説明

測定プローブおよび、その製造方法

【課題】支持体へのタンパク質固定において、簡便な操作でタンパク質層の剥離や損傷を抑制し、感度および再現性に優れた測定プローブを提供する。
【解決手段】支持体の表面にタンパク質を含む層を該支持体の長軸を囲んで一周するように吸着させ、該層におけるタンパク質1モルあたり1〜5モルの架橋剤による架橋処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体の表面に抗体や抗原といったタンパク質を固定し、該タンパク質を利用して病原体、生理活性物質、化学物質などを検出するための免疫検査用測定プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の物質と特異的に相互作用するタンパク質を支持体に固定したものは、生体関連物質、食品内容物質、環境関連物質を始めとする様々な物質(以降、標的物質と記載する場合もある)を検出するための免疫測定素子の構成モジュールとして多く用いられている。そのようなモジュールとして、例えば、ガラス、金属、紙、樹脂といった支持体表面に抗原や抗体といった特定の対象物と選択的に反応を行うタンパク質が固定されて用いられる。
【0003】
通常、前記モジュールの支持体としては、反応性を高める意味では微粒子支持体が用いられ、B/F分離(結合した物質と遊離している物質との分離)を容易にする意味でスラブ(板)状の支持体が用いられることが多い。
【0004】
一方、前記免疫測定法においては、標的物質の検出に関わる信号を取得するための様々な方法があり、一般には吸光、蛍光、化学発光といった光学的信号が用いられることが多い。その中で蛍光を光学的信号として検出する蛍光法は蛍光色素が古くから開発され、様々な物理化学的性質、発光波長を調整できることから広範に使用されている。
【0005】
この様な蛍光発色団を標識体として用いる免疫測定法(以降「蛍光免疫法」と記載する場合もある)においては、蛍光発色団を励起する必要がある。近年、通常の放射光による励起ではなく、エバネッセント波と呼ばれる伝播する領域が限定された光で励起する手法が用いられるようになってきている。エバネッセント波を発生させる手法としては、支持体として用いられる材料を光学的に透明な材料とし、当該支持体中に、その界面で全反射がなされる角度にて光を導入し、支持体表面にエバネッセント波を生じさせる手法がある。この手法では、予めこの支持体の表面に抗原や抗体といった標的物質を特異的に捕捉する機能を有する検出用タンパク質を固定しておき、蛍光発色団で標識した標的物質の捕捉を行う。そうすると、エバネッセント波は支持体表面から数百ナノメートルの領域のみにおいて有効であることから、エバネッセント波を励起光として用いることができる。このエバネッセント波により支持体表面に存在する、捕捉タンパク質に捕捉された標的物質を標識している蛍光発色団のみが励起される。その結果、検体溶液中を単に浮遊している蛍光発色団は励起されないため、所謂S/N比が向上することになり、結果として測定感度が向上する。
【0006】
免疫測定法のためにエバネッセント波を発生させるべく構成された従来技術としては特許文献1に開示される光学的測定装置を挙げることができる。この光学的測定装置では、標的物質を捕捉する分子を固定する支持体は、スラブ状のポリマーであり、同時に光学セルの壁面を兼ねているので光学的検出を行う上で利便性が高く有用である。
【0007】
一方、支持体の形状が円柱状の光ファイバ型である場合には、表面積の増加により感度の向上が見込まれ、かつ単なる支持体ではなくプローブ方式としても用いることができるため形態の自由度が広がるという利点も有している。円柱状の測定プローブを用いる形態としては、光源又は検出器に直結した光学ファイバの一部をセンサとして用いるものもあるが、特許文献2〜4のようにセンサとして使用する部分が物理的に独立したものがある。
【特許文献1】特開昭63−273042号公報
【特許文献2】特開平5−5742号公報
【特許文献3】米国特許第4582809号明細書
【特許文献4】米国特許第6136611号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
円柱状の測定プローブを用いた、エバネッセント波励起による蛍光免疫法は、上記のように非常に優れた性能を示し得るが、支持体が円柱状、即ち表面が曲面であるため、抗体や抗原といった捕捉タンパク質が剥離しやすいという課題があった。
【0009】
これを解決するために、架橋処理を用いて検出用タンパク質を支持体表面との共有結合により固定する技術は従来からも存在している。しかし、プローブ表面と捕捉タンパク質との架橋処理は、捕捉タンパク質とプローブ表面とを距離的、物理的に隔離することになり、エバネッセント波の影響を減じさせ、検出感度を下げることになるという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、ファイバ型などの柱状構造の光導波路を備える、検体中の標的物質を検出するための測定プローブにおいて、プローブ表面に保持される検出用タンパク質の剥離が起こり難く、且つ感度に優れた測定プローブ及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る測定プローブは、検体に接触させて該検体中の標的物質の有無、或いは濃度を検出するための測定プローブであって、
柱状構造の光導波路を有する支持体と、
該光導波路の表面に無終端環状に形成された、タンパク質を含む層と、を有し、
該タンパク質を含む層を構成するタンパク質同士が架橋剤を介して架橋されていることを特徴とする測定プローブである。
【0012】
本発明に係る測定プローブの製造方法は、検体に接触させて該検体中の標的物質を検出するための測定プローブを製造する方法であって、
支持体上に、架橋剤を介して相互に架橋されたタンパク質を含む層を、該支持体の一軸を囲んで一周した部分を有するように形成する工程を有し、
前記タンパク質を含む層を構成するタンパク質同士の架橋が、該タンパク質に対して1〜5倍のモル濃度の架橋剤溶液での処理により行なわれることを特徴とする測定プローブの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光導波路表面に形成された無終端環状のタンパク質層が、該タンパク質層におけるタンパク質同士が架橋剤を介して架橋されているので、タンパク質層が剥離することを抑制される。光導波路表面への架橋処理が不要であり、測定の検出感度が安定にかつ高感度になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で測定プローブと称するものは、支持体と、該支持体の表面に無終端環状に形成された、タンパク質を含む層とを少なくとも有する。支持体は少なくとも1以上の軸を有し、軸の好ましい形状は概円柱型の柱状構造である。検体に接触させて検体中の標的物質の有無、或いは濃度を検出するために用いられ、小片としての形態に好適な構造を有する。支持体としては、光導波路を有するものが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記測定プローブ表面の少なくとも一部は抗体や抗原といったタンパク質層で被覆され、被覆においては製造が簡便である架橋法を対象としている。そのため、前記測定プローブの支持体として、抗体や抗原といったタンパク質のような、表面に固定される物質との間に共有結合を形成させることが簡便にはできない材料を用いる場合に効果的に適用できる方法である。このような材料の典型的なものとしては、容器類に多用されるポリスチレンやポリエチレンのような疎水性樹脂が挙げられる。
【0016】
本発明の好ましい態様の1つでは、前記測定プローブは概円柱型の柱状構造の支持体を有し、架橋法に基づく固定において、タンパク質層を支持体表面に形成された無終端環状のタンパク質層を有するように形成することで、支持体からの剥離を抑止する。無終端環状に形成したタンパク質層とは、支持体の少なくとも1以上の軸における交差(例えば直交)する断面についてタンパク質層が周設されている状態が軸の一部にでも存在するように形成された層である。柱状の形状を有する支持体では、これを取り囲んで一周する線分が必ず存在する。タンパク質分子どうしまたはタンパク質と他成分を架橋させ2次元的なタンパク質層を生成させて固定を行う場合に、前記線分に相応する架橋複合体が存在することにより、タンパク質層が支持体を把持する作用が生じる。
【0017】
これにより、支持体とタンパク質の間に共有結合を作らなくともタンパク質層の剥離および流失が起こり難くなる。
【0018】
一般に、タンパク質の支持体からの剥離を低減、防止するための、タンパク質の支持体への固定法としては、支持体上の特定の置換基とタンパク質上の特定の置換基とを共有結合により結ぶ方法があり、これは比較的強固で安定な固定層が得られる。
【0019】
しかし、本発明者らが検討したところ、支持体に用いる材料によっては、そのような置換基を予め導入することが困難な場合や、製造工程の煩雑さが課題となっていた。
【0020】
本発明においては、固定される分子(タンパク質)同士に共有結合による架橋反応を行って、固定の助力とする(以下、架橋法と呼称する)。
【0021】
この架橋法では、固定される分子と支持体との結合がないものの、固定される分子が一体化した固定層を形成することで移動度を低下させ、支持体表面との密着性を増加させると考えられる。
【0022】
また、本発明は、光導波路を有する測定プローブの製造方法において、酵素および他のタンパク質の間に架橋を行うものである。
【0023】
タンパク質溶液を塗布した後に架橋剤を含む溶液を含浸させる2段階の方法も挙げられる。
【0024】
本発明で用いる架橋法は操作が簡便であり、架橋剤の構成重量比を最適化することによって、好ましい物性や機能を有した測定プローブを作成することができる。
【0025】
タンパク質層には、非タンパク質高分子が含まれていても良く、これらを架橋してなるタンパク質層であってよい。
【0026】
支持体の形状の具体的な例としては、ファイバ状が望ましく、ファイバを加工した剣山状、メッシュ状などが挙げられる(図1(1)〜(3)参照)。また、これらの形状を適宜曲げるなどした形状でも良く、例えば、樹枝状、リング状、パイル状などが挙げられる。また、図(4)、(5)に示すような非直線状や欠けた環状(C形状)構造でもよい。
【0027】
通常このような架橋法によるタンパク質の固定は、タンパク質の種類としては酵素(特に酸化還元酵素)、支持体としては電極材料が用いられる。即ち、酵素反応(酸化還元反応)を電気化学的に検出するような用途に用いられる場合が大半である。
【0028】
一方本発明においては、タンパク質としては抗体、及び抗原であり、支持体としては光学検出用ファイバ型光導波路を有する。更に、本発明は特に、円柱状の測定プローブを用いた、エバネッセント波励起による蛍光免疫法に対し有効な測定プローブを提供するものである。
【0029】
本発明の測定プローブは、検出用タンパクとして抗体を用いる場合が多く、また、支持体形状が円柱状を呈している。通常抗体を、その剥離を低減しつつ固定する場合は共有結合を介して固定する手法が通常であるがこのような手法の場合、支持体表面が不均一になり、更にその均一性を制御する事が困難であった。
【0030】
それに対し本発明では、通常は上記のように酵素を電極に固定する手法として一般的な架橋剤を用いた架橋法を適用するため、固相面の均一性を制御する事が可能である。
【0031】
固相面の均一性は本発明のエバネッセント波励起による蛍光免疫法にとって非常に重要であり、固相面の不均一さが信号のばらつきに多大に影響を及ぼす。
【0032】
本発明の測定プローブを用いる事で固相面の均一性が確保でき、安定した信号を得ることが可能となる。
【0033】
本発明の測定プローブにおいて、エバネッセント波励起による蛍光免疫法の性能をより高めたい場合には、固定タンパク質の機能を確保しつつ、タンパク質層の強度を架橋により向上させることがより望ましい。そのためには、タンパク質と架橋剤のモル比は反応後において1:1程度であることが望ましく、これが実現可能である仕込み量比が望ましい。つまり、その条件として、架橋反応前に支持体表面に存在するタンパク質のモル濃度(mol/L)に対して1〜5倍のモル濃度(mol/L)の架橋剤溶液を作用させることが好適であることを見出した。1〜5倍という範囲は、溶液中での架橋剤の失活やタンパク質の立体障害などに起因して起こり得る反応量の低下に鑑みた倍率であり、用いる材料や反応条件によって設定される。なお、ここで言う支持体表面のタンパク質のモル濃度とは、支持体表面に形成された層に含まれる当該タンパク質のモル数を該層の体積で割ったものである。前記体積は、支持体の被覆面積と実質的な層の厚さから求められる体積であり、空隙や当該タンパク質以外の成分が占める体積も含まれる。
【0034】
前記の濃度範囲においても、架橋剤がタンパク質の機能に影響を与える可能性はあるが、検出機能上は実質的には無視できる量である。架橋剤のモル濃度が支持体表面のタンパク質モル濃度の1倍以上であることで十分な架橋が行なえ、特に、架橋により形成されるタンパク質の鎖が支持体の柱状部位を一周することによる強度への効果が得られ易くなるので好ましい。また、架橋剤のモル濃度が支持体表面のタンパク質モル濃度の5倍以下であるとタンパク質の機能が保ち易くなるので好ましい。
【0035】
本発明の測定プローブでは、標的物質の検出用成分となるタンパク質(以下、検出用タンパク質という)をタンパク質層を構成するタンパク質として含む構成とすることができる。ここで、検出用成分とは、標的物質の検出機能を有する成分であってタンパク質、核酸、糖鎖などの生体高分子や、種々の合成高分子を材料とすることができる。ここで、標的物質の検出機能を有するとは、標的物質を特異的に捕捉する機能をいい、検出用成分を本発明の測定プローブの支持体表面に保持しておくことで、検出用成分が標的物質を捕捉し、標的物質を支持体表面に保持しておくことを可能とする。検出用タンパク質としては、抗体、抗原(抗原タンパク質)、酵素またはレセプターが挙げられる。タンパク質層はこれらから選択される少なくとも1種類を含む。本発明では必要に応じて、これらから選択された2種以上の検出用タンパク質を組み合わせて用いることができる。酵素等に比べ抗体は認識部分が末端に露出しており、架橋反応に対して損傷を被る可能性がより高いので、前記の構成比を適用した方がより好適である。
【0036】
検出用成分をタンパク質層に含む形態とは異なる形態として、上述の架橋タンパク質層を下地として支持体の所定面に形成し、その上に標的物質の検出成分としての前記の検出用タンパク質を接続する方式をとることも可能である。ここで下地と記すのは、検出用タンパク質を支持体に保持させる上で架橋タンパク質層が検出用タンパク質を固定するための下地として働きくことからそのように記している。この方式は、架橋反応による検出用タンパク質の損傷をより少なくしたい場合や、検出用タンパク質の向きが非常に重要な場合に有用である。このような目的に好適な下地用タンパク質としては、アビジン、プロテインGなどが挙げられる。アビジンに対してはビオチンを介して選択的な接続ができる。プロテインGは抗体のFc部位を支持体に向けることに有用である。
【0037】
また、下地用タンパク質が非特異的吸着を併せて防ぐことが可能な場合があり、測定対象によっては合成高分子より有用な場合がある。このような下地用タンパク質としては、アルブミン、カゼインなどが挙げられる。
【0038】
タンパク質層を構成する成分としては、2種以上のタンパク質や、タンパク質ではない成分が含まれていてもよい。例えば、検出用タンパク質の周囲に検出反応に都合のよい空隙を設けたり、タンパク質層の強度を調整するために、他の架橋可能な高分子を共存させることができる。このような高分子としては、セルロース、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0039】
架橋剤としては種々の公知のものを用いることができるが、タンパク質の機能を損なう惧れが少ないものが好ましい。すなわち、常温付近で十分な反応が可能である反応性末端(架橋用官能基)を有する架橋剤が好ましく、このような反応性末端としては、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらの反応性末端を持つ二価性架橋剤が好適に利用でき、両方の反応性末端がアルデヒドであるものとして、グルタルアルデヒドが好ましく用いられる。カルボン酸はカルボジイミド類の試薬で活性化して用いる必要がある。カルボン酸エステルとしては、例えばN−ヒドロキシコハク酸イミドエステルが好ましい。架橋剤のスパン(反応性末端間の鎖長)は一義的に決まるものではないが、タンパク質層の柔軟性(密着性に関連)、架橋反応の効率、水溶性などを考慮して系に応じて選択する必要がある。
【0040】
また、架橋反応を制御するために適当な停止剤で反応を停止させることも有効である。例えば、タンパク質のアミノ基に対して架橋する反応であれば、アミン誘導体を添加すればよく、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが挙げられる。
【0041】
本発明の測定プローブにおいて、検出用タンパク質として用いる抗体としては、所謂イムノグロブリンフォールド構造を有する領域を含んでいれば如何なる分子も用いる事が可能である。通常はIgG、IgM、IgA、IgE、IgD等の抗体本体及びその複合体が用いられるが断片であるFab’2、Fab、Fv、さらにはVH、VL単独でも用いる事が可能である。また、これらを遺伝子工学的にペプチドリンカーで一本鎖としたscFvやDiabody、Triabody、Tetrabody等の抗体断片複合体も用いる事が可能である。
【0042】
本発明の測定プローブを用いる免疫測定法により検出可能な標的物質は、非生体物質と生体物質に大別される。
【0043】
非生体物質として産業上利用価値の大きいものとしては、環境汚染物質としての塩素置換数/位置の異なるPCB類、同じく塩素置換数/位置の異なるダイオキシン類、いわゆる環境ホルモンと呼ばれる内分泌撹乱物質が挙げられる。内分泌撹乱物質の例として、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロフェノール、2,4,5-トリクロロ酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、アミトロール、アトラジン、アラクロール、ヘキサクロロシクロヘキサン、エチルパラチオン、クロルデン、オキシクロルデン、ノナクロル、1,2-ジブロモ-3-クロロプロパン 、DDT、ケルセン、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、エンドスルファン(ベンゾエピン)、ヘプタクロル、ヘプタクロルエポキサイド、マラチオン、メソミル、メトキシクロル、マイレックス、ニトロフェン、トキサフェン、トリフルラリン、アルキルフェノール(炭素数5〜9)、ノニルフェノール、オクチノニルフェノール、4-オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチル、ベンゾ(a)ピレン、2,4ージクロロフェノール、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、ベンゾフェノン、4-ニトロトルエン、オクタクロロスチレン、アルディカーブ、ベノミル、キーポン(クロルデコン)、マンゼブ(マンコゼブ) 、マンネブ、メチラム、メトリブジン、シペルメトリン、エスフェンバレレート、フェンバレレート、ペルメトリン、ビンクロゾリン、ジネブ、ジラム、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジプロピル等が挙げられる。
【0044】
生体物質としては、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質及びそれらの複合体から選択される生体物質が含まれ、更に詳しくは、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質から選択される生体分子を含んでなるものであり、具体的には、DNA、RNA、アプタマー、遺伝子、染色体、細胞膜、ウイルス、抗原、抗体、レクチン、ハプテン、ホルモン、レセプター、酵素、ペプチド、スフィンゴ糖、スフィンゴ脂質の何れかから選択された物質を含むものであれば、如何なる物質にも本発明を適用することができる。更には、前記の「生体物質」を産生する細菌や細胞そのものも、本発明が対象とする「生体物質」として標的物質となり得る。
【0045】
標的物質となる具体的なタンパク質としては、いわゆる疾病マーカーが挙げられる。
【0046】
疾病マーカーの例としては、胎児期に肝細胞で産生され胎児血中に存在する酸性糖蛋白であり、肝細胞癌(原発性肝癌)、肝芽腫、転移性肝癌、ヨークサック腫瘍のマーカーとなるα-フェトプロテイン(AFP)、肝実質障害時に出現する異常プロトロンビンであり、肝細胞癌で特異的に出現することが確認されるPIVKA-II、免疫組織化学的に乳癌特異抗原である糖蛋白で、原発性進行乳癌、再発・転移乳癌のマーカーとなるBCA225、ヒト胎児の血清、腸および脳組織抽出液に発見された塩基性胎児蛋白であり、卵巣癌、睾丸腫瘍、前立腺癌、膵癌、胆道癌、肝細胞癌、腎臓癌、肺癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌のマーカーである塩基性フェトプロテイン(BFP)、進行乳癌、再発乳癌、原発性乳癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA15-3、膵癌、胆道癌、胃癌、肝癌、大腸癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA19-9、卵巣癌、乳癌、結腸・直腸癌、胃癌、膵癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA72-4、卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、卵管癌、子宮頸部腺癌、膵癌、肺癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA125、上皮性卵巣癌、卵管癌、肺癌、肝細胞癌、膵癌マーカーとなる糖蛋白であるCA130、卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、子宮頸部腺癌のマーカーとなるコア蛋白抗原であるCA602、卵巣癌(特に粘液性嚢胞腺癌)、子宮頸部腺癌、子宮体部腺癌のマーカーとなる母核糖鎖関連抗原であるCA54/61(CA546)、大腸癌、胃癌、直腸癌、胆道癌、膵癌、肺癌、乳癌、子宮癌、尿路系癌等の腫瘍関連のマーカー抗原として現在、癌診断の補助に最も広く利用されている癌胎児性抗原(CEA)、膵癌、胆道癌、肝細胞癌、胃癌、卵巣癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるDUPAN-2、
膵臓に存在し、結合組織の弾性線維エラスチン(動脈壁や腱などを構成する)を特異的に加水分解する膵外分泌蛋白分解酵素であり、膵癌、膵嚢癌、胆道癌のマーカーとなるエラスターゼ1、
ヒト癌患者の腹水や血清中に高濃度に存在する糖蛋白であり、肺癌、白血病、食道癌、膵癌、卵巣癌、腎癌、胆管癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫のマーカーとなる免疫抑制酸性蛋白(IAP)、膵癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、肝細胞癌、肺腺癌、胃癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるNCC-ST-439、前立腺癌のマーカーとなる糖蛋白質であるγ-セミノプロテイン(γ-Sm)、ヒト前立腺組織から抽出された糖蛋白であり、前立腺組織のみに存在し、それゆえ前立腺癌のマーカーとなる前立腺特異抗原(PSA)、前立腺から分泌される酸性pH下でリン酸エステルを水解する酵素であり、前立腺癌の腫瘍マーカーとして用いられる前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)、神経組織及び神経内分泌細胞に特異的に存在する解糖系酵素であり、肺癌(特に肺小細胞癌)、神経芽細胞腫、神経系腫瘍、膵小島癌、食道小細胞癌、胃癌、腎臓癌、乳癌のマーカーとなる神経特異エノラーゼ(NSE)、子宮頸部扁平上皮癌の肝転移巣から抽出・精製された蛋白質であり、子宮癌(頸部扁平上皮癌)、肺癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌のマーカーとなる扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)、肺腺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるシアリルLeX-i抗原(SLX)、膵癌、胆道癌、肝癌、胃癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるSPan-1、食道癌、胃癌、直腸・結腸癌、乳癌、肝細胞癌、胆道癌、膵癌、肺癌、子宮癌のマーカーであり、特に他の腫瘍マーカーと組み合わせて進行癌を推測し、再発予知・治療経過観察として有用である単鎖ポリペプチドである組織ポリペプタイド抗原(TPA)、卵巣癌、転移性卵巣癌、胃癌、大腸癌、胆道系癌、膵癌、肺癌のマーカーとなる母核糖鎖抗原であるシアリルTn抗原(STN)、肺の非小細胞癌、特に肺の扁平上皮癌の検出に有効な腫瘍マーカーであるシフラ(cytokeratin;CYFRA)、胃液中に分泌される蛋白消化酵素であるペプシンの2種(PG I・PG II )の不活性型前駆体であり、胃潰瘍(特に低位胃潰瘍)、十二指腸潰瘍(特に再発、難治例)、ブルンネル腺腫、 ゾーリンガーエリソン症候群、急性胃炎のマーカーとなるペプシノゲン(PG)、組織障害や感染により、血漿中で変化する急性相反応蛋白であり、急性心筋梗塞等により心筋に壊死が起こると、高値を示すC-反応性蛋白(CRP)、組織障害や感染により、血漿中で変化する急性相反応蛋白である血清アミロイドA蛋白 (SAA)、主に心筋や骨格筋に存在する分子量約17500のヘム蛋白であり、急性心筋梗塞、筋ジストロフィー、多発性筋炎、皮膚筋炎のマーカーとなるミオグロビン、骨格筋,心筋の可溶性分画を中心に存在し、細胞の損傷によって血液中に遊出する酵素であって、急性心筋梗塞、甲状腺機能低下症、進行性筋ジストロフィー症、多発性筋炎のマーカーとなるクレアチンキナーゼ(CK) (骨格筋由来のCK-MM型,脳,平滑筋由来のCK-BB型,心筋由来のCK-MB型の3種のアイソザイム及びミトコンドリア・アイソザイムや免疫グロブリンとの結合型CK(マクロCK))、横紋筋の薄いフィラメント上でトロポニンI,Cとともにトロポニン複合体を形成し、筋収縮の調節に関与している分子量39,000の蛋白であり、横紋筋融解症、心筋炎、心筋梗塞、腎不全のマーカーとなるトロポニンT、骨格筋・心筋いずれの細胞にも含まれる蛋白であり、測定結果の上昇は骨格筋、心筋の障害や壊死を意味するため、急性心筋梗塞症、筋ジストロフィー、腎不全のマーカーとなる心室筋ミオシン軽鎖I等が挙げられる。
【0047】
また、標的物質に含まれる細菌としては、細胞微生物学的検査の対象とされる細菌が挙げられ、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、レジオネラ菌等の食品、公衆衛生に問題の生じる細菌が含まれる。
【0048】
更に標的物質に含まれるウイルスとしては、C型、B型肝炎ウイルスの抗原等の肝炎ウイルス抗原、HIVウイルスのp24タンパク抗原、CMV(サイトメガロウイルス)のpp65タンパク抗原、HPV(パピローマウイルス)のE6或いはE7タンパク等が挙げられる。
【0049】
本発明の測定プローブによる標的物質の検出は、支持体に保持される検出用成分と標的物質との結合に基づく信号を測定することにより行うことができる。検出用成分と標的物質との結合に基づく信号とは、支持体表面に保持される検出用成分への結合によって標的物質が支持体表面に保持され、測定プローブにより検出可能となる信号である。よって、支持体表面を検出領域に設定した光学的検出手段、電気的検出手段または磁気的検出手段によって信号として検出することができる。発色団が標的物質に保持されるとは、標的物質を直接的に発色団により標識してもよいし、標的物質とは別に、標的物質に特異的に結合する物質に当該発色団を標識しておくことで標的物質に間接的に保持させることもできる。発色団を間接的に標的物質に保持させる形式では、標的物質に特異的に結合する物質として、支持体に保持されている検出用成分と同一の物質を用いてもよい。例えば、標的物質を抗原とする抗体を支持体に保持させ、それと同一の抗体に発色団による標識を施し二次抗体とする方法は、抗体にポリクローナル抗体を用いることで可能となる。ポリクローナル抗体には同一抗原の異なる領域を認識する抗体が含まれるため、支持体上に検出用成分として保持した抗体に捕捉された標的物質に対して同一の抗体を二次抗体として結合することができる。検出に用いる信号を発信する発色団としては蛍光発色団を好適に用いることができる。測定プローブの支持体として光導波路を用いる構成では、蛍光発色団は、光源から光導波路内に導入されるように射出された励起光が光導波路表面に導出されることにより、励起される。
【0050】
本実施形態で示される測定プローブはタンパク質層の剥離に対する強度を高めることができ、検体、試薬、洗浄液などプローブに接触させる液体の流速が比較的大きい測定条件において好適に用いることができる。
【0051】
(測定プローブの製造方法)
次に本発明に係る測定プローブの製造方法を説明する。本発明の測定プローブの製造方法では、タンパク質を含む層が無終端環状に支持体を覆うように、タンパク質を含む層を構成するタンパク質同士を架橋させる工程を有する。この工程はいいかえると、支持体上に、架橋剤を介して相互に架橋されたタンパク質を含む層を、該支持体の一軸を囲んで一周した部分を有するように形成する工程である。即ち、図2及び3に示した測定プローブの光導波路3の側表面に標的物質に対する抗体を固定する。固定方法は、基本的には前記抗体を溶解した緩衝液に前記測定プローブを浸漬する事により行う。
【0052】
固定の手順は、タンパク質と架橋剤を予め混合した溶液を支持体に接触させる手順でもよいが、支持体(光導波路3)へのタンパク質(抗体)の物理吸着を行った後で架橋剤を含む溶液に接触させる手順のほうが好ましい。
【0053】
後者は固液反応ゆえの速度的不利が考えられるが、逆に、架橋反応を制御しやすい。また、原料である抗体溶液のpHや濃度の都合で液相では架橋反応が行いにくい場合に有用である。未反応の試薬や副生成物の除去が容易という利点もある。
【0054】
架橋剤の濃度の設定は、予め混合する手順の場合には、溶液中で所望のモル濃度比となるよう設定すればよい。物理吸着後に架橋剤溶液を接触させる手順の場合には、予め物理吸着後の支持体(光導波路3)表面のタンパク質濃度を算出し、これに対して所望のモル濃度比となるよう設定すればよい。支持体(光導波路3)表面のタンパク質濃度は、例えば吸着されたタンパク質の質量や吸光度と吸着層の体積から算出できる。吸着層の体積は、支持体(光導波路3)の被覆面積と吸着層の厚さから算出できる。吸着層の厚さは、電子顕微鏡などの観察手段による実測、または、タンパク質分子の理論的大きさからの推定で決めることができる。これら諸量と架橋剤の最適モル濃度比は予め実験により確認しておくことが好ましい。
【0055】
抗体の固定の際の抗体緩衝液の濃度は高すぎると抗体の凝集が起こり低すぎるとプローブ表面に固定される抗体量が制限されるため、通常1μg/mL〜100μg/mLの範囲で調製する事が望ましい。 また、浸漬条件は、温度はタンパク質である抗体が変性しない程度の低温、即ち1℃〜10℃程度、通常は4℃程度で行う。その際の浸漬時間は15〜30時間、通常は24時間程度行う。
【0056】
当該プローブに固定された抗体量は、浸漬前後の抗体緩衝液中の抗体濃度の差分を研鑚する事で見積もる事ができる。抗体緩衝液中の抗体濃度は通常のLowry法やBCA法のようなタンパク定量法を用いる。
【0057】
このようにして求めた固定抗体量より、表面抗体濃度を算出する。この場合通常抗体(イムノグロブリンG;IgG)の一分子の大きさが10nm程度であるので、10nmの層が前記プローブの周囲を被覆していると仮定した場合の体積から換算する。
【0058】
上記換算により求められた表面抗体濃度に対し、適当な割合で架橋剤を添加する。添加の方法は、前記架橋剤を溶解した緩衝液に浸漬する事により行う。この場合長時間浸漬すると固相抗体の変性が生じる可能性がある一方、短時間では架橋剤の十分な添加が行われない可能性があるため、浸漬時間としては10分〜60分程度、浸漬温度は20℃〜30℃程度とすることが好ましい。架橋剤のモル濃度は、上記表面抗体のモル濃度に対し、1〜5倍となるようにして架橋反応を行うことがより好ましい。タンパク質を含む層を構成するタンパク質の少なくとも一部として、前記標的物質の検出用成分である、抗体、抗原タンパク質、酵素またはレセプターからなる群から選択された少なくとも1種を含んで、タンパク質を含む層を形成することができる。
【0059】
(測定プローブを用いた測定方法)
以下に、本発明の測定プローブを用いた測定装置について詳細に説明する。
【0060】
図4は本発明の測定原理の概略図を示している。光源1から出射される光束の光路上にビームスプリッタ2を配置し、ビームスプリッタ2の反射方向の光路に沿って棒状の光導波路3を配置し、光導波路3に向う光路上のビームスプリッタ2の反対側に検出器4を設ける。なお、この図4の構成は一例を模式的に示したものであり、光源1、ビームスプリッタ2、光導波路3、検出器4の相対的配置及び種類は、図4に限定されるものではない。
【0061】
光源1から出射した光束はビームスプリッタ2で反射して、光導波路3に内部全反射光として導入され、その表面上にエバネッセント波が生成される。光導波路3の表面上で、エバネッセント波により励起された蛍光標識抗体から放出される蛍光は、光導波路3を戻りビームスプリッタ2を透過して検出器4において測光される。
【0062】
図4に示す光学系は、センサ部分である光導波路3において、励起光の導光と蛍光の収集を併せて行うことにより、全体の光学系が小型化可能となり、安定性を確保し易く保守も容易となる。
【0063】
また、検体が光導波路3の外側に位置するために、光導波路3の浸漬、洗浄等の各種操作も行い易い。
【0064】
励起光の反射光、散乱光が標識からのシグナルである蛍光に混在して収集されることを抑制するために、光導波路3の非観測側端面に黒色体を配置したり、光学フィルターを装置に導入してもよい。
【0065】
微量な蛍光量を扱う際に励起光の混在が問題になる場合は、標識からのシグナルである蛍光以外の不要成分を分離する方法として、抗原抗体反応の経時変化を利用する。即ち、観測される光量の内、抗原抗体反応に基づいて増加する蛍光標識抗体からの蛍光量だけが、検体との接触時間に応じて増加することを利用する方法である。この方法を用いる測定として、所定の接触時間を単位として、単位接触時間ごとに標識抗体からの蛍光量を測定することができる。この検体接触および蛍光測定を複数回(指定回数)繰り返し、各測定時の蛍光量を比較することで得られる蛍光量の変化量から標的物質の検出を行うことができる。単位接触時間の検体との接触を所定回数行った時の標識抗体の蛍光量からこの所定回数より接触回数が1回少ない時の当該蛍光量(以下、事前蛍光量と記す)を減算して得られる値を所定回数接触時の単位接触時間あたりの変化量とする。この変化量を事前蛍光量に対する比(以下、単位接触時間当たり変化率と記す)として求めた値を標識抗体の蛍光量の変化を示す指標として用いてもよい。
【0066】
図5は上述の測定手順の一例のフローチャート図を示しており、図6は実測定、バッググラウンド測定、ブランク測定における操作フローチャート図を示している。基本的な測定手順として図5に示すように、先ずステップS1において光導波路3と検体を接触させ、光導波路3の表面に検体中の標的物質を接触して捕捉した後に、ステップS2においてその接触を解除する。捕捉された標的物質に、ステップS3において蛍光性発色団を有する標識抗体を接触させて結合し、その後にステップS4において接触を解除する。
【0067】
続いて、ステップS5において光導波路3内に励起光を導入して内部全反射光とし、光導波路3の表面にエバネッセント波を発生させ、蛍光性発色団を励起させた後に、ステップS6において光導波路3内を伝播して収集される光を測定する。続いて、ステップS7において信号処理を施した後に、ステップS8においてメモリに記憶する。
【0068】
図6は各測定の組み合わせ方、即ち測定全体の流れを示している。図中の「傾き比較演算」とは、実測定及びブランク測定における変化率をそれぞれ求め、実測定の変化率からブランク測定の変化率を引く演算である。実測定とブランク測定においては、検体の違いだけで操作は同一である。バッググラウンド測定では、検体に関わる操作が省略されるが、その他は同様である。光導波路3と各検体又は標識抗体溶液との接触後に、次の操作に進む前に適当な液体による洗浄を行ってもよい。変化率には、上述した単位接触時間当たり変化率を用いることができる。以下の工程でも同様とする。
【0069】
この一連の工程の後、光導波路3と検体との接触時間に対する観測光量の変化率を測定値とする。上述の繰り返し工程において、観測光量が単調に増加せず、例えば或る点から減少を始めた場合等には、これを異常としてオペレータに警告を発する。本工程を少なくとも2回繰り返すことがより安定な信号を取得するためには好ましい。
【0070】
また、上述の測定手順は、標識抗体の抗原抗体反応によらない非特異的吸着が強い場合には、これによる蛍光増加を観測してしまう場合がある。このような虞れがある場合には、実測定に先立って標識抗体のみとの接触を行い、予め非特異的吸着を飽和させておくことが望ましく、ステップS11におけるバッググラウンド測定を行う。続いてステップS12において、非特異的吸着による蛍光増加を判断し、著しく大きい場合には、測定を中断してオペレータに警告を発する。
【0071】
また、検体中に蛍光性の不純物が存在する可能性があるような場合には次のように測定する。ステップS13において実測定に先立って、実測定と同様な測定手順を経て、標的物質を含まない参照検体であるブランク検体の測定、即ちブランク測定を行った後に、ステップS14において実測定を行う。この操作は、一旦結合した非特異的吸着成分が何らかの原因で溶出するような場合にも有効である。
【0072】
更にステップS15において、ブランク測定において得られる蛍光量の接触時間に対する変化率を、実測定において得られる接触時間に対する変化率から差し引くことによって、傾き比較演算して正味の蛍光量変化率を求め、ステップS16において表示する。上述のブランク測定は、統計的観点から実測定と同一の接触時間、接触回数つまり繰り返しを行う。
【0073】
光導波路3の表面への標的物質の捕捉方法は、直接的な物理吸着や予め表面に準備された吸着剤による捕捉を用いることができるが、特に予め表面に固定された抗体による捕捉が、より選択性の高い方法として望ましい。
【0074】
なお、上述の測定手順を適用するに当って、検体及びブランク検体との接触は、検体を入れた開放型容器を回転させ、容器内の回転軸上を除いて回転軸に平行する部分に棒状の光導波路3を置くという装置構成が好ましい。
【0075】
次に、本発明の更に具体的な実施の形態を説明する。図2は米国特許第6136611号明細書に記載のものと同様の形状に、ポリスチレン樹脂を射出成形したレンズ付きファイバ型光導波路である測定プローブの側面図を示し、図3はその正面図を示している。図7は測定方法の説明図を示し、図8は検出部の構成図を示している。
【0076】
光導波路3を有する測定プローブ10において、光導波路3の一端にフランジ11が設けられ、フランジ11の中心に凸レンズ12が配置され、凸レンズ12の光軸は光導波路3の中心軸と一致している。また、光導波路3の他端には端面反射を抑制するための光吸収部位13が設けられている。
【0077】
前述の製造方法により作製された測定プローブ10は待機部21、検体作用部22、標識抗体容器23、検体容器24、測定容器25の間をフランジ11を利用して、空気吸引式のパッドを先端に有するロボットアーム26により移動される。検体作用部22では、検体容器24に注入された検体中に測定プローブ10が懸垂され、標的物質の捕捉を行う。この際に、検体容器24をモータにより回転させて、捕捉を促進することが好ましい。
【0078】
光量測定は測定プローブ10がセットされた測定容器25の上部に検出部27の光学系を嵌合して行われる。この測定容器25では、測定プローブ10の洗浄、半導体レーザー光源による635nmのレーザー光の導入、蛍光の集光を行う。測定容器25の側部の上下には、緩衝液リザーバタンク28、送液ポンプ29が接続された給水管30と、排水管31が接続されている。
【0079】
検出部27には、測定プローブ10側から、図示しない半導体レーザー光源からの光を導光し先端を45度カットした光ファイバ32、色素フィルター33、レンズ34、ダイクロイックフィルター35、レンズ36、フォトダイオード37が配列されている。
【0080】
光ファイバ32から導光された半導体レーザー光により励起され、測定プローブ10に捕捉された標的物質で発生した蛍光は、測定プローブ10の凸レンズ12から検出部27に入射し、光学系を通過してフォトダイオード37で検出される。得られた電気信号は、信号処理部38において増幅、デジタル化がなされ、パーソナルコンピュータ50で記憶演算される。ロボットアーム26、半導体レーザー光源、送液ポンプ29への各駆動指令もパーソナルコンピュータ50により行われる。
【0081】
(検出装置の別の具体的構成例)
以下に本発明の測定プローブを用いた具体的構成例について説明する。
【0082】
図9に、本発明における一実施形態である測定プローブの形状を示す。測定プローブ1は、ファイバ状部位38、フランジ39、凸レンズ状部位40を有している。
【0083】
図10は、上記測定プローブを用いる測定装置の具体的構成を示す概略図である。
【0084】
フローセル41は、注入口41aおよび排出口41bを有しており、測定プローブ10のファイバ状部位をセル内に配置した状態でセット可能に構成されている。
【0085】
測定光学系として、複数のレンズ42、ハーフミラー43、半導体レーザー44、光学フィルター45、フォトダイオード46を備えている。
【0086】
半導体レーザー44より放出されたレーザー光を複数のレンズ42を用いて集光し、測定プローブの凸レンズ状部位に照射する。凸レンズ状部位からの信号光をハーフミラー43を用いてフォトダイオード46に導き、信号強度として測光するものである。
以下に実施例を用いて、本発明に係る測定プローブをより詳細に説明する。
【実施例】
【0087】
本発明の測定プローブを用いた蛍光免疫法をファイバ型プローブに適用する例を示す。なお、以下の例は本発明のより好適な形態の一つであり、本発明の適用範囲を限定するものではない。
【0088】
抗PSA(前立腺特異抗原)モノクローナル抗体をリン酸緩衝液(0.01mol/L、pH7.4、以下同じ)で20μg/mLに希釈し、これに図9に示すポリスチレン製透明プローブのファイバ状部位を4℃で24時間浸漬し、抗体を物理吸着固定した。該抗体は予め支持体からの剥離が起こり易いことが分かっているロットのものを選んだ。この物理吸着のみにより抗体を固定したプローブを対照サンプル(以下、架橋処理なしのプローブとも呼ぶ)とした。
【0089】
物理吸着による表面抗体濃度は、浸漬した抗体溶液の抗体濃度の低下から算出した。複数本のプローブを浸漬した溶液において、浸漬前後の抗体濃度をプロテインアッセイ(バイオラッド社製)により測定し、減少量をプローブ本数で割ることで吸着された抗体の質量を求めた(0.052μg)。また、吸着層の面積を浸漬長(35mm)とプローブ径(0.7mm)から、吸着層の厚さを抗体の大きさ(単層吸着、10nmと仮定)から設定し、吸着層の体積を求めた(7.7×10-10L)。以上の値から、吸着層における表面抗体濃度(平均値)を4.5×10-4mol/Lと推定した。
【0090】
前記吸着固定済みプローブから複数本を選び、0.01体積%(1mmol/L、約2.2倍モル濃度)のグルタルアルデヒドを含むリン酸緩衝液溶液に25℃で30分浸漬した。次いで、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩水溶液(1mol/L、pH7.4)に25℃で1時間浸漬した。これを風乾し、架橋処理済プローブとした。
【0091】
これらのプローブを用いた測定を図10に示す装置を用いて行った。図10の装置は、半導体レーザー光をプローブに導入し、かつ、同時にプローブから出射される光を観測する光学系と、プローブ表面に液体を供給する送液系から成る。1ng/mLのPSA検体(リン酸緩衝液溶液)に対して、下記の操作を行った。ここで、洗浄液と称するものは0.1質量%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含むリン酸緩衝液を用いている。標識抗体は、捕捉抗体と同じ抗体にCy5 bisfunctional reactive dye(アマシャムバイオサイエンス社製)を作用させて作製し、1質量%のウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝液で希釈し2μg/mL溶液とした。
(1)検体を注入し、5分後に排出する。
(2)洗浄液を注入し、液浸状態で信号光を測光する(信号A)。
(3)洗浄液を排出し、標識抗体溶液を注入し、5分後に排出する。
(4)洗浄液を注入し、液浸状態で信号光を測光する(信号B)。
(5)信号Bから信号Aを差し引き、正味の測定値を得る。
【0092】
架橋処理なしのプローブで29.8ピコアンペア、架橋処理済のプローブで173ピコアンペアの測定値(平均)がそれぞれ得られ、抗体吸着層の架橋処理による感度の増大が確認された。
【0093】
また、信号検出後のプローブに対し、上記洗浄液の代わりに0.5質量%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含むリン酸緩衝液を10mL/minの流速で5分間送液し続け、剥離がより起り易い条件下の信号強度の減衰をモニターした。架橋処理なしのプローブでは、82%の信号減衰が見られたが、架橋処理プローブでの信号減衰は50%であり、剥離が抑制されていることが確認された。
【0094】
架橋剤をスベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)に代えた場合も、反応時間を1時間にすることで同様な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の測定プローブにおける好適な形状の例を示す概略図である。(1)ファイバ状。(2)剣山状。(3)メッシュ状。(4)非直線状。(5)欠けた環状(C形状)。
【図2】測定手順のフローチャート図である。
【図3】実測定、バックグラウンド測定、ブランク測定の操作フローチャート図である。
【図4】測定プローブの側面図である。
【図5】測定プローブの正面図である。
【図6】測定方法の説明図である。
【図7】測定方法の説明図である。
【図8】測定方法の検出部の構成図である。
【図9】実施例における測定プローブの形状を示す概略図である。
【図10】実施例における測定装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0096】
1 光源
2 ビームスプリッタ
3 光導波路
4 検出器
5 凸レンズ
10 測定プローブ
11 フランジ
12 凸レンズ
13 光吸収部位
21 待機部
22 検体作用部40
23 標識抗体容器
24 検体容器
25 測定容器
26 ロボットアーム
27 検出部
32 光ファイバ
33 色素フィルター
34 レンズ
35 ダイクロイックフィルター
36 レンズ
37 フォトダイオード
50 パーソナルコンピュータ
38 ファイバ状部位
39 フランジ
40 凸レンズ状部位
41 フローセル
41a 注入口
41b 排出口
42 レンズ
43 ハーフミラー
44 半導体レーザー
45 光学フィルター
46 フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に接触させて該検体中の標的物質の有無、或いは濃度を検出するための測定プローブであって、
柱状構造の光導波路を有する支持体と、
該光導波路の表面に無終端環状に形成された、タンパク質を含む層と、を有し、
該タンパク質を含む層を構成するタンパク質同士が架橋剤を介して架橋されていることを特徴とする測定プローブ。
【請求項2】
前記タンパク質を含む層を構成するタンパク質の少なくとも一部として、前記標的物質の検出用成分である抗体、抗原タンパク質、酵素またはレセプターを含む請求項1に記載の測定プローブ。
【請求項3】
前記タンパク質を含む層を下地にして該層に前記標的物質の検出用成分が保持されている請求項1に記載の測定プローブ。
【請求項4】
前記検出用成分として、抗体、抗原、酵素、レセプターから選択される少なくとも1種類を含む請求項3に記載の測定プローブ。
【請求項5】
前記標的物質の有無、或いは濃度の検出が、前記検出用成分と前記標的物質との結合に基づく信号の検出によりなされる、請求項2乃至4のいずれかに記載の測定プローブ。
【請求項6】
前記信号が、前記標的物質に保持される発色団に由来する発色である、請求項5に記載の測定プローブ。
【請求項7】
前記発色団が蛍光発色団であり、該蛍光発色団が、前記光導波路内に導入し、該光導波路表面に導出された励起光により励起される、請求項6に記載の測定プローブ。
【請求項8】
前記タンパク質を含む層を構成するタンパク質が、該タンパク質に対して1〜5倍のモル濃度の架橋剤溶液での処理により架橋されている請求項1乃至7のいずれかに記載の測定プローブ。
【請求項9】
前記架橋剤は二価性架橋剤であり、その架橋用官能基が、アルデヒド、カルボン酸またはカルボン酸エステルからなる請求項1乃至8のいずれかに記載の測定プローブ。
【請求項10】
前記架橋剤が、グルタルアルデヒドである請求項9に記載の測定プローブ。
【請求項11】
前記支持体の形状がファイバ状、剣山状またはメッシュ状である請求項1乃至10のいずれかに記載の測定プローブ。
【請求項12】
検体に接触させて該検体中の標的物質を検出するための測定プローブを製造する方法であって、
支持体上に、架橋剤を介して相互に架橋されたタンパク質を含む層を、該支持体の一軸を囲んで一周した部分を有するように形成する工程を有し、
前記タンパク質を含む層を構成するタンパク質同士の架橋が、該タンパク質に対して1〜5倍のモル濃度の架橋剤溶液での処理により行なわれることを特徴とする測定プローブの製造方法。
【請求項13】
前記タンパク質を含む層を構成するタンパク質の少なくとも一部として、前記標的物質の検出用成分である、抗体、抗原タンパク質、酵素およびレセプターからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記タンパク質を含む層を下地として、該層に前記標的物質の検出用成分を保持させる工程を更に有する請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
前記検出用成分として、抗体、抗原、酵素、レセプターから選択される少なくとも1種類を含む請求項14に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−14936(P2008−14936A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146830(P2007−146830)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】