説明

湿式ブラスト加工用研磨材及びその製造方法

【課題】湿式ブラスト加工の際に気泡付着による浮上の少ない湿式ブラスト加工用研磨材を提供する。
【解決手段】エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体100重量部とを含む単量体混合物に由来する球状重合体粒子からなり、前記球状重合体粒子の表面への重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が9個以下(ここで、付着物の個数は、重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である)であることを特徴とする湿式ブラスト加工用研磨材により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式ブラスト加工用研磨材及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、湿式ブラスト加工時に粒子(研磨材)の浮上が少ない湿式ブラスト加工用研磨材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品に付着している余分なバリや塗装を、研磨材を物品に吹き付けて取り除く方法が知られている。この方法は、一般的にブラスト加工と呼ばれている。このようなブラスト加工は、例えば樹脂成形品、ダイキャスト製品、半導体モールド、モーター部品において発生するバリを取り除いたり、自動車、航空機等の塗装を剥離したりするために使用されている。
ブラスト加工では研磨材として古くから色々なものが使用されてきた。例えば、炭化珪素、酸化アルミニウム、珪石、セラミック、ダイヤモンド粉末等の無機研磨材が知られている。ところが、これら無機研磨材は、物品に対する当たりが強過ぎて、研磨時に物品本体までも傷めることがある。
これに対し、物品に対する当たりが柔らかで、物品本体自体を傷めることが少ない、重合体粒子からなる合成樹脂製研磨材が提案されている。合成樹脂製研磨材を使用したブラスト加工は、通常湿式で行われ、合成樹脂製研磨材は水中に分散させたスラリーの状態で吹き付けられる。
【0003】
合成樹脂製研磨材は、湿式ブラスト加工の際には、水中に発生する微細な気泡が重合体粒子に付着し水面に浮上することがある。そのため、スラリーが安定せず、このスラリーをブラスト加工に使用すると、バリ取りの性能低下やバラつきが起こるとともに、物品にロスが多く発生するという問題があった。
【0004】
これらの問題に対する技術として、特定の構造を有する(メタ)アクリレート系単量体を使用することにより、分散安定性、耐衝撃性及び研磨力を調製できる合成樹脂製の研磨材が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−285802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によると、研磨材の分散安定性、耐衝撃性及び研磨力は向上している。しかし、研磨材の水への分散をより高速で行う厳しい条件下でも、粒子の気泡付着による浮上を抑制可能な研磨材の提供が望まれていた。
本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的とするところは、湿式ブラスト加工の際に気泡付着による浮上が少なく、研磨材ロスの少ない湿式ブラスト加工用研磨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、鋭意研究を重ねた結果、湿式ブラスト加工用研磨材(球状重合体粒子)を製造する重合の工程の際に、副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子が粒子表面に強固に付着してしまうことを防止すれば、球状の重合体粒子表面を平滑にすることができ、粒子表面を平滑にすることにより粒子に気泡が付着すること及び気泡の付着による粒子の浮上を防止できることを見出して本発明に至った。
【0008】
かくして本発明によれば、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体100重量部とを含む単量体混合物に由来する球状重合体粒子からなり、前記球状重合体粒子の表面への重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が9個以下(ここで、付着物の個数は、重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である)であることを特徴とする湿式ブラスト加工用研磨材が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体100重量部とを含む単量体混合物を、重合禁止剤の存在下、懸濁重合させることにより重合体粒子を得、得られた前記重合体粒子を、30〜80℃の雰囲気下、加熱減量値が1%以下となるまで、前記重合体粒子1kgあたりの攪拌回数400回以内で乾燥する工程を経て、表面への重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が9個以下(ここで、付着物の個数は、重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である)である重合体粒子からなる湿式ブラスト加工用研磨材を得ることを特徴とする湿式ブラスト加工用研磨材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の湿式ブラスト加工用研磨材は、従来の合成樹脂製研磨材に比べ、粒子表面が非常に平滑である。そのため、水への分散性に優れ、且つ湿式ブラスト加工時に発生する気泡が粒子表面に付着することを防ぐことができる。これにより粒子の浮上を抑制でき、粒子のロスが発生し難く効果的にブラスト加工を行うことが可能となる。また、球状の重合体粒子であるため、耐衝撃性に優れ、ブラスト加工時にも欠損しにくい。
【0011】
また、重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が、5個以下である場合、更に表面が平滑で、水への分散性、耐衝撃性に優れた湿式ブラスト加工用研磨材を提供できる。
【0012】
また、(メタ)アクリレート系単量体(B)が、下記式
CH2=CR−COO[(C24O)m−(C36O)n]−H (式1)
(式中、RはH又はCH3、mは0〜50、nは0〜50、但し、m及びnが同時に0の場合を除く)又は
CH2=CR−COOCH2CH2O[CO(CR25O]p−H (式2)
(式中、RはH又はCH3、pは1〜50)で表される化合物から選択される場合、更に表面が平滑で、水への分散性、耐衝撃性に優れた湿式ブラスト加工用研磨材を提供できる。
【0013】
更に、(メタ)アクリレート系単量体が、m及びnが0〜30の式1の化合物(但し、m及びnが同時に0の場合は除く)、pが1〜30の式2の化合物から選択される場合、更に表面が平滑で、水への分散性、耐衝撃性に優れた湿式ブラスト加工用研磨材を提供できる。
【0014】
また、ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステル系単官能単量体と(メタ)アクリル酸エステル系多官能単量体との混合物である場合、更に表面が平滑で、水への分散性、耐衝撃性に優れた湿式ブラスト加工用研磨材を提供できる。
【0015】
また、ビニル系単量体が、メタクリル酸、アクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸及び2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸から選択されるカルボキシル基を含有する(メタ)アクリレート系単量体である場合、更に表面が平滑で、水への分散性、耐衝撃性に優れた湿式ブラスト加工用研磨材を提供できる。
【0016】
また、本発明の湿式ブラスト加工用研磨材の製造方法により、上述したように粒子表面が非常に平滑な湿式ブラスト加工用研磨材を製造することが可能となる。
更に、重合禁止剤が、単量体混合物100重量部に対して0.05〜3重量部添加される場合、乳化物及び/又は微小粒子の発生を抑制することができるので、粒子表面が更に平滑な湿式ブラスト加工用研磨材を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1による湿式ブラスト加工用研磨材(球状の重合体粒子)のSEM像である。
【図2】図1の粒子表面の拡大像である(横6μm×縦5μmの範囲内における乳化物及び/又は微小粒子の付着状況を示す)。
【図3】本発明の実施例2による湿式ブラスト加工用研磨材(球状の重合体粒子)のSEM像である。
【図4】図3の粒子表面の拡大像である(横6μm×縦5μmの範囲内における乳化物及び/又は微小粒子の付着状況を示す)。
【図5】本発明の比較例1による湿式ブラスト加工用研磨材(球状の重合体粒子)のSEM像である。
【図6】図5の粒子表面の拡大像である(横6μm×縦5μmの範囲内における乳化物及び/又は微小粒子の付着状況を示す)。
【図7】本発明の比較例2による湿式ブラスト加工用研磨材(球状の重合体粒子)のSEM像である。
【図8】図7の粒子表面の拡大像である(横6μm×縦5μmの範囲内における乳化物及び/又は微小粒子の付着状況を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の湿式ブラスト加工用研磨材(以下、単に研磨材又は重合体粒子ともいう)は、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体100重量部とを含む単量体混合物に由来する球状重合体粒子からなる。球状重合体粒子の表面への重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子(以下、乳化物等ともいう)の付着数は、9個以下(ここで、付着物の個数は、重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である)であり、非常に平滑な表面を有している。(メタ)アクリとは、アクリ又はメタクリを意味する。
【0019】
重合体粒子の表面への乳化物等の付着の抑制は、重合禁止剤の使用及び乾燥条件の調整により可能となる。
【0020】
(重合禁止剤)
重合時に、油相に重合禁止剤を添加することにより、懸濁重合の過程で生じる乳化物等を抑制することができる。油相に添加する重合禁止剤は、油溶性のものが好ましい。
【0021】
油溶性重合禁止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(3−BHA)、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(2−BHA)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(MBMBP)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(MBEBP)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(BBMBP)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(SBMBP)、スチレン化フェノール、スチレン化 p−クレゾール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−1−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、オクタデシル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル)イソシアヌレート、ビス〔2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル〕スルフィド、1−オキシ−3−メチル−イソプロピルベンゼン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン、ポリブチル化ビスフェノールA、ビスフェノールA、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノール、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5’−メチル−ベンジル)−4−メチルフェノール、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テレフタロイルージ(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルスルフィド)、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルーα−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、トルエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ヘキサメチレングリコール−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリン)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル−リン酸ジエチルエステル、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス〔β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル〕イソシアヌレート、2,4,6−トリブチルフェノール、ビス〔3,3−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)−ブチリックアシッド〕グリコールエステル、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド等のフェノール系禁止剤、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物、ジアリール−p−フェニレンジアミン等のアミン系禁止剤、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダノール等の硫黄系禁止剤、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系禁止剤等が挙げられる。
【0022】
重合禁止剤の添加量は、単量体混合物100重量部に対して、0.05〜3重量部が好ましい。より好ましくは、0.1〜0.5重量部である。
【0023】
(乾燥条件)
重合体粒子の洗浄・脱水までの工程においては、乳化物等は、重合体粒子の表面に接触している程度であり、強固に付着はしていない。
乳化物等が重合体粒子表面に強固に付着するのは、乾燥過程においてである。例えば、乾燥機による攪拌等によって、重合体粒子と乳化物等とが接合するような力が加えられるからである。このような攪拌による外力や重合体粒子同士の摩擦により、乳化物等は重合体粒子表面に強固に付着して、粒子表面の平滑性が低下する。粒子表面の平滑性が低下することにより、湿式ブラスト加工時に発生した気泡が粒子表面に付着しやすくなり、重合体粒子の浮上につながるもとの考えられる。よって、重合体粒子の乾燥工程においては、できるだけ外力を加えないで乾燥することが好ましい。
【0024】
重合体粒子に加える外力を少なくするには、静置したまま乾燥させることが最も望ましい。しかし、重合体粒子のような密度が小さい材料を静置乾燥させると、乾燥までに長時間を要することとなり、生産効率の観点から好ましくない。そこで、本発明者は、重合体粒子への外力を少なく抑えつつ乾燥時間を短縮するためには、外力を緩和な条件で作用させる方法が最も効果的であることを見出した。
【0025】
具体的には、加熱減量が1%になるまで、重合体粒子1kgあたり、攪拌回数を400回以内となるように攪拌しながら乾燥させることが好ましい。より好ましい攪拌回数は、200回以内であり、100回以内が特に好ましい。攪拌は、連続的あるいは間欠的のどちらでもよい。
重合体粒子1kgあたりの攪拌回数が増えると、乾燥機と樹脂粒子との接触回数が増えるため、乾燥に要する時間は短くなる。一方、攪拌による粒子に加わる外力が増え、また、粒子同士の摩擦が大きくなるため、重合体粒子の表面に乳化物等が付着し、それが強固に定着しやすくなる。
「重合体粒子1kgあたりの攪拌回数」は、例えば、重合体粒子2kgを乾燥機で800回攪拌乾燥した場合、800回÷2kg=400回として算出される。
なお、乾燥機における攪拌回数は、回転式の攪拌装置である場合は1回転を1回とする。往復式の攪拌装置である場合は、1往復を2回とする。
また、加熱減量とは、重合体粒子を150℃で20分間加熱した後の重合体粒子の重量減量割合である。以下の式により算出される。
加熱減量(重量%)=100×(加熱前重量−加熱後重量)÷加熱前重量
【0026】
また、乾燥時間1時間あたりの攪拌回数は、60回/h以下であることが好ましく、20回/h以下であることがより好ましい。
【0027】
乾燥温度は、30〜80℃の範囲である。より好ましくは60〜80℃である。なお、この温度は、乾燥機に備えられたジャケットの温度により調整できる。また、この温度とジャケットの温度とは、ほぼ対応している。乾燥は、減圧下で行ってもよい。
【0028】
攪拌を間欠的に行う場合、攪拌時間と静置(乾燥機内で攪拌を止めて乾燥する)時間との比は、1:9〜59の範囲であることが好ましい。また、1回の攪拌と1回の静置を1サイクルとすると、10〜60サイクル間欠させることが好ましい。
【0029】
上記の乾燥工程を経て得られる研磨材(重合体粒子)は、その表面に、重合時に副次的に発生する乳化物等の付着数を9個以下に抑制できる(図1〜4参照)。ここで、付着物の個数は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である。
本発明による研磨材を用いて湿式ブラスト加工を行うと、工程中に発生する気泡はほとんど研磨材に付着しないので、気泡による研磨材の浮上が2mm以下に抑制される。これにより効果的に湿式ブラスト加工を行うことが可能になる。
【0030】
((メタ)アクリレート系単量体)
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体において、エーテル基としては、エチレングリコール、プロピレングリコールに由来する基が挙げられる。エステル基としては、ラクトンに由来する基が挙げられる。(メタ)アクリレート系単量体は、脂肪族であることが好ましく、特に好ましい(メタ)アクリレート系単量体は、下記式
CH2=CR−COO[(C24O)m−(C36O)n]−H (式1)
(式中、RはH又はCH3、mは0〜50、nは0〜50、但し、m及びnが同時に0の
場合は除く)又は
CH2=CR−COOCH2CH2O[CO(CR25O]p−H (式2)
(式中、RはH又はCH3、pは1〜50)の化合物から選択できる。
【0031】
なお、式1の化合物において、mが50より大きい場合、重合安定性が低下して合着粒子が発生することがあり、またnが50より大きい場合も重合安定性が低下して合着粒子が発生することがある。好ましいm及びnの範囲は0〜30の化合物(但し、m及びnが同時に0の場合は除く)である。
式2の化合物において、pが50より大きい場合、重合安定性が低下して合着粒子が発生することがある。好ましいpの範囲は1〜30である。また、2つのRは、同一でも異なっていてもよい。
【0032】
上記(メタ)アクリレート系単量体には、市販品を利用できる。例えば、日本油脂社製のブレンマーシリーズ、ダイセル化学社製のプラクセルシリーズが挙げられる。更に、ブレンマーシリーズの中で、ブレンマーPP−1000、ブレンマー50PEP−300、ブレンマー70PEP−350B等が、プラクセルシリーズの中で、プラクセルFM2D、プラクセルFA2D等が本発明に好適である。
【0033】
(ビニル系単量体)
ビニル系単量体としては、上記のエーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と共重合しうる単量体が挙げられる。具体的には、メタクリル酸、アクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸及び2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸等のカルボキシル基を含有する(メタ)アクリレート系単量体、
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等のスチレン及びその誘導体、
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類、
【0034】
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体、マレイン酸、フマール酸等
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、
ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類、
N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物、
ビニルナフタリン塩等
の単官能のビニル系単量体が挙げられる。これら単官能のビニル系単量体は、単独で使用してもよく、2種以上組合せて使用してもよい。
【0035】
(他の単量体)
また、本発明の重合体粒子は、ビニル系単量体に、上記単官能のビニル系単量体と、2つ以上の官能基をもつ架橋性のビニル系単量体とを含ませることで、架橋重合体粒子としてもよい。架橋性のビニル系単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系多官能単量体、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン及びこれらの誘導体である芳香族ビニル系多官能単量体が挙げられる。これら架橋性単量体は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0036】
上記ビニル系単量体の中でも、コストの面で安価なスチレンやメタクリル酸メチル等の単官能の単量体、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性単量体が好ましい。
【0037】
(単量体の使用量)
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体の使用量は、ビニル系単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部である。0.1重量部未満の場合は、重合体粒子の親水性が不十分で水に分散させてスラリーとして湿式ブラスト加工に使用する際に、水中の気泡と結び付いて、浮上してしまうことがある。浮上した場合、スラリーの上部と下部で濃度が一定とならず不均一となり、研磨力にバラツキが生じることになる。一方、20重量部を超えると、スラリーが著しく泡立つことがあり、泡と共に粒子が浮上することがある。この場合も、研磨力にバラツキが生じることになる。泡立つ理由は、未反応の単量体が存在するためであると推測される。より好ましい使用量の範囲は、1.0〜15重量部である。
【0038】
架橋性単量体は、単官能のビニル系単量体に対する使用割合が多くなりすぎると粒子が硬くなり、研磨時に物品を傷付ける懸念ある。従って、架橋性単量体の使用割合は、単量体全量中、0.5〜80重量%であることが好ましく、5〜50重量%がより好ましい。
本発明の重合体粒子には、必要に応じて、公知の帯電防止剤、界面活性剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
(重合体粒子)
重合体粒子の平均粒子径は、10μm〜1mmの範囲が好ましい。10μm未満の場合、研磨対象物への衝撃力が弱くなり、バリ取りや表面クリーニング能力が不足することがある。一方、1mmより大きい場合、細部への研磨が困難となり仕上がりが悪くなることがある。より好ましい平均粒子径は、50〜600μmである。
【0040】
また、重合体粒子は、球状のものが使用される。ここでの球状とは、真球のような厳密な意味ではなく、粒子の投射図が円形の真球状だけでなく、楕円形のいわゆる略球状までを含む。好ましい球状は、粒子の投射図において、その短径と長径との比(短径/長径)が、1〜0.9の範囲となる形状である。なお、短径/長径=1は真球を意味する。短径/長径の範囲外の、例えば、ペレット状や、針状、燐片状のような不定形状では、重合体粒子自身の耐衝撃性が小さいため、研磨時に粒子が破壊したり、破壊により微粉末が発生したりすることがある。更に、研磨対象物に対する重合体粒子の接触面積が一定でなくなるため、研磨効果にバラつきが大きくなると共に、物品表面に傷が入ってしまうことがある。上記範囲内であれば、安定した研磨を行うことができるため、好ましい。短径/長径のより好ましい範囲は、1〜0.95である。
【0041】
(重合体粒子の製造方法)
本発明の重合体粒子の製造方法は、球状の粒子が得られる限り、特に限定されない。例えば、懸濁重合、乳化重合、シード重合等の水性媒体中での重合法や、重合塊を押出法によりペレット化し、ペレットを表面が軟化しうる温度に加熱することで、球状の粒子を得る方法等が挙げられる。製造方法は、水性媒体中での重合が好ましく、特に懸濁重合が適している。
【0042】
懸濁重合や乳化重合は、水性媒体中で、ビニル系単量体と、(メタ)アクリレート系単量体と、任意に重合開始剤とを含む重合体混合物を重合させることで行われる。懸濁重合や乳化重合では、(メタ)アクリレート系単量体により、得られる重合体粒子表面に親水部位が出やすく、これらの単量体の少量添加で親水性の高い粒子が得られる。また、水性媒体中で、単量体混合物の油滴を安定して存在させることができるので、粒子径のバラツキの小さい、単分散性の高い重合体粒子を得ることができる。更に、(メタ)アクリレート系単量体由来の成分が粒子表面に存在するために、これが立体反発を引き起こして、重合体粒子の水中での分散性を向上できる。
【0043】
水性媒体としては、特に限定されず、水、又は水と水溶性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体は、ビニル系単量体100重量部に対して、100〜1000重量部の範囲で使用することが好ましく、200〜500重量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0044】
任意に使用される重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物等が挙げられる。重合開始剤は、単量体混合物100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲で使用することが好ましく、0.2〜2.0重量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0045】
懸濁重合及び乳化重合は、特に限定されず、公知の条件で単量体混合物を懸濁又は乳化させ、次いで重合させることにより行うことができる。また、(メタ)アクリレート系単量体は、ビニル系単量体に溶解させてもよく、水性媒体に分散させてもよい。また、公知の懸濁安定剤又は乳化剤を使用してもよい。
懸濁液又は乳化液は、公知の方法により作製できる。例えば、ビニル系単量体を、水性媒体に添加し、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー等の微細乳化機により分散させることで得ることができる。重合開始剤は、ビニル系単量体に予め混合させた後、水性媒体中に分散させてもよいし、ビニル系単量体とは別に水性媒体に分散させたものを混合してもよい。
【0046】
懸濁安定剤としては、目的とする重合体粒子が得られるものであれば何ら制限されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール等の高分子型安定剤、第三リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等の難水溶性無機塩が挙げられる。なかでも、重合終了後に系のpHを調整することにより容易に溶解し、除去可能な無機塩を用いるのがよい。例えば、第三リン酸カルシウムや複分解生成法によるピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウムを使用すると、目的とする重合体粒子をより安定的に得ることができるため好ましい。
【0047】
次に、ビニル系単量体を重合させることで、重合体粒子が得られる。重合温度は、ビニル系単量体、重合開始剤の種類に応じて、適宜選択できる。重合温度は、40〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜90℃である。
【0048】
(ブラスト加工)
本発明の研磨材は、ブラスト加工に使用される。ブラスト加工としては、機械式、空気式等の乾式ブラスト加工、水を併用する湿式ブラスト加工が挙げられる。機械式ブラスト加工は、機械的に投射することにより、研磨対象物に研磨材を衝突させて、研磨を行う方法である。空気式ブラスト加工は、圧縮空気の作用で研磨対象物に研磨材を衝突させて、研磨を行う方法である。湿式ブラスト加工は、水と研磨材とを混合してスラリーとし、このスラリーを噴射することにより、研磨対象物に研磨材を衝突させて、研磨を行う方法である。
本発明の研磨材は、水への分散性が良好である観点から、湿式ブラスト加工に使用することが好ましい。
【0049】
湿式ブラスト加工において、スラリーを形成する方法は特に限定されないが、通常の攪拌機を用いて、水に研磨材を分散させることで容易に形成できる。本発明の研磨材は、従来の合成樹脂系の研磨材と異なり、親水性が高いため、容易に攪拌され浮遊や沈降を生じ難い。また、研磨材表面への乳化物等の付着が極めて少なく、研磨材表面が平滑であるため、スラリーが泡立ち、気泡が研磨材表面に付着してしまうといった問題も生じ難い。従って、例えば1500rpm以上の高い回転数で攪拌しても、スラリーの泡立ちを抑制できる。
【0050】
なお、水には、水溶性の有機溶媒や、他の添加剤が含まれてもよい。
また、本発明の研磨材には、帯電防止剤、消泡剤、抑泡剤等の添加剤を加えてもよい。これら添加剤の添加量は、研磨材100重量部に対して、0.001〜1重量部が好ましい。更に、水には、水溶性の有機溶媒や、他の添加剤が含まれてもよい。
【0051】
スラリー中の研磨材の配合割合は、容量比で、5〜50%であることが好ましい。配合割合が、この範囲であることで、不十分な研磨や過剰研磨が抑制できる。配合割合は、10〜40%であることがより好ましい。
更に、スラリーの噴射は、研磨材の配合割合、研磨対象物の種類等により適宜調整されるが、スラリー圧力が1〜8kg/cm2、噴射量が5〜50リットル/minの条件で行うことが好ましい。
【0052】
また、研磨対象物は、本発明の研磨材により研磨可能であれば特に限定されない。例えば、電子機器(IC、コンデンサ、抵抗、プリント基板等)の合成樹脂製のパッケージのバリ、各種樹脂成形体(筐体、自動車部品)のバリや塗料等が挙げられる。バリを構成する合成樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。この内、エポキシ樹脂からなるバリに本発明の研磨材を使用することが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記実施例における平均粒子径の測定法、粒子の表面状態の評価方法、粒子の浮遊性の評価方法、バリ取り効果及び研磨対象の割れ欠けの評価方法、粒子追加に要する時間の評価方法を下記する。
【0054】
(平均粒子径の測定方法)
重合体粒子の平均粒子径は、ベックマンコールター社製LS230型で測定する。
具体的には、粒子0.1gと界面活性剤(花王社製レオドールTW−L120)の0.1%水溶液10mlを試験管に投入し、ヤマト科学社製タッチミキサーTOUCHMIXER MT−31で2秒間混合する。この後、試験管を市販の超音波洗浄器であるヴェルボクリーア社製ULTRASONIC CLEANER VS−150を用いて10分間分散させる。分散させたものをベックマンコールター社製のLS230型にて超音波を照射しながら測定する。そのときの光学モデルは作製した粒子の屈折率に合わせる。
【0055】
(粒子の表面状態の評価方法)
重合体粒子表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、撮影倍率を2000倍で異なる角度から合計5視野撮影する。撮影された画像は、横6μm×縦5μm(3×10E−9m2)の視野の画像である。各々の画像から長径1μm以上の乳化物等の個数をカウントして、5視野分の平均値を求める。算出された平均値について下記4段階の評価基準を基に評価する。
◎:乳化物の個数が5個以下である。
○:乳化物の個数が5個を超えて10個未満である。
△:乳化物の個数が10個以上15個未満である。
×:乳化物の個数が15個以上である。
【0056】
(粒子の浮遊性の評価方法)
容積300mlのビーカーに重合体粒子100g、水150gを加え、特殊機化工業社製TKオートホモミキサーにより、タービン型攪拌翼を1500rpmで3分間回転させることにより攪拌する。
なお、攪拌の際には、攪拌翼の回転軸をビーカーの中心からずらして、気相を巻き込みやすくなるように調整しておく。
攪拌後30分間静置した後、ビーカー内の粒子の浮遊状態を観察し、下記4段階の評価基準を基に評価する。
◎:重合体粒子の浮遊が2mm未満である。
○:重合体粒子の浮遊が2mm以上5mm未満である。
△:重合体粒子の浮遊が5mm以上10mm未満である。
×:重合体粒子の浮遊が10mm以上である。
【0057】
(バリ取り効果及び研磨後の物品の割れ欠け評価方法)
研磨材としての重合体粒子の容積比が30%となるように水に分散させスラリーを得る。得られたスラリーを湿式ブラスト研磨機(不二精機製作所社製:液体ホーニング機LH−5)を用いて、ICリードフレームのパッケージ(物品)の合成樹脂のバリ(研磨対象物)取りに用いる。バリ取り試験は、スラリー圧力6kg/m2、ノズル噴射量10リットル/min、30秒間噴射の条件で行う。バリを構成する合成樹脂の種類は、エポキシ樹脂である。研磨後の物品100個を目視で確認し、削り残したバリが存在する物品の個数を数える。個数が10個以下の場合、評価を○とし、それより多い場合、評価を×とする。更に、割れ欠けが存在する物品の個数を数える。個数が5個以下の場合、評価を○とし、それより多い場合、評価を×とする。
【0058】
(粒子追加に要する時間の評価方法)
湿式ブラストに伴い、スラリー中の研磨材濃度は、研磨材自体の消耗及び泡立ち(粒子の浮遊)によるオーバーフローにより、徐々に低くなる。このため、定期的に粒子(研磨材)の濃度を観察し、粒子濃度が規定の範囲(20〜40体積%)よりも低くなったときに粒子を追加することが必要になる。特に、泡立ちによる粒子の浮遊量が多い場合には、頻繁に粒子を追加することが必要となり、作業効率及びコストの点から不利になる。
上記の観点より、粒子追加に要する時間は、研磨材(粒子)の浮遊の程度を測る1つの評価となる。
本発明の実施例及び比較例において、スラリー中の粒子濃度を30%としてホーニングを開始し、1時間毎に粒子濃度を測定しながら、ホーニング開始から粒子濃度が20%未満になった時点までの時間を「粒子追加に要する時間」とする。下記3段階の評価基準を基に評価する。
○:20時間以上
△:10時間以上20時間未満
×:10時間未満
なお、スラリー中の粒子濃度の測定方法は、スラリーをメスシリンダーに採り、粒子を沈降させた後の沈降高さからスラリー中の体積%を求めることにより測定する。
【0059】
(実施例1)
攪拌機、温度計を備えた5Lの重合器に、脱イオン水2500重量部を入れ、そこへピロリン酸マグネシウム粉末50重量部を分散させた。
これに予め調製しておいたメタクリル酸メチル1400重量部、エチレングリコールジメタクリレート80重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(日油社製:ブレンマー50PEP−300、mが3〜4、nが2〜3)80重量部、カプロラクトンEO(エチレンオキシド)変性リン酸ジメタクリレート0.8重量部の単量体混合物に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)8重量部、過酸化ベンゾイル8重量部、更に、重合禁止剤としてフェノール系酸化防止剤(住友ケムテックス社製:スミライザーBBM−S)を4.7重量部加え、溶解させた混合液を入れた。
重合器を50℃に加熱し、Vパドルにより200rpmで攪拌しながら懸濁重合を6時間行った後、105℃に昇温した。105℃で2時間保持した後、室温(約20℃)まで冷却し、懸濁液を得た。
得られた懸濁液をpH2以下になるまで塩酸を加え、ピロリン酸マグネシウムを分解した後、濾過、洗浄、脱水して重合体粒子を得た。
【0060】
脱水後の重合体粒子(固形分1560g)を、内容物を攪拌する機能を有する横型真空乾燥機を用いて、ジャケット温度60℃で真空引きしながら、10rpmで1分間攪拌の後59分静置するというサイクルを繰り返した。加熱減量値が1%以下となるまで乾燥を続けた。乾燥に要した時間は14時間であった。乾燥までの攪拌回数は140回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(140回÷1.56kg≒)90回であった。乾燥後の重合体粒子を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、図1のように乳化物等の付着が見られない平滑な表面を有する粒子であることを確認できた。
【0061】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、2個(◎)であった。
粒子の浮遊は、1mm未満(◎)であった。
粒子追加に要した時間は、26時間(○)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0062】
(実施例2)
乾燥時の攪拌のサイクルを1分間攪拌、29分間静置のサイクルに変更したことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は12時間であった。乾燥までの攪拌回数は240回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(240回÷1.56kg≒)154回であった。乾燥後の重合体粒子を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、図3のように乳化物等の付着が見られない平滑な表面を有する粒子であることを確認できた。
【0063】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、5個(◎)であった。
粒子の浮遊は、2mm未満(◎)であった。
粒子追加に要した時間は、22時間(○)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0064】
(実施例3)
乾燥工程中に乾燥機の攪拌を行わなかったことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は27時間であった。乾燥までの攪拌回数は0回であった。
【0065】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、2個(◎)であった。
粒子の浮遊は、1mm未満(◎)であった。
粒子追加に要した時間は、27時間(○)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0066】
(実施例4)
混合液を次の処方にしたことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は13時間であった。乾燥までの攪拌回数は130回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(130回÷1.56kg≒)83回であった。
メタクリル酸メチル1390重量部、エチレングリコールジメタクリレート80重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(日油社製:ブレンマー50PEP−300、mが3〜4、nが2〜3)80重量部、2−メタクリロイルオキシコハク酸10重量部、カプロラクトンEO変性燐酸ジメタクリレート0.8重量部の単量体混合物に、過酸化ベンゾイル8重量部、アゾビスイソブチロニトリル8重量部、更に、フェノール系酸化防止剤(住友ケムテックス社製:スミライザーBBM−S)を4.7重量部加え、溶解させた混合液。
【0067】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、1個(◎)であった。
粒子の浮遊は、1mm未満(◎)であった。
粒子追加に要した時間は、28時間(○)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0068】
(実施例5)
乾燥時の攪拌のサイクルを1分間攪拌、9分間静置のサイクルに変更したことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は10時間であった。乾燥までの攪拌回数は600回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(600回÷1.56kg≒)385回であった。
【0069】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、7個(○)であった。
粒子の浮遊は、2mm(○)であった。
粒子追加に要した時間は、20時間(○)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0070】
(比較例1)
油溶性重合禁止剤を加えず、且つ乾燥時の攪拌を10rpmの連続攪拌としたことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は5時間であった。乾燥までの攪拌回数は3000回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(3000回÷1.56kg≒)1923回であった。乾燥後の重合体粒子を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、図5のように、大小多くの乳化物等の付着が見られ、表面が平滑とは言い難い粒子であることが確認できた。
【0071】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、27個(×)であった。
粒子の浮遊は、30mm(×)であった。
粒子追加に要した時間は、4時間(×)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0072】
(比較例2)
乾燥時の攪拌を10rpmの連続攪拌としたことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は5.5時間であった。乾燥までの攪拌回数は3300回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(3300回÷1.56kg≒)2115回であった。乾燥後の重合体粒子を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、図7のように、乳化物等の付着が見られ、表面が平滑とまでは言えない粒子であることが確認できた。
【0073】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、14個(△)であった。
粒子の浮遊は、5mm(△)であった。
粒子追加に要した時間は、10時間(△)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0074】
(比較例3)
油溶性重合禁止剤を加えないことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は12時間であった。乾燥までの攪拌回数は120回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(120回÷1.56kg≒)77回であった。
【0075】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、11個(△)であった。
粒子の浮遊は、4mm(△)であった。
粒子追加に要した時間は、12時間(△)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0076】
(比較例4)
乾燥時の攪拌のサイクルを1分間攪拌、5分間静置のサイクルに変更したことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は8時間であった。乾燥までの攪拌回数は800回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(800回÷1.56kg≒)513回であった。
【0077】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、10個(△)であった。
粒子の浮遊は、3mm(△)であった。
粒子追加に要した時間は、17時間(△)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
【0078】
(比較例5)
乾燥時の攪拌のサイクルを1分間攪拌、1分間静置のサイクルに変更したことを除き、実施例1と同様にして乾燥した重合体粒子を得た。乾燥に要した時間は6時間であった。乾燥までの攪拌回数は1800回であった。重合体粒子1kgに加える攪拌回数は、(1800回÷1.56kg≒)1154回であった。
【0079】
乾燥した重合体粒子の表面に付着する乳化物等の(5視野平均)個数は、12個(△)であった。
粒子の浮遊は、4mm(△)であった。
粒子追加に要した時間は、13時間(△)であった。
バリ取り効果の評価により削り残したバリが存在する物品の個数は、10個以下(○)であった。
研磨後の物品の割れ欠け評価により割れ欠けが存在する物品の個数は、5個以下(○)であった。
実施例1〜5及び比較例1〜5の結果を表1にまとめて示す。
なお、表1中の「重量部」の数値は、単量体100重量部に対する数値である。
【0080】
【表1】

BBM−S:フェノール系酸化防止剤(住友ケムテックス社製:スミライザーBBM−S)
【0081】
実施例と比較例とから、重合時に油溶性重合禁止剤を添加し、且つ乾燥工程で重合体粒子1kgあたりの攪拌回数が400回以下の条件で得られた研磨剤は、乳化物等の付着の極めて少ない平滑な表面を有することが分かった。これにより、湿式ブラスト加工時の泡立ちによる粒子の浮遊が少なく、長時間粒子の追加を要しないことが分かった。
比較例1及び2は、乾燥工程において連続攪拌を行ったため、重合体粒子1kgあたりの攪拌回数が400回を超えてしまったことが原因だと考えられる。比較例1及び3は、重合禁止剤を用いなかったため、重合時の乳化物等の発生を抑制できなかったためだと考えられる。比較例4及び5は、間欠攪拌を行ったものの、乾燥までの重合体粒子1kgあたりの攪拌回数が400回を超えてしまったことが原因だと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体100重量部とを含む単量体混合物に由来する球状重合体粒子からなり、前記球状重合体粒子の表面への重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が9個以下(ここで、付着物の個数は、重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である)であることを特徴とする湿式ブラスト加工用研磨材。
【請求項2】
前記重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が、5個以下である請求項1に記載の湿式ブラスト加工用研磨材。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート系単量体が、下記式
CH2=CR−COO[(C24O)m−(C36O)n]−H (式1)
(式中、RはH又はCH3、mは0〜50、nは0〜50、但し、m及びnが同時に0の場合を除く)又は
CH2=CR−COOCH2CH2O[CO(CR25O]p−H (式2)
(式中、RはH又はCH3、pは1〜50)で表される化合物から選択される請求項1又は2に記載の湿式ブラスト加工用研磨材。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート系単量体が、m及びnが0〜30の式1の化合物(但し、m及びnが同時に0の場合は除く)、pが1〜30の式2の化合物から選択される請求項3に記載の湿式ブラスト加工用研磨材。
【請求項5】
前記ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステル系単官能単量体と(メタ)アクリル酸エステル系多官能単量体との混合物である請求項1〜4のいずれか1つに記載の湿式ブラスト加工用研磨材。
【請求項6】
前記ビニル系単量体が、メタクリル酸、アクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸及び2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸から選択されるカルボキシル基を含有する(メタ)アクリレート系単量体である請求項1〜4のいずれか1つに記載の湿式ブラスト加工用研磨材。
【請求項7】
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体100重量部とを含む単量体混合物を、重合禁止剤の存在下、懸濁重合させることにより重合体粒子を得、得られた前記重合体粒子を、30〜80℃の雰囲気下、加熱減量値が1%以下となるまで、前記重合体粒子1kgあたりの攪拌回数400回以内で乾燥する工程を経て、表面への重合時に副次的に発生する乳化物及び/又は微小粒子の付着数が9個以下(ここで、付着物の個数は、重合体粒子の6μm×5μmの任意の領域5視野の平均値である)である重合体粒子からなる湿式ブラスト加工用研磨材を得ることを特徴とする湿式ブラスト加工用研磨材の製造方法。
【請求項8】
前記重合禁止剤が、前記単量体混合物100重量部に対して0.05〜3重量部添加される請求項7に記載の湿式ブラスト加工用研磨材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−194529(P2011−194529A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64891(P2010−64891)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】