説明

溶剤を用いずに医療用電気リード本体にコーティングを形成する方法

溶剤を用いずに医療用電気リード上にコーティングを形成する方法。本方法は、治療薬の粒子と流動可能な状態のポリマー材とを溶剤を用いずに混合して均質な懸濁物を形成する工程を含む。所定の量の懸濁物がリードの少なくとも一部に施された後に硬化されて治療薬溶出層が形成される。下塗り層、X線不透過性層、及び/又はトップコート層等の追加層を無溶剤方法により形成することができる。無溶剤方法を採用することにより、形成される層が硬化工程における溶剤の蒸発により収縮することを防止できる。さらに、治療薬溶出コーティングの厚さの調整が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コーティングを有する医療用電気リードに関し、より詳細には、溶剤を用いずに医療用電気リードにコーティングを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の内部又は周囲に植え込まれた電極を有するリードが、命にかかわる不整脈の治療、すなわち心臓収縮の誘発に用いられている。このようなリードにより、心臓の正常な脈拍をもたらすために電極を介して心臓に電気エネルギーが付与される。通常の場合リードは心房又は心室の上又は内部に配置され、リード端子は、皮下に植え込まれたペースメーカー又は除細動器に取り付けられる。
【0003】
ペースメーカーリードにおける問題のひとつに、植え込み位置における電極と体組織との相互作用に起因する急性及び持続性の刺激閾値の上昇がある。閾値を減少させるためのアプローチとして、例えばデキサメタゾンやベクロメタゾン等の治療薬を入れた薬剤カラー又は薬剤プラグがリード本体に組み込まれている。しかし、治療効果をもたらし得る量の治療薬を搬送するためにはプラグ又はカラーのサイズが大きくなり、リード本体全体の小型化の妨げとなる。さらに、このような器具はリードの植え込み後の治癒反応における生理的経過の多くを適切に対処するものではない場合もある。
【0004】
ペースメーカーリードに関するさらに別の問題としては、植え込み中又は植え込み後の視覚化を目的としてリード本体にX線不透過性を有させるよう設計することが困難であるという問題がある。従来技術においては、リード本体にX線不透過性リングを配置することにより生体内における視覚化を可能にしている。しかし、X線不透過性リングは、リード本体の不規則な形状に適合しやすいものではなく、さらに、リード本体の小型化の妨げにもなるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、溶剤を用いずに医療用電気リード本体にコーティングを形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施例1はリード本体を有する医療用電気リード上に溶剤を用いずに治療薬溶出コーティングを形成する方法であって、1)粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン医療用接着剤内に分散された20重量%以下の少なくとも1つの治療薬の粒子を含む所定の量の無溶剤混濁物を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら自動式シリンジを用いてリード本体の外面上においてリード本体に配置された少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、2)無溶剤懸濁物を硬化させて残留溶剤を含まないポリマーマトリクス層を形成する工程と、を有する方法である。
【0007】
実施例2は、治療薬が抗炎症剤を含む実施例1による方法である。
実施例3は、治療薬が増殖抑制剤を含む実施例1又は2による方法である。
実施例4は、治療薬が抗炎症剤及び増殖抑制剤の組み合わせを含む実施例1〜3のいずれかによる方法である。
【0008】
実施例5は、治療薬がデキサメタゾン、デキサメタゾン誘導体、及びデキサメタゾン塩のいずれかを含む実施例1〜4のいずれかによる方法である。
実施例6は、未硬化のシリコーン医療用接着剤がNuSil Technology社のMED−6210を含む実施例1〜5のいずれかによる方法である。
【0009】
実施例7は、未硬化のシリコーン医療用接着剤がNuSil Technology社のMED−6215を含む実施例1〜6のいずれかによる方法である。
実施例8は、未硬化状態の医療用接着剤及び少なくとも1つの治療薬を混ぜる工程が、混濁物にX線不透過性物質の粒子を混和させる工程をさらに含む実施例1〜7のいずれかによる方法である。
【0010】
実施例9は、X線不透過性物質がタングステン粒子を含む実施例8による方法である。
実施例10は、X線不透過性物質がプラチナ粒子を含む実施例8による方法である。
実施例11は、粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン接着剤及びX線不透過性物質の粒子を含む所定の量の未硬化状態の無溶剤混合物を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面上において少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、無溶剤混合物を硬化させてX線不透過性層を形成する工程と、をさらに含む実施例1〜10のいずれかによる方法である。
【0011】
実施例12は、X線不透過性物質がタングステン粒子及びプラチナ粒子のいずれかを含む実施例1〜11のいずれかによる方法である。
実施例13は、X線不透過性粒子がタングステン粒子を含む実施例1〜12のいずれかによる方法である。
【0012】
実施例14は、X線不透過性粒子がプラチナ粒子を含む実施例1〜13のいずれかによる方法である。
実施例15は、無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が10〜80重量%である実施例1〜14のいずれかによる方法である。
【0013】
実施例16は、無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が50重量%以上である実施例1〜15のいずれかによる方法である。
実施例17は、無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が50〜75重量%である実施例1〜16のいずれかによる方法である。
【0014】
実施例18は、X線不透過性層がポリマーマトリクス層の上に形成される実施例1〜17のいずれかによる方法である。
実施例19は、ポリマーマトリクス層がX線不透過性層の上に形成される実施例1〜18のいずれかによる方法である。
【0015】
実施例20は、X線不透過性層がリード本体の外面に接触するように同外面の上に形成される実施例1〜19のいずれかによる方法である。
実施例21は、所定の量の未硬化状態の無溶剤トップコート材を、リード本体を回転させながら電動シリンジを用いてX線不透過性層上に施す工程と、無溶剤トップコート材を硬化させ、X線不透過性層に接触するとともにX線不透過性層の上に位置するトップコート層を形成する工程と、をさらに含む実施例1〜20のいずれかによる方法である。
【0016】
実施例22は、所定の量の無溶剤下塗り材を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面上において少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、無溶剤下塗り材を硬化させて下塗り層を形成する工程と、形成した下塗り層の上にポリマーマトリクス層を形成する工程と、をさらに含む実施例1〜21のいずれかによる方法である。
【0017】
実施例23は、所定の量の無溶剤下塗り材を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面において少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、無溶剤下塗り材を硬化させて下塗り層を形成する工程と、下塗り層の形成後に、下塗り層に接触するとともに下塗り層の上に位置するX線不透過性層を形成する工程と、をさらに含む実施例1〜22のいずれかによる方法である。
【0018】
実施例24は、所定の量の未硬化状態の無溶剤トップコート材を、リード本体を回転させながら電動シリンジを用いてポリマーマトリクス層上に施す工程をさらに含む実施例1〜23のいずれかによる方法である。
【0019】
実施例25は、未硬化状態のトップコート材に治療薬が混和される実施例1〜24のいずれかによる方法である。
実施例26は、無溶剤トップコート材がポリマーマトリクス層の材料と同じシリコーン医療用接着剤を含む実施例1〜25のいずれかによる方法である。
【0020】
実施例27は、未硬化状態の無溶剤トップコート材がホスホリルコリンを含む実施例1〜26のいずれかによる方法である。
実施例28は、未硬化状態の無溶剤トップコート材がヒアルロン酸を含む実施例1〜27のいずれかによる方法である。
【0021】
実施例29は、無溶剤懸濁物中の治療薬の割合が2〜20%(重量/重量)である実施例1〜28のいずれかによる方法である。
実施例30は、無溶剤懸濁物中の治療薬の割合が5〜20%(重量/重量)である実施例1〜29のいずれかによる方法である。
【0022】
実施例31は、リード本体を含む医療用電気リード上に溶剤を用いずに複数の層からなるコーティングを形成する方法であって、1)粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン接着剤及びX線不透過性物質の粒子を含む所定の量の未硬化状態の無溶剤混合物を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面上において少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、2)無溶剤混合物を硬化させて、10〜80重量%のX線不透過性物質を含むX線不透過性層を形成する工程と、3)粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン医療用接着剤内に分散された20重量%以下の治療薬の粒子を含む所定の量の無溶剤懸濁物を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてX線不透過性層の上に施す工程と、4)無溶剤懸濁物を硬化させて、残留溶剤を含まないポリマーマトリクス層を形成する工程と、を含む方法である。
【0023】
実施例32は、未硬化状態の所定の量の無溶剤トップコート材を、リード本体を回転させながら電動シリンジを用いてX線不透過性層の上に施す工程と、無溶剤トップコート材を硬化させて、X線不透過性層に接触するとともにX線不透過性層の上に位置するトップコート層を形成する工程と、をさらに含む実施例31による方法である。
【0024】
実施例33は、所定の量の無溶剤下塗り材を、リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面において少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、無溶剤下塗り材を硬化させて下塗り層を形成する工程と、下塗り層の形成後に、下塗り層に接触するとともに下塗り層の上に位置するX線不透過性層を形成する工程と、をさらに含む実施例31又は32による方法である。
【0025】
実施例34は、治療薬がデキサメタゾン、デキサメタゾン誘導体、及びデキサメタゾン塩のいずれかを含む実施例31〜33のいずれかによる方法である。
実施例35は、未硬化のシリコーン医療用接着剤がNuSil Technology社のMED−6210及びMED−6215のいずれかを含む実施例31〜34のいずれかによる方法である。
【0026】
実施例36は、X線不透過性物質がタングステン粒子を含む実施例31〜35のいずれかによる方法である。
実施例37は、X線不透過性物質がプラチナ粒子を含む実施例31〜36のいずれかによる方法である。
【0027】
実施例38は、無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が50重量%以上である実施例31〜37のいずれかによる方法である。
実施例39は、無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が50〜75重量%である実施例31〜38のいずれかによる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態による医療用電気リードを示す概略図。
【図2A】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図2B】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図2C】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図2D】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図3A】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図3B】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図3C】本発明の一実施形態によるコーティングを含んだリードの一部を示す概略図。
【図4】本発明の一実施形態によるリードのコーティングを形成するコーティング装置を示す図。
【図5】本発明のいくつかの実施形態により生成及びコーティングされた基材の薬剤放出特性と市販の一体的放出装置の薬剤放出特性とを比較する表。
【図6】本発明のいくつかの実施形態により生成及びコーティングされた基材の薬剤放出特性と、市販の一体的放出装置の薬剤放出特性及び溶剤を用いた方法により生成されたサンプルの薬剤放出特性とを比較する表。
【図7】10重量%のX線不透過性物質を含んだX線不透過性層のサンプルをX線にて撮像した写真。
【図8】50重量%のX線不透過性物質を含んだX線不透過性層のサンプルをX線にて撮像した写真。
【図9】75重量%のX線不透過性物質を含んだX線不透過性層のサンプルをX線にて撮像した写真。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は種々の変形例が可能であるが、説明のために特定の実施形態を図面及び下記の記載により示す。しかし、これらの実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲に入るすべての変形例を含むものとする。
【0030】
図1は、本発明の様々な実施形態による医療用電気リード10を示す断面図である。いくつかの実施形態においては、医療用電気リード10は患者の心臓内に植え込まれるよう構成される。別の実施形態においては、医療用電気リード10は患者の神経血管内に植え込まれるよう構成される。さらに別の実施形態においては、リード10は蝸牛に植え込まれるよう構成される。医療用電気リード10は、基端16から先端20まで延びる長尺状の絶縁性リード本体12を有する。基端16はコネクタ24を介してパルス発生器に動作可能に接続される。少なくとも一本の導体32がリード10の基端16においてコネクタ24から延びて、リード10の先端20において1つ以上の電極28に接続される。導体32はコイル状導体又はケーブル導体であってもよい。複数の導体が用いられるいくつかの実施形態においては、リードはコイル状導体とケーブル導体を組み合わせたものを有していてもよい。コイル状導体は、同径構成であっても同軸構成であってもよい。
【0031】
リード本体12は、その全長にわたって可撓性を有するが圧縮不能であり、断面は円形である。一実施形態においては、リード本体12の外径は約0.66〜5mm(2〜15フレンチ)である。多くの実施形態において、リード本体12は薬剤カラー又は薬剤プラグを有しない。
【0032】
医療用電気リード10は、治療目的に応じて単極、双極、又は多極のいずれであってもよい。複数の電極28及び複数の導体32を用いる場合は、各導体32は個別の電極28に一対一の関係となるよう接続され、各電極28を個別に扱えるようにする。さらに、リード本体12は、リード10を患者の心臓に搬送するためのガイドワイヤやスタイレット等のガイド要素を受容する1つ以上のルーメンを備えていてもよい。
【0033】
電極28は、周知のいかなる電極構成を備えていてもよい。一実施形態においては、少なくとも1つの電極がリング電極又は部分的リング電極である。別の実施形態においては、少なくとも1の電極はショックコイルである。さらに別の実施形態においては、少なくとも1つの電極28が露出した電極部分と絶縁された電極部分を有する。いくつかの実施形態においては、複数の電極構成が組み合わされて用いられる。電極28は、プラチナ、ステンレス鋼、MP35N(登録商標)、プラチナイリジウム合金、又は他の類似導体材料によりコーティングされるか、これらの材料から形成される。
【0034】
いくつかの実施形態においては、リード本体12は1つ以上の固定部材を有する。この固定部材は、患者の体内の目的位置に1つ以上の電極28を含むリード本体12を固定及び安定させるためのものである。固定部材は、能動的なものであっても受動的なものであってもよい。能動的固定部材の例としては、ねじ込み式固定部材が挙げられる。受動的固定部材の例としては、血管壁に当たるようにあらかじめ形成された先端部や、リード本体12の先端に配置された拡張可能な枝部が挙げられる。
【0035】
図2A〜2Dに、本発明の様々な実施形態によるリード本体12の少なくとも一部に施された治療薬溶出コーティング30を示す。一実施形態においては、コーティング30は、リード本体12の外面34に沿って1つ以上の離間した区域に施される。別の実施形態においては、リード本体12の基端16から先端20までの外面の大部分(例えば60〜95%)にコーティング30が施される。さらに別の実施形態においては、外面34において少なくとも1つの電極28に近接してコーティング30が施される。さらに別の実施形態においては、少なくとも1つの電極28に近接するようにリード本体12の先端部にコーティング30が施される。コーティング30を電極28の少なくとも一部の上に施すこともできるが、電極の機能を損なわないように電極にはコーティングを施さない方がよい場合がある。
【0036】
様々な実施形態においては、図2Bに示すように、コーティング30が少なくとも1つのポリマーマトリクス層44を含む。一実施形態においては、ポリマーマトリクス層44には1つ以上の治療薬が混和される。別の実施形態においては、1つ以上の治療薬に加えてX線不透過性の粒子がポリマーマトリクス層44に混和される。患者の体内の所望の位置にリード10が植え込まれた後、ポリマーマトリクス層44から治療薬が放出される。
【0037】
図2Cに示す別の実施形態においては、コーティング30はさらに下塗り層46を含む。下塗り層46はリード本体12の外面34上に施され、外面34とポリマーマトリクス層44の間に配置される。下塗り層46は、リード本体12の外面34に対するポリマーマトリクス層44及び他の層の付着を促進する。
【0038】
いくつかの実施形態においては、図2Dに示すように、コーティング30がさらに少なくとも1つのトップコート層48を含む。トップコート層48は、ポリマーマトリクス層44からの治療薬の溶出速度を制御するために施される。一実施形態においては、1つ以上のトップコート層48がポリマーマトリクス層44の上にポリマーマトリクス層44と接触して施される。いくつかの実施形態においては、トップコート層48が治療薬を含む。トップコート層48に混和される治療薬は、ポリマーマトリクス層44に含まれる治療薬と異なっていても同じでもよい。例えば、トップコート層48は、治療薬が周囲環境にまず急放出されるように構成してもよい。また、上層や中間層を追加してもよい。
【0039】
図3A〜3Cに示す本発明の別の実施形態においては、治療薬溶出コーティング30は治療薬を含む少なくとも1つのポリマーマトリクス層44と少なくとも1つのX線不透過性層52とを有する。いくつかの実施形態においては、複数のX線不透過性層52が設けられる。X線不透過性層52を設けることにより、一般的な視覚化手段を用いて施術者がリードを植え込む際にリードの搬送が容易になる。また、患者を再診する際に、植え込み位置からのリードの移動等、合併症の要因を発見するための確認も容易になる。一実施形態においては、図3Aに示すように、X線不透過性層52は、リード本体12の外面34の上に施され、外面34と、治療薬を含んだポリマーマトリクス層44との間に配置される。図3Bに示すように、X線不透過性層52と外面34との間の接着を促進するために下塗り層46を施してもよい。いくつかの実施形態においては、図3Cに示すように、X線不透過性層52の上にトップコート層48が施される。トップコート層48をX線不透過性層52の上に施すことにより、X線不透過性層52の劣化を防ぐことができ、また、X線不透過性層52内のX線不透過性粒子が体内に放出されてしまうことを防止することができる。
【0040】
各層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、トップコート層48、及びX線不透過性層52)は、無溶剤懸濁物から形成される。一実施形態においては、無溶剤懸濁物とは、約5重量%未満の溶剤を含む懸濁物を指し、より限定的には約1重量%未満の溶剤を含む懸濁物を指す。他の実施形態においては、無溶剤懸濁物は、溶剤を全く含まない懸濁物である。さらに、無溶剤コーティング組成物とは、硬化又は固化した状態において残留溶剤を含まないコーティング組成物を意味する。例えば一実施形態においては、無溶剤懸濁物が硬化又は固化した状態において、含有する残留溶剤は約1%未満、より限定的には約0.5%未満である。さらに別の実施形態においては、無溶剤懸濁物は硬化又は固化した状態において残留溶剤を全く含まない。
【0041】
溶剤を用いない無溶剤方法にてコーティング30の各層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、トップコート層48、及びX線不透過性層52)を形成することにはいくつかの利点がある。利点の例としては、コーティング30硬化時の収縮が抑制できることや、溶剤によりポリマーマトリクス層44から治療薬が抽出されることを抑制又は防止できることが挙げられる。溶剤を有しない無溶剤懸濁物により各層を形成することにより、溶剤が治療薬を劣化させてしまうことを防止でき、その結果、薬剤の溶出特性の予測をより確かにできる。さらに、各コーティング層の形成に無溶剤コーティング組成を用いることにより、リード本体に対するコーティング層の塗布が容易になり、その結果、治療薬をより均一に分散させることができる。例えば、無溶剤コーティング組成物を用いることにより、コーティング組成物が硬化する前に下降してしまうことを抑制することができる。
【0042】
ポリマーマトリクス層44は、液状又流動可能状態にて施される単一のポリマー又は複数のポリマーの組み合わせを含むことができる。一実施形態においては、ポリマーマトリクス層44の形成に用いられるポリマー材は、治療薬が添加されるときには未硬化状態である。別の実施形態においては、ポリマー材は溶解状態であってもよい。ポリマー溶解物は、非固形状態にあるか、もしくはそのポリマーの溶解温度以上の温度にさらされて変化した状態にある単一ポリマー又は複数のポリマーの組み合わせを指す。複数のポリマーの組み合わせが用いられた場合、溶解温度が最も高いポリマー材の溶解温度以上となるようにされる。
【0043】
コーティング30の各層を無溶剤方法により形成するためのポリマー材を選ぶ際には、いくつかの条件を考慮しなければならない。考慮すべき条件の例としては、ポリマー材の粘度、使用できるポットライフ、及びせん断速度が挙げられる。一実施形態においては、ポリマー材が硬化されるまで治療薬の粒子が均一に懸濁された状態を保つことができ、同時に、例えばシリンジを用いた自動供給が可能である粘度を有するポリマー材が選択される。
【0044】
適切な粘性を有するポリマー材を選択することにより、懸濁状態を向上させることができる。さらに、組み合わせる工程の減少、及びリード本体12の外面34における各層の形成にかかる処理時間の減少も可能となる。ただし、自動供給が妨げられるほど高い粘度であってはならない。一実施形態においては、ポリマー材の粘度は約100マイクロパスカルから約100パスカルである。別の実施形態においては、ポリマー材の粘度は約0.001〜20パスカルである。さらに別の実施形態においては、ポリマー材の粘度は1〜20パスカルである。
【0045】
ポリマーマトリクス層44の形成に適したポリマー材は医療用接着剤を含み、より限定的には、粘度が前述の範囲内であるシリコーンベースの医療用接着剤を含む。シリコーンベースの医療用接着剤の例としては、米国カリフォルニア州カーペンテリアに所在するNuSil Technology社より入手可能であるMED−6210ポリマー又はMED−6125ポリマーが挙げられる。他には、蒸気硬化医療用接着剤、UV硬化医療用接着剤、及びプラチナ硬化シリコーンも用いることができる。蒸気硬化接着剤及びUV硬化接着剤はシリコーンベースであってもなくてもよい。蒸気硬化接着剤の例としては、オキシム硬化シリコーン及びエトキシ硬化シリコーンが挙げられる。UV硬化医療用接着剤の例としてはUV硬化シリコーンが挙げられる。
【0046】
患者の体内に放出されたときに効果的な治療薬として機能し得るあらゆる薬剤や生体活性剤をポリマー材に組み込んで、ポリマーマトリクス層44を形成するための無溶剤懸濁物として用いてもよい。一実施形態においては、治療薬の粒子がポリマー材の全体に均等に分散されるように治療薬がポリマー材に混入される。
【0047】
治療薬は単一の治療薬を含んでいてもよいし、複数の治療薬の組み合わせを含んでいてもよい。治療薬の例としては、抗炎症剤及び増殖抑制剤が挙げられる。より詳細には、パクリタキセル、クロベタゾール、ラパマイシン、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、アクチノマイシンD、デキサメタゾン(デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾンアセテート等)、ベタメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン、ビタミンE、ミコフェノール酸、シクロスポリン、ベクロメタゾン(無水ベクロメタゾン二プロピオン酸塩等)、これらの誘導体、類似物、塩、及びこれらの組み合わせが例として挙げられるが、これらに限定はされない。
【0048】
ポリマー材と治療薬とを懸濁物として混合する際の分量は、ポリマーマトリクス層44内の治療薬の割合(治療薬の重量/マトリクスの総重量×100%)が効果的な割合となるよう設定される。懸濁物の形成には無溶剤組成物が用いられるため、懸濁物中の治療薬の割合(重量/重量%)は、硬化したポリマーマトリクス層44内の治療薬の割合(重量/重量%)とほぼ同じになる。一実施形態においては、ポリマーマトリクス層44の薬剤放出特性は、例えば同一又は類似の材料を用いた薬剤カラー等の、従来の一体式制御放出器具の薬剤放出特性とほぼ同じである。
【0049】
さらに、ポリマーマトリクス層44中の治療薬の割合を調節することにより、薬剤放出特性を即時放出、短期放出、又は持続的放出とすることができる。即時放出特性を有するポリマーマトリクス層44は、植込み後数分から約1時間以内に治療薬を放出する。短期放出特性を有するポリマーマトリクス層44は、よりゆっくりと、植え込み後数日から数週間かけて治療薬を放出する。持続的放出特性を有するポリマーマトリクス層44は、さらにゆっくりと放出し、全ての治療薬の放出には数ヶ月から数年を要する。
【0050】
一実施形態においては、ポリマーマトリクス層44内の治療薬の割合は約2〜35%(重量/重量)である。別の実施形態においては、約5〜20%(重量/重量)である。一般的に、マトリクス内により高い割合の治療薬を含むポリマーマトリクス層44は、より速い薬剤放出特性を有する。また、治療薬の放出速度は、ポリマーマトリクス層44のポリマー材にも左右される。
【0051】
一実施形態においては、ポリマーマトリクス層44が1つ以上の治療薬に加えてさらにX線不透過性物質の粒子をさらに含む。十分なX線不透過性又は放射線不透過性を供するX線不透過性物質又は放射線不透過性物質の粒子、例えば繊維や結晶を、上記の様々なポリマー材に混ぜることができる。一般的にX線不透過性物質は非生体分解性のX線不透過性物質であり、患者の体内の長期的植え込みに適している。一実施形態においては、X線不透過性物質の粒子は、粒子がポリマー材の全体にわたって分散されるようにポリマー材に混入される。別の実施形態においては、X線不透過性物質の粒子は、粒子がポリマー材の全体にわたってほぼ均一に分散されるようにポリマー材に混入される。いくつかの実施形態においては、粒子の平均的粒径は約1〜100nmである。別の実施形態においては、粒子の平均的粒径は約6〜12nmである。
【0052】
X線不透過性物質の例としては、ヨウ素及びその塩又は化合物、バリウム及びその塩又は化合物、タングステン、レニウム、オスミウム、貴金属、パラジウム、金、コロイド金、銀、プラチナ、タンタル、イリジウム、及びこれらの合金が挙げられるが、これらに限定されない。これらの物質は、X線透視法による視認性が高いため、ポリマーマトリクス層44の厚さが薄い場合でも視認することができる。一実施形態においては、X線不透過性物質はタングステンである。別の実施形態においては、プラチナである。
【0053】
いくつかの実施形態においては、ポリマーマトリクス層44を形成するために懸濁物を塗布する前に、リード本体12の外面34上に無溶剤ポリマー材を塗布することによって下塗り層46が形成される。下塗り層46の形成に用いるポリマー材も、その粘度を考慮して選択される。一実施形態においては、下塗り層46の形成に用いるポリマー材の粘度は約100ミリパスカルから100パスカルであり、より限定的には、0.001〜20パスカルである。下塗り層46の形成に適した材料は、シリコーンベースの医療用接着剤(ポリマーマトリクス層の形成に用いるものと同様のもの)、エポキシ樹脂、及びポリアクリル酸塩やポリメタクリル酸などのアクリル樹脂である。一実施形態においては、下塗り層46はポリブチルメタクリル酸(PBMA)から形成される。
【0054】
別の実施形態においては、下塗り層46を施すために、リード本体12の外面34が様々な表面処理手法を用いて表面処理される。例えば、外面34にプラズマ表面処理を施して、外面34に対する下塗り層46及び他の追加層の接着を向上させることができる。
【0055】
ポリマーマトリクス層44と同様に、トップコート層48もポリマーマトリクス層44上にシリコーンベースの無溶剤医療用接着剤を塗布することにより形成される。トップコート層48は、ポリマーマトリクス層44から治療薬が放出される速度を制御する。いくつかの実施形態においては、コーティング30の薬剤放出特性を調節するためにトップコート層48が治療薬を含む。他の実施形態においては、トップコート層48は治療薬を含んでおらず、これにより、ポリマーマトリクス層44から体組織への治療薬の放出が遅くなる。ポリマーマトリクス層44からの治療薬の放出速度に対してトップコート層48が与える影響は様々な条件に左右される。このような条件は、トップコート層48の材料、ポリマーマトリクス層44上に形成されるトップコート層48の数、各トップコート層48の厚さ及び/又は多孔率などである。
【0056】
トップコート層48は、ポリマーマトリクス層44の形成に用いたポリマー材と同じ又は異なるポリマー材から形成することができる。例えば、一実施形態においてはポリマーマトリクス層44の形成に用いたシリコーンベース医療用接着剤がトップコート層48の形成にも使用される。トップコート層48の形成に適したポリマー材としては、さらに、ポリウレタン、シリコーン、シリコーンエラストマ、ハロゲン化ポリビニリデン、及びフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)やポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重等のハロゲン化ポリビニリデンの共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
別の実施形態においては、トップコート層48が生化学的に有益な物質から形成される。トップコート層48に用いる生化学的に有益な物質の例としては、ホスホリルコリン(PC)及びヒアルロン酸(HA)が挙げられるがこれらに限定されない。さらに別の実施形態においては、トップコート層48が、前述のように、1つ以上のポリマー材に混和された1つ以上の治療薬を含む。
【0058】
他の層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、及びトップコート層48)と同様に、X線不透過性層52も無溶剤方法により形成できる。十分なX線不透過性又は放射線不透過性を供するX線不透過性物質又は放射線不透過性物質の繊維等の粒子を、他の層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、及びトップコート層48)の形成について前述した様々なポリマー材に混ぜることができる。これにより、X線不透過性層52を形成するための、無溶剤懸濁物を供することができる。一般的に、X線不透過性物質は非生体分解性のX線不透過性物質であり、患者の体内の長期的植え込みに適している。一実施形態においては、X線不透過性物質の粒子は、粒子がポリマー材の全体にわたって分散されるようにポリマー材に混和される。別の実施形態においては、X線不透過性物質の粒子は、粒子がポリマー材の全体にはわたってほぼ均一に分散されるようにポリマー材に混和される。いくつかの実施形態においては、粒子の平均的粒径は約1〜100nmである。別の実施形態においては、粒子の平均的粒径は約6〜12nmである。X線不透過性物質の例としては、ヨウ素及びその塩又は化合物、バリウム及びその塩又は化合物、タングステン、レニウム、オスミウム、貴金属、パラジウム、金、コロイド金、銀、プラチナ、タンタル、イリジウム、及びこれらの合金が挙げられるが、これらに限定されない。これらの物質は、X線透視法による視認性が高いため、ポリマーマトリクス層44の厚さが薄い場合でも視認することができる。一実施形態においては、X線不透過性物質はタングステンである。別の実施形態においては、プラチナである。
【0059】
ポリマー材及びX線不透過性物質を混合して懸濁物を形成する際は、標準的視覚化手法(X線透視手法等)を用いてX線不透過性物質を視覚化し得る量のX線不透過性物質をX線不透過性層52に含める。所望する程度のX線不透過性をもたらすために、複数のX線不透過性層52を形成してもよい。懸濁物の形成には無溶剤組成物を用いるため、懸濁物中のX線不透過性物質の割合(重量/重量%)は、硬化したX線不透過性層52内のX線不透過性物質の割合(重量/重量%)とほぼ同じになる。一実施形態においては、X線不透過性層52を形成するための懸濁物に含まれるX線不透過性物質の量は、懸濁物の総重量の約10〜80重量%である。別の実施形態においては、懸濁物に含まれるX線不透過性物質の量は懸濁物の総重量の約20〜50重量%である。さらに別の実施形態においては、X線不透過性層52を形成するための懸濁物に含まれるX線不透過性物質の量は懸濁物の総重量の約50〜80重量%である。また別の実施形態においては、懸濁物に含まれるX線不透過性物質の量は懸濁物の総重量の約10〜20重量%である。さらに別の実施形態においては、X線不透過性層52を形成するための懸濁物に含まれるX線不透過性物質の量は懸濁物の総重量の約75重量%である。
【0060】
前述のように、コーティング30の各層は、溶剤を用いないコーティング処理によりリード本体12の外面34上に形成される。一実施形態においては、図4に示すような自動シリンジコーティング装置100を用いて、ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、トップコート層48、及び/又はX線不透過性層52を形成するための無溶剤組成物が、リード本体12の少なくとも一部に施される。図4に示すように、シリンジポンプ104に取り付けられた電動シリンジ102は皮下注射針を模したノズルアセンブリ106に連結しており、1以上の層をリード本体12の少なくとも一部に形成するために使用される。一実施形態においては、ポンプ104は流体を正確に計量しながら供給する容積式ポンプであり、ポンプ104の動きはステップモータ等のモーター105により制御される。流体は、所定の量が所定の速度にて供給される。一実施形態においては、リード本体12に施される流体の量は、形成される層の厚さに直接比例する。
【0061】
いくつかの実施形態においては、コーティング組成物が施される間、回転装置108によりリード本体12が長手方向軸を中心に回転し、リード本体12の全面にコーティングが施される。いくつかの実施形態においては、装置100に顕微鏡110が取り付けられ、コーティング処理の視認がなされる。リード本体12は装置100の上に載置して、顕微鏡110の下に配置してもよい。
【0062】
シリンジコーティング装置100を上記のように用いることにより、コーティング配置の制御が大幅に容易になり、コーティング組成物の浪費を減少させることができる。さらに、コーティングの厚さを均等にすることもできる。
【0063】
リード本体12に各層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、トップコート層48、及び/又はX線不透過性層52)が形成されると、次の層が塗布される前にその層が硬化又は乾燥される。各層を形成するための無溶剤組成物は、熱、紫外線照射、ガンマ線照射、又は当業者に周知の他のポリマー硬化方法により硬化させることができる。
【0064】
前述のコーティング処理は、複数の層を形成するために所望の回数繰り返すことができる。いくつかの実施形態においては、1つ以上の層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、トップコート層48、及び/又はX線不透過性層52)からなるコーティング30の全体的な厚さは、約1ミクロン未満から200ミクロンの範囲である。別の実施形態においては、コーティング30の全体的な厚さは約1〜150ミクロンである。さらに別の実施形態においては、約1〜100ミクロンである。各層の厚さは約1〜200ミクロンであり、より限定的には、約1〜150ミクロンである。別の実施形態においては、各層の厚さは約1〜100ミクロンである。
【0065】
さらに、各層(ポリマーマトリクス層44、下塗り層46、トップコート層48、及び/又はX線不透過性層52)の厚さは同じでなくてもよく、層ごとに異なっていてもよい。例えば、X線不透過性層の上に形成されるトップコート層48は、X線不透過性層52に比べて薄く形成される。さらに別の実施形態においては、コーティング30の全体的な厚さの50%以上がポリマーマトリクス層44によるものであり、残りの厚さは他の層(X線不透過性層52、下塗り層46、及び/又はトップコート層48)の組み合わせによるものである。別の実施形態においては、ポリマーマトリクス層44とX線不透過性層52の組み合わせがコーティング30の全体的な厚さに占める割合が50%以上である。さらに別の実施形態においては、ポリマーマトリクス層44がコーティング30の全体的厚さの75%以上を占める。各層の厚さ、特にX線不透過性層52及びポリマーマトリクス層44の厚さは、これらの層に混和される物質の量に左右される。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療薬溶出リード10が従来の植え込み方法により視認を行いながら患者の体内の目的位置まで搬送される。植込み後は、リード本体12の外面34上に形成されたコーティング30から治療薬が溶出し、周囲の体組織を治療する。このようにして、植え込みや異物の存在に起因する炎症や他の好ましくない症状を抑制することができる(例えば、炎症を低減させたり、炎症の毒性を減少させたりすることができる)。
【0067】
さらに、電極の周囲における非興奮性の結合組織(莢膜等)の形成も抑制される(例えば、繊維状莢膜の厚さが低減される)。その結果、刺激閾値が術後に上昇してしまうことを抑制でき、急性及び持続性の両方において、安定した低い閾値を維持することができる。また、本発明の器具及び方法により、電極の上、周囲、及び近傍において筋細胞の減衰及び/又は壊死が防止されるため、低い閾値がさらに安定してもたらされる。
実施例
【実施例1】
【0068】
溶剤を用いない方法
遠心ミキサ内にて、米国カリフォルニア州カーペンテリアに所在するNuSil Technology社より入手したMED−6210ポリマーを未硬化状態において20%(重量/重量)のデキサメタゾンアセテート(DXA)と混合し、無溶剤コーティング混合物を生成した。約1〜5μLの無溶剤コーティング混合物が、PEEK(登録商標)がコーティングされたステンレス鋼ピン上に塗布された。塗布は、ピンを長手方向に回転及び平行移動させながら、容積式ポンプを介したシリンジを用いて行われた。無溶剤コーティング混合物はその場で60〜75度の温度において1〜3時間の環境気圧及び雰囲気下で硬化された。いくつかのサンプルは、DXAを含まないポリマーからなる第2のトップコート層によりコーティングされた。コーティングされたサンプルからのDXAの放出が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中において7〜24日間にわたって観察された。含有量20%(重量/重量)のサンプル(トップコートを有するものと有しないもの)からのDXAの平均的な累積放出が経時的にプロットされ、現在市販されている一体的制御放出器具におけるDXAのPBSへの放出と比較された(図5)。コーティングされたサンプルの放出特性は、生体内での有効性が認められている市販の一体的制御放出器具の放出特性と同様であった。
【実施例2】
【0069】
比較検証
実施例1において述べた無溶剤方法により生成されたサンプルからのDXAの放出と、溶剤を基剤として用いる従来の方法により生成されたサンプルからのDXAの放出とが比較された。溶剤を基剤として用いたサンプルの生成においては、所望の量のDXA、NuSil Technology社のMED−6210、及び適宜な溶剤が遠心ミキサ内で混合されてコーティング混合物が形成された。二種類のコーティング混合物が生成された。第1のコーティング混合物は、2%のDXA、10%の医療用接着剤、及び残りの割合の溶剤を含み、溶剤蒸発後のコーティングにおけるDXAの比率は約20%であった。第2のコーティング混合物は2%のDXA、20%の医療用接着剤、及び残りの割合の溶剤を含み、溶剤蒸発後のコーティングにおけるDXAの比率は約10%であった。約1〜5μLの各コーティング混合物が、PEEK(登録商標)がコーティングされたステンレス鋼ピン上に塗布された。塗布は、ピンを長手方向に回転及び平行移動させながら、容積式ポンプを介したシリンジを用いて行われた。コーティング混合物はその場で60〜150度の温度において5〜60分の間もしくは溶剤が全て蒸発されるまで環境気圧及び雰囲気下で硬化された。
【0070】
コーティングされたピンからのDXAの放出が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中において7〜24日間にわたって観察された。DXA2%と基材10%を含むサンプルとDXA2%と基材20%を含むサンプルからのDXAの平均的な累積放出が経時的にプロットされ、無溶剤方法により生成したサンプル及び現在市販されている一体的制御放出器具におけるDXAのPBSへの放出と比較された(図6)。図6に示されるデータからわかるように、無溶剤方法にて生成されたサンプルの放出特性は、生体内での有効性が認められている市販の一体的な制御放出器具、及び溶剤を用いて生成されたサンプルの放出特性と同様のものであった。さらに、予想したように、コーティング混合物上にトップコート層が施されている場合、コーティング基材からのDXAの放出が抑制された。
【実施例3】
【0071】
X線不透過性層の形成
適量の単結晶タングステン粉末と適量のNuSil Technology社のMED−6215とを混合して、25重量%のタングステンを含む懸濁物が生成された。遠心ミキサ又は音響ミキサを用いてタングステン粉末をMED−6215と混合し、均質な懸濁物が生成された。次いで、可変ゲージを有するNordson EFD社のテーパーノズルが装着されたHarvard Appratus社の250マイクロリットルガラスシリンジに混合物が入れられた後、シリンジがHarvard Apparatus社のNanomiteシリンジポンプに装着された。コーティングを施す基体(例えば、ステンレス鋼ピンに固着されたPEEK(登録商標)製の成形シェル)が、図4に関して前述したように、自動コーティング装置に装着された。コーティングを均一にするために基体を自動で回転及び平行移動させながら、懸濁物(0.25〜1.0マイクロリットル)が基体に塗布された。懸濁物が塗布された基体は、60〜75度の温度において60分間硬化され、X線不透過性層が形成された。上記の工程は、約10重量%及び50重量%のタングステン粉末を含む懸濁物/層が形成されるまで繰り返された。
【実施例4】
【0072】
X線検証
前記の実施例3の工程により形成されたX線不透過性層のX線不透過性についてX線を用いて検証を行った。10重量%の層、50重量%の層、及び75重量%の層のそれぞれがX線により視覚化され、これらの層のX線不透過性が互いに比較された。また、これらの層は、市販のペースメーカー用リードに用いられる標準的X線不透過性マーカーとも比較された。このマーカーは、薄いリボン状のプラチナである。図7〜9に、比較のために一般的なX線不透過性マーカー210を有するリード200と共に撮像した10重量%のX線不透過性層110、50重量%のX線不透過性層150、及び75重量%のX線不透過性層175の写真をそれぞれ示す。一般的X線不透過性マーカーほどX線不透過性は高くないとはいえ、全てのX線不透過性層がX線により視覚化された。タングステンの重量%が大きいものほどX線不透過性が高く、タングステン75重量%のX線不透過性層のX線不透過性が最も高かった。また、X線不透過性層の数を増やすことによっても、高いX線不透過性が得られると予想される。
【0073】
本発明の範囲から逸脱することなく、記載の例示的な実施形態に対し、様々な変更及び追加を行うことが可能である。例えば、上述の実施形態では特定の特徴を参照しているが、本発明の範囲には、異なる特徴の組み合わせを有する実施形態や、上述の特徴の必ずしもすべてを含まない実施形態が含まれる。したがって、本発明の範囲には、特許請求の範囲内にあるそのような代替、変更、及び変形のすべてや、その均等物が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード本体を有する医療用電気リード上に溶剤を用いずに治療薬溶出コーティングを形成する方法であって、
粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン医療用接着剤内に分散された20重量%以下の少なくとも1つの治療薬の粒子を含む所定の量の無溶剤混濁物を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら自動式シリンジを用いてリード本体の外面上においてリード本体に配置された少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、
前記無溶剤懸濁物を硬化させて残留溶剤を含まないポリマーマトリクス層を形成する工程と、を有する方法。
【請求項2】
前記治療薬が抗炎症剤を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療薬が増殖抑制剤を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記治療薬が抗炎症剤及び増殖抑制剤の組み合わせを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療薬がデキサメタゾン、デキサメタゾン誘導体、及びデキサメタゾン塩のいずれかを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記未硬化のシリコーン医療用接着剤がNuSil Technology社のMED−6210及びMED−6215のいずれかを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記無溶剤懸濁物がさらにX線不透過性物質の粒子を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記X線不透過性物質がタングステン粒子を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記X線不透過性物質がプラチナ粒子を含む請求項7に記載の方法。
【請求項10】
粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン接着剤及びX線不透過性物質の粒子を含む所定の量の未硬化状態の無溶剤混合物を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面上において前記少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、
前記無溶剤混合物を硬化させてX線不透過性層を形成する工程と、をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記X線不透過性物質がタングステン粒子及びプラチナ粒子のいずれかを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が10〜80重量%である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が50重量%以上である請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記無溶剤混合物中のX線不透過性物質の粒子の量が50〜75重量%である請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記X線不透過性層がポリマーマトリクス層の上に形成される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマーマトリクス層がX線不透過性層の上に形成される請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記X線不透過性層がリード本体の外面に接触するように同外面の上に形成される請求項10に記載の方法。
【請求項18】
所定の量の未硬化状態の無溶剤トップコート材を、前記リード本体を回転させながら電動シリンジを用いて前記X線不透過性層上に施す工程と、
前記トップコート材を硬化させ、前記X線不透過性層に接触するとともにX線不透過性層の上に位置するトップコート層を形成する工程と、をさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項19】
所定の量の無溶剤下塗り材を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面上において前記少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、
前記無溶剤下塗り材を硬化させて下塗り層を形成する工程と、
形成した下塗り層の上に前記ポリマーマトリクス層を形成する工程と、をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】
所定の量の無溶剤下塗り材を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面上において前記少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、
前記無溶剤下塗り材を硬化させて下塗り層を形成する工程と、
前記下塗り層の形成後に、下塗り層に接触するとともに下塗り層の上に位置するX線不透過性層を形成する工程と、をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項21】
所定の量の未硬化状態の無溶剤トップコート材を、前記リード本体を回転させながら電動シリンジを用いて前記ポリマーマトリクス層上に施す工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記無溶剤懸濁物中の治療薬の割合が2〜20%(重量/重量)である請求項1に記載の方法。
【請求項23】
リード本体を含む医療用電気リード上に溶剤を用いずに複数の層からなるコーティングを形成する方法であって、
粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン接着剤及びX線不透過性物質の粒子を含む所定の量の未硬化状態の無溶剤混合物を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながらリード本体の外面上において少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、
前記無溶剤混合物を硬化させて、10〜80重量%のX線不透過性物質を含むX線不透過性層を形成する工程と、
粘度が0.001〜20パスカルである未硬化状態のシリコーン医療用接着剤内に分散された20%(重量/重量)以下の治療薬の粒子を含む所定の量の無溶剤懸濁物を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら自動式シリンジを用いて前記X線不透過性層の上に施す工程と、
前記無溶剤懸濁物を硬化させて、残留溶剤を含まないポリマーマトリクス層を形成する工程と、を含む方法。
【請求項24】
未硬化状態の所定の量の無溶剤トップコート材を、前記リード本体を回転させながら電動シリンジを用いて前記X線不透過性層の上に施す工程と、
前記トップコート材を硬化させて、X線不透過性層に接触するとともにX線不透過性層の上に位置するトップコート層を形成する工程と、をさらに含む請求項23に記載の方法。
【請求項25】
所定の量の無溶剤下塗り材を、前記リード本体をリード本体の長手方向軸を中心に回転させながら電動シリンジを用いてリード本体の外面において前記少なくとも1つの電極に近接する位置に施す工程と、
前記無溶剤下塗り材を硬化させて下塗り層を形成する工程と、
前記下塗り層の形成後に、下塗り層に接触するとともに下塗り層の上に位置するX線不透過性層を形成する工程と、をさらに含む請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−500765(P2013−500765A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522872(P2012−522872)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/041694
【国際公開番号】WO2011/028324
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】