説明

湿式抄紙方法

【課題】 アクリルアミド系の両性とアニオン性共重合体を組み合わせて、高い紙力及び濾水効果を発揮させる。
【解決手段】 水溶性アクリルアミド系共重合体をパルプスラリーに添加して湿式抄紙する方法において、両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の重量平均分子量が共に30万〜1000万であり、且つ、共重合体(A)及び(B)の各希釈液を予め混合してからパルプスラリーに添加する湿式抄紙方法である。特定以上に高分子量化した両性とアニオン性の各共重合体を予め混合した後に添加するため、高い紙力と濾水効果が得られる。また、混合に際してアニオン性共重合体をpH6以上に調整すると、この紙力増強効果などがさらに向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式抄紙方法に関して、特定以上の分子量を有するアクリルアミド系の両性共重合体とアニオン性共重合体を予め混合してからパルプスラリーに添加することにより、紙力強度、濾水性などを向上できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
高強度が要求される銘柄を抄紙する工程では、多量の紙力増強剤の添加が必要になるが、その際に系内の電荷バランスの調整、濾水性、歩留まりの向上を目的として、カチオン性ポリアクリルアミド(以下、PAMと略す)又は両性PAMと、アニオン性PAMとをパルプスラリーに別々に添加するという併用処方が採用されている。
しかしながら、上記方法においても、昨今の古紙回収率向上による原料事情の悪化や抄紙系のクローズド化に伴って薬品の歩留まりが低下し、効果を有効に発揮するには不充分になってきている。
過去には、マンニッヒ変性したカチオン性ポリアクリルアミドとアニオン性ポリアクリルアミドの希釈混合添加が盛んに行われた時期もあったが,マンニッヒ変性ポリアクリルアミドは製品中に残留するホルマリンによる毒性や不快な臭気、保存安定性の低さという問題点があるため、当該抄紙方法は減少の一途をたどっている。
また、この方法は低分子量のカチオン性重合体とアニオン性重合体の混合であることから、互いの相互作用を弱めると、抄紙系の水中に溶存している電解質によって錯体が容易に破壊される。逆に、相互作用を強めすぎると、混合直後に電荷を打ち消しあって不可逆的な安定錯体を形成し、活性なイオン基が消失してしまう。その結果、いずれの場合にも、パルプへの定着能力が著しく低下するため、薬品効果及びその持続性に劣るものしか得られなかった。
【0003】
そこで、上述の通り、紙力増強や濾水性の改善を主な目的として、アクリルアミド系のアニオン性共重合体、両性共重合体、或はカチオン性共重合体を適宜組み合わせて湿式抄紙する具体的な方法には、次の従来技術がある。
先ず、特許文献1、2、4、5、8には、アニオン性共重合体と両性共重合体を別々にパルプスラリーに添加する湿式抄紙方法が開示されている。
即ち、特許文献1には、リグニンスルホン酸ソーダなどの溶解イオン物質(つまり、雑イオン)が多量に共存するパルプ系でも紙力増強効果を向上する目的で、アニオン性共重合体をパルプスラリーに添加した後、硫酸バンドを添加し、次いで両性PAMを添加する抄紙方法が開示されている(特許請求の範囲、第5頁の評価方法参照)。
特許文献2には、両性共重合体をパルプスラリーに添加した後、硫酸バンドを添加し、次いで特定のスルホン酸基を所定の組成範囲内で分子内に含むアニオン性共重合体を添加する抄紙方法が開示されている(特許請求の範囲、第2頁と第3頁の各右下欄参照)。
特許文献4には、紙力と再解離性の向上などを目的として、アニオン性PAM→硫酸バンド→両性PAMの順序で、これらをパルプスラリーに添加する抄紙方法が開示されている(請求項1、段落17、段落44参照)。
特許文献5には、紙力を増強し、用水を節約して塗工損紙の多量使用を可能にする目的で、アニオン性共重合体をパルプスラリーに添加した後に、両性共重合体を添加する抄紙方法が開示されている(請求項1、段落12、段落38参照)。
特許文献8には、紙力増強と、セルロース繊維や填料などの歩留りを向上させる目的で、両性共重合体をパルプスラリーに添加した後に、分散重合法によるアニオン性共重合体を添加する抄紙方法が開示されている(請求項1、段落8、13、18、30参照)。
【0004】
特許文献3と6には、両性共重合体とカチオン性共重合体を予め混合してからパルプスラリーに添加する方法が開示されている。
即ち、特許文献3には、微細繊維や填料の歩留り、濾水性を向上する目的で、両性PAMとカチオン性共重合体(ポリアミドポリアミン樹脂など)を予め混合して、パルプスラリーに添加する抄紙方法が開示されている(請求項1、段落24、32、57参照)。
特許文献6には、紙力増強と濾水性の向上を目的として、架橋型両性共重合体とカチオン性共重合体を混合した水溶液をパルプスラリーに添加する方法が開示されている(請求項1、段落10、24、42参照)。
【0005】
特許文献7と10には、アニオン性共重合体と両性共重合体を予め混合してからパルプスラリーに添加する方法が開示されている。
即ち、特許文献7には、破裂強度、Z軸強度などの紙力強度の向上を目的として、高アニオン当量で比較的低分子(分子量1千〜50万、好ましくは1千〜20万;請求項3、段落11)のポリアニオン(a)と両性アクリルアミド系重合体(b)とを特定比率で混合した製紙用添加剤が記載されている(請求項1〜3、段落5参照)。上記ポリアニオンとしては、(メタ)アクリル酸などのビニルカルボン酸又はその塩と、アクリルアミドの共重合体が好ましい組み合わせであることが記載されている(段落10)。
また、同文献7の実施例には、高アニオン当量で、ポリアクリル酸ソーダ、ポリマレイン酸ソーダなどのポリアニオン(分子量0.14万〜2万)と、両性アクリルアミド系重合体(分子量280〜300万)とを混合した製紙用添加剤(ポリマーA−1〜A−4)を、パルプスラリーに添加することが述べられている(段落22〜28参照)。
特許文献10には、濾水性、紙力の向上を目的として、不飽和スルホン酸と架橋性モノマーと特定のアニオン性モノマーを構成成分とするアニオン性PAM(B)を、両性PAM(A)に組み合わせる製紙用添加剤が記載されている(請求項1〜5参照)。このアニオン性PAM(B)は、両性PAM(A)と混合した後に、パルプスラリーに添加しても、別々に添加しても良いことが述べられる(段落39)。但し、両性とアニオン性PAMの分子量については触れられていない。
同文献10の実施例には、pH5.1〜5.3のアニオン性PAM水溶液を調製し(実施例1〜3;段落48〜50)、このアニオン性PAMの1%水溶液と両性PAMの1%水溶液を混合してからパルプスラリーに添加することが記載されている(段落56)。
【0006】
さらに、特許文献9にはアニオン性共重合体と両性共重合体の組み合わせが開示されているが、同文献9は、バリヤー性、耐油性などの向上を目的として、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体などのアニオン性サイズ剤と、両性PAMとの混合イオンコンプレックスからなる、紙に塗工するタイプの表面サイズ剤に関するもので、パルプスラリーに内添して紙力増強を図る目的の本発明とは技術対象が異なる。
【0007】
【特許文献1】特開昭57−47998号公報
【特許文献2】特開平1−183598号公報
【特許文献3】特開平5−78997号公報
【特許文献4】特開平7−70978号公報
【特許文献5】特開平7−90796号公報
【特許文献6】特開平9−78486号公報
【特許文献7】特開平9−105097号公報
【特許文献8】特開平10−140495号公報
【特許文献9】特開平10−204792号公報
【特許文献10】特開2004−11059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アクリルアミド系の両性共重合体とカチオン性共重合体を混合してからパルプスラリーに添加する上記方法では、スラリー系内の電荷バランスをカチオン過剰な状態(陽転)にしてしまい、特に、本発明が課題としている薬品を多量に添加して高強度の紙を得る抄造方法においては、様々な操業上のトラブルを引き起こす要因となってしまう。
一方、アクリルアミド系の両性共重合体とアニオン性共重合体を別々に添加する上記併用処方においては、パルプスラリー中で重合体同士が出会う確率は極めて低くなり、パルプへの定着は個々の重合体単独の能力に負うところが大きく、従って、紙力向上の効率は低い。
【0009】
本発明は、アクリルアミド系共重合体の高添加に際して、パルプへの定着性及び薬品効果の持続性を高め、高い紙力及び濾水効果を発揮させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
アクリルアミド系の両性共重合体とアニオン性共重合体を予め混合してからパルプスラリーに添加する特許文献7又は10の方法では、別々に添加する前記併用方式の問題点をかなり克服できるが、紙力強度や濾水効果の点では未だ満足できる水準ではない。
そこで、本発明者らは、この混合添加方式を鋭意研究した結果、両性とアニオン性共重合体については、上記特許文献7又は10のような特定の構成成分やアニオン当量を具備する条件には拘束されず、アクリルアミドを含む一般的な構成成分で良いが、その反面、両性とアニオン性共重合体の少なくとも一方が低分子量であると紙力強度への寄与が制限され、紙力強度などを有効に向上するには、両方の共重合体が特定以上の高分子量を有する必要性があることを突き止めた。
即ち、この高分子量化された共重合体同士を予め混合した後にパルプスラリーに添加すると、高い紙力と濾水効果が得られること、また、混合に際してアニオン性共重合体をpH6以上に調整すると、この紙力増強効果などがさらに促進されることを見い出して、本発明を完成した。
【0011】
本発明1は、水溶性アクリルアミド系共重合体をパルプスラリーに添加して湿式抄紙する方法において、
水溶性アクリルアミド系共重合体が、両性アクリルアミド系共重合体(A)とアニオン性アクリルアミド系共重合体(B)との組み合わせであり、
上記両性アクリルアミド系共重合体(A)が、(a)(メタ)アクリルアミドと、(b)カチオン性モノマーと、(c)アニオン性モノマーを構成成分とし、
上記アニオン性アクリルアミド系共重合体(B)が、(a)(メタ)アクリルアミドと、(c)アニオン性モノマーを構成成分とし、
両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の重量平均分子量が共に30万〜1000万であり、且つ、両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の各希釈液を予め混合してから、この混合物をパルプスラリーに添加することを特徴とする湿式抄紙方法である。
【0012】
本発明2は、上記本発明1において、アニオン性共重合体(B)がpH6以上であることを特徴とする湿式抄紙方法である。
【0013】
本発明3は、上記本発明1又は2において、カチオン性モノマー(b)が、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートの少なくとも一種であることを特徴とする湿式抄紙方法である。
【0014】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、アニオン性モノマー(c)が、α,β−不飽和カルボン酸類、α,β−不飽和スルホン酸類の少なくとも一種であることを特徴とする湿式抄紙方法である。
【0015】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、成分(a)〜(c)に、さらに架橋性モノマー(d)及び/又は連鎖移動剤(e)を使用して、両性共重合体(A)及びアニオン性共重合体(B)の少なくとも一方に分岐架橋構造を持たせることを特徴とする湿式抄紙方法である。
【0016】
本発明6は、上記本発明1〜5のいずれかにおいて、両性共重合体(A)及びアニオン性共重合体(B)の各希釈液の混合比率が、(A)/(B)=1/99〜99/1(重量%)であることを特徴とする湿式抄紙方法である。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明1では、所定に高分子量化されたアクリルアミド系の両性共重合体とアニオン性共重合体の各希釈液同士を混合することにより、当該共重合体の異なるイオン性基間で予め強固かつ巨大なポリイオン錯体を形成させてから、その混合液をパルプスラリーに添加するため、高い濾水性や歩留まり、紙力を発現させることができる。従って、本発明は、紙管などの古紙系原料を使用した高強度を必要とする抄紙に好適である。
この場合、混合する2種類の水溶性共重合体を特定以上に高分子量化し、低分子量のものを排除すること、並びに、両性とアニオン性の共重合体という組み合わせであることは、立体障害や適度な電荷反発が作用するため、不可逆的な安定錯体まで進行することを抑制でき、紙力増強などの効果の持続性に優れる。
また、本発明は両性とアニオン性共重合体の組み合わせであり、前記特許文献3又は6のような両性とカチオン性共重合体の組み合わせとは異なるため、多量に添加してもパルプスラリー系内が陽転することはない。従って、この紙力増強用の共重合体を高濃度で添加しても操業性を改善し、他種の薬品使用量を低減させることができる。
【0018】
(2)本発明2では、混合に際して、アニオン性共重合体をpH6以上に調整したうえで、その希釈液を両性共重合体の希釈液と混合した後、パルプスラリーに添加するため、系内のカルボン酸部分の解離を促進し、活性イオン部分を多く確保し、ポリイオン錯体の形成を増進することで、紙力強度、濾水性などをさらに向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、第一に、水溶性アクリルアミド系共重合体をパルプスラリーに添加して湿式抄紙する方法において、アクリルアミド系の両性とアニオン性の共重合体のうち、少なくとも一方が低分子量になることを排除して、共に特定以上に高分子量化させた両性とアニオン性の共重合体を予め混合した後にパルプスラリーに添加する抄紙方法であり、第二に、この混合に際して、アニオン性共重合体を中性域付近以上のpHに調整した抄紙方法である。
【0020】
本発明の水溶性アクリルアミド系共重合体は、両性アクリルアミド系共重合体(A)とアニオン性アクリルアミド系共重合体(B)との組み合わせである。
上記両性アクリルアミド系共重合体(A)は、(a)(メタ)アクリルアミドと、(b)カチオン性モノマーと、(c)アニオン性モノマーを構成成分とする。
上記(メタ)アクリルアミド(a)としては、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドが挙げられる。
上記カチオン性モノマー(b)は、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドを初めとして、分子内にカチオン性基を1個乃至複数個有するものであり、例えば、4級アンモニウム塩基含有モノマーでは、下記の一般式(1)で示される化合物が代表例である。
[CH2=C(R1)−CO−A−R2−N+(R3)(R4)(R5)]X- …(1)
(式(1)中、R1はH又はCH3;R2はC1〜C3アルキレン基;R3、R4、R5はH、C1〜C3アルキル基、ベンジル基、CH2CH(OH)CH2+(CH3)3-であり、夫々同一又は異なっても良い;AはO又はNHである;Xはハロゲン、アルキルスルフェートなどのアニオン)
【0021】
このカチオン性モノマー(b)としては、本発明3に示すように、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートが好ましい。
上記1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドは、アミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、或は、メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドである。また、上記3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドは、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド(ジメチルアミノプロピルアクリルアミドはDMAPAAと略す)、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドを代表例とする。
上記1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリレートは、アミノエチル(メタ)アクリレートなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリレート、或は、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリレートである。また、上記3級アミノ基含有(メタ)アクリレートは、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート(ジメチルアミノエチルメタクリレートはDMと略す)、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを代表例とする。
【0022】
上記4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、又は4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートは、3級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、又は3級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートを塩化メチル、塩化ベンジル、硫酸メチル、エピクロルヒドリンなどの4級化剤を用いたモノ4級塩基含有モノマーであり、アクリルアミドプロピルベンジルジメチルアンモニウムクロリド(DMAPAA-BQと略す)、メタクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド(DM-BQと略す)、アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド(DA-BQと略す)、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリエチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
また、カチオン性モノマーとしては、高分子量化を図る見地から、分子内に2個の4級アンモニウム塩基を有するビス4級塩基含有モノマーを使用できる。具体的には、2個の4級アンモニウム塩基を有するビス4級塩基含有(メタ)アクリルアミド、或はビス4級塩基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。ビス4級塩基含有(メタ)アクリルアミドの例としては、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに、1−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドを反応させて得られるビス4級塩基含有(メタ)アクリルアミド(DMAPAA-Q2と略す)がある。このDMAPAA-Q2は、上記カチオン性モノマーの一般式(1)において、R1=H、R2=プロピレン基、A=NH、R3とR4は各メチル基、R5=CH2CH(OH)CH2+(CH3)3Cl-、X=塩素に相当する化合物である。
一方、上記4級アンモニウム塩基含有のカチオンモノマーに属するジアリルジアルキルアンモニウムハライドは、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドである。
【0023】
本発明の両性共重合体の構成単位であるアニオン性モノマー(c)は、α,β−不飽和カルボン酸類、α,β−不飽和スルホン酸類である。
上記不飽和カルボン酸類は(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)シトラコン酸、そのナトリウム、カリウム、アンモニウム塩などである。
上記不飽和スルホン酸類は、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、その塩などである。
【0024】
また、本発明5に示すように、本発明の両性共重合体(A)においては、上記成分(a)〜(c)に、さらに架橋性モノマー(d)及び/又は連鎖移動剤(e)を使用して、共重合体に分岐架橋構造を持たせることができる。
上記架橋モノマー(d)は共重合体の分子量を増し、灰分を歩留らせる活性点を増大させるために寄与し、メチレンビスアクリルアミド(MBAMと略す)、エチレンビス(メタ)アクリルアミドなどのビス(メタ)アクリルアミド類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類、ジメチルアクリルアミド(DMAMと略す)、メタクリロニトリルなどが使用できる。
上記連鎖移動剤は共重合体の粘度の増大を抑制し、分岐構造を増して分子量を調整する作用をし、イソプロピルアルコール(IPAと略す)、メタリルスルホン酸ナトリウム(SMSと略す)、n−ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、チオグリコール酸等のメルカプタン類などの公知の連鎖移動剤が使用できる。
さらに、本発明の水溶性両性共重合体では必要に応じて、他のモノマーとして、アクリロニトリルなどのノニオン系モノマーを使用しても差し支えない。
【0025】
本発明の両性共重合体(A)の構成成分(a)〜(c)は夫々単用又は併用できる。
上記両性共重合体(A)における成分(a)〜(c)の含有量は任意であって、特には制限されないが、共重合体に対する(メタ)アクリルアミド(a)の含有量は65〜98モル%、カチオン性モノマー(b)は1〜20モル%、アニオン性モノマー(c)は1〜15モル%が好ましい。
【0026】
一方、本発明のアニオン性共重合体(B)は(メタ)アクリルアミド(a)とアニオン性モノマー(c)を構成成分とする。
これらの(メタ)アクリルアミド(a)とアニオン性モノマー(c)は、上記両性共重合体(A)の構成モノマー成分として列挙した該当成分が使用できることはいうまでもない。
また、本発明5に示すように、本発明のアニオン性共重合体(B)においても、上記成分(a)と(c)に、さらに、上記架橋性モノマー(d)及び/又は上記連鎖移動剤(e)を使用して、共重合体に分岐架橋構造を持たせるようにしても良い。さらに、このアニオン性共重合体では必要に応じて、他のモノマーとして、アクリロニトリルなどのノニオン系モノマーを使用しても差し支えない。
さらに、本発明のアニオン性共重合体(B)の構成成分(a)と(c)を夫々単用又は併用できる点は、上記両性共重合体(A)の場合と同じである。
上記アニオン性共重合体(B)における成分(a)と(c)の含有量は任意であって、特には制限されないが、共重合体に対する(メタ)アクリルアミド(a)の含有量は85〜99モル%、アニオン性モノマー(c)は1〜15モル%が好ましい。
【0027】
本発明は、上記アクリルアミド系の両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の少なくとも一方が低分子量になることを排除して、共重合体(A)及び(B)を共に高分子量化させる点、並びに、共重合体(A)及び(B)を予め混合してからパルプスラリーに添加する点に特徴がある。
先ず、共重合体の高分子量化について説明すると、共重合体(A)と(B)の重量平均分子量は共に30万〜1000万であることが必要であり、好ましくは両性共重合体(A)が70万〜400万、アニオン性共重合体(B)が50万〜400万である。
重量平均分子量が30万より小さいと、両方の共重合体を混合した場合に巨大なポリイオン錯体を形成するには至らず、紙力強度や濾水性が不充分になってしまう。逆に、1000万より大きいと、混合時に不可逆的な安定錯体を形成したり、或は、ゲル化して増粘する恐れがある。
【0028】
第二に、両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の混合添加について説明すると、これらの共重合体をパルプスラリーに添加する場合には、両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の各希釈液を予め混合してから、この混合物をパルプスラリーに添加する必要がある。
予め両方の共重合体(A)と(B)を混合するため、強固且つ巨大なポリイオン錯体が形成でき、このポリマーの集合体がパルプに定着して歩留りが上がるため、紙力強度や濾水性が改善される。蓋し、パルプスラリーに別々に添加すると、前述したように、スラリー中で共重合体同士が出会う確率が低下し(即ち、ポリイオン錯体の形成効率が悪く)、パルプへの定着は個々の共重合体単独の能力に負うしかなくなり、紙力向上などの効果はあまり期待できないからである。また、共重合体の各希釈液を混合することで、活性なイオン基が多く存在する環境下で、両方の共重合体の相互作用を適度に保持し、パルプへの定着性を高めることができる。
本発明では、両方の希釈液を予め混合してからパルプスラリーに添加する場合、両者を混合してから時間を置かずにパルプスラリーに添加することが基本であり、添加の直前に共重合体(A)と(B)の各希釈液を混合することが好ましい。従って、前記特許文献7に想定されているように、両方の希釈液の混合物を貯蔵保管したり(同文献7の段落26参照)、流通に乗せることは(同段落18参照)、本発明では前提していない。
【0029】
両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)を予め混合する場合、前記特許文献10ではpH5.1〜5.3に調整しているが(段落48〜50参照)、本発明においては、アニオン性共重合体(B)は中性域付近のpH6以上に高く調整することが好ましい(本発明2参照)。より好ましいpHは7〜10である。
ちなみに、アニオン性共重合体のアニオン性基と両性共重合体の有するカチオン性基との間でポリイオン錯体を形成させる上での効率性を考えると、できるだけ多くの活性なアニオン電荷が存在することが望ましい。アニオン性共重合体のアニオン成分としてはカルボン酸を用いることが一般的であり、酸性条件下では重合体に導入された一部のカルボン酸しかアニオン電荷として機能しないため、カルボン酸を充分に解離させておく(即ち、ポリイオン錯体を形成するための活性イオン基を充分に確保する)には、pHを中性域付近以上に調整する必要がある。従って、アニオン性共重合体(B)はpH6以上にすることが好ましいのである。
この場合、pHを6以上に保持する対象は、モノマー成分の重合で得られた水溶液状のアニオン性共重合体(B)であり、希釈前の共重合体である。従って、pH6以上のアニオン性共重合体は蒸留水などの添加で希釈液とした後、両性共重合体(A)の希釈液と混合されるのである。
両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の各希釈液の希釈率は共に0.1〜15重量%であり、好ましくは0.2〜3重量%である。
また、両性共重合体(A)の希釈液とアニオン性共重合体(B)の希釈液の混合比率は、本発明6に示すように、1/99〜99/1(重量%)であり、好ましくは両性共重合体(A)が50重量%以上(即ち、アニオン性共重合体(B)が50重量%未満)である。
【0030】
本発明の湿式抄紙方法は硫酸アルミニウムを定着剤とする酸性紙、炭酸カルシウムを填料とする中性紙を問わず、各種抄紙に広く適用できる。
また、本発明の抄紙方法で得られる紙は、新聞用紙、インクジェット用紙、感熱記録原紙、感圧記録原紙、上質紙、板紙、その他の紙類などを問わない。特に、本発明は、前述した通り、紙管などの古紙系原料を使用した高強度を必要とする抄紙に好適である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明のアクリルアミド系の両性共重合体とアニオン性共重合体の合成例、当該合成例で得られた両性とアニオン性の各共重合体を混合してからパルプスラリーに添加して湿式抄紙する実施例、当該実施例で得られた紙の紙力強度及び濾水性の各種評価試験例を順次説明する。また、合成例、実施例、試験例中の「部」、「%」は特に指定しない限り重量基準である。
尚、本発明は下記の合成例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0032】
《アクリルアミド系の両性及びアニオン性共重合体の合成例》
下記の合成例のうちのA群は両性共重合体(A)の重合に関し、B群はアニオン性共重合体(B)の重合に関する。但し、比較合成例A−1は便宜上A群に属するが、両性ではなく、カチオン性共重合体の重合に関する。
下記の合成例A−1〜合成例A−5は成分(a)〜(e)の使用量を様々に変化させたものである。合成例A−1はカチオン性モノマー(b)として3級アミノ基含有(メタ)アクリレートを単用した例、合成例A−2は成分(b)として4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートの単用例、合成例A−3は3級アミノ基と4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートの併用例である。合成例A−4は成分(b)として3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドの単用例、合成例A−5は成分(b)としてビス4級塩基含有(メタ)アクリルアミドを単用した例である。
また、下記の合成例B−1〜合成例B−3はpH6以上に調整したアニオン性共重合体の例、B−4〜B−6はpH5.4以下のアニオン性共重合体の例である。
一方、下記の比較合成例A−1はカチオン性共重合体の例である。比較合成例A−2は重量平均分子量が30万未満である両性共重合体の例である。比較合成例B−1は重量平均分子量が30万未満であり、且つ、pH7付近のアニオン性共重合体の例である。比較合成例B−2は重量平均分子量が30万未満であり、且つ、pH4以下のアニオン性共重合体の例である。
尚、合成例A−1〜合成例A−5、合成例B−1〜合成例B−6、比較合成例A−1〜比較合成例A−2、比較合成例B−1〜比較合成例B−2で得られた各種共重合体水溶液の組成、性状値を図1にまとめた。但し、架橋剤(d)及び連鎖移動剤(e)はモノマー成分(a)、(b)及び(c)の総量に対するmol%で表記した。
【0033】
(1)合成例A−1
撹拌機、温度計、環流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、50%アクリルアミド水溶液114g(67mol%)、80%アクリル酸4.33g(4mol%)、ジメチルアミノエチルメタクリレート7.55g(4mol%)、メチレンビスアクリルアミド0.02g(0.01mol%)、イソプロパノール3.6g(5mol%)及びイオン交換水245gを仕込み、硫酸にてpHを3.0に調整し、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。
次いで、系内を55℃とし、撹拌下で触媒として1%過硫酸アンモニウム水溶液5gを投入した後、90℃まで昇温した。その後、さらに50%アクリルアミド水溶液35.8g(21mol%)、80%アクリル酸2.16g(2mol%)、ジメチルアミノエチルメタクリレート3.77g(2mol%)を混合し、硫酸にてpHを3.0に調整したモノマー水溶液を添加し、続いて追加の触媒として1%過硫酸アンモニウム水溶液5gを投入し、重合熱を制御しながら3時間温度を保持した。
適度な粘度になったところで水50gを投入して冷却を行い、反応を終了させ、pH3.5、固形分20.5%、粘度(25℃)6400mPa・s、重量平均分子量280万の両性共重合体水溶液を得た。
【0034】
(2)合成例A−2〜合成例A−5
上記合成例A−1を基本として、成分(a)〜(e)の種類又はその使用割合を図1のように変えた他は、合成例A−1と同様な操作を行い、各種両性共重合体水溶液を得た。
【0035】
(3)合成例B−1〜合成例B−3
前記合成例A−1を基本として、成分(a)〜(e)の種類又はその使用割合を図1のように変えた他は、合成例A−1と同様な操作を行い、反応終了後に水酸化ナトリウム水溶液にてpHを6以上に調整した各種アニオン性共重合体水溶液を得た。
【0036】
(4)合成例B−4〜合成例B−6
前記合成例A−1を基本として、成分(a)〜(e)の種類又はその使用割合を図1のように変えた他は、合成例A−1と同様な操作を行い、pH5.4以下の各種アニオン性共重合体水溶液を得た。
【0037】
(5)比較合成例A−1〜比較合成例A−2、比較合成例B−1〜比較合成例B−2
前記合成例A−1を基本として、成分(a)〜(e)の種類又はその使用割合を図1のように変えた他は、合成例A−1と同様な操作を行い、各種カチオン性、両性、アニオン性の共重合体水溶液を得た。
【0038】
そこで、上記合成例並びに比較合成例で得られた各種の両性共重合体とアニオン性共重合体(或は、カチオン性共重合体)を組み合わせて(或は、組み合わせないで)パルプスラリーに添加し、湿式抄造して手抄き紙を製造する実施例、比較例を以下に説明する。
《両性とアニオン性の共重合体を混合添加して湿式抄紙する実施例》
下記の実施例1〜13は、アクリルアミド系の両性共重合体とアニオン性共重合体を予め様々な比率で混合してから、混合直後にパルプスラリーに添加した例である。これらのうち、実施例1〜10は両性共重合体とpH6.2以上のアニオン性共重合体を混合した例であり、実施例11〜13は両性共重合体とpH5.4以下のアニオン性共重合体を混合した例である。
下記の比較例1〜10のうち、比較例1〜2は両性共重合体(合成例A−3)とアニオン性共重合体(合成例B−2)を別々にパルプスラリーに添加したもので、比較例1は両性→アニオン性の順で添加した例、比較例2はアニオン性→両性の順で添加した例である。比較例3はカチオン性共重合体(比較合成例A−1)とアニオン性共重合体(合成例B−2)を混合してから添加した例である。比較例4〜5は低分子量の両性共重合体(比較合成例A−2)と高分子量のアニオン性共重合体を混合してから添加したもので、比較例4はアニオン性共重合体として高pHの合成例B−3(pH6.2)を使用した例、比較例5は同様に低pHのアニオン性共重合体(合成例B−6:pH4.7)を使用した例である。比較例6〜7は高分子量の両性共重合体(合成例A−1)と低分子量のアニオン性共重合体を混合してから添加したもので、比較例6はアニオン性共重合体として高pHの比較合成例B−1(pH6.8)を使用した例、比較例7は同様に低pHのアニオン性共重合体(比較合成例B−2:pH3.9)を使用した例である。比較例8は両性共重合体(合成例A−3)のみをパルプスラリーに添加した例、比較例9はアニオン性共重合体(合成例B−2)のみを添加した例である。実施例1〜13及び比較例3〜7はパルプスラリーに添加直前に共重合体同士を混合したものであるが、比較例10は両性共重合体(比較合成例A−2)と高pHのアニオン性共重合体(合成例B−3)を混合してから3日間放置し、この放置後にパルプスラリーに添加した例である。
尚、図2の左欄〜中央欄には、使用した共重合体の種類や混合比率をまとめた。
【0039】
(1)実施例1
段ボール古紙を水道水に一昼夜浸漬し、ナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(CSF)が350mlになるよう調整することにより、3%濃度のパルプスラリーを得た。
撹拌下のパルプスラリーに、先ず、硫酸バンドを3%添加してpHを6.0とした。続いて、合成例A−1(両性共重合体)及び合成例B−1(アニオン性共重合体)で得られた各共重合体水溶液を夫々別途水道水にて1%希釈液とし、各希釈液を(A−1)/(B−1)=70/30(重量分率)になるように混合してから、当該混合液を対パルプ当たりの重合体総添加量が1.0%になるように添加した。
その後、pH6.0に調整した水道水にてパルプスラリー濃度を1%に希釈し、TAPPIシートマシンにて坪量150g/m2となるよう抄紙し、ウェットシートを得た。このシートを濾紙の間に挟み、5kg/cm2で1分間プレス脱水し、回転式ドラムドライヤーで110℃にて3分間乾燥させて手抄き紙を作製した。
【0040】
(2)実施例2〜13
上記実施例1を基本として、図2に示す通りパルプスラリーに添加する共重合体の組み合わせを夫々変更し、その他は実施例1と同様な操作を行って、手抄き紙を得た。
【0041】
(3)比較例1
前記実施例1を基本として、硫酸バンドを3%添加してpHを6.0とした3%濃度のパルプスラリーに、撹拌下で先ず合成例A−3で得られた両性水溶性重合体を対パルプ当たり0.6%添加し、5分後に合成例B−2で得られたアニオン性水溶性重合体を対パルプ当たり0.4%添加した。その後、前記実施例1と同様な操作を行って、手抄き紙を得た。
【0042】
(4)比較例2
前記実施例1を基本として、比較例1と薬品の添加量は同じで添加順序を逆にした。
即ち、硫酸バンドを3%添加してpHを6.0とした3%濃度のパルプスラリーに、撹拌下でまず合成例B−2で得られたアニオン性水溶性重合体を対パルプ当たり0.4%添加し、5分後に合成例A−3で得られた両性水溶性重合体を対パルプ当たり0.6%添加した。その後、前記実施例1と同様な操作を行って、手抄き紙を得た。
【0043】
(5)比較例3〜7
前記実施例1を基本として、図2に示す通り、パルプスラリーに添加する共重合体の組み合わせを夫々変更し、その他は実施例1と同様な操作を行って(即ち、両方の共重合体の各希釈液を混合した直後にパルプスラリーに添加して)、手抄き紙を得た。
【0044】
(6)比較例8
前記実施例1を基本として、硫酸バンドを3%添加してpHを6.0とした3%濃度のパルプスラリーに、撹拌下で前記合成例A−3で得られた両性水溶性重合体を対パルプ当たり1.0%添加した。即ち、両性共重合体のみを添加し、アニオン性共重合体を添加しない条件下で、その後、前記実施例1と同様な操作を行って、手抄き紙を得た。
【0045】
(7)比較例9
前記実施例1を基本として、硫酸バンドを3%添加してpHを6.0とした3%濃度のパルプスラリーに、撹拌下で合成例B−2で得られたアニオン性水溶性重合体を対パルプ当たり1.0%添加した。即ち、アニオン性共重合体のみを添加し、両性共重合体を添加しない条件下で、その後、前記実施例1と同様な操作を行って、手抄き紙を得た。
【0046】
(8)比較例10
前記比較合成例A−2及び合成例B−3で得られた各共重合体水溶液をそれぞれ別途水道水にて1%希釈液としたものを(A−2)/(B−3)=60/40(重量分率)の比率になるように混合し、室温下にて3日間放置した。
次いで、撹拌下のパルプスラリーに硫酸バンドを3%添加してpHを6.0とし、続いて3日間放置した前記重合体混合水溶液を対パルプ当たりの重合体総添加量が1.0%になるように添加した。
その後、前記実施例1と同様な操作を行って、手抄き紙を得た。
【0047】
《紙力強度及び濾水性の評価試験例》
そこで、上記実施例1〜13並びに比較例1〜10で得られた各パルプスラリー、並びにこのパルプスラリーから製造された各手抄き紙について、以下の通り、濾水性並びに紙力強度の評価試験を行った。
(1)紙力強度評価
上記各手抄き紙を温度23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿した後、JIS P8113に準じて引張り強さ(裂断長)を測定した。
(2)濾水性評価
pH6.0に調整した水道水にて上記各パルプスラリーを0.3%に希釈し、その1000mLを用いて、JIS P8121に準じてCSF(mL)を測定した。
【0048】
図2の右寄り2欄はその試験結果を示す。
アクリルアミド系の両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)を順番を変えて別々にパルプスラリーに添加した併用添加方式の比較例1〜2に比べて、両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)を予め混合した直後にパルプスラリーに添加した混合添加方式の実施例1〜13では、共に紙力強度が増大していることが確認できた。この点は、両性共重合体とアニオン性共重合体の種類(合成例A−3と合成例B−2)並びに混合比率(成分A/成分B=60/40)が同じである実施例6を比較例1〜2に対比することで、より明白に判断できる。
また、本発明の混合添加方式と同様に、カチオン性共重合体とアニオン性共重合体を混合してから添加した比較例3に比べて、実施例1〜13の紙力強度は優れていた。
さらには、両性共重合体のみを添加した比較例8や、アニオン性共重合体のみを添加した比較例9は、当然に実施例に比べて紙力評価は劣っていた。
従って、紙力強度の向上には、両性共重合体とアニオン性共重合体を別々にパルプスラリーに添加するのではなく、予め混合してから添加することの重要性が明らかになり、共重合体の組み合わせはカチオン性とアニオン性ではなく、両性とアニオン性でなければならないことが確認できた。
【0049】
また、アニオン性共重合体と平均重量分子量が30万より低い両性共重合体を混合添加した比較例4〜5や、低分子量のアニオン性共重合体と両性共重合体を混合添加した比較例6〜7の紙力強度は、実施例1〜13のそれより劣っていた。
従って、紙力強度の向上には、混合添加する両性とアニオン性共重合体が共に30万以上の高分子量であることが重要であり、少なくとも一方が低分子量であると紙力強度の向上には寄与しないことが確認できた。
【0050】
そこで、実施例1〜13を詳細に検討すると、両性共重合体の含有割合が多い実施例7〜8(70%又は95%)では、その含有割合が低い実施例(例えば、実施例5又は実施例10:30%)に比べて、概ね紙力強度をさらに有効に改善できることが判明した。
尚、実施例11ではアニオン性共重合体の分子量が本発明の適正範囲の下限付近であるため、紙力強度は相対的に他の実施例に一歩譲った。この点は、実施例1と実施例7を対比した場合、両性共重合体の含有割合が多い実施例1においても、アニオン性共重合体の分子量が本発明の適正範囲の下限付近に近いことから、紙力強度の点で実施例7には及ばなかったことからも分かる。
一方、両性共重合体とアニオン性共重合体の混合に際して、高pHのアニオン性共重合体を使用した実施例1〜10は、低pHのアニオン性共重合体を使用した実施例11〜13に比べて、紙力強度がより良く改善されていることが分かる。両性共重合体の種類(合成例A−2)、及び両性とアニオン性の混合比率(成分A/成分B=60/40)が同じである実施例2〜4を実施例11〜12に対比すると、この点がより明白になる。実施例6を実施例13に対比させても、同様にこの点が明白に判断できる。また、両性共重合体の種類、成分A/成分Bの混合比率(70/30)が同じである実施例5と実施例13を対比することによっても、この点は明白に判断できる。
ちなみに、この高pHのアニオン性共重合体と両性共重合体を混合した方が紙力強度の向上に一層寄与する点は、比較例でも同様である。即ち、高pHのアニオン性共重合体(合成例B−3)を使用した比較例4は、低pHのアニオン性共重合体(合成例B−6)を使用した比較例5より紙力強度にまさり、同様に、比較例6(高pHのアニオン性共重合体(比較合成例B−1)を使用)と比較例7(低pHアニオン性共重合体(比較合成例B−2)を使用)の対比でも、比較例6の紙力強度の方が高いことが確認できる。
【0051】
さらに、アニオン性共重合体(合成例B−3)と低分子量の両性共重合体(比較合成例A−2)の混合添加である比較例4と比較例10を対比すると、両者の共重合体を混合直後にパルプスラリーに添加した比較例4に比べて、両者を混合→3日間放置→パルプスラリーに添加する手順を経た比較例10の紙力強度は低下していた。
従って、実施例においても、紙力強度を向上する見地から、両性共重合体とアニオン性共重合体を混合してからパルプスラリーに添加するまでに時間を置くのではなく、パルプスラリーへの添加直前に両者を混合することが重要であると判断できる。
【0052】
次いで、濾水性を評価すると、実施例1〜13の方が比較例1〜10に比べて概ねCSF(mL)の数値が大きく、良好な濾水性を示した。
特に、両性共重合体の混合割合が大きい実施例(例えば、実施例7〜8)、両性とアニオン性共重合体に分子量の大きいものを共に使用した実施例(例えば、実施例4)では、濾水性に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】両性共重合体の合成例A−1〜A−5並びに比較合成例A−1〜A−2、アニオン性共重合体の合成例B−1〜B−6並びに比較合成例B−1〜B−2について、構成モノマー成分、得られた共重合体のpH、平均重量分子量、粘度などをまとめた図表である。
【図2】合成例及び比較合成例で得られた両性共重合体とアニオン性共重合体を混合した後にパルプスラリーに添加し、湿式抄造して手抄き紙を製造する実施例1〜13並びに比較例1〜10(比較例10は混合後に3日間放置してから添加した例、その他の実施例と比較例は全て混合直後に添加した例)について、混合する共重合体の種類、その混合比率、紙力強度、濾水性をまとめた図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性アクリルアミド系共重合体をパルプスラリーに添加して湿式抄紙する方法において、
水溶性アクリルアミド系共重合体が、両性アクリルアミド系共重合体(A)とアニオン性アクリルアミド系共重合体(B)との組み合わせであり、
上記両性アクリルアミド系共重合体(A)が、(a)(メタ)アクリルアミドと、(b)カチオン性モノマーと、(c)アニオン性モノマーを構成成分とし、
上記アニオン性アクリルアミド系共重合体(B)が、(a)(メタ)アクリルアミドと、(c)アニオン性モノマーを構成成分とし、
両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の重量平均分子量が共に30万〜1000万であり、且つ、両性共重合体(A)とアニオン性共重合体(B)の各希釈液を予め混合してから、この混合物をパルプスラリーに添加することを特徴とする湿式抄紙方法。
【請求項2】
アニオン性共重合体(B)がpH6以上であることを特徴とする請求項1に記載の湿式抄紙方法である。
【請求項3】
カチオン性モノマー(b)が、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式抄紙方法。
【請求項4】
アニオン性モノマー(c)が、α,β−不飽和カルボン酸類、α,β−不飽和スルホン酸類の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の湿式抄紙方法。
【請求項5】
成分(a)〜(c)に、さらに架橋性モノマー(d)及び/又は連鎖移動剤(e)を使用して、両性共重合体(A)及びアニオン性共重合体(B)の少なくとも一方に分岐架橋構造を持たせることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の湿式抄紙方法。
【請求項6】
両性共重合体(A)及びアニオン性共重合体(B)の各希釈液の混合比率が、(A)/(B)=1/99〜99/1(重量%)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の湿式抄紙方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−138029(P2006−138029A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327365(P2004−327365)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】