説明

温度計測装置又は温度計測方法

【課題】燃焼環境などの測定場に対する高精度かつ高速な温度測定を可能とする。
【解決手段】トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射してトレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき測定場の温度を計測する温度計測装置100である。トレーサ物質として硫黄酸化物を用い、複数の異なる励起波長として、硫黄酸化物の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる波長のレーザ光を発生するレーザ光源20と、順次発生する異なる励起波長のレーザ光を順次、測定場70に導いて照射するため光学機構部30、レーザ光の照射によって得られた蛍光を撮影する撮影部40を備える。温度算出部50は、撮影部からの撮影結果から各励起波長に対応する蛍光強度の強度比を求め、強度比に基づいて測定場の温度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
測定場の温度をレーザ照射によってトレーサ物質が発する蛍光に基づいて非接触にて精度良く測定する装置、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体や液体等の流体の温度を測定する方法としては、熱電対を用いる方法が最も一般的であり、広く行われている。しかし、熱電対を用いた温度測定方法では、被検流体に熱電対を接触させなければならず、測定場内に配置を大幅に乱すため、正確な温度分布計測は困難である。また、1個の熱電対は1点又はその近傍に於ける温度計測を行うに過ぎず、例えば2次元温度分布を瞬時に計測するためには、多数の熱電対を挿入する必要があってさらに測定場を乱すこととなり、測定点が離散的である点でも正確な温度分布計測が難しい。
【0003】
上記熱電対と異なり、非接触にて被検流体の温度を測定する方法として、光学的な測定法が採用されている。その簡便な方法として、下記非特許文献1等において、赤外吸収・放射法を用いた手法が示されている。しかし、これらの計測値に吸収・放射光の光軸上の全ての情報が含まれるため、例えば光軸上の任意の断面、特に二次元以上の断面における温度分布を得るなどの処理が難しい。また、下記非特許文献2等には、CARS(コヒーレントアンティストークス分光法)やラマン分光法を利用した温度計測についての報告もあるが、この計測についても、例えば瞬時に二次元領域についての温度分布を得るなどの処理は難しい。
【0004】
非特許文献3等には、2次元の温度分布についてもこれを迅速に測定する有力な方法として、レーザ誘起蛍光法(Laser Induced Fluorescence:LIF法)が示されている。このLIF法では、異なった2つの波長のレーザ光を、OH等、燃焼で生成されるラジカルに照射して得られる2次元の蛍光像を、2つのレーザ光のそれぞれについて計測する。そして、その蛍光像の強度の比と分子またはラジカルのボルツマン分布から、温度の2次元分布を測定することが示されている。
【0005】
なお、非特許文献4には、LIF法を用いた蛍光強度が温度による依存性を持ち、それがレーザの励起波長によって異なることを利用し、強度比から温度を決定する手法が報告されている。
【0006】
また、特許文献1には、ガス温度を測定する場合に、測定場にレーザ光を照射して蛍光を発生させており、温度測定のためのトレーサ物質として、上記非特許文献3と同様にOHを用いることが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献2および3にも、LIF法を用いた温度測定方法が示されており、これらの文献では、火炎などの温度を測定する場合に、火炎中のNOをトレーサ物質として利用し、レーザ光照射によってこのNO分子が発する蛍光に基づいて火炎における温度測定を実行することが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−18337号公報
【特許文献2】特開平8−75567号公報
【特許文献3】特開平10−185694号公報
【特許文献4】特開平9−126837号公報
【非特許文献1】Charles A. Amann, SAEpaper 850395(1985)
【非特許文献2】Robert D. Hancock,et al., Combustion and Flame, Volume 109, Issue 3, May 1997, Pages 323-331
【非特許文献3】A.Arnold,et al., Ber.Bunsenges. Phys. Chem. Vol.96, No10,1388(1992)
【非特許文献4】Christof Schulz and Volker Sick., Progress in Energy and Combustion Science, Vol.31, p75-p121(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記非特許文献3や、特許文献1などに開示されたLIF法では、トレーサ物質としてOH等のラジカルを利用しており、例えば燃焼場の温度測定など、ラジカルが存在する環境でなければ測定ができない。
【0010】
また、非特許文献4に記載された方法では、トレーサ物質として3−ペンタノン(3-Pentanone)などの炭化水素系の蛍光剤を用いている。したがって、例えばエンジン筒内等の燃焼環境における温度計測にこの方法を採用する場合、炭化水素系の蛍光剤が燃焼によってH2O,CO2等に変化し、蛍光剤そのものが消失してしまう。このため、燃焼前の温度は測定することができるが、燃焼後の温度は計測できない。また、LIF法において、無機材料からなる粒子状のトレーサ物質を用いた流体の流れ計測と温度計測を実行することが特許文献4に開示されているが、トレーサ物質が粒子状であるため、計測用の窓を汚す可能性や、燃焼のような化学反応を伴う場において、トレーサ粒子が消失する可能性などがあり、やはり燃焼環境などにおける温度測定には適していない。
【0011】
特許文献2及び3に開示されたNO分子をトレーサ物質として用いたLIF法では、レーザ照射によって得られるNO分子の蛍光強度が低い。また、レーザ光源を波長チューニングし、かつ蛍光の波長スキャンを実行する必要がある。よって、燃焼環境の測定場に用いることはできるが、瞬時の高精度計測をすることが難しい。
【0012】
本発明は、燃焼環境などの測定場などにおいても、高精度かつ高速度での温度測定を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、前記レーザ光の照射によって前記トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき前記測定場の温度を計測する温度計測装置であり、前記トレーサ物質として硫黄酸化物を用い、前記複数の異なる励起波長として、前記硫黄酸化物の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる波長のレーザ光を発生するレーザ光源と、順次発生する前記複数の異なる励起波長のレーザ光を前記レーザ光源から順次前記測定場の同一箇所に導いて照射するため光学機構部と、前記レーザ光の照射によって得られた蛍光を撮影する撮影部と、前記撮影部からの撮影結果から各励起波長に対応する蛍光強度の強度比を求め、前記強度比に基づいて前記測定場の温度を算出する温度算出部と、を備える。
【0014】
本発明の他の態様では、上記装置において、前記撮影部は、前記蛍光強度を、前記測定場に照射された前記レーザ光の光路に沿って観察し、前記温度算出部にて前記蛍光強度から得た強度比に基づいて前記レーザ光の光路方向における前記測定場の温度を測定する。
【0015】
本発明の他の態様では、トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、前記レーザ光の照射によって前記トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき前記測定場の温度を計測する温度計測方法であり、前記トレーサ物質として硫黄酸化物を用い、前記複数の異なる励起波長として、前記硫黄酸化物の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる波長を用い、前記複数の異なる励起波長のレーザ光を順次を前記測定場に照射し、各励起波長に対応して得られた蛍光強度から強度比を求め、前記強度比に基づいて測定場の温度を測定する。
【0016】
本発明の他の態様では、上記装置または方法において、前記測定場は、燃焼室内である。
【0017】
本発明の他の態様では、上記装置または方法において、前記トレーサ物質は、SO2であり、前記複数の励起波長は波長190nm〜400nmの範囲である。
【0018】
また、本発明の他の態様では、上記複数の励起波長として、例えば、それぞれ248nm、308nmを採用することができる。
【0019】
本発明の他の態様では、上記方法において、前記蛍光強度を、前記測定場に照射された前記レーザ光の光路に沿って観察し、前記レーザ光の光路方向における前記測定場の温度を計測する。
【0020】
本発明の他の態様では、トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、前記レーザ光の照射によって前記トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき前記測定場の温度を計測する温度計測方法であり、前記測定場は、燃焼室であり、前記トレーサ物質として、前記燃焼室内における燃焼反応の前後において化学組成の変化しない不燃性ガスを用い、前記複数の異なる励起波長としては、前記トレーサ物質の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる190nmから400nmの範囲の波長を用い、前記複数の異なる励起波長のレーザ光を順次を前記測定場に照射し、各励起波長に対応して得られた蛍光強度から強度比を求め、前記強度比に基づいて測定場の温度を測定する。
【発明の効果】
【0021】
レーザ光を照射による非接触の温度計測に際し、トレーサ物質として用いる硫黄酸化物は、測定場が燃焼環境である場合においても、その燃焼前、燃焼後のいずれにおいても、化学的に安定な物質である。このため、燃焼前後でトレーサ物質を変更することによる光源や光学機構部などの変更を行うことなくレーザ光照射で硫黄酸化物から得られる蛍光から温度計測を実行することができる。
【0022】
この硫黄酸化物は、蛍光強度の温度依存性が励起波長によって変化する特性を備えており、特にその依存性の波長による変化が大きい。このため、励起波長に対応する蛍光強度の大きな強度比を得ることができ、非常に高精度な温度計測をすることができる。
【0023】
また、硫黄酸化物は、広い(ブロードな)吸収波長域を持ち、レーザ光源の波長チューニングなどを実行することなく効率的に蛍光を得ることができる。このため、高い蛍光強度を容易に得ることができ、温度計測を高精度に実行することができる。
【0024】
さらに、得られる蛍光の強度が高く、フィルタによって蛍光波長域を任意に決めることができる。このため、レーザ光を照射して得られた蛍光から直ちに温度を計測することができ、例えばエンジン筒内などのように変化の速い測定場においても、瞬時の温度測定を実行することができる。
【0025】
蛍光強度を測定場に照射されたレーザ光の光路に沿って観察すれば、その強度比に基づいてレーザ光の光路方向における測定場の温度分布を得ることができる。例えば照射するレーザ光をシート状とすれば、このレーザ光が照射される2次元領域における温度分布を得ることができ、さらに、このシート状のレーザ光をそのレーザ光路方向に直交する方向にスキャンすれば3次元温度分布を得ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、実施形態)について説明する。
【0027】
[温度計測概要]
本実施形態に係る温度計測装置は、トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度の比に基づき測定場の温度を計測する。トレーサ物質としては、燃焼環境の前後において化学的に安定であって、得られる蛍光強度が高く、かつその温度依存性及び波長依存性が高い硫黄酸化物を採用する。
【0028】
図1は、この温度計測装置100の概略構成の一例を示しており、装置100は、レーザ光源20、光学機構部30、撮影部40、温度算出部50および各部の動作を制御する制御部60を備え、測定場70内のトレーサ物質がレーザ光照射によって発する蛍光強度に基づいて測定場70の温度を測定する。
【0029】
レーザ光源20は、複数の異なる励起波長として、トレーサ物質である硫黄酸化物の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる波長のレーザ光を発生する。この励起波長としては、波長190nm〜400nmの範囲で選択でき、例えば、248nm付近と、308nmを採用することができる。もちろん、この2つには限られず、例えば266nmと、308nmの組み合わせ、248nmと266nmとの組み合わせ、或いは用いるレーザ光源に応じて他の波長を採用することもできる。
【0030】
図1の例では、光源20として、それぞれ所望の励起波長のレーザ光を発生する第1レーザ光源210,第2レーザ光源220を採用し、励起波長L1,L2として、248nm付近と、308nmを採用している。励起波長L1として248nmを採用する場合、第1レーザ光源210には、エキシマレーザ(KrFエキシマレーザ)光源210を採用することができる。励起波長L2として308nm付近を採用する場合、第2レーザ光源220としては、YAGレーザ光源222(第2高調波532nm),色素レーザ光源224(616nm)、倍波装置226を用い、532nmのYAGレーザ光から目的とする308nm付近のレーザ光を得ている。なお、レーザ光源20は、トレーサ物質に照射すべきレーザ光の励起波長に応じて最適な光源を採用し、上記例に限らず、単一光源から、それぞれ異なる所定のN次高調波を作成して励起波長L1、L2として用いてもよいし、励起波長L1,L2の一方はレーザ光源の基本波長、他方は基本波長を倍波装置などを用いて倍波長とするなどによって得ることもできる。
【0031】
光学機構部30は、シリンドリカルレンズなどの光学レンズ32、ハーフミラー(ビームスプリッタとしての用途もある)34、ミラー36などを備え、レーザ光源20から順次射出される互いに異なる励起波長のレーザ光を、順次、測定場70の所定の箇所(同一の箇所)に導き、測定場70に照射する。
【0032】
測定場70は、図1の例では容器内であり、後述するエンジン筒内(700)や、タービン内を測定場とすることができる。これらの容器内を測定場70とする場合、容器にはレーザ光を透過可能なレーザ光の入射窓72、トレーサ物質の発する蛍光を観察するため、該蛍光を透過可能な観察窓74を設ける。もちろん、測定場70は、密閉された容器内には限られず、開放された空間(例えば火炎内)でも良く、このような開放空間であれば入射窓72や、観察窓74等は不要である。
【0033】
撮影部40は、例えばCCDカメラ42を備え、測定場70にレーザ光を照射し、トレーサ物質が発する蛍光を撮影する。このCCDカメラ42としては、特に高感度のICCDカメラを採用することができる。ICCD(Intensified Charge Coupled Device)カメラは、高感度であると共に短期間毎の撮影が可能であり、短時間のレーザ光照射で得られる蛍光を時間精度良く検出することが容易である。
【0034】
なお、上記CCDカメラ42の入射側には、観察すべき蛍光波長を選択的に透過するフィルタ44、観察する蛍光波長に適したレンズ(ここではUVレンズ)46を設けることで測定精度の一層の向上を図ることが出来る。また、図1では省略しているが、複数のCCDカメラを用いて蛍光を観察することでカメラの特性ばらつきによる測定精度のばらつきを低減することができる。
【0035】
温度算出部50は、撮影部40からの撮影結果(撮像データ:画像データ)から各励起波長に対応する蛍光強度と、その強度比を求め、強度比に基づいて測定場70の温度を算出する。なお、図示しないが、装置は、算出処理に必要な処理データ格納メモリや、テーブルを適宜備えており、算出部50は、記憶されたデータを利用して演算処理を実行する。
【0036】
制御部60は、測定場70に照射するための目的とする励起波長を発生するレーザ光源210,220を順に動作させ、測定場70のトレーサ物質に対して順にレーザ光を照射する。つまり、レーザ光源20に対し、その照射・発光タイミングを切替制御する。また、レーザ光源20の切替制御と同期して(レーザ光を照射して蛍光が観察されるまでの時間ずれや、蛍光の継続期間を考慮したタイミングで)、撮影部40で蛍光の撮像が行われるよう撮影部40を制御する。また、温度算出部50が、対応する励起波長のレーザ光を照射したタイミングで撮影部40から得られる撮像データに基づいて、対応する蛍光強度を求めるように該温度算出部50を制御する。
【0037】
測定場70へのトレーサ物質の供給タイミングは、目的とする温度計測前であればどのタイミングでもよく、例えば測定場70が後述するようなエンジン筒内の場合には、硫黄酸化物をエンジンの吸気管から新気に混合し、エンジン筒内に供給すればよい。
【0038】
ここで、図1の装置例では、レーザ光を測定場70に対して対向入射する方式を採用しており、光学機構部30は、対向入射のため、各レーザ光源20からのレーザ光を途中でハーフミラー34を用いて分割し、対向配置されている入射窓72a,72bを介して測定場70に対向入射している。光学機構部30は、レーザ光源20から測定場70までの間の光路に応じて上述のような必要な光学素子を配置するが、光路中でレーザ光を2手に分割するために所望の位置にハーフミラー34を用いればよい。
【0039】
図1の例では、レーザ光をシート状に成形する光学レンズ(シリンドリカルレンズ)を光路中に2つ配置しており、測定場70に対向入射するレーザ光、ビーム形状を等しくするため、この光学レンズ32による成形後に、ハーフミラー(ビームスプリッタ)によってレーザ光を分割している。レーザ光源210から射出される励起波長L1のレーザ光、レーザ光源220から射出される励起波長L2のレーザ光は、それぞれの発生タイミングでハーフミラー34またはミラー(全反射ミラー)36を経て光学レンズ32に到達し、この光学レンズ32でシート状に成形されたレーザ光が、その射出側に配置されているハーフミラー34によって2つに分割される。分割された一方のレーザ光は、石英板35aによって第1入射窓72aから測定場70に照射され、他方はミラー36を経て石英板35bによって第2入射窓72bから測定場70に照射される。
【0040】
なお、図1の例では、石英板35aの反射面の後方に、この反射面から一部射出されるレーザ光の強度を観察するためのパワーメータ38を配置している。このパワーメータ38の測定結果により、レーザ光源として用いるパルスレーザ光の各ショット間(パルスレーザにおけるショット間)のパワーばらつきを検出し、その測定結果に応じ、測定場70で得られる蛍光強度の補正を行う。
【0041】
以上の図1に示すようなレーザ光の対向入射構成を採用することで、測定場70内でレーザ光の光路方向において蛍光強度の勾配が発生することを防止でき、蛍光強度の測定精度を高めることが容易となる。
【0042】
図2は、本実施形態の温度計測装置の上記図1と異なる例を示している。図2の装置において図1に示す構成と相違するのは、測定場70に対し、レーザ光を対向入射ではなく、片側から入射する光学機構部30を採用している点であり、他の構成は上記図1と共通する。
【0043】
図2に示すように、測定場70に対し、片側からのみレーザ光を照射する場合には、レーザ光源20から測定場70までの光学機構部30中にレーザ光を分割するためのハーフミラー34は不要である。したがって、各レーザ光源210,220から射出されるレーザ光は光路配置に応じて全反射ミラー36,ハーフミラー34等によって光路内に入射された後は、シリンドリカルレンズなどの成形用の光学レンズ(図2では記載を省略)と、全反射ミラー36を経て入射窓72aから測定場70に照射される。なお、図2では、測定場70に入射する直前の光路中に配置された石英板35a,35bによってレーザ光の一部を、撮影部40の前に配置された参照板39に照射する。この参照板39からの反射光を撮影部40によって検出し、その強度からレーザ光のパワーばらつきを検出し、測定場70から対応するレーザ光によって得られる蛍光強度の補正を実行する。なお、このレーザ光のパワーばらつきは、図1に示すようにパワーメータ38を採用して測定しても良く、また図1のような対向入射構成の場合に、図2のように撮影部40を利用して測定しても良い。
【0044】
次に、トレーサ物質である硫黄酸化物に照射する励起波長について説明する。硫黄酸化物として、SO2を採用する場合、複数の励起波長の帯域は上述のように波長190nm〜400nmの範囲で選択することができる。例えば、248nm付近、308nm付近の励起波長L1、L2のレーザ光を照射し、その蛍光強度比を求めることで精度良くトレーサ物質のおかれた測定場70における温度を求めることができる。
【0045】
具体例については後述するが(図3〜図5参照)、248nm付近の各励起波長によって得られるSO2の蛍光(LIF)強度は、温度によって大きく異なる。一方、308nm付近の励起波長によって得られるSO2の蛍光強度は、248nm付近での蛍光強度と比較すると、その温度依存性は低い。したがって、248nmの励起波長の蛍光強度と308nmの蛍光強度との強度比を求めると、温度による強度比の差が大きくとれ、高精度な温度計測を実現することができる。
【0046】
また、両方の励起波長によって得られる蛍光強度の比を取ることで、濃度の影響をキャンセルすることができる。
【0047】
上述した非特許文献4等に開示されている3−ペンタノンや、トルエンなどの炭化水素系の蛍光剤を用いたLIF法では、得られる蛍光強度比は、2.4〜2.5倍、高くても3倍程度である。しかし、本実施形態のようにトレーサ物質としてSO2等の硫黄酸化物を採用し、例えば上記248nm付近と308nm付近の蛍光強度を用いた場合、最大で7倍程度の強度比を得ることができ、燃焼環境などの測定場70においても、そして、その燃焼前でも燃焼後でも、非常に高い精度で温度計測を実行することができる。
【0048】
以下、温度(常温〜250℃)、圧力(〜1.0MPa)を任意に制御可能な定容容器(図1の測定場70参照)を用い、レーザ光が照射された際に得られるSO2の蛍光強度の温度依存性を求めた結果について説明する。なお、励起波長は248nm,308nmそれぞれで行い、その結果より強度比を算出した。
【0049】
(励起波長248nmを用いた温度、圧力依存性の測定)
図1の第1レーザ光源210として、KrFエキシマレーザを用い、得られた248nmのレーザ光を、定容容器内(70)に導き、CCDカメラ42を用いた撮影部40によって、容器内に充填されたSO2の蛍光強度を計測した。
【0050】
測定場70である定容容器は、この例では、367.9ccの容積であり、この容器内を所定の温度に保ち(例えば100℃)、SO2の1vol%(空気希釈)を容器内に0.1MPaとなるよう充填した。
【0051】
第1レーザ光源210から出射した光は、シリンドリカルレンズ32でシート状にして定容容器70に導いた。定容容器70のレーザ入射窓72(72a,72b)及び観察窓74は、いずれも石英ガラスを採用しており、紫外光を透過することができる。撮影部40における蛍光強度の測定は、UVレンズ46にフィルタ44を装着したICCDカメラ42によって行った。
【0052】
レーザ光(5mJ)は、容器両側から入射窓72a,72bから対向入射させた。このレーザ光はパルスレーザであり、レーザパワーのパルス間の変動は、パワーメータ38で測定することによってモニタし、ショット間の変動による蛍光強度の補正を行った。なお、CCDカメラ42前部のUVレンズ46の前のフィルタ44としては、320nm以上の波長を通すフィルタを採用した。
【0053】
まず、このような初期状態で定容容器70内にレーザ光を照射した際の蛍光強度を撮影部40での撮像データに基づいて測定し、LIF強度の基準とした。その後、定容容器70内に空気を加え、0.2MPa、0.4MPa、0.6MPa、0.8MPa、1.0MPaと圧力を増加させていき、各圧力における蛍光強度(蛍光強度の圧力依存性)を計測した。また、定容容器70内を初期温度を100℃(373K)から上昇させ、各温度における蛍光強度を測定することによって温度の依存性を求めた。図3は、これらの測定結果を示しており、いずれの圧力でも、温度上昇と共に、LIF強度が増加することがわかる。
【0054】
(励起波長308nmを用いた温度、圧力依存性の測定)
同様に図1の装置を用い、第1レーザ光源210ではなく、第2レーザ光源220を動作させ、励起波長308nmのレーザ光を光学機構部30を介して定容容器70に導き、対向照射した。なお、フィルタ44,UVレンズ46は、上記248nmの励起波長の照射の時と同様の条件とした。また、248nmの励起波長の場合と同様、容器70内を所定の温度に保ち(例えば100℃)、SO2の1vol%(空気希釈)を容器内に0.1MPaとなるよう充填した。このような初期状態で定容容器70内に上記308nmの励起波長のレーザ光を照射した際の蛍光強度を測定し、基準とした。その後、定容容器70内に空気を加え、248nmの場合と同様に圧力を増加させていき、圧力依存性を計測した。また、定容容器70内を初期温度を100℃(373K)から上昇させ、各温度における蛍光強度を撮影部40での撮像データに基づいて測定することによって温度の依存性を求めた。図4は、これらの各測定結果を示しており、励起波長248nmの場合と異なり、どの圧力条件の場合にも、温度に対する蛍光強度の変化はほとんどないことがわかる。
【0055】
(温度算出)
上記励起波長248nm(L1)、308nm(L2)のレーザ光照射によって得られた各LIF強度の結果を用い、温度に対する強度比(248nm/308nm)を求めた結果を、図5に示す。測定した0.1MPa、0.2MPa、0.4MPa、0.6MPa、0.8MPa、1.0MPaのいずれの圧力においても、308nmの励起波長のレーザ光に対しては蛍光強度の温度依存性は、ほとんど無い。一方、248nmの励起波長では蛍光強度の温度依存性は非常に大きい。したがって、248nm,308nmそれぞれの励起波長のレーザ光による蛍光強度の強度比を求めると、いずれの圧力条件についても非常に高い強度比が得られる。
【0056】
図5に示すような各温度に対する強度比を記憶し、データベース化することで、下記実施形態1,2等に示すように具体的な測定場で得た測定強度比と、その際の測定場の圧力から、レーザ光の照射された位置における温度を算出することができる。
【0057】
ここで、図1の装置では、光学レンズ32によりレーザ光をシート状に成形しているが、シート状ではなく線上のレーザ光を照射すれば、非常に高い精度でレーザ光の光軸方向に沿った1次元温度分布を求めることができる。レーザ光をシート状に成形して測定場70に照射した場合、照射されるレーザ光のエネルギ密度が線状に集光したレーザ光よりも低くなるため、得られる蛍光強度も低くなる。しかし、本実施形態のような硫黄酸化物をトレーサ物質として用い、248nm、308nmの励起波長のレーザ光を照射した場合、従来の炭化水素系材料や、NO分子等のトレーサ物質を用いた場合と比較しても、その2倍以上の蛍光強度比を得ることができる。よって、本実施形態の温度計測装置、計測方法によれば、シート状のレーザ光が照射された測定場の温度分布、すなわち測定場の2次元の温度分布を精度良く求めることができる。また、このシート状のレーザ光を所定方向に走査することで3次元温度分布を求めることも可能となる。
【0058】
なお、以上では、図1に示す対向入射方式を採用した温度測定を例に説明したが、上述の図2に示すような片側からの入射方式を採用しても原理上、図1と同じ温度依存性を得ることができ、その依存性データに基づいて温度計測を実行することができる。
【0059】
[実施形態1]
以下、測定場70として、エンジン筒内を採用した場合の温度計測装置の例を、図6〜図10を参照して説明する。本実施形態では、エンジン筒内でトレーサ物質の発する蛍光の強度を観察するため、図6に示すような可視化エンジンを採用している。具体的には、例えば石英シリンダ710と石英ピストン712をそれぞれ採用することで、波長190nm〜400nmの範囲のレーザ光の筒内への照射を可能とし、かつ、トレーサ物質の蛍光を撮影部400において観察することを可能としている。なお、トレーサ物質には、硫黄酸化物としてSO2を用い、励起波長は、上記具体例と同様に、248nm,308nmとし各励起波長のレーザ光の照射によって得られる蛍光強度に基づいて温度計測を行うことができる。
【0060】
レーザ光源20(210,220)からのレーザ光は、図7に示すような光学機構部30を経てエンジン筒内700に導かれる。ここで、光学機構部30は、図7(a)に示すように、光学レンズ32、ハーフミラー34、全反射ミラー36等を備え、2つの光源からの各励起波長のレーザ光は、最初のハーフミラー34を透過(例えば第1光源210からのレーザ光)し、又は反射され(第2光源220からのレーザ光)、次のハーフミラー34において、2つに分離される。分離されたレーザ光は、それぞれ全反射ミラー36を経て、各光路に設けられたシリンドリカルレンズ等の光学レンズ32を経てエンジン700の筒内に対向入射される。
【0061】
光学レンズ32は、例えば、レーザ光のビームを幅方向に拡大するためのシリンドリカルレンズと、厚さ方向にビームを縮小するシリンドリカルレンズの組み合わせによって構成することができる。その拡大率、縮小率は、照射するエンジン筒内の大きさ、レーザ光のエネルギー密度に応じて適切に設定する。一例として、シート幅方向には50mmの長さ、シート厚さ方向には1mmの長さに成形することができる。このようなシート状に成形したレーザ光をエンジン筒内に照射することでレーザシートが照射された領域、つまり2次元領域における温度計測が可能である。
【0062】
ここで、図6の構成例では、エンジン筒内の横断面(シリンダ710の横断面)方向にそのシート幅が拡大されたシート状のレーザ光を照射している。このような方向にレーザ光を照射すれば、シリンダ710の横断面方向に沿った蛍光強度分布を知ることができる。なお、この場合、図6に示すように、透明なピストン712の下部に配置された反射ミラー310が、気筒内で発生した蛍光を外部で観察するための反射ミラーとして利用され、射出窓740より蛍光を観察する。
【0063】
また、図6に示す温度計測装置において、撮影部40としては、各励起波長L1,L2のレーザ光を照射して得られるSO2からの蛍光を撮影するために、複数の撮影部410,420を設けている。この複数の撮影部で蛍光を撮影することで、一方を308nmから得られる蛍光を、他方を248nmから得られる蛍光の撮影に用いることができる。これにより2つのレーザ(308nm、248nm)の発光間隔を短くして(>100ns)、ほぼ同時刻の計測を行うことが可能である。複数の撮影部40を用いる場合、エンジン700から射出された光は、射出窓740からミラー310を介してハーフミラー312に導き、ここで分離して各撮影部40に等しく供給する。なお、ハーフミラー312を用いず、撮影部を1つとする構成を採用することも可能である。この場合には、308nm、248nmを個々に撮影すれば良い。
【0064】
次に、エンジンの縦断面(ピストン712の稼働)方向における蛍光強度分布を計測する場合には、図8及び図9に示すような構成を採用すればよい。具体的には、図8に示すように上記反射ミラー310、窓740を、それぞれ、レーザ光をエンジン筒内に照射するための反射ミラー310及び入射窓740として用い、ピストン712の下方から、ピストン712の可動(エンジンの縦断面)方向に沿って、シート状に成形したレーザ光の光軸方向を照射する。筒内で発生した蛍光はシリンダ710の横方向(側方)から取り出し、撮影部410、420は、ハーフミラー312を介してこの蛍光を計測する。
【0065】
温度計測に用いる可視化エンジン700は、透明なシリンダ710内に透明なピストン712が配され、かつ、図9に示すように、吸気管722の上流に、SO2を新気に混合させるための噴射弁730を備える点を除けば、通常のエンジンと同様の構成、同様の動作をする。一例として、トレーサ物質が混合された新気(燃料及び空気)は、吸気バルブ724が開くと吸気管722から吸気バルブ724を介して燃焼室720内に吸気される。吸気バルブ724が閉じてピストン712が上昇して燃焼室内のガスが圧縮され、その状態でシリンダ710の上部に設けられた図示しない点火ブラグによって着火されて燃焼(爆発)が起きる。爆発行程及び膨張行程の後、排気管726に設けられた排気バルブ728が開くと、燃焼室720内の燃焼ガスは、排気バルブ728を介して排気される。
【0066】
本実施形態に係る温度計測装置では、このような可視化エンジン700に対し、目的とする任意の温度計測タイミングでレーザ光を燃焼室720内に所望の方向(横断方向、縦断方向)から照射し、その時の燃焼室720の中のSO2の蛍光を観察することができる。
【0067】
図10は、撮影部40において温度計測に際して実行される画像処理を概念的に示している。なお、図10では、図6に示すようにエンジンの横断面方向における温度分布を測定する場合を例に画像処理の様子を示している。まず、SO2を混合せずにエンジン700を動作させ、撮影を行う所定のクランク角毎にそれぞれ燃焼室720に励起波長308nm、248nmのレーザ光をそれぞれ照射し、画像データを得る。ここでは、この画像データは、複数サイクルの平均画像データを得て、これを基準背景データとして予め記憶しておく。
【0068】
次に、噴射弁730からSO2を燃料及び空気に混合した状態でエンジン700を動作させ、励起波長308nm、248nmの各レーザ光を照射する。上述の図1、2に示す温度算出部50は、励起波長308nmのレーザ光を照射して得られる蛍光強度画像データから、対応する基準背景データを減算し、蛍光強度画像I308(x,y)を得る。同様に励起波長248nmのレーザ光照射によって得られる画像から対応する基準背景データを減算し、蛍光強度画像I248(x,y)を求める。なお、これらの画像データは所望の画像メモリに記憶させて画像処理に利用する。温度算出部50は、これらの画像の割り算、つまり、I248(x,y)/I308(x,y)を実行し、この除算処理によりCCDカメラ42で撮像する画素毎に、蛍光強度比を求めることができる。
【0069】
次に、蛍光強度の測定時におけるエンジン筒内の指圧を参照し、上述の図5に示すようなLIF強度比−温度の関係テーブルから、画素毎の温度を求めることができ、その結果、二次元温度分布を求めることができる。
【0070】
ここで、レーザ光の入射に対するSO2の蛍光寿命は100ns以下である。特定のクランク角で、シングルショット(単一のパルス光照射による)計測を行う場合、厳密には、同時に2波長のレーザ光を入射する必要がある。しかし、2波長のレーザ光の入射によって得られる蛍光スペクトルを分離することは難しいため、本実施形態では、蛍光寿命以上の時間の時間差を設け2波長のレーザをそれぞれ入射する。この時間差によるクランク角のズレは、仮に500nsの時間差で2波長のレーザ光を順次入射した場合を想定すると、エンジン回転数が例えば6000rpmと非常に高速に動作している場合であっても、その時間差はクランク角で0.018°である。このため燃焼室720内の環境に大きな差は生じておらず、この時間差による2つの波長のレーザ光照射による温度計測は精度上、大きな問題とはならない。また、既に説明したように、各励起波長のレーザ光照射によって得られる蛍光は、2台のカメラ42によって撮影され、それぞれから得られる画像の強度比より温度を決定する。
【0071】
以上、本実施形態によって求められるエンジン筒内の温度分布は、HCCI(予混合圧縮自己着火燃焼)の燃焼率制御や、ガソリンエンジンのノッキング等に対して重要な物理量である。本実施形態によれば、高精度な温度分布計測が可能となることから、その分布等を有効に利用した燃焼を行うことが可能となり、エンジンの性能(出力、排気、燃費等)向上に寄与できる。
【0072】
燃焼前の温度は、上記のようなガソリンエンジンのノッキング等に影響を与えることは知られているが、本実施形態によれば、燃焼前におけるエンジン内の温度分布とノッキング発生との関係を計測することができる。また、例えば、ノッキングが発生しにくい温度分布を意図的に形成できるエンジン構成を作り、それが本当に意図する分布となっているかを確認できる。このため、本実施形態の温度計測方法を用いて、筒内の温度分布を正確に測定することにより、新しい燃焼コンセプトのメカニズムの確認が可能となる。
【0073】
また、HCCI燃焼等では微小な温度ムラが燃焼に及ぼす影響に着目した研究がある。本実施形態の温度計測によって、そのような測定場における温度分布を求めることで、燃焼制御等に用いていくことができる。
【0074】
さらに、燃焼途中、燃焼後における筒内温度は、煤,NOx等の生成に大きく影響を与える。したがって、温度分布を計測することで煤、NOx等の生成メカニズムの解明や観察領域内の温度が、目標とする温度域にあるのか否かといったことを把握することができ、その結果を元にエンジン開発に応用でき、性能向上に寄与できる。
【0075】
また、本実施形態によって得られた温度分布と、CFD(数値流体力学)を用いた計算結果(温度計算結果)と比較することができ、CFDの計算精度等を検証できる。
【0076】
[実施形態2]
上記実施形態1では、測定場としてエンジンを用いたが、エンジンに限らず、トレーサ物質として上記のような硫黄酸化物を用い、190nm〜400nmの範囲の中で複数の励起波長のレーザ光を照射することで、一般的な検査対象に対しても温度分布計測が可能である。
【0077】
図11は、実施形態2として、他の測定場750における温度計測方法を概念的に示している。検査対象領域である測定場750の温度計測を行う場合、この測定場750には、選択した複数の励起波長(例えば、248nm、308nm)のレーザ光を透過する入射用の窓723、724と、観察対象であるLIF光を透過させる観察用窓725があれば、上記実施形態と同様に温度分布の計測が可能である。例えば、既に説明したが、この測定場750の一例としては、ガスタービン等が挙げられる。なお、更に閉じた空間でなければ窓も必要とはならない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態に係る温度計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る温度計測装置の図1とは別の構成例を示す図である。
【図3】励起波長248nmのレーザ光を照射した場合のLIF強度の温度依存性を示す図である。
【図4】励起波長308nmのレーザ光を照射した場合のLIF強度の温度依存性を示す図である。
【図5】励起波長248nmと308nmのレーザ光を照射した場合のLIF強度比の温度依存性を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るエンジンの温度計測装置の概略構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1に係るエンジンの温度計測装置の光学機構部の概略を示す図である。
【図8】本発明の実施形態1に係るエンジンの他の温度計測装置方法を示す図である。
【図9】本発明の実施形態1に係るエンジンの縦断面方向における概略構成を示す図である。
【図10】本発明の実施形態1に係る温度計測時における画像処理を説明する図である。
【図11】本発明の実施形態2に係る温度計測装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
100 温度計測装置、20,210,220 レーザ光源、30 光学機構部、32 光学レンズ(成形用光学レンズ、シリンドリカルレンズ)、34 ハーフミラー(ビームスプリッタ)、35 石英板、36,310 ミラー(全反射ミラー)、38 パワーメータ、39 参照板、40、410,420 撮影部、42 CCDカメラ、44 フィルタ、46 UVレンズ、50 温度算出部、60 制御部、70 測定場、72,72a,72b 入射窓、74 観察窓、700 測定場(エンジン,可視化エンジン)、710 シリンダ、712 ピストン、720 燃焼室、722 吸気管、724 吸気バルブ、726 排気管、728 排気バルブ、730 トレーサ物質噴射弁、740 射出/入射窓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、
前記レーザ光の照射によって前記トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき前記測定場の温度を計測する温度計測装置であり、
前記トレーサ物質として硫黄酸化物を用い、
前記複数の異なる励起波長として、前記硫黄酸化物の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる波長のレーザ光を発生するレーザ光源と、
順次発生する前記複数の異なる励起波長のレーザ光を前記レーザ光源から順次前記測定場の同一箇所に導いて照射するため光学機構部と、
前記レーザ光の照射によって得られた蛍光を撮影する撮影部と、
前記撮影部からの撮影結果から各励起波長に対応する蛍光強度の強度比を求め、前記強度比に基づいて前記測定場の温度を算出する温度算出部と、を備えることを特徴とする温度計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温度計測装置において、
前記撮影部は、前記蛍光強度を、前記測定場に照射された前記レーザ光の光路に沿って観察し、
前記温度算出部にて前記蛍光強度から得た強度比に基づいて前記レーザ光の光路方向における前記測定場の温度を計測する温度計測装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の温度計測装置において、
前記測定場は、燃焼室内であることを特徴とする温度計測装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の温度計測装置において、
前記トレーサ物質は、SO2であり、
前記複数の励起波長は波長190nm〜400nmの範囲であることを特徴とする温度計測装置。
【請求項5】
トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、
前記レーザ光の照射によって前記トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき前記測定場の温度を計測する温度計測方法であり、
前記トレーサ物質として硫黄酸化物を用い、
前記複数の異なる励起波長として、前記硫黄酸化物の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる波長を用い、
前記複数の異なる励起波長のレーザ光を順次を前記測定場に照射し、各励起波長に対応して得られた蛍光強度から強度比を求め、前記強度比に基づいて測定場の温度を測定する温度計測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の温度計測方法において、
前記測定場は、燃焼室内であることを特徴とする温度計測方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の温度計測方法において、
前記トレーサ物質として用いる硫黄酸化物は、SO2であることを特徴とする温度計測方法。
【請求項8】
請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載の温度計測方法において、
複数の励起波長は波長190nm〜400nmの範囲であることを特徴とする温度計測方法。
【請求項9】
請求項5〜請求項8のいずれか一項に記載の温度計測方法において、
前記複数の励起波長は、それぞれ248nm、308nmであることを特徴とする温度計測方法。
【請求項10】
請求項5〜請求項9のいずれか一項に記載の温度計測方法において、
前記蛍光強度を、前記測定場に照射された前記レーザ光の光路に沿って観察し、前記レーザ光の光路方向における前記測定場の温度を計測することを特徴とする温度計測方法。
【請求項11】
トレーサ物質を存在させた測定場に対し複数の異なる励起波長のレーザ光を照射し、
前記レーザ光の照射によって前記トレーサ物質が発する蛍光の蛍光強度に基づき前記測定場の温度を計測する温度計測方法であり、
前記測定場は、燃焼室であり、
前記トレーサ物質として、前記燃焼室内における燃焼反応の前後において化学組成の変化しない不燃性ガスを用い、
前記複数の異なる励起波長としては、前記トレーサ物質の蛍光強度の温度依存性が互いに異なる190nmから400nmの範囲の波長を用い、
前記複数の異なる励起波長のレーザ光を順次を前記測定場に照射し、各励起波長に対応して得られた蛍光強度から強度比を求め、前記強度比に基づいて測定場の温度を測定する温度計測方法。
【請求項12】
請求項11に記載の温度計測方法において、
前記トレーサ物質は、硫黄酸化物であることを特徴とする温度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−2811(P2009−2811A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164396(P2007−164396)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】