説明

湿式ディスクブレーキ組立用治具及び湿式ディスクブレーキの組立方法

【課題】湿式ディスクブレーキの組立作業を、短時間で且つ容易に行なえる様にする。
【解決手段】湿式ディスクブレーキ本体19の組立後に、回転側、第一静止側、第二静止側各ディスク23〜25の内側に湿式ディスクブレーキ組立用治具1を挿入する。この治具1は、小径円筒部2の一端側に、大径円筒部3と径方向外側に突出する複数の外向突部4とを設ける。大径円筒部3をブレーキカバー21の貫通孔29に内嵌しつつ、上記各外向突部4の径方向外側に設けた係合片10、10の雄スプライン部11と、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51とをスプライン係合させた状態で、上記各ディスク23〜25同士を摩擦係合させる。治具1の引き抜き後、外周面に雄スプライン部を設けたブレーキハブの端部を、各ディスク23〜25の内側に挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フォークリフトの如き産業車両等の車両の制動に使用する湿式ディスクブレーキを組み立てる為に使用する湿式ディスクブレーキ組立用治具と、この治具を使用して組み立てる湿式ディスクブレーキの組立方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフト等の産業車両の制動を行なう為に、従来から主に、乾式ドラムブレーキが使用されている。例えば、この乾式ドラムブレーキとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この乾式ドラムブレーキは、アクスルハウジングの外径側にブレーキドラムを回転自在に支持しており、このブレーキドラムの内周面に1対のブレーキシューを押し付け自在としている。使用時には、このブレーキドラムに結合固定したハブに、車輪を取り付ける。制動時には、上記アクスルハウジングに固定の部分に支持したホイールシリンダにより、上記ブレーキシューをブレーキドラムの内周面に押し付け、制動を行なう。
【0003】
一方、近年は、ブレーキ装置の長寿命化及び密封性の向上を図る為、上述の様な乾式ドラムブレーキの代わりに、複数枚のディスクを摩擦係合させる事により制動を行なう、多板式の湿式ディスクブレーキを使用する事も考えられている。例えば、この湿式ディスクブレーキとして、特許文献2に記載されたものが知られている。この湿式ディスクブレーキは、制動時に、ピストンを油圧により変位させ、このピストンにより互いに相対回転する複数枚の静止側ディスクと複数枚の回転側ディスクとを摩擦係合させる。
【0004】
[先発明の説明]
又、本発明者は、この様な湿式ディスクブレーキに駐車の為のパーキング機構を設けた、パーキング機構付きの湿式ディスクブレーキを、本発明に先立って発明した(特願2005−305137号)。次に、この先発明の湿式ディスクブレーキを、図6〜30を用いて説明する。この湿式ディスクブレーキ18は、フォークリフト等の産業車両に使用するもので、湿式ディスクブレーキ本体19に、ブレーキハブ22と、図示しないアクスルハウジング及び軸受と、パーキング機構20とを組み合わせている。このうちの湿式ディスクブレーキ本体19は、ブレーキカバー21と、複数枚の回転側ディスク23、23と、複数枚の第一静止側ディスク24、24と、1枚の第二静止側ディスク25と、ピストン26(図7等)とを備える。
【0005】
このうちのブレーキカバー21は、シリンダ部材27と、シェル部材28とを結合して成る。このシリンダ部材27は、図13〜15に詳示する様に、上端部に径方向に突出する突部30を設けた略円板状で、中心部に内周面が円筒面である貫通孔29を設けている。又、このシリンダ部材27の軸方向外側(軸方向に関して「外」とは、車両に組み付けた状態で、車両の幅方向外寄りとなる側を言い、図6、10、13、16の裏側、図7、9、11、14、17、27、28、30の左側、図15、18の表側、図12、29(ロ)の下側。以下同じ。)面の径方向中間部に、上記ピストン16を嵌装する為の円環状のシリンダ孔32(図14、15)を設けている。又、上記シリンダ部材27の軸方向内側(軸方向に関して「内」とは、車両に組み付けた状態で、車両の幅方向中央寄りとなる側を言い、図6、10、13、16の表側、図7、9、11、14、17、27、28、30の右側、図15、18の裏側、図12、29(ロ)の上側。以下同じ。)面に給排口33の一端を開口させ、その他端を上記シリンダ孔32の底部に通じさせている。又、上記シリンダ部材27の軸方向内側面の、上記給排口33の一端開口周辺部に、軸方向に突出する板状突部34(図13、14)を設けている。上記シリンダ孔32内へは、上記給排口33に接続した図示しないブレーキホースを通じて圧油を給排する。
【0006】
更に、上記シリンダ部材27の軸方向外側面の、上記シリンダ孔32よりも径方向外側に外れた部分に、このシリンダ孔32と同心の円環状凹部35(図14、15)を設けている。そして、この円環状凹部35の底面の円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は6個所)に第一のカム用凹部36、36を設けている。これら各第一のカム用凹部36、36は、上記シリンダ部材27の中心軸を含む仮想平面で切断した場合の断面形状が円弧であり、円周方向一方向(図15の反時計方向)に向かう程、深さ及び径方向の幅が漸次小さくなっている。
【0007】
上記シリンダ部材27の上端寄り部分には、後述する被駆動側レバー37の支持軸38(図7等)を挿通させる為の、軸方向に貫通する支持孔39を設けており、上記シリンダ部材27の軸方向外側面の、この支持孔39の一端開口と対向する部分に、凹孔40(図14、15)を設けている。この凹孔40の下端は、上記円環状凹部35の上端部と通じさせている。又、上記シリンダ部材27の軸方向内側面で、上記支持孔39の開口端周辺部に、外周面が円筒面である柱状突部76(図13、14)を設けている。
【0008】
一方、上記シリンダ部材27に結合固定する、前記シェル部材28は、図16〜18に詳示する様に、筒状で、軸方向中間部内周面に、径方向に突出する内向フランジ状の受圧部41を、全周に亙り設けている。又、上記シェル部材28の上端部外周面の軸方向内端寄り部分(図16の表側端部寄り部分、図17の右端寄り部分、図18の裏側端部寄り部分)に径方向に突出する突部43を設けており、この突部43の上端面に形成したねじ孔44に、吊り下げ用リング45(図6、7、9)を結合している。
【0009】
又、上記シェル部材28の上端部の軸方向中間部に冷却用の潤滑油を送り込む為の送り込み口91(図18)を、同じく下端寄り部分の軸方向中間部にこの潤滑油を取り出す為の取り出し口92(図16、18)を、それぞれ設けている。これら送り込み口91及び取り出し口92の、シェル部材28の径方向に関する内端は、このシェル部材28の内周面に通じさせている。又、このシェル部材28の下端部にドレンプラグ96(図7)を接続自在としている。
【0010】
又、上記シェル部材28の受圧部41よりも軸方向内側に外れた部分の内周面で、円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は4個所)に、前記各第一静止側ディスク24、24の外周面を係合させる為の、軸方向寸法が大きい第一外径側係合凹部47、47(図16)を設けている。これら各第一外径側係合凹部47、47の軸方向内端は上記シェル部材28の軸方向内側面に開口させている。又、上記シェル部材28の軸方向内端部内周面の、上記各第一外径側係合凹部47、47に対し円周方向の位相がずれた円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は6個所)に、前記第二静止側ディスク25の外周面を係合させる為の、軸方向寸法が小さい第二外径側係合凹部48、48を設けている。
【0011】
この様なシリンダ部材27とシェル部材28とは、それぞれの外周側端部に設けた複数の通孔31、42を一致させた状態で互いに重ね合わせ、各通孔31、42を挿通したボルト49、49とナット50、50(図6、8〜11)とにより、互いに結合固定して、前記ブレーキカバー21(図6〜11)としている。尚、図7、9、10では、給排口33の内端側開口を栓90により塞いでいるが、使用時にはこの栓90を取り外してブレーキホースの端部を接続する。又、上記ブレーキカバー21の外端部内周面にシール装置95を設けている。このシール装置95は、このブレーキカバー21の外端部内周面と、次述するブレーキハブ22の内端部外周面との間をシールする。
【0012】
そして、上記ブレーキカバー21の内側に、図6、7に示すブレーキハブ22の軸方向内端寄り部分を挿通すると共に、上記シリンダ部材27の貫通孔29に挿通した図示しないアクスルハウジングの外周面と、上記ブレーキハブ22の内周面との間に図示しない軸受を設ける事により、このアクスルハウジングの周囲に上記ブレーキハブ22を、回転自在に支持している。又、上記貫通孔29の内周面とアクスルハウジングの外周面との間に、Oリング94(図7)を設けている。上記シリンダ部材27は、上記アクスルハウジングに直接又は他の部材を介して固定されている。この構成により、上記ブレーキハブ22は、上記ブレーキカバー21の内側にその軸方向内端寄り部分を配置する状態で、このブレーキカバー21に対し回転自在に支持される。又、このブレーキハブ22の軸方向外端寄り部分の上記ブレーキカバー21の内側から外側に突出した部分に、車輪を構成するホイールを、直接又は他の部材を介して結合可能としている。又、上記アクスルハウジングの内側に挿通した図示しないアクスルシャフトの外端部を、上記ブレーキハブ22の外端面に結合固定している。
【0013】
上記ブレーキカバー21の内周面と上記ブレーキハブ22の内端部外周面との間には、前記複数枚の回転側ディスク23、23と、前記複数枚の第一静止側ディスク24、24及び1枚の第二静止側ディスク25とを設けている。このうちの各回転側ディスク23、23は、上記ブレーキカバー21の内側で上記ブレーキハブ22の外周面に、このブレーキハブ22に対する回転不能に係合させている。この為に、上記各回転側ディスク23、23は、図19〜20に詳示する様に、鉄等の金属により円環状に造っており、内周面に雌スプライン部51を設けている。又、各回転側ディスク23、23の両側面の円周方向等間隔複数個所に、ペーパーフェーシング等の、摩擦材52、52を貼着している。そして、上記ブレーキハブ22の内端部外周面に設けた雄スプライン部53(図7)に、上記各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51をスプライン係合させている。これにより、これら複数枚の回転側ディスク23、23は、上記ブレーキハブ22の外周面にこのブレーキハブ22に対する回転不能に係合される。
【0014】
又、上記各第一静止側ディスク24、24は、上記ブレーキカバー21を構成するシェル部材28の内周面に設けた前記各第一外径側係合凹部47、47に、回転不能に係合させている。この為に、上記各第一静止側ディスク24、24は、図21に詳示する様に、外周面の円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は4個所)に第一係止突部54、54を設けた円環状としており、これら各第一係止突部54、54を、上記シェル部材28の各第一外径側係合凹部47、47に係合させている。これにより、上記各第一静止側ディスク24、24は、上記ブレーキカバー21の内周面に、このブレーキカバー21に対する回転不能に係合される。又、上記各回転側ディスク23、23と、上記各第一静止側ディスク24、24とは、軸方向に関して交互に配置している。
【0015】
一方、前記第二静止側ディスク25は、上記シェル部材28の軸方向内端部内周面に、、回転不能に係合させている。この為に、上記第二静止側ディスク25は、図22に詳示する様に円環状としており、外周面の上記各第一静止側ディスク24、24の各第一係止突部54、54と整合する円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は4個所)に、第二係止突部55、55を設けている。又、上記第二静止側ディスク25の外周面の、上記各第二係止突部55、55と位相がずれた円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は6個所)に、第三係止突部56、56を設けている。
【0016】
そして、上記シェル部材28の内周面に設けた各第一外径側係合凹部47、47の軸方向内端寄り部分に、上記第二静止側ディスク25の各第二係止突部55、55を係合させると共に、上記シェル部材28の内端部内周面に設けた各第二外径側係合凹部48、48に、上記第二静止側ディスク25の各第三係止突部56、56を係合させている。これにより、上記第二静止側ディスク25は、上記ブレーキカバー21の内周面に、このブレーキカバー21に対する回転不能に係合される。上記第二静止側ディスク25は、上記各回転側ディスク23、23のうち、最も受圧部41から離れた1枚の回転側ディスク23の反受圧部41側(図7、11の右側)と対向している。
【0017】
又、上記シェル部材28の、上記各第二外径側係合凹部48、48の軸方向内方に向いた側面に凹孔57、57(図11、16)を形成すると共に、これら各凹孔57、57内にピストン戻しばね58(図11)をそれぞれ設置している。これら各ピストン戻しばね58は、上記第二静止側ディスク25の各第三係止突部56、56と対向して、これら各第三係止突部56、56を反受圧部41側(図11の右側)に弾性的に押圧する。
【0018】
この様な第二静止側ディスク25の反受圧部41側の側面には、前記シリンダ部材27のシリンダ孔32に嵌装したピストン26(図7等)の先端面を対向させている。このピストン26は、円筒状の嵌合部59と、円環状の押圧部60とを有し、このうちの嵌合部59を上記シリンダ孔32内に、軸方向の変位を自在に嵌装している。このシリンダ孔32の内径側、外径側両周面と上記嵌合部59の内、外両周面との間に、それぞれシールリング93、93を設けている。又、このシリンダ孔32から突出した上記押圧部60を、上記第二静止側ディスク25の反受圧部41側の側面に対向させている。
【0019】
この様な、湿式ディスクブレーキ本体19にブレーキハブ22とアクスルハウジング及び軸受とを組み合わせたものには、前記パーキング機構20を組み込んでいる。このパーキング機構20は、前記ブレーキカバー21に支持した被駆動側レバー37及びプレッシャプレート62と、カム機構63とを備える。このうちのプレッシャプレート62は、図23に詳示する様に、金属製で、所定の厚さを有する円環状に形成している。このプレッシャプレート62の外周面の円周方向一部に、上記被駆動側レバー37の一部を係合させる為の、外径側係止溝64を設けている。又、このプレッシャプレート62の片側面の円周方向等間隔複数個所の、前記シリンダ部材27に設けた各第一のカム用凹部36、36と整合する位置に、第二のカム用凹部65、65を設けている。これら各第二のカム用凹部65、65は、上記プレッシャプレート62を中心軸を含む仮想平面で切断した場合の断面形状が円弧であり、円周方向一方向(図23の反時計方向)に向かう程、深さ及び径方向の幅が漸次小さくなっている。
【0020】
そして、図7〜8に示す様に、上記ブレーキカバー21の内側の、上記シリンダ部材27に設けた前記円環状凹部35内に上記プレッシャプレート62を、前記ピストン26の押圧部60の背面(図7、27、28の右側面)と対向させた状態で、軸方向の変位及び回転を可能に配置している。又、上記各第二のカム用凹部65、65と各第一のカム用凹部36、36とを対向させた状態で、これら各第一のカム用凹部36、36が円周方向に関して深くなる方向と、上記各第二のカム用凹部65、65が円周方向に関して深くなる方向とは、互いに逆にしている。そして、互いに対向する各第一のカム用凹部36、36と各第二のカム用凹部65、65との間に鋼製のボール66を、それぞれ1個ずつ配置している。これら各カム用凹部36、65と各ボール66とが、前記カム機構63を構成している。このカム機構63は、上記プレッシャプレート62が上記ブレーキカバー21に対し、各第二のカム用凹部65、65が、互いに対向する各第一のカム用凹部36、36の浅くなる側に向かう、円周方向一方向に回転した場合に、各カム用凹部65、36と各ボール66との係合に基づいて、上記プレッシャプレート62を前記受圧部41側に変位させる。
【0021】
又、上記ブレーキカバー21の一部に前記被駆動側レバー37の支持軸38を支持している。この被駆動側レバー37は、図24に詳示する様なレバー本体67と、図25〜26に詳示する様な支持軸38とを、ナット68(図6、7、10等)により結合固定して成る。このうちの支持軸38は、先端部(図25の左端部)の円周方向一部に径方向に大きく突出したカム69を有する。そして、支持軸38の基端部(図25の右端部)に雄ねじ部70を設けると共に、中間部に断面矩形状の係合軸部71を設けている。
【0022】
そして、図27に示す様に、上記支持軸38の先端寄り部分の軸部72を前記シリンダ部材27に設けた支持孔39内に、この支持孔39内での回転を可能に挿入すると共に、この支持孔39内からシリンダ部材27の外側に突出したカム69を、このシリンダ部材27の凹孔40及び円環状凹部35内に配置している。このカム69の先端部は、この円環状凹部35内に配置したプレッシャプレート62の外径側係止溝64に係合させている。そして、上記支持孔39内から上記シリンダ部材27の軸方向内側に突出させた上記係合軸部71を、上記レバー本体67の基端部(図24の右端部、図27の下端部)に設けた矩形状の通孔73内に、この通孔73内での回転を不能に係合させつつ挿通すると共に、上記雄ねじ部70にナット68を螺合し、更に緊締している。この状態で、レバー本体67の基端部は、上記支持軸38の軸部72及び係合軸部71の間の段差面74と、ナット68との間で挟持される。この構成により、上記被駆動側レバー37は、ブレーキカバー21に、上記支持軸38を中心とする揺動変位を可能に支持される。
【0023】
使用時には、上記レバー本体67の先端部(図6〜8の上端部、図24の左端部)に設けた係止孔75に、車両の運転席側に設けた駆動側レバーの揺動により押し引きされる、パーキングケーブルのワイヤー(図示せず)の端部を結合する。尚、上記レバー本体67の基端部と支持軸38とは、雄スプライン部と雌スプライン部とから成るスプライン係合部により、互いに回転不能に係合させても良い。
【0024】
又、上記シリンダ部材27の軸方向内側面で、上記支持孔39の開口端周辺部に設けた柱状突部76に、レバー戻しばね77のコイル部78を外嵌している。そして、上記シリンダ部材27に設けた前記板状突部34の円周方向片側面に、上記レバー戻しばね77の一端に設けた係止部79(図6)を係止すると共に、このレバー戻しばね77の他端に設けた鉤部80(図6)を上記被駆動側レバー37のレバー本体67の先端寄り部分の片側面に係止している。尚、このレバー本体67の片側面に、上記鉤部80を係止する為の係止溝を設ける事もできる。この様なレバー戻しばね77を設けた事により、上記被駆動側レバー37は、その戻り方向である、他方向{図6、8、10、29(イ)の時計方向}に向かう弾力が付与される。
【0025】
更に、上記ブレーキカバー21と被駆動側レバー37との間に、この被駆動側レバー37が上記他方向に揺動した場合の戻り位置を調整する為の戻り調整装置81を設けている。この戻り調整装置81は、上記ブレーキカバー21を構成するシリンダ部材27に結合固定したブラケット82と、このブラケット82に結合支持したアジャストボルト83とを備える。このうちのブラケット82は、金属板を断面L字形に曲げる事により造ったもので、第一の板部84と第二の板部85とを備える。このうちの第一の板部84の長さ方向一端部(図6、8、10、29(イ)の裏側端部、図9の左端部)に通孔(図示せず)を形成しており、この通孔に挿通したボルト86の雄ねじ部を上記シリンダ部材27の突部30の上端面に形成したねじ孔(図示せず)に螺合、緊締している。これにより、上記シリンダ部材27に上記ブラケット82を結合固定している。
【0026】
又、上記第二の板部85の長さ方向他端部(図6、8、10、29(イ)の表側端部、図9の右端部)に通孔(図示せず)を形成しており、この通孔にアジャストボルト83の雄ねじ部を挿通している。そして、この雄ねじ部の中間部に螺合した2個のナット87、87により、上記第二の板部85を両側から締め付けている。上記アジャストボルト83の雄ねじ部に対するこれら2個のナット87、87の緩めと締めとを行なう事により、上記アジャストボルト83の頭部の、上記第二の板部85の側面からの突出量を調節自在としている。そして、上記被駆動側レバー37のレバー本体67の、前記鉤部80を係止した側とは反対側の側面に、上記アジャストボルト83の頭部を対向させている。上述の様に上記被駆動側レバー37は、レバー戻しばね77により、他方向に揺動する様に弾力が付与されている為、上記レバー本体67の側面に上記頭部が弾性的に押し付けられる。即ち、上記被駆動側レバー37が戻り方向である、他方向に揺動した場合での、上記アジャストボルト83の頭部の、上記レバー本体67の側面に対する押し付けを可能としている。
【0027】
上述の様に構成する先発明の湿式ディスクブレーキの使用時には、上記シリンダ部材27の軸方向内側面にアクスルブラケット88(図8)を、図示しない複数本のボルトにより固定する。そして、このアクスルブラケット88に設けた4個の通孔89、89に挿入した4本のボルト(図示せず)により、図示しない車体の一部、又は懸架装置の一部に固定する。この状態で、ブレーキカバー21及びブレーキハブ22が、車体又は懸架装置の一部にぶら下がる状態で取り付けられる。但し、上記アクスルブラケット88を省略し、上記ブレーキカバー21を、車体又は懸架装置の一部に直接固定する事もできる。又、上記シリンダ部材27に設けた給排口33に、ブレーキホースの端部を接続する。
【0028】
前述の様に構成し、上述の様に車両に取り付けた状態で使用する、先発明の湿式ディスクブレーキの場合、非制動時には、図27に示す様に、複数のピストン戻しばね58(図11)によりピストン26を、第二静止側ディスク25を介して反受圧部41側(図27の右側)に押圧している。この為、この第二静止側ディスク25とこれと対向する1枚の回転側ディスク23との間に、ブレーキクリアランスである、軸方向の隙間C1 が発生している。そして、走行状態から制動する際には、上記シリンダ部材27に設けた給排口33を通じて、シリンダ孔32内に圧油を送り込む。そして、この送り込みに基づいてこのシリンダ孔32内に嵌合部59を嵌装したピストン26を、上記受圧部41側(図27の左側)に押し出す事により、図28に示す様に、ピストン26の押圧部60が、第一、第二各静止側ディスク24、25及び各回転側ディスク23、23を、上記受圧部41側に押圧する。この結果、これら各ディスク24、25、23が互いに摩擦係合する事により、制動力が発生する。又、非制動状態では、上記給排口33を通じてシリンダ孔32内から圧油を排出する事により、上記複数のピストン戻しばね58(図11)が、第二静止側ディスク25を介してピストン26を、反受圧部41側にプレッシャプレート62に突き当たる迄押し戻して、ブレーキクリアランスである、軸方向の隙間C1 (図27)を発生させる。
【0029】
これに対して、駐車時にパーキング機構20による駐車制動力を発生させる際には、図示しない運転席側の駆動側レバーの揺動により、やはり図示しないパーキングケーブルを介して、被駆動側レバー37のレバー本体67を、一方向である、図29(イ)の反時計方向(矢印αで示す方向)に揺動させる。すると、この揺動により、プレッシャプレート62が円周方向一方向である、図29(イ)の時計方向(矢印βで示す方向)に回転する。そしてこの回転に伴ってこのプレッシャプレート62が、カム機構63により軸方向に変位させられる。具体的には、図29(ロ)に示す様に、カム機構63を構成する複数のボール66が、シリンダ部材27の各第一のカム用凹部36とプレッシャプレート62の各第二のカム用凹部65との浅い側に変位して、このプレッシャプレート62をシリンダ部材27から離れる方向、即ち、受圧部41側{図29(ロ)の矢印γで示す方向}に変位させる(リフトさせる)。そして、図30に示す様に、上記プレッシャプレート62が、ピストン26の押圧部60を受圧部41側(図28の左側)に押圧する。これにより、この押圧部60が、上記第二静止側ディスク25を介して、各回転側ディスク23、23及び各第一静止側ディスク24、24を押圧し、これら各ディスク25、23、24を摩擦係合させる事により、駐車制動力を発生させる。
【0030】
これに対して、上記駐車制動力を解除すべく(なくすべく)運転席側の駆動側レバーを揺動させると、被駆動側レバー37のレバー本体67とブレーキカバー21との間に設けたレバー戻しばね77の弾力により、このレバー本体67が他方向である、図29(イ)の時計方向(矢印αと反対方向)に揺動する。この様にレバー本体67が他方向に揺動した場合は、プレッシャプレート62が円周方向他方向である、図29(イ)の反時計方向(矢印βと反対方向}に回転し、このプレッシャプレート62が、複数のピストン戻しばね58(図11)により、ピストン26(図27等)と共に、反受圧部41側(図27の右側)に戻される。そして、上記レバー本体67の側面が、戻り調整装置81を構成するアジャストボルト83の頭部に当接する事により、このレバー本体67の揺動が規制される。この状態では、図27に示した様に、上記ピストン戻しばね58によりピストン26に押し付けられた第二静止側ディスク25と、この第二静止側ディスク25と対向する1枚の回転側ディスク23との間に、ブレーキクリアランスである、軸方向の隙間C1 が発生する。この結果、上記駐車制動力がなくなり、車輪の回転が可能になる。
【0031】
この様に、前記非制動状態で、プレッシャプレート62がピストン26の押圧部60に当接する事により、このピストン26の戻り(反受圧部側41への変位)が規制される為、冷却用の潤滑油の圧力がこのピストン26の押圧部60に反受圧部41側に作用する場合でも、上記ブレーキクリアランスC1 を所望の大きさに維持し易くできる。これに対して、先発明の場合とは異なり、パーキング機構を設けない湿式ディスクブレーキの場合には、非制動状態で、ピストン26がピストン戻しばね58(図11参照)により、シリンダ孔32の底部に迄大きく戻されて、ブレーキクリアランスである、第二静止側ディスク25とこれと対向する回転側ディスク23との間の軸方向の隙間が大きくなってしまう。又、ピストン戻しばね58がない場合でも、各ディスク23〜25が存在する空間内に冷却用の潤滑油が循環している為、この潤滑油の圧力によりピストン26は、シリンダ孔32の底部に迄大きく押し戻される。何れにしても、上記ブレーキクリアランスが大きくなると、ブレーキペダルのストロークが深くなる等の不都合が生じる。これに対して、先発明によれば、ピストン26の戻りをプレッシャプレート62により規制できる為、この様な不都合をなくせる。
【0032】
しかも、先発明の場合には、被駆動側レバー37とブレーキカバー21との間に設けた戻り調整装置81を適切に調整する事により、各回転側ディスク23、23の摩擦材52、52の摩耗に拘らず、上記ブレーキクリアランスC1 を一定に維持し易くできる。例えば、これら各回転側ディスク23、23の摩擦材52、52が摩耗して(例えば各回転側ディスク23の両側の摩擦材52、52で0.3mmずつ摩耗して)、上記ブレーキクリアランスC1 が大きくなる傾向となった場合には、アジャストボルト83の頭部の、ブラケット82の第二の板部85の側面からの突出量を大きくすべく調整する。そして、カム機構63を構成する複数のボール66を、各第一のカム用凹部36及び各第二のカム用凹部65の深さが中間となる部分に変位させた状態で、レバー本体67の側面をアジャストボルト83の頭部に当接させる。これにより、プレッシャプレート62及びピストン26(図27等)の軸方向の変位が規制される。この状態では、各ディスク23、23の片側ずつの摩擦材52、52の軸方向の摩耗量の合計分だけプレッシャプレート62を、受圧部41側に位置させた状態で、レバー本体67をアジャストボルト83の頭部に当接させる事ができる。この結果、各回転側ディスク23、23の摩耗に拘らず、制動に使用するブレーキペダルのストロークを、安定してほぼ一定に維持できる。又、このストロークを任意の大きさに変える事も容易に行なえる。
【0033】
又、上記駐車制動力を解除する際にも、上記被駆動側レバー37の戻り方向である、他方向への揺動変位が、ブラケット82に対するアジャストボルト83の頭部の突出量を調整した戻り調整装置82により規制される。この為、上記各回転側ディスク23、23の摩耗に拘らず、駐車制動力を解除した場合のブレーキクリアランスC1 (図27)も所望の大きさに容易に調整できる。従って、運転席側の駆動側レバーのストローク(揺動代)も安定してほぼ一定に維持できる。又、このストロークを任意の大きさに変える事も容易に行なえる。又、隙間調整機構として機能する戻り調整装置81は、1個のみ設ければ良い為、ブレーキクリアランスC1 の調整作業を容易に行なえる。
【0034】
又、従来から広く使用されている乾式のドラムブレーキに組み込んでいるパーキング機構のパーキングケーブル及び運転席側の駆動側レバーを流用でき、部品の共用化によるコスト低減を図れる。又、上記ドラムブレーキを組み付けているアクスルハウジング及びアクスルシャフトを大幅に設計変更する事なく、本発明のパーキング機構付湿式ディスクブレーキを組み付ける事ができる。
【0035】
尚、上述の先発明の場合には、被駆動側レバー37にパーキングケーブルを結合する場合に就いて説明したが、この被駆動側レバー37に、運転席側に設けた駆動側レバーに連結したロッドを結合する事により、上記被駆動側レバー37を駆動側レバーにより揺動させる事もできる。
【0036】
上述の様な先発明の湿式ディスクブレーキ18の場合、ブレーキハブ22の内端部外周面に設けた雄スプライン部53と、複数枚の回転側ディスク23、23の内周面に設けた雌スプライン部51、51とをスプライン係合させている。この様な湿式ディスクブレーキ18の構造の場合、車両の組立メーカーで湿式ディスクブレーキ本体19をブレーキハブ22と組み合わせ、湿式ディスクブレーキ18の完成品とする組立作業が相当に困難である。即ち、この組立作業を行なう場合、先ず、湿式ディスクブレーキ本体19の組立メーカーで、ブレーキカバー21の内周面に設けた第一、第二外径側係合凹部47、48(図16)と、第一、第二静止側ディスク24、25の外周面に設けた第一〜第三係止突部54〜56とを係合させつつ、これら各静止側ディスク24、25に対して回転側ディスク23、23を1枚ずつ交互に配置する。そして、この状態で、車両の組立メーカーに搬送した後、この組立メーカーで、上記各回転側ディスク23、23の内側にブレーキハブ22の内端部をスプライン係合させる作業を行なう。この場合には、上記各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51と、ブレーキハブ22の雄スプライン部53とをスプライン係合させるべく、この雄スプライン部53を1枚の回転側ディスク23に係合させる毎に、雄スプライン部53と雌スプライン部51、51との円周方向の位相を一致させる様に、上記ブレーキハブ22を適切な状態まで回転させる。但し、このブレーキハブ22の重量は相当に大きい(重い)為、車両の組立メーカーで、このブレーキハブ22を回転させつつ、ブレーキカバー21の奥側(図7の右側)に移動させる作業は、相当に困難である。又、この場合には、車両の組立メーカーでの組立作業に長時間を要する。
【0037】
又、各回転側ディスク23、23の摩擦材52、52の摩耗等により、各回転側ディスク23、23及び各第一、第二静止側ディスク24、25のうちの少なくとも何れかを交換する等の、湿式ディスクブレーキ本体19又はパーキング機構20に修理、交換の必要が生じた場合には、整備工場で、上記ブレーキカバー21の内側からブレーキハブ22の内端部を引き抜き、所定の作業を行なった後、再度、このブレーキカバー21の内側にブレーキハブ22を挿入する作業を行なう必要がある。この場合も、車両の組立メーカーでの作業と同様に、1枚の回転側ディスク23毎に順に、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51とブレーキハブ22の雄スプライン部53との円周方向の位相を一致させる様に、重量の大きいブレーキハブ22を適切な状態まで回転させつつ、このブレーキハブ22をブレーキカバー21の奥側に移動させる必要がある。この為、この様な整備工場での湿式ディスクブレーキ18の分解後の組立作業も相当に困難で、且つ、この組立作業に長時間を要する。
【0038】
【特許文献1】特開2003−247573号公報
【特許文献2】特開平9−112604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
本発明の湿式ディスクブレーキ組立用治具及び湿式ディスクブレーキの組立方法は、上述の様な事情に鑑みて、湿式ディスクブレーキの組立作業を容易に、且つ、短時間で行なえる様にすべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明の湿式ディスクブレーキ組立用治具及び湿式ディスクブレーキの組立方法のうち、湿式ディスクブレーキ組立用治具は、湿式ディスクブレーキを組み立てる為に使用する。
この湿式ディスクブレーキは、ブレーキカバーと、ブレーキハブと、複数枚の回転側ディスク及び静止側ディスクと、ピストンとを備える。
このうちのブレーキカバーは、軸方向片側内周面に径方向に突出する受圧部を、軸方向他側に軸方向に貫通する貫通孔を、それぞれ設けている。
又、上記ブレーキハブは、上記ブレーキカバーの軸方向片側の内側にその一部を配置する状態でこのブレーキカバーに対し回転自在に支持すると共に、このブレーキカバーの内側から突出した部分に、直接又は他の部材を介して車輪を結合固定可能としている。
又、上記複数枚の回転側ディスクは、上記ブレーキカバーの内側でこのブレーキハブの外周面に、このブレーキハブに対する回転不能に係合させている。
又、上記複数枚の静止側ディスクは、上記ブレーキカバーの内周面に、これら複数枚の回転側ディスクに対し交互に配置する状態で上記ブレーキカバーに対する回転不能に係合させている。
又、上記ピストンは、上記ブレーキカバーに設けられたシリンダ孔内に軸方向の変位を可能に嵌装している。
そして、このピストンにより上記各回転側ディスク及び各静止側ディスクを上記受圧部に向け押圧し、これら回転側ディスク及び静止側ディスクを互いに摩擦係合させる事により制動を行なう。
【0041】
特に、請求項1に記載した本発明の湿式ディスクブレーキ組立用治具は、
軸方向片側に杆部を、軸方向他端部に挿入部を、軸方向中間部にこの挿入部の外周面よりも径方向外側に突出する外向突部を、それぞれ設けており、この外向突部の外径側端部にこの外向突部の厚さよりもその軸方向長さが大きい係合部を設けており、この係合部の径方向外側面に、上記各回転側ディスクの内周面に設けた雌スプライン部の少なくとも一部とスプライン係合する雄スプライン部を設けている。
【0042】
又、請求項1に記載した湿式ディスク組立用治具に於いて、好ましくは、請求項2に記載した様に、軸方向中間部外周面の円周方向複数個所(例えば3個所以上)に、それぞれ径方向外側に突出する状態で設けた外向突部の外径側端部に、中心軸に対し直交する仮想平面に関する(で切断した場合の)断面形状が円弧である係合部を設けると共に、これら各係合部の径方向外側面に雄スプライン部を設ける。
【0043】
又、請求項3に記載した本発明の湿式ディスクブレーキの組立方法は、
上述の湿式ディスクブレーキを、上述の湿式ディスクブレーキ組立用治具により組み立てる。
特に、請求項3に記載した湿式ディスクブレーキの組立方法は、
上記ブレーキカバーの内周面に、上記複数枚の静止側ディスクを回転不能に係合させ、上記複数枚の回転側ディスクをこれら各静止側ディスクに対し交互に配置する。そして、この状態で、上記湿式ディスクブレーキ組立用治具を上記ブレーキカバーの軸方向片側から挿入し、上記挿入部を上記貫通孔に内嵌させつつ、上記係合部の径方向外側面に設けた雄スプライン部の各歯を上記各回転側ディスクの内周面に設けた雌スプライン部の少なくとも一部にスプライン係合させる事により、雌スプライン部の各歯の円周方向の位相を上記各回転側ディスク同士で一致させた状態で、上記ピストンと受圧部との間で上記各静止側ディスク及び各回転側ディスクを挟持させる。次いで、上記湿式ディスクブレーキ組立用治具を静止側、回転側各ディスクの内側から引き抜いた後、上記各回転側ディスクの雌スプライン部と上記ブレーキハブの外周面に設けた雄スプライン部とをスプライン係合させつつ、このブレーキハブを上記ブレーキカバー及び各静止側、回転側ディスクと組み合わせる。
【発明の効果】
【0044】
上述の様に構成する本発明の湿式ディスクブレーキ組立用治具を用いて、湿式ディスクブレーキを組み立てる湿式ディスクブレーキの組立方法によれば、車両の組立メーカー又は整備工場での、湿式ディスクブレーキの組立作業を容易に、且つ、短時間で行なえる。例えば、上記組立メーカーで、各回転側ディスクの雌スプライン部にブレーキハブの雄スプライン部をスプライン係合させる作業は、重量の大きいブレーキハブを1枚の回転側ディスクに係合させる毎に回転させる事なく、各回転側ディスクの雌スプライン部の各歯の位相が総て一致したままの状態で容易に行なえる。言い換えれば、上記組立メーカーで、1枚の回転側ディスク毎に、この回転側ディスクの雌スプライン部とブレーキハブの雄スプライン部との位相を一致させるべく、重量の大きいブレーキハブを回転させつつブレーキカバーの奥側に移動させると言った、困難で且つ長時間を要する作業を行なう必要がなくなる。又、治具の挿入部を貫通孔に内嵌する事により、この治具の長さ方向端部に下方に加わる力をブレーキカバーで支承する事ができ、この治具が軽量である事と相俟って、この治具を回転させる作業をより容易に行なえる。
【0045】
又、各回転側ディスクの摩擦材の摩耗等により、各回転側ディスク及び各静止側ディスクのうちの少なくとも何れかを交換する等の、湿式ディスクブレーキの修理、交換の必要が生じた場合に、整備工場で、この湿式ディスクブレーキの分解後に、再度この湿式ディスクを組み立てる作業も、短時間で且つ容易に行なえる。即ち、この作業を行なう際にも、重量の大きいブレーキハブを回転させつつ、このブレーキハブの雄スプライン部と、ブレーキカバーに組み付けた複数枚の回転側ディスクの雌スプライン部とをスプライン係合する必要がなくなる。この結果、上記組立工場及び整備工場での、湿式ディスクブレーキの組立作業を容易に、且つ、短時間で行なえる。又、各回転側ディスクの雌スプライン部とブレーキハブの雄スプライン部とをスプライン係合させる為に、ブレーキカバーから各回転側ディスク及び各静止側ディスクを取り外す必要はない。
【0046】
又、請求項2に記載した好ましい構成によれば、治具を、より軽量且つ小型にする事ができ、湿式ディスクブレーキの組立作業を、より容易に、且つ、短時間で行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
[本発明の実施の形態の1例]
図1〜5は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、湿式ディスクブレーキの組立作業を、より容易に、且つ、短時間で行なえる様にすべく、この組立作業に用いる治具、及び、組立方法を工夫した点にある。本例の組立方法により得られる湿式ディスクブレーキの完成品の構造自体は、前述の図6〜30に示した先発明の湿式ディスクブレーキ18の場合と同様である。この為、この湿式ディスクブレーキ18と同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0048】
先ず、本例の湿式ディスクブレーキ組立用治具1を、図1〜2を用いて説明する。この治具1は、軸方向片側(図1の左側、図2の裏側)に、杆部である小径円筒部2を、軸方向他端部(図1の右側、図2の表側)に挿入部である大径円筒部3を、軸方向中間部の円周方向複数個所(図示の例の場合は3個所)に外向突部4、4を、それぞれ設けている。上記治具1は、互いに別体の部材である、円筒部材5と係合部材6とを一体に結合固定して成る。このうちの円筒部材5は、軸方向全長に亙り中空状で、長さ方向片半部(図1の左半部)外周面に斜格子状(綾目状)のローレット加工を施す事により、この片半部外周面を掴み部7としている。
【0049】
又、上記係合部材6は、円板部8の片面(図1の右側面、図2の表側面)に上記大径円筒部3を固設している。又、上記円板部8の中心部に、上記円筒部材5を内嵌する為の貫通孔9を形成している。上記大径円筒部3と、この貫通孔9とは同心としている。又、上記円板部8の円周方向等間隔複数個所(図示の例の場合は3個所)に、板状の外向突部4、4を、それぞれ径方向外方に突出する状態で設けている。そして、これら各外向鍔部4、4の外径側端部に、それぞれが係合部である、中心軸に対し直交する仮想平面に関する(この仮想平面で切断した場合の)断面形状が円弧で、軸方向(図1の左右方向、図2の裏表方向)に長い係合片10、10を固設している。これら各係合片10、10の軸方向長さLは上記各外向突部4、4の厚さtよりも大きくしており(L>t)、上記各外向突部4、4の外径側端部に、上記各係合片10、10の径方向内側面の長さ方向中間部を結合している。
【0050】
又、上記各係合片10、10の径方向外側面に雄スプライン部11、11を、それぞれ軸方向全長に亙り形成している。これら各雄スプライン部11、11は、前記湿式ディスクブレーキ18を構成する各回転側ディスク23、23の内周面に設けた雌スプライン部51、51(図3、4、19、20等)の円周方向一部に、それぞれスプライン係合可能である。又、これら各雄スプライン部11、11の各歯のピッチ円の中心軸は、上記係合部材6の大径円筒部3の中心軸と一致させている。この大径円筒部3は、外周面が円筒面であり、上記湿式ディスクブレーキ18を構成するシリンダ部材27の中心部に設けた貫通孔29に、がたつきなく内嵌可能な外径を有する。又、上記大径円筒部3の先端部に面取り13を全周に亙り形成している。
【0051】
そして、上記円筒部材5の長さ方向他端部(図1の右端部)を上記係合部材6の貫通孔9に内嵌すると共に、上記円板部8の他面(図1の左側面、図2の裏側面)の、貫通孔9の開口端周辺部と、上記円筒部材5の長さ方向他端部外周面とを、溶接部12等により結合する事により、上記係合部材6と円筒部材5とを一体に結合固定して、前記治具1を構成する。上記円筒部材5の上記円板部8の他面よりも突出した部分が、前記小径円筒部2となる。尚、上記係合部材6と円筒部材5とを結合固定する為に溶接を用いず、その代わりに、この円筒部材5の一部にかしめ部を設ける等により、上記両部材6、5を結合固定しても良い。例えば、上記円筒部材5の長さ方向他端部を上記貫通孔9内から片側に突出させた部分を径方向外方にかしめ広げてかしめ部を形成すると共に、上記円筒部材5の上記溶接部12に対応する部分を径方向外方にかしめ広げる事により、上記円筒部材5と係合部材6とを結合固定する事もできる。
【0052】
上述の様に構成する湿式ディスクブレーキ組立用治具1を使用して、湿式ディスクブレーキ18を組み立てる本例の湿式ディスクブレーキの組立方法は、次の様に構成する。先ず、湿式ディスクブレーキ本体19の組立メーカーに於いて、湿式ディスクブレーキ本体19にパーキング機構20(図6、7等参照)を組み合わせたものを組み立てる。この為に、図3に示す様に、シリンダ部材27の各第一のカム用凹部36、36に、ボール66(図7、8等参照)を1個ずつ配置すると共に、円環状凹部35にプレッシャプレート62を配置する。又、このプレッシャプレート62の外径側係止溝64に被駆動側レバー37のカム69を係止した状態で、上記シリンダ部材27にこの被駆動側レバー37を結合する。この状態で、この被駆動側レバー37の軸部72(図7、25等参照)の、支持孔39(図7等参照)内での回転を可能とする。又、上記被駆動側レバー37のレバー本体67(図6、7等参照)と、上記シリンダ部材27の軸方向内側面(図3の右側面)に設けた板状突部34との間にレバー戻しばね77(図6、7等参照)を設け、このレバー戻しばね77により上記レバー本体67に戻り方向に揺動させる方向の弾力を付与する。
【0053】
更に、上記シリンダ部材27のシリンダ孔32にピストン26を、Oリング93、93と共に組み付ける。又、複数枚の第一静止側ディスク24、24と、1枚の第二静止側ディスク25との各第一〜第三係止突部54〜56を、前述の図16〜18に詳示したシェル部材28の各第一、第二外径側係合凹部47、48に係合させた状態で、上記シェル部材28の内側に上記各第一静止側ディスク24、24と第二静止側ディスク25とを配置する。この際、これら各静止側ディスク24、25に対し交互に1枚ずつの回転側ディスク23を配置する状態で、これら回転側ディスク23、23をシェル部材28の内側に設ける。そして、この状態で、このシェル部材28と上記シリンダ部材27とを、複数本のボルト49及びナット50により結合固定して、ブレーキカバー21を構成する。又、湿式ディスクブレーキ18を構成する他の部材のうち、ブレーキハブ22(図6、7参照)及びアクスルハウジング及び軸受(図示せず)以外の部材である、シール装置95、ドレンプラグ96、栓90、吊り下げ用リング45、戻り調整装置81(図6、7等参照)等を、上記シリンダ部材27又はシェル部材28に組み付ける。尚、上記他の部材のうち、ブレーキハブ22、アクスルハウジング、軸受以外の部材は、シリンダ部材27とシェル部材28とを結合する以前に、このシリンダ部材27又はシェル部材28に組み付けても良い。要は、上記各ディスク23〜25、ピストン26、被駆動側レバー37の支持軸38(図7、8等参照)等の、シリンダ部材27とシェル部材28とを分離した状態でのみ組み付けが可能な部品以外の部品の、組み付けの順序は問わない。
【0054】
この様にして、湿式ディスクブレーキ18の構成部材のうち、ブレーキハブ22、アクスルハウジング、軸受以外の部材を組み合わせたものを構成したならば、湿式ディスクブレーキ本体19の組立メーカーに於いて、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51の各歯を整列させる。この為に、本例の場合には、前述の図1〜2に詳示した湿式ディスクブレーキ組立用治具1を使用する。先ず、図3に示す様に、この治具1の大径円筒部3を先にした状態で、この治具1をブレーキカバー21の内側にシール装置95の側から挿入する。そして、上記大径円筒部3を、上記シリンダ部材27の中心部に設けた貫通孔29にがたつきなく内嵌させつつ、上記各回転側ディスク23、23の内側に前記各係合片10、10部分を挿入する。この際、これら各係合片10、10の雄スプライン部11、11の各歯は、図4に示す様に、各回転側ディスク23の雌スプライン部51の円周方向に離れた複数個所(図示の例の場合は3個所)にスプライン係合させる。この為に、上記各雄スプライン部11、11を1枚の回転側ディスク23の雌スプライン部51にスプライン係合させる毎に、上記治具1の円周方向の位相を所定の状態(雄、雌両スプライン部11、51の各歯同士が整合する状態)までずらせつつ(回転させつつ)、この治具1をブレーキカバー21の奥側に進入させる。この治具1は小型且つ軽量に構成できる為、この治具1を回転させる作業は容易に行なえる。
【0055】
そして、総ての回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51の円周方向複数個所に上記治具1の各雄スプライン部11、11をスプライン係合させたならば、図5に示す様に、被駆動側レバー37を一方向(図5の矢印α方向)にレバー戻しばね77の弾力に抗して揺動させる。そしてこれにより、ピストン26(図3)の先端面(図3の左端面)を第二静止側ディスク25の反受圧部41側(図3の右側)の側面に押し付け、上記ピストン26と受圧部41との間で、各第一静止側ディスク24、24と第二静止側ディスク25と各回転側ディスク23、23とを挟持させ、これら各ディスク23〜25同士を摩擦係合させる。又、この状態で、前記戻り調整装置81を構成するアジャストボルト83(図5)の、ブラケット82を構成する第二の板部85からの突出長さが大きくなる様に調整する。そしてこれにより、上記アジャストボルト83の頭部を上記被駆動側レバー37のレバー本体67の側面に押し付けたままの状態とする。
【0056】
次いで、上述の図3に示した状態から、上記治具1を各回転側ディスク23、23の内側から引き抜く。この状態でも、上記各第一静止側ディスク24、24と第二静止側ディスク25と各回転側ディスク23、23とは互いに摩擦係合したままの状態となる為、これら各ディスク23〜25の円周方向の位相がずれる事はない。特に、各回転側ディスク23、23の内周面に設けた雌スプライン部51の各歯の円周方向の位相は互いに一致したままの状態となる。
【0057】
この様にして構成した、湿式ディスクブレーキ本体19にパーキング機構20を組み合わせたものは、湿式ディスクブレーキ本体19の組立メーカーから車両の組立メーカーに搬送する。この搬送時にも、上記各ディスク23〜25同士は摩擦係合したままの状態となる為、互いの円周方向の位相がずれる事はない。次いで、上記車両の組立メーカーで、図示しないアクスルハウジングを前記シリンダ部材27の貫通孔29に挿入した状態で、これらアクスルハウジングとシリンダ部材27とを直接又は他の部材を介して一体に結合固定する。そして、上記アクスルハウジングに、図示しない軸受を介して、前述の図7に示した様に、ブレーキハブ22を組み合わせる。この際、このブレーキハブ22の雄スプライン部53と上記各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51とをスプライン係合させつつ、上記ブレーキハブ22の内端部を、各回転側ディスク23、23と各第一、第二静止側ディスク24、25との内側に挿入する。この結果、上記ブレーキハブ22は、上記アクスルハウジング及びブレーキカバー21に対し回転自在に支持された状態で湿式ディスクブレーキ本体19に組み合わされ、湿式ディスクブレーキ18の完成品となる。
【0058】
前述の様に構成する本例の湿式ディスクブレーキ組立用治具1を用いて、上述の様にして湿式ディスクブレーキ18を組み立てる湿式ディスクブレーキの組立方法によれば、車両の組立メーカー又は整備工場での、湿式ディスクブレーキの組立作業を容易に、且つ、短時間で行なえる。例えば、上記組立メーカーで、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51にブレーキハブ22の雄スプライン部53をスプライン係合させる作業は、重量の大きいブレーキハブ22を1枚の回転側ディスク23に係合させる毎に回転させる事なく、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51の各歯の位相が総て一致したままの状態で容易に行なえる。上記ブレーキハブ22を各回転側ディスク23、23の内側に挿入する作業は、このブレーキハブ22を回転させる事なく、単にブレーキカバー21の奥側に移動させれば良い。言い換えれば、本例によれば、上記組立メーカーで、1枚の回転側ディスク23毎に、この回転側ディスク23の雌スプライン部51とブレーキハブ22の雄スプライン部53との位相を一致させるべく、重量の大きいブレーキハブ22を回転させつつブレーキカバー21の奥側に移動させると言った、困難で且つ長時間を要する作業を行なう必要がなくなる。
【0059】
又、治具1の大径円筒部3をシリンダ部材27の貫通孔29に内嵌する事により、この治具1の長さ方向他端部(図1、3の右端部)に下方に加わる力をブレーキカバー21で支承する事ができる為、上記治具1が軽量である事と相俟って、この治具1を回転させる作業をより容易に行なえる。又、本例の場合には、治具1の大径円筒部3と各係合片10、10の雄スプライン部11、11のピッチ円直径との中心軸同士を一致させる(同心とする)と共に、上記大径円筒部3を上記貫通孔29にがたつきなく内嵌可能としている。この為、上記治具1と各回転側ディスク23、23との心合わせをより容易に行なえる。
【0060】
又、各回転側ディスク23、23の摩擦材52、52の摩耗等により、各回転側ディスク23、23及び各静止側ディスク24、25のうちの少なくとも何れかを交換する等の、湿式ディスクブレーキの修理、交換の必要が生じた場合に、整備工場で、この湿式ディスクブレーキの分解後に、再度この湿式ディスクブレーキを組み立てる作業も、短時間で且つ容易に行なえる。即ち、この作業を行なう際にも、重量の大きいブレーキハブ22を回転させつつ、このブレーキハブ22の雄スプライン部53と、ブレーキカバー21に組み付けた複数枚の回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51とをスプライン係合する必要がなくなる。この結果、上記組立工場及び整備工場での、湿式ディスクブレーキの組立作業を容易に、且つ、短時間で行なえる。又、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51とブレーキハブ22の雄スプライン部53とををスプライン係合させる為に、ブレーキカバー21から各回転側ディスク23、23及び各静止側ディスク24、25を取り外す必要はない。
【0061】
又、本例の場合には、上記治具1の軸方向中間部外周面の円周方向等間隔複数個所に、それぞれ径方向外側に突出する状態で設けた外向突部4、4の外径側端部に断面円弧状の係合片10、10を設けると共に、これら各係合片10、10の径方向外側面に雄スプライン部11、11を設けている。この為、治具の中間部外周面に全周に亙り円輪状の外向突部を設けると共に、この外向突部の外径側端部に円筒状の係合部を設け、この係合部の外周面に雄スプライン部を全周に設ける場合に比べて、上記治具1を、より軽量且つ小型にする事ができ、湿式ディスクブレーキ18の組立作業を、より容易に、且つ、短時間で行なえる。
【0062】
尚、本例の湿式ディスクブレーキの組立方法は、パーキング機構20を設けた湿式ディスクブレーキ18を組み立てる場合に就いて説明した。但し、本発明の湿式ディスクブレーキ組立用治具及び湿式ディスクブレーキの組立方法は、この様な湿式ディスクブレーキを組み立てる場合に限定するものではなく、パーキング機構20を設けない構造の場合にも適用できる。例えば、ブレーキカバー21の一部にピストン26の背面側に通じるねじ孔等の孔部を形成し、この孔部を通じてボルト等の押圧部材をピストン26に押し付けた状態で、この押圧部材をブレーキカバー21に結合固定する。この様にして、上記ピストン26と受圧部41との間で複数枚の静止側ディスク24、25及び回転側ディスク23を挟持する様にすれば、これら各ディスク23〜25の内側から治具1を引き抜いた後でも、各回転側ディスク23、23の雌スプライン部51、51の各歯の円周方向の位相を一致したままの状態とする事ができる。この様な湿式ディスクブレーキでは、上記孔部を上記押圧部材とは別の部材により塞いだ状態で使用する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態の1例の湿式ディスクブレーキ組立用治具を、上半部を切断して示す図。
【図2】図1の右側から左方に見た図。
【図3】上記治具を使用して湿式ディスクブレーキを組み立てる組立方法に於いて、湿式ディスクブレーキ本体の各回転側ディスクに治具の各係合片をスプライン係合させる状態を示す、図7の一部に相当する図。
【図4】図3からブレーキカバーを取り除いたと仮定した状態で、同図の左側から右方に見た図。
【図5】上記組立方法に於いて、各ディスクを互いに摩擦係合したままの状態とすべく、アジャストボルトの頭部を被駆動側レバーに押し付けた状態を示す、図29と同様の図。
【図6】先発明の湿式ディスクブレーキを示す斜視図。
【図7】図6のA−A断面図。
【図8】一部を省略して、図7の側方から見た透視図。
【図9】図7の上方から見た部分拡大図。
【図10】図9のB矢示図。
【図11】ブレーキカバーを円周方向に関してピストン戻しばねに対応する部分で切断した場合の、図7のC部拡大断面相当図。
【図12】カム機構のみ示す、図7のD−D断面図。
【図13】図7からシリンダ部材のみを取り出して、同図の右側から左方に見た図。
【図14】図13のEーE断面図。
【図15】図14の左側から右方に見た図。
【図16】図7からシェル部材のみを取り出して、同図の右側から左方に見た図。
【図17】図16のF−F断面図。
【図18】図17の左側から右方に見た図。
【図19】回転側ディスクのみを取り出して示す図。
【図20】図19のG−G断面を拡大して示す図。
【図21】第一静止側ディスクのみを取り出して示す図。
【図22】第二静止側ディスクのみを取り出して示す図。
【図23】プレッシャプレートのみを取り出して示す図。
【図24】被駆動側レバーを構成するレバー本体のみを取り出して示す図。
【図25】同じく支持軸のみを取り出して示す図。
【図26】図25の右側から左方に見た図。
【図27】非制動時に於ける図7の部分拡大断面図。
【図28】制動時に於ける図27と同様の図。
【図29】駐車制動力を発生させた状態での、(イ)は図8の部分拡大図で、(ロ)は(イ)のH−H断面図。
【図30】駐車制動力を発生させた状態での、図27と同様の図。
【符号の説明】
【0064】
1 湿式ディスクブレーキ組立用治具
2 小径円筒部
3 大径円筒部
4 外向突部
5 円筒部材
6 係合部材
7 掴み部
8 円板部
9 貫通孔
10 係合片
11 雄スプライン部
12 溶接部
13 面取り
18 湿式ディスクブレーキ
19 湿式ディスクブレーキ本体
20 パーキング機構
21 ブレーキカバー
22 ブレーキハブ
23 回転側ディスク
24 第一静止側ディスク
25 第二静止側ディスク
26 ピストン
27 シリンダ部材
28 シェル部材
29 貫通孔
30 突部
31 通孔
32 シリンダ孔
33 給排口
34 板状突部
35 円環状凹部
36 第一のカム用凹部
37 被駆動側レバー
38 支持軸
39 支持孔
40 凹孔
41 受圧部
42 通孔
43 突部
44 ねじ孔
45 吊り下げ用リング
47 第一外径側係合凹部
48 第二外径側係合凹部
49 ボルト
50 ナット
51 雌スプライン部
52 摩擦材
53 雄スプライン部
54 第一係止突部
55 第二係止突部
56 第三係止突部
57 凹孔
58 ピストン戻しばね
59 嵌合部
60 押圧部
62 プレッシャプレート
63 カム機構
64 外径側係止溝
65 第二のカム用凹部
66 ボール
67 レバー本体
68 ナット
69 カム
70 雄ねじ部
71 係合軸部
72 軸部
73 通孔
74 段差面
75 係止孔
76 柱状突部
77 レバー戻しばね
78 コイル部
79 係止部
80 鉤部
81 戻り調整装置
82 ブラケット
83 アジャストボルト
84 第一の板部
85 第二の板部
86 ボルト
87 ナット
88 アクスルブラケット
89 通孔
90 栓
91 送り込み口
92 取り出し口
93 シールリング
94 Oリング
95 シール装置
96 ドレンプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向片側内周面に径方向に突出する受圧部を、軸方向他側に軸方向に貫通する貫通孔を、それぞれ設けたブレーキカバーと、
このブレーキカバーの軸方向片側の内側にその一部を配置する状態でこのブレーキカバーに対し回転自在に支持すると共に、このブレーキカバーの内側から突出した部分に、直接又は他の部材を介して車輪を結合固定可能としたブレーキハブと、
上記ブレーキカバーの内側でこのブレーキハブの外周面に、このブレーキハブに対する回転不能に係合させた複数枚の回転側ディスクと、
上記ブレーキカバーの内周面に、これら複数枚の回転側ディスクに対し交互に配置する状態で上記ブレーキカバーに対する回転不能に係合させた複数枚の静止側ディスクと、
上記ブレーキカバーに設けられたシリンダ孔内に軸方向の変位を可能に嵌装したピストンとを備え、
このピストンにより上記各回転側ディスク及び各静止側ディスクを上記受圧部に向け押圧し、これら回転側ディスク及び静止側ディスクを互いに摩擦係合させる事により制動を行なう湿式ディスクブレーキを組み立てる為に使用する湿式ディスクブレーキ組立用治具であって、
軸方向片側に杆部を、軸方向他端部に挿入部を、軸方向中間部にこの挿入部の外周面よりも径方向外側に突出する外向突部を、それぞれ設けており、この外向突部の外径側端部にこの外向突部の厚さよりもその軸方向長さが大きい係合部を設けており、この係合部の径方向外側面に、上記各回転側ディスクの内周面に設けた雌スプライン部の少なくとも一部とスプライン係合する雄スプライン部を設けている事を特徴とする湿式ディスクブレーキ組立用治具。
【請求項2】
軸方向中間部外周面の円周方向複数個所に、それぞれ径方向外側に突出する状態で設けた外向突部の外径側端部に、中心軸に対し直交する仮想平面に関する断面形状が円弧である係合部を設けると共に、これら各係合部の径方向外側面に雄スプライン部を設けている、請求項1に記載した湿式ディスクブレーキ組立用治具。
【請求項3】
軸方向片側内周面に径方向に突出する受圧部を、軸方向他側に軸方向に貫通する貫通孔を、それぞれ設けたブレーキカバーと、
このブレーキカバーの軸方向片側の内側にその一部を配置する状態でこのブレーキカバーに対し回転自在に支持すると共に、このブレーキカバーの内側から突出した部分に、直接又は他の部材を介して車輪を結合固定可能としたブレーキハブと、
上記ブレーキカバーの内側でこのブレーキハブの外周面に、このブレーキハブに対する回転不能に係合させた複数枚の回転側ディスクと、
上記ブレーキカバーの内周面に、これら複数枚の回転側ディスクに対し交互に配置する状態で上記ブレーキカバーに対する回転不能に係合させた複数枚の静止側ディスクと、
上記ブレーキカバーに設けられたシリンダ孔内に軸方向の変位を可能に嵌装したピストンとを備え、
このピストンにより上記各回転側ディスク及び各静止側ディスクを上記受圧部に向け押圧し、これら回転側ディスク及び静止側ディスクを互いに摩擦係合させる事により制動を行なう湿式ディスクブレーキを、請求項1又は請求項2に記載した湿式ディスクブレーキ組立用治具により組み立てる湿式ディスクブレーキの組立方法であって、
上記ブレーキカバーの内周面に、上記複数枚の静止側ディスクを回転不能に係合させ、上記複数枚の回転側ディスクをこれら各静止側ディスクに対し交互に配置した状態で、上記湿式ディスクブレーキ組立用治具を上記ブレーキカバーの軸方向片側から挿入し、上記挿入部を上記貫通孔に内嵌させつつ、上記係合部の径方向外側面に設けた雄スプライン部の各歯を上記各回転側ディスクの内周面に設けた雌スプライン部の少なくとも一部にスプライン係合させる事により、雌スプライン部の各歯の円周方向の位相を上記各回転側ディスク同士で一致させた状態で、上記ピストンと受圧部との間で上記各静止側ディスク及び各回転側ディスクを挟持させ、上記湿式ディスクブレーキ組立用治具を静止側、回転側各ディスクの内側から引き抜いた後、上記各回転側ディスクの雌スプライン部と上記ブレーキハブの外周面に設けた雄スプライン部とをスプライン係合させつつ、このブレーキハブを上記ブレーキカバー及び各静止側、回転側ディスクと組み合わせる、湿式ディスクブレーキの組立方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate


【公開番号】特開2007−192394(P2007−192394A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13870(P2006−13870)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】