説明

溶接接合構造

【課題】T形継手及びL形継手において十分な強度性能が得られるようにした溶接継手構造を提案する。
【解決手段】第1接合材1の一方の側面1aに対して第2接合材2の端面2bを略直交方向から突合せてこれら両者を溶接にて接合して得られる溶接継手構造において、第1接合材1の一方の側面1aに該一方の側面1a上に開口する嵌入凹部3を形成し、該嵌入凹部3に第2接合材2の端部2aを嵌入させた状態で、第1接合材1の他方の側面1b側に配置した溶接熱源Hから一方の側面1a側に向けて溶接熱を加えるように構成する。係る構成によれば、第1接合材1における嵌入凹部3の底壁面3aから側壁面3bにかけての屈曲部分と、第2接合材2の端面2bから側面2cにかけての屈曲部分が、溶融金属層を介して溶融接合されるとともに、該溶融金属の一部が第1接合材1の接合面1aと第2接合材2の側面2cとの隅部に適度に現出してここに良好な形体で隅肉が形成され、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、T形又はL形の溶接継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
T形又はL形の溶接継手においては、例えば、特許文献1に示されるように、隅肉溶接で施工するのが一般的である。しかし、この隅肉溶接は、T形又はL形に組まれた二つの部材の衝合部の両端部分をそれぞれ外側から溶接する必要があることから、例えば、その溶接対象物が箱状構造物であって、且つ内部に作業スペースを十分にとれないような場合には、隅肉溶接を適正に行なうことができず、その結果、溶接施工の信頼性、特に強度性能の信頼性が担保できないことになる。
【0003】
このような事情から、所謂「深溶込溶接」が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2(図3、図4)参照)。
【0004】
特許文献1に示されるものは、板厚方向に重ねた二枚の板材の一方の板材側から溶接熱源により溶接熱を加えて該一方の板材を局部的に溶融させるとともに、さらにその溶接熱を他方の板材側に伝達して該他方の板材を溶融させることで、一方側からのみの加熱によって二枚の板材を溶接接合するようにしたものである。
【0005】
また、引用文献2の図3及び図4に示されるものは、二枚の板材をT形に突き合わせ、横方向に延びる一方の板材の外側から溶接熱源により溶接熱を加えて該一方の板材を局部的に溶融させるとともに、さらにその溶接熱を縦方向に延びる他方の板材側に伝達して該他方の板材の端部側を溶融させることで、一方の板材側からのみ溶接熱を加えることで二枚の板材を溶接するようにしたものである。
【0006】
ここで、この深溶込溶接によるT形継手及びL形継手の溶接構造について、さらに図面を参照して詳しく説明する。
【0007】
図7には、横方向に延びる第1接合材1と、該第1接合材1の一方の側面1aにその端面2bを衝合させた状態で縦方向に延びる第2接合材2からなるT形継手の溶接施工前の状態を示している。このT形継手に対する溶接は、図8に示すように、上記第1接合材1の他方の側面1b側における入熱点Pを、上記第2接合材2の側面2cの延長上位置よりも所定寸法だけ上記第2接合材2の板厚方向内側寄り位置に設定する。そして、上記入熱点Pに適宜の溶接熱源Hから溶接熱を加えて溶接を行なう。
【0008】
この場合、上記入熱点Pに加えられた溶接熱は、温度曲線「T」で示すように、該入熱点Pから上記第2接合材2側へ向かって拡散伝達されるが、上記第1接合材1の一方の側面1aと上記第2接合材2の端面2bの衝合面部分は、溶接熱の伝達方向において素材が分断されることから、ここに空気層が存在し、この空気層が断熱層となり上記第2接合材2側への伝熱が抑制され、その結果、溶接熱は断熱層が存在せず伝熱性の良好な上記第1接合材1内を側方へ偏位しながら伝達される。
【0009】
即ち、溶接熱は、図8に示す温度曲線「T」のように、上記第1接合材1の一方の側面1aから他方の側面1bに向かうに伴って入熱方向から側方へ次第に偏位するように伝達される。
【0010】
このため、溶融金属層Mは、温度曲線「T」の変化状態に対応するように、入熱点Pから上記第2接合材2の接合端部2a側に向かうに伴って次第に側方へ偏位するように生成され、この溶融金属層Mの先端部分は上記第2接合材2の角部2dから側方へ外れた位置で上記第1接合材1の一方の側面1a上に現れる。換言すれば、上記第2接合材2側は溶融温度まで温度が上昇せず、従って、上記角部2dは溶接されず、所要の溶接強度が担保されないことになる。
【0011】
なお、上記第1接合材1側における入熱点Pを上記第2接合材2の側面2cの延長上に設定した場合には、上記溶融金属層Mの先端部が上記場合よりもさらに側方へ偏位することから、溶接強度がさらに低下することとなる。
【0012】
図9には、横方向に延びる第1接合材1と、該第1接合材1の端部1d寄りの一方の側面1aにその端面2bを衝合させた状態で縦方向に延びる第2接合材2からなるL形継手の溶接接合前の状態を示している。
【0013】
また、図10には、このL形継手に対する溶接状態を示している。ここで、上記第1接合材1の他方の側面1b側における入熱点Pを、上記第2接合材2の側面2cの延長上位置よりも所定寸法だけ上記第2接合材2の板厚方向内側寄り位置に設定する。そして、上記入熱点Pに、溶接熱源Hから溶接熱を加えて溶接を行なう。
【0014】
係る設定状態下で溶接が行なわれることで、温度曲線「T」で示すように溶接熱が伝達され、さらにこれに対応するように溶融金属層Mが現れるが、その変化状態等は上述のT形継手の場合と同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0015】
【特許文献1】特開2000−167670号公報
【特許文献2】特開2003−53567号公報
【特許文献3】特開平5−126092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のように、従来の深溶込溶接を用いたT形継手及びL形継手における溶接継手構造によれば、上記第1接合材1の一方の側面1aと上記第2接合材2の側面2cで構成される隅部に該両側面1a、2cに跨って良好な隅肉が形成できないため、その溶接接合部の強度性能が十分に得られないという問題があった。
【0017】
そこで、本願発明では、T形継手及びL形継手において十分な強度性能が得られるようにした溶接継手構造を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0019】
本願の第1の発明では、第1接合材1の一方の側面1aに対して第2接合材2の端面2bを略直交方向から突合せてこれら両者を溶接にて接合して得られる溶接継手構造において、上記第1接合材1の一方の側面1aに該一方の側面1a上に開口する嵌入凹部3を形成し、該嵌入凹部3に上記第2接合材2の端部2aを嵌入させた状態で、上記第1接合材1の他方の側面1b側に配置した溶接熱源Hから上記一方の側面1a側に向けて溶接熱を加えるように構成したことを特徴としている。
【0020】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る溶接継手構造において、上記第1接合材1の他方の側面1bにおける溶接熱の入熱点Pの位置を、該第1接合材1の上記嵌入凹部3の隅部3cに対応する位置よりも該嵌入凹部3の幅方向内側寄り位置に対応するように設定することを特徴としている。
【0021】
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明に係る溶接継手構造において、上記第1接合材1の板厚taが溶接許容肉厚t以上であるときは、上記他方の側面1bの上記入熱点Pを含む所定範囲に切欠部11を設け、該切欠部11の底面11aから上記一方の側面1aまでの肉厚taが該溶接許容肉厚t以下となるように設定することを特徴としている。
【0022】
本願の第4の発明では、上記第3の発明に係る溶接継手構造において、上記所定範囲を上記入熱点Pの近傍領域としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本願発明では次のような効果が得られる。
【0024】
(a)本願の第1の発明に係る溶接継手構造によれば、第1接合材1の一方の側面1aに対して第2接合材2の端面2bを略直交方向から突合せてこれら両者を溶接にて接合して得られる溶接継手構造において、上記第1接合材1の一方の側面1aに該一方の側面1a上に開口する嵌入凹部3を形成し、該嵌入凹部3に上記第2接合材2の端部2aを嵌入させた状態で、上記第1接合材1の他方の側面1b側に配置した溶接熱源Hから上記一方の側面1a側に向けて溶接熱を加えるように構成している。
【0025】
係る構成によれば、上記第1接合材1の他方の側面1b側から一方の側面1a側に向けて溶接熱が加えられると、該溶接熱は上記一方の側面1a上の入熱点Pから他方の側面1bに向かって上記第1接合材1内を拡散移動し、さらに上記他方の側面1bに設けた上記嵌入凹部3部分からここに嵌入された上記第2接合材2の端面2b側へ移動する。しかし、上記嵌入凹部3の底壁面3aと上記第2接合材2の端面2bとの衝合部分では、上記第1接合材1と上記第2接合材2が不連続であってこの不連続部分が断熱層となることから、上記嵌入凹部3側から上記第2接合材2側への伝熱が抑制されることになる。
【0026】
このため、上記入熱点Pから上記第1接合材1内を上記嵌入凹部3側に向かって伝達される溶接熱は、断熱層が存在する上記嵌入凹部3の底壁面3aと側壁面3bの隅部の近傍に蓄熱されつつ、全体として該部分から断熱層が存在しない上記嵌入凹部3の側壁面3b寄りへ偏向しながら伝達されることになる。
【0027】
このような溶接熱の伝熱形態に対応して、上記第1接合材1側の蓄熱部位、即ち、上記嵌入凹部3の底壁面3aと側壁面3bの隅部の近傍に溜まった熱は、その蓄熱量が多いことから、上記断熱層の断熱作用に拘らず、次第に上記第2接合材2側へ伝達され、その結果、該第2接合材2の角部2d部分は溶融温度以上に昇温され効率良く溶融される。また、上記第1接合材1の上記嵌入凹部3の側壁面3bに対応する部分も、該側壁面3b寄りへ偏向されながら伝達された溶接熱によって溶融温度以上に昇温され効率良く溶融される。
【0028】
このような両部位のそれぞれにおける溶融によって、上記第1接合材1における上記嵌入凹部3の底壁面3aから側壁面3bにかけての屈曲部分と、上記第2接合材2の端面2bから側面2cにかけての屈曲部分が、溶融金属層を介して溶融接合されるとともに、該溶融金属の一部が上記第1接合材1の接合面1aと上記第2接合材2の側面2cとの隅部に適度に現出してここに良好な形体で隅肉が形成される。
【0029】
以上の結果、上記第1接合材1の一方の側面1aに嵌入凹部3を形成し、該嵌入凹部3に上記第2接合材2の端部2aを嵌入させた状態で、上記第1接合材1の他方の側面1b側に配置した溶接熱源Hから上記一方の側面1a側に向けて溶接熱を加えるように構成することで、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られるものである。
【0030】
(b)本願の第2の発明に係る溶接継手構造によれば、上記(a)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記第1接合材1の他方の側面1bにおける溶接熱の入熱点Pの位置を、該第1接合材1の上記嵌入凹部3の隅部3cに対応する位置よりも該嵌入凹部3の幅方向内側寄り位置に対応するように設定しているので、溶接熱の入熱方向から側方寄りへの偏向現象にも拘らず、上記嵌入凹部3の隅部3cの近傍が効率良く溶融され、例えば、上記入熱点Pを上記隅部3cに対応する位置に設定した場合のような上記第1接合材1側のみが溶融落下して切欠きが残るというような問題が確実に防止され、より一層、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られることになる。
【0031】
(c)本願の第3の発明に係る溶接継手構造によれば、上記(a)又は(b)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記第1接合材1の板厚taが溶接許容肉厚t以上であるときは、上記他方の側面1bの上記入熱点Pを含む所定範囲に切欠部11を設け、該切欠部11の底面11aから上記一方の側面1aまでの肉厚taが該溶接許容肉厚t以下となるように設定しているので、上記第1接合材1の肉厚の大小に影響されることなく、信頼性の高い溶接継手構造を得ることができる。
【0032】
(d)本願の第4の発明に係る溶接継手構造によれば、上記(c)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記所定範囲を上記入熱点Pの近傍領域としているので、溶接施工後に上記切欠部11に肉盛溶接を施して該切欠部11を消滅させる場合において、その肉盛量を可及的に少なくすることができ、この結果、作業工数の低減によって溶接接合コストの低廉化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本願発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0034】
I:第1の実施形態
図1には、本願発明の溶接継手構造が適用される第1の実施形態に係るT形継手Z1の溶接施工前の仮組み状態を示し、また図2には上記T形継手Z1に深溶込溶接を施工した場合の溶接熱の流れ、及び溶融金属層の生成状態を示している。
【0035】
上記T形継手Z1は、所定厚さの板材でなる第1接合材1と第2接合材2をT形に組付けて構成される。
【0036】
上記第1接合材1は、所定厚さの板材で構成され、その両側面1a、1bのうち、一方の側面1aには次述の第2接合材2が接合され、他方の側面1b側には適宜の溶接熱源Hが配置される。なお、この第1接合材1の厚さ「t1」は、深溶込溶接において許容される一般的な溶接許容板厚「t」と同等かそれ以下に設定される。
【0037】
また、上記第1接合材1の一方の側面1aには、該側面1a上に開口して紙面に直交する方向へ延びる溝状の嵌入凹部3が予め形成されている。この嵌入凹部3は、底壁面3aと左右の側壁面3b、3bを備えるとともに、該底壁面3aと側壁面3bの交差部分を隅部3cとしている。
【0038】
上記第2接合材2は、上記嵌入凹部3内に略密接状態で嵌入可能な板厚をもつ板材で構成され、その接合端部2aを上記第1接合材1側の上記嵌入凹部3に嵌入させた状態に仮組みされる。この第2接合材2を上記第1接合材1の嵌入凹部3に嵌入させた状態では、該第2接合材2の端面2b及び両側面2c、2cが、上記嵌入凹部3の底壁面3a及び両側壁面3b、3bに、それぞれ近接対向しており、特に上記第2接合材2の端面2bは上記第1接合材1の他方の側面1b側へ指向している。
【0039】
次に、図2に基づいて上記T形継手Z1への溶接施工について説明する。
【0040】
溶接の施工に際しては、上記第1接合材1の他方の側面1b側に溶接熱源Hを配置する。この溶接熱源Hとしては、深溶込みが可能な溶接熱を供給し得る溶接手段であれば良く、例えば、アーク溶接装置、電子ビーム溶接装置、レーザビーム溶接装置、ガスシールド溶接装置等、種々の溶接装置を採用できる。
【0041】
ここで、上記T形継手Z1への溶接施工は、上記第2接合材2の接合端部2aの左右両角部2d,2dに順次行なうものとする。この場合、上記溶接熱源Hによる上記第1接合材1側への溶接熱の入熱点Pの設定であるが、この実施形態では、図2に示すように、上記溶接熱源Hの入熱線が、上記嵌入凹部3の隅部3c(即ち、上記第2接合材2の角部2d)の位置よりも、該嵌入凹部3の幅方向内側寄りへ適宜寸法だけ偏位した位置に対応するように、上記入熱点Pの位置を設定している。
【0042】
このように上記溶接熱源Hの入熱点Pを設定した上で、該溶接熱源Hから上記入熱点Pに所定の溶接熱を加えながら、該溶接熱源Hを所定速度で上記嵌入凹部3の長手方向(紙面に直交する方向)へ移動させて溶接を行なう。この場合の溶接状態は、以下の通りである。
【0043】
上記溶接熱源Hによって上記入熱点Pに溶接熱が加えられると、この溶接熱は、上記第1接合材1の他方の側面1b側から上記一方の側面1a側に向かって上記第1接合材1内を拡散移動し、さらに上記他方の側面1bに設けた上記嵌入凹部3部分からここに嵌入された上記第2接合材2の端面2b側へ移動するものと考えられる。
【0044】
しかし、上記嵌入凹部3の底壁面3aと上記第2接合材2の端面2bとの衝合部分では、上記第1接合材1と上記第2接合材2が不連続であってこの不連続部分が断熱層となることから、上記嵌入凹部3側から上記第2接合材2側への伝熱が抑制されることになる。
【0045】
このため、上記入熱点Pから上記第1接合材1内を上記嵌入凹部3側に向かって伝達される溶接熱は、断熱層が存在する上記嵌入凹部3の底壁面3aと側壁面3bの隅部の近傍に蓄熱されつつ、全体としては該部分から、断熱層が存在しない上記嵌入凹部3の側壁面3b寄りへ偏向しながら該第1接合材1内を伝達されることになる。
【0046】
このような溶接熱の伝熱形態に対応して、上記第1接合材1側の蓄熱部位、即ち、上記嵌入凹部3の底壁面3aと側壁面3bの隅部3cの近傍に溜まった熱は、その蓄熱量が多いことから、上記断熱層の断熱作用に拘らず、該断熱層を介して次第に上記第2接合材2側へ伝達される。この結果、上記第2接合材2の角部2d部分は、溶融温度以上に昇温され効率良く溶融される。また、上記第1接合材1の上記嵌入凹部3の側壁面3bに対応する部分も、該側壁面3b寄りへ偏向されながら伝達された溶接熱によって溶融温度以上に昇温され効率良く溶融される。
【0047】
このような両部位のそれぞれにおける溶融によって、上記第1接合材1における上記嵌入凹部3の底壁面3aから側壁面3bにかけての屈曲部分と、上記第2接合材2の端面2bから側面2cにかけての屈曲部分が、溶融金属層Mを介して溶融接合されるとともに、該溶融金属の一部が上記第1接合材1の接合面1aと上記第2接合材2の側面2cとの隅部に適度に現出してここに良好な形体で隅肉Maが形成される。以上と同様の溶接は、他方の入熱点Pに対しても施工される。
【0048】
以上の溶接施工によって、上記T形継手Z1においては、上記第1接合材1の一方の側面1aに嵌入凹部3を形成し、該嵌入凹部3に上記第2接合材2の端部2aを嵌入させた状態で、上記第1接合材1の他方の側面1b側に配置した溶接熱源Hから上記一方の側面1a側に向けて溶接熱を加えるように構成することで、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られるものである。
【0049】
なお、この実施形態のように、上記第1接合材1の他方の側面1bにおける溶接熱の入熱点Pの位置を、該第1接合材1の上記嵌入凹部3の隅部3cに対応する位置よりも該嵌入凹部3の幅方向内側寄り位置に対応するように設定することで、溶接熱の入熱方向から側方寄りへの偏向現象にも拘らず、上記嵌入凹部3の隅部3cの近傍が効率良く溶融され、例えば、上記入熱点Pを上記隅部3cに対応する位置に設定した場合のような上記第1接合材1側のみが溶融落下して切欠きが残るというような問題が確実に防止され、より一層、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られることになる。
【0050】
II:第2の実施形態
図3には、本願発明の溶接継手構造が適用される第2の実施形態に係るL形継手Z2の溶接施工前の仮組み状態を示し、また図4には上記L形継手Z2に深溶込溶接を施工した場合の溶接熱の流れ、及び溶融金属層の生成状態を示している。
【0051】
上記T形継手Z2は、所定厚さの板材でなる第1接合材1と第2接合材2を、これらの端部同士をL形に突き合わせて構成される。
【0052】
上記第1接合材1は、所定厚さの板材で構成され、その一方の側面1aの端部寄り部位に、該一方の側面1aと端面1cの双方に開口するL形断面をもち且つ紙面に直交する方向へ延びる段差状の嵌入凹部3が形成されている。この嵌入凹部3は、底壁面3aとこれに直交する側壁面3bを備えるとともに、該底壁面3aと側壁面3bの交差部分を隅部3cとしている。また、この第1接合材1の他方の側面1b側には適宜の溶接熱源Hが配置される。なお、この第1接合材1の厚さ「t1」は、深溶込溶接において許容される一般的な溶接許容板厚「t」と同等かそれ以下に設定される。
【0053】
上記第2接合材2は、上記嵌入凹部3内に略密接状態で嵌入可能な板厚をもつ板材で構成され、その接合端部2aを上記第1接合材1側の上記嵌入凹部3に嵌入させた状態に仮組みされる。この第2接合材2を上記第1接合材1の嵌入凹部3に嵌入させた状態では、該第2接合材2の端面2b及び一方の側面2cが、上記嵌入凹部3の底壁面3a及び側壁面3bに、それぞれ近接対向しており、特に上記端面2bは上記第1接合材1の他方の側面1b側へ指向している。
【0054】
次に、図4に基づいて上記L形継手Z2への溶接施工について説明する。なお、このL形継手Z2においては、上記第1接合材1側の上記嵌入凹部3の隅部3cと該隅部3c部分に嵌入された上記第2接合材2の一方の角部2dの溶接部と、上記第1接合材1の端面1c部分と上記第2接合材2の他方の角部2dの溶接部、の二つの溶接部位がある。このうち、後者の溶接部は、上記L形継手Z2の外面に露出していることから、外部から通常の突合せ溶接を施工できるので、ここでの説明は省略する。従って、ここでは、深溶込溶接による前者の溶接部に対する溶接施工についてのみ説明する。
【0055】
前者の溶接部位への溶接施工に際しては、上記第1接合材1の他方の側面1b側に溶接熱源Hを配置する。なお、この溶接熱源Hとしては、深溶込みが可能な溶接熱を供給し得る溶接手段であれば良く、例えば、アーク溶接装置、電子ビーム溶接装置、レーザビーム溶接装置、ガスシールド溶接装置等、種々の溶接装置を採用できることは、上記第1の実施形態の場合と同様である。
【0056】
先ず、上記溶接熱源Hによる上記第1接合材1側への溶接熱の入熱点Pの設定であるが、この実施形態では、図4に示すように、上記溶接熱源Hの入熱線が、上記嵌入凹部3の隅部3c(即ち、上記第2接合材2の角部2d)の位置よりも上記端面1c寄り(即ち、上記嵌入凹部3の幅方向内側寄り)へ適宜寸法だけ偏位した位置に対応するように、上記入熱点Pの位置を設定している。
【0057】
このように上記溶接熱源Hの入熱点Pを設定した上で、該溶接熱源Hから上記入熱点Pに所定の溶接熱を加えながら、該溶接熱源Hを所定速度で上記嵌入凹部3の長手方向(紙面に直交する方向)へ移動させて溶接を行なう。この場合の溶接状態は、以下の通りである。
【0058】
上記溶接熱源Hによって上記入熱点Pに溶接熱が加えられると、この溶接熱は、上記第1接合材1の他方の側面1b側から上記一方の側面1a側に向かって上記第1接合材1内を拡散移動し、さらに上記他方の側面1bに設けた上記嵌入凹部3部分からここに嵌入された上記第2接合材2の端面2b側へ移動するものと考えられる。
【0059】
しかし、上記嵌入凹部3の底壁面3aと上記第2接合材2の端面2bとの衝合部分では、上記第1接合材1と上記第2接合材2が不連続であってこの不連続部分が断熱層となることから、上記嵌入凹部3側から上記第2接合材2側への伝熱が抑制されることになる。
【0060】
このため、上記入熱点Pから上記第1接合材1内を上記嵌入凹部3側に向かって伝達される溶接熱は、断熱層が存在する上記嵌入凹部3の底壁面3aと側壁面3bの隅部の近傍に蓄熱されつつ、全体としては該部分から、断熱層が存在しない上記嵌入凹部3の側壁面3b寄りへ偏向しながら該第1接合材1内を伝達されることになる。
【0061】
このような溶接熱の伝熱形態に対応して、上記第1接合材1側の蓄熱部位、即ち、上記嵌入凹部3の底壁面3aと側壁面3bの隅部3cの近傍に溜まった熱は、その蓄熱量が多いことから、上記断熱層の断熱作用に拘らず、該断熱層を介して次第に上記第2接合材2側へ伝達される。この結果、上記第2接合材2の角部2d部分は、溶融温度以上に昇温され効率良く溶融される。また、上記第1接合材1の上記嵌入凹部3の側壁面3bに対応する部分も、該側壁面3b寄りへ偏向されながら伝達された溶接熱によって溶融温度以上に昇温され効率良く溶融される。
【0062】
このような両部位のそれぞれにおける溶融によって、上記第1接合材1における上記嵌入凹部3の底壁面3aから側壁面3bにかけての屈曲部分と、上記第2接合材2の端面2bから側面2cにかけての屈曲部分が、溶融金属層Mを介して溶融接合されるとともに、該溶融金属の一部が上記第1接合材1の接合面1aと上記第2接合材2の側面2cとの隅部に適度に現出してここに良好な形体で隅肉Maが形成される。
【0063】
以上の溶接施工によって、上記L形継手Z2においては、上記第1接合材1の一方の側面1aに嵌入凹部3を形成し、該嵌入凹部3に上記第2接合材2の端部2aを嵌入させた状態で、上記第1接合材1の他方の側面1b側に配置した溶接熱源Hから上記一方の側面1a側に向けて溶接熱を加えるように構成することで、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られるものである。
【0064】
III:第3の実施形態
図5には、本願発明の溶接継手構造が適用される第3の実施形態に係るT形継手Z3の溶接施工前の仮組み状態を示している。このT形継手Z3の溶接は、上記第1の実施形態において説明したT形継手Z1に対する溶接と同じ手法にて施工されるが、該第1の実施形態の場合と異なる点は、上記第1接合材1の板厚「t1」が溶接許容板厚「t」よりも大きい点であり、このような場合における溶接継手構造を提案するのがこの実施形態である。
【0065】
即ち、この実施形態では、図5に示すように、上記第1接合材1の一方の側面1a側に、左右の入熱点P、Pを共に含むような幅寸法をもつ凹溝状の切欠部11を形成し、該切欠部11の底壁面11aから上記他方の側面1bまでの板厚「ta」が上記溶接許容厚さ「t」以下となるように上記第1接合材1の板厚を調整し、この調整された板厚の下で、溶接熱源Hを用いて深溶込溶接を施工することで、上記第1の実施形態の場合と同様に、溶接強度に優れた信頼性の高い溶接接合構造が得られるものである。
【0066】
なお、この場合の溶接状態については第1の実施形態における該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【0067】
ところで、上述のように、上記第1接合材1の他方の側面1b側に上記切欠部11を設けることで、該第1接合材1の板厚に左右されることなく常に良好な溶接性能が得られる訳であるが、上記切欠部11は上記溶接熱源Hを用いた深溶込溶接の施工完了後に、適宜の肉盛溶接を施して該切欠部11を埋める必要があるが、この実施形態のように上記切欠部11が上記二つの入熱点P、Pを包含するような幅広溝であると、それだけ肉盛量が多くなり、作業工数等のコスト面において不利である。
【0068】
このような第3の実施形態における不利な点を改善する溶接継手構造として、次述の第4の実施形態に係る溶接継手構造を提案するものである。
【0069】
IV:第4の実施形態
図6に示す第4の実施形態においては、上記第3の実施形態に係る溶接継手構造を基調とした上で、上記第3の実施形態のように上記切欠部11に二つの入熱点P、Pが包含されるように該切欠部11を単一の広幅断面状に形成するのではなく、該各入熱点P、Pのそれぞれを個別に包含し得るような小幅溝状に形成したものである。
【0070】
このように構成することで、上記切欠部11が小幅である分だけ該切欠部11の事後的な肉盛溶接による肉盛量が減少し、作業工数等のコスト面において有利である。
【0071】
なお、この場合の溶接状態については第1の実施形態における該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本願発明の第1の実施の形態に係るT形の溶接継手構造の溶接施工前における状態説明図である。
【図2】図1に示した溶接継手構造の溶接施工後における状態説明図である。
【図3】本願発明の第2の実施の形態に係るL形の溶接継手構造の溶接施工前における状態説明図である。
【図4】図3に示した溶接継手構造の溶接施工後における状態説明図である。
【図5】本願発明の第3の実施の形態に係るT形の溶接継手構造の溶接施工前における状態説明図である。
【図6】本願発明の第4の実施の形態に係るT形の溶接継手構造の溶接施工前における状態説明図である。
【図7】従来のT形の溶接継手構造の溶接施工前における状態説明図である。
【図8】従来のT形の溶接継手構造の溶接施工後における状態説明図である。
【図9】従来のL形の溶接継手構造の溶接施工前における状態説明図である。
【図10】従来のL形の溶接継手構造の溶接施工後における状態説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ・・第1接合材
1a ・・一方の側面
1b ・・他方の側面
2 ・・第2接合材
2a ・・接合端部
2b ・・端面
2c ・・側面
2d ・・角部
3 ・・嵌入凹部
3a ・・底壁面
3b ・・側壁面
3c ・・隅部
10 ・・肉盛部
11 ・・切欠部
H ・・溶接熱源
M ・・溶融金属層
Ma ・・隅肉部
P ・・入熱点
t ・・溶接許容板厚
T ・・温度曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合材(1)の一方の側面(1a)に対して第2接合材(2)の端面(2b)を略直交方向から突合せてこれら両者を溶接にて接合して得られる溶接継手構造であって、
上記第1接合材(1)の一方の側面(1a)に該側面(1a)上に開口する嵌入凹部(3)が形成され、
該嵌入凹部(3)に上記第2接合材(2)の端部(2a)を嵌入させた状態で、上記第1接合材(1)の他方の側面(1b)側に配置した溶接熱源(H)から上記一方の側面(1a)側に向けて溶接熱を加えるように構成されたことを特徴とする溶接継手構造。
【請求項2】
請求項1において、
上記第1接合材(1)の他方の側面(1b)における溶接熱の入熱点(P)の位置を、該第1接合材(1)の上記嵌入凹部(3)の隅部(3c)に対応する位置よりも該嵌入凹部(3)の幅方向内側寄り位置に対応するように設定したことを特徴とする溶接継手構造。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記第1接合材(1)の板厚(ta)が溶接許容肉厚(t)以上であるときは、上記他方の側面(1b)の上記入熱点(P)を含む所定範囲に切欠部(11)を設け、該切欠部(11)の底面(11a)から上記一方の側面(1a)までの肉厚(ta)が該溶接許容肉厚(t)以下となるように設定されることを特徴とする溶接継手構造。
【請求項4】
請求項3において、
上記所定範囲を上記入熱点(P)の近傍領域としたことを特徴とする溶接継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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