説明

温度測定装置および照明装置

【課題】光学部材(160)の温度をより正確に算出する。
【解決手段】照明装置(100)における光源部(140)から発光された照明光を透過させる光学部材(160)の温度を測定する温度測定装置(300)であって、光学部材における既知の測定点から放射される熱放射線を受け、熱放射線に基づいた計測温度を検出する放射線検出部(320)と、照明装置内部における環境温度を検出する環境温度検出部(330)と、光学部材の熱放射線の放射率値を格納する放射率値格納部(340)と、環境温度に対応付けて、光学部材の複数の領域における放射率値の分布定数を格納する温度分布格納部(340)と、放射線検出部で検出された計測温度、放射率値、および、環境温度に応じた分布定数に基づいて、光学部材において注目している領域の温度を出力する温度出力部(350)とを備える温度測定装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被計測物から放射される熱放射線を計測することにより、当該被計測部の温度を非接触で測定する温度測定装置が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−38627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記温度測定装置をカメラ等の撮像装置の照明装置における光学部材に用いようとすると、当該光学部材の特定の測定点からの放射による当該測定点の温度は分かるが、光学部材全体の温度を測定することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、照明装置(100)における光源部(140)から発光された照明光を透過させる光学部材(160)の温度を測定する温度測定装置(300)であって、光学部材における既知の測定点から放射される熱放射線を受け、熱放射線に基づいた計測温度を検出する放射線検出部(320)と、照明装置内部における環境温度を検出する環境温度検出部(330)と、光学部材の熱放射線の放射率値を格納する放射率値格納部(340)と、環境温度に対応付けて、光学部材の複数の領域における放射率値の分布定数を格納する温度分布格納部(340)と、放射線検出部で検出された計測温度、放射率値、および、環境温度に応じた分布定数に基づいて、光学部材において注目している領域の温度を出力する温度出力部(350)とを備える温度測定装置が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様においては、上記温度測定装置(300)、光源部(140)および光学部材(160)を備える照明装置(100)が提供される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0008】
環境温度毎に放射率値の温度特性の分布を考慮して光学部材(160)の温度が算出されるので、光学部材(160)の温度をより正確に算出することができる。よって、光学部材(160)の溶解を防ぐことができるとともに、溶解しない範囲で効率的に光源部(140)を発光させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の照明装置100が用いられる撮像装置200の概略断面図を示す。
【図2】図2は、照明装置100の斜視図である。
【図3】温度測定装置300の概略図を示す。
【図4】図4は、温度分布格納部340に格納される分布定数βの一例である。
【図5】他の撮像素子500の構造を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態の照明装置100が用いられる撮像装置200の概略断面図を示す。撮像装置200は、ボディ460、当該ボディ460に着脱自在なレンズユニット410および照明装置100を備える。
【0012】
ボディ460は、被写体までの距離を計測する測距ユニット530と、レンズユニット410を介して入射した被写体の像を電気信号に変換して出力する撮像素子500と、これら測距ユニット530、撮像素子500等との間で信号を授受して、これらおよびレンズユニット410、照明装置100等を制御する制御部550とを有する。ボディ460はさらに、照明装置100等のアクセサリーを着脱自在に保持するアクセサリーシュー560を有する。レンズユニット410は、レンズ、絞り等の光学系を有する鏡筒430と、ボディ460に対する取り付け基準面となるマウント450とを有する。
【0013】
図2は、照明装置100の斜視図である。図1および図2を参照して照明装置100についてさらに説明する。照明装置100は、相互に連結された固定筐体110と可動筐体130とを備える。
【0014】
固定筐体110は、下端面に配された取付部120と、固定筐体110の内部に配され照明装置100を制御する電気回路182とを有する。取付部120は、ボディ460のアクセサリーシュー560に嵌合する取付脚122と、アクセサリーシュー560において信号を伝達する連動接点124とを有する。取付脚122をアクセサリーシュー560に嵌合することにより、照明装置100がボディ460に固定される。また、電気回路182は、照明装置100を制御するCPU、ボディ460との信号を司る通信装置、閃光発生部140に供給する高電圧を発生する昇圧回路等を含む。
【0015】
可動筐体130は、図2において前面に配される閃光発生部140と、側面に配されるロック解除ボタン136とを有する。さらに可動筐体130は、閃光発生部140の前面側に、広角拡散板141とキャッチライト反射板143とを有する。広角拡散板141およびキャッチライト反射板143は、可動筐体130の内部に収容可能であり、必要に応じて閃光発生部140の前面に位置したり、可動筐体130の内部に収容されたりする。
【0016】
可動筐体130は、後端近傍に配された水平回動部132と垂直回動部134とを備えている。水平回動部132の下端は、固定筐体110の上端面に結合され、水平回動部132の上端は、垂直回動部134を介して可動筐体130に結合される。即ち、可動筐体130は、水平回動部132及び垂直回動部134を介して水平方向及び垂直方向に回動可能に固定筐体110に結合される。従って、閃光発生部140を被写体に向けて直接に被写体を照明することができる他、閃光発生部140を被写体から外れた方向に向けて、間接光により被写体を照明することもできる。
【0017】
水平回動部132及び垂直回動部134は、ロック機構により係止されることによって所定の回動位置で停止される一方、ロック解除ボタン136がユーザにより操作された場合には、回動する。これにより、可動筐体130が不用意に向きを変えることが防止されている。
【0018】
閃光発生部140は、閃光を発生する放電管142、例えばキセノン管と、放電管142が発生した閃光を反射する反射傘144とを有する。放電管142は、高電圧を印加された場合に放電して閃光を発生させる。また、反射傘144は、閃光発生部140の前方側に向けて開口しており、放電管142から発光された閃光を、閃光発生部140の前方側へ向けて出射させる。
【0019】
閃光発生部140の前面には、フレネルレンズ160が配される。閃光発生部140は、放電管142から発光された閃光を当該フレネルレンズ160に対して直交する方向へ照射させる。フレネルレンズ160は例えばアクリル樹脂により形成される。なお、閃光の光軸L1は、フレネルレンズ160の中央部を通過する。
【0020】
可動筐体130には、閃光発生部140を閃光の光軸L1の方向に移動させる移動機構150が内蔵される。移動機構150は、モータ152と、モータ152より回転されるボールネジ154と、閃光発生部140をボールネジ154に支持する支持部156とを備える。
【0021】
モータ152は、閃光発生部140の移動領域151より後方上側に配される。モータ152の回転軸は、光軸L1と平行に配されており、当該回転軸とボールネジ154とが一体的に形成されている。即ち、ボールネジ154は、移動領域151の後方上側から光軸L1と平行に前方側へ延在している。ボールネジ154がモータ152により回転された場合には、閃光発生部140は、光軸L1の方向へ移動する。
【0022】
閃光発生部140の移動領域の下方に凹部が設けられ、当該凹部に温度測定装置300が配される。これにより、温度測定装置300が閃光発生部140の移動に対して干渉することなく、また、閃光発生部140からの閃光に対して影になることを防ぐことができる。温度測定装置300の測定面の中央付近からの法線L2は、フレネルレンズ160の中央部に到達し、かつ光軸L1と交差する。これにより、温度測定装置300は、フレネルレンズ160の中央部を測定点として、当該測定点から放射された赤外線を受光する。
【0023】
図3は、温度測定装置300の概略図を示す。温度測定装置300は、照明装置100における閃光発生部140から発光された照明光を透過させるフレネルレンズ160の温度を測定する。図3の温度測定装置300は、ケース310に収容された放射線検出部320およびサーミスタ330と、当該放射線検出部320およびサーミスタ330に端子312により接続された温度出力部350と、温度分布格納部340とを有する。
【0024】
放射線検出部320は、ケース310の図中の上面の開口に配された赤外線フィルタ322と、赤外線フィルタ322の下方に配された赤外線吸収膜324と、当該赤外線吸収膜324に対応する領域が開口したヒートシンク328と、当該赤外線吸収膜324とヒートシンク328とを連結する熱電対326とを有する。当該放射線検出部320において、フレネルレンズ160等の測定対象から放射された赤外線が赤外線フィルタ322を通って赤外線吸収膜324に吸収されると、赤外線吸収膜324の温度が上昇する。この赤外線吸収膜324の温度変化による熱電対326のゼーベック効果の電気信号を温度出力部350が計測することにより、赤外線に基づいた温度Vtpを検出する。
【0025】
サーミスタ330は、ケース310内において放射線検出部320に併設され、ケース310内の温度Vntcに対応する抵抗値を有する。温度出力部350は、端子312を介してサーミスタ330の抵抗値を測定することにより、ケース310内の温度Vntcを検出する。図3に示す例でサーミスタ330はケース310内に配されているが、これに代えて、ケース310の外側であって例えばフレネルレンズ160の近傍に配されていてもよい。
【0026】
温度分布格納部340は、フレネルレンズ160の材料としての熱放射線の放射率値αと、フレネルレンズ160の放射率値の分布定数βとを格納する。温度分布格納部340は例えば不揮発性のメモリであって、上記放射率値αおよび分布定数βは照明装置100の工場出荷時において予め温度分布格納部340に書き込まれる。さらに、ファームウェアの更新時等において温度分布格納部340の放射率値αおよび分布定数βが更新されてもよい。
【0027】
温度出力部350は、放射線検出部320およびサーミスタ330に基づいて温度分布格納部340を参照してフレネルレンズ160の温度を出力する。なお、温度出力部350および340は図1の温度測定装置300の位置に配されるが、これに変えて、固定筐体110の電気回路182に設けられてもよい。
【0028】
図4は、温度分布格納部340に格納される分布定数βの一例である。温度分布格納部340は、環境の温度Vntcに対応付けて、フレネルレンズ160の複数の領域における放射率値の分布定数βを格納する。図4の例において、フレネルレンズ160は、上下に2分割および左右に3分割の計6分割の領域(a)から(f)に分けられる。環境の温度Vntcがtである場合の、それぞれの領域に対する分布定数βn−a、βn−b、・・・が温度分布格納部340に格納されている。これら分布定数βn−a、βn−b、・・・が環境の温度毎に、ルックアップテーブルとして温度分布格納部340に格納されている。
【0029】
分布定数βは、フレネルレンズ160上の既知の測定点に対する放射線率値の分布を示しており、環境の温度に依存する。この分布定数βは予め実験的にまたは理論的に求めておき、温度分布格納部340に格納する。なお、本実施形態においては測定点がフレネルレンズ160の中央であるときの分布定数βが格納されるが、測定点は中央以外でもよく、その場合には当該測定点に対応した分布定数βが格納される。
【0030】
温度出力部350は、サーミスタ330で検出された温度Vntcに対応した分布定数βを温度分布格納部340から読み出す。さらに温度出力部350は温度分布格納部340から放射率値αも読み出し、これら放射率値α、分布定数β、放射線検出部320で検出された温度Vcpに基づいて、フレネルレンズ160において注目している領域の温度を出力する。例えば図4の領域(a)に注目しており、環境の温度Vntcがtであった場合に、温度出力部350は温度分布格納部340を参照して放射率値α、分布定数βn−aを読み出し、関数f(Vtp、α、βn−a)により当該領域(a)の温度を算出する。具体的には、Vtp0=Vtp{(βn−a)−αx}、ただし、Vtp0はβn−aの演算による真値であり、xはβn−aの放射係数である。
【0031】
ここで、温度出力部350は算出した温度を電気回路182に出力し、電気回路182が照明装置100のモニタ等に表示してもよいし、電気回路182がさらに当該温度をボディ460に転送してボディ460のモニタ等に表示してもよい。これに変えてまたは加えて、温度出力部350はフレネルレンズ160の領域(a)から(f)の温度を求めて出力してもよい。さらに温度出力部350はフレネルレンズ160の領域(a)から(f)の温度のうち最も高い温度をフレネルレンズ160の温度として出力してもよい。さらに温度出力部350は、当該最も高い温度を閾値温度と比較し、当該最も高い温度が該閾値温度を超えている場合にその旨を出力してもよい。当該最も高い温度が該閾値温度を超えている場合に、電気回路182は照明装置100の発光を禁止してもよいし、モニタに警告を表示してもよい。また、閾値温度は温度分布格納部340に格納されていてもよい。
【0032】
図5は、他の撮像装置202の構造を模式的に示す斜視図である。撮像装置202は、シャッタ462、モードダイヤル464、鏡筒430等を備えたボディ460にさらに、照明装置100を備える。照明装置100は、ボディ460内における鏡筒430の上側に配されている。当該撮像装置202の照明装置100に図3および図4に示す温度測定装置300が用いられる。
【0033】
以上、本実施形態によれば、環境の温度毎に放射率値の温度特性の分布を考慮してフレネルレンズ160の温度が算出されるので、フレネルレンズ160の温度をより正確に算出することができる。よって、フレネルレンズ160の溶解を防ぐことができるとともに、溶解しない範囲で効率的に閃光発生部140を発光させることができる。
【0034】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0035】
100 照明装置、110 固定筐体、120 取付部、122 取付脚、124 連動接点、130 可動筐体、132 水平回動部、134 垂直回動部、136 ロック解除ボタン、140 閃光発生部、141 広角拡散板、142 放電管、143 キャッチライト反射板、144 反射傘、150 移動機構、160 フレネルレンズ、182 電気回路、200 撮像装置、202 撮像装置、300 温度測定装置、310 ケース、312 端子、320 放射線検出部、322 赤外線フィルタ、324 赤外線吸収膜、326 熱電対、328 ヒートシンク、330 サーミスタ、340 温度分布格納部、350 温度出力部、200 撮像装置、410 レンズユニット、460 ボディ、430 鏡筒、450 マウント、500 撮像素子、530 測距ユニット、550 制御部、560 アクセサリーシュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明装置における光源部から発光された照明光を透過させる光学部材の温度を測定する温度測定装置であって、
前記光学部材における既知の測定点から放射される熱放射線を受け、熱放射線に基づいた計測温度を検出する放射線検出部と、
前記照明装置内部における環境温度を検出する環境温度検出部と、
前記光学部材の熱放射線の放射率値を格納する放射率値格納部と、
前記環境温度に対応付けて、前記光学部材の複数の領域における前記放射率値の分布定数を格納する温度分布格納部と、
前記放射線検出部で検出された前記計測温度、前記放射率値、および、前記環境温度に応じた前記分布定数に基づいて、前記光学部材において注目している領域の温度を出力する温度出力部と
を備える温度測定装置。
【請求項2】
前記温度出力部は、前記光学部材の前記複数の領域の温度のうち最も高い温度を、前記光学部材の温度として出力することを特徴とする請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記温度出力部は、前記最も高い温度を閾値温度と比較し、当該最も高い温度が該閾値温度を超えている場合にその旨を出力することを特徴とする請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の温度測定装置、前記光源部および前記光学部材を備える照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−53022(P2011−53022A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200589(P2009−200589)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】