説明

溶剤系インクジェットインク組成物およびそれを用いたフルカラー画像形成方法

【課題】ピエゾ式インクジェットプリンタにて透明または明度の低い非吸収性材料にフルカラー画像を形成することである。
【解決手段】インク中において、有機溶剤の割合が70重量%以上90重量%未満であり、有機溶剤が、アルコール系溶剤であり、1気圧での沸点が90℃以上140℃以下の中沸点アルコール系溶剤と、1気圧での沸点が90℃より小さい低沸点アルコール系溶剤および/または1気圧での沸点が140℃より大きい高沸点アルコール系溶剤とからなり、有機溶剤中において、前記中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%以上であり、前記低沸点アルコール系溶剤の割合が60重量%以下であり、前記高沸点アルコール系溶剤の割合が10重量%以下であり、顔料に酸化チタンを用いることによってインクの色は白となることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク受容層を設けていない透明または明度が低い非吸収性材料に対して、ピエゾ式インクジェットプリンタにて使用される水を含まない溶剤系インクジェットインク組成物およびそれを用いたフルカラー画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット方式の印刷によって、さまざまな用途において容易にフルカラー画像が印刷できるようになってきている。代表的なインクジェット印刷方式としては、ピエゾ式とサーマル式があり、ピエゾ式は、ピエゾ圧電素子を用いて圧力によってヘッドノズルからインクを吐出させる方式であるため、様々な原料を使用することができ、用途展開しやすいインクジェット方式である。また、電気入力信号に応じて画像を形成することができるので、少量多品種の可変印刷に優れており、大型看板などの産業用途でも利用されている。
【0003】
看板などは、耐久性のある非吸収性材料であることが多い。非吸収性材料であるプラスチックにインクジェットインクとして水系インクによって印刷する場合、インク受容層を設けていなければ、非吸収性材料におけるインクの吸収性および乾燥性が不十分となり、インクの滲みが発生しやすく、良好な印刷品質を確保することができない。例えば、特許第3830092号公報や特許第4127531号公報にあるように、水系インク用に非吸収性材料であるプラスチック上に設けられるインク受容層が開発されている。
【0004】
非吸収性材料がフィルム状であると、インク受容層を一般的なコーターで容易に形成できるが、フィルム状でなく板状などであると、インク受容層を形成することは難しくなる。そこでインクの改良によって、インク受容層を設けていない非吸収性材料でも良好な印刷品質を確保する開発が行われている。インク受容層を設けていない非吸収性材料に印刷するためのインクジェットインクとして、例えば特許第4082681号公報や特開2005−126540号公報において、顔料、紫外線硬化樹脂、光重合開始剤を含有する紫外線硬化型インクジェットインク組成物が開発されている。
【0005】
フルカラー画像を形成する場合、インクジェットインクは少なくともイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せによってフルカラー画像を印刷するが、これは、白色系の材料を対象としており、透明または明度の低い材料は対象としていない場合が多い。このような透明な材料では、次の2通りのような画像を形成する方法がある。ひとつは、少なくとも該3色の組合せによって透明な材料にフルカラー画像を印刷した上に、白色インクを重ねて印刷することで、フルカラー画像を形成する方法である。この方法であれば、透明な材料側から透明な材料を通して画像を見ることになり、形成した画像を保護することにもなる。もうひとつは、白色インクによって透明な材料に印刷した上に、少なくとも該3色の組合せによるフルカラー画像を重ねて印刷することで、フルカラー画像を形成する方法である。この方法であれば、透明な材料上の画像を直接見ることになる。これらのように、画像を形成する方法の違いにより、画像を見る側が異なるものである。透明な非吸収性材料の汎用なものとして、透明ガラス、透明アクリル板および軟包装で用いられるような透明フィルムなどがある。このようなフルカラー画像を形成する方法の問題として、材料にフルカラー画像用インクを印刷した上に白インクを印刷するため、もしくは、材料に白インクを印刷した上にフルカラー画像用インクを印刷するため、つまり、印刷した上に印刷するため、滲むという問題が起こりやすかった。このような問題が起こらないものとして、例えば特開2005−341021号公報において、放射線(紫外線)硬化型インクジェットインクが開発されている。
【0006】
しかしながら、これらのような紫外線硬化型インクジェットインク組成物では、印刷後に水銀ランプなどで紫外線を照射する設備が必要であり、汎用性があるものではない。非吸収性材料の形状によっては、照射することができない場合もある。そのため、紫外線硬化型でないインクジェットインクが望まれていた。白色インクとしては、例えば特公平2−45663号公報において、過去に開発されているが、ピエゾ式やサーマル式ではなく、単色用のコンティニュアス式であり、フルカラー画像を形成することができるものではなかった。白色インク以外としては、例えば特願2008−181331号公報において、イエロー、マゼンタ、シアンやブラックなどのフルカラー画像用の溶剤系インクジェットインク組成物を本発明者が開発している。
【特許文献1】特許第3830092号公報
【特許文献2】特許第4127531号公報
【特許文献3】特許第4082681号公報
【特許文献4】特開2005−126540号公報
【特許文献5】特開2005−341021号公報
【特許文献6】特公平02−045663号公報
【特許文献7】特願2008−181331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ピエゾ式インクジェットプリンタにて透明または明度の低い非吸収性材料にフルカラー画像を形成することであり、そのための溶剤系インクジェットインクの白色を提供することであり、および、溶剤系インクジェットインクを用いたフルカラー画像形成方法を提供することである。
【0008】
特に、溶剤系インクであってもピエゾ式インクジェットプリンタ内部の部品を浸食することがなく、インク受容層を設けていない透明または明度が低い非吸収性材料への印刷適性が良く、印刷の隠蔽性があり、印刷後の乾燥性が良く、印刷の堅牢性に優れた水を含まない溶剤系インクジェットインクの白色を提供することであり、および、イエロー、マゼンタ、シアンの少なくとも3色の組合せと白色とによって印刷することで滲みのない良好なフルカラー画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
少なくともイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せによって非吸収性材料にフルカラー画像を印刷した上に、白色インクを重ねて印刷するため、または、白色インクによって非吸収性材料に印刷した上に、少なくとも該3色の組合せによるフルカラー画像を重ねて印刷するため、溶剤系インクジェットインクは、白色以外のイエロー、マゼンタ、シアンなどの有色インクの組成と白色インクの組成とは似ているものであっても、重ねて印刷した時の他方への影響が極力小さくなるようにすることが要点であった。
【0010】
なお、本発明では便宜上、水の沸点辺りのアルコール系溶剤を中沸点アルコール系溶剤と呼んで、それよりも沸点の低いものを低沸点アルコール系溶剤と、高いものを高沸点アルコール系溶剤と呼んでいる。沸点の値で具体的に定義すれば、1気圧での沸点において、90℃より小さいアルコール系溶剤が低沸点アルコール系溶剤であり、90℃以上140℃以下のアルコール系溶剤が中沸点アルコール系溶剤であり、140℃より大きいアルコール系溶剤が高沸点アルコール系溶剤である。
【0011】
ここで、低沸点アルコール系溶剤や高沸点アルコール系溶剤が多くなると、次のような不具合が生じることがある。低沸点アルコール系溶剤では、プリンタのヘッドノズルの乾燥が促進され、ヘッドノズルの目詰まりが発生し、安定したインク吐出が得られなくなるということがある。高沸点アルコール系溶剤では、インクの乾燥が遅く、滲みの問題が発生し、印刷品質の低下を引き起こしてしまうということがある。しかしながら、有機溶剤中において、中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%以上、低沸点アルコール系溶剤の割合が60重量%以下、高沸点アルコール系溶剤の割合が10重量%以下という範囲であれば、これらのような不具合が生じることなく使用できることを見出したものである。すなわち、低沸点アルコール系溶剤割合が60重量%よりも高い場合は、プリンタのヘッドノズルの乾燥が促進され、ヘッドノズルの目詰まりが発生し、安定したインク吐出が得られなくなる傾向があり、高沸点アルコール系溶剤の割合が10重量%よりも高い場合は、インクの乾燥が遅く、滲みの問題が発生し、印刷品質の低下を引き起こしてしまう傾向となる。中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%未満の場合は、混合する低沸点アルコール系溶剤や高沸点アルコール系溶剤の組み合わせに応じて、それぞれの不具合が発生してしまう傾向がある。
【0012】
また、インク中に顔料が分散されていなければ良好な印刷品質を得ることができないが、本発明においては、有機溶剤による顔料分散と樹脂混合という製造工程を経ることにより、インク中に顔料が分散されている状態にすることができたものである。
【0013】
本発明は、ピエゾ式インクジェットプリンタにて使用される非吸収性材料用の溶剤系インクジェットインク組成物において、少なくとも、顔料、樹脂、有機溶剤からなり、インク中において、有機溶剤の割合が70重量%以上90重量%未満であり、有機溶剤が、アルコール系溶剤であり、1気圧での沸点が90℃以上140℃以下の中沸点アルコール系溶剤と、1気圧での沸点が90℃より小さい低沸点アルコール系溶剤および/または1気圧での沸点が140℃より大きい高沸点アルコール系溶剤とからなり、有機溶剤中において、前記中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%以上であり、前記低沸点アルコール系溶剤の割合が60重量%以下であり、前記高沸点アルコール系溶剤の割合が10重量%以下であり、顔料に酸化チタンを用いることによってインクの色は白となるであることを特徴とするものである。
【0014】
また、ピエゾ式インクジェットプリンタにて使用される非吸収性材料用の溶剤系インクジェットインク組成物において、少なくとも、顔料、樹脂、有機溶剤からなり、インク中において、有機溶剤の割合が90重量%以上であり、有機溶剤が、アルコール系溶剤であり、前記中沸点アルコール系溶剤と、前記低沸点アルコール系溶剤および/または前記高沸点アルコール系溶剤とからなり、有機溶剤中において、前記中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%以上であり、前記低沸点アルコール系溶剤の割合が60重量%以下であり、前記高沸点アルコール系溶剤の割合が25重量%以下であり、顔料によってインクの色は少なくともイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せとなり、少なくとも該3色の組合せによって非吸収性材料にフルカラー画像を印刷した上に、請求項1に記載の白色インクを重ねて印刷することを、または、請求項1に記載の白色インクによって非吸収性材料に印刷した上に、少なくとも該3色の組合せによるフルカラー画像を重ねて印刷することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ピエゾ式インクジェットプリンタにて透明または明度の低い非吸収性材料にフルカラー画像を形成することであり、そのための溶剤系インクジェットインクの白色を提供することができたものであり、および、溶剤系インクジェットインクを用いたフルカラー画像形成方法を提供することができたものである。
【0016】
特に、溶剤系インクであってもピエゾ式インクジェットプリンタ内部の部品を浸食することがなく、インク受容層を設けていない透明または明度が低い非吸収性材料への印刷適性が良く、印刷の隠蔽性があり、印刷後の乾燥性が良く、印刷の堅牢性に優れた水を含まない溶剤系インクジェットインクの白色を提供することができたものであり、および、イエロー、マゼンタ、シアンの少なくとも3色の組合せと白色とによって印刷することで滲みのない良好なフルカラー画像形成方法を提供することができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
中沸点アルコール系溶剤は、有機溶剤中において、割合が40重量%以上であればよく、単独で用いることや複数を混合して用いることができるものである。また、使用状況において求められる様々な性能を出すためには、低沸点アルコール系溶剤や高沸点アルコール系溶剤と混合して用いた方がよい。ただし、これらアルコール系溶剤を用いた溶剤系インクに水を使用しないものである。水溶性のアルコール系溶剤であっても、水を含むと、本発明では良好な印刷品質にはならないからである。
【0018】
インク中において、これら有機溶剤の含有量は、顔料に酸化チタンを用いて白色を出すため酸化チタンの含有量が多いので、70重量%以上90重量%未満であることが好ましく、75重量%以上85重量%未満であることがより好ましいものである。これら有機溶剤によって、ピエゾ式においてヘッドノズルからのインク吐出を安定させている。ただし、これらの重量%の値はあくまで計量によるものであり、自然蒸発などによる減少分は考慮していない数値である。
【0019】
中沸点アルコール系溶剤の例としては、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、イソアミルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、4−メチル−2ペンタノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
【0020】
低沸点アルコール系溶剤の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、高沸点アルコール系溶剤の例としては、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノールなどが挙げられる。
【0021】
白色インクにするために、顔料として、酸化チタン、塩基性炭酸鉛、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウムなどを用いることができるが、比重が小さく沈降し難く、着色力および隠蔽性が高く、さらに酸やアルカリに対する耐久性にも優れている点から、酸化チタンを使用している。
【0022】
酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型およびブルーカイト型の3種があり、汎用性が高いことからアナターゼ型とルチル型を選択することが好ましい。アナターゼ型は比重が小さく、小粒径化し易い特徴があり、一方ルチル型は屈折率が大きく隠蔽性が高い特徴がある。本発明においては、比重が小さく小粒径化しやすいことにより、分散安定性が高く、沈降が抑制でき、保存安定性が良く、また、吐出安定性が高められることからアナターゼ型を選択することが好ましいが、目的に応じて隠蔽性能を重視する場合はルチル型を選択しても良い。あるいはアナターゼ型とルチル型の2種を併用しても良い。
【0023】
顔料としての酸化チタンがインク中に分散されている状態にするために、顔料と樹脂と有機溶剤などを一緒に混合して分散させるものではなく、まず顔料を有機溶剤に分散させることで、顔料分散液を作製する工程と、その後にこの顔料分散液と樹脂を混合する工程を経るものである。
【0024】
顔料分散液を作製する工程は、サンドミルやボールミルなどの分散機を用いて、顔料を有機溶剤に分散させて作製する。顔料としての酸化チタンの割合は、30重量%以上70重量%未満の範囲が好ましい。分散性を高めるために分散剤を添加した方がよい。分散剤の割合は、分散剤の種類によって変わるが0.1重量%以上20重量%以下の範囲で添加することができる。分散剤の割合が、20重量%より大きくなると印刷の堅牢性が低下する傾向がある。顔料の平均粒子径としては、50〜400nmのものが好ましい。着色力および隠蔽性が高く、また、分散安定性が高められる点から100〜300nmであることがより好ましい。
【0025】
この顔料分散液と樹脂を混合する工程は、顔料分散液と樹脂と有機溶剤などを、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合する。その後、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、溶剤系インクジェットインク組成物とするものである。このように、本発明の溶剤系インクジェットインク組成物は、有機溶剤による顔料分散と樹脂混合という製造工程を経るものである。
【0026】
インク中において有機溶剤に溶けている樹脂が、ヘッドノズルから吐出されて溶剤が蒸発することで非吸収性材料上にて皮膜化されて、顔料を固定することができ、発色することになる。樹脂は、溶剤が蒸発することで、非吸収性材料上で皮膜化されるものであればよい。そのような樹脂の例としては、スチレンアクリル系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂、テルペンフェノール系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂などが挙げられ、非吸収性材料の物性に応じて使用することができる。樹脂の割合は、インク中に1重量%以上10重量%以下の範囲が好ましい。
【0027】
これら顔料、樹脂、有機溶剤以外に各種添加剤を使用してもよい。添加剤の使用目的は様々であるが、例えばピエゾ式インクジェットプリンタでの吐出を安定させるためや、良好な印刷品質を得るために使用してもよい。各種添加剤としては、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、加水分解防止剤などが挙げられる。
【0028】
ピエゾ式インクジェットプリンタに適したインク粘度は、25℃で5.0mPa・s以下が好ましく、4.5mPa・s以下がより好ましい。また、インクの表面張力は、25℃で32mN/m以下が好ましく、30mN/m以下がより好ましい。これらの物性になるように、顔料、樹脂、有機溶剤および添加剤などの混合割合を調整するものである。
【0029】
非吸収性材料としては、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどプラスチックや、金属(銅、アルミ、ステンレス)や、ガラスなどが挙げられ、形状は、板やフィルムなど特に限定されない。
【0030】
以下、実施例にて具体的に説明する。請求項1のインク組成物を説明しているのは、実施例1〜4および比較例1〜3であり、請求項2の画像形成方法を説明しているのは、実施例5〜8である。なお、インクは、顔料分散液を作製して、それらを樹脂や有機溶剤などと混合する方法で作製している。
【0031】
インクを作製するための白色分散液は、顔料としてアナターゼ型の酸化チタンを使用して作製を行った。分散液には分散剤(アビシア社製ソルスパース20000)を添加している。顔料を50重量%、有機溶剤を44重量%、分散剤を6重量%の割合で、サンドミルを用いて分散させることで作製し、白色分散液とした。有機溶剤としては、1−プロパノールを使用している。なお、1−プロパノールは、1気圧での沸点が97.2℃であるので、中沸点アルコール系溶剤に相当するものである。
【実施例1】
【0032】
白色分散液を25重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を6重量%、有機溶剤として混合溶剤(1−プロパノール41重量%とイソプロパノール23重量%と1−ヘキサノール5重量%)を69重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、実施例1の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。なお、1−プロパノールは中沸点アルコール系溶剤に相当するものであり、イソプロパノールは、1気圧での沸点が82.3℃であるので、低沸点アルコール系溶剤に相当するものであり、1−ヘキサノールは、1気圧での沸点が157.1℃であるので、高沸点アルコール系溶剤に相当するものである。このインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は80重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤(1−プロパノール)の割合は65重量%であり、低沸点アルコール系溶剤(イソプロパノール)の割合は29重量%であり、高沸点アルコール系溶剤(1−ヘキサノール)の割合は6重量%である。
【実施例2】
【0033】
白色分散液を25重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を6重量%、有機溶剤として混合溶剤(1−プロパノール33重量%とイソプロパノール36重量%)を69重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、実施例2の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。なお、1−プロパノールは中沸点アルコール系溶剤に相当するものであり、イソプロパノールは低沸点アルコール系溶剤に相当するものである。このインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は80重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤(1−プロパノール)の割合は55重量%であり、低沸点アルコール系溶剤(イソプロパノール)の割合は45重量%である。
【実施例3】
【0034】
白色分散液を25重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を6重量%、有機溶剤として混合溶剤(1−プロパノール64重量%と1−ヘキサノール5重量%)を69重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、実施例3の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。なお、1−プロパノールは中沸点アルコール系溶剤に相当するものであり、1−ヘキサノールは高沸点アルコール系溶剤に相当するものである。このインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は80重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤(1−プロパノール)の割合は94重量%であり、高沸点アルコール系溶剤(1−ヘキサノール)の割合は6重量%である。
【実施例4】
【0035】
白色分散液作製における有機溶剤を1−ブタノールに変えて、その他は実施例1と同じにして、実施例4の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。なお、1−ブタノールは中沸点アルコール系溶剤に相当するものであり、インク作製において、混合溶剤には中沸点アルコール系溶剤に相当する1−プロパノールを使用しているので、ここでは、中沸点アルコール系溶剤の複数を混合して用いているものである。
【0036】
(比較例1)
白色分散液作製における有機溶剤をイソプロパノールに変えて、その他は同じにして、白色分散液を作製した。そのイソプロパノールを使用した白色分散液を25重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を6重量%、有機溶剤として混合溶剤(イソプロパノール45重量%と1−ヘキサノール24重量%)を69重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、比較例1の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。このインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は80重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤の割合はなく、低沸点アルコール系溶剤(イソプロパノール)の割合は70重量%であり、高沸点アルコール系溶剤(1−ヘキサノール)の割合は30重量%である。この比較例1は、有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤と低沸点アルコール系溶剤と高沸点アルコール系溶剤の割合が実施例1と異なるものである。
【0037】
(比較例2)
1−プロパノールを使用した白色分散液を25重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を6重量%、有機溶剤として混合溶剤(1−プロパノール15重量%とイソプロパノール54重量%)を69重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、比較例2の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。このインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は80重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤(1−プロパノール)の割合は33重量%であり、低沸点アルコール系溶剤(イソプロパノール)の割合は67重量%である。この比較例2は、有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤と低沸点アルコール系溶剤の割合が実施例2と異なるものである。
【0038】
(比較例3)
1−プロパノールを使用した白色分散液を25重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を6重量%、有機溶剤として混合溶剤(1−プロパノール45重量%と1−ヘキサノール24重量%)を69重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、比較例3の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を得た。このインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は80重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤(1−プロパノール)の割合は70重量%であり、高沸点アルコール系溶剤(1−ヘキサノール)の割合は30重量%である。この比較例3は、有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤と高沸点アルコール系溶剤の割合が実施例3と異なるものである。
【0039】
このようにして得られた実施例および比較例の溶剤系インクジェットインク組成物におけるインク粘度は、25℃ですべて4.5mPa・s以下であり、また、インクの表面張力は、25℃ですべて30mN/m以下であり、ピエゾ式インクジェットプリンタに適した物性であった。これらのインクを用いて、プリンタ部品の浸食性(形状変化、重量変化)、印刷適性(滲み、ドット欠け、飛行曲がり)、印刷後の乾燥性、印刷の堅牢性の評価を行った。評価方法およびその評価結果(表1)を下記に表す。
【0040】
<浸食性>
プリンタ部品の浸食性の評価として、プリンタにおいてインクと接する部品を取り出し、各インクに1ヶ月間50℃で浸漬させて、その後の形状変化と重量変化を評価した。形状変化の評価は、観察によって行い、形状に変化がない場合は○、変化がある場合は×とした。重量変化の評価は、各部品の重量の変化率を測定して平均した変化率が5%未満の場合は○、5%以上の場合は×とした。
【0041】
<印刷適性>
印刷適性の評価として、インク受容層を設けていない非吸収性材料(透明アクリル板、透明ガラス板、アルミ板の3種)を用いて、文字とベタを含むテストパターンを印刷して、滲みとドット欠けと飛行曲がりを観察によって評価した。滲みの評価は、滲みがない場合は○、滲みがある場合は×とした。インクがプリンタからうまく吐出されなかったために起こるドット欠けの評価は、テストパターンにドット欠けがない場合は○、ドット欠けがある場合は×とした。吐出したインクが適切な箇所に着弾しない飛行曲がりの評価は、テストパターンに飛行曲がりがない場合は○、飛行曲がりがある場合は×とした。
【0042】
<隠蔽性>
隠蔽性の評価として、インク受容層を設けていない非吸収性材料である透明アクリル板を用いて、ベタを印刷して、目視観察によって評価した。印刷したベタ部分を通して透けて見ることができない場合は○、透けて見ることができる場合は×とした。
【0043】
<乾燥性>
印刷後の乾燥性の評価として、ゴムローラーによる圧着によるインク移りの有無で評価した。インク受容層を設けていない非吸収性材料(透明アクリル板、透明ガラス板、アルミ板の3種)を用いて、ベタ印刷した試験片上に、25℃環境にて印刷10分後、普通紙を重ね合わせ、その上から荷重1kgを載せたゴムローラー(ゴムロール幅12cm、ゴムロール直径2cm)を転がして圧着を行い、インク移りを観察した。乾燥性の評価は、試験片上のベタ印刷に変化がなく普通紙へのインク移りがないと考えられる場合は○、試験片上のベタ印刷に薄くなることなどの変化があり普通紙へのインク移りがあると考えられる場合は×とした。
【0044】
<堅牢性>
印刷の堅牢性の評価として、摩擦試験機にて評価した。摩擦試験機として、サウザランド形ラブテスター(安田精機製作所社製)を用いて、インク受容層を設けていない非吸収性材料(透明アクリル板、透明ガラス板、アルミ板の3種)を用いて、ベタ印刷した試験片上に、綿布で荷重9.39×103Pa与えて100往復の条件で摩擦試験を実施して、印刷の欠落を観察した。堅牢性の評価は、ベタ印刷において欠落がない場合は○、部分的にでも欠落がある場合は×とした。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜4では、プリンタ部品の浸食性、印刷適性、印刷後の乾燥性、印刷の隠蔽性、印刷の堅牢性の各評価において良好な結果が得られた。これにより、課題を解決するに至った水を含まない溶剤系インクジェットインクの白色を提供することができるようになったものである。
【0047】
比較例1では、中沸点アルコール系溶剤がなく、低沸点アルコール系溶剤と高沸点アルコール系溶剤の両方が多いものであり、その両方による不具合が出ている。比較例2では、中沸点アルコール系溶剤が少なく、低沸点アルコール系溶剤が多いものであり、低沸点アルコール系溶剤による不具合が出ている。比較例3では、高沸点アルコール系溶剤が多いものであり、高沸点アルコール系溶剤による不具合が出ている。
【実施例5】
【0048】
イエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せと白色インクとを用いて、フルカラー画像を形成した。白色インクは実施例1の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を用いた。イエロー、マゼンタ、シアンの各色インクは、それぞれの顔料分散液を作製して、それらを樹脂や有機溶剤などと混合することで作製した。
【0049】
それぞれの顔料分散液の作製において、分散剤(アビシア社製ソルスパース20000)を添加しており、顔料と有機溶剤と分散剤の割合はどの分散液でも同じである。顔料を10重量%、有機溶剤を88重量%、分散剤を2重量%の割合で、サンドミルを用いて分散させることで作製しており、顔料を変えることでそれぞれの顔料分散液とした。有機溶剤としては、1−プロパノールを使用している。
【0050】
顔料は汎用のものを使用することができる。ここでは、次のような顔料を使用して、各色の分散液を作成した。イエロー分散液は、顔料としてC.I.ピグメントイエロー138を使用して作製した。マゼンタ分散液は、顔料としてC.I.ピグメントレッド122を使用して作製した。シアン分散液は、顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を使用して作製した。
【0051】
イエロー、マゼンタ、シアンの各色インクは、それぞれの顔料分散液を樹脂や有機溶剤などと混合することで作製した。それぞれの顔料分散液を20重量%、樹脂としてスチレンアクリル樹脂(BASFジャパン社製ジョンクリル690)を4重量%、有機溶剤として混合溶剤(1−プロパノール36重量%とイソプロパノール20重量%と1−ヘキサノール20重量%)を76重量%の割合で、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合して、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、溶剤系インクジェットインク組成物のイエロー、マゼンタ、シアンの各色となり、これによりイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せを得た。これらのインク中において、有機溶剤(混合溶剤)の割合は94重量%であり、この有機溶剤(混合溶剤)中において、中沸点アルコール系溶剤(1−プロパノール)の割合は57重量%であり、低沸点アルコール系溶剤(イソプロパノール)の割合は21重量%であり、高沸点アルコール系溶剤(1−ヘキサノール)の割合は21重量%である。なお、四捨五入により、有機溶剤中のアルコール系溶剤の合計が100重量%になっていない。
【0052】
これらイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せによって非吸収性材料としての透明アクリル板にフルカラー画像を印刷した上に、実施例1の溶剤系インクジェットインク組成物の白色を重ねて印刷した。フルカラー画像は、財団法人日本規格協会のJIS−SCID(N5)「自転車」反転画像を用いた。白色の印刷は、材料全面へのベタ印刷である。透明アクリル板側から透明アクリル板を通して画像を目視で観察すると、滲みのない良好なフルカラー画像であった。このような印刷を特徴とするフルカラー画像形成方法である。
【実施例6】
【0053】
白色の印刷を、画像と同サイズのベタ印刷にした。それ以外は実施例5と同様に作製して、透明アクリル板側から透明アクリル板を通して画像を目視で観察すると、滲みのない良好なフルカラー画像であった。このような印刷を特徴とするフルカラー画像形成方法である。
【実施例7】
【0054】
実施例1の溶剤系インクジェットインク組成物の白色によって非吸収性材料としての透明アクリル板に印刷した上に、実施例5で作製したイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せによるフルカラー画像を重ねて印刷した。白色の印刷は、材料全面へのベタ印刷である。フルカラー画像は、財団法人日本規格協会のJIS−SCID(N5)「自転車」画像を用いた。透明アクリル板上の画像を直接目視で観察すると、滲みのない良好なフルカラー画像であった。このような印刷を特徴とするフルカラー画像形成方法である。
【実施例8】
【0055】
白色の印刷を、画像と同サイズのベタ印刷にした。それ以外は実施例7と同様に作製して、透明アクリル板上の画像を直接目視で観察すると、滲みのない良好なフルカラー画像であった。このような印刷を特徴とするフルカラー画像形成方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピエゾ式インクジェットプリンタにて使用される非吸収性材料用の溶剤系インクジェットインク組成物において、少なくとも、顔料、樹脂、有機溶剤からなり、インク中において、有機溶剤の割合が70重量%以上90重量%未満であり、有機溶剤が、アルコール系溶剤であり、1気圧での沸点が90℃以上140℃以下の中沸点アルコール系溶剤と、1気圧での沸点が90℃より小さい低沸点アルコール系溶剤および/または1気圧での沸点が140℃より大きい高沸点アルコール系溶剤とからなり、有機溶剤中において、前記中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%以上であり、前記低沸点アルコール系溶剤の割合が60重量%以下であり、前記高沸点アルコール系溶剤の割合が10重量%以下であり、顔料に酸化チタンを用いることによってインクの色は白となることを特徴とする溶剤系インクジェットインク組成物。
【請求項2】
ピエゾ式インクジェットプリンタにて使用される非吸収性材料用の溶剤系インクジェットインク組成物において、少なくとも、顔料、樹脂、有機溶剤からなり、インク中において、有機溶剤の割合が90重量%以上であり、有機溶剤が、アルコール系溶剤であり、前記中沸点アルコール系溶剤と、前記低沸点アルコール系溶剤および/または前記高沸点アルコール系溶剤とからなり、有機溶剤中において、前記中沸点アルコール系溶剤の割合が40重量%以上であり、前記低沸点アルコール系溶剤の割合が60重量%以下であり、前記高沸点アルコール系溶剤の割合が25重量%以下であり、顔料によってインクの色は少なくともイエロー、マゼンタ、シアンからなる3色の組合せとなり、
少なくとも該3色の組合せによって非吸収性材料にフルカラー画像を印刷した上に、請求項1に記載の白色インクを重ねて印刷することを、または、請求項1に記載の白色インクによって非吸収性材料に印刷した上に、少なくとも該3色の組合せによるフルカラー画像を重ねて印刷することを特徴とする溶剤系インクジェットインクを用いたフルカラー画像形成方法。

【公開番号】特開2010−100771(P2010−100771A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275198(P2008−275198)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000115119)ユニオンケミカー株式会社 (67)
【Fターム(参考)】