説明

溶接工作物の異常判別評価方法およびその異常判別評価装置

【課題】溶接加工における異常の検出精度の向上および異常の識別を可能とする溶接工作物の異常判別評価方法およびその異常判別評価装置を実現する。
【解決手段】溶接加工における溶接工作物の異常判別評価装置であって、溶接工作物1を保持するとともに、その溶接工作物1を回転させて溶接箇所の位置決めを行う治具装置10と、この治具装置10の弾性波を検出するAEセンサ21とを備え、治具装置10は、チャック部の密着圧が所定圧以上となる密着接触する保持面を有するチャック機構によって溶接工作物1を保持するように構成されている。これにより、異常の検出精度の向上および異常の識別ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接加工における溶接工作物の異常判別評価方法およびその異常判別評価装置に関するものであり、特に、溶接加工によって溶接工作物に発せられる弾性波を用いて溶接工作物の異常を判別、評価に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、局部的な変形や破壊が生ずるときに発生する弾性波を検出するAEセンサを用いて塑性加工における塑性工作物の異常の有無を判別評価する異常判別評価装置が知られている。
【0003】
この装置では、AEセンサを塑性加工装置(例えば、プレス型)に設けて、塑性加工における加工工程毎にAEセンサで検出された弾性波を良品加工時の弾性波と評価させることで、塑性工作物の異常の有無および異常の判別を評価している。
【特許文献1】特開2004−358487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の装置では、AEセンサを塑性加工装置(例えば、プレス型)に設けることで塑性工作物の異常の判別を容易に評価することができる。しかしながら、金属を加熱して接合する溶接加工においては、接合部の加熱、冷却が繰り返されると金属が伸縮するときに弾性波を発生するため溶接工作物に直接AEセンサを設けることが望ましいが、これを行うと溶接加工毎にAEセンサの着脱が伴うことで工数が増大するため生産性の低下の問題がある。
【0005】
また、溶接加工によって溶接工作物に発せられる弾性波はレベル値がとても小さい問題がある。さらに、溶接加工による溶接工作物の異常の有無を評価するには、概して接合部を破壊して観察する破壊試験が必要となる問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記点を鑑みたものであり、溶接加工における異常の検出精度の向上および異常の識別を可能とする溶接工作物の異常判別評価方法およびその異常判別評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1ないし請求項7に記載の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、溶接加工における溶接工作物の異常判別評価装置であって、
溶接工作物(1)を保持するとともに、その溶接工作物(1)を回転させて溶接箇所の位置決めを行う治具装置(10)と、この治具装置(10)の弾性波を検出するAEセンサ(21)とを備え、
治具装置(10)は、互いに密着接触する保持面によって溶接工作物(1)を保持することを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、溶接加工により溶接工作物(1)で発生するレベル値の小さい弾性波であっても減衰させることなく密着接触する保持面を介して治具装置(10)に伝達させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、治具装置(10)は、チャック部の密着圧が所定圧以上となる密着接触する保持面を有するチャック機構によって溶接工作物(1)を保持するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、より具体的には、回転物となる溶接工作物(1)をチャック機構によって保持することにより、溶接工作物(1)で発生する弾性波を治具装置(10)に伝達させることができる。また、AEセンサ(21)で検出された弾性波に基づいて溶接工作物(1)の異常の検出精度の向上が図れる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、AEセンサ(21)は、弾性波を検出する圧電素子(21a)とこの圧電素子(21a)により検出された弾性波を増幅する増幅器(21b)とから一体に構成されていることを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、AEセンサ(21)が設けられる治具装置(10)は、溶接工作物(1)と一緒に回転する回転物であるためAEセンサ(21)で検出された弾性波を増幅させることで出力信号として外部に容易に伝送することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、治具装置(10)には、AEセンサ(21)で検出された弾性波の出力信号を外部に伝送するスリップリングおよびブラシ機構からなる伝送装置(22、23)が設けられ、
この伝送装置(22、23)は、AEセンサ(21)からの出力信号を、AEセンサ(21)にノイズを与えることなく外部に伝送するように構成されていることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、回転するスリップリングには、例えばブラシを介して外部に出力することによりAEセンサ(21)にノイズを与えることがない。
【0015】
請求項5に記載の発明では、AEセンサ(21)で検出された弾性波に基づいてレーザ溶接加工における異常の有無を判別して評価する異常判別制御手段(20)が設けられ、
この異常判別制御手段(20)は、レーザ溶接加工における溶け込み深さ、溶接ビードの長さ、溶接飛びのいずれかに識別して異常の有無を評価することを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、レーザ溶接では、溶け込み深さが溶接不良に起因するが、AEセンサ(21)で検出された弾性波を良品加工時の弾性波と比較させることでこの溶接不良の有無が判別評価することができる。
【0017】
また、溶接ビードの長さは所定の長さ未満であれば溶接不良に起因するが、AEセンサ(21)で検出された弾性波の発生時間を監視することで溶接ビードの長さを判断することができる。
【0018】
さらに、溶接飛びは溶接すべき箇所を溶接せずに次の溶接すべき箇所に飛んでしまう溶接不良であって、AEセンサ(21)で検出された弾性波が出力されているか否かを監視することで溶接飛びの有無が容易に判断することができる。従って、レーザ溶接加工における溶接不良を容易に識別することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明では、レーザ溶接加工における溶接工作物の異常判別評価方法であって、チャック部の密着圧が所定圧以上となる密着接触する保持面を有するチャック機構によって溶接工作物(1)を保持するとともに、その溶接工作物(1)を回転させて溶接箇所の位置決めを行う治具装置(10)と、この治具装置(10)の弾性波を検出するAEセンサ(21)と、治具装置(10)に設けられ、AEセンサ(21)で検出された弾性波の出力信号を外部に伝送するスリップリングからなる伝送装置(22)とを備え、
AEセンサ(21)により検出された弾性波に基づいて、少なくとも溶け込み深さ、溶接ビードの長さ、溶接飛びのいずれかに識別して評価することを特徴としている。
【0020】
この発明によれば、上記請求項5で述べたように、AEセンサ(21)で検出された弾性波に基づいて、溶け込み深さ、溶接ビードの長さ、溶接飛びのいずれかに識別して評価することにより、レーザ溶接加工における溶接不良を容易に識別することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明では、AEセンサ(21)は、弾性波を検出する圧電素子(21a)とこの圧電素子(21a)により検出された弾性波を増幅する増幅器(21b)とから構成されていることを特徴としている。
【0022】
この発明によれば、AEセンサ(21)が設けられる治具装置(10)は、溶接工作物(1)と一緒に回転する回転物であるためAEセンサ(21)で検出された弾性波を増幅させることで出力信号として外部に容易に伝送することができる。
【0023】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態における溶接加工における溶接工作物の異常判別評価装置を図1ないし図7に基づいて説明する。図1は本発明の異常判別評価装置をレーザ溶接加工に適用したときの全体構成を示す模式図で、図2は図1に示すA矢視図である。
【0025】
図3はAEセンサ21の全体構成を示す模式図で、図4は溶接工作物1と治具装置10との保持形態を示す模式図である。また、図5はレーザ溶接における溶接工作物1の溶接手順を示す説明図である。図6は異常判別評価制御手段である制御装置20の制御処理を示すフローチャートである。図7は溶接角度0°における溶接箇所ごとの弾性波レベルの特性を示す特性図である。
【0026】
本実施形態の異常判別評価装置は、図1に示すように、溶接工作物1を保持する治具装置10、弾性波を検出するAEセンサ21、このAEセンサ21で検出された弾性波に基づいて溶接加工の異常判別を制御する制御装置20、およびAEセンサ21で検出された弾性波の検知信号を制御装置20に伝送する伝送装置22、23とから構成されている。
【0027】
ここで、図中に示す符号2はレーザ溶接装置のレーザ照射部であって、溶接工作物1に向けてレーザ光を照射する部材である。また、符号3はレーザ溶接装置を制御するレーザ溶接制御装置であり、符号4はレーザ溶接装置を操作するための操作盤であり、図示しないが運転/停止スイッチおよび異常内容を報知する表示灯などの報知手段が設けられている。
【0028】
また、操作盤4は、レーザ溶接制御装置3に操作信号を出力するとともに、レーザ溶接制御装置3からの表示信号を入力するように電気的に接続されている。さらに、レーザ溶接制御装置3は、レーザ溶接装置の作動状態を示す操作信号を後述する制御装置20に出力するとともに、制御装置20からの異常内容を報知する表示信号を入力するように電気的に接続されている。
【0029】
ところで、溶接工作物1は、図4および図5に示すように、略円形状からなるロータ1aと略円形状からなるプーリー1bとから形成されており、レーザ照射部2をプーリー1bの外方からレーザ光を照射させることでロータ1aの外周にプーリー1bの内周がレーザ溶接により接合される。
【0030】
なお、本実施形態では、ロータ1aおよびプーリー1bの軸心に対して垂直方向となる溶接角度が0°になるようにレーザ照射部2の入射角を固定してレーザ光を照射している。そして、その溶接箇所は、図5に示すように、溶接工作物1の円周方向に複数箇所(例えば、a〜fまでの6箇所)に分けて設けるとともに、図中に示す溶接箇所aから溶接箇所fまでを順に溶接するように溶接工作物1を図に示す回転方向に回転させて溶接する溶接順序が設定されている。
【0031】
次に、その溶接順序について説明する。まず、溶接工作物1を治具装置10に保持させて、レーザ照射部2に対向する部位(図中に示す上方)に溶接箇所aを配置させて溶接箇所aの位置決めを行う。そして、その溶接箇所aを所定の溶接リード長さ(例えば、20mm程度)分だけ溶接工作物1を回転させながらレーザ溶接を行う。
【0032】
そして、溶接箇所aの下方にある溶接箇所bを上方に配置するように溶接工作物1を図に示す回転方向に180度回転させる。これにより、上方に溶接箇所bが位置決めされる。そして、溶接箇所bを所定の溶接リード長さ分だけレーザ溶接を行う。そして、溶接箇所bに隣接する溶接箇所cを上方に配置するように溶接工作物1を60度回転させる。そして、その溶接箇所cを所定の溶接リード長さ分だけレーザ溶接を行う。
【0033】
そして、溶接箇所cに隣接する溶接箇所dを上方に配置するように溶接工作物1を60度回転させる。そして、その溶接箇所dを所定の溶接リード長さ分だけレーザ溶接を行う。そして、溶接箇所eを上方に配置するように溶接工作物1を120度回転させる。そして、その溶接箇所eを所定の溶接リード長さ分だけレーザ溶接を行う。
【0034】
そして、溶接箇所eに隣接する溶接箇所fを上方に配置するように溶接工作物1を60度回転させ。そして、その溶接箇所fを所定の溶接リード長さ分だけレーザ溶接を行う。これにより、a〜fまでの6箇所の溶接箇所が順番にレーザ溶接が行うことができる。
【0035】
ところで、治具装置10は、溶接工作物1を保持するとともに、上述した溶接順序に基づいて溶接工作物1を一方向に回転させて溶接箇所a〜fまでの位置決めを行うものであったが、これに限らず、本実施形態の治具装置10には、弾性波を検出するAEセンサ21が設けられているとともに、このAEセンサ21で検出された弾性波を後述する制御装置20に伝送する伝送装置22、23が設けられている。
【0036】
このAEセンサ21は、固体材料にストレスが作用して変形するときに発生する弾性波を検出する圧電センサである。本発明では、溶接工作物1にレーザ溶接を行うことで、溶接箇所a〜fがレーザ光により加熱、冷却を繰り返すことで金属材料が伸縮するときに発生する弾性波を検出する圧電センサである。
【0037】
本発明では、AEセンサ21を直接溶接工作物1に配設することなく治具装置10内に配設して溶接工作物1に発生する弾性波を検出するようにしている。具体的には、溶接工作物1に発生する弾性波を治具装置10に伝達できるように溶接工作物1を保持する構成としている。
【0038】
より具体的には、図4に示すように、ロータ1aに形成された軸受部1cをチャック機構で保持するように治具装置10の軸部11を形成している。そして、その軸部11の先端側にテーパー状のチャック部12を形成し、そのチャック部12が軸受部1cに嵌め合うとともに、チャック部12と軸受部1cとが互いに密着接触する保持面を形成するように所定値以上の密着力を図中に示す矢印方向に向けて作用させて溶接工作物1を保持している。
【0039】
これにより、治具装置10は、軸受部1cとチャック部12との間に隙間を形成することなく密着接触する保持面を形成するチャック機構により溶接工作物1を保持することができる。
【0040】
ここで、密着接触する保持面を形成する密着力の所定値は、発明者らの実験により求めたものであって、本実施形態のような形状の溶接工作物1では、密着力が1kgf/cm程度以上であれば、溶接工作物1に発生した弾性波が減衰することなく治具装置10に伝達することができる。これにより、AEセンサ21は治具装置10内に設けるようにしている。
【0041】
ところで、本実施形態のAEセンサ21は、図3に示すように、弾性波を検出する圧電素子21aとこの圧電素子21aで検出された弾性波のレベル値を増幅する増幅器21bと、本体ケース21cとから構成されており、圧電素子21aの一端面が本体ケース21cの下面に密着接合されている。
【0042】
そして、圧電素子21aの上方に増幅器21bを配置して、圧電素子21aと増幅器21bとが電気的に接続されている。また、増幅器21bには、端子21dから電源を供給するとともに、増幅された弾性波を出力するように端子21dに電気的に接続されている。なお、端子21dは後述するスリップリング22に電気的に接続されている。
【0043】
因みに、本実施形態のAEセンサ21は、図1および図2に示すように、軸部11の軸心に対して圧電素子21a面が平行となるように治具装置10内に設けられている。より具体的には、溶接箇所aに対向する溶接箇所bに相当する位置にAEセンサ21を配設している。なお、弾性波をアコースティック、エミツション(acoustic emission)と称する。
【0044】
次に、伝送装置22、23は、図1および図2に示すように、スリップリング22とブラシ機構23とから構成されている。スリップリング22は、AEセンサ21で検出された弾性波の検知信号を外部に伝送する集電部材であり、導電性材料からなり環状に形成された接続端子である。本実施形態では、治具装置10の一端側に凹状に2列形成している。
【0045】
そして、この2列のスリップリング22に、ブラシ機構23が電気的に接続するように設けられている。ブラシ機構23は、それぞれのスリップリング22と電気的に接続するブラシ23aを有する接続部材であって、スリップリング22と制御装置20とを電気的に接続している。
【0046】
つまり、AEセンサ21で検出された弾性波の検知信号がスリップリング22とブラシ機構23を介して制御装置20を電気的に接続している。なお、スリップリング22は治具装置10に一体に形成されていることで一方向に回転するが、スリップリング22に電気的に接触するブラシ23aは、例えば、接触部の傾斜角を小さく形成することで、スリップリング22が回転するときに、治具装置10内にノイズを発生することがない。
【0047】
ここで、2列のスリップリング22は、それぞれ、および治具装置10に電気的に絶縁するように治具装置10に一体に構成されている。そして、2列のスリップリング22のうち、一方に増幅器21bに供給する電源および増幅器21bで増幅された弾性波の検知信号が通電され、他方に共通アースが通電されている。
【0048】
そして、ブラシ機構23の上流端が制御装置20に電気的に接続されている。異常判別評価制御手段である制御装置20は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵のROM(図示せず)には、溶接工作物1の異常の有無を識別して評価するための異常判別制御プログラムが設けられている。
【0049】
つまり、AEセンサ21により検知された弾性波に基づいて、溶接加工の異常の有無を識別して評価するとともに、異常があれば、異常内容を識別するとともに、その異常内容を報知してレーザ溶接装置を停止させる制御プログラムを備えている。
【0050】
従って、制御装置20は、AEセンサ20からの弾性波の検知信号が伝送装置22、23を介して入力されるとともに、操作盤4からの操作信号がレーザ溶接制御装置3を介して入力される。そして、制御装置20から操作盤4への報知信号とレーザ溶接装置を停止させる停止信号とをレーザ溶接制御装置3に出力するように構成されている。
【0051】
また、制御装置20には、伝送装置22、23を介して入力された弾性波を処理するためのフィルタ24、検波回路25、演算回路26、比較回路27、AND回路28が設けられている。さらに、制御装置20、および増幅器21bに電源を供給するための電源29が設けられて制御装置20に電源が供給するように構成されている。
【0052】
フィルタ24は、HPF(ハイパスフィルター)およびLPF(ローパスフィルター)とからなり、伝送装置22、23を介して入力された弾性波の高周波領域および低周波領域のノイズを除去するフィルタである。検波回路25は、フィルタ24でノイズを除去された弾性波を検波してデータ変換を行う回路であり、具体的には、弾性波の実効値を波形状に変換するように検波している。
【0053】
そして、演算回路26は、検波された波形に基づいて振幅およびエネルギーを演算する。つまり、検波された波形に基づいて積分して弾性波の積分値を算出する。そして、比較回路27は、予め設定された判定値に対して演算回路26で算出された弾性波の積分値とを比較する回路である。
【0054】
そして、AND回路28は、比較回路27で判定値と比較して判定値を超えたときに異常信号として報知信号を出力する回路である。なお、本実施形態では、レーザ溶接の異常の識別として、溶接箇所a〜fにおける少なくとも溶け込み深さ、溶接リード長さ、および溶接飛びを識別するように構成している。
【0055】
溶け込み深さは、所定の深さ未満がレーザ溶接における溶接箇所a〜fの溶接不良に値する。従来はこのために溶接箇所a〜fを破断して、その破断面を観察することで、溶け込み深さが所定値以上か否かにより溶接不良を判定していた。
【0056】
そこで、本発明では、レーザ溶接するときに、AEセンサ21で検出した弾性波を、良品溶接したときの弾性波の判定値と比較させることにより溶接不良の有無を判別評価するようにしている。
【0057】
溶接リード長さは、所定の長さ未満であれば溶接不良になる。そこで、本発明では、レーザ溶接する際に、AEセンサ21で検出された弾性波の発生時間を監視することにより、この発生時間を、良品溶接したときの発生時間の判定値と比較させることにより溶接不良の有無を判別評価するようにしている。
【0058】
さらに、溶接飛びは、溶接すべき箇所を溶接せずに次の溶接すべき箇所に飛んでしまう溶接不良である。そこで、本発明では、レーザ溶接する際に、AEセンサ21で検出された弾性波が出力されているか否かを監視することで溶接飛びの溶接不良の有無を判別評価するようにしている。
【0059】
ここで、以上の構成によるレーザ溶接における異常判別評価装置の作動を図6に示す異常判別制御プログラムのフローチャートに基づいて説明する。まず、溶接工作物1を治具装置10に保持するとともに、その溶接工作物1を回転させて溶接箇所aの位置決めを行う。
【0060】
そして、操作盤4に設けられた図示しない運転スイッチをON操作すると、操作信号がレーザ溶接制御装置3を介して制御装置20に入力される。これにより、レーザ溶接装置が作動してレーザ照射部2より溶接箇所aに向けてレーザ光が照射することで溶接箇所aのレーザ溶接が開始される。なお、このときに、治具装置10が溶接リード長さを形成するように所定の速度に応じて回転するようになっている。
【0061】
そして、溶接箇所aの溶接が完了したときは、予め設定された溶接順序となるように、治具装置10およびレーザ溶接装置が制御されて、自動的に溶接箇所aから溶接箇所fの順に溶接するようになっている。
【0062】
一方、制御装置20では、図6に示すように、ステップ210にて、起動信号が有りか否かを判定する。ここで、起動信号が有れば、制御処理のメインルーチンがスタートするとともに、データ処理用メモリー(RAM)の記憶内容などの初期化を行う。そして、ステップ220にて、AEセンサ21により検出された弾性波を読み込んでデータ変換を実行する。
【0063】
つまり、溶接箇所a〜fがレーザ溶接されることで、溶接工作部1内に弾性波が発生して治具装置10内に伝達されている。このときに、圧電素子21aにより弾性波が検出される。次に、圧電素子21aで検出された弾性波は、増幅器21bで増幅された状態で、スリップリング22、ブラシ機構23を介して制御装置20に入力される。
【0064】
そして、制御装置20では、増幅された弾性波を読み込んで、フィルタ24によりノイズを除去して検波回路25にて検波によりデータ変換する。そして、ステップ230にて、データ変換された弾性波を演算回路25により算出する。ところで、本実施形態では、データ変換された弾性波を溶接加工における3つの異常を判別して評価するように算出すようにしている。
【0065】
具体的には、溶接箇所a〜fに応じてそれぞれデータ変換された弾性波に基づいて演算回路25により弾性波を積分値で算出するとともに、弾性波の発生時間を算出する。そして、ステップ240にて、算出した積分値が第1所定値以上か否かを判定する。ここで、第1所定値とは、良品溶接時における弾性波の判定値であって、この良品判定値は、溶接箇所a〜fに応じて異なる特性を示している。
【0066】
因みに、図7は、レーザ溶接における溶接角度が0°であるとともに、レーザ溶接の出力が4.8kWの溶接条件における良品溶接時における溶接箇所a〜fごとのAEセンサにより検出された弾性波レベルである。
【0067】
本実施形態では、この良品溶接時における弾性波レベルに基づいて、データ変換させた弾性波を積分した積分値を判定値として算出している。そして、溶接箇所a〜fごとの判定値を第1所定値として予め設定して図示しないメモリーに記憶させている。
【0068】
そして、ステップ240にて、溶接箇所a〜fに応じてそれぞれが第1所定値以上であればステップ250に移行する。溶接箇所a〜fのうち、一つでも第1所定値未満であれば、ステップ245にて、溶け込み不良を表示する報知信号を出力する。
【0069】
そして、ステップ250にて、溶接箇所a〜fごとに弾性波が出力されているか否かを判定する。ここで、溶接箇所a〜fのうち、全ての溶接箇所a〜fで弾性波が出力されておれば、ステップ270に移行し、溶接箇所a〜fのうち、一つでも弾性波が出力されていなければ、ステップ265にて、溶接飛び不良を表示する報知信号を出力する。
【0070】
そして、ステップ270にて、レーザ溶接装置を停止させるか否かを判定する。ここでは、以上の3つの判定手段240、250、260において、一つでも報知信号を出力するように制御したときにレーザ溶接装置を停止させる判定を行うものであって、ここで、報知信号が出力されていなければ、レーザ溶接装置を停止させないと判定してステップ220に戻る。
【0071】
ここで、一つでも報知信号を出力しておれば、ステップ280にて、レーザ溶接装置を停止させる。なお、ステップ245、255、265にて溶接不良の報知信号を出力することにより、操作盤4に設けられたそれぞれの溶接不良を表示する表示灯が点灯される。
【0072】
以上の第1実施形態による異常判別評価装置によれば、溶接工作物1を保持するとともに、その溶接工作物1を回転させて溶接箇所a〜fの位置決めを行う治具装置10は、互いに密着接触する保持面によって溶接工作物1を保持するように構成している。
【0073】
これにより、レーザ溶接により溶接工作物1で発生するレベル値の小さい弾性波であっても減衰させることなく密着接触する保持面を介して治具装置10に伝達させることができる。
【0074】
より具体的には、溶接工作物1と治具装置10とを、チャック部の密着圧が所定圧以上となる密着接触する保持面を有するチャック機構によって溶接工作物1を保持するように構成されている。
【0075】
これによれば、回転物となる溶接工作物1をチャック機構によって保持することにより、溶接工作物1で発生する弾性波を治具装置10に伝達させることができる。また、AEセンサ21で検出された弾性波に基づいて溶接工作物1の異常の検出精度の向上が図れる。
【0076】
また、AEセンサ21は、弾性波を検出する圧電素子21aとこの圧電素子21aにより検出された弾性波を増幅する増幅器21bとから一体に構成されていることにより、AEセンサ21が設けられる治具装置10は、溶接工作物1と一緒に回転する回転物であるためAEセンサ21で検出された弾性波を増幅させることで出力信号として外部に容易に伝送することができる。
【0077】
また、治具装置10には、AEセンサ21で検出された弾性波の出力信号を外部に伝送するスリップリングからなる伝送装置22が設けられ、この伝送装置22は、AEセンサ21からの出力信号を、AEセンサ21にノイズを与えることなく外部に伝送するように構成されている。
【0078】
これによれば、回転するスリップリング22には、例えばブラシ23aを介して外部に出力することによりAEセンサ21にノイズを与えることがない。
【0079】
また、AEセンサ21で検出された弾性波に基づいてレーザ溶接における異常の有無を判別して評価する異常判別制御装置20が設けられ、この制御装置20は、レーザ溶接における溶け込み深さ、溶接ビードの長さ、溶接飛びのいずれかに識別して異常の有無を評価することにより、レーザ溶接では、溶け込み深さが溶接不良に起因するが、AEセンサ21で検出された弾性波を良品加工時の弾性波と比較させることでこの溶接不良の有無が判別評価することができる。
【0080】
また、溶接ビードの長さは所定の長さ未満であれば溶接不良に起因するが、AEセンサ21で検出された弾性波の発生時間を監視することで溶接ビードの長さを判断することができる。
【0081】
さらに、溶接飛びは溶接すべき箇所を溶接せずに次の溶接すべき箇所に飛んでしまう溶接不良であって、AEセンサ21で検出された弾性波が出力されているか否かを監視することで溶接飛びの有無が容易に判断することができる。従って、レーザ溶接加工における溶接不良を容易に識別することができる。
【0082】
また、溶接箇所a〜fのうち、一つでも異常の有無があったときにレーザ溶接装置を停止させることにより、無駄な溶接を繰り返すことがないため生産性の向上が図れる。
【0083】
(第2実施形態)
以上の第1実施形態では、治具装置10を溶接工作物1の軸心に対してレーザ溶接装置のレーザ照射部2の入射角(溶接角度)を0°に固定してレーザ溶接を行うように構成したが、これに限らず、入射角(溶接角度)を、図8に示すように、約30度から約−40度まで可変可能な治具装置10に溶接工作物1を保持させてレーザ溶接を行うように構成しても良い。
【0084】
ただし、この場合には、良品溶接時の弾性波の判定値が異なるため、具体的には、図9(a)および図9(b)に示すように、それぞれの溶接角度に応じた良品溶接時における溶接箇所a〜fごとのAEセンサにより検出された弾性波レベルに基づいて、溶接箇所a〜fに応じた判定値を第1所定値として求めるようにしている。
【0085】
ここで、図9(a)は、レーザ溶接における溶接角度が30°であるとともに、レーザ溶接装置の出力が5.5kWの溶接条件における良品溶接時における溶接箇所a〜fごとのAEセンサにより検出された弾性波レベルであり、図9(b)は、レーザ溶接における溶接角度が−40°であるとともに、レーザ溶接装置の出力が5.5kWの溶接条件における良品溶接時における溶接箇所a〜fごとのAEセンサにより検出された弾性波レベルである。
【0086】
これによれば、溶接角度が変化すると弾性波レベルが異なる。さらに、レーザ溶接装置の出力が変化すると弾性波レベルが異なるためそれらに応じた判定値を求めるように構成すると良い。
【0087】
(他の実施形態)
以上の実施形態では、本発明の異常判別評価装置をレーザ溶接装置に適用させたが、これに限らず、レーザ溶接の他に、アーク溶接、アルゴン溶接にも適用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1実施形態における異常判別評価装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すA矢視図である。
【図3】本発明の第1実施形態におけるAEセンサ21の全体構成を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態における溶接工作物1と治具装置10との保持形態を示す模式図である。
【図5】本発明の第1実施形態におけるレーザ溶接における溶接工作物1の溶接手順を示す説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態における制御装置20の制御処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態における溶接角度が0°のときの溶接箇所a〜fごとの弾性波レベルの特性を示す特性図である。
【図8】本発明の第2実施形態におけるレーザ溶接装置と溶接工作物1ととの溶接角度を示す説明図である。
【図9】本発明の第2実施形態における(a)は溶接角度が30°のときの溶接箇所a〜fごとの弾性波レベルの特性を示す特性図、(b)は溶接角度が−40°のときの溶接箇所a〜fごとの弾性波レベルの特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0089】
1…溶接工作物
10…治具装置
21…AEセンサ
21a…圧電素子
21b…増幅器
22…スリップリング、伝送装置
23…ブラシ機構、伝送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接加工における溶接工作物の異常判別評価装置であって、
溶接工作物(1)を保持するとともに、その溶接工作物(1)を回転させて溶接箇所の位置決めを行う治具装置(10)と、
前記治具装置(10)の弾性波を検出するAEセンサ(21)とを備え、
前記治具装置(10)は、互いが密着接触される保持面によって前記溶接工作物(1)を保持するように構成したことを特徴とする溶接工作物の異常判別評価装置。
【請求項2】
前記治具装置(10)は、チャック部の密着圧が所定圧以上となる密着接触される保持面を有するチャック機構によって前記溶接工作物(1)を保持することを特徴とする請求項1に記載の溶接工作物の異常判別評価装置。
【請求項3】
前記AEセンサ(21)は、弾性波を検出する圧電素子(21a)と前記圧電素子(21a)により検出された弾性波を増幅する増幅器(21b)とから一体に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接工作物の異常判別評価装置。
【請求項4】
前記治具装置(10)には、前記AEセンサ(21)で検出された弾性波の出力信号を外部に伝送するスリップリングおよびブラシ機構からなる伝送装置(22、23)が設けられ、
前記伝送装置(22、23)は、前記AEセンサ(21)からの出力信号を、前記AEセンサ(21)にノイズを与えることなく外部に伝送するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の溶接工作物の異常判別評価装置。
【請求項5】
前記AEセンサ(21)で検出された弾性波に基づいてレーザ溶接加工における異常の有無を判別して評価する異常判別制御手段(20)が設けられ、
前記異常判別制御手段(20)は、レーザ溶接加工における溶け込み深さ、溶接ビードの長さ、溶接飛びのいずれかに識別して異常の有無を評価することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の溶接工作物の異常判別評価装置。
【請求項6】
レーザ溶接加工における溶接工作物の異常判別評価方法であって、
チャック部の密着圧が所定圧以上となる密着接触する保持面を有するチャック機構によって溶接工作物(1)を保持するとともに、その溶接工作物(1)を回転させて溶接箇所の位置決めを行う治具装置(10)と、
前記治具装置(10)の弾性波を検出するAEセンサ(21)と、
前記治具装置(10)に設けられ、前記AEセンサ(21)で検出された弾性波の出力信号を外部に伝送するスリップリングとブラシ機構からなる伝送装置(22、23)とを備え、
前記AEセンサ(21)により検出された弾性波に基づいて、少なくとも溶け込み深さ、溶接ビードの長さ、溶接飛びのいずれかに識別して評価することを特徴とする溶接工作物の異常判別評価方法。
【請求項7】
前記AEセンサ(21)は、弾性波を検出する圧電素子(21a)と前記圧電素子(21a)により検出された弾性波を増幅する増幅器(21b)とから一体に構成されていることを特徴とする請求項6に記載の溶接工作物の異常判別評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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