説明

温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法

【課題】温調機能を備えた鋳造製品、例えば射出成形用金型等の所望面に対して、少量の素材を用いて機能性金属被膜を効率良く形成する方法を提供する。
【解決手段】温調機の温調媒体を温調機能を具備する金属製被処理部材と接続し、該処理部材の温度調節を可能とした後、該部材の金属被膜形成面に対する脱脂工程に適する第1の温度範囲に調整して脱脂を行い、次いで第2の温度範囲に調整し水洗工程、該被膜形成面に対する酸活性化工程および酸活性液の水洗工程を行い、引き続き、金属被膜形成に適する第3の温度範囲に設定すると同時に被膜形成用液剤を注入して被膜形成を行う。その後、該液剤の洗浄に適する第4の温度範囲に温調を行い、該液剤を排出し、さらにイオン交換水等の洗浄液によって該液剤が残留しないよう洗浄を繰返して、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正確な温度調節が必要となる鋳造製品、例えば射出成形用金型、プレス用金型、加工機用ベッド、半導体製造プロセス用炉体、押出機用バレル等金属製品の所要面に対して、機能性金属被膜を効率良く形成する機能性金属被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高精度の要求される精密装置の架台、支持材、駆動部構成材、プレス用金型、プラスチック射出成形用金型等にあっては、正確な温度調節(以下、「温調」と略記する)を行うために温調媒体を通流させるための温調用配管が装備されている鋳造製品を利用するものが多い。このような鋳造製品に温調配管を形成するには種々の方式があるが、最も確実な手法は鋳造工程において鋳型内に配管材を配設して、いわゆる鋳包み(いぐるみ)法によって形成するものである。
【0003】
本出願人は、特願2005−260164号において所定成分の原材料であってマルテンサイト変態開始温度が室温付近にあり、マルテンサイト変態開始温度が氷点下であるマルテンサイト鋳造材を開示している。併せて、この技術によって得られる鋳造材により、鋳包み法によって温調配管、電熱ヒーターや測温センサ等の取り付け配管等を設けた鋳造製品の製造方法を開示している。
【0004】
一方、温調配管を設けた鋳造製品の表面の耐久性を高める場合、さらには製品表面を鏡面仕上げとする場合、研磨よりも安価かつ短時間に処理し得る機能性金属被膜を形成する手段が広く採用される。機能性金属被膜を形成する手法としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶射、PVD/CVD、スパッタリング等各種方式が知られているが、装置が高価であったり、高度の処理技術が要求されたり、処理製品のサイズが限定されるものなどが混在し、全ての分野で適用可能なものはない。これらの中で、電気めっき、無電解めっき等のめっき法は、管や筒の内部から複雑な外形の表面をはじめ、大型の対象物表面などへの金属被膜形成に適しており、広い分野で採用されている。
【0005】
金属製品の表面に金属被膜を形成する方法として、特許文献1は、被処理部材である内燃エンジン用シリンダのピストン摺動面となる内周面等のめっきを必要とする部分のみにめっきを適正に施す技術を開示している。ここでは底部に吸・排気弁等の開口部を有するシリンダの内面に無電解めっきを施そうとするものであり、シリンダ内に無電解めっき液を導入し、所定流速で通過させながらシリンダ内周の所望部位に無電解めっきを施そうとするものである。この場合、処理温度の管理は処理速度や仕上げ品質に大きな影響を与えるめっき液管理は別途行わなければならない。
【0006】
特許文献2は、有底の孔を有する被処理物の孔の内壁面に無電解めっき法により均一な金属膜を形成する技術を開示している。ここでは、有底の孔の開口部から底部付近まで細管を挿入配置し、この細管内を通して、流速2〜200cm/分で無電解めっき液を供給することにより、均一な金属被膜を形成することを開示している。このような手法により、例えば金型の冷却水管内壁面に防錆効果の高い金属膜を形成することができ、管内に防錆剤や防錆油の塗布などの防錆対策が不要となり、冷却効果の変動が防止でき、作業効率の向上、経費削減等が期待できることを開示している。しかし、この技術は、有底の孔内壁面に対する無電解めっき方法であり、展開する凹部や被対象物の外表面に適用することはできない。
【0007】
特許文献3は、長尺金属管内面に無電解めっきを行う技術を開示するものであり、金属管の両端を通電電極として通電・加熱する手法で予備加熱を行い、通電加熱を行いながら所定のめっき温度よりも高温に加熱しためっき液を連続的に通液して長尺金属管の内面に金属被覆層を形成する技術思想を開示している。この方法では、金属管を抵抗体として捉え、通電した際のジュール熱を利用して金属管を予備加熱しようとするものである。そのため、金属管の電気抵抗、したがって当該金属管の材質、管径、肉厚、長さ等の諸寸法、他物との接触の状態などによって大きく左右され、全ての金属管において満足な結果が得られるとは限らない。また、展開する凹部や被対象物の外表面に適用することは困難である。
【特許文献1】特開2005−120413号公報
【特許文献2】特開平09−13174号公報
【特許文献3】特開平09−279357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、温調機能を備えた鋳造製品、例えば射出成形用金型、プレス用金型、加工機用ベッド、半導体製造プロセス用炉体、押出機バレル等の所望面に対して、少量の素材を用いて機能性金属被膜を効率良く形成する、機能性金属被膜形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、温調機における温調媒体の出口2Bおよび入口2Aを、温調機能を具備する金属製被処理部材23の対応する温調媒体接続部にそれぞれ接続することにより温度調節を可能とした上、前記被処理部材の金属被膜形成面に対する脱脂工程に適する第1の温度範囲に調整してから被処理部材の脱脂工程を実行し、脱脂工程終了後に温度調節を行って、第2の温度範囲に調整してから脱脂液の水洗工程を実行し、次いで金属被膜形成面に対して酸活性化工程を実行し、次いで酸活性液の水洗工程を実行し、次いで金属被膜形成処理に適する第3の温度範囲に設定すると同時に金属被膜形成用液剤を注入し、金属被膜が形成された後、金属被膜形成用液剤の洗浄に適する第4の温度範囲に温調を行いながら、金属被膜形成用液剤を排出し、さらにイオン交換水等の洗浄液により金属被膜形成用液剤が残留しないよう洗浄を繰返す、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記温調機能を具備する被処理部材のキャビティ部、炉体空洞部、一方を閉塞させた筒状体等の凹部に対して、前記脱脂、水洗、酸活性化、水洗、金属被膜形成処理および洗浄の諸工程に要する各処理液を直接注液することにより金属被膜形成が実行される、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記温調機能を具備する被処理部材の平面部、突出部ならびに液体を貯えるに足りる十分な深さのない浅い凹部等に対して機能性金属被膜を形成するために、該機能性金属被膜形成部を包囲する防液壁を仮止めし、このように形成された防液壁に包囲された凹部に対して、前記脱脂、水洗、酸活性化、水洗、金属被膜形成処理および洗浄の諸工程に要する各処理液を直接注液することにより金属被膜形成が実行される、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記温調機能を具備する被処理部材の全面ないし大部分の面に対して機能性金属被膜を形成するために、該被処理部材全体を僅かな余裕をもって収容し得る容器に納め、当該容器と被処理部材との間に対して、前記脱脂、水洗、酸活性化、水洗、金属被膜形成処理および洗浄の諸工程に要する各処理液を直接注液することにより金属被膜形成が実行される、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記金属被膜形成処理が無電解めっき液を使用する無電解めっき処理であり、前記脱脂工程にはNaOH、KOH、Na2CO3、Na3PO4、界面活性剤等から選ばれた1ないし複数種のアルカリ脱脂剤が使用される温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。前記めっき液は酸性又はアルカリ性のめっき液を使用することができる。また、前記脱脂工程に使用されるアルカリ脱脂剤としてはグリコン酸ナトリウムを使用することができ、その成分はNaOH等に限定されるものではない。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記金属被膜形成処理が無電解Ni-P(ニッケル-リン)めっき液を使用する無電解めっき処理である、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記第1の温度範囲が45℃〜95℃、第2の温度範囲が5℃〜40℃、第3の温度範囲が45℃〜98℃、そして第4の温度範囲が5℃〜40℃である、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。また、前記温度範囲はこれらに限定されるものではなく、−100℃〜300℃の範囲においても実施可能である。このような広い温度範囲は、温調媒体として例えばふっ素系不活性冷媒、水、けい素系油等を使用することにより実現できる。
【0016】
請求項8に記載の発明は、前記被処理部材が温調配管を具備する射出成形用金型またはプレス加工用金型のいずれかである、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法であることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は前記被処理部材が温調配管を具備する精密加工機用ベッドであることを特徴とし、請求項10に記載の発明は前記被処理部材が温調配管を具備し一端側を仮閉塞させた押出機バレルであることを特徴とし、請求項11に記載の発明は、前記被処理部材が温調配管を具備する半導体製造プロセス用炉体であることを特徴とする、温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法である。
【0018】
請求項12に記載の発明は前記被処理部材の温調配管が鋳包み事前配管によって鋳造と同時に形成されることを特徴とし、請求項13に記載の発明は、前記被処理部材の温調配管が後加工によって形成されることを特徴とする温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により特定された手法により実行される機能性金属被膜形成方法によれば、温調配管を具備する被処理部材としての金属製品、例えば金型や炉体等にあって、キャビティや溶融対象を受容するための空洞部などの凹部内面、一端を仮閉塞した押出機バレル等の筒状体の内壁面等に対して機能性金属被膜を高効率で経済性にも優れた手法により形成することができる。
【0020】
実施にあたっては、被処理部材に付属する温調配管により機能性金属被膜形成に適する温度となるように温度調節を行いながら、これらキャビティや空洞等の凹部内壁面に予備処理液、洗浄液、機能性金属被膜形成処理液等を直接注液及び抜き取りを繰返しながら、内壁面に所望の金属被膜を形成することができる。また、被処理部材における金属被膜形成処理面が平坦ないし凸面である場合は、金属被膜形成対象部を包囲する防液壁を仮設し、その内部に所要処理液を注入することにより凹部内面と同様に所望の金属被膜を形成することができる。さらに、被処理部材の外面の大部分または全面に機能性金属被膜を形成する場合には、被処理部材より僅かに大きな容積の容器を用いて、このような容器内に被処理部材を収容し、温度調節を行いながら各処理液等を注入及び抜き取りながら処理すればよい。
【0021】
本発明に係る温調機能を具備する被処理部材に対する機能性金属被膜形成処理として、無電解めっき処理が有利に適用可能である。この場合、被処理部材の構成成分に対して少なくとも部分的に重なる成分を含有する無電解めっき液を用いることにより、当該加工物の用済み後リサイクルが有利に実施可能となる。例えば、本出願人の出願にかかる特願2005−260164において開示したサブゼロ処理によって低温でマルテンサイト変態が得られるマルテンサイト鋳造材による金型や半導体プロセス用炉体等の製品の場合、無電解NiP(ニッケル-リン)めっき液を用いる無電解めっきを行った場合、用済み後にはこれらめっき液による金属被膜を研磨その他の手段で除去することなくそのまま溶解することにより、良質の再生地金を得ることができる。
【0022】
本発明に係る機能性金属被膜形成処理、例えば無電解めっき処理を行う場合、従来のめっき処理では、アルカリ浸漬脱脂、酸洗浄、酸活性、無電解めっき処理、湯洗等の各処理がそれぞれ異なる浴液槽によって行われていた。被処理部材が大型製品、例えば自動車や列車等の運輸機械用部品製造におけるプレス用金型、射出成形用金型等の大型被処理部材の場合、各工程毎の浴液槽を多数併設する必要があり、大規模な設備ならびに床面積が必要となる。それに伴い、各工程で使用される液剤をはじめ各種資材も大量に必要となり、さらに被処理部材の各浴液槽への浸漬・取り出し工程、各浴液槽間の移動、等のために大型のクレーン移動が必要となり、サイクルタイムも長くなる。これに対して、本発明に係る機能性金属被膜形成処理では、処理場の敷地、建屋、付帯設備等が大幅に節減でき、所要資材ならびに使用エネルギーも少なく、処理時間も短縮できるため経済性に優れており、当該分野における産業の発達に資することができる。
【0023】
本発明に係る機能性金属被膜形成処理に適する温調機能を具備する金属製品としては、上述の射出成形用やプレス用の金型類以外に、温調管等の所要部材を鋳包んだ、プラスチックの溶融混練用押出機のバレル、直管ないし曲折した温調配管を鋳包んだ黒体炉、PVD・CVD・ドライエッチング、ウエットエッチング等の炉体、プラズマ発生装置、半導体加工装置炉体、半導体マスク製造用ステッパー、アライナー、精密加工装置の摺動面の精密温度調節機構、シリンダライナー、エンジンブロックなどの各種エンジン用鋳造部品等に有利に適用可能である。なお、これらは単なる例示であり、その他類似構造の温調配管または潤滑油配管等を具備する金属製品にも適用することができ、これら例示に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明に係る温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法の内容について開示する。図1は本発明に係る機能性金属被膜形成処理方法によってめっき処理を行う実施態様を示す概念図である。金型である被処理部材1は温調配管2を具備しており、図中央の曲線で示したようなキャビティ3が形成されており、このキャビティ3の壁面に機能性金属被膜としてのめっき層4を形成しようとするものである。
【0025】
キャビティ3の周囲を包囲するように、処理液の飛散を防止するための仮設隔壁5が形成されている。この仮設隔壁の材質、取り付け範囲および高さ等については、被処理部材1の大きさ、キャビティ3の形状、容積、処理液6の種類等によって決定すべきものである。また、処理液6は、ムラのない高品位の金属被膜形成のために処理液循環ポンプ7によって適宜循環させ、さらに必要に応じて撹拌装置8によって撹拌するように構成することもできる。
【0026】
なお、温調の効率を高めるために、被処理部材である金型1の外表面を保温材9で包囲しておくと一定温度保持のために都合が良い。さらに、工程中の温度制御において被加工面温度を前処理よりも低下させることもあるため、保温材9は着脱自在であると都合が良い。
【0027】
このような構成において、温調配管2の入口2Aおよび出口2Bを温調のための熱媒体、例えば水、熱水、蒸気、熱媒体油、ふっ素系不活性冷媒等を通流させるための温調機(図示していない)の対応する接続部位にそれぞれ接続し、媒体温度、通流量等を適宜調節することにより、被処理部材である金型の温度を処理に適する温度となるように調節する。この場合の温調手法は、被処理部材が完成した後における温調媒体の種類及び通流方向、流量等と一部異なっていても差し支えないが、管径、曲折部の構成、接続継ぎ手部分の流動抵抗の正逆差等も全くないとはいえないため同じ手法であればなお都合がよい。
【0028】
次に、図2に示すフロー図を参照して、典型的金属被膜形成処理である無電解めっき処理工程について開示する。ステップS1において被処理面のアルカリ液浸脱脂処理を50℃以上で10分間実施する。次いでステップS2において、水洗浄を行う。次いで、ステップS3において酸活性化を常温において数秒〜数10秒実施する。その後、ステップS4において、再び水洗浄を実行して酸を除去する。その後、ステップS5において処理の中核である無電解めっき処理を80〜90℃の温度範囲で30分〜1時間程度実施する。
【0029】
めっき処理完了後、ステップS6においてめっき後の湯洗を行い、ステップS7の乾燥工程において水分を除去して一連の処理を終了する。従来広く実施されている大型被処理対象に対するめっき処理においては、上記各工程の処理槽がそれぞれ独立して設けられていて、被処理部材をクレーンで吊り上げて移動させながら順次各浴槽の該当する液に浸漬する方法が行われてきた。これに対し、本願発明に係るめっき処理では被処理対象の所要表面に直接めっき処理を行うため、設備が簡素化されるばかりでなく、処理に要するサイクルタイムも短縮され、所要エネルギーも大幅に節減される。
【0030】
図3は大型金属製品に対して従来の金属被膜形成法、例えばめっき処理法を実施するための設備の典型例を示すものである。処理槽21には脱脂、洗浄、活性化、めっき液等いずれかの処理液22が満たされており、大型金属製品である被処理部材23が処理液22に浸漬される。この被処理部材23は、レール20Rを走行する天井走行クレーン20により吊り上げ−走行−吊り下げ動作を経て前工程から順次隣接する次工程まで移動せしめられる。処理槽21内の液温は、所望反応に適した温度に維持する必要があるから、液内に配設される槽内部ヒーター24、液槽周囲に埋め込まれる埋め込み温調配管25等のいずれか一方または双方の組合わせにより温調制御がなされる。また、処理槽21に満たされる処理液22は、付属する処理液循環装置26により浄化、加熱、冷却等の処理が加えられ、供給配管27、回収配管28を介して循環せしめられる。
【0031】
このような従来例に係る大型金属製品の金属被膜形成装置にあっては、処理槽21をはじめ、天井走行クレーン20、液槽に付随する処理液循環装置26等は、処理される最大の金属製品の寸法、形状、重量を想定してそれぞれの規模、定格等を決定し、これらに安全係数を乗じて設備構成を行わなければならない。
【0032】
したがって、想定される最大寸法の処理対象を受容するための処理槽21が処理工程毎に併置されるため、極めて大きな床面積と、過大設備投資が必要となる。天井走行クレーン20も想定される最大寸法かつ最大重量の被処理金属製品を想定して吊り上げ荷重、走行性能等を決定する必要があり、中・小型製品を処理する場合に過剰定格となり作業効率やエネルギー効率を悪化させる原因となる。また、クレーン設備に関しては一定期間ごとに法定点検等も義務付けられるため、管理上の負担も大きくなる。その他、処理液循環装置26を含め各種付帯設備に関しても同様の過剰設備を前提とすることになる。
【0033】
これに対して本発明に係る処理法によれば、金型キャビティ、各種炉体内部等の凹部を有する被処理部材にあっては、その内部に処理液類を直接注液し、温調は被処理部材金属製品が具備する温調機能による、いわゆる内部直接加熱によって当該処理液に必要な温度に保持しながら、金属製品表面への金属被膜形成が可能となる。また被処理面が平坦部ないし凸部を有する場合は防液仮設壁内部に液体を注いで処理を行い、そして所定時間経過後に前工程の処理液を排出し、次いで次工程の処理液を注ぎながら順次異なる処理を実行するものである。
【0034】
本発明に係る処理法によれば、処理槽間をクレーン等によって移動させる必要もなく、工数削減ならびに処理時間短縮が可能となる。この場合、処理液量は従来装置に比して比較し得ないほど少量であるから、注液−排液のためのポンプ動力、温調に要するエネルギー消費も大幅に節減できる。したがって、典型例として例示したような図3の従来技術に係る処理装置のような過剰設備、過剰定格、効率低下、エネルギー損失の増大のような問題は一挙に解消される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る金属製品への機能性金属被膜形成方法は、本来的に温度調節機能を具備する金属製品の所望面に機能性金属被膜、例えば無電解めっきによる金属被膜を形成する際に、金属製品自体が具備する温調機能を活用して温度制御を行いながら処理液を直接注液することにより、経済的に機能性金属被膜を形成しようとするものである。このような手法によれば、自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の各種輸送機械等に使用される大型金属部材製造用の金型、プラスチック射出成形用金型、半導体プロセス用炉体、押出機用バレル、その他大型金属部材の製造に当たって、大きな利益が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法の実施状態を示す概念図である。
【図2】本発明に係る温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法である無電解めっき処理の典型的処理工程を示すフロー図である。
【図3】従来技術に係る機能性金属被膜形成方法の実施状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0037】
1 鋳包み温調配管付き被処理部材(金型)
2 温調配管
2A 温調媒体入口
2B 温調媒体出口
3 キャビティ
4 機能性金属被膜(めっき層)
5 仮設隔壁
6 処理液
7 処理液循環ポンプ
8 撹拌装置
9 保温材
20 天井走行クレーン
20R レール
21 処理槽
22 処理液
23 被処理部材
24 槽内部ヒーター
25 埋め込み温調配管
26 処理液循環装置
27 処理液供給配管
28 処理液回収配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温調機における温調媒体の出口および入口を、温調機能を具備する金属製被処理部材の対応する温調媒体接続部にそれぞれ接続することにより温度調節を可能とした上、前記被処理部材の金属被膜形成面に対する脱脂工程に適する第1の温度範囲に調整してから被処理部材の脱脂工程を実行し、脱脂工程終了後に温度調節を行って、第2の温度範囲に調整してから脱脂液の水洗工程を実行し、次いで金属被膜形成面に対して酸活性化工程を実行し、次いで酸活性液の水洗工程を実行し、次いで金属被膜形成処理に適する第3の温度範囲に設定すると同時に金属被膜形成用液剤を注入し、金属被膜が形成された後、金属被膜形成用液剤の洗浄に適する第4の温度範囲に温調を行いながら、金属被膜形成用液剤を排出し、さらにイオン交換水等の洗浄液により金属被膜形成用液剤が残留しないよう洗浄を繰返す、ことを特徴とする温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項2】
前記温調機能を具備する被処理部材のキャビティ部、炉体空洞部、一方を閉塞させた筒状体等の凹部に対して、前記脱脂、水洗、酸活性化、水洗、金属被膜形成処理および洗浄の諸工程に要する各処理液を直接注液することにより金属被膜形成が実行される、ことを特徴とする請求項1に記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項3】
前記温調機能を具備する被処理部材の平面部、突出部ならびに液体を貯えるに足りる十分な深さのない浅い凹部等に対して機能性金属被膜を形成するために、該機能性金属被膜形成部を包囲する防液壁を仮止めし、このように形成された防液壁に包囲された凹部に対して、前記脱脂、水洗、酸活性化、水洗、金属被膜形成処理および洗浄の諸工程に要する各処理液を直接注液することにより金属被膜形成が実行される、ことを特徴とする請求項1に記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項4】
前記温調機能を具備する被処理部材の全面ないし大部分の面に対して機能性金属被膜を形成するために、該被処理部材全体を僅かな余裕をもって収容し得る容器に納め、該容器と被処理部材との間に対して、前記脱脂、水洗、酸活性化、水洗、金属被膜形成処理および洗浄の諸工程に要する各処理液を直接注液することにより金属被膜形成が実行される、ことを特徴とする請求項1に記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項5】
前記金属被膜形成処理が無電解めっき液を使用する無電解めっき処理であり、前記脱脂工程にはNaOH、KOH、Na2CO3、Na3PO4、界面活性剤等から選ばれた1ないし複数種のアルカリ脱脂剤が使用される、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項6】
前記金属被膜形成処理が無電解Ni-P(ニッケル-リン)めっき液を使用する無電解めっき処理である、ことを特徴とする請求項5に記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項7】
前記第1の温度範囲が45℃〜95℃、第2の温度範囲が5℃〜40℃、第3の温度範囲が45℃〜98℃、そして第4の温度範囲が5℃〜40℃である、ことを特徴とする請求項1に記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項8】
前記被処理部材が温調配管を具備する射出成形用金型またはプレス加工用金型のいずれかである、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項9】
前記被処理部材が温調配管を具備する精密加工機用ベッドである、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項10】
前記被処理部材が温調配管を具備し、一端側を仮閉塞させた押出機バレルである、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項11】
前記被処理部材が温調配管を具備する半導体製造プロセス用炉体である、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項12】
前記被処理部材の温調配管が鋳包み事前配管によって鋳造と同時に形成される、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。
【請求項13】
前記被処理部材の温調配管が後加工によって形成される、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の温調機能を具備する金属製品への機能性金属被膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262548(P2007−262548A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92822(P2006−92822)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【出願人】(503025111)有限会社渡辺鋳造所 (2)
【Fターム(参考)】