説明

溶接最適化方法及びシステム並びに溶接方法

【課題】溶接設計の段階で溶接後の残留変形や残留応力の値を高精度に解析でき、この解析結果に応じて最適な溶接条件を決定できること。
【解決手段】任意の順番の溶接パスの溶接条件を、その前になされた溶接パスによる継手解析形状の溶接変形を考慮して、溶接不良を起こさない適正範囲で決定し(S15)、この溶接条件に基づいて、この順番の溶接パスの溶接ビート断面形状を求め(S16)、この溶接ビート断面形状をモデル化して基本解析モデルに追加し(S17)、この解析モデルを用いてこの順番の溶接パスによる継手開先形状の溶接変形を熱弾塑性解析によって求め(S18)、他の順番の溶接パスについても同様に実施し、溶接継手部の溶接解析を完了して溶接パス数を決定した後(S19)、この溶接継手部についての判定指標値が許容範囲にある場合に、継手の種類、継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件を記録し保存する(S23)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物の溶接継手部に形成された継手開先に対して複数の溶接パスを行って複数層の溶接を施行するための溶接設計を最適に行う溶接最適化方法、溶接最適化システム、及びこの溶接最適化方法を用いた溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接構造物では、溶接によって残留変形及び残留応力が発生することがあり、このような残留変形及び残留応力が所定の値を越えると、溶接構造物の品質に悪影響を及ぼすことがある。従って、残留変形及び残留応力は極力低減する必要がある。
【0003】
従来、溶接プロセスにおいて残留変形または残留応力を低減させる手段としては、現場作業者の経験と勘に頼って行われるか、あるいは自動溶接装置に現場作業者のノウハウを数値データとして入力するか、またはシミュレーションによる解析評価方法などが実施されている。
【0004】
例えば、継手開先の形状を検出し、オフライン時に、検出された継手開先の形状に応じて、溶接電流及び溶接速度等の溶接条件を最適な溶接パス断面積との関係を考慮して段階的に調整し、調整された溶接条件によって自動溶接装置を制御して溶接を行うものが特許文献1に開示されている。
【0005】
また、溶接構造物の継手開先の形状に応じて溶接条件を設定するに当り、特定の溶接条件における溶接パスの積層の順序を決めるものとし、前記特定の溶接条件下で溶接による残留応力解析を行ない、残留応力評価点として予め定めた注目点における残留応力値が最も小さくなる溶接パスの積層順序を、複数ある溶接パスの積層順序を逐次比較して選択し、選択した順番で溶接するものが特許文献2に開示されている。
【0006】
更に、多層溶接を行う際、予め設定された溶接条件に応じた解析モデルを生成し、溶接を行う過程で部材の温度を計測して計測温度を得、各溶接パスについて溶接が終了した後に、解析モデルについて熱弾塑性解析を行い、計測温度に応じて残留応力を評価して推定残留応力を得、この推定残留応力に応じて、残された溶接パスの溶接条件を変更して溶接を行うものが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−9936号公報
【特許文献2】特開平9−1376号公報
【特許文献3】特開2004−181462号公報
【特許文献4】特開2005−83810号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】野田裕久他、温度依存型界面要素法を用いたT継手完全溶込み溶接時における高温割れの発生予測、溶接学会全国大会講演概要(平成19年度春季全国大会)、社団法人溶接学会、No.80,2007年3月
【非特許文献2】山根敏他、狭開先溶接における溶融池の数値シミュレーション、溶接学会全国大会講演概要(平成18年度秋季全国大会)、社団法人溶接学会、No.79,2006年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に溶接構造物を多層溶接する場合、溶接継手部全体の溶接パス計画、並びに各溶接パスの溶接電圧、溶接電流及び溶接速度などの溶接条件は、現場作業者の経験から事前に計画または推定可能であるが、実際には溶接による継手開先形状の変形が起こるために、特に最終層に近づくに従い溶接パス計画からずれてくる。特許文献1に記載の自動溶接装置では、この継手開先形状の溶接変形を随時検出し、溶接条件を適時変更して溶接を行っている。従って、溶接終了後の溶接パス数は、溶接施工を実際に実施してみないと確定できないという課題がある。
【0010】
また、解析によって残留応力を評価する場合、この残留応力の評価は、溶接変形を考慮していない溶接パス計画に基づいた推定評価(特許文献2)、または実際の溶接時に測定された温度を用いた事後解析評価(特許文献3)となる。従って、これらの特許文献2及び3では、溶接パス計画の段階で溶接パス数を正確に把握できず、溶接設計段階で溶接構造物の残留変形や残留応力を解析によって高精度に評価できるものとはなっていない。
【0011】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、溶接設計の段階で溶接後の判定指標値となる残留変形や残留応力の値を高精度に解析でき、この解析結果に応じて最適な溶接条件を決定できる溶接最適化方法及びシステム並びに溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る溶接最適化方法は、溶接構造物の溶接継手部に形成された継手開先に対して複数の溶接パスを行って複数層の溶接を施工するための溶接設計を最適に行う溶接最適化方法であって、前記溶接構造物について、前記溶接継手部の継手の種類、前記継手開先の形状に応じた基本解析モデルを生成する基本解析モデル生成ステップと、任意の順番の溶接パスの溶接条件を、その前になされた溶接パスによる前記継手開先形状の溶接変形を考慮して、溶接不良を起こさない適正範囲内で決定し、この溶接条件に基づいて、この任意の順番の溶接パスの溶接ビード断面形状を求める溶接条件等決定ステップと、前記任意の順番の溶接パスの前記溶接ビード断面形状を解析モデル化して前記基本解析モデルに追加し、この追加して得られた解析モデルを用いて、この任意の順番の溶接パスによって生ずる前記継手開先形状の溶接変形を、熱弾塑性解析によって求める溶接変形解析ステップと、前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを他の順番の溶接パスについて実行して、前記溶接継手部の溶接解析を完了し溶接パス数を決定した後に、前記溶接継手部について判定指標値を求め、この判定指標値が許容範囲内にあるか否かを判定し、許容範囲内にない場合には、前記継手の種類、前記継手開先の形状を含む溶接条件を変更して前記基本解析モデル生成ステップ、前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを再度実行させる指標判定ステップと、この指標判定ステップにおける判定指標値が許容範囲内にある場合に、前記継手の種類、前記継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件を解析結果データベースに記録して保存するデータ記録ステップと、を有することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る溶接最適化システムは、溶接構造物の溶接継手部に形成された継手開先に対して複数の溶接パスを行って複数層の溶接を施工するための溶接設計を最適に行う溶接最適化システムであって、前記溶接構造物について、前記溶接継手部の継手の種類、前記継手開先の形状に応じた基本解析モデルを生成する基本解析モデル生成ステップを実行する基本解析モデル生成手段と、任意の順番の溶接パスの溶接条件を、その前になされた溶接パスによる前記継手開先形状の溶接変形を考慮して、溶接不良を起こさない適正範囲内で決定し、この溶接条件に基づいてこの順番の溶接パスの溶接ビード断面形状を求める溶接条件等決定ステップを実行する溶接条件等決定手段と、前記任意の順番の溶接パスの前記溶接ビード断面形状を解析モデル化して前記基本解析モデルに追加し、この追加して得られた解析モデルを用いて、この任意の順番の溶接パスによって生ずる前記継手開先形状の溶接変形を、熱弾塑性解析によって求める溶接変形解析ステップを実行する溶接変形解析手段と、前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを他の順番の溶接パスについて実行して、前記溶接継手部の溶接解析を完了し溶接パス数を決定した後に、前記溶接継手部について判定指標値を求め、この判定指標値が許容範囲内にあるか否かを判定し、許容範囲内にない場合には、前記継手の種類、前記継手開先の形状を含む溶接条件を変更して前記基本解析モデル生成ステップ、前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを再度実行させる指標判定ステップを実行する指標判定手段と、この指標判定ステップにおける判定指標値が許容範囲内にある場合に、前記継手の種類、前記継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件を解析結果データベースに記録して保存するデータ記録ステップを実行するデータ記録手段と、を有することを特徴とするものである。
【0014】
更に、本発明に係る溶接方法は、本発明に係る溶接最適化方法によって求めた継手の種類、継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件に従って、実際の溶接施工を実施することを特徴するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る溶接最適化方法、溶接最適化システム及び溶接方法によれば、継手開先形状の溶接変形を考慮して溶接継手部の溶接解析を実行することにより、溶接施工前に、実際の溶接施工に即した溶接パス数を含む正確な溶接パス計画を作成できる。このため、溶接パス数が実際の溶接施工の溶接パス数と略一致して、入熱量を実際の入熱量と略同一にできるので、実際の溶接施工時の判定指標値となる残留変形値や残留応力値に対して、これらの残留変形値や残留応力値を精度良く解析して評価できる。従って、残留変形値や残留応力値などの判定指標値を許容範囲内に抑制できる最適な溶接条件を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る溶接最適化方法の第1の実施の形態を実施する溶接最適化システムを備えた自動溶接機による溶接方法を示す説明図。
【図2】図1の溶接最適化システムの構成を示すブロック図。
【図3】図2の溶接最適化システムが実施する溶接最適化方法を示すフローチャート。
【図4】(A)は図1の溶接構造物を示す斜視図、(B)は図4(A)のIV部を拡大した溶接前の溶接継手部を示す斜視図。
【図5】図4の溶接構造物をモデル化した基本解析モデルを示す解析モデル図。
【図6】溶接電流と溶接速度と溶接ビート断面積との関係を示すグラフ。
【図7】図5の基本解析モデルに第1番目の溶接パスの溶接ビート断面形状をモデル化して追加した解析モデルを示す解析モデル図。
【図8】図5の基本解析モデルに第1番目の溶接パスの溶接ビート断面形状をモデル化して追加した解析モデルの他の例を示す解析モデル図。
【図9】溶接継手部において溶接変形を考慮しない溶接パス計画を説明する溶接ビード断面図。
【図10】溶接継手部において溶接変形を考慮した溶接パス計画を説明する溶接ビード断面図。
【図11】図4(B)に示す溶接継手部で、開先角度を異ならせたときを示す正面図。
【図12】本発明に係る溶接最適化方法の第2の実施の形態を示すフローチャート。
【図13】本発明に係る溶接最適化方法の第3の実施の形態を示すフローチャート。
【図14】入熱量/溶接速度と溶接ビートの縦横比との関係を示すグラフ。
【図15】本発明に係る溶接最適化方法の第4の実施の形態を説明するための溶接継手部を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0018】
[A]第1の実施の形態(図1〜図11)
図1は、本発明に係る溶接最適化方法の第1の実施の形態を実施する溶接最適化システムを備えた自動溶接機による溶接方法を示す説明図である。図2は、図1の溶接最適化システムの構成を示すブロック図である。図3は、図2の溶接最適化システムが実施する溶接最適化方法を示すフローチャートである。
【0019】
図1に示す自動溶接装置としての自動溶接機10は、溶接構造物としての厚板1A、1Bの溶接継手部2に形成された継手開先3(図4(B))に対して複数の溶接パスを行って複数層の溶接(いわゆる多層盛り溶接)を実際に施行するものである。この自動溶接機10は、溶接トーチ11、自動溶接機制御装置12、自動溶接機電源装置13、及び解析結果データベースとしての溶接条件データベース14を有して構成される。
【0020】
溶接トーチ11に自動溶接機電源装置13から電源が供給される。自動溶接機制御装置12は、溶接条件データベース14に保存された溶接条件に基づいて各溶接パス毎に溶接トーチ11を制御し、厚板1A及び1Bの溶接継手部2に溶接、例えばアーク溶接を施行させる。前記溶接条件データベース14には、溶接最適化システム15にて解析された解析結果である前記溶接条件、即ち継手の種類、継手開先形状、溶接パス数、及び各溶接パスの溶接条件が記録され保存される(図3参照)。各溶接パスの溶接条件としては、溶接方法、溶接姿勢、溶接電圧、溶接電流、溶接速度、溶接金属供給量、溶接棒(溶接金属)径、溶接パス形状、溶接パス位置等である。
【0021】
前記溶接最適化システム15は、複数層の溶接を施行するための溶接設計を最適に行う溶接最適化方法を実行するものである。この溶接最適化システム15による解析結果である溶接条件は、溶接条件データベース14を介して自動溶接機制御装置12へ入力されることで、自動溶接機10を用いた実際の溶接施行の入力データとして用いられる。
【0022】
自動溶接機10を用いた実際の溶接を施行する際には、変位センサ(例えばレーザー変位計など)16と、温度センサ(例えば熱電対など)17と、溶接記録データベース18が用いられる。変位センサ16は、各溶接パスの位置、及び継手開先3形状の溶接変形を測定する。また、温度センサ17は、溶接継手部2近傍に設置されて、各溶接パスの溶接施工時における温度履歴を測定する。
【0023】
溶接記録データベース18には、図3に示すように、実際の溶接施行中における、継手の種類、継手開先形状、溶接パス数、及び各溶接パスの溶接条件などの溶接条件と共に、温度センサ17にて測定された温度履歴情報と、変位センサ16にて測定された継手開先3形状の溶接変形情報とが溶接条件に対応づけて、溶接施行情報として記録され保存される。
【0024】
ここで、本実施形態の多層盛り溶接で取り扱われる名称について説明する。「ビード」とは、1回の溶接で継手に積まれる溶接金属が溶融した後に凝固した塊をさし、「層」とは、継手に積まれるビードの層をいい、「多層盛り」とは、ビードを複数層積み上げて溶接することをいう。また「パス」とは、溶接進行方向に沿って行う一回の溶接操作のことをいう。
【0025】
さて、溶接最適化方法を実行する溶接最適化システム15は、図2に示すように、基本解析モデル生成ステップを実行する基本解析モデル生成手段19と、溶接条件等決定ステップを実行する溶接条件等決定手段20と、溶接変形解析ステップを実行する溶接変形解析手段21と、指標判定ステップを実行する指標判定手段22と、データ記録ステップを実行するデータ記録手段23とを有して構成される。
【0026】
基本解析モデル生成手段19が実行する基本解析モデル生成ステップは、溶接構造物としての例えば厚板1A及び1Bについて、溶接継手部2の継手の種類、継手開先3の形状に応じた基本解析モデル24(図5;後に詳説)を生成する。この基本解析モデル生成ステップは、図3のステップS11〜S13に相当する。
【0027】
溶接条件等決定手段20が実行する溶接条件等決定ステップは、まず、任意の順番(例えば第k(kは1以上の整数)番目)の溶接パスの溶接条件を、その前になされた溶接パスによる継手開先3形状の溶接変形を考慮して、溶接不良を起こさない適正範囲で決定する。この溶接条件は、本実施の形態では、実際の溶接施行情報が予め保存された溶接記録データベース18から、例えば溶接電圧、溶接電流、溶接速度、溶接金属供給量及び溶接棒径等が選択され決定される。次に、溶接条件等決定ステップは、この決定した溶接条件に基づいて、この第k番目の溶接パスの溶接ビート断面形状を求める。この溶接条件等決定ステップは、図3のステップS15及びS16に相当する。
【0028】
溶接変形解析手段21が実行する溶接変形解析ステップは、まず第k番目の溶接パスの溶接ビート断面形状を解析モデル化し、このビード解析モデル25を基本解析モデル24に追加して解析モデル26(共に図7;後に詳説)を生成する。次に、溶接変形解析ステップは、第k番目の溶接パスによって生じた継手開先形状の溶接変形を、解析モデル26を用いた熱弾塑性解析によって求める。この溶接変形解析ステップは、図3のステップS17及びS18に相当する。
【0029】
上述の溶接条件等決定ステップと溶接変形解析ステップは、他の順番の溶接パス、つまり第k番目の溶接パス以降の溶接パスについても実行し、溶接継手部2の溶接解析を完了して溶接パス数n(nは2以上の整数)を決定する。
【0030】
指標判定手段22が実行する指標判定ステップは、まず、溶接継手部2における溶接パス数nの決定後に、この溶接継手部2に全ての溶接パスを実行したときの判定指標値を求める。この判定指標値は、溶接解析完了後における溶接継手部2の残留変形値であり、熱弾塑性解析により求めたものである。指標判定ステップは、次に、求めた残留変形値が許容範囲内にあるか否か、例えば予め設定した許容残留変形値以下であるか否かを判定する。
【0031】
指標判定ステップは、求めた残留変形値が許容残留変形値を超えている場合には、継手の種類、継手開先形状、各溶接パスの溶接条件を変更して、基本解析モデル生成ステップ、溶接条件等決定ステップ及び溶接変形解析ステップを再度実行させる。この指標判定ステップは、図3のステップS21及びS22に相当する。
【0032】
データ記録手段23が実行するデータ記録ステップは、指標判定ステップにおける残留変形値が許容残留変形値以下である場合に、継手の種類、継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件を溶接条件データベース14に記録して保存する。このデータ記録ステップは、図3のステップS23に相当する。
【0033】
次に、上述の基本解析モデル生成ステップ、溶接条件等決定ステップ、溶接変形解析ステップ、指標判定ステップ及びデータ記録ステップを有してなる溶接最適化方法を、図3〜図11を用いて具体的に説明する。
【0034】
図3に示すように、溶接構造物の溶接プロセスを最適化するには、まず対象となる溶接構造物の形状及び材質を決定する(S11)。次に、継手の種類や継手開先3形状の選定を行い(S12)、解析評価を実施するための基本解析モデル24を生成する(S13)。
【0035】
本実施の形態では、例えば図4に示すような突合せ継手で、継手開先3がV型開先形状を有する2枚の厚板1A、1Bを、アーク溶接により多層盛り溶接する場合について考える。ここでは、継手開先3の開先角度がθ1であるものとして、溶接パス部を除く基本解析モデル24の生成を行う。すなわち母材に関して、図5に示すように、有限要素法を用いた要素を作成して基本解析モデル24を生成する。いま説明のために、簡易な2次元モデルを用いているが、継手開先3形状の溶接変形を精度良く求めるためには、2次元モデルよりも3次元モデルを用いる方が好ましい。
【0036】
次に、溶接パスを数えるためのパラメータkを1に設定する(S14)。そして、予め各種溶接条件を保存してある溶接記録データベース18を参照し、第k番目(第1番目)の溶接パスの溶接条件として最適な条件(溶接電圧、溶接電流、溶接速度、溶接金属供給量及び溶接棒径など)を決定する(S15)。この溶接条件のうち、特に溶接不良に密接に関係する溶接電流、溶接電圧及び溶接速度については、高温割れ、融合不良、アンダーカット及びオーバーラップ等の溶接欠陥を生じさせない適切な範囲で選択する。
【0037】
この第k番目の溶接パスにおける溶接条件を選定するに際しては、それ以前になされた第(k−1)番目の溶接パスにおける溶接開先3形状の溶接変形を考慮して行う。ここで、第(k−1)番目の溶接パスにおける溶接開先3形状の溶接変形は、溶接変形解析手段21における溶接変形解析ステップによる熱弾塑性解析(図3のS18)によって解析されたものを用いる。
【0038】
次に、ステップS15にて選定した溶接条件から溶接ビード断面形状を求める(S16)。この溶接ビード断面形状は、溶接記録データベース18中の溶接金属供給量、溶接棒径及び溶接速度から推測可能である。例えば、溶接継手部2の長さがL=240mmとし、溶接速度Vw=60mm/min、溶接金属供給量Vp=120mm/min、溶接棒径D=2mmとすれば、溶接ビード断面積Sは、以下の式より求められる。
【0039】
[数1]
S=(D/2)×π×(Vp×L/Vw)/L=(D/2)×π×Vp/Vw
=(2/2)×π×120/60=6.23mm
【0040】
溶接ビード断面積Sに対して、溶接ビードが埋めるべき継手開先3の寸法から溶接ビード断面形状(溶接パス形状)を求め、更に、1層を1つの溶接パスで構成するのか、あるいは1層を複数の溶接パスで構成するのかをこの段階で決定する。
【0041】
また、溶接ビード断面積Sを求める方法として、前述の特許文献1に記載され図6に示すように、溶接電流と溶接速度と溶接ビード断面積との関係を溶接記録データベース18から取り出してグラフ化し、このグラフから求めても良い。つまり、図6に示したグラフから判るように、溶接ビード断面積は溶接電流に対してほぼ直線的な比例関係であり、溶接速度に対しては反比例の関係にある。このようなグラフを、溶接方法、溶接姿勢ごとに直線近似できる代表点(例えば図6の点A、B)について事前に要素試験などで把握し、溶接記録データベース18に追加しておけば、選定した溶接電流及び溶接速度から溶接ビード断面積を求めることが可能となる。更に、例え溶接記録データベース18中に存在しない任意の溶接条件に対しても、溶接電流及び溶接速度から直線内挿することで、溶接ビード断面積を求めることが可能となる。
【0042】
この第k番目の溶接パスの溶接ビード断面形状を解析モデル化したビード解析モデル25を、図7に示すように基本解析モデル24に追加して、解析モデル26を生成する(S17)。その際、第k番目のビード解析モデル25Aと基礎解析モデル24の節点が一致しない場合には、図8に示すように、基礎解析モデル24の節点を第k番目のビード解析モデル25Aの節点に合うように修正して、解析モデル26Aを生成する。
【0043】
次に、解析モデル26、26Aを用いて、第k番目の溶接パスによる熱弾塑性解析から継手開先3形状の溶接変形を解析して予測する(S18)。一般的な公知技術として熱弾塑性解析を行う場合、溶接継手部2とその近傍の温度分布データを得るために、熱伝導解析を行う必要がある。本実施の形態では、溶接記録データベース18中に、第k番目の溶接パスの溶接条件に対応する温度履歴データが存在する場合について説明する。
【0044】
解析モデル26、26Aでは、第k番目の溶接パスの溶接条件に基づいて熱伝導解析を行い、解析モデル26、26Aの全体の温度分布、温度履歴を求めて解析温度Taを得る。溶接記録データベース18中の温度履歴データを測定温度Teで表し、この測定温度Teが測定された実際の熱源(溶接トーチ11)と温度センサ17の位置関係に相当する解析モデル26、26A上の位置(例えば図7の温度センサ対応点C)で、上述のように熱伝導解析により求められた解析温度をTaで表す。
【0045】
この解析温度Taは、望ましくはTa=Teであるが、本発明者らの経験では、それぞれのピーク温度の比(Te−Ta)/Teの値が±5%以内であれば、熱弾塑性解析で得られる解析値が適切な値になることを確認している。以下の説明では、Ta=Teであるとして説明するが、上述の解析温度Taと測定温度Teとの温度比較作業を温度校正と呼ぶ。
【0046】
温度校正の結果、Ta≠Te(つまり(Te−Ta)/Teの値が±5%を超えている場合)であれば、解析モデル26、26Aの入熱条件、即ち、溶接電圧Ekと溶接電流Ikの積(入熱量Q)に対して、例えば入熱効率を変更するなどの補正を行い、Ta=Teとなるまで熱伝導解析を繰り返す。Ta=Teとなった段階で、温度校正で得られた解析温度Taを用いて熱弾塑性解析を行い、継手開先3形状の溶接変形を求める。
【0047】
次に、解析モデル26、26A上で溶接継手部2の全てを上述のようにして溶接解析したか否かを判定し(S19)、溶接継手部2の全てにおいて溶接解析を実行していない場合にパラメータkに1を加え(S20)、第1番目から第n番目までの溶接パスについて、溶接条件の選定(S15)、溶接ビード断面形状の決定(S16)、熱弾塑性解析(S17、S18)を順次実施する。溶接継手部2の全てにおいて溶接解析を実行した段階で、この溶接継手部2における継手開先3形状の溶接変形を累積して残留変形を求める(S21)。尚、パラメータkは、溶接が完了した段階でnとなり、従って溶接継手部2の全体の溶接パス数はn個である。
【0048】
ここで、ステップS15の溶接条件の選定に際し、溶接中に発生する継手開先3形状の溶接変形を考慮して解析を行った場合と、特許文献2のように継手開先形状の溶接変形を考慮しないで解析を行った場合について、溶接パス数の違いを比較する。図9は、継手開先形状の溶接変形を考慮しないで計画した溶接ビード断面図、図10は、ステップS15により溶接中に発生する継手開先3形状の溶接変形を考慮して計画した溶接ビード断面図である。尚、図10では、破線が溶接変形を考慮しない場合の継手開先形状であり、実線が溶接変形を考慮した継手開先3の最終的な形状である。また、図9と図10中の○数字は、溶接パス番号を表している。
【0049】
図10に示すように、溶接パスを順次施工する溶接解析を行うに従い、継手開先3の開先角度は次第に小さくなっていく。これにより、例えば4層目の溶接パス数を比較すると3パスから2パス、最終層の6層目で4パスから3パスにそれぞれ、溶接パス数が減少することになる。
【0050】
その後、溶接継手部2の溶接解析完了後の熱弾塑性解析結果から、全溶接パスでの残留変形値Σεを求める(S21)。次に、この解析で得られた残留変形値Σεと予め定めておいた許容残留変形値と比較する(S22)。残留変形値Σε>許容残留変形値であれば、ステップS12に戻り、例えば図11に示すように継手開先3の開先角度θ1を小さくして開先角度θ2(θ2<θ1)に変更し、またはステップS15にて溶接条件を変更し、その後、新ためて解析モデル26、26Aを生成して(S17)溶接変形を解析し(S18)、これらを全ての溶接パスについて実行して(S19、S20)残留変形値を評価する(S21)。ここで、継手開先3の開先角度を小さくするのは、溶接パス数を減少させて入熱量を低減することで、残留変形、残留応力を抑制できるからである。
【0051】
一方、残留変形値Σε≦許容残留変形値であれば、全ての溶接条件(継手の種類、継手開先形状、各溶接パスの溶接条件、溶接パス数など)と、解析結果(各溶接パスの溶接ビード断面形状、溶接継手部2における全溶接パスの残留変形値など)とを、溶接条件データベース14に記録して保存し(S23)、解析ルーチンを終了する。この溶接条件データベース14に保存された溶接条件は、前述のごとく、例えば図1に示す自動溶接機10の入力データとして用いられる。
【0052】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)を奏する。
【0053】
(1)溶接最適化システム15が実行する溶接最適化方法では、溶接条件等決定ステップ(S15、S16)及び溶接変形解析ステップ(S17、S18)において、継手開先3形状の溶接変形を考慮して溶接継手部2の溶接解析を実行することにより、溶接施行前に、実際の溶接施行に即した溶接パス数を含む正確な溶接パス計画を作成できる。このため、溶接パス数が実際の溶接施行の溶接パス数と略一致して、入熱量を実際の入熱量と略同一にできるので、実際の溶接施行の判定指標値となる残留変形値に対して、指標判定ステップ(S21、S22)において、この残留変形値を精度良く解析して評価できる。従って、残留変形値を許容範囲内に抑制できる最適な溶接条件を決定できる。
【0054】
[B]第2の実施の形態(図12)
図12は、本発明に係る溶接最適化方法の第2の実施の形態を示すフローチャートである。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0055】
本実施の形態の溶接最適化システムが実行する溶接最適化方法が前記第1の実施の形態と異なる点は、指標判定ステップ(S41、S42)において用いられる判定指標値が、溶接解析完了後における溶接継手部2の残留応力値である点である。この残留応力値は、熱弾塑性解析から求めた溶接解析完了後における溶接継手部2の残留変形値から求められ、または熱弾塑性解析から直接求められる。
【0056】
つまり、ステップS31〜S39、S43は、前記第1の実施の形態のステップS11〜S19、S23とそれぞれ同一である。ステップS41において、ステップS38、S39の溶接解析完了後の熱弾塑性解析結果(溶接継手部2の残留変形値)から、全溶接パスでの残留応力値σRを求める(S41)。次に、この得られた残留応力値σRを、予め定めておいた許容残留応力値と比較する(S42)。「残留応力値σR>許容残留応力値」であれば、ステップS32に戻り、図11に示すように継手開先3の開先角度θ1を小さくして開先角度θ2とし、またはステップS35にて溶接条件を変更し、その後、新ためて解析モデル26、26Aを生成して(S37)溶接変形を解析し(S38)、これらを全ての溶接パスについて実行して(S39、S40)残留応力値を評価する(S41)。
【0057】
一方、「残留応力値σR≦許容残留応力値」であれば、全ての溶接条件(継手の種類、継手開先形状、各溶接パスの溶接条件、溶接パス数など)と、解析結果(各溶接パスの溶接ビード断面形状、溶接継手部2における全溶接パスの残留応力値など)とを、溶接条件データベース14に記録して保存し(S43)、解析ルーチンを終了する。
【0058】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(2)を奏する。
【0059】
(2)溶接最適化システムが実行する溶接最適化方法では、溶接条件等決定ステップ(S35、S36)及び溶接変形解析ステップ(S37、S38)において、継手開先3形状の溶接変形を考慮して溶接継手部2の溶接解析を実行することにより、溶接施行前に、実際の溶接施行に即した溶接パス数を含む正確な溶接パス計画を作成できる。このため、溶接パス数が実際の溶接施行の溶接パス数と略一致して、入熱量を実際の入熱量と略同一にできるので、実際の溶接施行時の判定指標値となる残留応力値に対して、指標判定ステップ(S41、S42)において、この残留応力値を精度良く解析して評価できる。従って、残留応力値を許容範囲内に抑制できる最適な溶接条件を決定できる。
【0060】
[C]第3の実施の形態(図13、図14)
図13は、本発明に係る溶接最適化方法の第3の実施の形態を示すフローチャートである。この第3の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0061】
本実施の形態の溶接最適化システムが実行する溶接最適化方法が前記第1の実施の形態と異なる点は、溶接条件等決定ステップが行う第k番目の溶接条件の決定に関して、適合する溶接条件が溶接記録データベース18中に存在するか否かを判断するステップ(図13のS55)と、適合する溶接条件が溶接記録データベース18中に存在しない場合に、溶接条件を解析により決定するステップ(図13のS58)が追加された点である。
【0062】
つまり、ステップS51〜S54は、第1の実施の形態のステップS11〜S14とそれぞれ同一であり、ステップS56及びS57は、第1の実施の形態のステップS15、S16とそれぞれ同一であり、ステップS59〜S65は、第1の実施の形態のステップS17〜S23とそれぞれ同一である。
【0063】
ステップS55において、第k番目の溶接パスにおける溶接条件の選定にあたり、まず、溶接記録データベース18中に適合する溶接条件が存在するか否かを判断する。この判断で、第k番目の溶接パスの溶接条件が存在する場合には、第1の実施の形態と同一のステップS56及びS57に進む。
【0064】
ステップS55で、第k番目の溶接パスの溶接条件が存在しないと判断された場合には、溶接条件を解析により決定するステップS58に進む。この溶接条件解析ステップS58では、入熱量(アーク溶接では、溶接電圧と溶接電流)、溶接速度、溶接金属供給量、溶接棒径などの溶接条件、及び溶接ビード断面形状を解析によって決定する。
【0065】
溶接欠陥に関する解析事例としては、例えば上記非特許文献1等が知られている。つまり、第k番目の溶接パスにおける溶接条件を、力学モデルを用いた溶接欠陥解析から決定する。具体的には、溶接欠陥解析で得られる(入熱量/溶接速度)と溶接ビードの縦横比との関係(図14)を用いて、溶接欠陥が発生しない正常な溶接を行いうる範囲に評価点Dを求め、この評価点Dにおいて溶接速度、入熱量(溶接電流及び溶接電圧)、溶接ビートの断面形状などを決定する。
【0066】
また、溶接ビード断面形状を決定する解析事例としては、例えば上記非特許文献2等が知られている。つまり、第k番目の溶接パスの溶接ビート断面形状を、溶接電流、溶接電圧及び溶接速度を用いた熱伝導方程式を用いた伝熱解析から決定する。具体的には、溶接速度及び入熱量(溶接電流、溶接速度)が、例えば上述のような溶接欠陥解析から決定されれば、これらを条件とした熱伝導方程式(ゴルダックの2楕円発熱モデル方程式、熱拡散モデル方程式)を用いた伝熱解析から、溶接ビート断面形状を決定する。
【0067】
また、任意の溶接条件に対応する温度データが溶接記録データベース18中に存在しない場合には、例えば上記特許文献4等に開示されている伝熱解析手法、すなわち、熱伝導方程式(ゴルダックの2楕円発熱モデル方程式、熱拡散モデル方程式)を用いた伝熱解析により温度履歴データを求めることが可能である。つまり、溶接トーチにより溶接構造物内に引き起こされる温度変化を、微分方程式または積分方程式により記述された熱伝導方程式を空間及び時間を離散化して数値的に解くことにより求めて、溶接時の温度履歴データを求める。この温度履歴データは、計測温度Teとみなされて解析温度Taと比較される。
【0068】
ステップS57で第k番目の溶接パスの溶接ビード断面形状を決定した後、またはステップS58で第k番目の溶接パスの溶接条件を解析により決定し、第k番目の溶接パスの溶接ビード断面形状を決定した後に、ステップS59〜S62による熱弾塑性解析によって継手開先3形状の溶接変形を解析し、以後ステップS63〜S65を実行する。尚、このステップS63及びS64においては、残留変形値に代えて、第2の実施の形態と同様な残留応力値を用いてもよい。
【0069】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(3)を奏する。
【0070】
(3)溶接最適化システムが実行する溶接最適化方法では、溶接条件等決定ステップ(S55〜S58)及び溶接変形解析ステップ(S59、S60)において、継手開先3形状の溶接変形を考慮して溶接継手部2の溶接解析を実行することにより、溶接施行前に、実際の溶接施行に即した溶接パス数を含む正確な溶接パス計画を作成できる。このため、溶接パス数が実際の溶接施行の溶接パス数と略一致して、入熱量を実際の入熱量と略同一にできるので、実際の溶接施行の判定指標値となる残留変形値や残留応力値に対して、指標判定ステップ(S63、S64)において、これらの残留変形値や残留応力値を精度良く解析して評価できる。従って、残留変形値や残留応力値を許容範囲内に抑制できる最適な溶接条件を決定できる。
【0071】
[D]第4の実施の形態(図15)
図15は、本発明に係る溶接最適化方法の第4の実施の形態を説明するための溶接継手部を示す説明図である。この第4の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0072】
本実施の形態の溶接最適化システムが実行する溶接最適化方法が前記第1の実施の形態と異なる点は、溶接条件等決定ステップにおいて、任意の順番(第k番目)の溶接条件を、溶接不良を起こさない適正範囲内において、この順番の溶接パスの断面積が最大となるように決定した点である。
【0073】
一般に溶接を行う際、初層や第2層では溶接電流は低めに設定される。これは、溶接開先3の底部が溶接による入熱によって溶けてしまい、この溶接開先3の底部が溶け落ちてしまうことを避けるためである。また最終層では、溶接の仕上げ面をきれいな面に保つために同様に溶接電流が低めに設定されて溶接される。従って、本実施形態に示す溶接ビード断面形状が最大となる溶接条件の選定は、第3層目以降から最終層の一つ前までの層に対して行われる。
【0074】
図15は例として、第5番目の溶接パスの溶接条件と溶接ビード断面形状を決定する場合である。いま溶接不良を起こさない適正な範囲内で、溶接電流Ik及び溶接速度Vkの値を平均的な溶接条件とした場合の溶接ビード断面形状を、図15中に○英数字5Aの領域で表す。これに対し、溶接電流Ik及び溶接速度Vkの値を、同様に溶接不良を起こさない適正範囲内で、溶接ビード断面形状が最大となるように決定したときの溶接ビード断面形状を、図15中に○英数字5A及び5Bの領域で表す。このように溶接ビード断面形状が最大となる溶接電流Ik及び溶接速度Vkを、本実施形態では溶接条件等決定ステップにおいて選択する。
【0075】
従って、本実施の形態では、前記第1の実施の形態の効果(1)と同様の効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0076】
(4)第3層目以降から最終層の一つ前までの層における任意の順番の溶接パスにおいて溶接ビード断面積が最大となるので、溶接継手部2全体の溶接パス数は、溶接不良を起こさない溶接条件の適正な範囲内において最小数で済むことになる。残留変形値や残留応力値は、溶接する際の入熱による塑性変形が原因であるため、入熱回数を低減することは、即ち残留変形値や残留応力値を低減することに繋がる。このことから溶接施工前に、残留変形値や残留応力値の低減を目的とした溶接パス数の最適化が可能となり、最適な溶接条件を選択できる。
【0077】
以上、本発明を上述の各実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各実施の形態では、突合せ継手のV型継手開先におけるアーク溶接を用いた溶接構造物の溶接最適化方法及び溶接方法を説明したが、これに限定するものではなく、他の継手の種類や継手開先形状に対しても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1A、1B…厚板(溶接構造物)、2…溶接継手部、3…継手開先、10…自動溶接機(自動溶接装置)、14…溶接条件データベース、15…溶接最適化システム、16…変位センサ、17…温度センサ、18…溶接記録データベース、19…基本解析モデル生成手段、20…溶接条件等決定手段、21…溶接変形解析手段、22…指標判定手段、23…データ記録手段、24…基本解析モデル、25…ビード解析モデル、26…解析モデル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接構造物の溶接継手部に形成された継手開先に対して複数の溶接パスを行って複数層の溶接を施工するための溶接設計を最適に行う溶接最適化方法であって、
前記溶接構造物について、前記溶接継手部の継手の種類、前記継手開先の形状に応じた基本解析モデルを生成する基本解析モデル生成ステップと、
任意の順番の溶接パスの溶接条件を、その前になされた溶接パスによる前記継手開先形状の溶接変形を考慮して、溶接不良を起こさない適正範囲内で決定し、この溶接条件に基づいて、この任意の順番の溶接パスの溶接ビード断面形状を求める溶接条件等決定ステップと、
前記任意の順番の溶接パスの前記溶接ビード断面形状を解析モデル化して前記基本解析モデルに追加し、この追加して得られた解析モデルを用いて、この任意の順番の溶接パスによって生ずる前記継手開先形状の溶接変形を、熱弾塑性解析によって求める溶接変形解析ステップと、
前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを他の順番の溶接パスについて実行して、前記溶接継手部の溶接解析を完了し溶接パス数を決定した後に、前記溶接継手部について判定指標値を求め、この判定指標値が許容範囲内にあるか否かを判定し、許容範囲内にない場合には、前記継手の種類、前記継手開先の形状を含む溶接条件を変更して前記基本解析モデル生成ステップ、前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを再度実行させる指標判定ステップと、
この指標判定ステップにおける判定指標値が許容範囲内にある場合に、前記継手の種類、前記継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件を解析結果データベースに記録して保存するデータ記録ステップと、を有することを特徴とする溶接最適化方法。
【請求項2】
前記溶接条件等決定ステップは、任意の順番の溶接パスにおける溶接条件を、実際の溶接施工情報が予め保存された溶接記録データベースから選択して決定することを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項3】
前記指標判定ステップが用いる判定指標値は、熱弾塑性解析によって求めた、溶接解析完了後における溶接継手部の残留変形値であることを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項4】
前記指標判定ステップが用いる判定指標値は、熱弾塑性解析によって求めた、溶接解析完了後における溶接継手部の残留応力値であることを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項5】
前記溶接条件等決定ステップでは、任意の順番の溶接パスにおける溶接条件を、力学的モデルに基づいた溶接欠陥解析から決定することを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項6】
前記溶接条件等決定ステップでは、任意の順番の溶接パスにおける溶接ビード断面形状を、溶接電流、溶接電圧及び溶接速度を条件とした熱伝導方程式を用いた伝熱解析から決定することを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項7】
前記溶接条件等決定ステップでは、任意の順番の溶接パスにおける溶接条件に対応した温度履歴データを、熱伝導方程式を用いた伝熱解析により求めることを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項8】
前記溶接条件等決定ステップでは、任意の順番の溶接パスにおける溶接条件を、この順番の溶接パスの断面積が最大となるように決定することを特徴とする請求項1記載の溶接最適化方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の溶接最適化方法によって求めた継手の種類、継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件に従って、実際の溶接施工を実施することを特徴する溶接方法。
【請求項10】
前記溶接を自動溶接装置を用いて実際に施工する場合、溶接最適化方法によって求めた継手の種類、継手開先の形状、溶接パス数、及び各溶接パスの溶接条件を、前記自動溶接装置の入力データとして用いることを特徴する請求項9に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記溶接を実際に施工する際に、溶接パスの位置及び継手開先形状の溶接変形を測定する手段と、各溶接パス実行時における温度履歴を測定する手段とを用いて、実際に溶接された全溶接パスについて、溶接条件と共に、溶接パス位置情報、継手開先形状の溶接変形情報及び温度履歴情報を溶接記録データベースに保存することを特徴する請求項9記載の溶接方法。
【請求項12】
溶接構造物の溶接継手部に形成された継手開先に対して複数の溶接パスを行って複数層の溶接を施工するための溶接設計を最適に行う溶接最適化システムであって、
前記溶接構造物について、前記溶接継手部の継手の種類、前記継手開先の形状に応じた基本解析モデルを生成する基本解析モデル生成ステップを実行する基本解析モデル生成手段と、
任意の順番の溶接パスの溶接条件を、その前になされた溶接パスによる前記継手開先形状の溶接変形を考慮して、溶接不良を起こさない適正範囲内で決定し、この溶接条件に基づいてこの順番の溶接パスの溶接ビード断面形状を求める溶接条件等決定ステップを実行する溶接条件等決定手段と、
前記任意の順番の溶接パスの前記溶接ビード断面形状を解析モデル化して前記基本解析モデルに追加し、この追加して得られた解析モデルを用いて、この任意の順番の溶接パスによって生ずる前記継手開先形状の溶接変形を、熱弾塑性解析によって求める溶接変形解析ステップを実行する溶接変形解析手段と、
前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを他の順番の溶接パスについて実行して、前記溶接継手部の溶接解析を完了し溶接パス数を決定した後に、前記溶接継手部について判定指標値を求め、この判定指標値が許容範囲内にあるか否かを判定し、許容範囲内にない場合には、前記継手の種類、前記継手開先の形状を含む溶接条件を変更して前記基本解析モデル生成ステップ、前記溶接条件等決定ステップ及び前記溶接変形解析ステップを再度実行させる指標判定ステップを実行する指標判定手段と、
この指標判定ステップにおける判定指標値が許容範囲内にある場合に、前記継手の種類、前記継手開先の形状、溶接パス数、各溶接パスの溶接条件を解析結果データベースに記録して保存するデータ記録ステップを実行するデータ記録手段と、を有することを特徴とする溶接最適化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−201474(P2010−201474A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50863(P2009−50863)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】