説明

測定方法

【課題】
一つの反応容器内で試料中の2種類の物質を一度に測定する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
反応容器内で試料中の物質Aに酵素、パーオキシダーゼ、及び発色剤を作用させて過酸化水素の生成に基づく発色反応を行い、生成した発色体の測定を行う第一工程、及び、第一工程の測定後、前記発色体を退色させる還元反応を前記反応容器内で開始及び持続させるとともに、前記反応の開始と同時に又は前記反応の開始直後に、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応を行い、濁度の測定を行う第二工程 からなる測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの反応容器で生体試料などに含まれる2種類の物質を一度に測定する方法で、一つの物質を比色法により、もう一方の物質を免疫凝集反応により測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液や尿などの生体試料に含まれる様々な物質を測定する目的で、検査センターや病院の検査室等では、多数試料、多項目の同時、連続測定が可能な自動分析装置が広く利用されている。一方、このような自動分析装置を持たない医療施設では、診療上迅速な検査結果が必要な場合に備えて、簡易分析装置や小型分析装置が利用されている。これらの装置の例として、自動分析装置をそのまま小型化したような装置や、測定用試薬が予めパッケージ化された反応カセットを専用装置にセットして簡単に測定できるようにしたものがある。これらには一回の操作で一項目しか測定できないものもあり、複数項目を測定しようとすると、それぞれに応じた反応容器、試薬類を準備し、複数回操作を繰り返す必要があり、結果が出るまでに長時間を要すため、一度の操作で迅速かつ簡便に複数項目の測定ができる方法の開発が望まれている。
【0003】
その方法の一つとして、一つの反応容器で2種類の物質を一度に測定する方法が提案されている。例えば、抗原抗体反応による免疫凝集反応を用いた測定方法を用いて2種類の物質を第一反応と第二反応に分けて測定し、第二反応の測定時に第一反応の影響を回避するために測定波長を変化させたり、第二反応時に第一反応に使用した抗体を添加して第一反応を抑制する方法がとられている(特許文献1)。この方法は免疫凝集反応により測定できる物質に限られ、また、第二反応を行う際、第一反応の凝集塊が残存しているため、ベースラインが変動しやすく測定精度が劣る。
【0004】
また、測定対象は限定されるが、LDLコレステロールと総コレステロールを一度に測定する方法(特許文献2)、ヘモグロビンと糖化ヘモグロビンを一度に測定する方法(特許文献3)等が報告されている。これら測定はいずれも比色法により行われている。
【0005】
他にも、第一反応を経て第二反応開始初期に一つめの物質から生成する発色体を測定し、その後第二反応が進行するに従ってもう一つの物質から徐々に生成してくる発色体を最初に生成した発色体と合わせて測定する方法が報告されている(特許文献4)。しかし、この方法は、2種類の物質から得られる反応生成物が同じものでなければならない。
【0006】
さらに、比色法と免疫凝集法を用いた方法として、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cを一度に測定する方法が提示されている(非特許文献1)。これは、第一工程でヘモグロビンをシアンメトヘモグロビン法で比色測定し、第一工程の色がそのまま残った状態でヘモグロビンA1cを第二工程の微粒子担体を用いた免疫凝集阻止法により測定する方法である。また、クレアチニンとアルブミンを一度に測定する方法が提示されている(特許文献5)。これは、アルブミンを免疫凝集法により測定した後、強アルカリ性に液性を変化させることにより凝集塊を溶解すると同時に、クレアチニンをJaffe反応により比色測定している。しかし、いずれも特定の物質を測定するために開発された方法であり、幅広い測定対象に適用できない課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-048265号公報
【特許文献2】国際公開第2004/055204号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2002/027330号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/037419号パンフレット
【特許文献5】特開平7-198719号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】機器・試薬 26(6)、2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一つの反応容器で生体試料などに含まれる2種類の物質を、測定対象が限定されることなく、一度に精度よく測定する方法で、一つの物質を比色法により、もう一方の物質を免疫凝集反応により測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、一つの測定対象物質をパーオキシダーゼ存在下で酵素反応により比色測定を行う第一工程で測定し、第一工程の測定後、生成した発色体を退色させる反応を開始及び持続させると同時に、もう一つの測定対象物質を、当該物質に結合する物質を保持した微粒子を作用させて凝集反応を行い、濁度の測定を行う第二工程で測定することにより、一つの反応容器で試料中の2種類の物質を一度に測定する方法を完成させた。すなわち本発明は、次のようである。
【0011】
(1)一つの反応容器で試料中の2種類の物質A及びBを一度に測定する方法であって、 反応容器内で試料中の物質Aに酵素、パーオキシダーゼ、及び発色剤を作用させて過酸化水素の生成に基づく発色反応を行い、生成した発色体の測定を行う第一工程、及び、 第一工程の測定後、前記発色体を退色させる還元反応を前記反応容器内で開始及び持続させるとともに、前記反応の開始と同時に又は前記反応の開始直後に、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応を行い、濁度の測定を行う第二工程 からなる測定方法。
(2)前記、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応が、物質Bに特異的に結合する物質を保持した微粒子と、物質Bとによる凝集反応である、(1)に記載の測定方法。
(3)前記、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応が、物質Bに特異的に結合する物質と、物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持した微粒子とによる凝集反応である、(1)に記載の測定方法。
【0012】
(4)前記物質Bに特異的に結合する物質が、その抗体又は物質Bが抗体である場合はそれが結合する抗原である、(2)又は(3)に記載の測定方法。
(5)物質Bと同じ抗原性を有する物質が、物質B、物質Bの誘導体、物質B又はその誘導体とタンパクの結合物、及び、抗イディオタイプ抗体から選択される、(3)に記載の測定方法。
(6)第一工程の測定をレート法で行うことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の測定方法。
(7)発色体を退色させる還元反応が、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体とジアホラーゼとによる反応であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の測定方法。
【0013】
(8)前記NADH、NADPH、又はそれらの誘導体が、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体とにデヒドロゲナーゼを作用させて生成されることを特徴とする、(7)に記載の測定方法。
(9)発色体を退色させる還元反応が、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体と電子伝達体とによる反応であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の測定方法。
(10)前記電子伝達体が1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルフェートであることを特徴とする、(9)に記載の測定方法。
(11)前記NADH、NADPH、又はそれらの誘導体が、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体とにデヒドロゲナーゼを作用させて生成されることを特徴とする、(9)に記載の測定方法。
【0014】
(12)発色体を退色させる還元反応が、NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素、その基質、及び電子伝達体による反応であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の測定方法。
(13)発色体を退色させる還元反応が、アスコルビン酸又はエリソルビン酸による反応であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の測定方法。
(14)前記アスコルビン酸又はエリソルビン酸が、アスコルビン酸誘導体又はエリソルビン酸誘導体に酵素を作用させて生成されることを特徴とする、(13)に記載の測定方法。
(15)第一工程と第二工程の測定を同一波長で行うことを特徴とする、(1)〜(14)のいずれかに記載の測定方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の測定方法は、一つの物質を比色法により、もう一方の物質を免疫凝集反応により測定する方法で、比色法で生成した発色体を退色させる反応を開始及び持続させると同時に免疫凝集反応を行うことにより、一つの反応容器で生体試料などに含まれる2種類の物質を、測定対象が限定されることなく、一度に精度よく測定することができる。特に、簡易分析装置や小型分析装置などにおいて利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】発色体の退色の有無による第二工程測定時のベースライン変動を示すグラフである。
【図2】グルコースとCRPを一度に測定したときの反応タイムコースを示すグラフである。
【図3】第一工程のクレアチニン測定の検量線である。
【図4】第二工程のアルブミン測定(免疫凝集法)の検量線である。
【図5】第一工程のクレアチニン測定が第二工程のアルブミン測定(免疫凝集法)に及ぼす影響についてのグラフである。
【図6】第一工程のクレアチニン測定の検量線である。
【図7】第二工程のアルブミン測定(免疫凝集阻止法)の検量線である。
【図8】第一工程のクレアチニン測定が第二工程のアルブミン測定(免疫凝集阻止法)に及ぼす影響についてのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、測定対象となる物質A及びBを含む生体試料としては、ヒト又は動物の体液、例えば血液、血漿、血清、尿、唾液、滲出液等が上げられる。
本発明は、一つの反応容器に、試料、第一工程の測定試薬、第二工程の測定試薬を順次添加し、反応させて2種類の物質A及びBを一連の操作で一度に測定する方法である。具体的には、まず反応容器内で試料中の物質Aに酵素、パーオキシダーゼ、及び発色剤を作用させて過酸化水素の生成に基づく発色反応を行い、生成した発色体を測定する第一工程を行う。次に、第一工程の測定後、前記発色体を退色させる還元反応を前記反応容器内で開始及び持続させると同時に、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った凝集反応を行い、濁度を測定する第二工程を行う。第一工程では、物質Aの濃度に依存して生成した発色体を測定することにより、物質Aを定量することができる。第二工程では、物質Bの濃度に依存する濁度を測定することにより、物質Bを定量することができる。
【0018】
すなわち本発明によれば、第一工程でパーオキシダーゼ存在下生成した発色体は、第二工程開始と共に還元反応により退色化され、さらにその還元反応を持続させることにより、第一工程の反応継続の有無に関係なく第二工程測定時のベースラインを安定化することができ、正確な測定が可能となる。例えば、第一工程の発色体の測定値が高値の場合、その測定値に第二工程用試薬に含まれる微粒子の濁度、さらにはその凝集反応により生成した濁度が上乗せされると、機器の測定上限を越えて測定できなくなる可能性があるが、本発明では第一工程の発色体による影響がないため、機器の測定上限を越えることなく正確な測定をすることが可能となる。さらに、第一工程の反応をレート法で測定し、その反応の途中から第二工程を開始する場合は、従来の技術では第二工程中も酵素反応が継続することにより発色体が生成しベースラインの変動をもたらすが、本発明の測定方法では、発色体を退色させる反応を第二工程中持続させることにより、ベースラインを継続して安定化することができるので、正確な測定が可能となり、その結果として、一つの反応容器で2種類の物質を一度に正確に測定することができるようになる。
【0019】
また、本発明によれば、第一工程で生成した発色体の影響を受けずに、第二工程の濁度の測定が可能なため、第一工程及び第二工程を同一波長で測定することができる。このことは、小型装置のように測定波長を複数選択できない場合でも、一つの反応容器で2種類の物質を一度に測定することができる利点を有している。
【0020】
以下、さらに本発明を具体的に説明する。
本発明で述べる一つの反応容器とは、試料、第一工程の測定試薬、及び第二工程の測定試薬を順次添加して混合させるための容器で、光学的に検出可能な部位を1箇所以上有する容器のことである。例えば、臨床検査で使用されている大型自動分析装置や小型分析装置においては、一つの反応セルが挙げられる。また、デバイス自体に試料、試薬の計量、移動、混合、光学的検出などの機能を持たせたマイクロチップやバイオチップのようなデバイスも挙げられる。
【0021】
本発明の第一工程により測定される物質Aは、最終的に酵素反応により過酸化水素を生成させることができ、パーオキシダーゼ−発色法により測定できる物質であれば特に限定されない。例えば、物質Aに直接酵素を作用させて過酸化水素を生成させる方法、物質Aに酵素を作用させて別の物質に変換し、これにさらに別の酵素を作用させて過酸化水素を生成させる方法を使用することができる。
【0022】
前者の方法の例としては、物質Aがグルコース、遊離コレステロール、ピルビン酸、乳酸、尿酸、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールの場合に、作用させる酵素として、順にグルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、ウリガーゼ、ピラノースオキシダーゼを使用する例が挙げられる。後者の方法の例としては、物質Aがクレアチニンの場合は、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、及びサルコシンオキシダーゼの組み合わせ、物質Aが総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールの場合は、コレステロールオキシダーゼ及びコレステロールエステラーゼの組み合わせ、物質Aがトリグリセリドの場合は、リポプロテインリパーゼ、グリセロキナーゼ、及びグリセロール−3−リン酸オキシダーゼの組み合わせ、物質Aがリン脂質の場合は、ホスホリパーゼD及びコリンオキシダーゼの組み合わせ、物質Aが遊離脂肪酸の場合は、アシルCoAシンセターゼ及びアシルCoAオキシダーゼの組み合わせが挙げられる。
【0023】
また、物質Aが酵素の場合は、その酵素の基質を作用させて最終的に過酸化水素を生成させる方法を使用することが出来る。例えば、物質Aがアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの場合は、L−アスパラギン酸、α−ケトグルタル酸、オキザロ酢酸デカルボキシラーゼ、及びピルビン酸オキシダーゼの組み合わせ、物質Aがアラニンアミノトランスフェラーゼの場合は、L−アラニン、α−ケトグルタル酸、オキザロ酢酸デカルボキシラーゼ、及びピルビン酸オキシダーゼの組み合わせ、物質Aがコリンエステラーゼの場合は、コリンオキシダーゼ及びベンゾイルコリンの組み合わせ、物質Aがアミラーゼの場合は、マルトペンタオース、マルトースホスホリラーゼ、及びピラノースオキシダーゼの組み合わせが挙げられる。
【0024】
本発明の第一工程の測定試薬は、酵素、パーオキシダーゼ、及び発色剤を含み、場合によっては、更に、発色体を退色させるための構成試薬の一部を含む。酵素は、物質Aに作用して過酸化水素を生成させるものであって、上記に記載したとおり適宜選択される。パーオキシダーゼは、例えば、ホースラディッシュ由来のものを用いることができ、発色剤としては、公知の発色剤、例えばフェノール若しくはその誘導体又はアニリン誘導体と4−アミノアンチピリンとの組み合わせ、ロイコ色素、ジフェニルアミン誘導体、トリアリルイミダゾール誘導体等が挙げられる。
【0025】
前記フェノールの誘導体としては、例えば、4−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,4−ジブロモフェノール、又は2,4,6−トリクロロフェノール等を挙げることができる。
また、前記アニリン誘導体としては、例えば、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(HDAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン(ALPS)、N−(3−スルホプロピル)アニリン(HALPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(TOOS)等を挙げることができる。
【0026】
前記ロイコ色素としては、例えば、ビス(p−ジエチルアミノフェノール)−2−スルホニルメタン、ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−3,4−ジスルホプロポキシフェニルメタン、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン、10−[3−(メトキシカルボニルアミノメチル)フェニルメチルアミノカルボニル]−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン等が挙げられる。
【0027】
前記ジフェニルアミン誘導体としては、例えば、ビス[4−ジ(2−ブトキシエチル)アミノ−2−メチルフェニル]アミン、N,N−ビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−N’−p−トルエンスルホニル尿酸等が挙げられる。
また、前記トリアリルイミダゾール誘導体としては、例えば、2−(4−カルボキシフェニル)−3−N−メチルカルバモイル−4,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)イミダゾール、2−(3−メトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−N−メチルカルバモイル−4,5−ビス(2−メチル−4−ジエチルアミノフェニル)イミダゾール等が挙げられる。
【0028】
上記の測定試薬は緩衝液成分を含み、酵素、発色剤、発色体を退色させるための構成試薬の一部等の各成分の安定性、酵素の特性等を考慮して緩衝液の種類、濃度、pHが選択される。緩衝液の種類としては、リン酸塩、トリス、グリシン、グッド緩衝液等が用いられ、緩衝液の濃度は1〜500mM程度、pHは通常5〜9が好ましい。
【0029】
第一工程の測定試薬は、すべての成分を一つの試薬として調製しても、または二つの試薬として分割してもどちらでも構わない。また、これらの試薬には必要に応じて防腐剤、界面活性剤、アスコルビン酸オキシダーゼ等を加えてもよい。さらに、第二工程の免疫凝集反応を促進するポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性高分子などを添加しても良い。
【0030】
本発明によれば、第一工程の反応の吸光度測定は、エンドポイント法とレート法のどちらを採用しても構わない。汎用の自動分析装置のように測定時間が固定されている場合は、その時間内で測定するのに最適な方法を選択すればよい。ただし、本発明は、第一工程の反応をレート法で測定した場合に、より効果を発揮する。また、緊急検査やベッドサイドで使用される小型装置で短時間に測定結果を得る必要がある場合や測定対象が酵素の場合は、レート法が好ましい。
【0031】
本発明で用いる第一工程で生成した発色体を退色させる方法は、発色体を還元することにより行われる。この還元反応は、第一工程の終了直後から、又は第二工程の反応開始と同時に効力を発揮することが好ましい。具体的には、還元作用を有する試薬を第二工程の測定試薬に添加するか、又は、還元作用を有する試薬が複数の成分から構成される場合は、あらかじめ第一工程の測定試薬と第二工程の測定試薬に分割して添加しておき、第一工程と第二工程の測定試薬が混合されることにより還元反応が生じるように設定することができる。
【0032】
さらにこの還元反応には、第二工程の反応開始と同時に発色体を瞬時に退色させ、第二工程の測定が終了するまで持続することが求められる。具体的には数分間以上、好ましくは5分以上である。また、本発明による第一工程の測定試薬、第二工程の測定試薬に長期間安定に存在できること、免疫凝集反応に影響を与えないこと、他の成分、抗体、酵素等の安定性、活性に影響を与えないことなどがその性能として必要とされる。
【0033】
発色体を退色させるための具体的方法としては、(1)NADH、NADPH、又はそれらの誘導体とジアホラーゼを同時に作用させる方法、(2)NADH、NADPH、又はそれらの誘導体と電子伝達体を同時に作用させる方法、(3)NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素、その基質、及び電子伝達体を同時に作用させる方法、(4)アスコルビン酸又はエリソルビン酸を作用させる方法等を利用することができる。その他に、システイン、システアミン塩酸塩、ジチオトレイトール等の還元性チオアルコール類等を使用することもできるが、これらは溶解後の安定性が良くないことが知られており、これらを第二工程の試薬に含ませた場合、抗体等への影響が懸念されるため、本発明の還元反応に使用することは適さない。また、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体は、単独でも還元作用を示し発色体の生成を抑制することが知られているが、第一工程で生成した発色体を速やかに退色することができないので、単独での使用は本発明の還元反応には適さない。
【0034】
本発明においては、第一工程の反応で生成する発色体量が物質Aの量に応じて変化することから、反応液中に含まれる物質Aの測定上限の1〜1000倍、好ましくは5〜100倍程度の量から生成する発色体を退色できるように、用いる還元方法に応じて、基質、酵素、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体、電子伝達体等の使用量を設定すれば良い。また、第二工程の吸光度測定を開始する前に第一工程で生成した発色体をすべて還元反応により退色させ、さらに第二工程中も持続的に生成する、第一工程の反応により生成する発色体を退色させ続けるために、第二工程の開始から測定が終了するまで還元反応を持続させる必要がある。還元反応を持続させる方法としては、(1)第二工程の試薬に過剰量の還元作用を有する物質を添加して、第二工程の測定が終了するまで反応液中に存在させる方法、(2)第二工程の開始直後に必要な量の還元作用を有する物質を一度に過剰量生成させて、第二工程の測定が終了するまで反応液中に存在させる方法、(3)持続的に酵素反応を行わせることにより、第二工程の測定が終了するまで還元作用を持続させる方法、等がある。これらの方法は必要に応じて組み合わせて使用しても構わない。
【0035】
以下に、前記発色体を退色させるための具体的方法について、個々に説明する。
前述の、(1)NADH、NADPH、又はそれらの誘導体と、ジアホラーゼを同時に作用させる方法においては、第一工程の測定試薬にジアホラーゼを含み、第二工程の測定試薬にNADH、NADPH、又はそれらの誘導体を含むように振り分けるのが好ましい。還元作用の持続は、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体が十分量存在下、ジアホラーゼ量を増減させて酵素反応速度を調節することにより行うことが出来る。
【0036】
ここで、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体については、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体とに酵素を作用させることによって生成させることもできる。この場合は、使用する酵素に対する基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体の十分量存在下、その酵素量を調節することによっても還元作用を持続させることができる。具体的な基質と酵素の組み合わせとしては、グルコースとグルコースデヒドロゲナーゼ、グルコース−6−リン酸とグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、3ーヒドロキシ酪酸と3ーヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールとグリセロールデヒドロゲナーゼなどが挙げられるが、物質Aの測定に影響を及ぼさない組み合わせが好ましいのは言うまでもない。これらは、第二工程開始と同時に、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体が生成するように構成するのが好ましい。そのためには、第一工程の測定試薬に、NAD、NADP、又はそれらの誘導体、及び、基質を含め、第二工程の測定試薬に、酵素及びジアホラーゼを含む構成が例示される。
具体的には、グルコース−6−リン酸とグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼの場合は、第一工程の測定試薬にNADとグルコース−6−リン酸を含め、第二工程の測定試薬にグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼとジアホラーゼを含める構成とすることができる。
【0037】
前述の、(2)NADH、NADPH、又はそれらの誘導体と電子伝達体を同時に作用させる方法においては、電子伝達体には、フェナジンメトスルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルフェート、9−ジメチルアミノベンゾ−α−フェナゾキソニウムクロライド等が用いられ、安定性にすぐれた1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルフェート(以下、mPMSと称す)が好適に用いられる。この場合は、第一工程の測定試薬にmPMSを含み、第二工程の測定試薬にNADH、NADPH、又はそれらの誘導体を含むように振り分けるのが好ましい。この方法においては、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体と電子伝達体との反応により速やかに還元型の電子伝達体に変換される。従って、その還元作用を持続させるためには、前述のように、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体とに酵素を作用させることによって生成させる方法と併用することが好ましく、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体の十分量存在下、酵素量を調節することによって還元作用を持続させることができる。測定試薬の構成としては、第一工程の測定試薬に、NAD、NADP、又はそれらの誘導体、及び、基質を含め、第二工程の測定試薬に、酵素及びmPMS等の電子伝達体を含める構成が例示される。
【0038】
前述の、(3)NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素、その基質、及び電子伝達体を同時に作用させる方法においては、デヒドロゲナーゼ酵素としてFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、メタノールデヒドロゲナーゼ、PQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素とは、その酵素反応にNAD又はNADP類の補酵素を電子伝達体として使用せず、フラビンやキノン等の酸化還元部位を分子内に有しており、フェナジンメトスルフェート、mPMS、9−ジメチルアミノベンゾ−α−フェナゾキソニウムクロライド、ピロロキノリンキノン、ユビキノン類、2, 6−ジクロロフェノールインドフェノール等を電子伝達体として使用する酵素である。この場合、第一工程の測定試薬に基質、mPMSを含み、第二工程の測定試薬にNAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素を含む構成が例示され、還元作用の持続は、NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素の量を増減させて酵素反応速度を調節することにより行うことが出来る。さらに、NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素の種類によっては、第一工程で生成した発色体をそのまま電子伝達体として使用することもでき、その例としてピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが挙げられる。より速く持続的に退色させたい場合は、適切な酵素量下でmPMS又はピロロキノリンキノン等の電子伝達体をどちらかの測定試薬に添加するか、或いは使用する酵素量を増やすとさらに効果的である。
【0039】
前述の、(4)アスコルビン酸又はエリソルビン酸を作用させる方法においては、アスコルビン酸又はエリソルビン酸は、その誘導体であるアスコルビン酸誘導体又はエリソルビン酸誘導体から酵素反応により生成させることができる。アスコルビン酸又はエリソルビン酸は一般に溶液中での安定性が良くないことが知られており、反応液中でアスコルビン酸又はエリソルビン酸を生成させることができるこの方法が好適である。アスコルビン酸誘導体又はエリソルビン酸誘導体としては、L−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩、アスコルビン酸2−グルコシドなどが挙げられる。酵素として、前者の場合はアルカリフォスファターゼ、後者の場合はαグルコシダーゼを作用させることにより、アスコルビン酸又はエリソルビン酸を生成させることができる。例えば、第一工程の測定試薬にL−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩を含め、第二工程の測定試薬にアルカリフォスファターゼを含める構成が示される。還元作用の持続は、アスコルビン酸誘導体又はエリソルビン酸誘導体が十分量存在下、これら誘導体を基質とする酵素の使用量を調節することにより行うことができる。
【0040】
本発明の第二工程で行われる微粒子を用いた免疫凝集法は、免疫反応により測定対象物質の濃度に応じた量の凝集体を形成し濁度を測定する方法であればいずれの方法を用いても良く、例えば測定対象物質の濃度に応じて凝集体形成を増加させる方法、又は、測定対象物質の濃度に応じて凝集体形成を阻害させる方法が用いられる。また、本発明で測定される物質Bは、これらの微粒子を用いた免疫凝集反応で測定できる物質であれば特に限定されない。例えば、測定対象物質の濃度に応じて凝集体形成を増加させる方法は、タンパク、抗体、酵素等の測定に適しており、具体的には、物質Bとして、アルブミン、インスリン、β2ミクログロブリン、C反応性タンパク、L型脂肪酸結合タンパク、心臓由来脂肪酸結合タンパク、フィブリン・フィブリノーゲン分解産物、血清アミロイドA、D−ダイマー、シスタチンC、トランスフェリン、C−ペプチド、N−アセチルグルコサミニダーゼなどが挙げられる。また、測定対象物質の濃度に応じて凝集体形成を阻害させる方法は、ハプテン等の測定に適しており、具体的には、物質Bとして、テオフィリン、ジゴキシン、ジギトキシン、フェノバルビタール、ジギトキシン、コルチゾール、8−ヒドロキシデオキシグアノシン、ジアセチルスペルミン、ビスフェノールA、デオキシピリジノリン、I型コラーゲン架橋N-テロペプチド、I型コラーゲン架橋C-テロペプチド、βクロスラプス、C-ペプチドなどが挙げられる。
【0041】
物質Bの濃度に応じて凝集体形成を増加させる方法としては、物質Bと物質Bに特異的に結合する物質を保持した微粒子とを反応させることにより凝集体を生成させ、その濁度を測定する免疫凝集法が用いられる。微粒子に保持させる物質としては、免疫凝集反応で通常使用される物質であれば特に限定されず、抗原又は抗体が挙げられる。物質Bが抗原の場合はこれに対する抗体が用いられ、モノクローナル抗体やポリクローナル抗体を用いることができ、さらに抗体のフラグメントであってもよい。物質Bが抗体の場合は、それに対する抗原、ペプチド、抗イディオタイプ抗体等が用いられる。この場合の第二工程の測定試薬は、物質Bに特異的に結合する物質を保持した微粒子、及び発色体を退色させるための構成試薬の一部から構成される。
【0042】
一方、物質Bの濃度に応じて凝集体形成を阻害させる方法は、まず物質Bと物質Bに特異的に結合する物質とを反応させ、次に物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持させた微粒子を反応させることにより、物質Bと反応しなかった物質Bに特異的に結合する物質と、物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持させた微粒子とにより凝集体を生成させ、その濁度を測定する免疫凝集阻止法が用いられる。この方法は物質Bにより凝集体の形成を阻害させることで物質Bの濃度を測定する方法である。この方法では、物質Bに特異的に結合する物質は第一工程の測定試薬に添加し、第二工程の測定試薬は物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持した微粒子、及び発色体を退色させるための構成試薬の一部から構成される。この場合の物質Bに特異的に結合する物質としては抗体等が用いられ、モノクローナル抗体やポリクローナル抗体を用いることができる。一方、物質Bと同じ抗原性を有する物質とは、物質Bと同じ抗原決定基を少なくとも1つ有する物質であり、物質B又はその誘導体、物質B又はその誘導体とタンパクの結合物、抗イディオタイプ抗体等を用いることができる。
【0043】
微粒子としては、物質Bに特異的に結合する物質を保持でき、これらを保持した粒子が物質Bと特異的な反応を起こして凝集するもの、又は、物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持でき、これらを保持した粒子が物質Bに特異的に結合する物質と反応を起こして凝集するものであれば、公知の粒子を制限なく使用することができる。本発明の免疫凝集反応はラテックス凝集法が好ましく、すなわち、ラテックス粒子を使用することが好ましい。ラテックス粒子は広く用いられているポリスチレン粒子を使用することが可能であるが、免疫凝集反応を起こすものであれば特に制限なく使用できる。そのような例として、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル酸重合体、シリカ、メタクリル酸重合体などが挙げられる。ラテックス粒子の粒径は物質Bの測定範囲や測定機器の特性に応じて適宜選択されるが、通常0.02〜1μmの範囲のものが使用でき、0.05〜0.5μmのものが好ましい。尚、微粒子に、物質Bに特異的に結合する物質又は物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持させる方法は特に制限されず、公知の物理吸着法又は化学結合法等を用いることができる。
【0044】
第二工程の測定試薬は緩衝液成分を含み、物質Bに特異的に結合する物質、又は、物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持した微粒子の安定性、免疫凝集反応、発色体を退色させるための構成試薬の安定性等を考慮して緩衝液の種類、濃度、pHが選択される。緩衝液の種類としては、リン酸塩、トリス、グリシン、グッド緩衝液等が用いられ、緩衝液の濃度は1〜500mM程度、pHは通常5〜9が好ましい。さらに、安定化剤、防腐剤、界面活性剤、免疫凝集反応を促進するポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性高分子などを添加しても良い。
【0045】
第二工程の濁度の測定は、凝集の程度を吸光度により測定する方法が用いられ、第一工程で生成した発色体を退色させた後からの任意の二点間の吸光度差又は吸光度変化率を求めることにより行われる。
【0046】
免疫凝集反応によるその他の測定方法としては、抗原に抗体を反応させ免疫複合体の沈降物を形成させその濁度を測定する免疫比濁法が知られている。免疫比濁法での濁度の測定は、凝集体形成が速いため、通常、免疫凝集反応の開始直前と開始後の吸光度差を測定する方法が用いられる。一方、本発明に免疫比濁法を採用した場合、発色体を退色させた後の最初の吸光度測定時にはすでに大半の凝集反応が終了してしまい、十分な測定感度が得にくいことから、免疫比濁法での測定は本発明には適さない。
【0047】
本発明の測定方法において、測定波長は使用する発色剤の吸収スペクトル、使用する微粒子の粒子径や微粒子の濃度、試料中に含まれる測定対象の濃度などにより適宜設定されるが、一般に400〜900nmの範囲で、好ましくは500〜800nmの範囲である。第一工程の測定と第二工程の測定は異なる波長を設定しても、或いは同一波長を設定してもどちらでも構わない。特に、同一波長で2成分が一度に測定できることは、単一波長しか搭載していない分析装置であっても2成分が一度に測定可能になることであり、利便性の向上、装置コストの低下などの優れた点をもたらす効果がある。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1 還元反応による第二工程測定時のベースライン安定化効果
(試料)
サルコシン1mg/dL液を試料として測定した。
(試液A)
4−アミノアンチピリン(0.2mg/mL)、MAOS(0.3mg/mL)、パーオキシダーゼ(30u/10mL)、サルコシンオキシダーゼ(2.7U/mL)を50mMトリス緩衝液(pH8.5)に溶解した液を調製し、さらに、この溶液に表1に示した成分を添加して試液Aとした。
(試液B)
50mMトリス緩衝液(pH8.5)に表2に示した第一試薬の添加物に応じた成分を添加して試液Bとした。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(測定方法)
測定は日立7180形自動分析装置を用いて行い、すべての反応は37℃で行った。試料5μL、試液A150μLを混合し、16ポイントまで(約5分間)反応させた後、試液B130μLを添加(17ポイント)し、さらに34ポイントまで(約5分間)反応させた。また、測定波長は主波長600nm、副波長800nmに設定した。
【0052】
(結果)
図1に各処方で測定を行った結果得られた反応タイムコースを、表3に19ポイントの吸光度及び19ポイントと34ポイントの吸光度差を示した。図1は横軸に反応時間(1ポイントは約18秒間隔)、縦軸に吸光度をプロットした図である。
本実施例では試液Aによる反応が第一工程、試液B添加後の反応が第二工程の還元反応に相当し、第二工程における免疫凝集反応時のベースラインの変動を示している。第一工程ではサルコシン測定の発色反応により吸光度が上昇し、試液B添加後の第二工程では、比較例は試液B添加により希釈されて吸光度が一旦下がり、その後持続的に吸光度が上昇しているのに対し、処方A〜Fは、第一工程で生成した発色体による吸光度は17〜19ポイント時点で消失し、さらに、19ポイントと34ポイントの間で吸光度上昇が認められなかったことから、反応終了時まで還元反応が維持されていることが確認できた。尚、19ポイント目以降は、処方A〜Fの吸光度がほぼゼロを示したため、図1の処方A〜Fのプロットは重複して示されている。この結果から、第一工程で生成した発色体が持続的に退色されることにより、第二工程のベースラインが安定化されることが判明した。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例2 発色反応とラテックス凝集法の連続測定
(試料)
以下の4種類の溶液を試料として測定を行った。
(1)グルコース0mg/dL、CRP0mg/dL (2)グルコース500mg/dL、CRP0mg/dL (3)グルコース0mg/dL、CRP4mg/dL (4)グルコース500mg/dL、CRP4mg/dL
(発色液)
4−アミノアンチピリン(0.2mg/mL)、MAOS(0.3mg/mL)、パーオキシダーゼ(30U/mL)、グルコースオキシダーゼ(7.2U/mL 天野エンザイム)、グルコース−6−リン酸(10mg/mL)、NAD(1mg/mL)を200mMトリス緩衝液(pH8.0)に溶解した液を調製して発色液とした。
(ラテックス試液)
粒子径0.1μmのポリスチレンラテックスにウサギ抗ヒトC反応性タンパク(CRP)抗体(日本バイオテスト製)を物理吸着法により担持させ、ウシ血清アルブミンでブロッキングを行うことにより、抗ヒトCRP抗体結合ラテックス懸濁液を調製した。この懸濁液にグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(0.5U/mL)、ジアホラーゼ(40U/mL)を添加してラテックス試液とした。
【0055】
(測定方法)
測定は日立7180形自動分析装置を用いて行い、すべての反応は37℃で行った。試料5μL、発色液150μLを混合し、16ポイントまで(約5分間)反応させた後、ラテックス試液130μLを添加(17ポイント)し、さらに34ポイントまで(約5分間)反応させた。また、測定波長は主波長600nm、副波長800nmに設定した。
【0056】
(結果)
本実施例では、発色液による反応が第一工程、ラテックス試液添加後の反応が第二工程に相当する。各試料を測定して得られた反応タイムコースを図2に示した。測光ポイント1から16までがグルコース測定による発色反応のタイムコース、17から34までがCRP測定による凝集反応の反応タイムコースである。ラテックス試液添加直後(17ポイント)の吸光度は、ラテックス試液自身の濁度に由来するものであり、すべての測定でほぼ一致した吸光度を示していることより、第一工程の発色体由来の吸光度が消失していることを示している。得られた反応タイムコースから、CRPの有無に関係なく第一工程のグルコース測定時の反応は一致(▲と●、○と□)し、グルコースの有無に関係なく第二工程のCRP測定時の反応は一致(○と▲、●と□)していることが確認できた。これは第一工程の発色反応の影響を受けずに第二工程のラテックス凝集反応の測定が行われていること、すなわち、発色反応とラテックス凝集反応の連続測定が可能であることを示している。
【0057】
実施例3 クレアチニンとアルブミン(免疫凝集法)の連続測定
(試料)
アルブミン0〜150μg/mL、クレアチニン0〜500mg/dLの試料を調製し、検量線を作製した。さらに、アルブミン測定時のクレアチニン測定による影響について調べるために、アルブミン0、25、100μg/mLの試料にクレアチニンを0〜500mg/dL添加させた試料を調製した。
(発色液A)
MAOS(0.4mg/mL 同仁化学研究所製)、パーオキシダーゼ(30U/mL)、クレアチンアミジノヒドロラーゼ(60U/mL 東洋紡製)、サルコシンオキシダーゼ(83U/mL 東洋紡製)、NAD(1mg/mL)を100mMトリス緩衝液(pH8.0)に溶解した液を調製して発色液Aとした。
(発色液B)
4−アミノアンチピリン(0.2mg/mL)、クレアチニンアミドヒドロラーゼ(64U/mL 東洋紡製)、グルコース−6−リン酸(10mg/mL)を100mMトリス緩衝液(pH8.0)に溶解した液を調製して発色液Bとした。
(ラテックス試液)
粒子径0.1μmのポリスチレンラテックスにウサギ抗ヒトアルブミン特異抗体(カペル製)を物理吸着法により担持させ、ウシ血清アルブミンでブロッキングを行うことにより、抗ヒトアルブミン抗体結合ラテックス懸濁液を調製した。この懸濁液にジアホラーゼ(20U/mL ユニチカ製)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(1U/mL)を添加してラテックス試液とした。
【0058】
(測定方法)
測定は日立7180形自動分析装置を用いて行い、すべての反応は37℃で行った。試料2μL、発色液A90μLを混合し、5ポイントまで(約1.5分間)反応させた後、発色液B90μLを添加(6ポイント)してさらに16ポイントまで(約3.5分間)反応させ、9ポイントと15ポイントの吸光度差を求めた。続いてこの反応液にラテックス試液90μLを添加(17ポイント)してさらに34ポイントまで(約5分間)反応させ、19ポイントと26ポイントの吸光度差を求めた。測定波長は主波長600nm、副波長800nmに設定した。
【0059】
(結果)
本実施例では、発色液Aと発色液Bによる反応が第一工程、ラテックス試液添加後の反応が第二工程に相当する。クレアチニン及びアルブミンを測定したときの検量線を図3及び図4に示した。また、図5にアルブミン測定時のクレアチニン測定による影響について調べた結果を示した。これによれば、クレアチニン濃度が変化してもアルブミン測定値に変化は認められなかった。これは還元反応による発色体の持続的退色により、クレアチニン測定に起因する第二工程のベースライン変動が十分抑制されているためである。以上の結果は、クレアチニンとアルブミンを一度に正確に測定できることを示している。
【0060】
実施例4 クレアチニンとアルブミン(免疫凝集阻止法)の連続測定
(試料)
アルブミン0〜300μg/mL、クレアチニン0〜500mg/dLの試料を調製し、検量線を作製した。さらに、アルブミン測定時のクレアチニン測定による影響について調べるために、アルブミン0、25、100μg/mLの試料にクレアチニンを0〜500mg/dL添加させた試料を調製した。(発色液A)
実施例3の発色液Aにヤギ抗ヒトアルブミン抗体(50μg/mL 日本バイオテスト製)、ポリビニルピロリドン(0.5%)を添加した。
(発色液B)
実施例3の発色液Bと同様のものを用いた。
(ラテックス試液)
粒子径0.1μmのポリスチレンラテックスにヒトアルブミン(シグマ製)を物理吸着法により担持させることにより、ヒトアルブミン結合ラテックス懸濁液を調製した。この懸濁液にジアホラーゼ(20U/mL ユニチカ製)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(1U/mL)を添加してラテックス試液とした。
【0061】
(測定方法)
測定は日立7180形自動分析装置を用いて行い、すべての反応は37℃で行った。試料3μL、発色液A90μLを混合し、5ポイントまで(約1.5分間)反応させた後、発色液B90μLを添加(6ポイント)してさらに16ポイントまで(約3.5分間)反応させ、9ポイントと15ポイントの吸光度差を求めた。続いてこの反応液にラテックス試液90μLを添加(17ポイント)してさらに34ポイントまで(約5分間)反応させ、19ポイントと26ポイントの吸光度差を求めた。測定波長は主波長600nm、副波長800nmに設定した。
【0062】
(結果)
本実施例では、発色液Aと発色液Bによる反応が第一工程、ラテックス試液添加後の反応が第二工程に相当する。クレアチニン及びアルブミンを測定したときの検量線を図6及び図7に示した。また、図8にアルブミン測定時のクレアチニン測定による影響について調べた結果を示した。実施例3の免疫凝集法と同様に、クレアチニン濃度が変化してもアルブミン測定値に変化は認められなかった。以上の結果は、第二工程の反応に凝集阻止法を用いても実施例3と同様にクレアチニンとアルブミンを一度に正確に測定できることを示している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの反応容器で試料中の2種類の物質A及びBを一度に測定する方法であって、
反応容器内で試料中の物質Aに酵素、パーオキシダーゼ、及び発色剤を作用させて過酸化水素の生成に基づく発色反応を行い、生成した発色体の測定を行う第一工程、及び、
第一工程の測定後、前記発色体を退色させる還元反応を前記反応容器内で開始及び持続させるとともに、前記反応の開始と同時に又は前記反応の開始直後に、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応を行い、濁度の測定を行う第二工程 からなる測定方法。
【請求項2】
前記、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応が、物質Bに特異的に結合する物質を保持した微粒子と、物質Bとによる凝集反応である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記、試料中の物質Bを測定するための、微粒子を使った免疫凝集反応が、物質Bに特異的に結合する物質と、物質Bと同じ抗原性を有する物質を保持した微粒子とによる凝集反応である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
前記物質Bに特異的に結合する物質が、その抗体又は物質Bが抗体である場合はそれが結合する抗原である、請求項2又は3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記物質Bと同じ抗原性を有する物質が、物質B、物質Bの誘導体、物質B又はその誘導体とタンパクの結合物、及び、抗イディオタイプ抗体から選択される、請求項3に記載の測定方法。
【請求項6】
第一工程の測定をレート法で行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
発色体を退色させる還元反応が、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体とジアホラーゼとによる反応であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
前記NADH、NADPH、又はそれらの誘導体が、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体とにデヒドロゲナーゼを作用させて生成されることを特徴とする、請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
発色体を退色させる還元反応が、NADH、NADPH、又はそれらの誘導体と電子伝達体とによる反応であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項10】
前記電子伝達体が1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルフェートであることを特徴とする、請求項9に記載の測定方法。
【請求項11】
前記NADH、NADPH、又はそれらの誘導体が、基質と、NAD、NADP、又はそれらの誘導体とにデヒドロゲナーゼを作用させて生成されることを特徴とする、請求項9に記載の測定方法。
【請求項12】
発色体を退色させる還元反応が、NAD(P)非依存性デヒドロゲナーゼ酵素、その基質、及び電子伝達体による反応であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項13】
発色体を退色させる還元反応が、アスコルビン酸又はエリソルビン酸による反応であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項14】
前記アスコルビン酸又はエリソルビン酸が、アスコルビン酸誘導体又はエリソルビン酸誘導体に酵素を作用させて生成されることを特徴とする、請求項13に記載の測定方法。
【請求項15】
第一工程と第二工程の測定を同一波長で行うことを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の測定方法。


【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55934(P2013−55934A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180300(P2012−180300)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【出願人】(000144577)株式会社三和化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】