説明

測定装置および分析チップ

【課題】タンパク質等の直接的に電気化学測定を行うことのできない被測定物質に対しても、前処理反応により電気化学的分析などの正確な定量測定を行うことのできる簡便な測定装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、前処理反応を行うための反応部、上記反応部内の反応液の余剰液を除去するための吸収性部材を備えた廃液機構、および、被測定物質を測定するための測定部を備え、上記廃液機構は、上記反応部における上記前処理反応に必要な時間を確保できるように廃液時間が調節されたものである、被測定物質の測定装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物質の測定に用いられる廃液機構を有する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNAや酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称して分析チップと称する。)が提案されている。分析チップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm〜1cm程度のチップ内で簡易に行なえるように作られており、検体および試薬が微量で済むため、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。このような分析チップは、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0003】
現在、さまざまな手法で、生体由来の各種物質の簡易測定が行われている。インフルエンザ検査、妊娠検査、血糖値の測定などといった、主に医療分野において、簡易かつ安価であり、一般人の需要も高く、大きな市場を獲得している。今後もますます大きな市場を形成することが期待される。
【0004】
生体サンプル(サンプルは被測定物質の未知濃度の溶液)中に極微量しか存在しない生理活性物質を選択的に捕捉して高感度な分析を行うには、酵素センサ、酵素試験紙等、酵素触媒の高い分子認識メカニズムを利用した酵素反応、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素標識免疫測定法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay;ELISA)、イムノセンサ、発光酵素免疫測定法(Chemiluminesent Enzyme Immunoassay;CLEIA)、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;SPR)等、抗原抗体反応の高い分子認識メカニズムを利用したイムノアッセイや、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)、表面プラズモン励起増強蛍光分光 (Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy;SPFS)等、DNAの高い分子認識メカニズムを利用したハイブリダイゼーション等が用いられている。
【0005】
分子認識自体は、原理的には上述の分子認識メカニズムが利用できるが、それを物理量、化学量として取り出すには、もう一工夫が必要である。タンパク質、神経伝達物質、ホルモン等の被測定物質の多くは、その化学反応において低分子量の単純な分子を生成することはまれなので、血糖測定器の被測定物質であるグルコースのように酸化還元性の高いH22の生成やO2の消費に結びつけることが難しく、その結果、複雑な分析工程が必要となることが多い。例えば、ストレスホルモンとして知られているコルチゾールは、分子量が362.47、しかないハプテン、つまり単価抗原である。よって、複数抗体を分子認識に用いたサンドイッチ法を適用することができず、競合法を適用する必要がある。その結果、サンプル注入→被測定物質―標識物質複合体との競合反応→未反応物質の除去→酵素基質の注入→反応強度測定という分析工程が必要となる。
【0006】
特に、「未反応物質の除去」が適切に行われないと、検出信号のベースラインが高くなってしまい、反応後の検出信号との差異が小さくなり、せっかく高感度なイムノアッセイやハイブリダイゼーション等の分子認識メカニズムを適用しているにもかかわらず、必要とされる分析精度が得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
直接的に電気化学測定を行うことのできないタンパク質等の被測定物質を分析チップなどを用いた簡便な方法で測定しようとした場合、電気化学的分析などのために必要な前処理反応に供される反応液(被測定物質および試薬を含む液)の余剰分を、如何にして簡便な手法で除去できるかが課題となる。
【0008】
したがって、本発明は、直接的に電気化学測定を行うことのできないタンパク質等の被測定物質に対しても、前処理反応を行うことにより電気化学的分析などの正確な定量測定を行うことのできる簡便な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前処理反応を行うための反応部、上記反応部内の反応液の余剰液を除去するための吸収性部材を備えた廃液機構、および、被測定物質を測定するための測定部を備え、
上記廃液機構は、上記反応部における上記前処理反応に必要な時間を確保できるように廃液時間が調節されたものである、被測定物質の測定装置である。
【0010】
ここで「廃液時間」とは、反応液を上記反応部に導入してから廃液が開始されるまでの時間(以下、「廃液開始時間」と略す。)と、吸収性部材に余剰液が吸収される時間(以下、「吸収時間」と略す。)の和である。
【0011】
上記反応部、上記測定部および上記吸収性部材が基板上に配置されることが好ましい。
上記吸収性部材が、上記毛細幹部の稜線の長さを変えることによって、上記吸収時間が調節されることが好ましい。
【0012】
上記反応部と上記吸収性部材との間に間隙を有することが好ましい。
上記間隙の大きさを調整することにより上記廃液開始時間が調節されることが好ましい。
【0013】
上記反応液を上記吸収性部材に導くためのガイド部材を備えることが好ましい。
上記ガイド部材が、上記反応部を少なくとも水平方向に囲む部材であり、上記反応液の上記吸収性部材への流路となる開口部を有することが好ましい。
【0014】
上記吸収性部材は、上記反応液の吸収が開始される毛細管部と、それ以外の貯水部からなり、上記毛細管部の形状を調節することにより上記吸収時間が調節されることが好ましい。
【0015】
上記毛細管部の上面から見た形状が矩形、三角形または櫛歯形であることが好ましい。
上記吸収性部材は、上記貯水部の体積を調節することにより上記吸収時間が調節されることが好ましい。
【0016】
上記反応部と上記測定部が一体になっていることが好ましい。
また、本発明は、前処理反応を行うための反応部と、上記反応部内の反応液の余剰液を除去するための吸収性部材を備えた廃液機構とを備え、上記廃液機構は、上記反応部における上記前処理反応に必要な時間を確保できるように廃液時間が調節されたものである、被測定物質の測定装置に用いられる分析チップにも関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の測定装置は、反応部に導入された余剰な反応液を廃液するために、吸収性部材を用いた特定の廃液機構を備えたことにより、何ら動力を必要とすることなく簡便な構成で、反応部に導入された反応液の廃液時間を調節しながら、反応液の余剰液を廃液することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1を示す図である。(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は縦断面図である。
【図2】(a)〜(h)は、本発明に用いられる廃液機構を説明するための縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態2を示す図である。(a)は斜視図、(b)は上面図である。
【図4】本発明の実施形態3を示す図である。(a)は斜視図、(b)は上面図である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明の実施形態3における廃液機構を説明するための模式断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、本発明の実施形態4の吸収性部材を示す上面図である。
【図7】本発明の実施形態5を示す上面図である。
【図8】実施例におけるアクリル基板上の液量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の測定装置は、被測定物質および試薬を含む反応液の前処理反応を行った後に、被測定物質を定量するための測定を行う装置である。そして、前処理反応を行うための反応部に導入された反応液の余剰液を、吸収性部材によって吸収し除去する廃液機構を備え、反応部における前処理反応に必要な時間を確保できるように、反応液の廃液時間が調節されたことを特徴とするものである。
【0020】
例えば、血液中などに存在するグルコースは、酵素であるグルコースオキシダーゼ等が触媒となる反応により酸化還元電流を生じるため、この電流を測定することにより電気化学的に直接検出することが可能である。一方、生体中に存在する種々のタンパク質の多くは、直接的に酸化還元電流を生じるような反応を行わせて電気化学的に定量・定性することが困難である。このため、生体中のタンパク質などを電気化学的測定を用いて測定する際には、被測定物質と、被測定物質−酵素標識複合体とを競合反応させて、酵素標識を利用して電気化学的に検出する方法が用いられる。本発明は、このように電気化学的に直接検出することができない被測定物質についても、間接的な前処理反応を介して電気化学的分析を行うことのできる簡便な測定装置である。
【0021】
したがって、本発明の測定装置は、測定の対象となる被測定物質が、電気化学的に直接検出することのできない物質である場合に好適に用いられる。そのような被測定物質として、具体的には、例えば、酵素などのタンパク質、核酸、ホルモンなどの生理活性物質、神経伝達物質、低分子化合物などの生化学物質が挙げられる。好ましくは、低分子化合物であり、より好ましくは、コルチコイドおよびその誘導体である。コルチコイドとしては、コルチゾール、コルチコステロン、コルチゾンなどが挙げられ、好ましくはコルチゾールである。
【0022】
反応液とは、電気化学的分析などの被測定物質の定量測定のために必要な前処理反応に供される液であり、被測定物質および必要な試薬を含む液である。具体的には、例えば、前処理反応として競合法を利用し、反応部に抗体が保持されている場合、抗原(被測定物質)および抗原と電気化学的に検出可能な標識物質との複合体(以下、「抗原(被測定物質)−標識物質複合体」と略すことがある)を含む液や、抗原抗体反応後の余剰な抗原や被測定物質−標識物質複合体を除去するための洗浄液などが上記反応液に含まれる。
【0023】
反応液にはサンプルも含まれる。ここではサンプルとは、被測定物質を含む液体であり、具体的に、被測定物質が唾液、汗、血液などの生体由来の液体成分に含まれる場合は、これらの生体由来の液体成分そのものである。サンプルをそのまま反応液の一部として用いることができる。これらの生体由来の液体成分のうちでも、非浸襲的な採取が可能である点で、唾液、汗をサンプルとして用いることが好ましい。なお、液体成分中の夾雑物質などが問題となる場合は、抽出や遠心分離等の処理を行った後に、後述の展開洗浄液と同じ媒質などに分散または溶解させた液をサンプルとして用いてもよい。分析の簡便性の観点からは、生体由来の液体成分そのものをサンプルとすることが好ましい。
【0024】
本発明の測定装置を用いた測定においては、例えば、サンプルが反応部に導入された後に前処理反応に必要な試薬を含む液が導入され、前処理反応が行われる。その後、必要に応じて、例えば、抗体に結合していない余剰の被測定物質および被測定物質−標識物質複合体を洗い流して、反応部から取り除くための洗浄液が反応部に導入される。
【0025】
洗浄液は、被測定物質の種類や上記被測定物質−標識物質複合体の種類などに応じて適宜選択される。例えば、被測定物質がコルチコイドであり、被測定物質−標識物質複合体がコルチコイド−GOD複合体である場合に用いられる展開洗浄液としては、リン酸緩衝液、HEPES、Tris buffer、Acetate bufferなどが挙げられる。特にコルチコイドがコルチゾールである場合は、リン酸緩液を洗浄液として用いることが好ましい。
【0026】
本発明における前処理反応では、上記反応液(洗浄液等を含む)が反応部の容積に対して過剰に導入されるため、余剰の反応液を除去(廃液)する必要がある。前処理反応としては、上述の競合反応を利用した反応の他にも、サンドウィッチ法などが挙げられる。
【0027】
測定装置の反応部とは、反応液が少なくとも上記前処理反応に必要な時間保持される領域であり、具体的には、例えば、反応液を吸収し一定時間保持するためのサンプルパッドを含む領域や、反応液が一定時間保持されるように隔壁で囲まれた領域が挙げられる。反応液を反応部に導入する方法は、特に限定されないが、滴下などの方法が挙げられる。
【0028】
反応部は、必要に応じて、前処理反応に必要な被測定物質−標識物質複合体等の試薬や、電気化学的分析に必要な試薬などを含んでいてもよい。例えば、前処理反応が抗原抗体反応を利用した競合反応である場合に用いられる試薬としては、抗体−標識物質複合体が挙げられる。この複合体と抗原とを競合させた状態で、反応部の電極上等に保持された抗体との抗原抗体反応を行い、抗体と結合した複合体の標識を電気化学分析などにより検出することで、結果的に被測定物質の定量測定を行うことができる。なお、反応部には、1種の試薬のみが保持されていてもよく、2種以上の試薬が保持されていてもよい。
【0029】
吸収性部材は、余剰の反応液を吸収できる部材であれば特に限定されないが、例えば、吸湿性繊維、多孔性樹脂、高分子吸収体、海綿により構成される部材が挙げられる。このような構成によれば、吸収性部材が吸湿性繊維、多孔性樹脂、高分子吸収体、あるいは海綿により構成されているので、試験片に付着した余剰分の検体を吸収性部材自体に効果的に吸収させることができる。たとえば、吸収性部材の具体的な材質として、吸湿性繊維の一種である不織布を採用すれば、不織布の織り込まれた繊維すきま間に十分な量の反応液を吸収させることができる。
【0030】
また、吸収性部材は交換可能に配置されていてもよい。このような構成によれば、吸収性部材の吸湿作用が弱まった際に、新たな別の部材に容易に交換することができるので、使用者は、簡単な交換作業を行うだけで本装置の廃液機構を持続させることができる。
【0031】
本発明において、反応部および吸収性部材は板状体等の基板上に配置されることが好ましい。基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの有機材料;シリコン、シリコーン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。これらの中でも、反応を妨げず、液切れの良い疎水性材料を用いることが好ましい。疎水性材料としては、アクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などを好適に用いることができる。
【0032】
反応部および吸収性部材が基板上に配置される場合、反応部と吸収性部材との間に間隙を有することが好ましい。反応液を上記反応部に導入してから廃液が開始されるまでの時間は、反応部と吸収性部材の間隙の距離に影響される。このため、間隙の距離を調節することにより廃液開始時間を調節することで、全体の廃液時間を調節することができる。間隙の距離は、通常、約5mm以下の範囲で変化させることができ、距離を長くすると廃液開始時間は遅くなり、全体の廃液時間は遅くなる。また、間隙の距離を短くすると廃液開始時間は速くなり、全体の廃液時間は速くなる。
【0033】
ガイド部材とは、反応液を吸収性部材に導くための部材である。ガイド部材は、反応部を少なくとも水平方向に囲む部材であり、反応液が吸収性部材へ移動するための流路となる開口部を有することが好ましい。
【0034】
ガイド部材の材料としては、吸水性の小さい材料を用いることが好ましく、吸水性の小さい材料としては、反応液(サンプル、試薬)などに応じて、プラスティックやアクリル樹脂などを適宜選択することができる。また、シリコンゴムやO−リングなどをガイド部材と電極などとの間に介在させることで、反応液の吸収性部材以外への漏れを防止するようにしてもよい。
【0035】
測定装置が、反応部の下に電極を有する電気化学測定用の測定装置である場合、上記ガイド部材は、電気化学測定を疎外しない程度に電極の必要最小限の部分を露出させて反応部を覆うような形状であることが好ましい。このようにすることで、反応部の容積が必要最小限となるため、測定サンプルの採取量をより少なくすることができる。
【0036】
このようなガイド部材の材料としては、特にポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いることが好ましい。PDMSは、シリコンゴムの一種であり、モールディング(型取り)によりマイクロ構造が製作でき、サブミクロンの構造まで転写可能である。自己吸着性があるため、大きな内圧を必要としない場合は基板に貼り付けるだけでシール出来る。生体適合性材料で細胞や組織に悪影響を及ぼしにくい。ガラスやプラスティック製のチップと異なり、ウェットエッチングや高温接合を必要とせず、比較的容易に作ることができるといった利点がある。
【0037】
上記電極には、通常、作用電極(ワーキング電極)、対電極(カウンター電極)および参照電極(リファレンス電極)が含まれる。電気化学分析を行う際には、前処理反応後の反応液に電気化学的検出に必要な試薬等を添加した後、作用電極の参照電極に対する電位変化に対応する電流変化(作用電極と対電極との間を流れる電流変化)を検出する。そして、その電流変化を積分計算して得られる電気量(クーロン量)、ピーク電流値、または電流の微分値などを検量線と比較することにより、被測定物質を分析(定量、定性)することができる。
【0038】
例えば、ある抗原が被測定物質であるとき、抗体に結合した抗原と抗原−標識物質複合体の比を検出することで抗原の定量を行う方法(競合法)において、標識物質がグルコースオキシダーゼである場合、一定量のグルコース液を電極表面付近に供給することにより、グルコースオキシダーゼによるグルコースの酸化反応を行い、その際放出される電子による電流変化を測定することで、抗原と抗原−標識物質複合体の抗体への結合比を測定し、その結果から抗原の定量測定を行うことができる。
【0039】
電極の材料としては、標識物質の電気化学分析に用いられる種々公知の電極材料を用いることができ、例えば、電極の材料としては、白金、カーボン、金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどが挙げられる。特に、反応液中に含まれる試薬が、被測定物質−標識物質複合体であり、標識物質としてグルコースオキシダーゼを用いる場合、その検出反応(グルコースオキシダーゼによる酸化反応)の触媒となる白金を材料として含む電極を用いることが好ましい。本発明における電極は、後述のような電極の表面上に抗体が固定された電極や、電子メディエータを含む電極も包含される。
【0040】
また、吸収性部材を、反応液の吸収が開始される毛細管部と、それ以外の貯水部からなるものとした場合、毛細管部の形状を調節することにより反応液の廃液時間が調節されるようにしてもよい。反応液の廃液時間は、反応液と吸収性部材の毛細管部における接触面積の影響を受けるため、この点を考慮して毛細管部の形状を調節すればよい。
【0041】
上記毛細管部の上面から見た形状が矩形、三角形または櫛歯形であることが好ましい。このような形状とすることにより、反応部の反応液を吸収する際の、反応液と吸収性部材の毛細管部との接触面積を変化させることで吸収時間を調節し、廃液時間を調節することができる。
【0042】
また、吸収性部材の上記貯水部の体積を調節することにより、反応液の廃液時間を調節するようにしてもよい。
【0043】
必要に応じて、廃液機構の廃液時間を調節するための上記構成の2つ以上を組み合わせることによって、前処理反応に必要な時間を確保できるように、廃液時間を調節してもよい。
【0044】
また、本発明は、上述の反応部および廃液機構を備えた分析チップにも関する。分析チップとは、任意の測定原理を採用することによって、被測定物質を含むサンプルを分析(例えば、サンプル中の被測定物質の検出または定量)するために用いられるハンディーサイズの測定部材である。かかる分析チップは、上記本発明の測定装置の構成部材として用いることができる。
【0045】
(実施形態1)
本実施形態の測定装置は、図1に示すように、基板3上に設けられた吸収性部材1および反応部(測定部を兼ねるものであってもよい)を構成するサンプルパッド2を有している。基板3は疎水性材料からなることが好ましい。そして、サンプルパッド2と吸収性部材1とは、それらの間に間隙を有するように配置されており、その間隙の距離Lを調節することによって、反応液4が滴下される場合等に、反応液4が吸収開始部10に達するまでの時間が調節される。これによって、反応液の廃液開始時間を調節することが可能である。
【0046】
図2を用いて、本発明の廃液機構について説明する。図2においては図1に示すようなサンプルパッド2は示されていないが、サンプルパッドが設けられている場合も本発明の廃液機構は同様に説明される。まず、図2(a)に示すように、反応液4に液滴41(例えば、洗浄液)を滴下していくと、図2(b)のように反応液4が吸収性部材1に接触し、その接触部に毛細管力が働くことで液滴内部の分子間力の均衡が崩れ、反応液4が吸収性部材1へ展開する吸収が始まる。吸収が始まる液量は、液滴41が滴下される位置と吸収性部材1との距離Lを変化させることにより調節される。
【0047】
図2(c)に示すように一旦、反応液4の吸収が開始されると、反応液4の表面張力の水平方向成分よりも吸収性部材1の毛細管力の方が大きい間は、反応液4が吸収性部材1に吸収され続ける(図2(d))。そして、反応液4の表面張力の水平方向成分と吸収性部材1の毛細管力の方とが等しくなったときに吸収が終了する(図2(e))。その後は、反応液4が表面張力により吸収性部材1と離れた位置に戻ることになる(図2(f)〜(g))。図2(h)に示すように、次に、反応液4が吸収開始液量43に達するまでは、吸収性部材1に反応液4が吸収されることはない。このように本発明に用いられる廃液機構は、バルブの役割を果たすものである。
【0048】
(実施形態2)
本実施形態は、図3に示すように、実施形態1に加えて開口部51を有するガイド部材5が設けられた形態である。ガイド部材5を設けることにより、サンプルパッド2と吸収性部材1の距離を長くした場合でも、吸収性部材1以外の周辺部に反応液が漏れ出すことが防止されるため、廃液開始までの時間をより遅らせるように調節することが可能となる。
【0049】
(実施形態3)
本実施形態は、図4に示すように、実施形態2のガイド部材5が下部のみに開口部51を有する形態である。開口部51を下部のみとすることで反応液が開口部51を通過するときの抵抗が大きくなるため、反応液が開口部51を通過して吸収性部材1に達するまでの時間を遅らせることができ、実施形態2よりもさらに廃液開始までの時間を遅らせるように調節することが可能となる。
【0050】
図5を用いて、実施形態3における廃液機構を説明する。図5(a)においては、サンプルパッド2が保持できる液量よりも多い反応液4(例えば、被測定物質および試薬を含む液)がガイド部材5に囲まれた反応部(測定部を兼ねるものであってもよい)に導入されており、さらに液滴41(例えば、洗浄液)が滴下される。図5(b)に示すように、反応液4が、ガイド部材5の開口部51の表面エネルギーを越える圧力がかかる液量になると、開口部51を通過して吸収性部材1の方へ展開し、吸収性部材1による吸収が開始される。一度、液が吸収性部材1に吸収され始めると、表面エネルギーの効果がなくなり、反応液4の一定量が吸収性部材1に吸収され(吸収された反応液42)、反応部の反応液4の液量は一定量まで減少する。この反応部に残る一定量は、反応液の粘性、表面張力、基板の撥水性、吸収性部材1との距離などによって決まるものである。図5(d)に示すように、次に、液滴41(例えば、標識検出のための検出液)を滴下する場合も、反応液4が開口部51の表面エネルギーを超える一定液量に達するまでは、吸収性部材1に反応液4が吸収されることはなく、反応液4がガイド部材5に囲まれた反応部に保持される。このように本発明に用いられる廃液機構は、バルブの役割を果たすものである。
【0051】
(実施形態4)
本実施形態は、図6に示すように、吸収性部材1において反応液の吸収が開始される部分である毛細管部11の形状を調節することにより、廃液時間を調節した形態である。図6(a)は毛細管部の形状を矩形とした吸収性部材1を示し、図6(b)は毛細管部の形状を三角形とした吸収性部材1を示し、図6(c)は毛細管部の形状を櫛歯形にした吸収性部材1を示す。毛細管部の形状をこのようにすることで、吸収性部材の形状が方形である場合と比べて、吸収性部材1が反応液を吸収する速度を遅くすることができ、廃液時間を遅くなるように調節することができる。
【0052】
なお、毛細管部11以外の部分である貯水部12の体積を調節することによっても、吸収性部材1が反応液を吸収する速度を調節することができ、廃液時間の調節が可能である。
【0053】
(実施形態5)
本実施形態は、図6(a)に示す吸収性部材1を矩形の毛細管部11がサンプルパッド2に接した状態で設置し、実施形態2と同様のガイド部材5に加えて、さらに第2ガイド部材52を設けた形態である。第2ガイド部材としてはPDMSを用いることが好ましい。52吸収性部材1はサンプルパッド2に接した状態であるため、吸収性部材1の吸収開始時間は比較的早いものの、毛細管部11の形状により吸収速度は遅くなるため、全体として廃液時間を遅く調節することができる。
【0054】
また、第2ガイド部材52はサンプルパッド2にほぼ接してサンプルパッド2を囲むような形状であり、このような第2ガイド部材52を設けることにより、サンプルパッド2の周囲の基板3上に反応液が保持されないため、反応液を必要最小限とすることができる。
【実施例】
【0055】
<材料>
疎水性のアクリル樹脂からなる基板上に吸収性部材を固定し、質量を測定した。吸収性部材(吸収パッド)としては、大きさ14mm×50mmのセルロースファイバーサンプルパッド(ミリポア社製 CFSP203000)を用いた。なお、基板としては吸収性部材よりも十分に大きい面積の主面を有するものを用いた。
【0056】
<実験方法>
(1) 吸収性部材の端から長手方向に7mm離れた位置の基板上に、一定時間(2.5秒)ごとに10μLの純水(反応液の代わり)を滴下する。
(2) 吸収性部材による純水の吸収が始まったら、滴下を中断する。
(3) 吸収が終われば、全体の質量を測定し残り液量を調べてから、純水の滴下を再開する。
(4) 上記(1)〜(3)の工程を繰り返す。
【0057】
<実験結果>
アクリル基板上の液量の変化を図8のグラフに示す。また、上記(1)〜(3)の工程の繰り返しにおいて吸収が始まる純水の滴下量を表1に示す。図8に示すように、初めの吸収開始は、基板上の液量が200μLとなった時点であり、吸収(廃液)が終わった後に滴下部(反応部に相当する)に残った液量は40μLであった。その後は、基板上の液量が200μL付近で吸収が始まり、基板上の液量が30〜40μLまで減少した時点で吸収が終わるという結果になった。また、表1に示すように、1回目は滴下量が約200μLとなった時点で吸収が開始され、2回目以降は滴下量が160〜170μLとなった時点で吸収が開始された。この結果から、本発明における廃液機構は、反応部にある反応液が一定量以上になったときに廃液が行われ反応部の液量が一定量以下まで廃液される。その後は次に反応液が一定量以上になるまでは廃液が行われないような機能を有し、自動バルブの役割を果たすことがわかる。
【0058】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 吸収性部材、10 吸収開始部、11 毛細管部、12 貯水部、2 サンプルパッド、3 基板、4 反応液、41 液滴、42 吸収された反応液、43 吸収開始液量、5 ガイド部材、51 開口部、52 第2ガイド部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理反応を行うための反応部、前記反応部内の反応液の余剰液を除去するための吸収性部材を備えた廃液機構、および、被測定物質を測定するための測定部を備え、
前記廃液機構は、前記反応部における前記前処理反応に必要な時間を確保できるように廃液時間が調節されたものであり、
前記廃液時間は、前記反応液を前記反応部に導入してから廃液が開始されるまでの時間である廃液開始時間と、前記吸収性部材に前記余剰液が吸収される時間である吸収時間との和である、被測定物質の測定装置。
【請求項2】
前記反応部、前記測定部および前記吸収性部材が基板上に配置された、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記吸収性部材が、前記反応部に接する端部の稜線の長さを変えることによって、前記吸収時間が調節された、請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記反応部と前記吸収性部材との間に間隙を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の測定装置。
【請求項5】
前記間隙の距離を調整することにより前記廃液開始時間が調節された、請求項4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記反応液を前記吸収性部材に導くためのガイド部材を備えた、請求項1〜4のいずれかに記載の測定装置。
【請求項7】
前記ガイド部材が、前記反応部を少なくとも水平方向に囲む部材であり、前記反応液の前記吸収性部材への流路となる開口部を有する、請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
前記吸収性部材は、前記反応液の吸収が開始される毛細管部と、それ以外の貯水部からなり、前記毛細管部の形状を調節することにより前記吸収時間が調節された、請求項1〜7のいずれかに記載の測定装置。
【請求項9】
前記毛細管部の上面から見た形状が矩形、三角形または櫛歯形である、請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記吸収性部材は、測定部位近傍の毛細管部と、それ以外の貯水部からなり、前記貯水部の体積を調節することにより前記吸収時間が調節された、請求項1〜9のいずれかに記載の測定装置。
【請求項11】
前記反応部と前記測定部が一体になっている、請求項1〜10のいずれかに記載の測定装置。
【請求項12】
前処理反応を行うための反応部と、前記反応部内の反応液の余剰液を除去するための吸収性部材を備えた廃液機構とを備え、前記廃液機構は、前記反応部における前記前処理反応に必要な時間を確保できるように廃液時間が調節されたものである、被測定物質の測定装置に用いられる分析チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−107100(P2011−107100A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265401(P2009−265401)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】