説明

溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法

【課題】 開放系で発泡させて発泡体原反を用いているにも係わらず、溝の位置ずれ等がなく、正確な寸法に成形された溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法を提供する。
【解決手段】 暖房床のマット層に用いる溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法であって、開放系で発泡させて発泡体原反を得る発泡工程、発泡体原反に溝付け加工を施す溝付け工程、溝付け加工が施された発泡体原反に2ヶ以上の基準点を設け、前記基準点をもとに切断する切断工程を有する溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開放系で発泡させて発泡体原反を用いているにも係わらず、溝の位置ずれ等がなく、正確な寸法に成形された溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、床暖房需要の増加により、樹脂発泡体に溝付け加工を施し、温水等の流体を流すための流体配管を配置した暖房床が多く設置されている。
これらの暖房床としては、例えば、捨て貼り材の上部に、温水を通す配管が組み込まれたマット層敷き、該マット層上にフローリング材等の板状体(仕上げ材)を敷く形式のものが広く普及している(例えば、特許文献1等)。
【0003】
このような構造の暖房床を集合住宅に設置する場合、階下へ伝わる軽量衝撃音等を軽減する必要がある。また、他の暖房床を設置しない部屋との段差の発生をできる限り抑制するため、より厚さの薄い暖房床が求められている。そこで、近年では、マット層として、従来のポリスチレン発泡体よりも圧縮特性と防音性とに優れた樹脂発泡体を用いたものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、含有する気泡の形状を厚さ方向に偏平とすることにより、厚さ方向に対する圧縮特性を著しく改善した傾斜構造発泡シートが開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、厚さ方向にリブ構造を有する樹脂発泡体からなる床材が開示されている。これらの樹脂発泡体を用いれば、薄型でも防音性に優れ、かつ、歩行感にも優れた暖房床を製造することができる。
【0005】
従来のポリスチレンからなる発泡体等では、金型内で発泡工程を行い、発泡体原反を得ていた。これに対して、特許文献2〜4に記載された樹脂発泡体では、特殊な発泡構造を実現するために、金型を用いない開放系で発泡させて発泡体原反を製造することが必然となる。このような、開放系で発泡体原反を製造した場合、どうしても得られる発泡体原反全体の形状が歪んでしまい、定形体を得るのが困難であった。
【0006】
従来の定形の発泡体原反を加工する方法としては、例えば、特許文献5に、熱可塑性樹脂発泡シートを、熱成形機による真空成形、圧空成形等によって成形し、これを位置決め支持する受台に設置し、所望の切断形状・寸法の剛性刃により切断する方法が記載されている。この方法では、位置決め用に受台を用いることが必須であるが、受け台は発泡体原反とちょうど合致する形状とする必要があり、不定形な発泡体原反に対応して正確に切断することは不可能であった。
【0007】
得られた樹脂発泡体を暖房床のマット層として用いるためには、更に温水を通す配管を配置するための溝を付ける加工等が必要であるが、不定形な発泡体原反を用いて溝付け加工を施し、これを切断してユニットとしても、施工時に組み合わせたときに溝位置がずれてしまうことがあるという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平7−217920号公報
【特許文献2】特開平11−291374号公報
【特許文献3】特許第3476323号公報
【特許文献4】特許第3448449号公報
【特許文献5】特開平5−124048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、開放系で発泡させて発泡体原反を用いているにも係わらず、溝の位置ずれ等がなく、正確な寸法に成形された溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、暖房床のマット層に用いる溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法であって、開放系で発泡させて発泡体原反を得る発泡工程、発泡体原反に溝付け加工を施す溝付け工程、溝付け加工が施された発泡体原反に2ヶ以上の基準点を設け、前記基準点をもとに切断する切断工程を有する溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法は、発泡工程、溝付け工程、及び、切断工程を有する。
上記発泡工程は、付け加工が施された樹脂発泡体シートの原材料となる発泡原反を得る工程である。
上記発泡方法としては開放系で発泡させる方法であれば特に限定されず、熱分解型等の発泡剤を樹脂に混合した組成物を調製し、これを成形した後、発泡剤を分解する条件を与える化学発泡法;樹脂成形体に高圧下で二酸化炭素ガスなの不活性なガスを含浸させ、常圧状態に戻すことにより発泡させる物理発泡法のいずれであってもよい。
なお、本明細書において開放系で発泡とは、金型等内で発泡させるのではなく、大気圧下で賦形しない状態で発泡させることを意味する。例えば、特許文献2〜4に記載された樹脂発泡体も、原則として開放系で発泡することにより製造される。
【0012】
本発明の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法では、次いで、上記発泡工程後に養生工程を行うことが好ましい。発泡工程直後の発泡原反は、発泡時にかかった応力等の影響により、その寸法が変化する傾向にある。養生工程を経ることにより、発泡原反の寸法が安定する。
上記養生工程としては特に限定されず、例えば、上記発泡工程により得られた発泡体原反を、常温常圧にて約5日間程度放置する方法が挙げられる。
【0013】
本発明の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法では、次いで、溝付け工程を行う。これは、得られた発泡体原反を暖房床のマット層に適用するために、温水等の流体を流すための流体配管を配置するための溝を設けるものである。
上記溝付け加工の方法としては特に限定されず、例えば、熱プレス成形法等が挙げられる。
【0014】
本発明の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法では、次いで、切断工程を行う。溝付け加工が施された発泡体原反を適当な大きさのユニットに切りわけることにより、得られた溝付け加工が施された樹脂発泡体シートを暖房床のマット層として用いる場合の施工性が向上する。
上記切断の方法としては、溝付け加工が施された発泡体原反に2ヶ以上の基準点を設け、この基準点をもとに切断する。上述のように開放系で発砲された発泡工程により得られた発泡体原反は、非定形であり、通常の方法では正確に切断することは困難であるが、2ヶ以上の基準点を設けた場合、溝に対する基準点の位置関係は発泡体原反の形状に係わりなく一定となる。従って、この基準点をもとに切断する方法を採ることにより、溝の位置に対しては極めて正確に切断することができる。
【0015】
上記基準点を設ける方法としては、切断時にセンサ等により検出できるものであれば特に限定されないが、上記溝付け工程で熱プレス成形法等により溝を形成する際に、同時に目印となる凹部又は凸部を形成しこれを基準点としてもよいし、別にインクを付けたり、パンチ穴を開ける等を行ってもよい。
上記基準点は、溝付け加工が施された発泡体原反の端部(耳部)に設けられることが好ましい。これにより、不要な周辺部を切り落とす加工を別に行う必要がなく、大幅に工程を簡略化することができる。
【0016】
上記切断の方法としては特に限定されず、一般的なトムソン刃による押し切り法や、ノコギリ刃による切断法であってもよいが、切断部分が滑らかになり、また切断位置を容易に変えたりすることができることから、溝付け加工が施された発泡体原反に通電された電熱線材を押圧する方法が好ましい。
【0017】
本発明の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法により得られた溝付け加工が施された樹脂発泡体シートは、開放系で発砲された原反を用いたにも係わらず、極めて正確な寸法であり、これを暖房床のマット層として用いて施工したときにも溝の位置ずれ等が生じることがない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、開放系で発泡させて発泡体原反を用いているにも係わらず、溝の位置ずれ等がなく、正確な寸法に成形された溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
(1)発泡工程
変性用スクリュー押出機として、BT40(プラスチック工学研究所社製)同方向回転2軸スクリュー押出機を用いた。これはセルフワイピング2条スクリューを備え、そのL/Dは35、Dは39mmである。シリンダーバレルは押出機の上流から下流側へ第1〜6バレルからなり、ダイは3穴ストランドダイであり、揮発分を回収するため第4バレルに真空ベントが設置されている。操作条件は下記の通りとした。
・シリンダーバレル設定温度:第1バレル;180℃
第2〜6バレル;220℃
ダイ;220℃
・スクリュー回転数:150rpm
この構成の変性用スクリュー押出機に、まず、ポリオレフィン系樹脂、その後端ホッパーから投入し、第3バレルからジビニルベンゼンと有機過酸化物の混合物を押出機内に注入し、これらを溶融混和して変性樹脂を得た。このとき、押出機内で発生した揮発分は真空ベントにより真空引きした。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンランダム共重合体(日本ポリケム製「EX6」、MI;1.8、密度;0.9g/cm)を用い、その供給量は10kg/hとした。変性用モノマーとしてはジビニルベンゼンを用い、その供給量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.5重量部とした。また、有機過酸化物としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3を用い、その供給量はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.1重量部とした。
ポリオレフィン系樹脂、ジビニルベンゼン、有機過酸化物の溶融混和によって得られた変
性樹脂を、ストランドダイから吐出し、水冷し、ペレタイザーで切断して、変性樹脂のペレットを得た。
【0021】
発泡剤混練用スクリュー押出機はTEX−44型(日本製鋼所社製)同方向回転2軸スクリュー押出機であり、これはセルフワイピング2条スクリューを備え、そのL/Dは45.5、Dは47mmである。シリンダーバレルは押出機の上流から下流側へ第1〜12バレルからなり、成形ダイは7穴ストランドダイである。温度設定区分は下記の通りとした。
第1バレルは常時冷却
第1ゾーン;第2〜4バレル
第2ゾーン;第5〜8バレル
第3ゾーン;第9〜12バレル
第4ゾーン;ダイおよびアダプター部
発泡剤を供給するために第6バレルにサイドフィーダーが設置され、揮発分を回収するため第11バレルに真空ベントが設置されている。操作条件は下記の通りである。
・シリンダーバレル設定温度:第1ゾーン;150℃
第2ゾーン;170℃
第3ゾーン;180℃
第4ゾーン;160℃
・スクリュー回転数:40rpm
得られた変性樹脂とホモタイプのポリプロピレン(日本ポリケム製「FY4」、MI;5.0、密度;0.9g/cm)とを、それぞれ10kg/hの供給量で、発泡剤混練用スクリュー押出機に供給した。また、発泡剤(アゾジカルボンアミド(ADCA))を、それぞれ1.0kg/hの供給量で、同押出機にサイドフィーダーから供給した。
こうして変性樹脂と発泡剤の混練によって得られた発泡性樹脂組成物を、Tダイから押し出し、幅1000mm×厚み0.5mmのシート状成形体を得た。
【0022】
得られた発泡性樹脂組成物シートの両面に、ポリエチレンテレフタレート製の不織布(東洋紡績社製、「スパンボンド エクーレ 6301A」、秤量30g/m)を積層し、ダブルシート発泡機を用い、厚さ9mmのポリオレフィン系樹脂発泡体を製造し、これを発泡体原反とした。
【0023】
得られた発泡体原反について、JIS K 6767に準ずる方法により発泡倍率を測定したところ約10倍であった。また、厚さ方向(z方向)にカットし、断面の中央部を光学顕微鏡で観察しつつ15倍の拡大写真を撮した。その映像内の全ての気泡(ただし、Dzが0.05mm以下の気泡及び10mm以上の気泡は除外した)についてDzとDxyをノギスを用いて測定し、アスペクト比を求めたところ1.8であった。
【0024】
(2)養生工程
得られた発泡体原反を、常温常圧下で5日間静置して、養生した。
【0025】
(3)溝付け工程
図2に示した熱プレス成形法により溝付け加工を行った。
図2において、21は得られた発泡体原反、22はプレス成形用金型、23はプレス装置、24は発泡体原反の保持部を表す。
熱プレス成形用金型22は、土台部221に加工用溝型部222、2個以上の基準点設定用の凸部223が形成されている。発泡体原反保持部24に発泡体原反を保持し、加熱部(図示しない)で加熱した成形用金型22をプレス装置23で押し上げ、シート状樹脂発泡体に押しあてた。これにより、発泡体原反21は、加熱された加工用溝型部と基準点設定用の凸部が溶融する。金型を冷却して取り出すと、流体配管用の溝と基準点(凹形状)
が設けられた発泡体原反が得られた。
【0026】
(4)切断工程
図3に示した加熱したニクロム線よる切断装置により切断を行った。
図3において、31は発泡体原反の受台、32はニクロム線の保持枠である。発泡体原反の受台31には、基準点用の凸部311とニクロム線受け用の溝312が形成されている。ニクロム線保持枠32には電流源(図示しない)に接続されたニクロム線321が縦、横方向それぞれに保持されている。ニクロム線保持枠はシリンダ等で構成された移動装置(図示しない)により垂直方向に移動させることができる(ただし、基準点用の凸部311とニクロム線332の同一水平面内での位置関係は変化しない)。
【0027】
溝付け工程で得られた基準点(凹部)が設けられた発泡体原反を、該基準点が切断装置の基準点(凸部)に勘合する用に発泡体原反を設置した。次いで、ニクロム線321に通電、加熱し、ニクロム線保持枠移動装置によりニクロム線保持枠33を下降させ加熱したニクロム線を発泡体原反に押し当てることにより溶断した。得られた個々の部品をユニットとして暖房床のマット層に用いた。
【0028】
切断は設定した基準点をもとに行われたことから、発泡体原反自体に形状・寸法のバラツキがあっても、流体配管用の溝と各切断面との位置関係は一義的に確定する。
従って、図1に示したような暖房床を設置したときも、全く溝のズレ等は認められず施工できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、開放系で発泡させて発泡体原反を用いているにも係わらず、溝の位置ずれ等がなく、正確な寸法に成形された溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】暖房床の一例を示した模式図である。
【図2】実施例で用いた熱プレス成形機を示す模式図である。
【図3】実施例で用いたニクロム線よる切断装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0031】
11 流体配管
12 流体配管用の溝
13 マット層
14 放熱板
21 発泡体原反
22 プレス成形用金型
23 プレス装置
24 発泡体原反の保持部
221 土台部
222 加工用溝型部
223 基準点設定用の凸部
31 発泡体原反の受台
32 ニクロム線の保持枠
311 基準点用の凸部
312 ニクロム線受け用の溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
暖房床のマット層に用いる溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法であって、開放系で発泡させて発泡体原反を得る発泡工程、発泡体原反に溝付け加工を施す溝付け工程、溝付け加工が施された発泡体原反に2ヶ以上の基準点を設け、前記基準点をもとに切断する切断工程を有する
ことを特徴とする溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法。
【請求項2】
基準点は、溝付け加工が施された発泡体原反の端部(耳部)に設けられることを特徴とする請求項1記載の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法。
【請求項3】
切断工程において、溝付け加工が施された発泡体原反に通電された電熱線材を押圧することにより切断することを特徴とする請求項1又は2記載の溝付け加工が施された樹脂発泡体シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142517(P2006−142517A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332394(P2004−332394)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】