説明

湿度センサ用感湿膜、および湿度センサ

【課題】感湿性および加工性に優れ、容易かつ安価に製造可能な湿度センサ用感湿膜、および湿度センサの提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子を含む塗膜からなる、湿度センサ用感湿膜。


式(1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、ハロゲン原子であり、R〜Rのうちの少なくとも一つは酸性基またはその塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度センサ用感湿膜、および湿度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
湿度制御は生活環境の快適化だけでなく、電子部品製造業、繊維工業および農業の分野などにおける品質管理において不可欠である。そのため湿度を検出するセンサ(湿度センサ)の研究や開発が盛んに行われている。
湿度センサには大別して、毛髪式、乾湿球式、電気抵抗式、静電容量式、露点式、電磁波吸収式がある。これらの中でも、電気的に扱いやすく、比較的小型で構造が簡単であるなどの特徴を有する電気抵抗式の湿度センサが注目を集めている。
【0003】
電気抵抗式の湿度センサは、雰囲気中の湿度に応じて電気抵抗が変化する材料を感湿部として用い、該材料の電気抵抗の変化から湿度を測定するものである。
このような電気抵抗式の湿度センサとしては、例えばカチオニックモノマーの重合体を熱硬化性樹脂にて架橋させた感湿膜を備えた感湿素子が提案されている。(特許文献1)。該感湿素子は、感湿材料としてイオン導電性高分子を用い、雰囲気中の水分を感湿材料が吸湿することによって生ずる抵抗値の変化を計測して、大気中の湿度を検出する。
【0004】
また、導電性高分子に関しては、イオン伝導性の導電性高分子以外にも、例えば電子伝導性高分子ポリアニリンが知られている(非特許文献1)。該電子伝導性高分子ポリアニリンは、水を吸着することで導電性が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−171844号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Nechtschein et.al., Synth.Met.,vol.18,311−316(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のように感湿材料としてイオン伝導性の導電性高分子を用いる場合、湿度センサに直流を印加すると電気分極が発生するため、通常は発振回路を用いて湿度センサに交流電流を流している。そのため、測定回路が複雑になり、測定装置が大きく製造コストがかかりやすかった。
従って、より安価で利便性の高い湿度センサを実現するためには、直流駆動でも安定に動作するセンサ素子の開発が必要である。
【0008】
一方、特許文献2に記載の電子伝導性高分子であるポリアニリンは、電気分極の影響を受けにくい。しかし、このポリアニリンは自立性に乏しく、多くの溶媒に溶けにくいため加工性が悪かった。また、湿度変化に対する電気伝導度の変化が小さいため、ポリアニリン単体での感湿材料への応用は困難であった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、感湿性および加工性に優れ、容易かつ安価に製造可能な湿度センサ用感湿膜、および湿度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の繰り返し単位を有するアニリン系の導電性高分子が可溶性を有するため加工性に優れ、かつポリアニリンと比較して高い感湿性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の湿度センサ用感湿膜は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子を含む塗膜からなることを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、ハロゲン原子であり、R〜Rのうちの少なくとも一つは酸性基またはその塩である。
【0013】
また、前記導電性高分子が、膜ろ過および/または陽イオン交換樹脂への接触により精製されていることが好ましい。
また、本発明の湿度センサは、前記湿度センサ用感湿膜を感湿部として用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、感湿性および加工性に優れ、容易かつ安価に製造可能な湿度センサ用感湿膜、および湿度センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1、2および比較例1で得られた導電性組成物における、湿度と体積抵抗率の関係を示す片対数グラフである。
【図2】実施例3、4で得られた導電性組成物における、湿度と体積抵抗率の関係を示す片対数グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<導電性高分子>
本発明の湿度センサ用感湿膜(以下、単に「感湿膜」という場合がある。)は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子を含む塗膜からなる。
ここで、本発明において「導電性」とは、10Ω・cm以下の体積抵抗率を有することである。
【0017】
【化2】

【0018】
式(1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Brまたは−I)であり、R〜Rのうちの少なくとも一つは酸性基またはその塩である。
ここで、「酸性基」とは、スルホン酸基またはカルボキシ基である。スルホン酸基およびカルボキシ基は、それぞれ酸の状態(−SOH、−COOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(−SO、−COO)で含まれていてもよい。
また、「塩」とは、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、および置換アンモニウム塩のうち、少なくとも一種を示す。のいずれかである。
【0019】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位としては、製造が容易な点で、R〜Rのうち、いずれか1つが炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルコキシ基であり、他のいずれか一つがスルホン酸基であり、残りが水素であるものが好ましい。
【0020】
導電性高分子は、当該導電性高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)のうち、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を10〜100モル%含有することが好ましく、50〜100モル%含有することがより好ましく、pHに関係なく水および有機溶剤への溶解性に優れる点で、100モル%含有することが特に好ましい。
また、導電性高分子は、導電性に優れる観点で、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を1分子中に10以上含有することが好ましい。
【0021】
導電性高分子としては、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0022】
【化3】

【0023】
式(2)中、R〜R20は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、ハロゲン(−F、−Cl、−Brまたは−I)であり、R〜R20のうち少なくとも一つは酸性基である。また、nは重合度を示す。
【0024】
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物の中でも、溶解性に優れる点で、ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)が特に好ましい。
【0025】
導電性高分子の質量平均分子量は、3000〜1000000が好ましく、3000〜50000がより好ましい。導電性高分子の質量平均分子量が3000以上であれば、導電性、成膜性および膜強度に優れる。一方、導電性高分子の質量平均分子量が1000000以下であれば、溶媒への溶解性に優れる。
導電性高分子の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算)である。
【0026】
(導電性高分子の製造方法)
導電性高分子は、例えば塩下記一般式(3)で表される酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および置換アンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(モノマー)を、塩基性化合物の存在下、酸化剤を用いて重合することで得られる。
【0027】
【化4】

【0028】
式(3)中、R21〜R25は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Brまたは−I)であり、R21〜R25のうちの少なくとも一つは酸性基またはその塩である。
【0029】
一般式(3)で表される酸性基置換アニリンとしては、酸性基としてスルホン酸基を有するスルホン酸基置換アニリン、酸性基としてカルボキシ基を有するカルボキシ基置換アニリンが挙げられる。
スルホン基置換アニリンとして代表的なものはアミノベンゼンスルホン酸類であり、具体的にはo−,m−,p−アミノベンゼンスルホン酸、アニリン−2,6−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、アニリン−3,5−ジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−3,4−ジスルホン酸などが好ましく用いられる。
アミノベンゼンスルホン酸類以外のその他のスルホン基置換アニリンとしては、例えはメチルアミノベンゼンスルホン酸、エチルアミノベンゼンスルホン酸、n−プロピルアミノベンゼンスルホン酸、iso−プロピルアミノベンゼンスルホン酸、n−ブチルアミノベンゼンスルホン酸、sec−ブチルアミノベンゼンスルホン酸、t−ブチルアミノベンゼンスルホン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類;メトキシアミノベンゼンスルホン酸、エトキシアミノベンゼンスルホン酸、プロポキシアミノベンゼンスルホン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ニトロ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;フルオロアミノベンゼンスルホン酸、クロロアミノベンゼンスルホン酸、ブロムアミノベンゼンスルホン酸等のハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類などを挙げることができる。その他のスルホン基置換アニリンの中では、導電性や溶解性に特に優れる導電性高分子が得られる点で、アルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、またはハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類が好ましい。
これらのスルホン酸基置換アニリンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0030】
カルボキシル基置換アニリンとして代表的なものはアミノベンゼンカルボン酸類であり、具体的にはo−,m−,p−アミノベンゼンカルボン酸、アニリン−2,6−ジカルボン酸、アニリン−2,5−ジカルボン酸、アニリン−3,5−ジカルボン酸、アニリン−2,4−ジカルボン酸、アニリン−3,4−ジカルボン酸などが好ましく用いられる。
アミノベンゼンカルボン酸類以外のその他のカルボキシル基置換アニリンとしては、例えばメチルアミノベンゼンカルボン酸、エチルアミノベンゼンカルボン酸,n−プロピルアミノベンゼンカルボン酸、iso−プロピルアミノベンゼンカルボン酸、n−ブチルアミノベンゼンカルボン酸、sec−ブチルアミノベンゼンカルボン酸、t−ブチルアミノベンゼンカルボン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンカルボン酸類;メトキシアミノベンゼンカルボン酸、エトキシアミノベンゼンカルボン酸、プロポキシアミノベンゼンカルボン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類;ヒドロキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類;ニトロ基置換アミノベンゼンカルボン酸類;フルオロアミノベンゼンカルボン酸、クロロアミノベンゼンカルボン酸、ブロムアミノベンゼンカルボン酸等のハロゲン基置換アミノベンゼンカルボン酸類などが挙げられる。その他のカルボキシル基置換アニリンの中では、導電性や溶解性に特に優れる導電性高分子が得られる点で、アルキル基置換アミノベンゼンカルボン酸類、アルコキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類またはハロゲン基置換アミノベンゼンスルホン酸類が実用上好ましい。
これらのカルボキシル基置換アニリンはそれぞれ1種単独で用いてもよいし、2種(異性体を含む。)以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0031】
これら一般式(3)で表される酸性基置換アニリンの中でも、製造が容易な点で、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および置換アンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が特に好ましい。
【0032】
塩基性化合物としては、無機塩基、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類などが用いられる。
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化物の塩などが挙げられる。これらのなかでも、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0033】
脂式アミン類としては、下記一般式(4)で表される化合物、または下記一般式(5)で表されるアンモニウムヒドロキシド化合物などが挙げられる。
【0034】
【化5】

【0035】
式(4)中、R26〜R28は、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。
【0036】
【化6】

【0037】
式(5)中、R29〜R32は、各々独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。
【0038】
環式飽和アミン類としては、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、ピペラジンおよびこれらの骨格を有する誘導体、ならびにこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物などが挙げられる。
環式不飽和アミン類としては、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピロリンおよびこれらの骨格を有する誘導体、ならびにこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物などが挙げられる。
【0039】
塩基性化合物としては、無機塩基が好ましい。また、無機塩基以外の塩基性化合物の中では、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン等が好ましく用いられる。
無機塩類やこれらの塩基性化合物を用いれば、高導電性で、かつ高純度な導電性高分子を得ることができる。
これらの塩基性化合物はそれぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0040】
塩基性化合物の濃度は0.1mol/L以上が好ましく、より好ましくは0.1〜10.0mol/Lであり、特に好ましくは0.2〜8.0mol/Lである。塩基性化合物の濃度が0.1mol/L以上であれば、導電性高分子を高収率で得ることができる。一方、塩基性化合物の濃度が10.0mol/L以下であれば、得られる導電性高分子の導電性が向上する傾向にある。
【0041】
前記モノマーと塩基性化合物の質量比は、モノマー:塩基性化合物=1:100〜100:1であることが好ましく、より好ましくは10:90〜90:10である。ここで、塩基性化合物の割合が低いと反応性が低下したり、得られる導電性高分子の導電性が低下したりすることがある。一方、塩基性化合物の割合が高いと、得られる導電性高分子中の酸性基と塩基性化合物が塩を形成する割合が高くなり、導電性高分子の導電性が低下することがある。
【0042】
酸化剤としては、標準電極電位が0.6V以上である酸化剤であれば限定はないが、例えばペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等のペルオキソ二硫酸類;過酸化水素等を用いることが好ましい。
これらの酸化剤は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0043】
酸化剤の使用量は、前記モノマー1モルに対して1〜5モルが好ましく、より好ましくは1〜3モルである。
本発明においては、モノマーに対して酸化剤がモル比で等モル以上存在している系にて重合を行うことが重要である。また、触媒として、鉄、銅などの遷移金属化合物を酸化剤と併用することも有効である。
【0044】
重合の方法としては、例えば酸化剤溶液中にモノマーと塩基性化合物の混合溶液を滴下する方法、モノマーと塩基性化合物の混合溶液に酸化剤溶液を滴下する方法、反応容器等にモノマーと塩基性化合物の混合溶液と、酸化剤溶液を同時に滴下する方法などが挙げられる。
【0045】
重合に使用する溶媒としては、水、または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、水と混合するものであれば限定されず、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルブチノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシメトキシエタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリルモノアセテート等の多価アルコール誘導体、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
なお、溶媒として混合溶媒を用いる場合、水と水溶性有機溶媒との混合比は任意であるが、水:水溶性有機溶媒=1:100〜100:1が好ましい。
【0046】
重合後は、通常、遠心分離器等の濾過器により溶媒をろ別する。さらに、必要に応じてろ過物を洗浄液により洗浄した後、乾燥させて、重合体(導電性高分子)を得る。
洗浄液としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルブチノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシメトキシエタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリルモノアセテート等の多価アルコール誘導体、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド,N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が、高純度のものが得られるため好ましい。特にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリルが効果的である。
【0047】
このようにして得られた導電性高分子は、そのまま感湿膜の成膜に用いてもよい。ただし、導電性高分子には、未反応のモノマー、製造過程において生成するオリゴマーや不純物などが含まれる場合が多い。従って、より優れた感湿性を発現させるためには導電性高分子を精製してから用いるのが好ましい。
なお、本発明において「精製」とは、モノマー、オリゴマー等の低分子量体や、不純物などの除去をいう。
以下、精製前の導電性高分子を「未精製の導電性高分子」という。
【0048】
未精製の導電性高分子を精製する方法としては、膜ろ過、陽イオン交換が好ましい。
未精製の導電性高分子を上述した方法で精製する場合は、溶媒に分散または溶解させた状態で用いる。
未精製の導電性高分子を分散または溶解させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類、およびこれらを混合したものが好ましい。
【0049】
導電性高分子を上述した溶媒に分散または溶解させる際の濃度としては、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。導電性高分子の濃度が0.1質量%未満であると、精製後の導電製高分子の回収が困難となる。一方、導電性高分子の濃度が20質量%を超えると、粘度が上がりすぎる。その結果、特に陽イオン交換により精製する場合、後述する陽イオン交換樹脂との接触が悪くなるため、陽イオン交換の効果が十分に発揮されにくくなる。
【0050】
膜ろ過;
膜ろ過は、特にモノマーやオリゴマーなどの低分子量体の除去に適している。膜ろ過により低分子量体を除去することで、導電性高分子は湿度変化に対する抵抗の変化が大きくなる。その結果、より感湿性に優れた感湿膜が得られやすくなる。
【0051】
膜ろ過の方式としては特に限定されないが、全量ろ過方式やクロスフローろ過方式が好ましい。
【0052】
膜ろ過で使用するろ過膜としては、低分子量体を効率よく除去できる点で、限外ろ過膜が好ましい。
限外ろ過膜の素材としては、セルロース、セルロースアセテート、ポリサルホン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデンなど、通常、限外ろ過膜の材質として使用するものであれば、特に制限はない。
また、限外ろ過膜として、分画分子量の値が1000〜100000の範囲に収まる限外ろ過膜を用いるのが好ましく、より好ましくは5000〜50000の範囲に収まる限外ろ過膜であり、さらに好ましくは10000〜50000の範囲に収まる限外ろ過膜である。なお、限外ろ過膜の分画分子量の値が大きくなるほど収率は低下する傾向にあるが、導電性高分子より得られる感湿膜の成膜性、膜強度、及び感湿性は向上する傾向にある。
【0053】
陽イオン交換;
上述したように、酸化剤を用いて導電性高分子を製造する場合、導電性高分子には酸化剤由来の陽イオンが残存しやすい。この陽イオンは、特に湿度50%以下における導電性を阻害する不純物となりやすい。
陽イオン交換は、陽イオンなどの不純物の除去に適している。陽イオン交換により不純物が除去されることで、導電性高分子の湿度に対する抵抗の値が直線的となり分解能が向上する。その結果、湿度センサの感湿膜とした際に、センサの高い分解能を実現できる。
【0054】
陽イオンなどの不純物を除去するには、導電性高分子の分散液または溶解液を陽イオン交換樹脂に接触させればよい。
陽イオン交換樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばオルガノ株式会社製の「アンバーライト」などの強酸型の陽イオン交換樹脂が好適である。
陽イオン交換樹脂の形態については特に限定されることなく、種々の形態のものを使用でき、例えば球状細粒、膜状や繊維状などが挙げられる。
【0055】
導電性高分子に対する陽イオン交換樹脂の量は、導電性高分子1質量部に対して1〜10質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましい。陽イオン交換樹脂の量が1質量部未満であると、陽イオンなどの不純物が十分に除去されにくい。一方、陽イオン交換樹脂の量が10質量部を超えると、導電性高分子の分散液または溶解液に対し過剰量となるため、陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン交換処理した後の、分離液または溶離液の回収が困難となる。
【0056】
導電性高分子の分散液または溶解液と、陽イオン交換樹脂の接触方法としては、容器に導電性高分子の分散液または溶解液と陽イオン交換樹脂を入れ、攪拌または回転させることで、陽イオン交換樹脂と接触させる方法が挙げられる。
また、陽イオン交換樹脂をカラムに充填し、導電性高分子の分散液または溶解液を、好ましくはSV=2〜20、より好ましくはSV=5〜10の流量で通過させて、陽イオン交換処理を行う方法でもよい。
ここで、1SV(スベルドラップ)=1×10/s(1GL/s)である。
【0057】
導電性高分子の分散液または溶解液と、陽イオン交換樹脂を接触させる時間は0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。接触時間が0.1時間未満であると、陽イオンなどの不純物が十分に除去されにくい。
なお、接触時間の上限値については特に制限されず、導電性高分子の分散液または溶離液の濃度、陽イオン交換樹脂の量、後述する接触温度などの条件に併せて、適宜設定すればよい。
【0058】
導電性高分子の分散液または溶解液と、陽イオン交換樹脂を接触させる際の温度は、10〜50℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。接触温度が10℃未満であると、分離液または溶離液の粘度が上昇し、陽イオン交換樹脂と接触しにくくなる。さらに低温になると、分散液または溶解液が凍結するおそれがある。一方、接触温度が50℃を超えると、分散液または溶解液が蒸発する恐れがある。
【0059】
このようにして精製された導電性高分子は、オリゴマーやモノマーなどの低分子量体や、陽イオンなどの不純物が十分に除去されているので、より優れた感湿性を示す。
未精製の導電性高分子を精製するに際しては、膜ろ過と陽イオン交換のいずれか一方を行ってもよいし、両方を併用してもよい。
なお、精製後の導電性高分子は、水などの溶媒に分散または溶解した状態であるので、エバポレータなどで溶媒を除去すれば固体状の導電性高分子が得られるが、溶媒に分散または溶解した状態のまま感湿膜の成膜に用いてもよい。
【0060】
このようにして得られる導電性高分子は、湿度変化に対する電気伝導度の変化が大きく、感湿性に優れる。また、電子伝導性の高分子であるので、電気分極の影響を受けにくく、湿度センサの感湿膜とした際に直流駆動でも安定に動作できる。加えて、可溶性であるため加工性に優れ、均一な感湿膜を形成できる。従って、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子は、感湿膜の材料として好適である。
【0061】
ここで、「可溶」とは、10gの水または有機溶媒(液温25℃)に、0.1g以上均一に溶解することを意味する。
溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類;乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類などが挙げられる。これら有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
<湿度センサ用感湿膜>
本発明の感湿膜は、上述した導電性高分子を含む塗膜からなる。この塗膜は、導電性高分子が可溶な溶媒に、未精製の導電性高分子または精製後の導電性高分子を溶解させて導電性高分子溶液(導電性組成物)とし、該導電性組成物を電極が形成された基材の電極上に塗布し、乾燥させることで均一に成膜できる。
なお、精製後の導電性高分子は、上述したように水などの溶媒に分散または溶解した状態であるので、この状態のものを導電性組成物としてそのまま用いてもよい。
【0063】
導電性組成物の塗布方法としては、スピンコート法、浸漬法、バーコート法、スプレー法、キャスト法などの公知の塗布方法を用いることができる。
また、乾燥方法としては特に制限されないが、加熱や減圧により溶媒を除去する方法が挙げられる。
導電性組成物を塗布する際は、乾燥後の感湿膜の膜厚が70〜200nmとなるように塗布するのが好ましく、より好ましくは100〜150nmである。
【0064】
本発明の感湿膜は、上述した導電性高分子を含む塗膜からなるので、感湿性に優れる。加えて、加工性にも優れるので、容易かつ安価に製造可能である。
【0065】
<湿度センサ>
本発明の湿度センサは、本発明の感湿膜を感湿部として用い、基材上に電極と感湿膜とが順次形成された構造となっている。湿度センサは、例えば以下のようにして製造できる。
湿度センサが電気抵抗式の場合、基材上に櫛形電極を設け、その上に導電性組成物を塗布し、乾燥させて塗膜(感湿膜)を成膜して、湿度センサを得る。
一方、湿度センサが静電容量式の場合、基材上に下側電極を設け、その上に導電性組成物を塗布し、乾燥させて塗膜(感湿膜)を成膜し、さらに該感湿膜上に透湿性の上側電極を設けて、湿度センサを得る。
【0066】
本発明によれば、上述した感湿膜を用いるので、容易かつ安価に湿度センサを製造できる。
このようにして得られる湿度センサは、感湿性に優れ、直流駆動でも安定に動作できるので、利便性が高い。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における評価方法は以下の通りである。
【0068】
<湿度変化に対する電気伝導度の変化>
塗膜の湿度変化に対する電気伝導度の変化は、以下のようにして各湿度における体積抵抗率を求めることで評価した。
まず、ガラス基板上に、導電性組成物をマニュアルスピンナーASC−4000(Actes inc.製)により塗布し、100℃に加熱したホットプレート上に2分間静置して乾燥させ、膜厚100nmの塗膜がガラス基板上に形成された試験片を得た。塗膜の膜厚は、ナノスケールハイブリッド顕微鏡(キーエンス社製、「VN−8000」)を用いて測定した。
得られた試験片を恒温恒湿室で20℃に保ち、各湿度における表面抵抗値を測定した。表面抵抗値は、抵抗率計(株式会社三菱アナリテック製、「ロレスタGP」)に直列四探針プローブを装着して測定した。その際、試験片の塗膜の膜厚をナノスケールハイブリッド顕微鏡にて測定した。そして、膜厚の測定値に表面抵抗値を乗じて体積抵抗率を求めた。
【0069】
[実施例1]
<導電性高分子の重合>
2−アミノアニソール−4−スルホン酸1molを、0℃で4mol/L濃度のトリエチルアミン水溶液(水:アセトニトリル=3:7)300mLに溶解し、モノマー溶液を得た。
別途、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1molを、水/アセトニトリル=3:7の溶液1Lに溶解し、酸化剤溶液を得た。
ついで、酸化剤溶液を5℃に冷却しながら、モノマー溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間さらに攪拌した後、反応生成物を遠心ろ過器にてろ別した。さらに、反応生成物をメタノールにて洗浄した後、乾燥させ、上記式(1)で表される繰り返し単位(式(1)中、Rがスルホン酸基であり、R〜Rが水素原子であり、Rがメトキシ基である。)を有する重合体(未精製の導電性高分子)の粉末185gを得た。
【0070】
<導電性組成物の調製>
得られた重合体(未精製の導電性高分子)2質量部を、水98質量部に室温で溶解させ、水溶液を得た。この水溶液を導電性組成物(A)とした。
得られた導電性組成物(A)の各湿度における体積抵抗率を求めた。結果を図1に示す。
なお、「室温」とは、25℃のことである。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同様にして導電性組成物(A)を調製した。
分画分子量が10000の限外ろ過膜(ミリポア社製)を備えたろ過装置を用い、得られた導電性組成物(A)を全量ろ過し、低分子量体を除去した。限外ろ過膜を通過したろ液を導電性組成物(B)とした。
得られた導電性組成物(B)の各湿度における体積抵抗率を求めた。結果を図1に示す。
【0072】
[実施例3]
実施例1と同様にして導電性組成物(A)を調製した。
導電性組成物(A)100質量部に対して10質量部(すなわち、未精製の導電性高分子100質量部に対して500質量部)となるように、酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「アンバーライト」)をカラムに充填し、該カラムに導電性組成物(A)をSV=8の流量で通過させて陽イオン交換処理を行い、導電性組成物液(C)を得た。
得られた導電性組成物(C)の各湿度における体積抵抗率を求めた。結果を図2に示す。
【0073】
[実施例4]
実施例2と同様にして導電性組成物(A)を全量ろ過し、低分子量体を除去し、導電性組成物(B)を得た。
ついで、導電性組成物(B)100質量部に対して10質量部となるように、酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「アンバーライト」)をカラムに充填し、該カラムに導電性組成物(B)をSV=8の流量で通過させて陽イオン交換処理を行い、導電性組成物液(D)を得た。
得られた導電性組成物(D)の各湿度における体積抵抗率を求めた。結果を図2に示す。
【0074】
[比較例1]
アニリン1molを、0.1mol/L濃度のp−トルエンスルホン酸溶液650mLに溶解し、モノマー溶液を得た。
別途、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1molを、0.1mol/L濃度のp−トルエンスルホン酸溶液250mLに溶解し、酸化剤溶液を得た。
ついで、酸化剤溶液を5℃に冷却しながら、モノマー溶液を滴下した。滴下終了後、20℃で12時間さらに攪拌し、ポリアニリンのp−トルエンスルホン酸溶液を得た。
得られたポリアニリンのp−トルエンスルホン酸溶液を導電性組成物(E)として用い、該導電性組成物(E)の各湿度における体積抵抗率を求めた。結果を図1に示す。
【0075】
図1から明らかなように、実施例1で得られた導電性組成物(A)は、比較例1で得られたポリアニリンのp−トルエンスルホン酸溶液(導電性組成物(E))と比較して、湿度変化に対する体積抵抗率の変化が大きく、感湿性の高い湿度センサ用感湿膜を製造可能であることが示された。
また、導電性組成物(A)を限外ろ過した実施例2の導電性組成物(B)は、導電性組成物(A)よりもさらに感湿性が向上していた。
さらに、図2から明らかなように、導電性組成物(A)を陽イオン交換処理した実施例3の導電性組成物(C)や、限外ろ過と陽イオン交換処理を併用した実施例4の導電性組成物(D)は、湿度に対する体積抵抗率の値が直線的となり、分解能が向上していることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する導電性高分子を含む塗膜からなる、湿度センサ用感湿膜。
【化1】

式(1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸基、ニトロ基、ハロゲン原子であり、R〜Rのうちの少なくとも一つは酸性基またはその塩である。
【請求項2】
前記導電性高分子が、膜ろ過および/または陽イオン交換樹脂への接触により精製されている、請求項1に記載の湿度センサ用感湿膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の湿度センサ用感湿膜を感湿部として用いた、湿度センサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−232285(P2011−232285A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105178(P2010−105178)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】