説明

溶接熱影響部の低温靭性に優れた高張力鋼板

【課題】母材の低温靭性に優れると共に、大入熱で溶接を行った場合にHAZの低温靭性にも優れる高張力鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で(以下同じ)、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.25%、Mn:1.20〜1.60%、P:0.010%以下(0%を含まない)、S:0.003%以下(0%を含まない)、Al:0.02〜0.04%、Nb:0.005〜0.016%、B:0.0006〜0.0020%、N:0.0045〜0.0090%、Ti:0.008〜0.020%を満たすと共に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物であることを特徴とする鋼板。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
{式中、BはB含有量、またNTは、NとTiの関係が、(N−Ti/3.4)≧0である場合にはNT=(N−Ti/3.4)、(N−Ti/3.4)<0である場合にはNT=0を示す}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接熱影響部の低温靭性に優れた高張力鋼板に関するものであり、特に低温に曝される用途に使用される場合でも、溶接熱影響部の靭性および母材の靭性に優れている高張力鋼板に関するものである。尚、本発明は、上記高張力鋼板の溶接方法まで限定するものではなく、サブマージアーク溶接、エレクトロガスアーク溶接等に適用できるが、以下では、溶接熱影響部の靭性確保が特に困難であるといわれている大入熱の片面サブマージアーク溶接を施す場合を例に説明する。
【背景技術】
【0002】
近年では、海洋構造物やLPG等の液化ガスを貯蔵する低温用タンク等を短期間で製造すべく、例えば入熱量が50〜200kJ/cmにも及ぶ大入熱の片面サブマージアーク溶接施工が広く採用されている。しかし、該溶接は、施工の高能率化を実現できる反面、溶接により形成される溶接熱影響部(以下、「HAZ」と示す)の靭性を安定して確保することが難しく、低入熱による多層溶接を適用して製造しなければならないことも多々ある。従って、上記低温用タンク等の製造に、高能率施工が可能な上記大入熱溶接法が採用され、かつ−60℃程度の低温であっても、HAZの靭性に優れている鋼板が求められている。
【0003】
これまでにも、上記HAZの低温靭性を改善すべく種々の方法が提案されている。例えば特許文献1、特許文献2には、TiN、Alオキサイド等のピン止め粒子によりオーステナイト粒の粗大化を抑制することでHAZ靭性を改善する方法が提案されている。また、特許文献3、特許文献4には、オーステナイト粒内にフェライト変態核を多数存在させることにより結晶粒の微細化を図る技術が示されている。具体的には、TiN、MnS、BN、Tiオキサイド等をフェライト変態核として利用することにより結晶粒の微細化を達成し、HAZの低温靭性の改善を図っている。
【0004】
しかし上記いずれの方法においても、大入熱の片面サブマージアーク溶接を行った場合には、TiN等の析出物がかなり固溶し、その後の結晶粒粗大化等を抑制することが難しいことから、−60℃程度での低温で優れたHAZの靭性(以下、「HAZの低温靭性」、または単に「HAZ靭性」ということがある)を確保するには、更なる改善が必要であると思われる。
【特許文献1】特公昭55−026164号公報
【特許文献2】特許第2950076号公報
【特許文献3】特公平07−068577号公報
【特許文献4】特公平05−017300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、大入熱で溶接を行った場合にもHAZの低温靭性に優れると共に、母材の低温靭性にも優れた高張力鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る溶接熱影響部の低温靭性に優れた高張力鋼板とは、
質量%で(以下同じ)、
C :0.03〜0.07%、
Si:0.01〜0.25%、
Mn:1.20〜1.60%、
P :0.010%以下(0%を含まない)、
S :0.003%以下(0%を含まない)、
Al:0.02〜0.04%、
Nb:0.005〜0.016%、
B :0.0006〜0.0020%、
N :0.0045〜0.0090%、
Ti:0.008〜0.020%
を満たすと共に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物であるところに特徴を有している。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
{式中、BはB含有量(質量ppm)を示す。
またNTは、
N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
(N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
(N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す}
【0007】
上記高張力鋼板は、更に、
Cu:0.5%以下、
Ni:0.8%以下、および
V :0.05%以下
よりなる群から選択される1種以上を下記式(2)を満たすように含んでいてもよく、更にはCa:0.003%以下(0%を含まない)を含んでいてもよい。
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4 …(2)
{式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鋼板に大入熱の溶接を施した場合でも、HAZは約−60℃で優れた靭性を示すことから、海洋構造物やLPG等の液化ガスを貯蔵する低温用タンク等の製造に、例えば大入熱の片面サブマージアーク溶接法を採用でき、上記海洋構造物等をより短期間で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は、大入熱の溶接を施した場合に、特にHAZの低温靭性に優れる高張力鋼板を得るべく鋭意研究を行った。
【0010】
その結果、
(a)Cを0.07%以下、Siを0.25%以下と比較的低めに設定した上で、規定量のB、NおよびTiのバランスを最適化し、かつ一定量のNbを添加すれば、オーステナイト粒界からの粗大なフェライト(以下、単に「粒界フェライト」ということがある)の生成が十分に抑制され、オーステナイト粒内の結晶粒微細化を達成できる、
(b)更には、強度をより高めるべくCu、Ni、Vを添加する場合に、このCu、Ni、VとNbの含有量を総合的に制御すれば、HAZ靭性の劣化を抑制できる、
との着想のもとでその具体的方法を見出した。
【0011】
まず本発明では、個々の規定量のB、NおよびTiのバランスを最適化して固溶B量の最適化を厳密に図ることにより、オーステナイト粒内の結晶粒を微細化でき、その結果としてHAZの低温靭性を格段に高めることができた点に特徴がある。
【0012】
図1は、0.06%C−0.20%Si−1.4%Mn−0.03%Al−0.010%Nbを基本成分とし、B、NおよびTiをそれぞれ後述する規定範囲内で変化させ、(B−NT/1.3){BはB含有量(質量ppm)、NTは、N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
(N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
(N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す。
以下、式(1)についても同じ}
を種々の値とした鋼板を用いて、熱サイクル試験を行い、HAZの低温靭性(vE−60)を後述する実施例の通り測定し、これらの結果を整理したものである。尚、熱サイクル試験は、溶接入熱:60kJ/cm(板厚12mm)を想定して、1400℃×5secに加熱保持後、800℃から500℃までを150secで冷却した。
【0013】
この図1より、HAZの低温靭性として、vE−60:100J以上を達成させるには、下記式(1)に示す通り、(B−NT/1.3)の値が−20ppm以上10ppm以下の範囲に収まるようにする必要があることが分かる。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
【0014】
上記式(1)の通り、B、NおよびTiのバランスを最適化することで、オーステナイト粒内の粒界に存在する固溶Bによる、粒界フェライトの粗大化を抑制し、かつ粒界からのフェライトサイドプレートの生成も抑制するといった効果、およびBNのフェライト変態核としての効果を最大限に発揮し得たものと考えられる。
【0015】
上記の通りB、NおよびTiのバランスを最適化してHAZの低温靭性を確実に高めると共に、母材の強度等を確保するには、上記B、N、Tiの含有量をそれぞれ下記範囲内とする必要がある。
【0016】
〈B:0.0006〜0.0020%〉
Bは、BNを生成することによりHAZ靭性に有害な固溶Nを固定する上、粒内フェライトの生成を促進する作用を有する。また固溶Bは、粒界フェライトの粗大化およびフェライトサイドプレートの生成を抑制し、オーステナイト粒内の結晶粒を微細化する効果も有する。該作用効果を十分発揮させるには、Bを0.0006%以上含有させる必要がある。一方、Bが多過ぎると、過剰の固溶Bの作用により結晶が一定方向に形成され、HAZ靭性が却って劣化する。よってB量は、0.0020%以下に抑える。
【0017】
〈N:0.0045〜0.0090%〉
Nは、TiやAl等の元素と窒化物を形成してHAZ靭性を向上させる元素であるため、0.0045%以上、好ましくは0.0060%以上含んでいてもよい。尚、固溶Nは、HAZの靭性を劣化させる原因となる。全窒素量の増加により、先述の窒化物は増加するが固溶Nも過剰となるため、本発明ではN量を0.0090%以下に抑える。
【0018】
〈Ti:0.008〜0.020%〉
Tiは、TiN系析出物を生成して粒内フェライトの生成を促進すると共に、オーステナイト粒の粗大化抑制にも有効な元素である。また、高降伏強度化に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Tiを0.008%以上含有させる必要があり、好ましくは0.012%以上である。しかし、Tiを過剰に含有させると、却ってHAZ靭性の低下を招くため0.020%以下とする。
【0019】
本発明では、上記の通り、個々の規定量のB、Ti、Nのバランスを最適化すると共に、一定量のNbを添加する。Nbは、粗大な粒界フェライトの生成を十分に抑制し、オーステナイト粒内の結晶粒微細化を達成させるのに有用な元素である。本発明では、この様な効果を十分発揮させるべくNbを0.005%以上含有させる。しかし過剰に含まれていると、硬質相のMA(Martensite-Austenite constituent)が生成し易く、また結晶が一定方向に形成され、HAZ靭性の劣化を招くので、0.016%以下に抑える。
【0020】
HAZの低温靭性をより確実に高めるには、更にC、Siを低減させることが有効である。本発明では、硬質相であるMAの生成を抑制し、約−60℃でのHAZ靭性を確保すべく、C量を0.07%以下に抑える。一方、Cは、鋼板の強度確保に必須の元素でもあることから、0.03%以上含有させる。
【0021】
更に、Siも0.25%以下に低減することにより、MAの生成を十分に抑制でき、HAZの低温靭性を容易に確保することができる。一方、Siは、溶鋼の脱酸に使用されると共に強度向上に有効に作用する元素であるため、0.01%以上含まれていてもよく、好ましくは0.05%以上含有させる。
【0022】
尚、上記の通りHAZ靭性を確実に高めると共に、鋼板(母材)の強度や靭性等その他の特性を具備させるには、上記以外の成分の含有量を下記範囲内とする必要がある。
【0023】
〈Mn:1.20〜1.60%〉
Mnは、SをMnSとして捕捉し、SによるHAZ靭性の劣化を抑制するのに有用な元素である。また、焼入れ性を高めて鋼板の高強度化(高TS化と高YS化)に寄与する元素でもある。こうした作用を有効に発揮させるには、Mnを1.20%以上含有させる必要がある。しかし、Mn量が過剰になるとHAZ靭性が却って劣化するため、1.60%以下に抑える。
【0024】
〈P:0.010%以下(0%を含まない)〉
Pは、HAZ靭性を劣化させる元素であるため極力低減する必要があり、本発明では0.010%以下に抑える。
【0025】
〈S:0.003%以下(0%を含まない)〉
Sは、粗大な硫化物を生成してHAZ靭性を劣化させる元素である。よって極力低減する必要があり、本発明では0.003%以下に抑える。
【0026】
〈Al:0.02〜0.04%〉
Alは、脱酸剤として使用されると共に、AlN系析出物を生成して大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させる元素であり、本発明では0.02%以上含有させる。しかしAl量が過剰になると、アルミナ等の酸化物系介在物が増大すると共に、MAの生成が促進されHAZ靭性が劣化するので、0.04%以下に抑える。
【0027】
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄及び不可避不純物であり、該不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。また、更に下記元素を積極的に含有させることも可能である。
【0028】
〈Cu:0.5%以下、
Ni:0.8%以下、および
V :0.05%以下
よりなる群から選択される1種以上(但し、下記式(2)の範囲内とする)。
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4 …(2)
{式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}〉
Cu、Ni、Vは、いずれも強度確保に有用な元素である。Cuは、固溶強化および析出強化により強度(TSとYS)を高めるのに有効な元素である。しかし過剰に含有させると、熱間加工性を阻害させるため0.5%以下に抑える。
【0029】
Niは、母材の強度と靭性を同時に向上させる元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、0.2%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰な添加はコストアップとなるため0.8%以下に抑える。
【0030】
Vは、焼入れ性を高めて高強度を確保すると共に、焼戻し軟化抵抗を高めるのに有用な元素である。しかし過剰に含まれると、HAZ靭性が劣化するため0.05%以下に抑える。
【0031】
また本発明では、前述の通りNbを0.016%以下に抑制すると共に、Cu、Ni、Nb、Vの含有量を下記式(2)の通り制限することにより、Cu、NiおよびVよりなる群から選択される1種以上を含有させる場合であっても、優れたHAZ靭性を確保することができる。
【0032】
図2は、0.06%C−0.20%Si−1.4%Mn−0.03%Al−0.014Ti−0.0014%B−0.0065%Nを基本成分とし、Cu:0.5%以下、Ni:0.8%以下、およびV:0.05%以下よりなる群から選択される1種以上と規定量のNbを、(Cu+Ni+60Nb+20V)が種々の値となるよう含んだ鋼板を用いて、熱サイクル試験を行い、HAZの低温靭性(vE−60)を後述する実施例の通り測定し、これらの結果を整理したものである。尚、熱サイクル試験は、溶接入熱:60kJ/cm(板厚12mm)を想定して、1400℃×5secに加熱保持後、800℃から500℃までを150secで冷却した。
【0033】
この図2より、Cu:0.5%以下、Ni:0.8%以下およびV:0.05%以下よりなる群から選択される1種以上を含有させる場合、HAZの低温靭性としてvE−60:100J以上を達成させるには、下記式(2)に示す通り、(Cu+Ni+60Nb+20V)の値が1.4%以下となるようにする必要があることが分かる。Nbを0.016%以下に抑制すると共に、上記の通りCu、Ni、Nb、Vの含有量を総合的に制限することにより、硬質相であるMAの生成を抑制して、優れたHAZ靭性を確保することができる。
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4(%) …(2)
{式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
【0034】
〈Ca:0.003%以下(0%を含まない)〉
Caは、HAZ靭性に悪影響を及ぼすSをCaSとして固定すると共に、非金属介在物を粒状に形態制御して靭性を向上させるのに有効な元素である。この様な効果を十分発揮させるには、Caを0.0010%以上含有させることが好ましいが、過剰に含有させても、これらの効果は飽和しHAZ靭性が却って劣化する。よってCa含有量は、0.003%以下とすることが好ましい。
【0035】
本発明は、いわゆる厚板に有利に適用できる。板厚は、約7mm以上であり上限は特に限定されないが、通常40mm以下程度である。
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例
によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0037】
表1,2に示す成分組成の鋼片を1100℃に加熱し、所定の板厚(12mmまたは30mm)まで圧延(圧延終了温度:700〜780℃)し、冷却速度:3〜8℃/秒で550℃まで冷却し、その後空冷した。尚、製造条件は、公知の直接焼入れ・焼戻し等の技術を適用してもHAZの特性に悪影響を及ぼすものでなく、上記条件に限定されない。
【0038】
得られた鋼板について、下記の通り母材特性とHAZ靭性の評価を行った。
【0039】
[母材特性の評価]
各鋼板の全厚から、圧延方向に対して直角の方向にJIS Z 2201の1B試験片を採取して、JISZ 2241の要領で引張試験を行ない、降伏強度(YS)及び引張強度(TS)を測定した。そして、引張強度が440MPa以上のものを高張力であると評価した。
【0040】
また各鋼板の表面側から1mm削った部位から、圧延方向にJISZ 2202のVノッチ試験片を採取して、JISZ 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い、試験温度:−60℃での吸収エネルギー(vE−60)を測定した。そして、該吸収エネルギー(vE−60)が100J以上のものを優れた母材靭性を具備していると評価した。
【0041】
[HAZ靭性の評価]
上記鋼板を用いた片面サブマージアーク溶接をFCB法で実施した。FCB法は銅板の上に裏当てフラックスを敷き、開先裏面に押し当て、表面片側から裏ビードを形成しながら溶接を完了させる方法であり、造船等の板継ぎ溶接で一般的に適用されている。開先形状を図3[(a)は板厚12mmの場合、(b)は板厚30mmの場合]に示す。溶接材料は、下記の低温用鋼溶接材料(神戸製鋼所製)を使用し、図4および表3の溶接条件で溶接継手を作製した。
〈溶接材料〉
・ワイヤ;US−255
・表フラックス;PFI−50LT
・裏当てフラックス;MF−1R
【0042】
そして、表面側から1mm削り、HAZ(ボンド部、ボンド部+1mm[HAZ1mm])の位置に板表面に垂直に切欠きを入れたJISZ 2202のVノッチ試験片を、それぞれ3個採取し、JISZ 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行った。そして、吸収エネルギーの平均値が100J以上のものを、HAZの低温靭性に優れると評価した。これらの結果を表4,5に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表1,2,4,5から次の様に考察することができる(尚、下記No.は、表中の実験No.を示す)。
【0049】
本発明で規定する要件を満たすNo.1〜18の鋼板は、HAZの低温靭性に優れていると共に、母材特性にも優れた高張力鋼板であり、該鋼板を、大入熱片面サブマージアーク溶接法で溶接し、低温条件の用途に用いる場合にも優れた特性を発揮する。
【0050】
これに対し、本発明の規定を満足しないNo.19〜38は、夫々、以下の不具合を有している。
【0051】
即ち、No.19は、C量が上限を超えており、またNo.20は、Si量が上限を超えているため、HAZ靭性に劣っている。
【0052】
No.21は、Mn量が不足しているためHAZ靭性が劣っている。一方、No.22は、Mn量が過剰であるため、優れたHAZ靭性を確保できていない。
【0053】
No.23はP量が過剰であり、またNo.24はS量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。
【0054】
No.25はAl量が不足しており、No.26はAl量が過剰であるため、HAZ靭性に劣っている。また、No.27はNb量が不足しており、No.28はNb量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。
【0055】
No.29はTi量が不足しており、No.30はTi量が過剰であるため、HAZ靭性に劣っている。No.31はB量が不足しており、No.32はB量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。またNo.33はN量が不足しており、一方、No.34はN量が過剰であるため、いずれもHAZ靭性に劣っている。
【0056】
No.35は、(B−NT/1.3)が式(1)の下限を下回っており、またNo.36は、(B−NT/1.3)が式(1)の上限を上回っているため、いずれもHAZ靭性に劣っている。
【0057】
No.37、38は、Cu、NiおよびVよりなる群から選択される1種以上を含むものであるが、式(2)の上限を上回っているため、HAZ靭性に劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(B−NT/1.3)とHAZのvE−60との関係を示すグラフである。
【図2】(Cu+Ni+60Nb+20V)とHAZのvE−60との関係を示すグラフである。
【図3】実施例での溶接における開先形状の断面図を示す。
【図4】FCB溶接時の電極配置の模式図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で(以下同じ)、
C :0.03〜0.07%、
Si:0.01〜0.25%、
Mn:1.20〜1.60%、
P :0.010%以下(0%を含まない)、
S :0.003%以下(0%を含まない)、
Al:0.02〜0.04%、
Nb:0.005〜0.016%、
B :0.0006〜0.0020%、
N :0.0045〜0.0090%、
Ti:0.008〜0.020%
を満たすと共に、下記式(1)を満たし、残部鉄および不可避不純物であることを特徴とする溶接熱影響部の低温靭性に優れた高張力鋼板。
−20≦(B−NT/1.3)≦10 …(1)
{式中、BはB含有量(質量ppm)を示す。
またNTは、
N(N含有量、単位:質量ppm)とTi(Ti含有量、単位:質量ppm)の関係が、
(N−Ti/3.4)≧0である場合には、NT=(N−Ti/3.4)、
(N−Ti/3.4)<0である場合には、NT=0を示す}
【請求項2】
更に、
Cu:0.5%以下、
Ni:0.8%以下、および
V :0.05%以下
よりなる群から選択される1種以上を下記式(2)を満たすように含む請求項1に記載の鋼板。
(Cu+Ni+60Nb+20V)≦1.4 …(2)
{式中、Cu、Ni、Nb、Vは、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す}
【請求項3】
更に、Ca:0.003%以下(0%を含まない)を含む請求項1または2に記載の鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−126724(P2007−126724A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321403(P2005−321403)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】