説明

測定ノイズ抑制方法

【課題】電子機器の測定ノイズ抑制方法において、簡易且つ低コストで電子機器の測定ノイズを抑制することを可能にすると共に、既存の測定装置に適用できるようにする。
【解決手段】電磁超音波探触子2と、電磁超音波探触子2からの信号を受信するパルサー/レシーバー7と、電磁超音波探触子2からパルサー/レシーバー7に信号を伝達するケーブル3とを少なくとも有する測定装置1を用いて電磁超音波法により測定を行う際に、ケーブル3の少なくとも電磁超音波探触子2近傍の外部導体3cと測定対象物4とを電気的に接続させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定ノイズ抑制方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、電磁超音波探触子を利用して電磁超音波法により測定対象物の肉厚の測定を行う装置に用いて好適な測定ノイズ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器を用いて測定を行う場合に測定装置のレシーバーが受信するセンサや探触子からの信号のノイズを抑制する従来の技術としては、例えば電磁波の干渉(以下、EMIと表記する)抑制ケーブルがある(特許文献1)。このEMI抑制ケーブル101は、図6に示すように、絶縁被覆層付き芯線束102と、その外周の金属編組線層又は金属テープ層又はメッシュ金属線混入樹脂層のいずれかであるシールド層103と、更にその外周のフェライトコンパウンド混入樹脂層104と、更にその外周のシース層105とを有するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2004−206953号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のEMI抑制ケーブル101では、EMIノイズを抑制するために芯線の絶縁被覆層も含めて四重もの層で被覆しなければならず、構造が複雑で手間がかかると共にコストアップにつながる。また、既存の測定装置に対して付加的に適用することができないので、既存の測定装置のケーブル全体を交換する必要があり、さらに、ケーブルが交換できない場合には適用することができない。このため、汎用性が高いとは言い難い。
【0005】
本発明はかかる課題に対応するもので、簡易且つ低コストで電子機器の測定ノイズを抑制することができ、しかも既存の測定装置に適用可能な測定ノイズ抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、電磁超音波法による測定を行う中で、電磁超音波探触子からの信号を伝達するケーブルの外部導体と測定対象物とを電気的に接続させることが、測定ノイズの抑制に有効であることを知見した。また、測定対象物と電気的に接続させる外部導体の位置が電磁超音波探触子に近いほど測定ノイズの抑制効果が大きいことを知見した。
【0007】
本発明の測定ノイズ抑制方法は、前記知見に基づくものであり、電磁超音波探触子と、電磁超音波探触子からの信号を受信するパルサー/レシーバーと、電磁超音波探触子からパルサー/レシーバーに信号を伝達するケーブルとを少なくとも有する測定装置を用いて電磁超音波法により測定を行う際に、ケーブルの少なくとも電磁超音波探触子近傍の外部導体と測定対象物とを電気的に接続させるようにしている。
【0008】
したがって、この測定ノイズ抑制方法によると、電磁超音波探触子からパルサー/レシーバーに信号を伝達するケーブルの外部導体と測定対象物とを電気的に接続させるようにしているので、測定ノイズが抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の測定ノイズ抑制方法によれば、電磁超音波探触子からパルサー/レシーバーに信号を伝達するケーブルの外部導体と測定対象物とを電気的に接続させるようにしているので、測定ノイズの抑制が可能であり、測定精度の向上を図ることができる。また、ケーブルの外部導体と測定対象物とを電気的に接続させるだけで測定ノイズの抑制が可能であるので、構成が非常に簡便であってコストがかからず経済的であると共に汎用性が高い。しかも、既存の測定装置に対しても付加的に適用することができるので、既存の装置を無駄にすることがなく経済的であると共に汎用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1から図3に、電磁超音波法により測定対象物である金属試験体4の肉厚を測定する装置1に本発明の測定ノイズ抑制方法を適用した実施形態の一例を示す。この測定ノイズ抑制方法は、測定装置1を用いて電磁超音波法により測定を行う際に、ケーブル3の少なくとも電磁超音波探触子2近傍の外部導体3cと金属試験体4とを電気的に接続させるものである。
【0012】
本実施形態では、測定装置1は、電磁超音波探触子2と、ケーブル3によって電磁超音波探触子2と接続されたダイプレクサー5と、ダイプレクサー5と接続されたプリアンプ6と、電磁超音波探触子2からの信号をダイプレクサー5を介して受信すると共にダイプレクサー5及びプリアンプ6を介して受信するパルサー/レシーバー7と、パルサー/レシーバー7が受信した信号が入力されるオシロスコープ8と、パルサー/レシーバー7を制御するパソコン9とにより構成される。
【0013】
電磁超音波探触子(Electromagnetic Acoustic Transducer:EMATとも呼ばれる)2は、電磁超音波法に用いられる探触子であって、電磁気的な作用によって導電体内との間で超音波を送受信することができる探触子であればどのような探触子でも良い。本実施形態の電磁超音波探触子2は、図2(A)に示すように、直径0.3mmの被覆銅線をトラック型に25回巻いたコイル2aと、磁束密度1.39〜1.45Tの一対の永久磁石2bと、これらコイル2a及び永久磁石2bの全体を覆う絶縁性の樹脂2cとから構成される。
【0014】
なお、電磁超音波法自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する。本実施形態では、電磁超音波探触子2を有する測定装置1並びに電磁超音波法の原理を用い、電磁超音波探触子2のコイル2aに高周波電流を流して励起させた渦電流と電磁超音波探触子2の永久磁石2bが作る直流磁場とによって測定対象物であって導電体である金属試験体4内の自由電子にローレンツ力を励起させて超音波を発生させると共に、この超音波の発生過程の逆過程で超音波を受信して金属試験体4の肉厚を測定する。
【0015】
本実施形態では、ケーブル3として、図3に示すように、中心部の内部導体3aと、内部導体3aの周りを覆う絶縁体3bと、絶縁体3bの周りを覆う細い金属線で編まれた網状の外部導体3cと、外部導体3cの周りを覆う絶縁カバー3dとからなる同軸ケーブルが用いられる。
【0016】
そして、電磁超音波探触子2のコイル2aを形成する被覆銅線の一方の端部はケーブル3の内部導体3aと電気的に接続され、被覆銅線の他方の端部はケーブル3の外部導体3cと電気的に接続される。
【0017】
ダイプレクサー5(RITEC社製・RDX−6)はダンピング及び周波数フィルター機能を有する。
【0018】
プリアンプ6(RITEC社製・PAT−0.05−20)は、電磁超音波探触子2によって受信した信号が微弱な場合に、パルサー/レシーバー7に入力する前に信号を増幅する。
【0019】
パルサー/レシーバー7(RITEC社製・SNAP5000)は、電磁超音波探触子2と協働して金属試験体4に超音波を発生させると共に、電磁超音波探触子2が金属試験体4から受信した超音波信号を受信する。
【0020】
パルサー/レシーバー7が受信した信号はオシロスコープ8(Tektronix社製・TDS5034B)に入力され、オシロスコープ8によって電磁超音波探触子2の受信波形が観察される。
【0021】
パソコン9は、パルサー/レシーバー7を制御して超音波の励起及び受信を監視・制御する。
【0022】
ケーブル3の外部導体3cと測定対象物である金属試験体4とを電気的に接続させる方法は特に限定されるものではなく、外部導体3cと金属試験体4とを短絡させる方法であればどのような方法であっても良い。本実施形態では、図2(B)に示すように、電磁超音波探触子2の樹脂2cの外面をアルミ箔2dで覆うと共にアルミ箔2dとケーブル3の外部導体3cとを電気的に接続させる。そして、電磁超音波探触子2を金属試験体4に接触させながら測定を行う際にアルミ箔2dと金属試験体4とを接触させて外部導体3cと金属試験体4とを電気的に接続させる。なお、電磁超音波探触子2の金属試験体4と接触させる面2fについては、接触面2fの縁部2eのみをアルミ箔2dで覆って金属試験体4とアルミ箔2dとを接触させるようにしている。
【0023】
ケーブル3の外部導体3cと測定対象物である金属試験体4とを電気的に接続させる方法として、他には、図4に示すように、電磁超音波探触子2の近傍で外部導体3cと電気的に接続させた導線10を金属試験体4と接触させるようにしても良い。この場合、外部導体3cと導線10とを電気的に接続させる位置は、電磁超音波探触子2に近いほど好ましい。そして、この実施形態の場合、導線10と金属試験体4とを接触させる位置は、金属試験体4と電気的に接続できる箇所であれば、電磁超音波探触子2によって測定を行う位置から離れていても構わない。したがって、例えば、電磁超音波探触子2によって測定を行う部分が絶縁物で覆われていたとしても、表面が絶縁物で覆われていない箇所で金属試験体4と導線10とを接触させることによって本発明を適用することができる。また、金属試験体4の表面を覆う絶縁物を部分的に除去し、この絶縁物を除去した箇所で金属試験体4と導線10とを接触させることによって本発明を適用することができる。
【0024】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、細い金属線で編まれた網状の外部導体3cを有する同軸ケーブルをケーブル3として用いているが、本発明を適用可能なケーブル3の構成はこれに限られず、外部導体を有する通常のケーブル一般に対して適用することができる。
【0025】
また、本実施形態では、電磁超音波探触子2はコイル2a及び永久磁石2bの全体を覆う絶縁性の樹脂2cを有するようにしているが、電磁超音波探触子2の構成はこれに限られるものではなく、絶縁性の樹脂2cを有さなくても良い。
【0026】
また、本実施形態では、ダイプレクサー5やプリアンプ6を備える測定装置1を用いているが、本発明を適用可能な測定装置1の構成はこれに限られず、電磁超音波探触子2と、パルサー/レシーバー7と、電磁超音波探触子2からパルサー/レシーバー7に信号を伝達するケーブル3とを少なくとも有する測定装置であれば適用することができる。
【実施例1】
【0027】
本発明の測定ノイズ抑制方法を実際の金属試験体の肉厚測定に適用した実施例を図5を用いて説明する。
【0028】
本実施例では、金属試験体4としてアルミ製の幅58mm×長さ100mm×厚さ20mmのブロック試験体を用い、本発明の測定ノイズ抑制方法を適用しなかった場合と適用した場合との電磁超音波探触子2の受信波形を比較した。なお、電磁超音波探触子2への印加電圧の周波数は5.40MHzとした。
【0029】
受信波形の比較の結果を図5に示す。図5において、黒矢印rは一定間隔で現れる金属試験体4の底面反射波を示し、白抜き矢印nは測定ノイズを示す。なお、図の左側の最初に現れた大きな振幅を有する波形は送信パルスである。
【0030】
本発明の測定ノイズ抑制方法を適用しなかった場合には測定ノイズの振幅が大きいために底面反射波を識別することが困難であるが(図5(A))、本発明の測定ノイズ抑制方法を適用した場合には測定ノイズが殆ど抑制されて底面反射波を容易且つ明確に識別することができた(図5(B))。また、信号対雑音比(SN比ともいう)は0.8から7.2に大幅に改善された。この結果から、本発明により、測定ノイズが大幅に抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の測定ノイズ抑制方法の実施形態の一例を示す測定装置全体構成図である。
【図2】本実施形態の電磁超音波探触子の樹脂を透視した斜視図である。(A)は樹脂の外面を覆うアルミ箔がない状態の斜視図である。(B)は樹脂の外面を覆うアルミ箔がある状態の斜視図である。
【図3】本実施形態の同軸ケーブルを示す一部切欠斜視図である
【図4】他の実施形態における電磁超音波探触子とケーブルと導線との構成を示す斜視図である。
【図5】実施例の電磁超音波探触子の受信波形を示す図である。(A)は本発明の測定ノイズ抑制方法を適用しない場合の受信波形を示す図である。(B)は本発明の測定ノイズ抑制方法を適用した場合の受信波形を示す図である。
【図6】従来のEMI抑制ケーブルを示す一部切欠斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 測定装置
2 電磁超音波探触子
3 ケーブル
4 金属試験体
5 ダイプレクサー
6 プリアンプ
7 パルサー/レシーバー
8 オシロスコープ
9 パソコン
10 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁超音波探触子と、前記電磁超音波探触子からの信号を受信するパルサー/レシーバーと、前記電磁超音波探触子から前記パルサー/レシーバーに前記信号を伝達するケーブルとを少なくとも有する測定装置を用いて電磁超音波法により測定を行う際に、前記ケーブルの少なくとも前記電磁超音波探触子近傍の外部導体と測定対象物とを電気的に接続させることを特徴とする測定ノイズ抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−26150(P2008−26150A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199107(P2006−199107)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】