説明

測定時期判別方法、ICP発光分析装置及びプログラム

【課題】より精度良く試料の測定時期を判別することが可能な測定時期判別方法、ICP発光分析装置、及び該ICP発光分析装置を機能させるためのプログラムを提供する。
【解決手段】ICP発光分析装置1の入力部83は、モニター元素の入力を受け付ける。中央制御部8は受け付けた元素に係る発光強度を、検出器12を介して取得する。そして取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する。また、試料の測定時期を判別した後に取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置による試料の測定時期を判別する測定時期判別方法、ICP発光分析装置、及び該ICP発光分析装置を機能させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)を光源とする元素分析装置が知られている。高周波誘導結合プラズマは高周波誘導によって発生するプラズマである。ICP光源は、一般に、プラズマトーチと呼ばれる石英管に誘導コイルを巻き付けて高周波電流(例えば、27.12MHz)を流して誘導電場を発生させ、プラズマトーチ内にアルゴンガスを導入することによりプラズマを形成する。このプラズマ内には、霧状の試料がアルゴンのキャリヤーガスにより送り込まれる。
【0003】
プラズマの温度は、通常、数千度から一万度であるため、ここで試料中の元素に固有の波長において発光が起こる。これらの発光スペクトルは回折格子またはプリズム等を備える分光器により目的波長の光が選びだされ、例えば光電子増倍管等によって発光強度が測定される。通常は、一つの波長について数秒から数分間にわたり発光強度の測定が行われ、得られた値がデータ処理部で濃度等に換算される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで試料を分析するための重要な項目として安定時間があげられる。安定時間には例えば電源の安定時間、プラズマの安定時間及び試料交換時の安定時間が存在する。試料はこの安定時間の経過後に分析される。安定時間のうち電源の安定時間及びプラズマの安定時間は装置固有の条件及び設置環境により定量的に定めることができる。
【0005】
従来、試料交換時の安定時間については、試料が入れられた容器へ導入管を移し替える際に混入する空気が、プラズマトーチに到達する時間と、霧化される試料の霧の密度が一定になる時間とを、経験的に把握しているにすぎなかった。すなわち、従来は試料導入後、当該試料がプラズマトーチに到達するまでの時間を経験的に把握しておき、その時間をもって試料交換時の安定時間として分析を開始しているにすぎなかった。
【0006】
また、試料の測定を終え、次の試料を測定する場合、蒸留水により装置内の洗浄が行われる。装置内の汚染防止及び測定精度を向上させるべく装置内は十分に洗浄する必要があるところ、従来は経験的に洗浄が終了したと判断し、その後次の試料を導入していた。
【特許文献1】特開平8−145892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法は試料交換時の安定時間を経験的に決めているにすぎず、正確とはいえなかった。すなわち、測定開始の時期に明確な基準がないという問題があった。特に、導入される試料が少量である場合、測定開始時期の遅れにより、試料を十分に分析できないという問題が発生する。
【0008】
また、従来は洗浄終了時期を経験的に判別していたため、洗浄が完全に終了していないにもかかわらず、次の試料が導入される場合があり、装置内の汚染の発生及び未洗浄試料の蓄積による計測誤差の発生を招来していた。特に試料中にメモリ作用の大きい水銀またはホウ素が存在する場合には、その影響が大きい。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モニターする元素の入力を受け付け、この受け付けた元素に係る発光強度に基づいて試料の測定時期を判別することにより、より精度良く試料の測定時期を判別することが可能な測定時期判別方法、ICP発光分析装置、及び該ICP発光分析装置を機能させるためのプログラムを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、試料の測定時期を判別した後の、取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別することにより、容易に試料の洗浄終了時期を判別でき、その後速やかに次の試料を測定することが可能な測定時期判別方法等を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、モニターする元素の入力を受け付ける前に、分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、試料の組成を分析することにより、試料中の元素を特定し、試料中の1または複数の元素をモニターする元素として受け付けることにより当該元素の測定時期を判別することが可能な測定時期判別方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る測定時期判別方法は、試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置による試料の測定時期を判別する測定時期判別方法において、モニターする元素の入力を受け付ける受け付けステップと、該受け付けステップにより受け付けた元素に係る発光強度を取得する取得ステップと、該取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する判別ステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る測定時期判別方法は、前記判別ステップにより試料の測定時期を判別した後の、前記取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する終了時期判別ステップをさらに備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る測定時期判別方法は、前記判別ステップは、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断する変化判別ステップと、該変化判別ステップにより前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する範囲判別ステップと、該範囲判別ステップにより所定範囲内であると判別した場合に、試料の測定時期であると判別するステップとを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る測定時期判別方法は、前記終了時期判別ステップは、前記判別ステップにより試料の測定時期を判別した後に、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断するステップと、該ステップにより前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別するステップと、該ステップにより所定範囲内であると判別した場合に、試料の洗浄終了時期であると判別するステップとを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る測定時期判別方法は、前記受け付けステップによりモニターする元素の入力を受け付ける前に、分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、試料の組成を分析する分析ステップをさらに備え、前記受け付けステップは、前記分析ステップにより分析された試料中の元素を、モニターする元素として受け付けることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る測定時期判別方法は、試料の含有元素が未知の場合に、測定対象以外の元素を添加するステップをさらに備え、前記受け付けステップは、前記添加した元素をモニターする元素として受け付けることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るICP発光分析装置は、試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置において、モニターする元素の入力を受け付ける受け付け手段と、該受け付け手段により受け付けた元素に係る発光強度を取得する取得手段と、該取得手段により取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する判別手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るICP発光分析装置は、前記判別手段により試料の測定時期を判別した後の、前記取得手段により取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する終了時期判別手段をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るICP発光分析装置は、前記判別手段は、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断する変化判別手段と、該変化判別手段により前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する範囲判別手段と、該範囲判別手段により所定範囲内であると判別した場合に、試料の測定時期であると判別する手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るICP発光分析装置は、前記終了時期判別手段は、前記判別手段により試料の測定時期を判別した後に、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断する手段と、該手段により前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する手段と、該手段により所定範囲内であると判別した場合に、試料の洗浄終了時期であると判別する手段とを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るICP発光分析装置は、前記受け付け手段によりモニターする元素の入力を受け付ける前に、分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、試料の組成を分析する分析手段をさらに備え、前記受け付け手段は、前記分析手段により分析された試料中の元素を、モニターする元素として受け付けるよう構成してあることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るプログラムは、試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置による試料の測定時期を判別するためのプログラムにおいて、ICP発光分析装置に、モニターする元素の入力を受け付ける受け付けステップと、該受け付けステップにより受け付けた元素に係る発光強度を取得する取得ステップと、該取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する判別ステップとを実行させることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るプログラムは、前記判別ステップにより試料の測定時期を判別した後の、前記取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する終了時期判別ステップをさらに実行させることを特徴とする。
【0025】
本発明にあっては、受け付け手段は、モニターする元素の入力を受け付ける。取得手段によりこの受け付けた元素に係る発光強度を取得する。そして判別手段は、取得手段により取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する。この判別は、例えば、取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断し、所定値より大きいと判断した場合に、取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する。そして、発光強度の時間的変化が所定範囲内であると判別した場合に、試料の測定時期であると判別する。
【0026】
また、かかる判別は例えば、取得手段により取得した発光強度が、予め記憶した閾値を超えた場合に、試料の測定時期と判別する。このように構成したので、精度良く試料の測定時期を判別することが可能となる。
【0027】
本発明にあっては、終了時期判別手段は、判別手段により試料の測定時期を判別した後の、取得手段により取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する。この判別は例えば、判別手段により試料の測定時期を判別した後に、取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断し、所定値より大きいと判断した場合に、取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する。そして、発光強度の時間的変化が所定範囲内であると判別した場合に、試料の洗浄終了時期であると判別する。
【0028】
本発明にあっては、分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、事前に定性分析を行う。これにより試料の組成が分析されるので、この分析による試料中の元素に関し計測でき、その後最適な元素をモニターする元素として選択し、最適なタイミングで試料の測定時期を判別することが可能となる。モニターする元素とは、試料中の元素の少なくとも一つが既知の場合、当該既知の元素から少なくとも一つ選択され、測定時期を判別するためにその発光強度変化をモニターされる元素のことである。試料中の元素が全く分からない場合、測定対象元素が決まっているならば、測定対象元素以外の任意の元素を試料に添加し、その添加された試料をモニターする元素として選択できる。また、試料の元素を分析したいのであれば、試料中に含まれる組成を分析する定性分析の後、定量分析をするときに、事前に分析した定性分析の結果からモニターする元素を選択することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にあっては、受け付け手段は、測定対象となる元素の入力を受け付け、取得手段によりこの受け付けた元素に係る発光強度を取得する。そして判別手段は、取得手段により取得した発光強度の時間的変化に基づいて試料の測定時期を判別するので、例えば、モニターする元素の発光強度の時間的変化が所定値よりも大きい場合、所定範囲内に収まったときに安定したと判断し、測定対象の元素分析(所謂定性分析または定量分析)を開始するなど、精度良く試料の測定時期を判別することが可能となる。これにより、ユーザの経験の有無を問わず最適なタイミングで試料の測定を開始することが可能となる。また、モニターする元素が試料に含まれているか不明な場合は、測定対象の試料以外の任意の元素を試料に添加し、その元素をモニター元素として発光強度の変化を見ることで同様の効果も得られる。
【0030】
本発明にあっては、終了時期判別手段は、判別手段により試料の測定時期を判別した後の、取得手段により取得した発光強度の時間的変化に基づいて試料の洗浄終了時期を判別するので、計測を終えた試料の洗浄終了時期をより正確に認識することが可能となる。これにより、ユーザの経験の有無を問わず、より正確に洗浄終了時期を認識でき、装置内の汚染及び計測誤差の発生を防止することが可能となる。特に、水銀またはホウ素等の他の元素よりも試料の洗浄に時間のかかるメモリ効果の大きい試料を計測する際にその効果が大きい。
【0031】
本発明にあっては、モニターする元素を受け付ける前に分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、定性分析を行うと、この分析による試料中の元素に関し計測でき、その後例えば定量分析を行うときは最適なタイミングで試料の測定時期を判別することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
実施の形態1
図1は本発明に係るICP発光分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。ICP発光分析装置1は、プラズマトーチ2,高周波電源3,高周波コイル5,ガス制御部6,試料導入部7,ポンプ9,導入管10,分光器11,検出器12,分光器制御部112,及び、取得手段としての中央制御部8を含んで構成される。
【0033】
プラズマトーチ2にはアルゴンガスが流れ、これを取り巻く高周波コイル5に高周波電源3からの高周波が供給されることによって、プラズマ4が生成される。分析対象である試料は例えば、Feを含む溶液またはNiを含む溶液等が用いられる。洗浄用の蒸留水は蒸留水容器13に蓄えられており、導入管10を介してポンプ9により吸入され試料導入部7へ導かれる。
【0034】
試料は試料容器14に蓄えられており、試料の分析を開始する場合は、蒸留水容器13に挿入されている導入管10を試料容器14へ移し替える。導入管10が試料容器14へ挿入された場合、試料は導入管10を介してポンプ9により吸入され試料導入部7へ導かれる。なお、本実施の形態においては手動で導入管10を蒸留水容器13及び試料容器14間で移し替える形態につき説明するが、例えばオートサンプラーを用いて自動で移し替えるようにしても良い。
【0035】
試料導入部7へ導入された蒸留水、空気及び試料は霧状になりプラズマトーチ2へ送られる。プラズマトーチ2を流れるガスおよび試料導入部7で試料の霧化に用いられるガスの流量はガス制御部6により制御されている。また高周波出力,ガス流量などの測定条件は中央制御部8により制御されている。
【0036】
プラズマ4により生じた発光は分光器11を経て検出器12に到達する。検出器12は分光器11により分光された特定波長の光を電気信号に変換し、図示しない増幅回路により電気信号を増幅する。増幅後の電気信号はデジタル化され、光の強度に関する情報(発光強度)として中央制御部8へ出力される。分光器11は内部に回折格子111またはプリズムを備え特定波長の光を取り出す。分光器制御部112は中央制御部8及び分光器11に接続されており、中央制御部8からの指示により分光器11内の回折格子111の回動を制御する。なお、本実施の形態においては、分光器11としてモノクロメータを用いた形態につき説明するが、ポリクロメータを用いても良い。
【0037】
中央制御部8は例えばパーソナルコンピュータが用いられ、CPU(Central Processing Unit)81,RAM(Random Access Memory)82,記憶部85,入力部83,表示部84を含んで構成され、検出器12から出力される情報に基づき、各種データの処理、分光器制御部112の制御及び試料導入部7等の各種ハードウェアの制御を行う。なお、本実施の形態においてはパーソナルコンピュータにより各種処理を行う形態を示すが、これらの処理を集積回路等のハードウェアにより実現しても良い。
【0038】
CPU81は、バス87を介して中央制御部8のハードウェア各部と接続されていて、それらを制御すると共に、ハードディスク等の記憶部85に格納された制御プログラムに従って、種々のソフトウェア的機能を実行する。制御プログラムは、C言語等のプログラミング言語で記述されている。
【0039】
RAM82は、SRAM(Static Random Access Memory)またはフラッシュメモリ等で構成され、ソフトウェアの実行時に発生する一時的なデータを記憶する。入力部83は例えばキーボード、マウス等から構成され、ユーザが入力した情報をCPU81へ出力する。表示部84はLCD(Liquid Crystal Digital)ディスプレイ等で構成され、分析開始時期等の各種情報をCPU81の指示に基づき表示する。なお、入力部83及び表示部84はタッチパネルにより一体的に構成するようにしても良い。
【0040】
プラズマトーチ2、試料導入部7及び導入管10等の内部を洗浄するため、試料の測定に先立ち、導入管10からは蒸留水が導入される。ここで、ユーザは入力部83からモニターする元素(以下モニター元素という)を入力する。このモニター元素は、試料中の含有元素が少なくとも一つ分かっている場合は、その既知の元素から少なくとも一つ選択されモニター元素としても良い。この場合、既知の含有元素が測定対象の元素を含んでいる場合、その元素をモニター元素とすると、測定する二度手間を省くことができる。また試料中の含有元素が未知の場合は、測定対象の元素以外の任意の元素を試料に添加し、その添加した試料をモニター元素とすればよい。CPU81は、入力部83から入力された測定対象となる元素の入力を受け付ける。CPU81は、受け付けた元素の情報を分光器制御部112へ出力する。分光器制御部112は、回折格子111を、受け付けた元素に対応する角度まで回動する。続いてユーザは蒸留水容器13から試料容器14へと導入管10を移し替える。図2は検出器12から出力される発光強度の時間的変化を示すグラフである。図2において横軸は時間を示し、縦軸は光の発光強度を相対的に示すものである。
【0041】
本実施の形態においてはモニター元素として鉄(Fe)の入力を受け付けたものとする。なお、CPU81は、記憶部85から化学記号の周期表を読み出して表示部84に表示し、入力部83からユーザが選択した元素をモニター元素として受け付けるようにしても良い。図2のグラフは、回折格子111を鉄の波長を検出する角度へ回動させ、検出器12から出力される鉄の発光強度の時間的変化を示したものである。蒸留水に次いで鉄を含む試料が導入され、約10秒経過後に発光強度が急激に増加し、約15秒経過後に発光強度が安定したことが理解できる。
【0042】
中央制御部8は導入時期を判別すべく以下の処理を行う。中央制御部8のCPU81は出力された発光強度の時間的変化を算出し、記憶部85に予め記憶した所定値よりも大きいか否かを判断する。鉄を含む試料が導入された後、発光強度は時間的に急激に変化する。CPU81はこの時間的変化が所定値よりも大きい場合、発光強度の時間的変化が一定時間所定の範囲内であるか否かを判断する。これは例えば、CPU81が所定時間内の発光強度の標準偏差値または分散値を演算し、これが記憶部85に記憶した基準となる標準偏差値または分散値以下であるか否かを判断する。以下では標準偏差値を用いた例につき説明する。
【0043】
CPU81が、発光強度の時間的変化が一定時間所定の範囲内であると判断した場合、安定したつまり測定時期に達したと判別し、記憶部85から所定のメッセージを読み出し、表示部84に表示する。このメッセージは、例えば「測定開始が可能です。」等とすればよい。その後、試料に含まれる元素の測定(定性分析)、もしくは予め決められた測定対象の元素が試料中にどれだけ含まれているかの分析(定量分析)を開始する。
【0044】
所定の計測後、ユーザは導入管10を試料容器14から蒸留水容器13へと移し替える。図2に示すように約40秒経過後に鉄を含む試料の洗浄が進み、約60秒経過後には洗浄が終了していることが理解できる。CPU81は、発光強度の時間的変化が一定時間所定の範囲内であると判断した後に、CPU81は出力された発光強度の時間的変化を算出し、記憶部85に予め記憶した所定値よりも大きいか否かを判断する。
【0045】
鉄を含む試料に代えて蒸留水が導入された後、発光強度は時間的に急激に減少する。CPU81はこの時間的変化が所定値よりも大きい場合、発光強度の時間的変化が一定時間所定の範囲内であるか否かを判断する。これは上述した処理と同様に例えば、CPU81が所定時間内の発光強度の標準偏差値を演算し、これが記憶部85に記憶した基準となる標準偏差値以下であるか否かを判断する。CPU81が、発光強度の時間的変化が一定時間所定の範囲内であると判断した場合、洗浄終了時期に達したと判別し、記憶部85から所定のメッセージを読み出し、表示部84に表示する。このメッセージは、例えば「次の試料の導入が可能です。」または「洗浄が終了しました。」等とすればよい。
【0046】
以上のハードウェア構成において測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を、フローチャートを用いて説明する。図3は測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を示すフローチャートである。試料の導入に先立ち、ユーザは入力部83からモニター元素を入力する。CPU81は、入力部83から入力されたモニター元素の入力を受け付ける(ステップS31)。CPU81は、受け付けた元素の情報を分光器制御部112へ出力する。分光器制御部112は、回折格子111を、受け付けた元素に対応する角度まで回動する(ステップS32)。
【0047】
中央制御部8は検出器12から出力される発光強度を取得する(ステップS33)。CPU81は取得した発光強度を逐次RAM82に記憶すると共に、発光強度の時間的変化を算出し、記憶部85に予め記憶した所定値よりも大きいか否かを判断する(ステップS34)。CPU81は発光強度の時間的変化が所定値より小さいと判断した場合(ステップS34でNO)、まだ蒸留水が供給されていると判断し、ステップS34の処理を繰り返す。
【0048】
一方、CPU81は発光強度の時間的変化が所定値より大きいと判断した場合(ステップS34でYES)、試料が供給され始めたと判断し、所定時間内における発光強度の時間的変化が、記憶部85に予め記憶した標準偏差値の範囲内であるか否かを判断する(ステップS35)。CPU81は発光強度の時間的変化が標準偏差値の範囲内でないと判断した場合(ステップS35でNO)、安定時間に達していないものとして、ステップS35の処理を繰り返す。一方、CPU81は発光強度の時間的変化が標準偏差値の範囲内であると判断した場合(ステップS35でYES)、測定時期と判別し、記憶部85から読み出したメッセージを表示部84へ表示する(ステップS36)。
【0049】
その後、CPU81は発光強度の時間的変化が記憶部85に予め記憶した所定値よりも大きいか否かを判断する(ステップS37)。CPU81は発光強度の時間的変化が所定値より小さいと判断した場合(ステップS37でNO)、試料の供給が継続されていると判断し、ステップS37の処理を繰り返す。
【0050】
一方、CPU81は発光強度の時間的変化が所定値より大きいと判断した場合(ステップS37でYES)、試料に代えて蒸留水が供給され始めたと判断し、所定時間内における発光強度の時間的変化が、記憶部85に予め記憶した標準偏差値の範囲内であるか否かを判断する(ステップS38)。なお、この標準偏差値はステップS35で記憶部85から読み出した標準偏差値よりも小さい値としても良い。CPU81は発光強度の時間的変化が標準偏差値の範囲内でないと判断した場合(ステップS38でNO)、洗浄がまだ終了していないものとして、ステップS38の処理を繰り返す。一方、CPU81は発光強度の時間的変化が標準偏差値の範囲内であると判断した場合(ステップS38でYES)、洗浄終了時期と判別し、記憶部85から読み出したメッセージを表示部84へ表示する(ステップS39)。
【0051】
実施の形態2
実施の形態1においては、発光強度の時間的変化が所定値よりも大きいか否かを判断し、その後発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判断したが、例えば定性分析の後に定量分析をする等、試料中の含有元素の少なくとも一つの発光強度が既知の場合、定性分析等で求めた大まかな発光強度を閾値として設定することにより、実施の形態2の如く予め記憶した閾値に基づいて判断しても良い。
【0052】
図4は実施の形態2に係る測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を示すフローチャートである。試料の導入に先立ち、ユーザは入力部83からモニター元素を入力する。CPU81は、入力部83から入力されたモニター元素の入力を受け付ける(ステップS41)。CPU81は、受け付けた元素の情報を分光器制御部112へ出力する。分光器制御部112は、回折格子111を、受け付けた元素に対応する角度まで回動する(ステップS42)。
【0053】
中央制御部8は検出器12から出力される発光強度を取得する(ステップS43)。CPU81は記憶部85から閾値を読み出す(ステップS44)。これは入力部83から適宜の発光強度が閾値として入力される。CPU81は、発光強度が読み出した閾値以上であるか否かを判断する(ステップS45)。CPU81は発光強度が閾値以上でないと判断した場合(ステップS45でNO)、安定時間に達していないものとして、ステップS45の処理を繰り返す。一方、CPU81は発光強度が閾値以上であると判断した場合(ステップS45でYES)、測定時期と判別し、記憶部85から読み出したメッセージを表示部84へ表示する(ステップS46)。
【0054】
その後、CPU81は記憶部85から閾値を読み出す(ステップS47)。なお、この閾値はステップS44にて読み出した閾値とは異なる値としても良い。CPU81は、発光強度が読み出した閾値以下であるか否かを判断する(ステップS48)。CPU81は発光強度が閾値以下でないと判断した場合(ステップS48でNO)、洗浄が終了していないものとして、ステップS48の処理を繰り返す。一方、CPU81は発光強度が閾値以下であると判断した場合(ステップS48でYES)、洗浄終了時期と判別し、記憶部85から読み出したメッセージを表示部84へ表示する(ステップS49)。なお、実施の形態1の処理と実施の形態2の処理とを組み合わせても良い。例えば、測定時期の判別について実施の形態1に係るステップS34及びステップS35の処理を用い、洗浄終了時期の判別について実施の形態2に係るステップS48の処理を用いて行う等、標準偏差値による判別と閾値を用いた判別とを適宜組み合わせても良い。
【0055】
本実施の形態2は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0056】
実施の形態3
事前に定性分析、すなわち試料中の元素の組成を分析した後に実施の形態1または2に記載の測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を行っても良い。図5は実施の形態3に係るICP発光分析装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。実施の形態1の構成に加えて記憶部85には定性分析で得られた定性分析ファイル851が記憶されている。図6は定性分析ファイル851のレコードレイアウトを示す説明図である。例えば定性分析ファイル851は元素フィールド、比較発光強度フィールド及び波長と関連づけられる回動角度フィールドを含んで構成される。元素フィールドには、定性分析で得られた複数の元素が記憶されている。比較発光強度フィールドには、元素に対応させて、閾値となる比較発光強度が記憶されている。回動角度フィールドには元素に対応させて、当該元素の発光強度を検出する際の回折格子111の回動角度が記憶されている。なお、単位は度である。
【0057】
CPU81は発光強度が比較発光強度よりも大きいと判断した場合は、対応する元素が試料中に含まれていると判断する。図6の例では、回折格子111の回動角度が10度の場合に検出器12から出力される発光強度が比較発光強度30以上の場合、Feが試料中に含まれていると判断する。CPU81は事前に行われた定性分析により、定性した元素を表示部84へ表示する。ユーザはこれら表示された元素から、モニター元素を入力部83から選択する。CPU81はこの選択された元素の入力を受け付け、モニター元素の発光強度の時間的変化が所定値よりも大きい場合、時間的変化が所定範囲内であるかを判断するか、若しくは、発光強度が、定性分析ファイル851から読み出した比較発光強度よりも大きいか否かを判断し、上述した測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を行う。なお、試料中に所定濃度のイットリウムまたは希土類元素等の元素を添加し、添加した元素の発光強度を測定するようにしても良い。この場合、CPU81は入力部83から入力される添加元素の情報を受け付け、分光器制御部112は回折格子111を添加元素に係る角度へ回動する。そして上述した測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を行なう。
【0058】
本実施の形態3は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1及び2と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0059】
実施の形態4
図7は実施の形態4に係るICP発光分析装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。実施の形態1乃至3に係るICP発光分析装置1を動作させるためのプログラムは、本実施の形態4のように、CD−ROM、メモリーカード等の可搬型記録媒体1Aで提供することも可能である。さらに、プログラムを、LAN、またはインターネット等の図示しない通信網を介して図示しないサーバコンピュータからダウンロードすることも可能である。以下に、その内容を説明する。
【0060】
図7に示すICP発光分析装置1の図示しない記録媒体読み取り装置に、元素の選択を受け付けさせ、発光強度を取得させ、測定時期を判別させ、洗浄終了時期を判別させるプログラムが記録された可搬型記録媒体1Aを、挿入して記憶部85のプログラム内にこのプログラムをインストールする。または、かかるプログラムを、図示しない通信部を介して外部の図示しないサーバコンピュータからダウンロードし、記憶部85にインストールするようにしても良い。かかるプログラムはRAM82にロードして実行される。これにより、上述のような本発明のICP発光分析装置1として機能する。
【0061】
本実施の形態4は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1乃至3と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るICP発光分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図2】検出器から出力される発光強度の時間的変化を示すグラフである。
【図3】測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態2に係る測定時期及び洗浄終了時期の判別処理を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態3に係るICP発光分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図6】定性分析ファイルのレコードレイアウトを示す説明図である。
【図7】実施の形態4に係るICP発光分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ICP発光分析装置
8 中央制御部
10 導入管
11 分光器
12 検出器
13 蒸留水容器
14 試料容器
81 CPU(制御部)
82 RAM
83 入力部
84 表示部
85 記憶部
851 定性分析ファイル
111 回折格子
112 分光器制御部
1A 可搬型記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置による試料の測定時期を判別する測定時期判別方法において、
モニターする元素の入力を受け付ける受け付けステップと、
該受け付けステップにより受け付けた元素に係る発光強度を取得する取得ステップと、
該取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する判別ステップと
を備えることを特徴とする測定時期判別方法。
【請求項2】
前記判別ステップにより試料の測定時期を判別した後の、前記取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する終了時期判別ステップ
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の測定時期判別方法。
【請求項3】
前記判別ステップは、
前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断する変化判別ステップと、
該変化判別ステップにより前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する範囲判別ステップと、
該範囲判別ステップにより所定範囲内であると判別した場合に、試料の測定時期であると判別するステップと
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の測定時期判別方法。
【請求項4】
前記終了時期判別ステップは、
前記判別ステップにより試料の測定時期を判別した後に、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断するステップと、
該ステップにより前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得ステップにより取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別するステップと、
該ステップにより所定範囲内であると判別した場合に、試料の洗浄終了時期であると判別するステップと
を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の測定時期判別方法。
【請求項5】
前記受け付けステップによりモニターする元素の入力を受け付ける前に、分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、試料の組成を分析する分析ステップをさらに備え、
前記受け付けステップは、
前記分析ステップにより分析された試料中の元素を、モニターする元素として受け付ける
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の測定時期判別方法。
【請求項6】
試料の含有元素が未知の場合に、測定対象以外の元素を添加するステップをさらに備え、
前記受け付けステップは、
前記添加した元素をモニターする元素として受け付ける
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の測定時期判別方法。
【請求項7】
試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置において、
モニターする元素の入力を受け付ける受け付け手段と、
該受け付け手段により受け付けた元素に係る発光強度を取得する取得手段と、
該取得手段により取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する判別手段と
を備えることを特徴とするICP発光分析装置。
【請求項8】
前記判別手段により試料の測定時期を判別した後の、前記取得手段により取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する終了時期判別手段
をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のICP発光分析装置。
【請求項9】
前記判別手段は、
前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断する変化判別手段と、
該変化判別手段により前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する範囲判別手段と、
該範囲判別手段により所定範囲内であると判別した場合に、試料の測定時期であると判別する手段と
を備えることを特徴とする請求項7または8に記載のICP発光分析装置。
【請求項10】
前記終了時期判別手段は、
前記判別手段により試料の測定時期を判別した後に、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定値より大きいか否かを判断する手段と、
該手段により前記所定値より大きいと判断した場合に、前記取得手段により取得した発光強度の時間的変化が所定範囲内であるか否かを判別する手段と、
該手段により所定範囲内であると判別した場合に、試料の洗浄終了時期であると判別する手段と
を備えることを特徴とする請求項8または9に記載のICP発光分析装置。
【請求項11】
前記受け付け手段によりモニターする元素の入力を受け付ける前に、分光器から出力される各元素に対応する発光強度に基づき、試料の組成を分析する分析手段をさらに備え、
前記受け付け手段は、
前記分析手段により分析された試料中の元素を、モニターする元素として受け付けるよう構成してある
ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一つに記載のICP発光分析装置。
【請求項12】
試料中の元素の発光強度を測定するICP発光分析装置による試料の測定時期を判別するためのプログラムにおいて、
ICP発光分析装置に、
モニターする元素の入力を受け付ける受け付けステップと、
該受け付けステップにより受け付けた元素に係る発光強度を取得する取得ステップと、
該取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の測定時期を判別する判別ステップと
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項13】
前記判別ステップにより試料の測定時期を判別した後の、前記取得ステップにより取得した発光強度に基づいて試料の洗浄終了時期を判別する終了時期判別ステップ
をさらに実行させることを特徴とする請求項12に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−164513(P2008−164513A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356212(P2006−356212)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】