである場合は、温度検出部30にAD変換器を備え、受信信号をAD変換した後に、FFT部31へ入力させてもよい。
【0026】
受信信号は時間軸の信号である。従ってFFT部31では、ベースバンド周波数帯の受信信号から周波数オフセット量を検出するため、ディジタル信号である受信信号にFFTを実施して周波数軸の信号に変換し、周波数オフセット量ΔF2を検出する。検出された周波数オフセット量ΔF2は、温度計測部32へ出力される。なお、FFT部31に入力する受信信号より周波数オフセット量ΔF2を検出できるのであれば、FFTの手法に限定する必要はない。
【0027】
温度計測部32では、FFT部31より出力された周波数オフセット量ΔF2を用いて、人工衛星11の高出力増幅器19の温度を検出する。その際、温度計測部32は、データベース33に周波数オフセット量ΔF2を入力し、周波数オフセット量ΔF2に対応する温度Tを読み出す。読み出された温度Tが、高出力増幅器19の温度に相当する。
【0028】
図3は、データベース33に記憶させるデータの一例を示す。図3(a)は、温度Tの周波数オフセット量ΔF2依存性を示す概念図である。図3(b)は、周波数オフセット量ΔF2と温度Tとの対応データである。
【0029】
設計時または地上での動作確認時などにおいて、人工衛星11の高出力増幅器19近傍に配置した第2局所発振器17に対して、発熱体である高出力増幅器19の温度と、第2局所発振器17の周波数を計測する。また、地上局21の第1局所発振器27と第2局所発振器24の周波数を計測し、周波数オフセット量ΔF2を算出する。
【0030】
これにより、第2局所発振器17の周波数オフセット量ΔF2と高出力増幅器19の温度Tとの対応関係を得ることができる。周波数オフセット量ΔF2と高出力増幅器19の温度Tとの対応関係をグラフ化したものが図3(a)である。なお上記計測方法以外でも、第2局所発振器17の周波数オフセット量ΔF2と高出力増幅器19の温度Tとの対応関係が得られる計測方法であれば、上記計測方法に限定するものではない。
【0031】
図3(a)のグラフにおいては、周波数オフセット量の所望のステップに対して温度Tとの対応を得ようとしている。しかし測定していない周波数オフセット量と温度Tとの対応関係がある場合、測定データをもとに補間曲線を算出し、補間曲線より測定していない周波数オフセット量ΔF2と温度Tとの対応関係を求めてもよい。図3においては、周波数オフセット量ΔF2の値がf1〜f8まで変化する範囲において、f3とf8での温度Tを補間曲線により算出している。
【0032】
周波数オフセット量ΔF2と温度Tとの対応データが図3(b)である。図3(b)のデータをデータベース33に記憶させ、温度計測部32は、周波数オフセット量ΔF2を入力させることにより、温度Tを読み出すことができる。
【0033】
なお図3では、計測していないデータを補間曲線より求め、周波数オフセット量ΔF2と温度Tとの対応データを算出していたが、補間曲線による補間データを求めることなく、周波数オフセット量ΔF2と温度Tとの対応データを網羅的に全て測定し、データベース33に予め記憶させてもよい。
【0034】
このように、地上局等の受信機は、送信周波数の連続波、例えば周波数F1やF2の連続波で受信信号をダウンコンバートさせ、ダウンコンバート後の出力信号より周波数オフセット量ΔF2を検出し、周波数オフセット量ΔF2をもとに、人工衛星等の送信機における、発振回路の近傍に配置した高発熱機器の温度に換算して、高発熱機器の温度を検出する。また受信機は、上記動作を行う温度検出工程を含む。
【0035】
上記により、人工衛星11に新たなセンサや素子を搭載することなく、高出力増幅器19などの高発熱機器の温度を検出し、高発熱機器の動作状態を監視することが可能となる。
【0036】
また地上局21は、人工衛星11の送信信号を受信する毎に、局所発振器の周波数オフセット量を計測することが可能であるから、常に出力しない温度テレメトリ信号よりも温度を早く検出することができる。
【0037】
なお、周波数オフセット量ΔF2に対応する温度を検出する際、温度検出部30にはLPF部28の受信信号を入力させた。しかし、温度検出部30にBPF部25の受信信号を入力して、温度を検出させてもよい。
【0038】
その場合、設計時または地上での動作確認時などにおいて、例えば、BPF部25の出力する周波数(F1+ΔF2)と、高出力増幅器19の温度Tの対応データが作成できるように、人工衛星11と地上局21との局所発振器、及び高出力増幅器19の温度を計測し、対応データをデータベース33に予め記憶させることにより、地上局21にて、高出力増幅器19の温度を検出させるようにしてもよい。
【0039】
また本発明の地上局21では、受信信号作成部29内部のAFC回路と、温度検出部30のFFT部31で行う周波数オフセット量ΔF2の検出を共通化してもよい。
【0040】
また本発明は、人工衛星や地上局に限定するものではなく、送信機の高発熱機器の温度を、受信機の温度検出部により温度検出できるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1における人工衛星の送信機を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1における地上局の受信機を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるデータベース33に記憶させるデータの一例を示す。
【符号の説明】
【0042】
11.人工衛星
12.送信信号作成部
13.周波数変換器
14.第1局所発振器
15.BPF部
16.周波数変換器
17.第2局所発振器
18.BPF部
19.高出力増幅器
21.地上局
22.低雑音増幅器
23.周波数変換器
24.第2局所発振器
25.BPF部
26.周波数変換器
27.第1局所発振器
28.LPF部
29.受信信号作成部
30.温度検出部
31.FFT部
32.温度計測部
33.データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高発熱機器の近傍に配置される発振回路が前記高発熱機器の発熱による温度で周波数を偏移させた連続波を発振し、前記連続波で送信信号をアップコンバートさせる周波数偏移工程と、
送信周波数の連続波で受信信号をダウンコンバートさせた出力信号より周波数オフセット量を検出し、前記周波数オフセット量を送信機の発振回路近傍に配置した高発熱機器の温度に換算して、前記高発熱機器の温度を検出する温度検出工程と、
を備えることを特徴とする温度検出方法。
【請求項2】
高発熱機器の近傍に配置され、前記高発熱機器の発熱による温度で周波数を偏移させた連続波を発振する発振回路と、
前記発振回路より出力する連続波で送信信号をアップコンバートさせる周波数変換器と、
を備えることを特徴とする送信機。
【請求項3】
送信周波数の連続波で受信信号をダウンコンバートさせた出力信号より周波数オフセット量を検出し、前記周波数オフセット量を送信機の発振回路近傍に配置した高発熱機器の温度に換算して、前記高発熱機器の温度を検出する温度検出部
を備えることを特徴とする受信機。
【請求項4】
前記温度検出部は、
前記出力信号の周波数オフセット量を検出する周波数オフセット検出部と、
前記周波数オフセット量と前記高発熱機器の温度との対応関係を予め記憶させるデータベースと、
前記周波数オフセット検出部より入力した周波数オフセット量を用いて、前記データベースより前記高発熱機器の温度を読み出す温度計測部と、
を有することを特徴とする請求項3記載の受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−128291(P2009−128291A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305757(P2007−305757)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】