説明

測定対象血管の機械的性質の計測方法、測定対象血管の機械的性質の計測装置、測定対象血管の機械的性質の計測プログラム及び記憶媒体

【課題】
測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管から取得される振動のデータに基づいて、前記血管の振動に関する物理量を取得することにより、前記血管の動脈硬化の検査を行うことができる測定対象血管の機械的性質の計測方法及び計測装置を提供する。
【解決手段】
計測装置10では、マイク11L,11R、振動センサ12L,12Rが左右の浅側頭動脈70L,70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの血流による振動を同時に計測する。計測装置10の計算処理装置14は、計測して得られた振動のデータを周波数解析して、振動に関する固有振動数、振幅、位相を左右の血管毎に抽出する。計測装置10は、左右の浅側頭動脈70L,70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動の固有振動数、振幅、位相を同時に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象血管の機械的性質の計測方法、測定対象血管の機械的性質の計測装置、測定対象血管の機械的性質の計測プログラム及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣の多様化、世界的高年齢化の進行や食生活の多様化により近年では若年層も含め動脈硬化が進行し、該症状に関連した心筋梗塞、脳梗塞、脳出血など血管系疾患による長期治療患者が増加している。特に、動脈硬化は、自覚症状がほとんどないまま進行するため、動脈硬化を予防するためには定期的な診察が必要である。
【0003】
現在の頭部血管機能検査は、X線CT、NMR等の画像化法により形状異常、血管の閉塞状況等を画像化して検出することが主流であり、相当に症状が進行した状態での検査である。これらの計測装置は、光学な装置であり、しかも大型であるため、設置されている施設が限られている。
【0004】
また、これらの検査に加えて、超音波エコーを使用して、血管に関して、血管画像、血圧、脈波を計測する計測装置の技術が公知である(特許文献1〜3参照)。
下記の特許文献1乃至6は、本出願人が調査した出願時の技術水準を示すものである。特許文献1には、医用超音波診断装置で、頸動脈を画像化して、頸動脈径の心拍変動を測定することにより、動脈硬化の指標を得ることが提案されている。特許文献2では、医用超音波診断装置で得られる2次元画像情報により、頸動脈等の動脈を3次元画像にする技術が提案されている。特許文献3では、頸動脈のエコー動画像に基づいて頸動脈の弾性率を計測し、該弾性率と破裂圧力との関係に基づいて頸動脈強度解析を行う生体頸動脈強度解析システムが提案されている。特許文献4では、耳に装着した検出器で血管に流れる脈波を検出して、該脈波に基づき、頸動脈を含めた首からの上の血管における動脈硬化を評価するための指数を測定する装置が提案されている。特許文献5,6では、浅側頭動脈又はその周辺部の血圧測定のためのカフと、血管に流れる血液の脈波を検出するための脈波検出手段を備え、前記カフと脈波検出手段を、耳に取付けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3882084号
【特許文献2】特開2005−270351号公報
【特許文献3】特開2008−73087号公報
【特許文献4】特開2006−102251号公報
【特許文献5】特開2007−61185号公報
【特許文献6】特開2007−259957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、特許文献1乃至特許文献3は、医用超音波診断装置を使用するものであり、この装置は、特別な装置であって、設置されている施設が限られている。
特許文献4は、外耳及びその周辺部を測定部位として脈波を検出し、該脈波に基づき評価指数を算出し、該評価指数を提示するようにしている。又、特許文献5,6は、浅側頭動脈の血圧を測定するものである。特許文献4乃至特許文献6は、耳又はその周辺部に脈波、又は血圧を検出するようにしているが、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管の機械的性質をどのように測定するかについては開示されていない。
【0007】
人の頭部血管の機械的性質は、年齢の進行とともに低下しており、定期的に計測する技術の確立が望まれている。特に人の頭部血管は、一般的に左右対称に位置しており、その左右対称に位置した血管の機械的性質は、少年期、青年期、老年期の経過とともに変化する。この左右対称に位置した血管の機械的性質が同時に測定されれば、頭部血管の動脈硬化の予防に役立つことが期待される。
【0008】
本発明の目的は、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管から取得される振動のデータに基づいて、前記血管の振動に関する物理量を取得することにより、前記血管の動脈硬化の検査を行うことができる測定対象血管の機械的性質の計測方法及び計測装置を提供することにある。
【0009】
又、本発明の他の目的は、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管から取得される振動のデータに基づいて、前記血管の振動に関する物理量を取得することにより、前記血管の動脈硬化の検査を行うことができる計測プログラム及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管であって、血流による各測定対象血管の振動を同時に計測する第1ステップと、計測して得られた前記振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を前記左右の血管毎に抽出する第2ステップと、前記左右の測定対象血管の振動の物理量を同時に表示、又は、左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する第3ステップを含むことを特徴とする測定対象血管の機械的性質の計測方法を要旨とするものである。
【0011】
請求項1の発明の計測方法は、人の左右対称的に位置する血管を測定対象とする。人の左右対称的に位置する血管は、例えば頭部血管の左右浅側頭動脈、或いは左右頸動脈があり、これらの血管の機械的性質(例えば、固有振動数、位相、減衰率等)は、年齢とともに物理的劣化が不均一に進行する。前記機械的性質は、血管の弾性率(スティフネス)に関係する。このような左右対称的に位置する血管の振動を同時計測し、計測して得られた前記振動のデータを周波数解析すると、測定対象血管の振動の物理量、例えば左右の測定対象血管の固有振動数、或いは位相が分かるため、左右の測定対象血管の固有振動数、或いは固有振動数の差、又は、左右の測定対象血管の位相、或いは位相差を表示する。このことにより、左右の測定対象血管の血管機能の低下の時系列評価が可能となる。例えば、青年期では、左右の血管のスティフネスが大きいとともに、左右の血管の振動の物理量の差はゼロであり、年齢がかさむと動脈硬化進行により血管のスティフネスが劣るとともに左右の血管の振動の物理量の差が大きくなる。これは、左右の血管が年齢の進行とともに同様に劣っていくのではなく、片方の血管が残りの片方の血管よりも進行して劣ることが一般的であるからである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、前記第2ステップで抽出する物理量が前記左右の測定対象血管の固有振動数であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1において、前記第2ステップで、抽出する物理量が振動の位相であり、前記第3ステップで左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する際、左右の測定対象血管の振動の位相差を表示することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管であって、血流による各測定対象血管の振動を同時に計測する振動検出手段と、前記計測して得られた前記振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を前記左右の血管毎に抽出する物理量抽出手段と、前記左右の測定対象血管の振動の物理量を同時に表示、又は、左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する表示手段を備えることを特徴とする測定対象血管の機械的性質の計測装置を要旨とするものである。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4において、前記物理量抽出手段が抽出する物理量が前記左右の測定対象血管の固有振動数であることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項4において、前記物理量抽出手段が抽出する物理量が振動の位相であり、前記表示手段が左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する際、左右の測定対象血管の振動の位相差を表示することを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、コンピュータを、人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する各測定対象血管の血流による振動のデータであって、同時に測定された該振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を前記左右の血管毎に抽出する物理量抽出手段と、前記左右の測定対象血管の振動の物理量を同時に表示、又は、左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する表示手段として機能させることを特徴とする測定対象血管の機械的性質の計測プログラムを要旨とするものである。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7に記載の計測プログラムを記憶した記憶媒体を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管から取得される振動のデータに基づいて、前記血管の振動に関する物理量を取得することにより、前記血管の動脈硬化の検査を行うことができる測定対象血管の機械的性質の計測方法を提供できる。又、請求項1の発明によれば、超音波装置、X線CT、NMRと異なり、特別な大型の装置は必要でなく、血管の振動を検出する装置を使用することができ、測定装置としては安価な方法で行うことができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、第2ステップで抽出する物理量が左右の測定対象血管の固有振動数とすることにより、該血管の動脈硬化の検査を行うことが可能となる。
請求項3の発明によれば、抽出する物理量が振動の位相であり、前記第3ステップで左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する際、左右の測定対象血管の振動の位相差を表示することにより、血管機能の低下を測定が可能となる。
【0019】
請求項4の発明によれば、測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管から取得される振動のデータに基づいて、前記血管の振動に関する物理量を取得することにより、前記血管の動脈硬化の検査を行うことができる測定対象血管の機械的性質の計測装置を提供できる。又、請求項4の発明によれば、超音波装置、X線CT、NMRと異なり、特別な大型の装置は必要でなく、血管の振動を検出する装置を使用することができ、測定装置としては安価な装置を提供できる。
【0020】
請求項5の発明によれば、物理量抽出手段が抽出する物理量が前記左右の測定対象血管の固有振動数であることにより、計測装置によって、該血管の動脈硬化の検査を行うことが可能となる。
【0021】
請求項6の発明によれば、物理量抽出手段が抽出する物理量が振動の位相であり、表示手段が左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する際、左右の測定対象血管の振動の位相差を表示することにより、血管機能の低下の測定が可能となる計測装置を提供できる。
【0022】
請求項7の発明によれば、コンピュータを前記物理量抽出手段及び前記表示手段とすることができ、測定対象血管の機械的性質の計測装置の構築を容易に行うことができる計測プログラムを提供できる。
【0023】
請求項8の発明によれば、コンピュータを物理量抽出手段及び前記表示手段とすることができ、測定対象血管の機械的性質の計測装置の構築を容易に行うことができる記憶媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)は、マイク11L,11Lの取付け状態を示す説明図、(b)は振動センサの取付け状態を示す説明図、(c)は測定対象血管の機械的性質の計測装置の概略図。
【図2】測定対象血管の血管位置と測定結果の例を示す説明図。
【図3】CPUが実行する計測プログラムのフローチャート。
【図4】左浅側頭動脈のマイクで測定された拍動4サイクル分の検出信号のチャート。
【図5】右浅側頭動脈のマイクで測定された拍動4サイクル分の検出信号のチャート。
【図6】図4、図5の1サイクル(1周期)分の信号を同じ時間軸で示したチャート。
【図7】図6に示した1サイクル(1周期)分の信号(左右の血管)をフーリエ級数式(n=10)で、ディスプレイ25に表示する際のチャート。
【図8】(a)は、21歳男性の左浅側頭動脈の振動を測定した電位−周波数解析図、(b)は、61歳男性の左浅側頭動脈の振動を測定した電位−周波数解析図。
【図9】心電と胸部振動音の同時計測のチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の測定対象血管の機械的性質の計測装置及び測定方法を具体化した一実施形態を図1〜9を参照して説明する。
図1(a)〜(c)に示すように、計測装置10は、振動検出手段としての一対のマイク11L,11R、振動検出手段としての振動センサ12R,12L、心電図を取得するための電極13、前記マイク11L,11R、振動センサ12L,12R、及び計算処理装置14を備えている。
【0026】
マイク11L、11Rは、人の左右の耳甲介腔50L,50Rにそれぞれ着脱自在に挿入可能な円筒状のケース11内に、マイク部11mが収納されて固定されている。又、各ケース11の先端面、又は、先端の周囲には開口11aが形成されている。開口11aのケース11に対する設けられる位置は限定されるものではないが、開口11aは、音源に対して、すなわち、右の耳であれば右浅側頭動脈70Rに対して、左の耳であれば、左浅側頭動脈70Lに対して、指向が最適となるように各鼓膜に対して垂直、或いは平行となるように設けられていることが好ましい。なお、開口11aの音源(振動源)に対する位置がマイク11L,11Rの測定対象血管、すなわち、左浅側頭動脈70L、右浅側頭動脈70Rからの血管音が最大(すなわち、音圧が最大)となる最適な位置となるように、耳甲介腔50L、50Rに対する挿入量の調整、或いは、各ケース11の軸心の回りの回転角度調整を行う。
【0027】
マイク11L、11Rからの検出信号は増幅器15,16により増幅され、A/D17,18によりアナログ信号からデシタル信号に変換されて計算処理装置14に入力される。
【0028】
振動センサ12L,12Rは、マイク11L,11Rが取付けされた人の首100において、左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動が最適に測定できる皮膚表面に粘着テープ等により取着される。なお、振動センサ12L,12Rは、首の皮膚表面に対して皮膚表面に密着させることが好ましい。なお、振動センサ12L,12Rを皮膚表面に密着させない場合においても、振動センサ12L,12Rを皮膚表面に近接して配置すれば、左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動が皮膚表面を介して空気の振動として計測できるため、これでもよい。振動センサ12L,12Rからの検出信号は増幅器19,20により増幅され、A/D21,22によりアナログ信号からデシタル信号に変換されて計算処理装置14に入力される。
【0029】
心電図を取得するための電極13は、公知であるため、図1(c)では説明の便宜上、1つのみ代表として図示されているが、複数の電極を含む。電極13が検出した信号(検出信号)は、増幅器23により増幅され、A/D24によりアナログ信号からデシタル信号に変換されて計算処理装置14に入力される。
【0030】
計算処理装置14は、コンピュータからなり、ディスプレイ25、記憶装置26、及び通信部27を備えている。計算処理装置14は、CPU14a、記憶媒体としてのROM14b,RAM14cを備えている。ROM14bには計測プログラムが格納されている。RAM14cは、前記計測プログラムを実行処理する際の作業用メモリである。
【0031】
記憶装置26は、前記プログラムを実行処理して得られた結果の各種データを格納する。ディスプレイ25は、CPU14aにより、表示制御されて、各種データをグラフ、チャート等により表示する。
【0032】
前記計算処理装置14は、物理量抽出手段に相当する。又、ディスプレイ25を備える計算処理装置14は、表示手段に相当し、記憶装置26を有する計算処理装置14は記憶手段に相当する。
【0033】
計算処理装置14は、通信部27を備えている。通信部27は、有線通信又は無線通信が可能となっており、外部装置であるコンピュータ30に対して、該コンピュータ30が備えている通信部32を介して通信が可能である。コンピュータ30は、例えば、病歴等を扱うデータセンタに備えられており、計測装置10で測定された各種データは、通信部27を介して、コンピュータ30に送信され、このデータセンタが備えるデータベースに格納されるようにされている。
【0034】
(実施形態の作用)
次に上記のように構成された計測装置10において、CPU14aが実行する計測プログラムの処理を図3を参照して説明する。なお、マイク11L、11Rは、予め左右の耳甲介腔50L,50Rに装着されるとともに振動センサ12L、12Rは、左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動が最適に測定できる首100の皮膚表面に取着されているものとする。又、電極13は、心電図を得るために測定対象者の胸部等に、予めつけられているものとする。なお、心電図(ECG:electrocardiography)は、マイク11L、11R、振動センサ12L,12Rの検出信号を時系列表示する際の基準時間軸として利用する。
【0035】
図3は、CPU14aが実行する計測プログラムのフローチャートである。
なお、計測プログラムを実行するに当たり、予め測定対象者の氏名、年齢、性別、測定部位、測定日時等の基礎項目は図示しないキーボードにより入力されているものとする。
【0036】
ステップ(以下、ステップをSという)S10において、同時に計測した、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R、左頸動脈80L,右頸動脈80R、電極13からの検出信号を取得する。この検出時間は数秒でよい。
【0037】
S20では、CPU14aは計測された各信号の1周期分を取出す。なお、取出す周期は、複数周期分でもよいが、重なり等が生ずるため、1周期分が好ましい。
S30及びS40では、フーリエ変換による周波数解析を行う。具体的には、S30では、CPU14aは、S20で取出した左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R、左頸動脈80L,右頸動脈80Rの各信号を、ディスプレイ25に下記のフーリエ級数式で表示(n=10〜20項程度まで)する。
【0038】
y(t)=A0 + A1cos(ω1t+φ1) + A2cos(2ω2t+φ2) + A3cos(3ω3t+φ3) +・・・ + Ancos(nωnt+φn)
ここで、Aは振幅、ωn=2πf、fは心拍の基本周波数、n=1,2,3・・・であり、ωは角振動数、φは位相差である。又、Aは直流成分である。なお、S30における表示の具体例については、後述する。
【0039】
S40では、CPU14aは、前記フーリエ級数式の各係数(A,A,φ)を決定する。
S50では、CPU14aは左右の血管について、S40で決定した各係数を比較することにより、左右の血管(左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R、左頸動脈80L,右頸動脈80R)の固有振動数、振幅A、位相差φをデータ化するとともに、固有振動数、振幅A、位相差φについての定量的評価及び動脈硬化の進行の程度をデータ化し、今回の測定日時等の前記基礎項目と関連づけて記憶装置26に格納する。ここで、固有振動数、振幅A、角振動数、位相は、振動に関する物理量に相当する。取得された周波数の中からピーク周波数を固有振動数とする。詳細には、振動の周波数解析を行い、周波数が一番多い帯域の中心(ピーク周波数)が固有振動数として求められている。
【0040】
ここで、固有振動数pは、振動体の質量M、バネ定数kとすると、
p=√(k/M)
の関係がある。バネ定数kは力/変形量(単位はN/m,ニュートン/メータ)である。又、バネ定数kは形状により異なり、同じ材料でも、パイプ状、棒状、コイルのように巻いたものでは異なる。従って、本実施形態において、測定対象血管の固有振動数を求めることは、バネ定数に相関するものを求めていることになる。これは、
スティフネスの定義=応力/ひずみ=力の大きさ/変形量
と等価となる。
【0041】
又、振幅A、位相差φについての定量的評価及び動脈硬化の進行の程度は、予め、記憶装置26に格納された振幅、位相差と動脈硬化の進行の程度とが予めマップ化されており、このマップに基づいて、動脈硬化の進行程度の評価が可能である。又、定量的評価は、振幅A、位相差φの大きさによる評価であって、振幅A、位相差φ毎に、予めテーブル化されて記憶装置26に格納されており、該テーブルをCPU14aが参照することにより定量的評価を行う。
【0042】
S60では、CPU14aは、左右の血管(左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R、左頸動脈80L,右頸動脈80R)の固有振動数、振幅A、位相差φ、及び前記データ化した結果をディスプレイ25に表示し、この測定プログラムを終了する。
【0043】
ここで、上記の計測プログラムを実行して、左右の血管の測定した際の実際の例を挙げて説明する。
図2は、1〜5ch(チャンネル)で、測定した血管、及び、心電図である。図2の1ch及び2chは、測定対象者の左耳部の左浅側頭動脈70L及び右浅側頭動脈70Rで測定した振動音が示されている。又、図2の3ch及び4chは、測定対象者の左頸動脈80L,右頸動脈80Rで測定した振動が示されている。なお、本測定例では、振動センサ12L,12Rを皮膚表面に密着させず、振動センサ12L,12Rを皮膚表面に近接配置して、左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動を皮膚表面を介して空気の振動で計測した。又、図2において、5chは、心電図での測定を示す。前記フローチャートのS10において、実際の測定時には、図2で示されるチャートが得られることになる。なお、図2で示されている各チャートは、横軸が時間、縦軸が音圧(又は振動)に比例するパワー(電位)である。
【0044】
図4、図5は、S10において、左血管(左浅側頭動脈)、及び、右血管(右浅側頭動脈)の、マイク11L,11Rで測定された拍動4サイクル(周期)分の検出信号のチャートである。図4、図5において横軸は時間、縦軸は音圧である。なお、図9は、S10で取得される心電図を示している。なお、説明の便宜上、参考のために、この心電図には前記心電図と同時に計測した胸部振動音も図示している。同図において、胸部振動音のI音とは、第1心音のことで、急速な心室収縮期(三尖弁、僧帽弁が閉じて圧力上昇の期間)に血液が心室壁に擦れて生じる音で緊張音とも呼ばれる。同図において、胸部振動音のII音とは、心室収縮期の終わりに大動脈弁、肺動脈弁が閉じる時の音である。
【0045】
S20では、図4、5で示されている信号から1サイクル(1周期)分を取り出す。例えば、図6は、図4、図5の1サイクル(1周期)分の信号を同じ時間軸で示したものである。
【0046】
図7は、図6に示した1サイクル(1周期)分の信号(左右の血管)をS30でのフーリエ級数式(n=10迄)で、ディスプレイ25に表示したものである。すなわち、図7は、後述する表1で示される係数(振幅An,位相差φn)で数式化されたものであり、これらの数字により左右血管の振幅、位相差の比較が容易となる。
【0047】
図8(a)は、測定対象者が、21歳の男性の左耳の左浅側頭動脈の振動音を測定し、その振動音をS30,S40で処理して得られた周波数(横軸(対数軸))と電位(縦軸)を図示したものである。同図において、ピーク周波数が固有振動数となる。同図においては、固有振動数は、31.8Hzである。
【0048】
図8(b)は、測定対象者が、61歳の男性の左耳の左浅側頭動脈の振動音を測定し、その振動音をS30,S40で処理して得られた周波数(横軸(対数軸))と電位(縦軸)を図示したものである。同図において、ピーク周波数が固有振動数となる。同図においては、固有振動数は、48Hzである。
【0049】
ここで、それぞれの左右の血管の固有振動数が得られた場合、青年期では、左右の血管の振動の物理量の差はゼロであり、動脈硬化進行により左右の血管の振動の物理量の差が大きくなるため、上記図8(a)では左耳の固有振動数が得られているが、右耳の固有振動数も同様にして得られた。この21歳の男性の左右の血管の固有振動数の差は、同じく61歳の男性の左右血管の固有振動数の差よりも小さく、従って、61歳の男性の左右血管の固有振動数の差が大きいため、動脈硬化が進行していることが分かる。
【0050】
【表1】

表1は、S30,S40において得られた左右の血管(左浅側頭動脈、右浅側頭動脈)音の振幅A、左右の血管の位相差(ラジアン及び角度)で示したものである。なお、nは10迄としている。
【0051】
ここでは、n=5,6,7当たりに強い成分cnを持ち、その時の位相差は、60−80(°)となる。これは、右血管と左血管よりも、60−80(°)ほど遅れることを意味する。この場合、動脈硬化の進行により、左右血管の振幅差、位相差は大きくなる傾向がある。
【0052】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態の測定対象血管の機械的性質の計測方法は、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rに血流による各測定対象血管の振動を同時に計測する第1ステップ(S10)と、計測して得られた前記振動のデータを周波数解析して、該振動に関する固有振動数(物理量)、振幅A(物理量)、位相(物理量)を左右の血管毎に抽出する第2ステップ(S30,S40)とを備える。
【0053】
又、本実施形態の計測方法は、前記第3ステップとして第2ステップの後、左右の測定対象血管の振動の固有振動数(物理量)、振幅A(物理量)、位相(物理量)を同時にディスプレイ25に表示する。
【0054】
この結果、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rに血流による各測定対象血管から取得される振動のデータに基づいて、各血管の振動に関する固有振動数、振幅A、位相を取得することにより、前記血管の動脈硬化の検査を行うことができる。又、本実施形態の方法によれば、超音波装置、X線CT、NMRと異なり、特別な大型の装置は必要でなく、血管の振動を検出する装置を使用することができ、測定装置としては安価な方法で行うことができる。
【0055】
(2) 本実施形態の計測方法は、第2ステップで抽出する物理量が左右の測定対象血管の固有振動数としている。この結果、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの動脈硬化の検査を行うことが可能となる。
【0056】
(3) 本実施形態の計測方法は、第2ステップで、抽出する物理量が振動の位相であり、第3ステップで左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動の位相差φを表示する。この結果、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動の位相差を表示することにより、血管機能の低下を測定が可能となる。
【0057】
(4) 本実施形態の計測装置10では、マイク11L,11R、振動センサ12L,12Rは振動検出手段として、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの血流による振動を同時に計測する。又、計測装置10の計算処理装置14は、物理量抽出手段として、計測して得られた振動のデータを周波数解析して、該振動に関する固有振動数(物理量)、振幅A(物理量)、位相(物理量)を前記左右の血管毎に抽出する。計測装置10は、表示手段として、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動の固有振動数、振幅A、位相を同時に表示する。この結果、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの動脈硬化の検査を行うことができる測定対象血管の機械的性質の計測装置を提供できる。又、超音波装置、X線CT、NMRと異なり、特別な大型の装置は必要でなく、血管の振動を検出する装置を使用することができ、測定装置としては安価な装置を提供できる。
【0058】
(5) 本実施形態の計測装置10は、計算処理装置14(物理量抽出手段)が抽出する物理量が前記左右の測定対象血管の固有振動数としている。この結果、本実施形態の計測装置10によれば、計測装置10によって、該血管の動脈硬化の検査を行うことが可能となる。
【0059】
(6) 本実施形態の計測装置10は、計算処理装置14(物理量抽出手段)が抽出する物理量が振動の位相とし、計算処理装置14は、表示手段として左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動の物理量の差を表示する際、これらの血管の振動の位相差を表示する。この結果、本実施形態の計測装置10によれば、前記血管の血管機能の低下の測定が可能となる計測装置を提供できる。
【0060】
(7) 本実施形態の計測プログラムは、コンピュータである計算処理装置14を、人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの血流による振動のデータであって、同時に測定された該振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を左右の血管毎に抽出する物理量抽出手段として機能させる。又、本実施形態の計測プログラムは、計算処理装置14を、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの振動の固有振動数(物理量)、振幅A(物理量)、位相(物理量)を同時に表示を表示する表示手段として機能させる。
【0061】
この結果、本実施形態の計測装置10によれば、計算処理装置14を物理量抽出手段及び表示手段とすることができ、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの機械的性質の計測装置の構築を容易に行うことができる計測プログラムを提供できる。
【0062】
(8) 本実施形態のROM14bは、記憶媒体として前記計測プログラムを記憶する。この結果、本実施形態のROM14bは、計算処理装置14を物理量抽出手段及び表示手段とすることができ、左浅側頭動脈70L,右浅側頭動脈70R,左頸動脈80L,右頸動脈80Rの機械的性質の計測装置の構築を容易に行うことができる記憶媒体を提供できる。
【0063】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
○ 前記実施形態では、左右の血管として、左浅側頭動脈70L、右浅側頭動脈70R、左頸動脈80L、右頸動脈80R、及び心電図の各種検出信号を取得するようにしたが、下記のように変更してもよい。
【0064】
左浅側頭動脈70L、右浅側頭動脈70R、及び心電図の各種検出信号を取得したり、或いは、左頸動脈80L、右頸動脈80R、及び心電図の各種検出信号を取得するようにしてもよい。
【0065】
○ 前記実施形態では、マイク部11mを収納するケース11は、円筒状としたが、イヤホーン形状としてもよく、耳甲介腔50L,50Rに挿入できる形状であればよい。
○ 前記実施形態では、記憶装置26に格納された振幅A、位相差φと動脈硬化の進行の程度とが予めマップ化されていたが、振幅Aと動脈硬化の進行程度のマップ化されていてもよい。この場合は、左右の血管の振幅Aに基づいて動脈硬化の進行程度が分かるようになる。又、位相差φと動脈硬化の進行程度がマップ化されていてもよい。この場合は、左右の血管の位相差φに基づいて動脈硬化の進行程度が分かるようになる。
【0066】
○ 前記実施形態では、ROM14bを計測プログラムを記憶する記憶媒体としたが、記憶装置26を計測プログラムを記憶する記憶媒体にしてもよい。或いは、CDや、DVD、USBメモリ等の記憶媒体に計測プログラムを格納して、CDやDVD等の記憶媒体を読込みするドライバ装置等にて読込みして計測プログラムを実行するようにしてもよい。
【0067】
○ 前記実施形態において、マイク11L,11Rに代えて振動計としてもよい。
○ 前記実施形態において、振動センサ12L,12Rに代えてマイクとしてもよい。
○ 前記実施形態では、振動に関する物理量としては、固有振動数、位相、振幅としたが、振動の減衰率としてもよい、減衰率は、動脈硬化が進行すると、青年期の血管よりも老年期の血管の方が、弾性率が悪くなるため早く減衰する傾向がある。従って、左右血管の振動の減衰率を測定(抽出)し、差を算出(抽出)するようにしてもよい。
【0068】
○ S70において、データ化した結果、及び左右の血管の固有振動数、振幅A等をディスプレイ25に表示する際、これらの左右の血管の差をディスプレイ25に表示するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…計測装置、
11L,11R…マイク(振動検出手段)、
12L,12R…振動センサ(振動検出手段)、
13…電極、14…計算処理装置(物理量抽出手段、表示手段)、
14b…ROM(記憶媒体)、26…記憶装置、27…通信部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管であって、血流による各測定対象血管の振動を同時に計測する第1ステップと、
計測して得られた前記振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を前記左右の血管毎に抽出する第2ステップと、
前記左右の測定対象血管の振動の物理量を同時に表示、又は、左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する第3ステップを含むことを特徴とする測定対象血管の機械的性質の計測方法。
【請求項2】
前記第2ステップで抽出する物理量が前記左右の測定対象血管の固有振動数であることを特徴とする請求項1に記載の測定対象血管の機械的性質の計測方法。
【請求項3】
前記第2ステップで、抽出する物理量が振動の位相であり、前記第3ステップで左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する際、左右の測定対象血管の振動の位相差を表示することを特徴とする請求項1に記載の測定対象血管の機械的性質の計測方法。
【請求項4】
測定対象血管が人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する血管であって、血流による各測定対象血管の振動を同時に計測する振動検出手段と、
前記計測して得られた前記振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を前記左右の血管毎に抽出する物理量抽出手段と、
前記左右の測定対象血管の振動の物理量を同時に表示、又は、左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する表示手段を備えることを特徴とする測定対象血管の機械的性質の計測装置。
【請求項5】
前記物理量抽出手段が抽出する物理量が前記左右の測定対象血管の固有振動数であることを特徴とする請求項4に記載の測定対象血管の機械的性質の計測装置。
【請求項6】
前記物理量抽出手段が抽出する物理量が振動の位相であり、
前記表示手段が左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する際、左右の測定対象血管の振動の位相差を表示することを特徴とする請求項4に記載の測定対象血管の機械的性質の計測装置。
【請求項7】
コンピュータを、
人の左右対称的な位置にそれぞれ位置する各測定対象血管の血流による振動のデータであって、同時に測定された該振動のデータを周波数解析して、該振動に関する物理量を前記左右の血管毎に抽出する物理量抽出手段と、
前記左右の測定対象血管の振動の物理量を同時に表示、又は、左右の測定対象血管の振動の物理量の差を表示する表示手段として機能させることを特徴とする測定対象血管の機械的性質の計測プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の計測プログラムを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−187927(P2010−187927A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35487(P2009−35487)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】