説明

測位装置及びその制御方法

【課題】特別な回路を用いることなく、受信可能な信号だけを効率よく受信する測位装置及びその制御方法を提供すること。
【解決手段】測位装置100は、衛星から送信される第一信号を復調処理する第一信号処理部121と、第一信号と周波数帯又は拡散方式の異なる第二信号を復調処理する第二信号処理部122とを備え、制御部104は、第一信号処理部121と第二信号処理部122のうち電界強度の大きい信号側を基準として、電界強度の小さい信号側の動作を制御するとともに、第一信号処理部121と第二信号処理部122のうち電界強度の大きい側のチャンネルを優先的に動作させ、電界強度の小さい側のチャンネルを優先的に動作停止させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星を利用する測位装置及びその制御方法に関し、特に地球を周回するGPS(Global Positioning System)衛星から位置、速度を求めるGPS利用測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来米国が運用するGPSシステムやロシアが運用するGLONASS(Global Navigation Satellite System)システムなどの衛星を利用した全地球的衛星航法システム(GNSS)を利用した測位装置は、複数のGNSS衛星の電波を同時に受信して、GNSS衛星からの航法メッセージ(軌道情報や時刻情報)を取得することによって、地球上での絶対位置を算出するものである。
【0003】
衛星を利用する測位装置では、通常4個以上の衛星の信号を同時に受信し、搬送波を捕捉して拡散符号を追尾し、スペクトラム逆拡散処理を行って衛星信号から航法データを復調する。また航法データなどを用いて衛星が信号送信した時刻を算出して各衛星毎の擬似距離(衛星信号が測位装置に到達するのに要した時間)を求め、求めた擬似距離に基づいて測位装置の位置を決定する。
【0004】
現在ではGPS受信機が広く利用されており、カーナビゲーションシステムや、携帯電話、航空機制御、地殻変動の測量など様々な分野で利用されている。しかしながら、応用分野が広がるに伴い、GPS単独では測位精度や信頼性に対する要求性能を満たすことが困難になりつつある。GPSを運用する米国では、GPS近代化政策の一環として、既存民間周波数帯であるL1帯に加え、異なる周波数帯に新しい民生用信号の追加をすることにより、測位精度や信頼性の向上を計画している。
【0005】
既存のL1帯の信号は時刻及び位置を示す50bpsの航法データを搬送波周波数が1.575GHzで、符号速度1.023Mbpsで符号長1023チップで周期1msecのC/Aコード(Coarse/Acquisition Code)と呼ばれる拡散符号によってBPSK変調した信号を地上に送信している。新周波数帯にはL2帯とL5帯域二つが計画されており、L2帯では、25bpsの航法データを搬送波周波数が1.227GHzで、符号速度1.023Mbpsで、符号長10230チップのL2CMコードと767250チップのL2CLコードの二つの拡散符号によって、時分割にBPSK変調されている。したがって、コードの周期はそれぞれ20msecと1.5秒である。またL5帯には、搬送波周波数1.176MHzで、符号速度が10.23Mbpsで、符号長10230チップのI5/Q5コードで周期1msecの拡散符号によってQPSK変調されている。
【0006】
特許文献1には、GPS衛星から送信されるL1C/Aコード、L2CMコード、L2CLコード、L5I5コード、及びL5Q5コードを使用する測位装置において、同期外れ時の再サーチの際に、一つの衛星から異なる変調コードによってスペクトラム拡散されて送信された複数の衛星信号に対して、周波数スキャンと、コードスキャンとを同時に並行して行うとともに、相関度検出部による各相関値を足し合わせた加算相関値のレベルに基づいてキャリア周波数とコード位相の再捕捉を行う衛星航法装置が開示されている。
【0007】
さらに、欧州のガリレオ(Galileo)システムが計画されており、GPSと同等数の衛星を用いた衛星測位システムの構築が計画されている。このガリレオシステムにおいても複数の周波数信号が用意されており、これらの複数の信号を利用することができれば、従来以上の性能(受信エリアの広範囲化、自位置精度向上等)を実現することが可能となる。
【特許文献1】特開2006−258436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来の測位装置にあっては、利用可能な信号が増えることにより、現在のL1帯の信号処理回路が保有するチャンネル数に対して、同等数のチャンネルがL2帯域用やL5帯域用などの信号処理回路が必要となり、回路規模の増加に伴って消費電力の増加を招いてしまうという課題がある。
【0009】
また、衛星が送信する複数の信号は、それぞれ異なる送信電力で送信されており、GPSが利用するL5帯域と比較して、L1帯域で約−2dB、L2帯域で約−6dBとなり、送信電力の低い信号は測位装置で信号受信することが難しいという課題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、特別な回路を用いることなく、受信可能な信号だけを効率よく受信する測位装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の測位装置は、衛星信号を走査又は追尾する複数のチャンネルを備える測位装置であって、衛星から送信される第一信号を復調処理する第一信号処理手段と、前記第一信号と周波数帯又は拡散方式の異なる第二信号を復調処理する第二信号処理手段と、前記第一信号及び前記第二信号の復調処理結果に基づいて衛星までの距離を算出して測位演算を行う測位手段と、前記第一信号処理手段及び前記第二信号処理手段の復調結果に基づいて同一衛星が送信した前記第一信号と前記第二信号の電界強度差を測定する電界強度比較手段と、前記電界強度差を記憶する電界強度格納手段と、前記電界強度格納手段の情報を基に前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のチャンネルの動作を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい信号側を基準として、電界強度の小さい信号側の動作を制御する構成を採る。
【0012】
本発明の測位装置の制御方法は、衛星信号を走査又は追尾する複数のチャンネルを備える測位装置の制御方法であって、衛星から送信される第一信号を復調処理するステップと、前記第一信号と周波数帯又は拡散方式の異なる第二信号を復調処理するステップと、前記第一信号及び前記第二信号の復調処理結果に基づいて衛星までの距離を算出して測位演算を行うステップと、前記第一信号処理手段及び前記第二信号処理手段の復調結果に基づいて同一衛星が送信した前記第一信号と前記第二信号の電界強度差を測定するステップと、前記電界強度差を記憶するステップと、前記記憶した電界強度差の情報を基に前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のチャンネルの動作を制御する制御ステップとを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特別な回路を備えることなく受信可能な信号だけを効率よく受信することができるため、精度のよい測位結果を得ることができ、さらに受信が困難なチャンネルの動作を停止することで消費電力を削減することができるという効果を有する測位装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る測位装置の構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態は、測位システムとして、GPSに対応する衛星測位システムに適用した例である。
【0016】
図1において、測位装置100は、衛星信号を走査又は追尾する複数のチャンネルを備えた測位装置であり、衛星信号を受信するアンテナ部101と、アンテナ部101で受信した信号を第一中間周波数にダウンコンバートする第一信号ダウンコンバータ部111と、アンテナ部101で受信した信号を第二中間周波数信号にダウンコンバートする第二信号ダウンコンバータ部112と、第一中間周波数信号を信号処理してスペクトラム拡散された信号の復調処理を行う第一信号処理部121と、第二中間周波数信号を信号処理してスペクトラム拡散された信号の処理復調を行う第二信号処理部122と、測位演算を行う測位部102と、測位結果を表示する位置情報表示部103と、第一信号処理部121と第二信号処理部122の制御を行う制御部104と、電界強度設定部105とを備えて構成される。
【0017】
アンテナ部101は、衛星からの電波を受信する。
【0018】
第一信号ダウンコンバータ部111は、アンテナ部101で受信した衛星信号を第一中間周波数信号へのダウンコンバート及びアナログーディジタル変換(A/D変換)を行い、第一信号処理部121の各チャンネルCH1,CH2,…に出力する。第二信号ダウンコンバータ部112は、アンテナ部101で受信した衛星信号を第二中間周波数信号へのダウンコンバート及びA/D変換を行い、第二信号処理部122の各チャンネルCH1,CH2,…に出力する。上記チャンネルの具体的構成については、図2により後述する。
【0019】
第一信号処理部121は、衛星から送信される第一信号を復調処理する。第一信号は、例えばL1信号である。
【0020】
第二信号処理部122は、第一信号と周波数帯もしくは拡散方式の異なる第二信号を復調処理する。第二信号は、第一信号をL1信号とした場合には、第一信号(L1信号)と周波数帯もしくは拡散方式が異なる信号、例えばL2信号若しくはL5信号である。
【0021】
第一信号処理部121及び第二信号処理部122が処理する衛星信号は、GPS衛星が送信するL1帯信号、L2帯信号、L5帯信号のうち少なくとも2つを含む。
【0022】
測位部102は、第一信号と第二信号の復調処理結果から衛星と測位装置間の距離を算出して測位演算を行う。
【0023】
制御部104は、マイクロプロセッサ等により構成され、走査する衛星の選択と、受信信号の追尾制御と、衛星から送信される航法メッセージの取得の、測位装置100の基本制御を行う。制御部104は、第一信号処理部121と第二信号処理部122のうち電界強度の大きい信号側を基準として、電界強度の小さい信号側の動作を制御する。また、第一信号処理部121と第二信号処理部122のうち電界強度の大きい側のチャンネルを優先的に動作させ、電界強度の小さい側のチャンネルを優先的に動作停止させる。
【0024】
制御部104は、第一信号処理部121と第二信号処理部122で求めた各々のコード相関強度から算出する各々の電界強度を同一の衛星に対して比較する電界強度比較部131と、比較結果を格納する電界強度格納部132と、電界強度格納部132の情報を基に第一信号処理部121のチャンネルと第二信号処理部122のチャンネルの動作を制御するチャンネル動作制御部133とを備える。コード相関については、図3により後述する。
【0025】
電界強度比較部131は、第一信号処理部121と第二信号処理部122の復調結果から同一衛星が送信した第一信号と第二信号の電界強度差を測定する。
【0026】
電界強度格納部132は、電界強度差を記憶する。電界強度格納部132は、同一衛星から送信される第一信号と第二信号の電界強度が一定値以上の場合にのみ電界強度差を格納する。電界強度格納部132は、測位部102が算出する衛星と測位装置間の距離を用いて、同一衛星から送信される第一信号と第二信号の信号伝搬中の信号減衰量差を算出し、電界強度比較部131で取得した電界強度差に信号減衰量差を加算して格納する。電界強度格納部132は、外部装置から電界強度差を設定する機能を備える。
【0027】
チャンネル動作制御部133は、電界強度格納部132の情報を基に第一信号処理部121と第二信号処理部122のチャンネルの動作を制御する。チャンネル動作制御部133は、測位装置が受信可能な最小電界強度値を保持しており、電界強度の大きい信号側の電界強度が一定値以上の場合にのみ、電界強度の低い信号側の衛星を動作させる。チャンネル動作制御部133は、同一衛星から送信される第一信号と第二信号を復調し、何れか片方の信号が復調されて電界強度を測定した場合、復調が未完了の側の信号積分時間を変化させる機能を備える。チャンネル動作制御部133は、同一衛星から送信される第一信号と第二信号のいずれか一方が一定時間を経過しても信号復調できない場合には、信号復調できている信号は、ジャミング信号を捕捉していると判定し、信号処理動作を初期化させる。チャンネル動作制御部133は、第一信号と第二信号の電界強度の差が、電界強度格納部132の値と異なる場合に、この衛星を測位演算に使用しないよう制御する。
【0028】
図2は、上記第一信号ダウンコンバータ部111及び第二信号コンバータ部112の各チャンネルCH1,CH2,…の構成を示す機能ブロック図である。各チャンネルCH1,CH2,…は、同一構成を採るため、これをチャンネルCH200として示す。
【0029】
図2において、チャンネルCH200は、搬送波発生器201と、拡散符号発生器202と、I積分器203及びQ積分器204と、乗算器205〜208とを備えて構成される。
【0030】
搬送波発生器201は、所定の周波数信号を発生し、第一信号ダウンコンバータ部111又は第二信号コンバータ部112から入力された第一又は第二中間周波数信号と乗算することによって、中間周波数信号に含まれる搬送波成分の除去を行う。
【0031】
拡散符号発生器202は、衛星を捕捉するため所定の拡散符号を発生し、搬送波成分の除去された中間周波数信号と乗算し、衛星からの拡散符号信号との相関をとる。そのため、拡散符号発生器202は、拡散符号の種別によって決定される所定数のシフトレジスタで構成されており、衛星毎に固有の値として定められている値をシフトレジスタの初期値に設定し、クロックを印加していくことで、対象衛星の拡散符号を発生する。
【0032】
I積分器203及びQ積分器204は、中間周波数信号のI相と、I相に対し90度位相の異なるQ相それぞれについて、所定周期で時間積分する。
【0033】
ここで拡散符号とは各衛星毎に固有の符号であり、上述したC/AコードやL2CMコード、L2CLコード、I5コード、Q5コードなどがある。衛星の拡散符号の捕捉は、まず制御部104で対象衛星の選択を行って、拡散符号発生器202から対象衛星の拡散符号と同一の拡散符号を生成する。そして、生成した拡散符号と衛星信号の拡散符号との乗算により相関処理を行い、両方の拡散符号の位相が一致するよう制御する。なお位相を一致させるには、拡散符号には位相が一致したときに相関値が最大で、位相が不一致の時は0となる特性があるため、拡散符号発生器202で生成する位相を所定数だけ移相しながら相関処理が行われ、I積分器203及びQ積分器204で算出する積分値が最大となるまで、つまり対象衛星の拡散符号が捕捉されるまで繰り返す。
【0034】
以下、上述のように構成された測位装置100の動作を説明する。
【0035】
本実施の形態の測位装置100は、制御部104が、第一信号処理部121と第二信号処理部122で求めた各々のコード相関強度から算出する各々の電界強度を同一の衛星に対して比較する電界強度比較部131と、比較結果を格納する電界強度格納部132と、電界強度格納部132の情報を基に第一信号処理部121のチャンネルと第二信号処理部122のチャンネルの動作を制御するチャンネル動作制御部133とを備え、(1)消費電力削減制御、(2)初期値制御、(3)位置補正制御、(4)マルチパス除外制御、及び(5)ジャミング信号除外制御を実行することを特徴とする。
【0036】
(1)消費電力削減制御
L1,L2,L5それぞれ送信電力の強さが異なる。L5が最も送信電力が強く、次いでL1、L2の順である。また、L5とL1とL2の電力レベルの相対差も既知である。L5の電力が一番強いので、L5の受信電力が一定値より低かった場合は、L1とL2はもっと受信電力弱く、測位又は受信できないことが想定される。また、L5の電界強度が、あるレベルで取れていれば、L1及びL2が何れも受信できる、またはL1は受信できるがL2は受信できないなど、L5のレベルを基準に他の信号の受信の有無を推定することができる。衛星が故障しているなどの特殊な要因を除けば、通常はL5が受信できなければL1とL2は受信できない。本実施の形態では、L5の受信電力が一定値より低かった場合は、L1とL2も受信できないと想定して、L1とL2の受信回路の電源供給を止める。電源供給の停止は、例えばクロックの供給の停止である。回路ブロック単位での通電オフも可能であるが、次回の立上り時間の短縮を考慮するとクロック供給の停止が好ましい。クロック供給の停止は、クロックの引き延ばし、あるいはクロック周波数の低下も含む。また、L5の受信電力が一定値より低い状態が所定期間以上継続する場合に、回路通電のオフに移行する態様でもよい。
【0037】
これにより、L5の受信電力が一定値より低かった場合は、L1とL2の受信回路を動作させることなく、L1とL2の受信回路を停止させることで、消費電力の削減を図ることができる。
【0038】
ところで、本消費電力削減制御を実施するためだけにL5を導入するのではない。2つの周波数帯を使うと精度が良くなる。理由は、GPS衛星から受信機に届くまでに、宇宙空間・大気圏を通るときに遅れ誤差が生じる。この誤差が比較的大きいため補正する必要がある。L1とL2のキャリアの周波数が異なるので、ずれ方も所定の計算式で計算できる。L1とL2の差分を見れば誤差を補正できる。そこで、周波数帯を複数用いる方が精度向上となる。さらに、カーナビで使用するGPSはコードタイプであり、PRNコードを使って測位する。これに対して、搬送波のキャリアの周波数を使って測位する方法があり、この方法を使うと周波数が多ければ多いほど通信品質が良くなる。L5を本消費電力削減制御用にだけ使うわけではなく、精度向上などのために導入されているL5をいわば流用する形で使用することになる。この場合、L5のための部品点数の増加はなく、消費電力の削減効果のみが実現できる。
【0039】
(2)初期値制御
上記L1,L2,L5の送信電力は、固定値であるように説明したが、実際には衛星によっても、世代によっても異なる。L1,L2,L5の電力レベルの相対差も変わる。したがって、受信装置のデフォルトとして固定値を入れてしまうと、衛星又は世代が変わる度に、受信装置の仕様を変更しなければならない。本実施の形態では、定期的にL1とL2とL5の電力差を計算して、もし変わっている場合は、初期値を変える初期値制御を行う。
【0040】
(3)位置補正制御
上記L1,L2,L5の相対差は、受信装置の位置、すなわち衛星から受信機までの距離によって電力の減衰量が変わる。これを補正するのが位置補正制御である。上記(2)初期値制御の精度向上のためである。
【0041】
(4)マルチパス信号除外制御
本実施の形態では、マルチパス信号の受信を判定し、マルチパス信号の受信している場合は、この衛星を測位演算の対象から外すマルチパス除外制御を行う。これにより、マルチパスによる測位精度の劣化を防ぐことができる。
【0042】
(5)ジャミング信号除外制御
同様に、受信信号がジャミング信号を受信しているか否かを判定し、ジャミング信号を受信している場合には、信号処理動作を初期化してジャミング信号ではない本来の信号を走査させるジャミング信号除外制御を行う。これにより、受信可能な信号だけを効率良く受信することができる。
【0043】
〔測位装置100の全体動作〕
アンテナ部101は衛星信号を受信し、第一信号ダウンコンバータ部111と第二信号ダウンコンバータ部112でそれぞれ第一中間周波数信号と第二中間周波数信号へのダウンコンバートとA/D変換を行う。測位に使用できる衛星信号は、GPSのC/Aコードでスペクトラム拡散されるL1帯や、L2CMとL2CLコードでスペクトラム拡散されるL2帯、I5/Q5コードでスペクトラム拡散されるL5帯などがあり、第一信号と第二信号はそれぞれ周波数帯が異なるものが選択されるものとする。
【0044】
第一信号処理部121と第二信号処理部122は、それぞれ第一中間周波数信号と第二中間周波数信号を信号処理して衛星が送信する航法メッセージと時刻情報を取得する。
【0045】
第一信号処理部121及び第二信号処理部122では、搬送波発生器201で再生搬送波を発生し、拡散符号発生器202で受信対象衛星固有の疑似雑音符号を発生する。再生搬送波の周波数は、衛星信号の搬送波周波数と一致するように決める。この疑似雑音符号と中間周波数信号を混合し、再生搬送波で周波数変換した後、I積分器203及びQ積分器204で時間積分することによりコード相関を求める。コード相関については、図3により後述する。このコード相関が最大となるように、疑似雑音符号のタイミングを制御することにより、衛星信号の疑似雑音符号を追尾し、疑似雑音符号を追尾している衛星について、衛星が放送している航法データを受信し、衛星の信号送信時刻情報を求める。
【0046】
測位部102は、図示しない信号処理回路で取得した航法データと時刻情報を用いて測位演算を行って位置を求め、位置情報表示部103は測位部102で算出した位置情報を表示する。
【0047】
次に、コード相関特性について説明する。
【0048】
図3は、コード相関特性を示す図である。図3は、各信号処理部121,122に入力される拡散符号と、測位装置100が発生する擬似雑音符号タイミング差によるコード相関特性をGPSのL1C/Aコードを例として示している。図3の横軸は、各信号処理部121,122に入力される拡散符号と、測位装置100が発生する擬似雑音符号タイミングとの差であり、縦軸はコード相関特性結果を示している。擬似雑音符号は、相関演算を行う2つのタイミング差がゼロであれば大きな相関特性を示すが、タイミングがずれていると、そのタイミング差に応じて相関値は減少し、1チップ以上のタイミング差であれば相関値はほぼゼロとなる。
【0049】
一般的な測位装置においては、相関が最大となる擬似雑音タイミングを決定するために、擬似雑音タイミングよりも早いタイミングと遅いタイミングとの2つの相関値を取得し、2つの相関値が同値となるタイミングに擬似雑音符号タイミングを制御することで、測位装置が発生する擬似雑音符号タイミングを調整して相関が最大となるタイミングを検出するようにしている。
【0050】
ところで、衛星信号の追尾にいたる前の準備として、衛星信号を走査して捕捉する必要がある。衛星信号の走査においては、衛星信号の擬似雑音符号タイミングと、搬送波周波数の概略の値を求める。擬似雑音符号タイミングと搬送波周波数がほぼ一致した場合に、時間積分によって求める相関値は大きな振幅となる。
【0051】
しかし、相関が大きくなる擬似雑音符号タイミングと再生搬送波周波数においても、走査の段階で受信アンテナに到達する信号が微弱な場合には、相関値が小さくなり、雑音と区別が付かなくなる。このような場合の一般的な対処方法として、時間積分において積分時間を長くする方法が知られている。この方法によると、積分時間がN倍になれば、N倍程度の感度向上を見込むことができる。しかし、信号処理回路で行う走査では、一回の積分に要する時間がN倍となり、判定で有効な周波数範囲がN分の1となり、同じ走査範囲を走査するのにN倍の時間が必要になる。そのため、信号積分時間を増加して受信感度を向上させるには、多数の走査範囲を同時に走査するための手法が必要となるため、受信感度を向上させた場合には回路規模が大きくなってしまう。そこで一般的な測位装置では必要とする受信感度に合わせて回路規模を選択するようにしている。
【0052】
次に、マルチパス信号受信時のコード相関特性について説明する。
【0053】
アンテナ部101が直接波とマルチパス波を同時に受信した場合にマルチパス信号受信となる。
【0054】
図4は、マルチパス信号受信時のコード相関特性を示す図である。横軸と縦軸は、図3と同じである。図4(a)は、図3の直接波信号に、0.5チップ遅延したマルチパス信号が同相で重畳していることを示しており、図4(b)は、逆相で重畳していることを示している。
【0055】
同相とは、直接波とマルチパス波の搬送波位相差が0度から90度の間にあり、直接波とマルチパス波が相互に強めあう関係であるとする。また逆相とは、搬送波位相差が90度から180度の間にあり、直接波とマルチパス波が相互に弱めあう関係となる。
【0056】
マルチパス波を受信した場合には、図4に示すように相関特性が歪んでしまう。そのため、図3で述べた相関が最大となる擬似雑音タイミングを決定するために、一般的な測位装置においては、擬似雑音タイミングに誤差が生じることになり、結果として測位精度が劣化してしまうこととなる。ここで、一般的な測位装置とは、擬似雑音タイミングよりも早いタイミングと遅いタイミングとの2つの相関値を取得し、2つの相関値が同値となるタイミングに擬似雑音符号タイミングを制御して擬似雑音符号タイミングを調整して相関が最大となるタイミングを検出する測位装置をいう。
【0057】
また、直接波とマルチパス波は、衛星から測位装置までの伝播経路が異なることと、衛星及び測位装置が時間とともに場所を移動することから、搬送波位相差は時間とともに変化することが一般に知られており、従って直接波とマルチパス波の搬送波位相差は時間経過とともに変化する値となる。そのためマルチパス波が存在する場合には、直接波のみによる相関特性が時間とともに変化しない場合においても、マルチパス波の影響によって信号処理部で取得するコード相関値すなわち電界強度特性が時間とともに変化してしまうことになる。
【0058】
本実施の形態では、図6で後述するマルチパス除外制御によって、第一信号と第二信号の電界強度差が、電界強度格納部132に格納されている電界強度差と異なる場合には、マルチパス波を受信していると判定し、この衛星を測位演算の対象から外すことにより、マルチパスによる測位精度の劣化を防ぐことができる。
【0059】
次に、第一信号処理部121と第二信号処理部122の制御を行う制御部104について詳細に説明する。
【0060】
図5は、制御部104の電界強度格納部132の処理を示すフローチャートであり、上記(2)初期値制御を実行する。図中、Sはフローの各ステップを示す。
【0061】
ステップS1では、第一信号処理部121のチャンネルCH1に設定されている衛星番号を格納対象衛星とする。
【0062】
ステップS2では、格納対象衛星と同一の衛星が第二信号処理部122のチャンネルのいずれかに格納されているか否かを判別する。格納対象衛星と同一の衛星が第二信号処理部122のチャンネルのいずれかに格納されている場合は、格納対象衛星と同一衛星が第二信号処理部122に設定されていると判断してステップS3で第一信号の電界強度は一定値以上か否かを判別する。第一信号の電界強度が一定値以上の場合は、ステップS4で第二信号の電界強度は一定値以上か否かを判別する。上記第二信号は、第一信号をL1信号とした場合には、第一信号(L1信号)と周波数帯もしくは拡散方式が異なる信号、例えばL2信号若しくはL5信号である。
【0063】
上記ステップS3及びステップS4で格納対象衛星が第一信号処理部121と第二信号処理部122のそれぞれで電界強度一定値以上で安定して追尾できている場合は、ステップS5で第一信号と第二信号の電波伝搬中の信号減衰量差を計算する。この信号減衰量差の算出は、以下の理由から行う。第一信号と第二信号の電界強度差は、両者のコード相関値すなわち電界強度値を減算することで取得できる。ここで、第一信号(例えばL1信号)と第二信号(例えばL2信号)は、衛星送信電力は規定の値であるが、搬送波周波数が異なるなどの理由により、測位装置100に到達するまでの電波伝搬中の信号減衰比率が異なってしまう場合がある。そこで、本実施の形態では、電波伝搬中の影響を除去するために、第一信号と第二信号の電波伝搬中の信号減衰量差を計算する。ここで、信号伝搬中の信号減衰量は、搬送波周波数と、測位装置100から衛星までの見かけ上の距離とで算出可能であり、次式(1)を用いて算出することができる。
【0064】
PR=(1/4πfd)・PS …(1)
PR:アンテナ1に到達する信号の受信電力
f:電波の搬送波周波数
d:測位装置から衛星までのみかけ上の距離
PS:衛星送信電力
ステップS6では、第一信号電界強度から第二信号電界強度を減算し、さらに第一信号と第二信号の信号減衰量差を加算して電界強度比較値を算出する。
【0065】
ステップS7では、算出した電界強度比較値を電界強度格納部132に格納する。
【0066】
上記ステップS2で格納対象衛星と同一の衛星が第二信号処理部122のチャンネルのいずれにも格納されていない場合、上記ステップS3で第一信号の電界強度が一定値以上でない場合、上記ステップS4で第二信号の電界強度が一定値以上でない場合、あるいは、上記ステップS7で算出した電界強度比較値を電界強度格納部132に格納した場合は、ステップS8でチャンネルCHを1つインクリメントし、ステップS9でチャンネルCHが最大チャンネルに達したか(チャンネル=MAXか)否かを判別する。チャンネルCHが最大チャンネルに達していなければ、上記ステップS2に戻って上述した処理を全チャンネルに対して繰り返し、チャンネルCHが最大チャンネルに達した場合は全てのチャンネルに対して処理を終えたと判断して本フローを終了する。
【0067】
このように、同一衛星が送信した第一信号と第二信号の電界強度差を定期的にチェックし、同一衛星から送信される第一信号と第二信号の電界強度が一定値以上の場合にのみ電界強度差を格納する。定期的にL1とL2とL5の電力差を計算して、変わっている場合は、L1,L2,L5の送信電力の相対差の初期値を変える初期値制御を行うことで、衛星又は世代が変わっても装置の仕様を変更しなくてもよい。製品寿命の向上とコスト低減が期待できる。
【0068】
図6は、制御部104のチャンネル動作制御部133の処理を示すフローチャートであり、上記(1)消費電力削減制御、(4)マルチパス除外制御、及び(5)ジャミング信号除外制御を実行する。チャンネル動作制御部133は、第一信号処理部121のチャンネルと第二信号処理部122のチャンネルの動作を制御する。
【0069】
ステップS11では、電界強度格納部132は第一信号処理部121のチャンネルCH1に設定されている衛星番号を格納対象衛星とする。
【0070】
ステップS12では、電界強度格納部132にデータが格納されているか否かを判別する。電界強度格納部132にデータが格納されている場合は、ステップS13で第一信号と第二信号のうちどちらの電界強度が大きいか電界強度大小を判定する。上記第二信号は、第一信号をL5信号とした場合には、第一信号(L5信号)と周波数帯もしくは拡散方式が異なる信号、例えばL1信号若しくはL2信号である。
【0071】
ステップS14では、第一信号と第二信号の電界強度が等しいか否かを判別する。以降、第一信号の電界強度が第二信号の電界強度よりも大きい場合を例として説明する。
【0072】
第一信号と第二信号の電界強度が等しくない場合は、ステップS15でチャンネル動作可否制御を行う。チャンネル動作可否制御は、弱電界強度側信号が設定されている第二信号処理部122のチャンネルについて、第一信号処理部121のチャンネルの信号受信状態を用いてチャンネルでの信号処理動作を継続するかチャンネル毎に動作可否の判定制御である。前述したように、L1,L2,L5それぞれ送信電力の強さが異なる。ここでは、第一信号(例えばL5信号)と第二信号(例えばL1信号)の電界強度の大小を判定し、第一信号(L5信号)の電界強度が、第二信号(L1信号)の電界強度の既知の相対値に対応する一定値より低かった場合は、第二信号(L1信号)は受信できない。この場合は、ステップS15のチャンネル動作可否制御で第二信号処理部122のクロック供給を止め、第二信号(L1信号)を受信できない第二信号処理部122を停止して消費電力の削減を図る。一定値以上の場合は、第二信号処理部122はそのまま動作させて、第一信号(L5信号)と第二信号(L1信号)による2つの周波数を用いた測位を行う。上記、第二信号がL1信号である場合を例に採り説明したが、L2信号の場合も同様である。
【0073】
ステップS16では、強電界強度側チャンネルで電界強度一定値以上の追尾衛星が存在するか否かを判別する。強電界強度側チャンネルで電界強度一定値以上の追尾衛星が存在する場合は、ステップS17で弱電界強度側チャンネルの積分時間を制御する。弱電界強度側チャンネルでの電界強度値は、強電界強度側チャンネルで信号同期中の電界強度値に、電界強度差を減算することで推測することができる。推測された弱電界強度側チャンネルで電界強度値が小さい場合には、信号積分時間を増加して信号捕捉確率を向上させ、上記電界強度値が大きい場合には信号積分時間を短縮して、同時に走査できる周波数範囲を広げ、信号捕捉までの時間を短縮するように制御する。
【0074】
ステップS18では、受信信号がジャミング信号を受信しているか否かを判別し、ジャミング信号を受信している場合には、ステップS19で信号処理動作を初期化してジャミング信号ではない本来の信号を走査させる。ジャミング信号とは、本来の衛星信号以外の信号を誤検出させる信号である。スペクトラム拡散に用いられる擬似雑音符号は、前述したようにタイミングが一致したときに相関が大きくなり、一致しないときは相関がほぼゼロとなる特性をもつ。また、他の衛星信号と区別するために、衛星ごとに異なる擬似雑音符号を使用しており、異なる擬似雑音符号を用いた場合は、如何なるタイミングにおいても、相関値(相互相関特性)がほぼゼロとなる特性がある。しかし相互相関特性は極めて小さい値ではあるが、ゼロではなく、GPSのC/Aコードで約20dB、L2Cコードで約40dBほどである。そのため、2つの衛星信号を受信する場合に、2つの信号の電界強度の差が擬似雑音符号の相互相関特性よりも大きい場合には、電界強度の大きい側の信号の影響により、電界強度の弱い側の信号処理を誤ってしまうことがある。そのため、ジャミング信号を測位演算に使用して測位精度が劣化することを防ぐために、第一信号と第二信号に用いられる相互相関特性の差により、第一信号もしくは第二信号のいずれか一方が受信しているにも関わらず、他方が長時間に渡って信号捕捉できない場合には、いずれかの信号がジャミング信号を受信又は走査していると判断することが可能である。上記ステップS18でジャミング信号を受信しない場合は、ステップS20に進む。
【0075】
ステップS20では、受信信号がマルチパス波を受信しているか否かを判別し、マルチパス波を受信している場合には、ステップS21で、このチャンネルの時刻情報を測位演算の対象から外してステップS22に進む。
【0076】
上記ステップS20で受信信号がマルチパス波を受信していない場合、あるいは、上記ステップS21でチャンネルの時刻情報を測位演算の対象から外した場合は、ステップS22でチャンネルCHを1つインクリメントしてステップS23に進む。
【0077】
上記ステップS12で電界強度格納部132にデータが格納されていない場合、上記ステップS14で第一信号と第二信号の電界強度が等しい場合、上記ステップS16で強電界強度側チャンネルで電界強度一定値以上の追尾衛星が存在しない場合、あるいは、上記ステップS22でチャンネルCHをインクリメントした場合は、ステップS23でチャンネルCHが最大チャンネルに達したか(チャンネル=MAXか)否かを判別する。チャンネルCHが最大チャンネルに達していなければ、上記ステップS12に戻って上述した処理を全チャンネルに対して繰り返し、チャンネルCHが最大チャンネルに達した場合は全てのチャンネルに対して処理を終えたと判断して本フローを終了する。
【0078】
このように、本実施の形態に係る測位装置100は、第一信号(L5信号)と第二信号(L1信号)の電界強度大小を判定し、第一信号(L5信号)の受信電力が一定値より低かった場合は、第二信号処理部122のクロック供給を停止させことで、第二信号処理部122の消費電力を削減することができる。
【0079】
また、本実施の形態では、第一信号と第二信号の電界強度差が、電界強度格納部132に格納されている電界強度差と異なる場合には、マルチパス波を受信していると判定し、この衛星を測位演算の対象から外すことにより、マルチパスによる測位精度の劣化を防ぐことができる。
【0080】
ここで、第一信号と第二信号は異なる搬送波周波数が用いられているため、搬送波位相の波長はそれぞれ異なる値となり、GPSのL1(1.575GHz)では約19cm、L2(1.227GHz)で約22cmとなる。そのため衛星もしくは測位装置の移動に伴って発生する、マルチパスによる相関特性の変化は、搬送波周波数の波長によって異なる変化をすることとなる。そのためチャンネル動作制御部133においては、電界強度比較部131で取得する第一信号と第二信号の電界強度差が、電界強度格納部132に格納されている電界強度差と異なる場合には、マルチパス波を受信していると判定することができ、この衛星を測位演算の対象から外すことにより、マルチパスによる測位精度の劣化を防ぐことができる。
【0081】
図7は、制御部104のチャンネル動作制御部133の処理を示すフローチャートであり、上記(3)位置補正制御を実行する。本フローは、図5のステップS5の信号減衰量差算出処理のサブルーチンとして実行可能である。
【0082】
ステップS31では、電界強度格納部132は第一信号処理部121のチャンネルCH1に設定されている衛星番号を格納対象衛星とする。
【0083】
ステップS32では、チャンネル割当て衛星番号を設定する。
【0084】
ステップS33では、電界強度格納部132にデータが格納されているか否かを判別する。電界強度格納部132にデータが格納されている場合は、ステップS34で現在地での電界強度を推定する。
【0085】
ステップS35では、受信可能信号のチャンネル動作を許可してステップS37に進む。
【0086】
上記ステップS33で電界強度格納部132にデータが格納されていない場合は、現在地での電界強度を推定することなく、ステップS36でチャンネル動作を許可してステップS37に進む。
【0087】
ステップS37では、チャンネルCHが最大チャンネルに達したか(チャンネル=MAXか)否かを判別する。チャンネルCHが最大チャンネルに達していなければ、上記ステップS32に戻って上述した処理を全チャンネルに対して繰り返し、チャンネルCHが最大チャンネルに達した場合は全てのチャンネルに対して処理を終えたと判断して本フローを終了する。
【0088】
本フローの位置補正制御を実行することで、衛星から受信機までの距離による電力の減衰量を補正して、正確なL1,L2,L5の相対差を得ることができ、図5の初期値制御の精度向上を図ることができる。
【0089】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、測位装置100は、衛星から送信される第一信号を復調処理する第一信号処理部121と、第一信号と周波数帯又は拡散方式の異なる第二信号を復調処理する第二信号処理部122とを備え、制御部104は、第一信号処理部121と第二信号処理部122のうち電界強度の大きい信号側を基準として、電界強度の小さい信号側の動作を制御するとともに、第一信号処理部121と第二信号処理部122のうち電界強度の大きい側のチャンネルを優先的に動作させ、電界強度の小さい側のチャンネルを優先的に動作停止させる制御を行うので、特別な回路を備えることなく、受信可能な信号だけを効率よく受信することができる。これにより、精度のよい測位結果を得ることができ、さらに受信が困難なチャンネルの動作を停止することで消費電力を削減することができる。
【0090】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0091】
例えば、上記実施の形態では、第一信号処理部121と第二信号処理部122の2つを備えているが、信号処理部を3つ以上備えることも可能である。また、L1帯とL2帯のように拡散符号速度が同一である場合には、信号処理回路を共用することは容易であり、L1帯とL2帯の両方の信号を処理する信号処理部を一つだけ備えることも可能である。
【0092】
また、本実施の形態では測位装置という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、測位用受信装置、測位システム及び衛星航法装置等であってもよいことは勿論である。
【0093】
さらに、上記測位装置を構成する各回路部、例えばダウンコンバータ部の種類、その数及び接続方法など、さらには電界強度設定部の種類などは前述した実施の形態に限られない。
【0094】
また、以上説明した測位装置及びその制御方法は、この測位装置の制御方法を機能させるためのプログラムでも実現される。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されている。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る測位装置及びその制御方法は、同一衛星が送信する第一信号と第二信号の電界強度差を格納して電界強度の大きい信号のチャンネルを優先的に動作させ、電界強度の小さい側のチャンネルを優先的に動作停止させるようにしたことにより、特別な回路を備えることなく受信可能な信号だけを効率よく受信することができるため、精度のよい測位結果を得ることができ、さらに受信が困難なチャンネルの動作を停止することで消費電力を削減することができるという効果を有し、ナビゲーション装置などの測位装置として有用である。
【0096】
また、GPSのL1帯信号、L2帯信号、L5帯信号に加え、欧州のガリレオなど多種の周波数又はコードで変調される衛星測位システムなどの測位装置としても有用である。例えば、ロシアのGLONAS、米国のWAAS、日本のMSAS、欧州のEGNOSなど同期した複数の変調コードによってスペクトラム拡散された複数の衛星信号が送信される測位システム広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施の形態に係る測位装置の構成を示す機能ブロック図
【図2】本実施の形態に係る測位装置の第一信号ダウンコンバータ部及び第二信号ダウンコンバータ部の各チャンネルの構成を示す機能ブロック図
【図3】本実施の形態に係る測位装置のコード相関特性を示す図
【図4】本実施の形態に係る測位装置のマルチパス信号受信時のコード相関特性を示す図
【図5】本実施の形態に係る測位装置の制御部の電界強度格納部の処理を示すフロー図
【図6】本実施の形態に係る測位装置の制御部のチャンネル動作制御部の処理を示すフロー図
【図7】本実施の形態に係る測位装置の制御部のチャンネル動作制御部の処理を示すフロー図
【符号の説明】
【0098】
100 測位装置
101 アンテナ部
102 測位部
103 位置情報表示部
104 制御部
105 電界強度設定部
111 第一信号ダウンコンバータ部
112 第二信号ダウンコンバータ部
121 第一信号処理部
122 第二信号処理部
131 電界強度比較部
132 電界強度格納部
133 チャンネル動作制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星信号を走査又は追尾する複数のチャンネルを備える測位装置であって、
衛星から送信される第一信号を復調処理する第一信号処理手段と、
前記第一信号と周波数帯又は拡散方式の異なる第二信号を復調処理する第二信号処理手段と、
前記第一信号及び前記第二信号の復調処理結果に基づいて衛星までの距離を算出して測位演算を行う測位手段と、
前記第一信号処理手段及び前記第二信号処理手段の復調結果に基づいて同一衛星が送信した前記第一信号と前記第二信号の電界強度差を測定する電界強度比較手段と、
前記電界強度差を記憶する電界強度格納手段と、
前記電界強度格納手段の情報を基に前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のチャンネルの動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい信号側を基準として、電界強度の小さい信号側の動作を制御することを特徴とする測位装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい側のチャンネルを優先的に動作させ、電界強度の小さい側のチャンネルを優先的に動作停止させることを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい信号側の受信電力が所定値以下の場合は、電界強度の小さい信号側の動作を停止させることを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい信号側の受信電力が所定値より大きい場合は、電界強度の小さい信号側を動作させることを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項5】
前記動作の停止は、クロック供給の停止又は通電の停止であることを特徴とする請求項3記載の測位装置。
【請求項6】
前記制御手段は、同一衛星から送信される前記第一信号と前記第二信号を復調し、一方の信号が復調されて電界強度を測定した場合、復調が未完了の側の信号積分時間を変化させることを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項7】
前記制御手段は、同一衛星から送信される前記第一信号と前記第二信号のいずれか一方が一定時間を経過しても信号復調できない場合には、信号復調できている信号は、ジャミング信号を捕捉していると判定して動作を初期化することを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項8】
前記制御手段は、同一衛星から送信される前記第一信号と前記第二信号の電界強度差に基づいてマルチパス信号の受信を判定することを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記第一信号と前記第二信号の電界強度の差が、前記電界強度格納手段の値と異なる場合に、この衛星を測位演算に使用しないように制御することを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項10】
前記電界強度格納手段は、同一衛星から送信される前記第一信号と前記第二信号の電界強度が一定値以上の場合に前記電界強度差を格納することを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項11】
前記測位手段により算出される衛星までの距離を用いて、同一衛星から送信される前記第一信号と前記第二信号の信号伝搬中の信号減衰量差を算出する信号減衰量差算出手段を備え、
前記電界強度格納手段は、前記電界強度比較手段により取得した電界強度差に前記信号減衰量差を加算して格納することを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項12】
前記電界強度差を設定する電界強度設定手段を備え、
前記電界強度格納手段は、外部より設定された前記電界強度差を格納することを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項13】
前記衛星信号は、GPS衛星が送信するL1帯信号、L2帯信号、L5帯信号のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする請求項1記載の測位装置。
【請求項14】
衛星信号を走査又は追尾する複数のチャンネルを備える測位装置の制御方法であって、
衛星から送信される第一信号を復調処理するステップと、
前記第一信号と周波数帯又は拡散方式の異なる第二信号を復調処理するステップと、
前記第一信号及び前記第二信号の復調処理結果に基づいて衛星までの距離を算出して測位演算を行うステップと、
前記第一信号処理手段及び前記第二信号処理手段の復調結果に基づいて同一衛星が送信した前記第一信号と前記第二信号の電界強度差を測定するステップと、
前記電界強度差を記憶するステップと、
前記記憶した電界強度差の情報を基に前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のチャンネルの動作を制御する制御ステップと
を有することを特徴とする測位装置の制御方法。
【請求項15】
前記制御ステップでは、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい信号側を基準として、電界強度の小さい信号側の動作を制御することを特徴とする請求項14記載の測位装置の制御方法。
【請求項16】
前記制御ステップでは、前記第一信号処理手段と前記第二信号処理手段のうち電界強度の大きい側のチャンネルを優先的に動作させ、電界強度の小さい側のチャンネルを優先的に動作停止させることを特徴とする請求項14記載の測位装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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