説明

測定装置および測定方法

【課題】生体の電位を測定する際に電位の直流成分を検出できるようにする。
【解決手段】スイッチ制御部130は、予め定められた周波数の方形波の信号をスイッチ111−1〜111−10へ出力する。そして、この信号がスイッチ111−1〜111−10に供給されると、スイッチ111−1〜111−10は、信号がHレベルの期間においては閉となり、端子と増幅部とを接続するラインが接地される。また、信号がLレベルの期間においては開となり、電極の電位を示す信号が増幅部に入力される。
スイッチ111−1〜111−10により、端子18−1〜18−10を介して電極20−1〜20−10の電位が周期的にGNDの電位にされ、電極と人体との間に溜まったイオンが放出されるため、各電極で得られる電位の直流成分は、溜まったイオンの影響を受けることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の電気信号を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心電図を得る発明として、特許文献1に開示された発明がある。この発明においては、人体に接触させられた電極で得られる信号が差動増幅器に直接入力され、差動増幅器で増幅された信号を基にして心電図を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−39533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、虚血性の心筋障害などがある場合、障害のある部分の近傍に貼り付けられた電極では、電極で得られる信号の直流成分の電位が障害の無い場合と比較して上昇することが知られている。
しかし、信号の直流成分を変動させる要因は、心筋障害によるものだけではない。例えば、心電図を測定するための電極を人体に接触させる際には、電気を通すジェルを人体に塗り、このジェルが塗られた部分に電極が接触させられる。ここで、電極が生体に接触させられ続けると、ジェルの部分にイオンが溜まり、電極で得られる信号の直流成分が上昇する。このため、信号の直流成分の上昇があった場合、心臓の障害によるものなのかジェルにイオンが溜まったことによるものなのか区別が難しい。
【0005】
本発明は、生体の電位を測定する際に直流成分を検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る測定装置は、生体に接触した電極の電位を示す信号が入力される入力端子を有し、該入力端子に入力された信号を増幅する増幅部と、予め定められた周波数の交流信号を出力するスイッチ制御部と、前記スイッチ制御部から出力された交流信号に応じて前記入力端子を接地する機械式のスイッチと、前記増幅部で増幅された信号に基づいて前記生体の電位を測定する測定部とを備える。
本発明によれば、入力端子の電位が周期的に接地されるので、生体に接触した電極で得られる電位の直流成分は、電極と生体との間に溜まるイオンの影響を受けず、生体の電位の直流成分を測定することができる。
【0007】
本発明において、前記増幅部、前記スイッチおよび前記スイッチ制御部が一の基板に形成されていてもよい。
この構成によれば、増幅部、スイッチおよびスイッチ制御部が一の基板に集積化され、一の基板においてスイッチによる接地と信号の増幅が行われるので、本構成を有しない場合と比較して、装置を小型化し、外乱の影響を受けることなく信号を処理できる。
【0008】
本発明に係る測定方法は、予め定められた周波数の交流信号を出力する信号出力ステップと、前記信号出力ステップで出力された交流信号に応じて、生体に接触した電極の電位を示す信号が入力される入力端子を機械式のスイッチで接地する接地ステップと、前記入力端子に入力された信号を増幅する増幅ステップと、前記増幅ステップで増幅された信号に基づいて前記生体の電位を測定する測定ステップとを有する。
本発明によれば、入力端子の電位が周期的に接地されるので、生体に接触した電極で得られる電位の直流成分は、電極と生体との間に溜まるイオンの影響を受けず、生体の電位の直流成分を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る測定装置1のハードウェアの構成を示した図。
【図2】心臓細胞の活動に伴う心臓細胞の電位の変化を示した図。
【図3】電極で得られる電位を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
(測定装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置1のハードウェアの構成を示した図である。
電極20−1〜20−10は、心臓の活動に伴う人体の電位の変化を検知する電極であり、12誘導心電図を得る際に人体に貼り付けられる電極である。このうち電極20−1〜20−6は、人体の胸部に貼り付けられる電極であり、電極20−7は左手首、電極20−8は右手首、電極20−9は左足首、電極20−10は右足首に貼り付けられる電極である。
端子18−1〜18−10は、電極20−1〜20−10が接続される端子であり、各端子には同じ枝番の電極が導線で接続される。
【0011】
信号処理部11は、機械的なスイッチと電子回路とが一のシリコン基板に形成されたIC(Integrated Circuit)、即ちMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)であり、スイッチ部110、増幅部120−1〜120−9、スイッチ制御部130を有している。
スイッチ制御部130は、スイッチ111−1〜111−9の開/閉を制御する信号を出力する電子回路を備えており、予め定められた周波数の方形波の信号を出力する。
スイッチ部110は、導体の接触/非接触により電気信号の導通/遮断を行う機械式のスイッチ111−1〜111−9を備えており、一端が同じ枝番の増幅部に接続され、もう一端が接地されている。各スイッチの開/閉は、スイッチ制御部130から出力される信号で制御され、スイッチ制御部130から出力された方形波の信号の電圧が予め定められた閾値を超えたHレベルとなると閉となり、スイッチ制御部130から出力された信号のレベルが予め定められた閾値以下のLレベルとなると開となる。なお、スイッチ111−1〜111−9は、機械的なスイッチであるため、閉状態となった際には接続されている端子の電位をトランジスタを用いたスイッチなどの電子的なスイッチより速くアース(接地)のレベルに下げることができる。
【0012】
増幅部120−1〜120−9は、端子18−1〜18−9に入力された信号を増幅する電子回路であり、A/D変換部12と、同じ枝番の端子及びスイッチに接続されている。増幅部120−1〜120−9は、端子18−1〜18−9に入力された信号が入力される入力端子を有しており、この入力端子に入力された信号を増幅して出力する。
A/D変換部12は、増幅部120−1〜120−9で増幅されて出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する回路である。A/D変換部12は、制御部10に接続されており、変換後のデジタル信号を制御部10へ出力する。
記憶部15は、不揮発性メモリーを有しており、制御部10の制御の下、制御部10が生成したデータを記憶する。
【0013】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)10A、ROM(Read Only Memory)10B,RAM(Random Access Memory)10Cなどを備えたマイクロコンピューターである。制御部10が、ROM10Bに記憶されているプログラムを実行すると、A/D変換部12から入力されるデジタル信号を解析して心臓図を表示部16に表示する機能や、求めた心電図を示すデータを生成し、生成したデータを記憶部15に記憶させる機能が実現する。
【0014】
表示部16は、画像を表示する表示デバイス(例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ)を有しており、制御部10の制御の下、心電図の画像や、測定装置1を操作するための画面および文字列などを表示する。
操作部17は、測定装置1を操作するための操作子を複数有しており、制御部10に接続されている。操作子がユーザーによって操作されると、操作された操作子を示す信号が制御部10へ供給される。制御部10は、この信号をもとに操作者の行った操作や操作者からの指示を特定し、各部を制御する。
【0015】
(測定装置の動作)
以下、本実施形態の動作について説明する。まず、心電図を測定される被測定者に電極20−1〜20−10が貼り付けられる。具体的には、左手首、右手首、左足首および右足首には、導電性を有するジェルが塗られ、このジェルを介して電極20−7は左手首、電極20−8は右手首、電極20−9は左足首、電極20−10は右足首に貼り付けられる。また、前胸部から左胸壁にかけても導電性を有するジェルが塗られ、電極20−1は、第4肋間胸骨右縁、電極20−2は、第4肋間胸骨左縁、電極20−3は、第4肋間胸骨左縁と第5肋間鎖骨中線上の中間点、電極20−4は、第5肋間鎖骨中線上、電極20−5は、第5肋間前腋窩線上、電極20−6は、第5肋間中腋窩線上に貼り付けられる。
なお、右足首に貼り付けられる電極20−10は、心電図を測定する際にアースとなる。また、電極20−1〜20−9の各電極の電位は心臓の活動に応じて変化し、この電位が測定装置1に入力される。
【0016】
次に、測定者が、心臓の測定の開始を指示する操作を操作部17において行うと、制御部10は、スイッチ制御部130を動作させる信号を出力する。この信号を信号処理部11が受け取ると、スイッチ制御部130は、予め定められた周波数の方形波の信号をスイッチ111−1〜111−9へ出力する。そして、この信号がスイッチ111−1〜111−9に供給されると、スイッチ111−1〜111−9は、信号がHレベルの期間においては閉となり、端子と増幅部とを接続するラインがアースに接続される。また、信号がLレベルの期間においては開となり、電極の電位を示す信号が増幅部に入力される。なお、スイッチ制御部130が出力する信号の周波数は、A/D変換部12が行うA/D変換のサンプリング周波数の10倍以上であるのが好ましい。
【0017】
さて、図2は、心臓細胞の活動に伴う心臓細胞の電位の変化を示した図である。心臓細胞においては、心臓細胞の脱分極と再分極とにより電位が変化する。具体的には、細胞においてNaイオンが流入して脱分極が起きると、図2に示したように電位が急激に上昇する。この後、Ca2+イオンが細胞外から流入し、細胞内に流入するCa2+イオンと細胞外に流出するKイオンとのバランスが保たれている間はほとんど電位の変化が生じず脱分極状態が維持される。その後、細胞へのCa2+イオンの流入が止まるとKイオンの流出が増え(再分極)、これにより電位が静止膜電位に戻る。
【0018】
図3(a)は、虚血により心筋障害が発生している部分の近傍の電極で得られる電位を示した図であり、図3(b)は、心筋障害が発生していない正常な部分の近傍の電極で得られる電位を示した図である。虚血により心筋障害が発生している場合、細胞内外のイオン濃度差が減少し、正常な状態と比較してKイオンの流出が減少する。すると、静止膜電位が低くならないため、正常な部位の電位(図3(b))と比較すると、障害部分の電位は、図3(a)に示したように静止膜電位が高くなる。
これにより、心筋障害が発生している部位の近くにある電極においては、電極で検知される電位の直流成分は、正常な部位の近くにある電極で検知される電位の直流成分より電位が上がることとなる。
【0019】
なお、電極20−1〜20−9が人体に接触させられ続けると、電極と人体との間にあるジェルにイオンが溜まり、電極で得られる信号の直流成分が上昇するが、本実施形態においては、スイッチ111−1〜111−9により、端子18−1〜18−9を介して電極20−1〜20−9の電位が周期的にアースの電位にされ、ジェルに溜まったイオンが放出されるため、各電極で得られる電位の直流成分は、ジェルに溜まるイオンの影響を受けることがない。
【0020】
電極20−1〜電極20−9から端子18−1〜18−9に入力される信号、つまり心臓の活動に伴う電位の変化を示す信号は、増幅部120−1〜120−9で増幅される。増幅部120−1〜120−9で増幅された信号は、A/D変換部12でデジタル信号に変換された後、制御部10に入力される。なお、電極20−1〜電極20−9から入力された信号については、直流成分の基準となる電位は、電極20−10から端子18−10に入力される電位となる。
【0021】
制御部10は、A/D変換部12から出力されたデジタル信号を受け取ると、受け取ったデジタル信号から電極の電位を測定し、この信号に基づいて電極20−1〜20−9における電位の変化の波形、即ち心電図を求め、各波形の画像が表示部16に表示されるように表示部16を制御する。なお、制御部10は、A/D変換部12から供給されたデジタル信号を記憶部15に記憶させる処理も行う。
このように本実施形態においては、各電極で得られる信号の直流成分は、ジェルに溜まるイオンの影響を受けることがないため、静止膜電位を測定することが可能であり、静止膜電位を見ることにより、心筋障害の発生を知ることができる。
【0022】
次に、心臓の測定の終了を指示する操作が操作部17において行われると、制御部10は、スイッチ制御部130の動作を停止させる信号をスイッチ制御部130へ出力する。この信号をスイッチ制御部130が受け取ると、スイッチ制御部130は、予め定められた周波数の方形波の信号の出力を停止する。また、記憶部15へのデジタル信号の記憶を停止し、表示部16への心電図の表示を終了する。
【0023】
ここで、記憶部15には、電極20−1〜20−9の電位の変化を表すデジタル信号が記憶されている。このデジタル信号の示す電位の表示を指示する操作が操作部17において行われると、制御部10は、記憶部15に記憶されているデジタル信号を読み出す。そして、読み出したデジタル信号に基づいて電極20−1〜20−9における電位の変化の波形、即ち心電図を求め、各波形の画像が表示部16に表示されるように表示部16を制御する。このように、測定装置1は、心臓の活動に伴う電位の変化を検知しながら心電図を表示するだけでなく、心電図を示すデータを記憶し、記憶したデータに基づいて心電図を表示することもできる。
【0024】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよく、各変形例を組み合わせて実施してもよい。
【0025】
電極20−1〜20−10は、端子18−1〜18−10に接続される構成でなく、導線で直接スイッチと増幅部に接続される構成であってもよい。
また、本発明においては、スイッチ制御部130とスイッチ部110をMEMSで構成し、増幅部120−1〜120−9はスイッチ制御部130およびスイッチ部110とは別体のICで構成してもよい。また、スイッチ制御部130、スイッチ部110、増幅部120−1〜120−9およびA/D変換部12をMEMSで構成してもよい。
【0026】
上述した実施形態においては、スイッチ制御部130が出力する信号の波形は方形波となっているが、交流の信号であれば方形波に限定されることなく、三角波や台形波、サイン波など他の波形であってもよい。なお、スイッチ111−1〜111−9は、スイッチ制御部130から供給される信号の電圧が予め定められた電圧以上の場合には閉となり、信号の電圧が予め定められた電圧未満の場合には開となるようにしてもよく、スイッチ制御部130から供給される信号の電圧が予め定められた電圧以上の場合には開となり、信号の電圧が予め定められた電圧未満の場合には閉となるようにしてもよい。
【0027】
上述した実施形態においては、測定装置1は、電極が手首、足首および胸部に貼り付けられ、心臓細胞の電位変化に伴う人体の電位の変化を測定しているが、測定装置1が測定するのは、心臓細胞の電位変化に伴う人体の電位の変化に限定されるものではない。測定装置1の電極は、脳の活動に伴う人体の電位変化や、筋肉の動作による人体の電位変化を測定してもよい。
また、本発明においては、電極を貼り付けられて電極の電位を測定されるのは人間に限定されるものではなく、人間以外の動物であってもよい。
【0028】
上述した実施形態においては、電極の数が10個となっているが、電極の数は実施形態の数に限定されるものではなく、10個未満または10個を超える数であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1・・・測定装置、10・・・制御部、10A・・・CPU、10B・・・ROM、10C・・・RAM、11・・・信号処理部、12・・・A/D変換部、15・・・記憶部、16・・・表示部、17・・・操作部、18−1〜18−10・・・端子、110・・・スイッチ部、111−1〜111−9・・・スイッチ、120−1〜120−9・・・増幅部、130・・・スイッチ制御部、20−1〜20−10・・・電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に接触した電極の電位を示す信号が入力される入力端子を有し、該入力端子に入力された信号を増幅する増幅部と、
予め定められた周波数の交流信号を出力するスイッチ制御部と、
前記スイッチ制御部から出力された交流信号に応じて前記入力端子を接地する機械式のスイッチと、
前記増幅部で増幅された信号に基づいて前記生体の電位を測定する測定部と
を備える測定装置。
【請求項2】
前記増幅部、前記スイッチおよび前記スイッチ制御部が一の基板に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
予め定められた周波数の交流信号を出力する信号出力ステップと、
前記信号出力ステップで出力された交流信号に応じて、生体に接触した電極の電位を示す信号が入力される入力端子を機械式のスイッチで接地する接地ステップと、
前記入力端子に入力された信号を増幅する増幅ステップと、
前記増幅ステップで増幅された信号に基づいて前記生体の電位を測定する測定ステップと
を有する測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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