説明

測定対象タイヤ、測定対象タイヤの前処理方法およびタイヤ耐久試験方法

【課題】実際の市場におけるタイヤの故障を再現することができる測定対象タイヤ、測定対象タイヤの前処理方法およびタイヤ耐久試験方法を提供すること。
【解決手段】タイヤ試験機を用いた試験により評価される測定対象タイヤの前処理方法において、内壁面14の一部を酸素透過性の低いシート2,2で覆い、内壁面14の一部が酸素透過性の低いシート2,2で覆われた測定対象タイヤ1内に酸素分圧が30%以上の気体を充填し、内壁面14の一部が酸素透過性の低いシート2,2で覆われ、酸素分圧が30%以上の気体が充填された状態で、加熱装置10により加熱する。これにより、促進測定対象タイヤの特定部分であるシート2,2で覆われていない部分のみを劣化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象タイヤ、測定対象タイヤの前処理方法およびタイヤ耐久試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ耐久試験方法には、室内に設置されたタイヤ試験機により行う方法がある。タイヤ試験機は、測定対象タイヤが装着され、仮装路面であるドラムに接触させることで、測定対象タイヤに荷重を付加し、荷重を付加された測定対象タイヤを回転させ、回転する測定対象タイヤに故障(例えば、バーストなど)が発生した際に、測定対象タイヤの回転を停止するものである。ここで、従来のタイヤ耐久試験方法では、例えば特許文献1に示すように、測定対象タイヤを劣化させ、実際の市場におけるタイヤの経年劣化を再現する前処理が行われていた。従来の測定対象タイヤの前処理方法は、測定対象タイヤ内に酸素分圧が高い気体を充填して、所定期間加熱することで、測定対象タイヤのゴム物性を低下させるものであった。
【0003】
【特許文献1】特開2003−161674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の測定対象タイヤの前処理方法では、測定対象タイヤ全体を経年劣化させることとなる。従って、タイヤ耐久試験方法により測定対象タイヤの故障が発生する部分は、経年劣化により最も故障しやすくなった部分となる。つまり、従来のタイヤ耐久試験方法では、特定部分、例えばトレッド部のみに故障を発生させることが困難であった。従って、従来のタイヤ耐久試験方法では、実際の市場においてタイヤが経年劣化することにより特定部分のみに故障が発生する場合に、それを再現することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、測定対象タイヤの特定部分のみを劣化させることで、実際の市場におけるタイヤの故障を再現することができる測定対象タイヤ、測定対象タイヤの前処理方法およびタイヤ耐久試験方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明では、タイヤ試験機を用いた試験により評価される測定対象タイヤにおいて、内壁面の一部を酸素透過性の低いシートで覆った状態で、加熱されたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明では、タイヤ試験機を用いた試験により評価される測定対象タイヤの前処理方法において、内壁面の一部を酸素透過性の低いシートで覆う手順と、内壁面の一部が酸素透過性の低いシートで覆われた測定対象タイヤを加熱する手順と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明では、上記測定対象タイヤの前処理方法において、測定対象タイヤを加熱する手順は、一部を加熱する部分加熱装置、あるいは全体を加熱する全体加熱装置のいずれかにより行われることを特徴とする。
【0009】
上記測定対象タイヤをタイヤ試験機に装着する手順と、試験条件に基づいてタイヤ試験機により測定対象タイヤを回転させる手順と、測定対象タイヤに故障が発生した際に、測定対象タイヤの回転を停止する手順と、を含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、測定対象タイヤを構成するゴムは、酸素を吸収した状態で、熱を加えられると熱酸化劣化が進行する。本発明によれば、測定対象タイヤのうち、酸素透過性の低いシートで覆われた部分のゴムは、シートで覆われていない部分のゴムよりも、酸素が吸収され難い状態となる。従って、測定対象タイヤが加熱されることで、測定対象タイヤを構成するゴムに熱が加えられても、酸素透過性の低いシートで覆われた部分のゴムは、シートで覆われていない部分のゴムよりも、熱酸化劣化が進行しない。つまり、酸素透過性の低いシートで覆われた部分は、シートで覆われていない部分よりも、劣化が進行しない。これにより、特定部分、すなわち酸素透過性の低いシートで覆われていない部分のみを劣化させることができ、実際の市場におけるタイヤの故障を再現することができる。
【0011】
また、本発明では、上記測定対象タイヤにおいて、少なくとも、測定対象タイヤ内に酸素分圧が30%以上の気体が充填された状態で、加熱されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、上記測定対象タイヤの前処理方法において、内壁面の一部が酸素透過性の低いシートで覆われた測定対象タイヤ内に酸素分圧が30%以上の気体を充填する手順をさらに含むことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、内壁面の一部が酸素透過性の低いシートで覆われた測定対象タイヤ内は、酸素分圧が30%以上の気体が充填された状態で、加熱されるので、加熱時にシートで覆われていない部分のゴムに吸収される酸素を多くすることができる。従って、シートで覆われていない部分のゴムは、短期間で、熱酸化劣化が進行する。これにより、短期間で、実際の市場において長期間走行した状態を再現することができる。
【0014】
また、本発明では、上記タイヤ試験方法において、試験条件は、測定対象タイヤに付与する荷重あるいは測定対象タイヤが回転する際の回転速度を含み、測定対象タイヤの回転中は、荷重あるいは回転速度の少なくともいずれか一方を段階的に増加させることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、測定対象タイヤの回転中は、荷重あるいは回転速度の少なくともいずれか一方を段階的に増加させるので、試験結果のばらつきを抑制することができる。従って、測定対象タイヤのタイヤ耐久試験による評価を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明を実施するための最良の形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの或いは実質的に同一のものが含まれる。また、下記の実施の形態では、タイヤ耐久試験において、トレッド部のみを劣化させて、トレッド部の故障、例えばベルトのセパレーションを発生させる場合について説明する。
【0017】
[実施の形態]
図1は、測定対象タイヤの前処理方法のフローを示す図である。図2は、前処理時における測定対象タイヤの概略構成例を示す図である。図3は、タイヤ耐久試験方法のフローを示す図である。図4は、タイヤ試験機の構成例を示す図である。なお、図2は、測定対象タイヤをタイヤ中心軸X−X(同図一点鎖線)における断面形状として示している。ここで、測定対象タイヤ1は、図2に示すように、トレッド部11と、サイドウォール部12,12と、タイヤビード部13,13とにより構成されている。測定対象タイヤ1は、各部に存在するカーカス、トレッド部11のカーカスに積層されるベルト、タイヤビード部13,13のカーカスが巻き掛けられるカーカスなどの部材と、これらの部材を覆うゴムとにより構成されている。
【0018】
まず、測定対象タイヤの前処理方法について説明する。測定対象タイヤの前処理方法は、図2に示すように、測定対象タイヤ1の内壁面14の一部をシート2,2で覆い、シート2,2で覆われた測定対象タイヤ1内に高酸素分圧の気体を充填した状態で加熱装置10により加熱することで行われる。まず、図1に示すように、測定対象タイヤ1の内壁面14の一部をシートで覆う(ステップST11)。ここでは、図2に示すように、測定対象タイヤ1の内壁面14の一部、実施の形態では測定対象タイヤ1の前処理方法において劣化させたくない部分であるサイドウォール部12,12およびタイヤビード部13,13における内壁面14をシート2,2で覆う。つまり、測定対象タイヤ1の前処理方法において劣化させたい部分であるトレッド部11における内壁面14をシート2,2で覆わない。ここで、シート2,2は、酸素透過性の低い材料により構成されている。なお、シート2,2は、上述のように、測定対象タイヤ1とともに加熱装置10により加熱されるので、加熱時の温度に耐えられる耐熱性を有する材料により構成されていることが好ましい。シート2,2の材料としては、例えば酸素透過性が低く、耐熱性を有するポリエステルなどがあげられる。また、シート2,2により測定対象タイヤ1の内壁面14の一部を覆う方法としては、固定手段により固定しても良いし、接着剤などにより接着しても良い。
【0019】
次に、図1に示すように、内壁面14の一部がシート2,2で覆われた測定対象タイヤ1内に高酸素分圧の気体を充填する(ステップST12)。ここでは、まず、図2に示すように、測定対象タイヤ1をリムRにリム組みする。次に、リム組みされた測定対象タイヤ1に酸素分圧の高い気体を充填する。これにより、内壁面14の一部がシート2,2で覆われた測定対象タイヤ1内に高酸素分圧の気体が充填される。ここで、測定対象タイヤ1内に充填される気体は、酸素分圧が30%以上である。従って、酸素分圧が30%以上の気体が充填された状態で、加熱装置10により加熱されることとなるので、加熱時にシート2,2で覆われていない部分、すなわちトレッド部11のゴムに吸収される酸素を多くすることができる。これにより、トレッド部11のゴムは、短期間で、熱酸化劣化が進行するので、短期間で実際の市場において長期間走行した状態を再現することができる。なお、測定対象タイヤ1内に充填される気体は、酸素分圧が60%以上であることがより好ましい。
【0020】
次に、図1に示すように、内壁面14の一部がシート2,2で覆われ、内部に高酸素分圧の気体が充填された測定対象タイヤ1を加熱装置10により加熱する(ステップST13)。加熱装置10(同図二点鎖線)は、測定対象タイヤ1全体を加熱することができる。例えばレンジなどの全体加熱装置である。ここでは、図2に示すように、加熱装置10に測定対象タイヤ1を入れて、所定温度で、所定期間保管することで、測定対象タイヤ1全体を加熱する。これにより、測定対象タイヤ1を構成するゴムに熱が加えられても、シート2,2で覆われた部分であるサイドウォール部12,12およびタイヤビード部13,13のゴムは、シート2,2で覆われていない部分であるトレッド部11のゴムよりも、熱酸化劣化が進行しない。つまり、サイドウォール部12,12およびタイヤビード部13,13は、トレッド部11よりも、劣化が進行しない。これにより、特定部分、実施の形態では、シート2,2で覆われていない部分であるトレッド部11のみを劣化させることができる。なお、所定温度および所定期間は、加熱時にシート2,2で覆われていない部分、すなわちトレッド部11のゴムの熱酸化劣化を促進することができる温度および時間である。所定温度は、例えばトレッド部11の表面温度が40度〜100度となる温度である。また、所定期間は、例えば数日から数十日である。
【0021】
以上により、前処理方法が行われた測定対象タイヤ1は、実施の形態では、トレッド部11のみが、サイドウォール部12,12およびタイヤビード部13,13よりも熱酸化劣化が進行し、特定部分であるトレッド部11のみの劣化を進行することができる。つまり、実施の形態にかかる測定対象タイヤの前処理方法では、特定部分のみを劣化させ測定対象タイヤ1を生成することができる。従って、実施の形態にかかる測定対象タイヤ1は、特定部分のみが劣化したタイヤとなる。
【0022】
次に、上記前処理方法が行われた測定対象タイヤ1のタイヤ耐久試験方法について説明する。まず、タイヤ試験機3について説明する。
【0023】
タイヤ試験機3は、図4に示すように、リム組みされた測定対象タイヤ1を仮想路面に対して接触状態で回転させるものである。タイヤ試験機3は、実施の形態ではドラム式試験機であり、タイヤ軸31と、タイヤ支持移動装置32と、ドラム33と、ドラム回転軸34と、ドラム回転力付与装置35と、制御装置36とにより構成されている。
【0024】
タイヤ軸31は、測定対象タイヤ1を回転自在に支持するものである。タイヤ軸31は、軸方向における一方の端部(同図左側端部)がリムRと固定可能であり、他方の端部(同図右側端部)がタイヤ支持移動装置32の図示しないタイヤ回転力付与装置に連結あるいは一体に形成されている。ここで、測定対象タイヤ1をタイヤ軸31に装着する際には、リムRにリム組みされた測定対象タイヤ1をタイヤ軸31に固定することで行われる。
【0025】
タイヤ支持移動装置32は、測定対象タイヤ1をタイヤ軸31周りに回転自在に支持するものである。また、タイヤ支持移動装置32は、タイヤ軸31に固定された測定対象タイヤ1を上下方向、すなわち荷重方向(同図矢印A方向)およびヨー方向、すなわちタイヤスリップ方向(同図矢印B方向)に移動自在に支持するものである。また、タイヤ支持移動装置32は、測定対象タイヤ1にタイヤ軸31周り、すなわちタイヤ回転方向(同図矢印C方向)のタイヤ回転力を付与するタイヤ回転力付与装置(例えば、モータジェネレータ)、測定対象タイヤ1を荷重方向(上下方向)に移動させる荷重方向移動装置、測定対象タイヤ1をタイヤスリップ方向(ヨー方向)に移動させるタイヤスリップ方向移動装置を備える。これらの装置は、制御装置36と接続されており、制御装置36から出力されたタイヤ回転力制御信号、荷重制御信号、タイヤスリップ制御信号により、測定対象タイヤ1に付与するタイヤ回転力、測定対象タイヤ1に付与する荷重、測定対象タイヤ1のスリップアングルを調整するものである。
【0026】
ドラム33は、仮装路面であり、測定対象タイヤ1が接触するものである。ドラム33は、接触した測定対象タイヤ1にタイヤ回転方向にタイヤ回転力を付与するものである。
【0027】
ドラム回転軸34は、ドラム33を回転自在に支持するものである。ドラム回転軸34は、軸方向における一方の端部(同図左側端部)がドラム33に固定されており、他方の端部(同図右側端部)がドラム回転力付与装置35に連結あるいは一体に形成されている。
【0028】
ドラム回転力付与装置35は、例えば、モータジェネレータであり、ドラム33にドラム回転軸4周り、すなわちドラム回転方向(同図矢印D方向)のドラム回転力を付与する。ドラム回転力付与装置35は、制御装置36と接続されており、制御装置36から出力されたドラム回転力制御信号により、ドラム33に付与するドラム回転力を調整するものである。
【0029】
ここで、実施の形態では、タイヤ支持移動装置32およびドラム回転力付与装置35は、測定対象タイヤ1にタイヤ回転力、あるいは測定対象タイヤ1に接触するドラム33にドラム回転力の少なくともいずれかを付与することで、測定対象タイヤ1をタイヤ軸31周りに回転させる。また、タイヤ支持移動装置32およびドラム回転力付与装置35は、タイヤ回転力とドラム回転力とを調整することで、回転する測定対象タイヤ1にドラム33に対する制動力あるいは駆動力を発生させる。
【0030】
制御装置36は、タイヤ試験機3を制御することで、実施の形態にかかるタイヤ耐久試験方法を実行するものである。制御装置36は、少なくとも入出力ポート(I/O)36aと、処理部36bと、記憶部36cとにより構成されている。入出力ポート(I/O)36a、処理部36b、記憶部36cは、例えば相互に接続されており、相互にデータのやりとりを行うことができる。なお、制御装置36には、後述する入出力装置4が接続されている。
【0031】
処理部36bは、RAM、ROM等のメモリとCPU(Central Processing Unit)とにより構成されている。処理部36bは、少なくとも荷重制御部36dと、回転速度制御36eとにより構成されている。
【0032】
荷重制御部36dは、荷重制御手段であり、試験条件の1つとして入出力装置4の後述する入力装置41から入力された設定荷重に基づいて、測定対象タイヤ1に付加される荷重を制御するものである。荷重制御部36dは、タイヤ支持移動装置32の図示しない荷重方向移動装置に荷重制御信号を出力する。荷重方向移動装置は、荷重制御信号に基づいてタイヤ軸31に装着された測定対象タイヤ1をドラム33と接触させることで、測定対象タイヤ1に設定荷重を付加する。ここで、タイヤ試験機3は測定対象タイヤ1に付加された荷重を検出する図示しない荷重センサを備え、制御装置36は荷重センサにより検出された荷重が設定荷重となるようにフィードバック制御を行う。また、設定荷重は、試験経過時間ごとに測定対象タイヤ1に付加される荷重が段階的に増加するように、設定されていても良い。
【0033】
回転速度制御装置36eは、回転速度制御手段であり、試験条件の1つとして入力装置41から入力された設定回転速度に基づいて、測定対象タイヤ1の回転速度を制御するものである。回転速度制御装置36eは、タイヤ回転力制御信号あるいはドラム回転力制御信号の少なくとも一方をタイヤ支持移動装置32の図示しないタイヤ回転力付与装置あるいはドラム回転力付与装置35に出力するものである。タイヤ回転力付与装置あるいはドラム回転力付与装置35は、タイヤ回転力制御信号あるいはドラム回転力制御信号に基づいてタイヤ軸31に装着された測定対象タイヤ1にタイヤ回転力あるいはドラム33にドラム回転力の少なくとも一方を付与する。これにより、測定対象タイヤ1およびドラム33が回転し、測定対象タイヤ1を設定回転速度で回転する。ここで、タイヤ試験機3は測定対象タイヤ1の回転速度を検出する図示しない速度センサを備え、制御装置36は速度センサにより検出された回転速度が設定回転速度となるようにフィードバック制御を行う。また、設定回転速度は、試験経過時間ごとに測定対象タイヤ1の回転速度が段階的に増加するように、設定されていても良い。
【0034】
タイヤ試験機3の制御装置36は、処理部36bがタイヤ耐久試験プログラムを処理部36bの図示しないメモリに読み込んで演算を行うことで、測定対象タイヤ1のタイヤ耐久試験を行うものである。なお、処理部36bは、適宜演算途中の数値を記憶部36cに記憶し、記憶した数値を適宜記憶部36cから取り出して演算を行う。また、処理部36bは、上記タイヤ耐久試験プログラムの替わりに専用のハードウェアにより実現されるものであっても良い。
【0035】
記憶部36cには、実施の形態にかかるタイヤ耐久試験方法を実現するタイヤ耐久試験方法が組み込まれたタイヤ耐久試験プログラムが記憶されている。ここで、記憶部36cは、RAM(Random Access Memory)のようなメモリ等のストレージ手段により構成することができる。また、記憶部36cは、処理部36b内に設けられていても良い。記憶部36cには、例えば試験開始から試験終了までの試験経過時間などが適宜記憶される。
【0036】
また、上記タイヤ耐久試験プログラムは、必ずしも単一的に構成されるものに限られず、コンピュータシステムにすでに記憶されているプログラム、例えばOS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものであっても良い。また、タイヤ耐久試験プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶して、記録媒体に記録されたタイヤ耐久試験方法をコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより本発明にかかるタイヤ耐久試験方法を実行しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0037】
入出力装置4は、入力装置41と出力装置42とを備えている。入力装置41は、例えば測定対象タイヤ1のサイズ、リムRのサイズ、空気圧、スリップアングル、回転速度、荷重など試験条件に基づくデータやその他のデータを制御装置36に入力するものである。なお、制御装置36は、上記入力装置4により入力された試験条件に基づくデータやその他のデータに基づいて、タイヤ回転力制御信号、荷重制御信号、タイヤスリップ制御信号、ドラム回転力制御信号などを出力し、測定対象タイヤ1のタイヤ回転方向、回転速度、タイヤ回転力、荷重、スリップアングル、ドラム33のドラム回転方向、ドラム回転力を制御する。なお、入力装置41としては、キーボード、マウス、マイク等の入力デバイスが使用することができる。
【0038】
また、出力装置42は、タイヤ試験機3の運転状態や、試験経過時間などデータを表示するものである。出力装置42には、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶表示装置等を使用することができる。また、これらのデータは、図示しないプリンタに出力することができても良い。ここで、入出力装置4は、図示しない端末装置に備えられ、携帯端末を介して制御装置36に有線、無線のいずれかの方法でアクセスすることができる構成であっても良い。
【0039】
測定対象タイヤ1のタイヤ耐久試験方法は、図4に示すように、タイヤ試験機3に測定対象タイヤ1を装着し、試験条件に基づいて測定対象タイヤ1を回転させ、測定対象タイヤ1に故障が発生することで終了する。まず、図3に示すように、測定対象タイヤ1をタイヤ試験機3に装着する(ステップST21)。ここでは、図2に示すように、リムRにリム組みされた測定対象タイヤ1をタイヤ軸31に装着する。なお、タイヤ試験機3に装着された測定対象タイヤ1は、充填されていた酸素分圧の高い気体が一旦抜かれ、酸素分圧の低い気体、例えば空気などを試験条件である空気圧となるまで充填されている。
【0040】
次に、測定者は、図3に示すように、入出力装置4を用いて、制御装置36に試験条件、例えば測定対象タイヤ1の設定サイズ、リムRの設定サイズ、設定空気圧、設定スリップアングル、設定回転速度、設定荷重などを入力する(ステップST22)。
【0041】
次に、制御装置36は、試験条件に基づいてタイヤ試験機3により測定対象タイヤ1を回転させる(ステップST23)。ここでは、制御装置36は、設定条件、特に設定荷重、設定速度に基づいてタイヤ試験機3により測定対象タイヤ1を回転させる。具体的には、制御装置36の処理部36bの荷重制御部36dは、タイヤ支持移動装置32の図示しない荷重方向移動装置により、タイヤ軸31に装着された測定対象タイヤ1をドラム33と接触させて、測定対象タイヤ1に設定荷重を付加させる。また、制御装置36の処理部36bの回転速度制御部36eは、タイヤ支持移動装置32の図示しないタイヤ回転力付与装置あるいはドラム回転力付与装置35により、タイヤ軸31に装着された測定対象タイヤ1にタイヤ回転力あるいはドラム33にドラム回転力を付与して、測定対象タイヤ1を設定回転速度に回転させる。これにより、実施の形態にかかる測定対象タイヤ1を用いたタイヤ耐久試験を開始する。
【0042】
次に、回転している測定対象タイヤ1に故障が発生したか否かを判断する(ステップST24)。ここでは、例えばタイヤ試験機3に備えられた測定対象タイヤ1の故障を検出する図示しない故障センサや、測定対象タイヤ1のタイヤ回転力の変化などにより、回転している測定対象タイヤ1に故障が発生したか否かを判断する。上述のように、実施の形態にかかる測定対象タイヤ1の前処理方法により、トレッド部11の劣化が進行した測定対象タイヤ1では、トレッド部11のゴム物性が熱酸化劣化により低下している。従って、測定対象タイヤ1は、荷重が負荷されている状態で連続して回転されていると、トレッド部11を構成する部材、例えばベルトのセパレーション、すなわちベルトとベルトを被覆するゴムと間で剥離などが起こり、特定部分であるトレッド部11に故障が発生する。
【0043】
次に、回転している測定対象タイヤ1に故障が発生したと判断されると(ステップST24肯定)、制御装置36は、タイヤ試験機3による測定対象タイヤ1の回転を停止する(ステップST25)。具体的には、例えば、荷重制御部36dは、タイヤ支持移動装置32の図示しない荷重方向移動装置により、タイヤ軸31に装着された測定対象タイヤ1とドラム33とを非接触とし、測定対象タイヤ1に付加する荷重を0とする。そして、回転速度制御部36eは、タイヤ支持移動装置32の図示しないタイヤ回転力付与装置により測定対象タイヤ1が回転しているタイヤ回転方向と反対方向にタイヤ回転力を発生し、測定対象タイヤ1の回転を停止させる。また、回転速度制御部36eは、ドラム回転力付与装置35によりドラム33が回転している回転方向と反対方向にドラム回転力を発生し、ドラム33を停止させる。これにより、実施の形態にかかる測定対象タイヤ1を用いたタイヤ耐久試験を終了する。
【0044】
なお、回転している測定対象タイヤ1に故障が発生していないと判断されると(ステップST24否定)、制御装置36は、試験条件に基づいてタイヤ試験機3による測定対象タイヤ1の回転を維持する。ここで、設定荷重が所定の試験経過時間ごとに段階的に増加するように設定されている場合、タイヤ耐久試験が行われている回転中の測定対象タイヤ1に付加される荷重は、タイヤ耐久試験の開始から試験経過時間が所定の試験経過時間となるごとに、荷重制御部36dによりタイヤ支持移動装置32の図示しない荷重方向移動装置が制御され、段階的に増加する。また、設定回転速度が所定の試験経過時間ごとに段階的に増加するように設定されている場合、タイヤ耐久試験が行われている回転中の測定対象タイヤ1の回転速度は、タイヤ耐久試験の開始から試験経過時間が所定の試験経過時間となるごとに、回転速度制御部36eによりタイヤ支持移動装置32の図示しないタイヤ回転力付与装置が制御され、段階的に増加する。従って、測定対象タイヤ1の回転中は、荷重あるいは回転速度の少なくともいずれか一方を段階的に増加させるので、試験結果のばらつきを抑制することができる。従って、測定対象タイヤ1のタイヤ耐久試験による評価を精度良く行うことができる。
【0045】
以上のように、実施の形態にかかる測定対象タイヤ1の前処理方法では、測定対象タイヤ1の特定部分、すなわち酸素透過性の低いシート2,2で覆われていない部分であるトレッド部11のみを劣化させることができる。従って、実施の形態にかかるトレッド部11のみが劣化した測定対象タイヤ1を用いたタイヤ耐久試験方法では、実際の市場におけるタイヤの故障を測定対象タイヤ1をタイヤ試験機3で回転させることで再現することができる。
【0046】
また、上記実施の形態では、測定対象タイヤ1の前処理方法によりトレッド部11のみを劣化させたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、測定対象タイヤ1の内壁面14のうちトレッド部11およびタイヤビード部13,13における内壁面14をシート2,2で覆い、測定対象タイヤ1の前処理方法を実行しても良い。この場合は、測定対象タイヤ1のサイドウォール部12,12のみが劣化することなる。また、測定対象タイヤ1の内壁面14のうちトレッド部11およびサイドウォール部12,12における内壁面14をシート2,2で覆い、測定対象タイヤ1の前処理方法を実行しても良い。この場合は、測定対象タイヤ1のタイヤビード部13,13のみが劣化することなる。つまり、実施の形態にかかる測定対象タイヤ1の前処理方法では、任意の部分を劣化させることができる。
【0047】
また、上記実施の形態では、測定対象タイヤ1全体を加熱する加熱装置10を用いたが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、実施の形態では、測定対象タイヤ1の内壁面14のうち、トレッド部11における内壁面14のみがシート2,2で覆われていないので、トレッド部11のみを加熱するタイヤウォーマーなどの部分加熱装置により加熱を行っても良い。この場合は、サイドウォール部12,12およびタイヤビード部13,13の熱酸化劣化の進行を確実に抑制することができる。従って、測定対象タイヤ1の前処理方法により、特定部分のみの劣化を確実に行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下に、従来のタイヤ耐久試験と、本発明にかかる前処理方法を行われた測定対象タイヤ1を用いたタイヤ耐久試験との比較を行った。従来および本発明のタイヤ耐久試験に用いられる各測定対象タイヤは、そのタイヤサイズが265/70R16 112Sであり、規定リムにリム組みしたものである。ここで、規定リムとはJATMAムで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいはETRTOで規定する「Measuring Rim」である。
【0049】
ここで、シートの有無とは、前処理時において測定対象タイヤの内壁面のうちトレッド部を除いた部分の内壁面を酸素透過性の低いシートで覆ったか否かである。前処理空気圧とは、前処理時において測定対象タイヤ内に充填される気体の圧力である。酸素分圧とは、前処理時において測定対象タイヤ内充填された気体の酸素分圧である。温度条件とは、前処理時において測定対象タイヤを加熱する温度である。乾熱期間とは、上記温度条件で保管する期間である。設定空気圧とは、タイヤ耐久試験時において測定対象タイヤ内に充填される気体の圧力である。充填気体とは、タイヤ耐久試験時において測定対象タイヤ内充填された気体の種類である。試験室温とは、タイヤ耐久試験が行われる室内の温度である。設定回転速度とは、タイヤ試験機により回転される測定対象タイヤの回転速度である。設定荷重とは、タイヤ試験機により測定対象タイヤに付加される荷重である。故障発生速度とは、測定対象タイヤに故障が発生した際の測定対象タイヤの回転速度である。故障形態とは、測定対象タイヤに発生した故障の内容である。ゴムの劣化度合いとは、実際の市場におけるタイヤのゴムの劣化と、近似しているか否かである。
【0050】
また、「従来例1」は、前処理が行われていない測定対象タイヤを用いて、設定空気圧を230kPa、充填気体を通常空気、試験室温を25℃、設定速度を初期速度120km/hとして試験開始から6時間経過ごとに10km/hずつ増加、試験荷重を規定荷重の80%でタイヤ耐久試験を行ったものである。なお、規定荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0051】
また、「従来例2」は、シートの有無を無し、前処理空気圧を300kPa、酸素分圧80%、温度条件と80℃、乾熱期間を5日間で測定対象タイヤの前処理を行い、この測定対象タイヤを用いて、設定空気圧を230kPa、充填気体を通常空気、試験室温を25℃、設定速度を初期速度120km/hとして試験開始から6時間経過ごとに10km/hずつ増加、試験荷重をJATMAに設定されている規定荷重の80%でタイヤ耐久試験を行ったものである。
【0052】
また、「本発明」は、シートの有無を有り、前処理空気圧を300kPa、酸素分圧80%、温度条件と80℃、乾熱期間を5日間で測定対象タイヤの前処理を行い、この測定対象タイヤを用いて、設定空気圧を230kPa、充填気体を通常空気、試験室温を25℃、設定速度を初期速度120km/hとして試験開始から6時間経過ごとに10km/hずつ増加、試験荷重をJATMAに設定されている規定荷重の80%でタイヤ耐久試験を行ったものである。
【0053】
【表1】

【0054】
「従来例1」では、タイヤ耐久試験の試験結果として、故障発生速度が200km/h、故障形態がトレッド部のベルトのセパレーション、ゴムの劣化度合いが市場よりも低いものとなった。また、「従来例2」では、タイヤ耐久試験の試験結果として、故障発生速度が180km/h、故障形態がトレッド部のベルトのセパレーションおよびタイヤビード部のカーカスのセパレーション、ゴムの劣化度合いが市場と同等のものとなった。さらに、「本発明」では、タイヤ耐久試験の試験結果として、故障発生速度が180km/h、故障形態がトレッド部のベルトのセパレーション、ゴムの劣化度合いが市場と同等のものとなった。
【0055】
表1から明らかなように、前処理を行っていない「従来例1」では、実際の市場におけるタイヤのゴムの劣化を再現することができていない。従って、「従来例1」によるタイヤ耐久試験では、実際の市場におけるタイヤの故障を測定対象タイヤをタイヤ試験機で回転させることで再現することができていない。
【0056】
また、測定対象タイヤの内壁面の一部をシートで覆っていない状態で前処理を行った「従来例2」では、実際の市場におけるタイヤのゴムの劣化を再現することができているが、実際の市場におけるタイヤにおいて発生する故障であるトレッド部のベルトのセパレーションのみならず、タイヤビード部のカーカスのセパレーションも発生してしまっている。従って、「従来例2」によるタイヤ耐久試験では、実際の市場におけるタイヤの故障を測定対象タイヤをタイヤ試験機で回転させることで再現することができていない。
【0057】
また、測定対象タイヤの内壁面の一部をシートで覆っている状態で前処理を行った「本発明」では、実際の市場におけるタイヤのゴムの劣化を再現することができており、実際の市場におけるタイヤにおいて発生する故障であるトレッド部のベルトのセパレーションのみが発生している。従って、「本発明」によるタイヤ耐久試験では、実際の市場におけるタイヤの故障を測定対象タイヤをタイヤ試験機で回転させることで再現することができている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかる測定対象タイヤ、測定対象タイヤの前処理方法およびタイヤ耐久試験方法は、ゴムの劣化により測定対象タイヤに故障を発生させるのに有用であり、特に、実際の市場におけるタイヤの故障を再現するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】測定対象タイヤの前処理方法のフローを示す図である。
【図2】前処理時における測定対象タイヤの概略構成例を示す図である。
【図3】タイヤ耐久試験方法のフローを示す図である。
【図4】タイヤ試験機の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 測定対象タイヤ
11 トレッド部
12 サイドウォール部
13 タイヤビード部
14 内壁面
2 シート
3 タイヤ試験機
31 タイヤ軸
32 タイヤ支持移動装置
33 ドラム
34 ドラム回転軸
35 ドラム回転力付与装置
36 制御装置
36a 入出力ポート
36b 処理部
36c 記憶部
36d 荷重制御部
36e 回転速度制御部
4 入出力装置
41 入力装置
42 出力装置
10 加熱装置(全部加熱装置)
R リム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ試験機を用いた試験により評価される測定対象タイヤにおいて、
内壁面の一部を酸素透過性の低いシートで覆った状態で、加熱されたことを特徴とする測定対象タイヤ。
【請求項2】
少なくとも、前記測定対象タイヤ内に酸素分圧が30%以上の気体が充填された状態で、加熱されたことを特徴とする請求項1に記載の測定対象タイヤ。
【請求項3】
タイヤ試験機を用いた試験により評価される測定対象タイヤの前処理方法において、
内壁面の一部を酸素透過性の低いシートで覆う手順と、
前記内壁面の一部が酸素透過性の低いシートで覆われた前記測定対象タイヤを加熱する手順と、
を含むことを特徴とする測定対象タイヤの前処理方法。
【請求項4】
前記内壁面の一部が酸素透過性の低いシートで覆われた測定対象タイヤ内に酸素分圧が30%以上の気体を充填する手順をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の測定対象タイヤの前処理方法。
【請求項5】
前記測定対象タイヤを加熱する手順は、一部を加熱する部分加熱装置、あるいは全体を加熱する全体加熱装置のいずれかにより行われることを特徴とする請求項3または4に記載の測定対象タイヤの前処理方法。
【請求項6】
前記請求項1または2に記載された測定対象タイヤをタイヤ試験機に装着する手順と、
試験条件に基づいて前記タイヤ試験機により測定対象タイヤを回転させる手順と、
前記測定対象タイヤに故障が発生した際に、当該測定対象タイヤの回転を停止する手順と、
を含むことを特徴とするタイヤ耐久試験方法。
【請求項7】
前記試験条件は、前記測定対象タイヤに付与する荷重あるいは当該測定対象タイヤが回転する際の回転速度を含み、
前記測定対象タイヤの回転中は、前記荷重あるいは前記回転速度の少なくともいずれか一方を段階的に増加させることを特徴とする請求項6に記載のタイヤ耐久試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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