説明

測定された肺動脈圧に基づいて心臓前負荷を最適化する方法、装置、およびシステム

測定された肺動脈圧に基づいて心室前負荷を最適化することは、短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について、短期バーストプロトコル中に患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータを変更することを含む。肺動脈圧は、短期バーストプロトコルの反復中に測定される。最適心室前負荷は、測定された肺動脈圧に基づいて確定される。ペーシング治療は、最適心室前負荷の確定に基づいて選択されるパラメータの値を使用して提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、心臓ペーシング治療に関し、より具体的には、測定された肺動脈圧に基づいて心臓前負荷を最適化することに関する。
【背景技術】
【0002】
調律を改善し、心房および心室収縮のうちの少なくとも一つを協調させようとして、1つまたは複数の心腔にペーシング刺激を提供する心臓調律管理デバイスが開発された。心臓調律管理デバイスは、通常、心臓からの信号を検知する回路および心臓に電気刺激を提供するパルス発生器を含む。患者の心腔内及び心臓の血管内のうちのいずれか一方に延在するリード線(lead)は、心臓の電気信号を検知し、心臓不整脈を処置するために種々の治療によって心臓に刺激を送出するための電極に結合される。
【0003】
ペースメーカは、心臓ポンピング効率を維持する収縮性調律を心臓が生成するのを補助するために、タイミングを合わせた一連の低エネルギーペースパルスを送出する心臓調律管理デバイスである。ペースパルスは、患者のニーズに応じて、断続的であってもよく、または、連続的であってもよい。1つまたは複数の心腔を検知し、ペーシングするための種々のモードを有する、いくつかのカテゴリのペースメーカデバイスが存在する。
【0004】
ペーシング治療は、種々のタイプの心不全(HF)の処置において使用されてきた。一般に、HFは、心臓のポンピングパワーの減少に関連し、末梢組織の要求を満たすのに十分な血液を送出することができなくさせる。HFは、呼吸の低下、呼吸の喪失、肺および他の身体組織内への流体の蓄積をもたらす可能性がある。HFは、左心、右心、または心臓の両側に影響を及ぼす可能性がある。たとえば、HFは、心臓の筋肉の減退が、心臓の拡張および収縮性のうちの少なくともいずれか一方の減少を生じるときに起こる可能性がある。収縮性の減少は、血液の心拍出量を減少させ、心拍数の増加をもたらす可能性がある。ある場合には、HFは、心房または心室同期不全などの、左心腔と右心腔の非同期収縮によって引起される。左心室または右心室が影響を受けると、非同期性収縮は、心臓のポンピング効率を著しく減少させうる。
【0005】
ペーシング治療は、心腔収縮の同期を促進して、心機能を改善しうる。これは、一般に、心臓再同期治療(cardiac resynchronization therapy)(CRT)と呼ばれる。一部の心臓ペースメーカは、複数の心腔をペーシングすることによるCRTを送出することが可能である。ペーシングパルスは、心腔が同期して収縮するようにさせるシーケンスで心腔に送出され、心臓のポンピングパワーを増加させ、身体の末梢組織により多くの血液を送出する。右心室収縮と左心室収縮の早期不全の場合、2心室ペーシング治療が、一方のまたは両方の心室をペーシングしてもよい。あるいは、2心房ペーシングまたは4つ全ての心腔のペーシングが使用されてもよい。
【0006】
ペーシング治療は、心機能の低下に関連する生理的影響を止めるときに価値があることがわかっている。ある場合には、ペーシング治療は、心臓疾病から生じる心臓の肉体的減退の一時的なまたは永久的な補正、逆リモデリングとして知られているプロセスを提供することが示されている。したがって、逆リモデリングに寄与するペーシング治療の特定および適用は、ある形態の心不全を経験した患者の寿命を延長するときに役立ちうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、測定された肺動脈圧に基づいて心臓前負荷を最適化するシステムおよび方法を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある実施形態による方法は、短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について、短期バーストプロトコル中に患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータを変更することを含む。肺動脈圧は、短期バーストプロトコルの反復中に測定される。最適心室前負荷は、測定された肺動脈圧に基づいて確定される。ペーシング治療は、最適心室前負荷の確定に基づいて選択されるパラメータの値を使用して提供される。一実施形態では、方法は、短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について、短期バーストプロトコル中に患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータを変更することを含む。肺動脈圧は、短期バーストプロトコルの反復中に測定され、最適心室前負荷は、測定された肺動脈圧に基づいて確定される。ペーシング治療は、最適心室前負荷の確定に基づいて選択されるパラメータの値を使用して提供される。
【0009】
より特定の実施形態では、ペーシングのパラメータは、ペーシング遅延、房室ペーシング遅延、2心室遅延、心房内遅延、および患者の心房内の埋め込み型心臓リード線のペーシング部位の任意の組合せを含んでもよい。方法はまた、患者の圧反射システムが、短期バーストプロトコルの反復中に、ペーシングの変更されたパラメータに対して順応しないように、短期バーストプロトコルの反復の長さを選択することを含む。
【0010】
他のより特定の実施形態では、方法はさらに、短期バーストプロトコルの反復と反復との間に肺動脈圧を測定することを含む。こうした場合、最適心室前負荷を確定することは、ベースライン肺動脈圧を、短期バーストプロトコルの反復中に測定された肺動脈圧と比較することを含む。他の配置構成では、短期バーストプロトコルの反復中に肺動脈圧を測定することは、肺動脈拡張期圧を測定することを含む。こうした場合、測定された肺動脈拡張期圧に基づいて最適心室前負荷を確定することは、肺動脈拡張期圧の最大値に基づいて最適心室前負荷を確定することを含んでもよい。
【0011】
他のより特定の実施形態では、測定された肺動脈圧に基づいて最適心室前負荷を確定することは、肺動脈圧の最大値に基づいて最適心室前負荷を確定することを含む。一変形では、ペーシング治療を提供することは、患者の心臓に適用されるペーシング間隔の自由行動下の最適化を実施することを含む。別の変形では、方法は、さらに、短期バーストプロトコルの反復のうちの選択された反復中に患者の姿勢を変更することを含む。
【0012】
本発明の別の実施形態では、医療システムは、患者の心臓にペーシングパルスを送出するための1つまたは複数の電極を含む。エネルギー送出および検知ユニットは、1つまたは複数の電極に結合される。システムはまた、肺動脈圧測定を行うことが可能な肺動脈圧センサと、少なくとも肺動脈圧測定結果を格納するよう構成されたメモリとを含む。コントローラは、メモリ、肺動脈圧センサ、ならびにエネルギー送出および検知ユニットに結合される。コントローラは、短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について、短期バーストプロトコル中にエネルギー送出および検知ユニットによって患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータを変更するよう構成される。コントローラは、短期バーストプロトコルの反復中に行われた肺動脈圧測定結果を格納し、格納された肺動脈圧測定結果によって確定される最適心室前負荷に基づいて選択されるパラメータの値を使用してペーシング治療を提供する。
【0013】
システムのより特定の実施形態では、ペーシングのパラメータは、ペーシング遅延および電極のペーシング部位の任意の組合せを含んでもよい。一構成では、コントローラは、さらに、短期バーストプロトコルの反復と反復との間に肺動脈圧測定結果を格納して、ベースライン肺動脈圧を確定するよう構成される。こうした場合、最適心室前負荷は、ベースライン肺動脈圧を、短期バーストプロトコルの反復中に格納された肺動脈圧測定結果と比較することによって確定される。
【0014】
システムのより特定の実施形態では、肺動脈圧測定結果は、肺動脈拡張期圧測定結果を含む。他の配置構成では、コントローラは、さらに、短期バーストプロトコルの反復中に行われる最大圧測定に基づいて最適心室前負荷を確定するよう構成される。コントローラは、さらに、患者の心臓に適用されるペーシング間隔の自由行動下の最適化中にペーシング治療を提供するよう構成される。
【0015】
本発明の別の実施形態では、医療システムは、短期バーストプロトコルの複数の反復について患者の心臓にペーシングを適用する手段を含む。ペーシングのパラメータは、短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について変わる。システムはまた、短期バーストプロトコルの複数の反復中に肺動脈圧を測定する手段と、測定された肺動脈圧に基づいて最適心室前負荷を確定する手段と、最適心室前負荷の確定に基づいて選択されるペーシングのパラメータの値を使用してペーシング治療を提供する手段とを含む。システムは、任意選択で、短期バーストプロトコルの反復と反復との間に肺動脈圧を測定して、ベースライン肺動脈圧を確定する手段を含んでもよい。こうした場合、最適心室前負荷を確定する手段は、ベースライン肺動脈圧を、短期バーストプロトコルの反復中に測定された肺動脈圧と比較する手段を含む。
【0016】
本発明の上記要約は、本発明の各実施形態または全ての実施態様を述べることを意図されない。利点および達成物は、本発明のより完全な理解と共に、添付図面に関連して考えられる、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を参照することによって明らかになり理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態による、心臓前負荷を最適化するために、タイミング間隔がそこから測定されてもよい心周期を示す種々の波形を示す図である。
【図2】本発明の実施形態による、左心室拡張末期圧と肺動脈拡張末期圧との間の相間を示すデータのプロットである。
【図3】本発明の実施形態による、短期バーストプロトコルにおける変化するペーシングパラメータを示すプロットである。
【図4】本発明の実施形態による、異なるペーシングパラメータに対する短期バーストプロトコルの適用を示すプロットである。
【図5】本発明の実施形態による、前負荷最適化方法に関連する種々のプロセスを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態による、前負荷最適化方法に関連する種々のプロセスを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態による、前負荷最適化方法に関連する種々のプロセスを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態による、前負荷最適化方法を実施するために使用されてもよい回路のブロック図である。
【図9】本発明の実施形態による、前負荷最適化方法に関連して使用されてもよい患者埋め込み型デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、種々の変更形態および代替形態を受けるが、それらの詳細は、図面において例として示されており、以下で詳細に述べられないであろう。しかし、意図は、述べられる特定の実施形態に本発明を限定することではないことが理解される。逆に、本発明は、添付特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に属する全ての変更物、均等物、および代替物を包含することを意図される。
【0019】
示す実施形態の以下の説明では、説明の一部を形成し、また、本発明が実施されてもよい種々の実施形態が例示としてそこに示される、添付図面が参照される。他の実施形態が利用されてもよく、また、本発明の範囲から逸脱することなく、構造的および機能的変更が行われてもよいことが理解される。
【0020】
本発明によるシステム、デバイス、および方法は、以降で述べられる、特徴、構造、方法、その組合せの1つまたは複数を含んでもよい。たとえば、デバイスまたはシステムは、以下で述べる有利な特徴およびプロセスのうちの少なくとも一方の1つまたは複数を含むように実施されてもよい。こうしたデバイスまたはシステムは、本明細書で述べる特徴の全てを含む必要があるのではなく、有用な構造および機能のうちの少なくとも一方を提供する選択された特徴を含むように実施されてもよいことが意図される。こうしたデバイスまたはシステムは、種々の治療または診断機能を提供するように実施されてもよい。
【0021】
本発明の実施形態は、ペーシング治療を使用して左心室(LV)前負荷を最適化するシステムおよび方法を対象とする。本発明の実施形態は、短期バーストプロトコル中に肺圧の直接測定を行うこと、これらの圧力測定に基づいて最適心室前負荷を確定することを対象とする。前負荷のこの最適化は、埋め込み手技の一部として実施されること、および自由行動下CRTの一部として実施されることのうちの少なくとも一方であってもよい。たとえば、患者の活動が増加すると、LV前負荷を短期的に増加させることが望ましい場合がある。
【0022】
埋め込み式心臓調律管理デバイスを装着する患者は、うっ血性心不全(congestive heart failure)(CHF)などの心臓状況にさらされることがある。CHFは、血液を効率的にポンピングする心臓の能力が実質的に低下した状況である。ある場合には、CHFは、心臓の右側および左側のうちの少なくとも一方の壁筋肉が、一般原因によって通常より弱化することによって引起される。他の場合には、壁筋肉は、動脈プラーク、ストレス、喫煙などのような状況によって、心臓充満又は収縮中に異常に伸張することによって弱化する。心臓の左側の心筋が減退する場合、左心房および左心室のうちの少なくとも一方が拡張する(enlarge)。この状況は、左心室収縮機能障害(left ventricular systolic dysfunction)(LVSD)と呼ばれる。
【0023】
LVSDを患う患者は、左心室の血行動態性能の徐々の低下を経験する可能性がある。補償するために、収縮間の休息時間が減少するにつれて、心拍数が増加する。さらに、LVSDによる心臓組織の拡張は、心室脱分極信号が、右心室内で心臓の左側を通ってゆっくり移動するようにさせる可能性がある。これは、左心室が、右心室よりやや遅れて収縮するようにさせ、さらに、心臓の血行動態効率を減少させる。
【0024】
心房収縮および心室収縮のうちの少なくとも一方を協調させるペーシング治療は、LVSD患者の心臓効率を高めるのに使用されてもよい。患者に応じて、ペーシング治療は、1つまたは複数の心腔内に位置決めされる1つまたは複数の電極を介して適用されてもよい。多腔ペーシング治療は、左心室および右心室(2心室)ペーシング、心室および心房(房室)ペーシング、ならびに、左心房および右心房(心房内)ペーシングの任意の組合せを含んでもよい。これらのペーシング治療はまた、電極部位の脱分極を検出するセンサを利用し、ペーシングを適切に調整してもよい。
【0025】
CRTなどの多腔ペーシング治療は、同期不全を軽減することによって左心室の血行動態性能を改善しうる。特に、2心室ペーシングの形態のCRTは、血行動態状態を短期的に改善すると共に、心不全症状を低減し、収縮機能を改善することが示された。2心室ペーシングはまた、逆リモデリングを引起すことが示されており、逆リモデリングは、心臓生理機能の一部の減退を減らすことによる、左心室ポンピング効率の改善を指す。
【0026】
心拍出量を増加させるのに使用される1つのペーシング方策は、左心室の収縮性(LVdp/dt)を最大にするなどのために、AV遅延を最適化することである。この収縮性は、左心室が、最大拡張末期容積または前負荷を受けるときに最大になる。これは、フランクスターリングの機構(Frank Starling mechanism)として知られる。最大左心室拡張末期容積(left ventricular end diastolic volume)(LVEDV)は、左心室拡張末期圧(left ventricular end diastolic pressure)(LVEDP)に直接関係付けられうる。したがって、LVEDPを最大にすることが示されうるペーシング治療は、左心室の心拍出量(LVEDV)も増加させ、そのため、dp/dt、1回拍出量、および前負荷を増加させる。
【0027】
ある場合には、LVEDPを直接測定することが難しい場合がある。より一般的な手法は、LVEDPを間接的に測定することである。肺動脈拡張期圧(pulmonary artery diastolic pressure)(PAD)が、LVEDPを推定するのに使用されてもよいことがわかった。ここで、図1および2を参照すると、本発明の実施形態による方法、システム、および装置に適用されてもよいPADとLVEDP/LVEDVとの相間が示される。図1では、心周期を示す種々の波形、特に、心電図(ECG)、PAD、および左心室圧(LVP)測定結果から生成される波形が示される。本発明の実施形態を実施するのに有用な測定結果は、いろいろなセンサ、波形、波形特徴、ならびに、センサ、波形、および波形特徴の組合せを使用して生成されてもよいこと、および、図1および他の図に関連する測定結果は、非制限的な例示のためだけに提供され、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきでないことが理解される。
【0028】
図1に示す波形は、ECG波形102で最もよく見られるように、ほぼ3つの心周期を全体的に示す。波形104は肺動脈圧を表し、波形106は左心室圧を表す。インジケータ108、110、および112は、3つの心周期のそれぞれについて左心室波形106上のLVEDP点を示す。LVEDP108、110、および112は、PAD(たとえば、点114)から位相偏移しており、図2のプロットに見られるように、LVEDPのマグニチュードとPADとのマグニチュードとの間に相間が存在する。
【0029】
図2に示すデータのプロット200は、CRT患者の母集団について採取され、肺動脈拡張末期圧(PAEDP)とLVEDPとの間の相間を示すのに有用である。相間を解析するための母集団は、好ましくは、同様な左心室機能障害を有する患者を含む。この母集団の結果から見られるように、(ライン202として示す)LVEDPとPAEDPとの間の線形関係は、
LVEDP=0.88PAEDP+7.49 [1]
として表現されうる。
【0030】
式[1]は、LVEDPとPAEDPとの間の線形相間を示す例示的な結果に過ぎず、本発明の実施形態において実際のLVEDPを推定するのに、必ずしも必要とされない、または、使用されないことが理解されるであろう。一般に、本明細書で述べる方法および装置は、LVEDP圧がベースライン値から増加するか、または、減少するかを判定するような、LVEDP測定のためのプロキシとしてPAEDPを使用しうる。PAEDPとLVEDPとの間の相間は、直接的な肺動脈圧測定を行いうる装置によって利用されうる。以降でより詳細に述べるように、埋め込み型ペーシングシステムは、直接的な肺動脈圧測定を行うことが可能な圧力センサを含んでもよい。
【0031】
本発明の実施形態によるシステムは、とりわけ、短期的にLV前負荷を最大にすることによって血行動態的心臓性能を改善するために、肺圧測定を使用しうる。PAEDPは、LVEDP/LVEDVを最適化するために最適化されてもよい肺動脈圧の一例であるが、肺動脈パルス圧、肺動脈収縮期圧などの他の肺圧測定が、このために使用されてもよい。LV前負荷を最適化するためのこれらの方法はまた、LVPの直接測定を行うことが可能なシステムに適用可能である。同様に、LVEDP/LVEDVに対して強い相間を有する他の物理的測定が、本発明の実施形態によるシステムにおいて使用されてもよい。
【0032】
一般に、HF患者は、心臓状況の結果または影響として、高い血圧を有する。したがって、これらのHF患者を処置することは、長期にわたって血圧を下げることを含む。しかし、LVEDPを短期的に最大にすること(たとえば、短い期間にわたってそうすること)によって、心拍出量は、一時的にかつ定期的に増加して、心臓状況が改善され(たとえば、逆リモデリングが誘発され)うる。一般に、短期的治療は、治療パラメータの何らかの変動に対する、身体の圧反射が順応しうる前の、心臓の短期的反応に依存する。
【0033】
本発明の実施形態によれば、患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータは、短期バーストプロトコルの複数の反復中に変更される。パラメータは、バーストのそれぞれについて異なり、結果得られる肺圧に対する変化(または、LVEDP/LVEDVに対して相間を持つ他の測定)が観測される。バーストとバーストとの間の期間に起こる肺圧はまた、ベースラインの読みを確定するために観測されてもよい。変動の1つが、最適な肺圧の読みをもたらすと仮定すると、その変動の値が、心拍出量を増加させるために短期的治療の一部として使用されてもよい。短期バースト治療から最適な読みを確定することは、ペーシングリード線の最適な配置を確定することなどの他のアプリケーションを有してもよい。図3のプロット300は、本発明の実施形態による、ペーシングパラメータが、最適心室前負荷を確定するためにどのように変更されてもよいかについての例を示す。
【0034】
プロット300は、PAD圧(あるいは、本明細書で、PADまたはPADPと呼ばれる)、特に、PAEDPを示す垂直軸302を含む。しかし、LVEDPに対して強い相間を持つことがわかっている他の肺圧(または他の生理的測定結果)が利用されてもよいことが理解されるであろう。たとえば、PAEDPと心周期中に行われる別の肺圧との組合せは、PAEDPだけを使用して行われるものに比べてLVEDPの改善された推定精度を提供する可能性がある。水平軸304は時間を示し、時間304にわたるPAD302の変動は、LV前負荷を増加させることによって心臓の流量を最適化するのを補助するのに使用される。
【0035】
プロット300に見られるように、4つのバースト間隔306、308、310、および312が画定される。4つの間隔306、308、310、312の選択は、任意であり、例示のために行われる。一般に、安全性の配慮および測定の精度が、適度の数の間隔を左右することになる。結果として、間隔の数および組成の確定は、通常、臨床医によって個別方式で行われる。
【0036】
これらの間隔306、308、310、312のそれぞれの間に、ペーシングのパラメータ(P)が変えられる。このパラメータは、埋め込み型ペーシング電極に適用される遅延(たとえば、AV遅延、VV遅延)、こうした電極に適用される任意の他のタイミングまたは電気的特性を含んでもよい。変更されてもよい他のパラメータは、ペーシング電極のロケーションを含む。ロケーションは、(たとえば、埋め込み手技中に)電極を物理的に移動させることによる特徴付けのために変更されてもよい。自由行動下の閉ループアプリケーションでは、多電極リード線の特定の電極を選択することによってロケーションが変えられてもよいことがより一般的である。
【0037】
図3に見られるように、パラメータPは、それぞれのバースト間隔306、308、310、312のそれぞれについて、4つの異なる値314、316、318、320にセットされる。結果として、測定されるPADPは、それぞれ、平均値322、324、326、および328によって表される、間隔306、308、310、および312の間の異なる値をとる可能性がある。バーストプロトコルが終了した後、平均バーストプロトコル値322、324、326、および328の1つが、最適であると判定される可能性がある。多くの場合、平均322、324、326、および328の最適値は、ここでは、P=vにおける値324によって表される最大値を有する値である可能性がある。この値324は、治療中に測定されるPADP302の最も高い短期的レベルに相当する。
【0038】
値314、316、318、320は、互いに異なるだけでなく、バースト間隔306、308、310、312間の期間中に(もしあれば)使用されるペーシングパラメータとも異なってもよい。検知間隔330、332、334、336、338として参照されるこれらの時間間隔は、バースト間隔306、308、310、312の印加前、印加中、および印加後に、心臓が規範的状態に戻ることを可能にする。検知間隔330、332、334、336、338中に行われる測定は、PADPのベースライン値340を確定するのに使用されうる。多くの状況では、休息間隔330、332、334、336、338中に適用されるペーシング治療は存在せず、したがって、ベースライン340は、PADPの非ペーシング値を表してもよい。他の場合には、ペーシングパラメータの確立された値が、休息間隔330、332、334、336、338中に適用されてもよい。この後者の場合、値322、324、326、328は、変更されたパラメータPの変化によるベースラインペーシングレベルからのPADPの変化を表す。
【0039】
先に述べたように、腔内ペースタイミングおよびリード線ロケーションを含む、いくつかの異なるペーシングパラメータが、本発明の実施形態に従って短期バースト治療中に変えられてもよい。これらのパラメータが最大心室前負荷をもたらすフェーズは、本明細書で「特徴付け(characterization)」と呼ばれてもよい。特徴付けは、患者の状況が、臨床医によって積極的に監視される臨床状況で実施されてもよい。しかし、あるタイプの自由行動下の特徴付けを含むことが可能である場合があり、自由行動下の特徴付けでは、パラメータの種々の(通常、中程度の)変動は、使用時に、また、いくつかの異なる患者状況(たとえば、睡眠、運動、仕事)の下で変えられて、新しいパラメータ値が確定されるか、または、既存のパラメータが最適化される。特徴付け中に見出される任意の最適なパラメータは、通常、埋め込み型ペーシングシステムによる適用によって、治療の定期レジームで使用されうる。
【0040】
後続のバースト間隔306、308、310、312間における変数314、316、318、320の変化は、特徴付けがどのように実施されてもよいかについての一例に過ぎないことに留意されたい。他の例では、変数Pは、連続のまたは不連続の複数のバーストについて同じ変数にセットされてもよい。さらに、特徴付けプロトコルは、姿勢(たとえば、立位、座位、腹臥位)、活動レベル、薬物治療、および他の状況または状態を含む、患者の種々の状態(state)を考慮してもよい。埋め込み式および外部のうちの少なくとも一方のペーシング装置のプログラム可能性は、種々の状況下で前負荷を最適化するために、特徴付けデータの柔軟な調節を可能にする。
【0041】
図3に示すように、そのパラメータに対する特定の患者の反応を特徴付けながら、単一のパラメータだけが変えられる。しかし、複数のパラメータに対する患者の反応が、図3に示すような複数の特徴付けプロトコルによって確定されてもよいことが考えられる。ここで図4を参照すると、プロット400は、特定の患者について観測される可能性がある3つの特徴付け結果402、404、406の例を示す。それぞれの結果は、短期バーストプロトコルにおいて単一ペーシングパラメータを変えることによって得られてもよく、また、パラメータは、連続的に、または、離散的に可変であってよい。たとえば、結果402および404に関連するパラメータは連続的に可変であってよく(たとえば、タイミング)、結果406に関連するパラメータは離散的に可変であってよい(たとえば、複数電極リード線上の活性化された電極のロケーション)。
【0042】
それぞれの結果402、404、406は、それぞれのベースライン値408、410、412に関連する。明確にするために、ベースライン408、410、412および結果402、404、406は、別個の垂直領域にプロットされる。しかし、同様な生理的状況下では、ベースライン値408、410、412が実質的に同じであってよいと考えられてもよい。結果402、404、406はまた、休息又は仕事の状態、姿勢、薬物治療などのような複数の種々の患者状況について確定されてもよい。示す例では、結果402、404、406は、それぞれの最大PADP点414、416、および418を有する。これらの最大結果414、416、418に関連するパラメータは、結果402、404、406から直接得られてもよく、または、内挿および外挿のうちの少なくとも一方によって得られてもよい。
【0043】
一般に、自由行動下のペーシング最適化治療は、特徴付け結果402、404、406に基づいてパラメータの組合せを変更しうる。たとえば、処置は、LV前負荷を短期的に増加させるために、AV遅延とロケーションの両方を変更してもよい。こうしたパラメータの組合せはまた、処置のために使用される前に、共に特徴付けられてもよい。たとえば、パラメータのそれぞれについての最適値は、結果402、404、406から選択されてもよく、また、組合せが最適前負荷をもたらすことを保証するために、小さな変動が導入されてもよい。別の例では、ロケーションとタイミングの両方の最適化は、リード線ロケーションを導くために、埋め込み中に実施されてもよく、またその後、タイミング変化(および電極選択のうちの少なくとも一方)が、自由行動中の治療の一部として適用されてもよい。
【0044】
たとえば、AV遅延およびロケーションが短期的治療の一部として変更される場合を考える。特徴付けは、AVoptおよびLOCoptが、単一パラメータ特徴付けを通して見出されたAV遅延およびロケーションの最適値であることを示す。AV−およびAV+は、それぞれ、AVoptより小さい、また、AVoptより大きい小さな変動であってよく、LOC+およびLOC−は、LOCoptほどに大きくないが、短期バーストプロトコルにおいてPADの増加を依然として示した代替のロケーションであってよい。したがって、バーストプロトコル特徴付けの別のセットは、(AV−、LOC−)、(AV−、LOC+)、(AV+、LOC−)、および(AV+、LOC+)の一部または全てを使用して、AVoptおよびLOCoptの組合せが最適であるかどうかを判定し、最適でない場合、調整を行ってもよい。
【0045】
ここで図5を考えると、本発明の実施形態による、測定された肺動脈圧に基づいて心臓前負荷を最適化するプロシジャ500を示すフローチャートが示される。プロシジャは、ペーシングパラメータPのnの異なる値を確定すること502を含む。パラメータPは、心臓組織に対する電気インパルスの印加に影響を及ぼす任意の値であってよい。Pの代表的な例は、AV遅延、VV遅延、リード線ロケーションなどを含む。変数Pは、連続的、または、離散的であってもよく、Pの許容可能な範囲は、患者固有であってよい。
【0046】
プロシジャ500は、Pの各値について1回、n回反復されるループ504に入ることを含む。ループ504の各反復Rについて、ペーシング値の1つが選択され506、選択された値は、Pとして注釈される。Pの選択された値は、A心周期についてペーシングを適用する508に使用され、値XR,Aが、A周期中に検知される。検知された値XR,Aは、LVEDVおよびLVEDPのうちの少なくとも1つを示す任意の値であってよい。通常、XR,Aは、PAEDPおよびLVEDPのうちの少なくとも1つの直接の尺度であってよい。Aで表される反復の数は、気圧機能が1回拍出量の変化について順応することなく、LVEDPに実質的に影響を及ぼすように選択される。ペーシング508が適用された後、検知の介在期間510が、B心周期について実施される。通常、Bの値は、Aよりかなり大きいことになる。
【0047】
ペーシングフェーズ508で検知されたX(たとえば、PAEDP)の同じ値が、B周期についての検知フェーズ510で少なくとも検知される。これらの後者の測定は、Xとして表される。検知フェーズ510は、ペーシング無し、または、特定の患者の前もって確立された内因性値を使用するペーシングを含んでもよい。検知510後、Rの値が、インクリメントされ512、ループ504は、別の反復について継続される。
【0048】
nの反復が終了した514後、Xのベースライン値(XBASE)が、検知期間510の1つまたは全ての間に行われる測定を使用して確定されてもよい(516)。Xの最適値(たとえば、最大PAD)(XOPT)は、ペーシング期間508において検知された値から確定される(518)。XOPTの確定518はまた、ベースライン測定値XBASEを解析することを含む。その後、XOPTに基づいて確定されるPの実際のまたは推定される最適値(POPT)を使用して、ペーシング治療が提供されてもよい(520)。
【0049】
プロシジャ500は、当技術分野で知られる任意のパラメータPを使用してもよい。1つの有用なアプリケーションは、パラメータPとしてAV遅延を使用することを含む。ここで図6を参照すると、本発明の実施形態による、AV遅延(AVD)を変更することによって、測定される肺動脈圧に基づいて心臓前負荷を最適化するプロシジャ600を示すフローチャートが示される。プロシジャ600は、nの所定のAVD値を使用することを含む。たとえば、値は、患者の内因性PRタイミングの10%、30%、60%、および90%であってよい。AV最適化(AVO)プロシジャは、所与のリード線ロケーションについて開始する(604)。AVDは、nの所定のAVD値のうちの1つに変えられ(606)、ペーシングまたは検知シリーズ608が実施される。この例では、シリーズ608は、6心周期についてのペーシングおよび15心周期についての検知を含む。シリーズ608は、選択されたAV遅延について複数回反復されてもよい。ペーシングPADおよび平均(ベースライン)PADが、それぞれのペーシングおよび検知周期について検知される(610)。サブプロシジャ604、606、608、610は、nの所定のAVD値について反復される(612)。全ての所定のAVD値が網羅的に調べられた後、AVDは、最大ペーシングPADを生成した値にセットされる(614)。
【0050】
ここで図7を考えると、本発明の実施形態による、リード線ロケーションを変更することによって、測定された肺動脈圧に基づいて心臓前負荷を最適化するプロシジャ700を示すフローチャートが示される。このプロシジャは、nのリード線ロケーションの次の1つのロケーションを選択すること(702)、および、選択されたロケーションについてAVOプロシジャ704を開始すること(704)を含む。たとえば、図6に述べるようなプロシジャは、AVOプロシジャ704のために使用されてもよい。AVOプロシジャ704の結果として、平均および最適PADが確定され(706)、プロシジャは、残りのロケーションについて反復される(708)。リード線ロケーションの全てが網羅的に調べられた後、最適(たとえば、最大)PADをもたらすリード線ロケーション(およびAVD)が、治療のために使用される(710)。
【0051】
本発明のペーシング最適化法は、埋め込み型のおよび患者外部のデバイスおよびシステムを含む種々の医療診断デバイスおよびシステムで実施されてれもよい。たとえば、本発明のペーシング最適化法は、埋め込み式デバイス(たとえば、ペースメーカ、ICD、CRTデバイス)によってもっぱら、(心臓電極又はリード線以外の)患者外部システムによってもっぱら、または、埋め込み式と患者外部の両方のデバイスまたはシステムによって分散方式で実施されてもよい。患者外部手法または分散手法の状況において、プログラマおよび高度患者管理システムなどのネットワーク化システムのうちの少なくとも一方などの、種々の外部システムが使用されてもよい。
【0052】
ここで図8を参照すると、ブロック図は、本発明の実施形態による、ペーシング最適化法を実施する回路を示す。1つまたは複数の心臓電極802は、心腔または脈管構造内の複数のロケーションに位置決めされてもよい、または、配設されてもよい。電極埋め込み手技の状況において、1つまたは複数の電極を含むリード線を使用して、候補ペーシング部位が評価又は最適化されてもよい。埋め込み後評価の状況において、1つまたは複数の埋め込み式ペーシング部位が、評価又は最適化されてもよい。
【0053】
1つまたは複数のセンサ804は、患者の血行動態状態を示す生理的因子を検知するよう構成される。有用なセンサ804は、とりわけ、心音を検出する1つまたは複数のセンサ(たとえば、マイクロフォン、加速度計)、圧力センサ(たとえば、肺動脈圧センサなどの左心房圧センサ、左/右心室圧センサ)、および心拍出量インピーダンスセンサを含む。1つまたは複数のセンサ804によって生成される信号は、コントローラ808が使用するためにセンサ信号を処理する血行動態信号プロセッサ806に伝達されてもよい。
【0054】
コントローラ808は、血行動態信号プロセッサ806、メモリ810、心臓信号検知回路812、およびペーシング治療回路814に結合される。メモリ810は、プログラム命令およびデータのうちの少なくとも一方を格納するよう構成される。さらに、格納された情報は、後で表示するかまたは解析するために、イベントのログを提供するのに使用されてもよい。メモリ810は、先に述べたタイプの前負荷最適化アルゴリズム816を格納するよう構成されてもよい。あるいは、最適化アルゴリズム816は、患者外部のデバイスまたはシステム上に格納されてもよい。コントローラ808は、プログラム命令を実行して、本発明の実施形態による心室前負荷最適化プロシジャを実施する。
【0055】
コントローラ808は、好ましくは、通信回路818に結合し、通信回路818は、デバイスが、患者外部のプログラマまたは高度患者管理システムなどの他のデバイス820と通信することを可能にする。一部の実施態様では、高度患者管理(advanced patient management)(APM)システムが使用されて、前負荷最適化アルゴリズムがそれによって訓練されてもよい患者母集団データを生成するために、CRT患者データが収集されてもよい。このデータは、多数のCRT患者から採取されてもよい。APMシステムまたはプログラマはまた、特に電極埋め込み手技の状況で、本発明のペーシング部位評価法を実施するか、または、その実施を容易にするために使用されてもよい。
【0056】
ここで図9を参照すると、埋め込み式心臓治療デバイス900の使用によって実施される本発明の実施形態が示される。治療デバイス900は、埋め込み型ハウジング901内に閉囲された心臓調律管理回路を含む。CRM回路は、心臓内リード線システム910に電気結合される。心臓内リード線システム910の所定の部分が、患者の心臓内に挿入されて示される。リード線システム910は、患者の心臓から電気信号を検知すること、および心臓にペーシングパルスを送出することのうちの少なくとも一方のために、1つまたは複数の心腔内に、その上に、またはその周りに位置決めされた心臓ペース/センス電極951〜956を含む。心臓内センス/ペース電極951〜956は、左心室、右心室、左心房、および/または、右心房を含む心臓の1つまたは複数の心腔を検知する、かつ/または、ペーシングするのに使用されてもよい。リード線システム910は、心臓にデフィブリレーション/カーディオバージョンショックを送出するための1つまたは複数のデフィブリレーション電極941、942を含んでもよい。
【0057】
左心室リード線905は、左心室内、その上、またはその周りの種々のロケーションに位置決めされた複数の電極954a〜954dを組込む。複数のロケーションまたは単一の選択されたロケーションで心室を刺激することは、HFを患う患者の増加した心拍出量をもたらす可能性がある。本明細書で述べる種々の実施形態によれば、電極954a〜954dの1つまたは複数は、左心室をペーシングするために選択される。他の実施形態では、図9の左心室リード線905によって示すような、心腔内の複数のロケーションに位置決めされる複数のペーシング電極を有するリード線は、心腔の任意のまたは全ての心腔内に埋め込まれてもよい。1つまたは複数の心腔内に位置決めされた電極のセットが選択されてもよい。電気刺激パルスは、心臓機能を高めるタイミングシーケンスおよび出力構成に従って、選択された電極によって心腔に送出されてもよい。
【0058】
埋め込み型デバイス900のハウジング901の所定の部分は、任意選択で、1つまたは複数の缶または不関電極の役をしてもよい。ハウジング901は、1つまたは複数のリード線とハウジング901との間の取外し可能な取り付けを容易にするよう構成されてもよい。治療デバイス900のハウジング901は、1つまたは複数の缶電極981bを含んでもよい。治療デバイス900のヘッダ989は、1つまたは複数の不関電極981aを含んでもよい。
【0059】
ハウジング901およびヘッダ989のうちの少なくとも一方は、加速度計またはマイクロフォンなどの1つまたは複数の血行動態センサ982を含んでもよい。1つまたは複数の心臓リード線910または別個のセンサリード線は、肺動脈圧センサなどの1つまたは複数の血行動態センサを組み込んでもよい。治療デバイス900のハウジング901またはリード線システム910内にまたはその上に配設される心臓電極および/または他のセンサは、経胸壁インピーダンス、呼吸数、分時換気量、心拍数、心臓同期不全、活動、姿勢、血液化学、酸素飽和度、心音、壁応力、壁緊張、肥大、電極間インピーダンス、電気的遅延(PR間隔、AV間隔、QRS幅など)、活動、心腔圧、心拍出量、温度、心拍変動、脱分極振幅、脱分極タイミング、および/または、他の生理的パラメータなどの、種々の生理的パラメータの検出および/測定のために使用される信号を生成してもよい。いくつかの実施形態では、こうした信号から導出される情報は、CRTペーシングパラメータを変更することに応答して左心室前負荷の短期的最適化を提供するのに使用される最適化アルゴリズムに組込まれてもよいことが考えられる。
【0060】
一部の構成では、埋め込み型デバイス900は、患者の呼吸波形を採取する、かつ/または、他の呼吸関連情報を採取するために使用されてもよい1つまたは複数の経胸壁インピーダンスセンサを組込んでもよい。経胸壁インピーダンスセンサは、たとえば、1つまたは複数の心腔内に位置決めされた1つまたは複数の心臓内電極941、942、951〜956を含んでもよい。心臓内電極941、942、951〜956は、治療デバイス900のハウジング901内に位置決めされたインピーダンスドライブ/センス回路に結合されてもよい。経胸壁インピーダンスセンサからの情報は、使用の中でもとりわけ、患者の活動または代謝要求に対応するためにペーシングのレートに適応するのに使用されてもよい。
【0061】
通信回路は、CRM回路と外部プログラマまたは高度患者管理(APM)システムなどの患者外部デバイスとの間の通信を容易にするためにハウジング901内に配設される。通信回路はまた、1つまたは複数の埋め込み式の、外部の、皮膚の、または皮下の、生理的または非生理的センサ、患者入力デバイス、および/または、情報システムとの単方向または2方向通信を容易にしてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、治療デバイス900は、デフィブリレ−ション治療および/または抗頻脈性不整脈ペーシング(anti-tachyarrhythmia pacing)(ATP)によって、心臓頻脈性不整脈を検出し処置する回路を含んでもよい。デフィブリレ−ション能力を提供する構成は、頻脈性不整脈を終了させるかまたは軽減するために、心臓に高エネルギーショックを送出するためのデフィブリレ−ションコイル941、942を利用してもよい。
【0063】
一部の実施形態では、埋め込み型治療デバイス900は、ペーシング電極(複数可)、タイミングシーケンス、および/または、1つまたは複数の心腔内の1つまたは複数の電極によって印加される振幅またはパルス波形出力構成(ひとまとめに、ペーシング出力構成と呼ばれる)を選択する回路を含んでもよい。たとえば、ペーシング部位評価プロシジャは、心室前負荷を最大にするために、最適ペーシングを埋め込み後に評価するように実施されてもよい。心室前負荷を最大にするために、ペーシングに関連するタイミングパラメータ(たとえば、AV遅延)において変更が行われてもよい。ペースメーカパラメータの任意の組合せが、最適前負荷の条件を確定するためのパラメータの特徴付けのために使用されると共に、これらのパラメータを使用する治療を提供するために使用されてもよい。たとえば、心腔内の複数のペーシング部位にそれぞれ配設された複数のペーシング電極を装備するペースメーカでは、1つまたは複数の電極、時間的シーケンス、および/または、ペーシングを送出するためのパルス波形特性を選択できることは、心室前負荷を最適化する/最大にすることによって、心腔の収縮機能を高めるのに使用されうる。
【0064】
本明細書に示すような多部位ペースメーカは、心周期中に、心房および/または心室の複数の部位にペーシングパルスを送出することが可能である。ある患者は、心室の異なるエリアに対してポンピング負荷および/または脱分極シーケンスを分配するために、異なる時刻に心室などの心腔の所定部分を活性化することによって利益を受ける可能性がある。多部位ペースメーカは、異なる心周期中に心腔内の選択された電極または電極のグループ間でペーシングパルスの出力を切換える能力を有する。たとえば、ペーシングパルスは、収縮の同期性を高めるために、心周期中に、指定されたロケーションでまた指定された時刻に心腔に送出されてもよい。ペーシングパルスの振幅、パルス継続時間、アノード/カソード極性、および/または、波形はまた、先に述べたように、ポンピング機能を高めるために、変更されてもよい。
【0065】
本発明の範囲から逸脱することなく、先に説明された好ましい実施形態に対して、種々の変更および追加が行われうる。したがって、本発明の範囲は、上述した特定の実施形態によって制限されるべきでなく、添付特許請求の範囲およびその均等物だけによって規定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について、前記短期バーストプロトコル中に患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータを変更すること、
前記短期バーストプロトコルの反復中に肺動脈圧を測定すること、
前記測定された肺動脈圧に基づいて最適心室前負荷を確定すること、
前記最適心室前負荷の確定に基づいて選択されるペーシングの前記パラメータの値を使用してペーシング治療を提供することを備える方法。
【請求項2】
ペーシングの前記パラメータはペーシング遅延を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペーシング遅延は房室ペーシング遅延を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペーシング遅延は2心室遅延を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ペーシング遅延は心房内遅延を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ペーシングの前記パラメータは、前記患者の心臓内の埋め込み型心臓リード線のペーシング部位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
患者の圧反射システムが前記短期バーストプロトコルの反復中に、ペーシングの前記変更されたパラメータに対して順応しないように、前記短期バーストプロトコルの反復の長さを選択することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記短期バーストプロトコルの反復と反復との間に前記肺動脈圧を測定して、ベースライン肺動脈圧を確定することをさらに備え、前記最適心室前負荷を確定することは、前記ベースライン肺動脈圧を、前記短期バーストプロトコルの反復中に測定された肺動脈圧と比較することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記短期バーストプロトコルの反復中に肺動脈圧を測定することは、肺動脈拡張期圧を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記測定された肺動脈拡張期圧に基づいて前記最適心室前負荷を確定することは、前記肺動脈拡張期圧の最大値に基づいて前記最適心室前負荷を確定することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記測定された肺動脈圧に基づいて前記最適心室前負荷を確定することは、前記肺動脈圧の最大値に基づいて前記最適心室前負荷を確定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ペーシング治療を提供することは、前記患者の心臓に適用されるペーシング間隔の自由行動下の最適化を実施することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記短期バーストプロトコルの反復のうちの選択された反復中に患者の姿勢を変更することをさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項14】
医療システムであって、
患者の心臓にペーシングパルスを送出するための1つまたは複数の電極と、
前記1つまたは複数の電極に結合されるエネルギー送出および検知ユニットと、
肺動脈圧測定を行うことが可能な肺動脈圧センサと、
少なくとも前記肺動脈圧測定結果を格納するよう構成されたメモリと、
前記メモリ、前記肺動脈圧センサ、ならびに前記エネルギー送出および検知ユニットに結合されたコントローラとを備え、前記コントローラは、
短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について、前記短期バーストプロトコル中に前記エネルギー送出および検知ユニットによって前記患者の心臓に適用されるペーシングのパラメータを変更し、
前記短期バーストプロトコルの反復中に行われた前記肺動脈圧測定結果を格納し、
前記格納された肺動脈圧測定結果によって確定される最適心室前負荷に基づいて選択される前記パラメータの値を使用してペーシング治療を提供するよう構成される、医療システム。
【請求項15】
ペーシングの前記パラメータは、ペーシング遅延を含む、請求項14に記載の医療システム。
【請求項16】
ペーシングの前記パラメータは、前記電極のペーシング部位を含む、請求項14に記載の医療システム。
【請求項17】
前記コントローラは、前記短期バーストプロトコルの反復と反復との間に前記肺動脈圧測定結果を格納して、ベースライン肺動脈圧を確定するようさらに構成され、前記最適心室前負荷は、前記ベースライン肺動脈圧を、前記短期バーストプロトコルの反復中に格納された前記肺動脈圧測定結果と比較することによって確定される、請求項14に記載の医療システム。
【請求項18】
前記肺動脈圧測定結果は、肺動脈拡張期圧測定結果を含む、請求項14に記載の医療システム。
【請求項19】
前記コントローラは、前記短期バーストプロトコルの反復中に行われる最大圧測定結果に基づいて前記最適心室前負荷を確定するようさらに構成される、請求項14に記載の医療システム。
【請求項20】
前記コントローラは、前記患者の心臓に適用されるペーシング間隔の自由行動下の最適化中に前記ペーシング治療を提供するようさらに構成される、請求項14に記載の医療システム。
【請求項21】
医療システムであって、
短期バーストプロトコルの複数の反復について患者の心臓にペーシングを適用する手段であって、ペーシングのパラメータは、前記短期バーストプロトコルのそれぞれの反復について変更される、前記適用する手段と、
前記短期バーストプロトコルの複数の反復中に肺動脈圧を測定する手段と、
前記測定された肺動脈圧に基づいて最適心室前負荷を確定する手段と、
最適心室前負荷の前記確定に基づいて選択されるペーシングの前記パラメータの値を使用してペーシング治療を提供する手段とを備える医療システム。
【請求項22】
前記短期バーストプロトコルの反復と反復との間に前記肺動脈圧を測定して、ベースライン肺動脈圧を確定する手段をさらに備え、前記最適心室前負荷を確定する前記手段は、前記ベースライン肺動脈圧を、前記短期バーストプロトコルの反復中に測定された肺動脈圧と比較する手段をさらに備える、請求項21に記載の医療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−536471(P2010−536471A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521852(P2010−521852)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/009612
【国際公開番号】WO2009/025734
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】