説明

溶接ワイヤ巻替え方法

【課題】入り側と出側の溶接ワイヤの張力を効率的に制御することが可能な溶接ワイヤ巻替え方法を提供することとを目的とする。
【解決手段】ボビン3から繰出した溶接ワイヤ5を、ダンサーローラ装置11の固定側ローラ12と移動側ローラ13とに掛け回した上で、前記ボビン3よりも小径のスプール7に巻取る溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置11における溶接ワイヤ5の入り側近傍と出側近傍とに、走行する溶接ワイヤ5を挟持する入り側ワイヤキャッチャ21と出側ワイヤキャッチャ22をそれぞれ設け、これらワイヤキャッチャ21,22の作動により、前記入り側と出側の溶接ワイヤ5の張力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンに巻回された溶接ワイヤを繰出して、前記ボビンよりも小径のスプールに巻取る溶接ワイヤ巻替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボビンに巻回された溶接ワイヤを繰出して、前記ボビンよりも小径のスプールなどに巻取る溶接ワイヤ巻替え装置においては、ボビンがセットされるワイヤ繰出し機と、前記ボビンから繰出された溶接ワイヤを巻取るスプールがセットされるスプール巻取り機との間に、ダンサーローラ装置が配設されている。このようなダンサーローラ装置は、溶接ワイヤのワイヤ繰出し機とスプール巻取り機との間の伸びに起因する長さ変動を吸収して、溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持する働きをするものである。従来のダンサーローラ装置としては、例えば特許文献1などに開示された構成が公知である。
【0003】
先ず、前記特許文献1に開示された、従来例1に係るダンサーローラ装置を、このダンサーローラ装置の側面図の図5を参照しながら説明する。このダンサーローラ装置51は、ローラタワー54の上部に設けられた固定側ローラ55と、この固定側ローラ55の下部に設けられた移動側ローラ56を備えている。この移動側ローラ56は、この移動側ローラ56自身の自重によってローラタワー54の下側に摺動落下できるように構成されている。そして、溶接ワイヤ52は固定側ローラ55と移動側ローラ56とに掛け回された後に、図における矢印方向に送られ、矯正ローラ58、キャストローラ59を通して、線材ドラム(図示省略)やスプール(図示省略)などに巻取られるように構成されている。
なお、図に示す符号53は線材引取り機であり、符号54aはスライド杆であり、また符号56aは前記スライド杆54aに摺動可能に外嵌されてなる中空状滑子である。
【0004】
次に、同じく前記特許文献1に開示された、従来例2に係るダンサーローラ装置を、その概念図の図6(a)と、その側面図の図6(b)とを参照しながら説明する。図に示す符号61は、ダンサーローラ装置であり、このダンサーローラ装置61は、移動側ローラを上記従来例1のような摺動方式から揺動方式に変更したものである。すなわち、ダンサーフレーム61aの図6(b)における右側に形成された側面示三角形状のローラ支持ブラケットに固定側ローラ65が支持されている。この固定側ローラ65の下側に位置する移動側ローラ66はダンサーフレーム61aの図における左側の角部付近に設けられたヒンジ74で枢支されたアーム70の一端側端に設けられている。そして、前記アーム70の他端側に後述する揺動緩衝機構67が設けられている。
【0005】
前記揺動緩衝機構67は、前記アーム70の他端側に設けられたバランスウェイト71と、前記ダンサーフレーム61aの適当部にボトム側が固定され、前記バランスウェイト71に抗してアーム70および移動側ローラ6を下方へ移動させるエアシリンダ72とから構成されている。前記バランスウェイト71のロッドの先端にワイヤ75の一端側が締結されており、このワイヤ75の他端側は前記ヒンジ74と同軸に回転するプーリ73に巻付けられている。そして、前記揺動緩衝機構67は、自重G方向に降下しようとする移動側ローラ66を、バランスウェイト71の重力で形成される第1回転モーメントWで抑制すると共に、この第1回転モーメントWに対抗する方向の第2回転モーメントVをエアシリンダ72による引張力で形成して、抑制された自重降下力を弾力的に補足し、移動側ローラ66の移動を滑らかにするように調整する働きをするものである。線材引取り機63で引取られる溶接ワイヤ62は固定側ローラ65と移動側ローラ66とに掛け回された後、図における矢印方向に送られ、矯正ローラ68、図示しないキャストローラを通して、線材ドラムやスプールなどに巻き取られるようになっている。
【0006】
この従来例2に係るダンサーローラ装置によれば、前記従来例1に係るダンサーローラ装置の移動側ローラにように、スライド杆などにより拘束を受けないので、自重によって移動側ローラ6は速やかに降下しようとする。しかしながら、揺動緩衝機構7により移動側ローラ6の急激な降下が防止されるため、溶接ワイヤに過大な張力が作用するようなことがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭58−060657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来例1,2に係るダンサーローラ装置によれば、このダンサーローラ装置前後の駆動源の速度同調が制御される。さらに、伸びなどに起因する溶接ワイヤの長さ変動が前記ダンサーローラ装置の移動側ローラの固定側ローラに対する接近、離反動作によって吸収され、その張力が所定範囲内に保持されるので極めて有用である。しかしながら、上記従来例1,2に係ダンサーローラ装置においても、溶接ワイヤの巻替え作業中に何らかの原因により、溶接ワイヤが波打現象を起こすことがある。波打現象を起こしている間の溶接ワイヤは張力が一定していないので、この間において溶接ワイヤの品質が低下するという解決すべき課題がある。勿論、溶接ワイヤ巻替え装置の運転を停止すれば、溶接ワイヤの波打現象を解消することができる。しかし、溶接ワイヤ巻替え装置の運転を継続しながら溶接ワイヤの波打現象を解消させることが生産性の低下防止にとって好ましい。
【0009】
また、巻替え作業中に何らかの原因により、溶接ワイヤに過大な張力が発生し、溶接ワイヤが切断する場合がある。溶接ワイヤが切断すると、張力が失われてしまうために、溶接ワイヤが線材引取り機3のローラ、固定側ローラ、移動側ローラ、矯正ローラなどから外れてしまう。その結果、溶接ワイヤの巻替え作業の再開に際して、溶接ワイヤを線材引取り機3のローラ、固定側ローラ、移動側ローラに掛回すと共に、矯正ローラの間に通さなければならない。そのため、溶接ワイヤの巻替え作業の再開のための溶接ワイヤのセット作業に多大な労力を要するのに加えて、長時間を要する(稼働率の低下による生産性の低下)という解決すべき課題がある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、巻替え作業中に発生する波打現象の解消により溶接ワイヤの張力の調整を可能ならしめ、また巻替え作業中において、たとえ溶接ワイヤが切断したとしても、溶接ワイヤのセット作業を小労力、かつ短時間で終了することを可能ならしめる溶接ワイヤ巻替え方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の溶接ワイヤ巻替え方法の要旨は、ボビンから繰出した溶接ワイヤを、ダンサーローラ装置の固定側ローラと移動側ローラとに掛け回した上で、前記溶接ワイヤの前記ダンサーローラ装置の入り側と出側の張力および前記ダンサーローラ装置前後の駆動源の速度同調を制御しながら、前記ボビンよりも小径のスプールに巻取る溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置における溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所に、走行する溶接ワイヤを挟持するワイヤキャッチャをそれぞれ設けたことである。
【0012】
本発明の請求項2に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、請求項1に記載の溶接ワイヤ巻替方法において、前記ワイヤキャッチャが前記溶接ワイヤを挟持するところにある。
【0013】
本発明の請求項3に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、請求項1または2のうちの何れか一つの項に記載の溶接ワイヤ巻替え方法において、前記溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサから出力される信号により、前記溶接ワイヤの繰出しと巻取りを停止させると共に、前記ワイヤキャッチャを作動させるところにある。
【0014】
本発明の請求項4に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、請求項3に記載の溶接ワイヤ巻替方法において、前記ワイヤ切断検知センサは、切断した前記溶接ワイヤとの接触に基づいて通電し、前記押圧体を作動させる押圧体作動手段を作動させる通電バーを備えてなるところにある。
【0015】
本発明の請求項5に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、請求項3に記載の溶接ワイヤ巻替え方法において、前記ワイヤ切断検知センサは、上端部にストッパを備え、下端側に前記溶接ワイヤに転接するローラを備えてなる摺動落下自在な摺動ロッドと、この摺動ロッドを摺動可能に支持し、前記ストッパ当接面を有するロッド支持部材と、前記溶接ワイヤの切断に基づいて落下する前記摺動ロッドの落下を検出し、前記押圧体を作動させる押圧体作動手段を作動させるリミットスイッチとを備えてなるところにある。
【0016】
本発明の請求項6に係る溶接ワイヤ巻替え方法が採用した手段は、請求項3に記載の溶接ワイヤ巻替え方法において、前記ワイヤ切断検知センサは、一端側と他端側との間が回動支持部により回動可能に支持され、一端側に前記溶接ワイヤに転接するローラを備えてなる回動ロッドと、前記溶接ワイヤの切断に基づいて回動する前記回動ロッドの他端側に接触し、前記押圧体を作動させる押圧体作動手段を作動させるリミットスイッチとを備えてなるところにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に係る溶接ワイヤ巻替え方法では、駆動源の作動により走行する溶接ワイヤに発生する波打現象を、ダンサーローラ装置の溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所に設けたワイヤキャッチャの作動による溶接ワイヤの摺動走行を許容する挟持により解消できるので、この溶接ワイヤの張力が一定に制御される。したがって、本発明の請求項1に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、波打現象に起因する溶接ワイヤの張力の低下を防止することができるから、溶接ワイヤ巻替え作業中においてスプールに巻取られる溶接ワイヤの品質が低下するようなことがない。勿論、溶接ワイヤの巻替え作業を停止させないので、生産性が低下するようなこともない。
【0018】
また、本発明の請求項1に係る溶接ワイヤ巻替え方法では、溶接ワイヤの巻替え終了時に溶接ワイヤ巻替え装置の稼動が停止されても、ワイヤキャッチャによる挟持により、ダンサーローラ装置の固定側ローラと移動側ローラとに掛回された溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との間の張力が適正に保持される。したがって、本発明の請求項1に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、新たな巻取ドラムやスプールによる溶接ワイヤの巻取り開始に際して溶接ワイヤの張力調整を行う必要がないので、短時間のうちに溶接ワイヤの巻き取りを開始することができるから、溶接ワイヤの巻替え作業能率の向上に対しても寄与することができる。
【0019】
本発明の請求項2に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、溶接ワイヤの波打現象は、ワイヤキャッチャの押圧体による挟持により解消され、張力が保持される。
【0020】
本発明の請求項3に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサから出力される信号により、溶接ワイヤの繰出しと巻取りが停止されると、ワイヤキャッチャにより、ダンサーローラ装置の溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所が挟持される。したがって、固定側ローラと移動側ローラに掛け回された溶接ワイヤに対してそれなりの張力が付与されるから、固定側ローラと移動側ローラに掛け回された溶接ワイヤが弛んだり、固定側ローラと移動側ローラから外れたりするようなことがない。
【0021】
本発明の請求項4に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、切断した溶接ワイヤとの接触に基づいて通電する通電バーによる押圧体作動手段の作動を介して作動するワイヤキャッチャの押圧体により、ダンサーローラ装置の溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所が挟持される。
【0022】
本発明の請求項5に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、切断した溶接ワイヤの切断による摺動ロッドの落下を検出するリミットスイッチによる押圧体作動手段の作動を介して作動するワイヤキャッチャの押圧体により、ダンサーローラ装置の溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所が挟持される。
【0023】
本発明の請求項6に係る溶接ワイヤ巻替え方法によれば、切断した溶接ワイヤの切断による回動ロッドの他端側に接触するリミットスイッチによる押圧体作動手段の作動を介して作動するワイヤキャッチャの押圧体により、ダンサーローラ装置の溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所が挟持される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置の模式的側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係り、ワイヤキャッチャの模式的断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係り、図3(a)は溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサの模式的側面構成説明図、図3(b)は溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサの模式的平面構成説明図である。
【図4】図4(a)は溶接ワイヤの切断を検知する他の形態に係るワイヤ切断検知センサの模式的構成説明図、図4(b)は溶接ワイヤの切断を検知するもう一つの他の形態に係るワイヤ切断検知センサの模式的構成説明図である。
【図5】従来例1に係るダンサーローラ装置の側面図である。
【図6】従来例2に係り、図6(a)はダンサーローラ装置の概念図、6(b)はダンサーローラ装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の溶接ワイヤ巻替え方法を実施する実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置を、添付図面を順次参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置の模式的側面図、図2はワイヤキャッチャの模式的断面図、図3(a)は溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサの模式的側面構成説明図、図3(b)は溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサの模式的平面構成説明図、図3(b)は図3(a)のA矢視図、図4(a)は溶接ワイヤの切断を検知する他の形態に係るワイヤ切断検知センサの模式的構成説明図、図4(b)は溶接ワイヤの切断を検知するもう一つの他の形態に係るワイヤ切断検知センサの模式的構成説明図である。
【0026】
図1において示す符号1は、ボビンに巻回されてなる溶接ワイヤ(フラックス入り、直径:1.2〜1.6mm)を、前記ボビンよりも小径のスプールなどに巻取る溶接ワイヤ巻替え装置である。この溶接ワイヤ巻替え装置1は、ボビン3がセットされるワイヤ繰出し機2と、前記ボビン3から繰出される溶接ワイヤ5を引き取るワイヤ引取り機4を備えている。そして、前記ワイヤ引取り機4と、溶接ワイヤ5を巻取る、着脱自在なスプール7がセットされるスプール巻取り機6との間に、後述するダンサーローラ装置11が配設されている。このダンサーローラ装置11は、溶接ワイヤ5のワイヤ引取り機4とスプール巻取り機6との間の長さ変動を吸収して、溶接ワイヤ5の張力を所定範囲内に保持する働きをするものであり、後述するように構成されている。なお、前記ワイヤ繰出し機2、前記ワイヤ引取り機4、前記スプール巻取り機6などの駆動源は、図示しない制御盤によって同調制御される。
【0027】
すなわち、前記ダンサーローラ装置11は、ダンサーフレーム11aの図1における右側に形成された側面示三角形状のローラ支持ブラケットに固定側ローラ12が支持されている。前記固定側ローラ12の下側に位置する移動側ローラ13は、ダンサーフレーム11aの図1における左側の角部付近に設けられたヒンジ19で枢支されたアーム15の一端側端に設けられている。そして、前記アーム15の他端側に後述する揺動緩衝機構14が設けられている。
【0028】
前記揺動緩衝機構14は、前記アーム15の他端側に設けられたバランスウェイト16と、前記ダンサーフレーム11aの適当部にボトム側が固定され、前記バランスウェイト16に抗してアーム15および移動側ローラ12を下方へ移動させるエアシリンダ17とから構成されている。前記バランスウェイト16のロッドの先端にワイヤ20の一端側が締結されており、このワイヤ20の他端側は前記ヒンジ19と同軸に回転するプーリ18に巻付けられている。
【0029】
そして、前記揺動緩衝機構14は、自重G方向に降下しようとする移動側ローラ13を、バランスウェイト16の重力で形成される第1回転モーメントWにより抑制すると共に、この第1回転モーメントWに対抗する方向の第2回転モーメントVをエアシリンダ17による引張力により形成して、抑制された自重降下力を弾力的に補足して、移動側ローラ13の移動を滑らかにするように調整する働きをするものである。ワイヤ引取り機4により引取られる溶接ワイヤ5は固定側ローラ12と移動側ローラ15とに掛回された後、図における矢印方向に送られ、図示しない矯正ローラ、キャストローラ8を通して、上記スプール巻取り機6にセットされたスプール7に巻取られて、巻替えられるように構成されている。
【0030】
この溶接ワイヤ巻替え装置1の前記ダンサーローラ装置11の構成に係る以上の説明から良く理解されるように、このダンサーローラ装置11の以上の構成は、上記従来例2に係るダンサーローラ装置1と全く同構成になるものである。本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置1のダンサーローラ装置11の場合は、前記ダンサーローラ装置11における溶接ワイヤ5の入り側近傍に入り側ワイヤキャッチャ21が、また溶接ワイヤ5の出側近傍に出側ワイヤキャッチャ22が設けられている。
【0031】
そして、走行する溶接ワイヤ5に張力を変動させる波打現象が発生した際には、これら入り側ワイヤキャッチャ21と出側ワイヤキャッチャ22との作動による溶接ワイヤ5の摺動走行を許容する挟持による波打現象の解消(波打現象の解消後には、溶接ワイヤ5に対する挟持力が解除される。)により、溶接ワイヤ巻替え作業中におけるダンサーローラ装置11の溶接ワイヤ5の入り側と、出側の間の張力を制御するように構成されている。
さらに、溶接ワイヤ5の巻替え作業終了時、溶接ワイヤ切断時における溶接ワイヤ巻替え装置1の運転停止時に際して、走行を停止した溶接ワイヤ5を、停止位置において挟持し得るように構成されている。
【0032】
次に、添付図面の図2を参照しながら、前記入り側ワイヤキャッチャ21と、出側ワイヤキャッチャ22との構成を説明する。但し、前記入り側ワイヤキャッチャ21と、前記出側ワイヤキャッチャ22の構成は全く同構成であるから、入り側ワイヤキャッチャ21を例として取上げて、その構成を説明する。すなわち、本実施の形態に係る入り側ワイヤキャッチャ21は、図2に示すように、プレート21aと、このプレート21aに対して所定の間隔を隔てた位置に対峙する、後述するケーシング21dとを備えている。前記プレート21aと前記ケーシング21dの図における上側の一端側が連結部材21cにより一体的に連結されている。
【0033】
前記プレート21aの前記ケーシング21dに相対する側に固定押圧体21bが固着され、前記ケーシング21dの密封蓋21iで閉蓋されてなるピストン室21eに、ロッド状の移動押圧体21gを有するピストン21fが収納されている。前記ピストン室21eには図示しない電磁弁(押圧体作動手段に相当する。)を介してピストン室21eが大気中に連通している。そして、溶接ワイヤ巻替え作業が正常に行われている場合には、前記移動押圧体21gはリターンスプリング(押圧体作動手段)21hにより前記固定押圧体21bから離反している。一方、走行する溶接ワイヤ5に波打現象が発生した場合、溶接ワイヤ巻替え作業が終了した場合、および溶接ワイヤ切断時における溶接ワイヤ巻替え装置1の稼動が停止した場合には、前記電磁弁の切換えによって図示しない圧縮空気供給源から前記ピストン室21eに所定圧力のエア圧が供給され、前記固定押圧体21bの方向に移動するように構成されている。
【0034】
前記ワイヤ繰出し機2にセットされたボビン3に巻回されている溶接ワイヤ5の巻取りが終了し、新たなボビン3をセットすると共に、新たなボビン3から引出した溶接ワイヤ5をワイヤ引取り機4、ダンサーローラ装置11を経て、スプール巻取り機6にセットしたスプール7まで導くという溶接ワイヤセット作業を行う際には、前記電磁弁が切換えられ、前記移動押圧体21gのリターンスプリング21hによる固定押圧体21bからの離反動作が行われる。前記移動押圧体21gの上記のような固定押圧体21bからの離反状態は、溶接ワイヤ5の巻取り作業に異常(波打現象、切断)が発生しない限り、巻取り作業継続中を通じて維持され続ける。なお、本発明の実施の形態では、入り側ワイヤキャッチャ21と、出側ワイヤキャッチャ22は、片側のみにピストン室21eが設けられているが、このピストン室21eは溶接ワイヤ5を挟む両側に設けられてなる構成であってもよい。また、これら入り側ワイヤキャッチャ21と、出側ワイヤキャッチャ22は、走行する溶接ワイヤ5を左右から挟持するように構成されているが、上下から挟持する構成であってもよい。さらに、ワイヤキャッチャは、走行する溶接ワイヤを挟持し得る構成であればよいので、上記構成に限定されるものではない。
【0035】
本発明の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置1の場合、何らかの原因による過大な張力の発生によって溶接ワイヤ5が切断した場合には、溶接ワイヤ5の切断を検知する後述するワイヤ切断検知センサ23から出力される信号により、溶接ワイヤ巻替え装置1の稼動が停止され、溶接ワイヤ5の繰出しと巻取りとが停止されるように構成されている。
勿論、溶接ワイヤ巻替え装置1の稼動が停止された場合にあっても、上記のとおり、前記電磁弁を介して入り側、出側ワイヤキャッチャ21,22のピストン室21eに所定の圧力のエア圧が供給されるように構成されている。
【0036】
前記ワイヤ切断検知センサ23は、図3に示すように、ワイヤ繰出し機2にセットされたボビン3から繰出される溶接ワイヤ5の上方位置において、前記溶接ワイヤ5の繰出し方向と直交する向きに横架されてなる通電バー23aを備えている。前記通電バー23aには、切断によりボビン3により振り回される溶接ワイヤ5が接触すると通電し、電流が溶接ワイヤ切断信号としてリード線23bを介して、溶接ワイヤ巻替え装置1の駆動源を同調制御する、図示しない制御盤に発信されるように構成されている。
【0037】
ところで、以上の実施の形態に係る溶接ワイヤ巻替え装置1のワイヤ切断検知センサは、上記のとおり、通電バー23aを備えてなる構成である。しかしながら、このような構成のワイヤ切断検知センサに限るものではなく、例えば、図4(a)、図4(b)に示すような構成のワイヤ切断検知センサであってもよい。
【0038】
すなわち、図4(a)に示すワイヤ切断検知センサ24は、上端部にストッパ24bを備え、下端側に前記溶接ワイヤに転接するローラ24cを備えてなる摺動落下自在な摺動ロッド24aを備えている。この摺動ロッド24aは、前記ストッパ24bの下面が当接するストッパ当接面24eを有するロッド支持部材24dにより上下摺動可能に支持されている。さらに、前記溶接ワイヤ5の切断に基づいて落下する前記摺動ロッド24aの落下により溶接ワイヤ5の切断を検出し、検出した切断信号を溶接ワイヤ巻替え装置1の運転を制御する図示しない制御盤に発信して、溶接ワイヤ巻替え装置1の運転を停止させるリミットスイッチ24fを備えている。
【0039】
また、図4(b)に示すワイヤ切断検知センサ25は、一端側と他端側との間が回動支持部25cにより回動可能に支持され、一端側に前記溶接ワイヤに転接するローラ25bを有する回動ロッド25aを備えている。また、前記溶接ワイヤ5の切断に基づいて回動する前記回動ロッド25aの他端側に接触して溶接ワイヤ5の切断を検出し、検出した切断信号を溶接ワイヤ巻替え装置1の運転を制御する図示しない制御盤に発信して、溶接ワイヤ巻替え装置1の運転を停止させるリミットスイッチ25dを備えている。なお、符号25eは、前記回動ロッド25aの回動最下位置を規制するストッパである。
【0040】
以下、本発明の溶接ワイヤ巻替え方法を実施する、上記構成になる溶接ワイヤ巻替え装置1の作用態様を説明する。すなわち、図示しない制御盤の操作により溶接ワイヤ巻替え装置1の運転が開始されると、ワイヤ繰出し機2によりボビン3から繰出された溶接ワイヤ5はワイヤ引取り機4により引取られる。そして、ワイヤ引取り機4から出た溶接ワイヤ5は入り側ワイヤキャッチャ21、ダンサーローラ装置11の固定側ローラ12、移動側ローラ13、固定側ローラ12、出側ワイヤキャッチャ22、キャストローラ8を経て、スプール巻取り機6にセットされたスプール7により巻取られて巻替えられる。
【0041】
前記溶接ワイヤ巻替え装置1の運転の継続により、スプール7による溶接ワイヤ5の巻取りが終了すると、溶接ワイヤ巻替え装置1の運転が停止されると共に、入り側ワイヤキャッチャ21と出側ワイヤキャッチャ22とにより、ダンサーローラ装置11の溶接ワイヤ5の入り側近傍と、出側近傍とが挟持される。そして、新たなスプール7がスプール巻取り機6にセットされ、セットされた新たなスプール7への溶接ワイヤ5の巻取り作業が開始されるということが順次繰返される。勿論、ボビン3に巻回されている溶接ワイヤの全てがスプール7に巻替えられると、前記溶接ワイヤ巻替え装置1の運転が停止される。
そして、溶接ワイヤが巻回されてなる新たなボビン3をワイヤ繰出し機2にセットすると共に、新たなボビン3から引出した溶接ワイヤ5をワイヤ引取り機4、ダンサーローラ装置11を経て、スプール巻取り機6にセットしたスプール7まで導くという溶接ワイヤセット作業を行った後に、溶接ワイヤ巻替え装置1の運転が開始される。
【0042】
前記溶接ワイヤ巻替え装置1の上記のような溶接ワイヤ5の巻替え作業中に、走行する溶接ワイヤ5に波打現象が発生した場合には、ダンサーローラ装置11の溶接ワイヤ5の入り側近傍に設けた入り側ワイヤキャッチャ21と出側近傍に設けた出側ワイヤキャッチャ22との作動による溶接ワイヤ5の摺動走行を許容する挟持により、溶接ワイヤ5の波打現象が解消(波打現象の解消後には、溶接ワイヤ5に対する挟持力が解除される。)され、その張力が制御される。したがって、波打現象に起因する溶接ワイヤ5の張力の低下が防止されるから、スプール7に巻取られた溶接ワイヤ5の製品品質が低下するようなことがない。なお、この場合、溶接ワイヤの巻替え作業を継続しながら波打現象を解消できるので、生産性が低下するようなこともない。
【0043】
また、溶接ワイヤの巻替え終了時に溶接ワイヤ巻替え装置1の運転が停止されても、入り側ワイヤキャッチャ21と出側ワイヤキャッチャ22とによる溶接ワイヤ5の挟持により、ダンサーローラ装置11の固定側ローラ12と移動側ローラ13とに掛回された溶接ワイヤ5の入り側近傍と出側近傍との間の張力が適正に保持される。したがって、新たなスプール7による溶接ワイヤ5の巻取り開始に際して、溶接ワイヤ5の張力調整を行う必要がないので、短時間のうちに溶接ワイヤ5の巻き取り作業を開始することができるから、溶接ワイヤ5の巻替え作業能率の向上に対して大いに寄与することができる。
【0044】
また、溶接ワイヤ5の切断を検知するワイヤ切断検知センサ23から出力される信号による溶接ワイヤ巻替え装置1の運転停止により、溶接ワイヤ5の繰出しと巻取りが停止されても、入り側ワイヤキャッチャ21と出側ワイヤキャッチャ22とにより、ダンサーローラ装置11の固定側ローラ12と移動側ローラ13とに掛回された溶接ワイヤ5の入り側近傍と出側近傍とが挟持される。
【0045】
溶接ワイヤ5の入り側近傍と出側近傍との挟持により、固定側ローラ12と移動側ローラ13に掛け回された溶接ワイヤ5に対してそれなりの張力が付与されるから、固定側ローラ12と移動側ローラ13に掛回された溶接ワイヤ5が弛んだり、固定側ローラ12と移動側ローラ13から外れたりするようなことがない。したがって、切断した溶接ワイヤ5の修復後の固定側ローラ12と移動側ローラ13とへの掛け回し作業が不要になり、短時間のうちに溶接ワイヤ5の巻き取りを開始することができるから、溶接ワイヤ5の巻替え作業能率の向上に対して大いに寄与することができる。なお、溶接ワイヤ巻替え作業終了時、溶接ワイヤ切断時における溶接ワイヤ巻替え装置1の稼動停止時における入り側・出側ワイヤキャッチャ21,22による溶接ワイヤ5の挟持力は、走行する溶接ワイヤ5の波打現象を解消させる場合における摺動走行を許容する挟持力以上であればよい。
【0046】
ところで、以上の実施の形態に係る本発明の溶接ワイヤ巻替え方法は、上記従来例2に係る構成のダンサーローラ装置に対して適用した場合を例として説明した。ただ、本発明は、この構成に限らず、例えば上記従来例1に係る構成のダンサーローラ装置に対しても適用することができるから、上記実施の形態に係る構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内における設計変更などは自由自在である。また、以上の説明では、本発明を、フラックス入り溶接ワイヤを巻替える態様を説明したが、ソリッド溶接ワイヤなど他の溶接ワイヤを巻取る態様に対しても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、ボビンに巻回された溶接ワイヤを前記ボビンよりも小径のスプールに効率よく巻取ることができる。したがって、コイル状のフープ(鋼帯)を巻き戻してU字状の鋼帯に成型する工程、前記フープの成型途中でフラックスを充填する工程、前記フラックスを充填した管状成型ワイヤをさらに伸線して巻き取る工程を同一のラインにて連続して行って製造されたフラックス入り溶接ワイヤなど、高能率な製造ラインによって製造された溶接ワイヤの巻替え装置や方法に好適である。
【符号の説明】
【0048】
1…溶接ワイヤ巻替え装置
2…ワイヤ繰出し機
3…ボビン
4…ワイヤ引取り機
5…溶接ワイヤ
6…スプール巻取り機
7…スプール
8…キャストローラ
11…ダンサーローラ装置,11a…ダンサーフレーム,12…固定側ローラ,13…移動側ローラ,14…揺動緩衝機構,15…アーム,16…バランスウエイト,17…エアシリンダ,18…プーリ,19…ヒンジ,20…ワイヤ
21…入り側ワイヤキャッチャ,21a…プレート,21b…固定押圧体,21c…連結部材,21d…ケーシング,21e…ピストン室,21f…ピストン,21g…移動押圧体,21h…リターンスプリング,21i…密封蓋
22…出側ワイヤキャッチャ
23…ワイヤ切断検知センサ,23a…通電バー,23b…リード線
24…ワイヤ切断検知センサ,24a…摺動ロッド,24b…ストッパ,24c…ローラ,24d…ロッド支持部材,24e…ストッパ当接面,24f…リミットスイッチ
25…ワイヤ切断検知センサ,25a…回動ロッド,25b…ローラ,25c…回動支持部,25d…リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンから繰出した溶接ワイヤを、ダンサーローラ装置の固定側ローラと移動側ローラとに掛け回した上で、前記溶接ワイヤの前記ダンサーローラ装置の入り側と出側の張力および前記ダンサーローラ装置前後の駆動源の速度同調を制御しながら、前記ボビンよりも小径のスプールに巻取る溶接ワイヤ巻替え方法であって、前記ダンサーローラ装置における溶接ワイヤの入り側近傍と出側近傍との両方の個所に、走行する溶接ワイヤを挟持するワイヤキャッチャをそれぞれ設けたことを特徴とする溶接ワイヤ巻替え方法。
【請求項2】
前記ワイヤキャッチャが前記溶接ワイヤを挟持する押圧体を備えてなる請求項1に記載の溶接ワイヤ巻替方法。
【請求項3】
前記溶接ワイヤの切断を検知するワイヤ切断検知センサから出力される信号により、前記溶接ワイヤの繰出しと巻取りを停止させると共に、前記ワイヤキャッチャを作動させる請求項1または2のうちの何れか一つの項に記載の溶接ワイヤ巻替え方法。
【請求項4】
前記ワイヤ切断検知センサは、切断した前記溶接ワイヤとの接触に基づいて通電し、前記押圧体を作動させる押圧体作動手段を作動させる通電バーを備えてなる請求項3に記載の溶接ワイヤ巻替え方法。
【請求項5】
前記ワイヤ切断検知センサは、上端部にストッパを備え、下端側に前記溶接ワイヤに転接するローラを備えてなる摺動落下自在な摺動ロッドと、この摺動ロッドを摺動可能に支持し、前記ストッパ当接面を有するロッド支持部材と、前記溶接ワイヤの切断に基づいて落下する前記摺動ロッドの落下を検出し、前記押圧体を作動させる押圧体作動手段を作動させるリミットスイッチとを備えてなる請求項3に記載の溶接ワイヤ巻替え方法。
【請求項6】
前記ワイヤ切断検知センサは、一端側と他端側との間が回動支持部により回動可能に支持され、一端側に前記溶接ワイヤに転接するローラを備えてなる回動ロッドと、前記溶接ワイヤの切断に基づいて回動する前記回動ロッドの他端側に接触し、前記押圧体を作動させる押圧体作動手段を作動させるリミットスイッチとを備えてなる請求項3に記載の溶接ワイヤ巻替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−222088(P2010−222088A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70036(P2009−70036)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】