説明

溶接用コンタクトチップ及び溶接用トーチ

【課題】スパッタ粒子がノズルに付着しにくく、且つ簡素化した二重ガスシールド用の溶接用トーチ及び溶接用コンタクトチップを提供する
【解決手段】コンタクトチップ20は、チップ本体21とこのチップ本体21のワイヤ送給方向の前部に取り付けられるチップノズル22とから構成される。このコンタクトチップ20はノズル30の中心部に配置され、ノズル40とチップノズル22との間の間隙からCOガスが吐出され、チップノズル22からArガスが吐出される。ワイヤ25はArガスに覆われ、更にその外側をCOガスに覆われている。そして、チップノズル22の先端はチップ本体21の先端よりもDだけ突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低スパッタ及び低シールドガスコストを可能とする二重ガスシールド構造の溶接用コンタクトチップ及び溶接用トーチに関し、更に詳述すれば、アルゴン等の不活性ガスと炭酸ガスとの供給を2つのルートに分け、溶接電極としての溶接ワイヤの周りに不活性ガスを、その外側に環状で炭酸ガスを供給する二重ガスシールド構造を可能とする溶接用コンタクトチップ及び溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
シールドガスをCOとして使用する中高電流溶接のCO溶接においては、ワイヤ先端に溶けた溶滴が大きくなり、溶滴が母材に接触して短絡が発生し、アークが再発生するときに、大粒スパッタが発生しやすいことが一般に知られている。この溶滴移行形式は短絡移行といわれる。これに対して、COシールドガスに少なくても80%以上のAr等の不活性ガスを混合させた混合ガスを使用するMAG溶接方法があり、このMAG溶接方法においては、ワイヤ先端の溶滴が小さく、母材と接触せず(短絡が発生せず)に、ワイヤ先端から小さい溶滴がスプレーのように母材に形成された溶融池に移行する。このため、この方法においては、スパッタが殆ど発生しない。この溶滴移行形式はスプレー移行といわれる。
【0003】
しかし、COガスと80%以上の不活性ガスとの混合シールドガスでは、ガスコストがCOガスと比べて2〜3倍高い。更に、MAG溶接の溶接部に微細なガス気孔(ブローホール)が残りやすいという問題点もあり、建築等の業界では依然として大粒のスパッタ粒子の発生を覚悟しながら、CO溶接方法を採用していることが多い。
【0004】
このようなCO溶接の溶滴短絡移行によるスパッタ発生の問題を回避すると共に、シールドガス等の溶接コストが上昇しないようにすることを目的として、溶接ワイヤの周りにAr等の不活性ガスを供給し、その外側にCOガスを供給するというように、異なるガス種を別ルートで供給できるようにし、各ルートからArガスとCOガスとを供給するようにした二重ガスシールド溶接法が提案されている。
【0005】
以下、従来の二重ガスシールド溶接法について説明する。従来の二重ガスシールド溶接法は、2種類のシールドガスを別々のルートから供給するために、図5に示すように、二つのガスノズルを使用している。つまり、溶接トーチはチップ3、内ノズル2、外ノズル1からなる構造を有する。例えば、特許文献1には、内径が18mmの外ノズル1と、内径が8.5mm、外径が11mmの内ノズル2と、外径が4mmの溶接用コンタクトチップ3とからなる二重ガスノズルトーチを用い、スパッタのノズルへの付着量を低減させるために、両ノズル端部におけるガス流動状況をレイノルズ数として規定し、溶接電流電圧の適正範囲を規定することによって、低スパッタ状態を安定して継続させることができると記載されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、図6に示すような二重管構造の二重ガスノズルトーチが提案されている。図6に示す二重管構造のトーチにおいては、導管部内管14の先端の内側にネジが形成されており、このネジにコンタクトチップ13が螺合されて取り付けられている。また、導管部内管14の外面には絶縁管16が外嵌し導管部内管14の外面に螺合している。そして、この絶縁管16の先端にノズル部内管12が取り付けられている。一方、導管部内管14の外側には、この導管部内管14と同軸的に導管部外管15が設けられており、この導管部外管15の先端には、ノズル部外管11が取り付けられている。よって、溶接トーチ先端においては、コンタクトチップ13を中心にして、ノズル外管11とノズル内管12との二重管構造が構成されている。導管部内管12の内側に供給されたガスは、孔18を介して、ノズル内管12とコンタクトチップ13との間の間隙に供給され、このノズル内管12の先端と、コンタクトチップ13の先端との間隙から吐出される。一方、導管部外管15と導管部内管14との間の間隙に供給されたガスは、孔17を介して、ノズル外管11とノズル内管12との間の間隙に供給され、このノズル外管11の先端とノズル内管12の先端との間隙から吐出される。このようにして、コンタクトチップ13の中心から溶接ワイヤが送給され、その外側の内管12とチップ13との間隙からArガスが吐出され、その外側の外管11と内管12との間隙から炭酸ガスが吐出される二十管構造のトーチが構成されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−50247号公報
【特許文献2】実開昭63−62280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の従来技術には、以下に示すような問題点がある。特許文献1と特許文献2に記載された二重ガスシールド溶接方法のいずれの場合も、内ノズルとチップとの隙間、及び内ノズルと外ノズルとの隙間が普通のシングルノズル溶接トーチと比べて、極めて狭い。このように、ガスが吐出する開口部の面積が狭いことにより、溶接中に発生したスパッタが内ノズルとチッブとの間の開口部に付着しやすく、スパッタはその狭い環状不活性ガス流路を詰まらせてしまう。これにより、溶滴のスプレー移行のための不活性ガスの層流及び適正流量が崩されることによって、溶接時間の推移とともに、溶滴のスプレー移行ができなくなり、最終的に、内側のガスノズルが完全に詰まることにより、不活性ガスが流れなくなる。また、スパッタは外ノズルと内ノズルとの間隙にも付着し、その狭い環状COガス流路を詰まらせてしまう。これにより、溶融池を空気から保護するためのCOガスの層流及び適正流量が崩されることによって、空気が溶融池に侵入し、溶接部に気孔及びブローホールの溶接欠陥が発生してしまう。更に、従来の二重ノズルトーチは二つのノズル(二重管)を用いるので、普通のトーチと比べて、どうしても複雑化及び大型化になってしまうという問題点がある。従来の二重ノズルトーチを用いた二重ガスシールド溶接法はこれらの問題によって、20年前に開発されて以来、未だに実用化されていないのが現状である。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、スパッタ粒子がノズルに付着しにくく、且つ簡素化した二重ガスシールド用の溶接用トーチ及び溶接用コンタクトチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶接用コンタクトチップは、中心部を溶接用ワイヤが挿通してこの溶接用ワイヤをガイドすると共に前記溶接用ワイヤに給電するチップ本体と、このチップ本体にチップ本体を外嵌するように取り付けられ先端が前記チップ本体よりもワイヤ送給方向前方に突出しているチップノズルと、前記チップ本体の内面と外面とを連通する孔とを有し、前記チップ本体の内部に供給されたガスが前記孔を介して前記チップノズルと前記チップ本体との間の間隙に供給され、前記チップノズルの先端から吐出されることを特徴とする。
【0011】
このコンタクトチップにおいて、前記チップノズルの先端は、前記チップ本体の先端から、ワイヤ送給方向前方に5乃至15mm突出していることが好ましい。
【0012】
更に、前記チップノズルの材質は絶縁性セラミックス又はカーボンであることが好ましい。
【0013】
本発明に係る溶接用トーチは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンタクトチップと、このコンタクトチップを取り囲むように環状をなしトーチに取り付けられたノズルと、を有し、前記ノズルの先端と前記コンタクトチップのチップノズルとの間の間隙からガスを吐出することを特徴とする。
【0014】
この溶接用トーチにおいては、例えば、前記チップノズルの内側から不活性ガスを吐出し、前記ノズルと前記チップノズルとの間の間隙から炭酸ガスを吐出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶接用コンタクトチップによれば、チップ本体を外嵌するチップノズルが、チップ本体よりもワイヤ送給方向の前方に突出しているので、このコンタクトチップをノズル内に配置した溶接用トーチにおいては、トーチ先端において、チップノズルとノズルとの2重管のみが存在し、溶接ワイヤをガイドするチップ本体はトーチ先端に存在しない。よって、チップノズルの内側の開口部及びノズルとチップノズルとの間隙の開口部は十分に広く、この部分にスパッタが飛来してきても、前記両開口部を閉塞してしまうことが防止される。従って、スパッタのシールドガス流路への詰まりは発生しにくく、長時間溶接しても、溶滴のスプレー化を維持でき、気孔及びブローホールが無い溶接部を得ることができる。また、従来の二重管構造のトーチとは異なり、コンタクトチップの先端部にチップノズルを取り付けるだけであるので、従来の二重管構造のトーチより構造が簡素であり、溶接トーチ全体を小型化することができる。更に、従来の二重管構造のトーチと同様に、二重ガスシールドであるので、混合ガスを使用する場合に比べて、溶滴のスプレー移行のための高価な不活性ガスの供給量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係る溶接用トーチを示す断面図、図2(a)は同じく本実施形態のコンタクトチップ20のチップ本体21を示す断面図、(b)はその先端を示す側面図、(c)は(a)のA−A線及びB−B線の共通断面図、図3(a)はコンタクトチップのチップノズル22を示す断面図、(b)はその先端を示す側面図、図4(a)は溶接トーチのノズル40を示す断面図、(b)はその先端を示す側面図である。
【0017】
コンタクトチップ20はチップ本体21とこのチップ本体21の前部に外嵌されるチップノズル22とからなる。このチップ本体21の中心には、その後部にガス及び溶接ワイヤが通流又は通過するガス流路30と、その前部に溶接ワイヤが通過するワイヤガイド31とが、チップ本体21の軸方向に延びるように形成されている。チップ本体21のワイヤ送給方向の前部32aはその前方部分の外面が前方に向けて縮径しており、その前端面33は外径が最も小さくなっている。チップ本体21の中間部32bは最も大径であり、この中間部32bの後方の後部32cの外周面には、ネジ24が形成されていて、このネジ24がトーチ本体に固定されたチップ支持部23のネジ孔内に螺合されてコンタクトチップ20がトーチに支持されるようになっている。
【0018】
また、チップ本体21の中間部32bと前部32aとの間の外周面にネジ26が形成されている。また、チップノズル22は、全体的には円筒状をなしているが、ワイヤ送給方向の前部34aがチップ本体21の前部32aと同様に前方に向けて縮径している。またチップノズル22の後部34bは均一径であり、その後端部の内面には、ネジ35が形成されている。そして、このネジ35をチップ本体21の中間部のネジ26に螺合することにより、チップノズル22をチップ本体21の前部32aに外嵌した状態でチップノズル22をチップ本体21に取り付けることができる。これにより、図1に示すように、チップノズル22の前部34aはチップ本体21の前部32aに対して所定の間隔を保持するようにこの前部32aを外嵌する。このとき、図1に示すように、チップノズル22の前端部34aはチップ本体21よりも前方に距離Dだけ突出する。このチップノズル22の前端部の突出部は、内径が均一である。
【0019】
チップ本体21の前部32aの後半の均一径の部分には、図2(c)に示すように、その中心から半径方向に延びる4個の孔27が、隣接する孔同士が相互に直交するようにして、形成されている。これらの孔27はガス流路30に連通している。
【0020】
トーチに固定された支持部23の外面には、中間部材42を介して円筒状のノズル40が固定されている。このノズル40は、その前部がコンタクトチップ20の周囲を取り囲んでノズル部となっており、後部が中間部材42を介してトーチ支持部23に固定されている。この中間部材42はその後部がノズル40の内面にネジ44により固定されており、その前部は支持部23の外面にネジ43により固定されている。そして、この中間部材42の中央部の部分には、複数個の貫通孔41が形成されており、ノズル40とチップノズル22との間に形成されるガス流路28と、中間部材42と支持部23との間に形成されるガス流路29とを、貫通孔41により連通するようになっている。
【0021】
これらのチップ本体21、チップノズル22及びノズル40は、例えば、セラミックス、カーボン又はクロム銅合金で形成されている。
【0022】
次に、上述のごとく構成された溶接用コンタクトチップ20を備えた溶接用トーチの動作について説明する。チップ本体21のネジ26にチップノズル22のネジ35を螺合させて、コンタクトチップ20を組み立て、更に、ネジ24をトーチ支持部23のネジ24に螺合させてコンタクトチップ20をトーチ本体に取り付ける。また、ノズル40をネジ44を介して中間部材42に固定し、中間部材42をネジ43を介して支持部23に固定して、ノズル40をチップ支持部23に取り付ける。これにより、チップノズル22の先端がチップ本体21よりワイヤ送給方向前方にDだけ突出し、このチップノズル22の先端とノズル40の先端とがワイヤ送給方向の同一位置に位置する溶接用トーチが構成される。そして、ノズル40とコンタクトチップ20との間の間隙(ガス流路28)に、COガスを供給し、コンタクトチップ中心部のガス流路30にArガスを供給する。これにより、ノズル40とチップノズル22との間のリング状の開口部からCOガスが吐出し、チップノズル22の先端開口部からArガスが吐出する。そして、ガス流路30及びワイヤガイド31を挿通して、ワイヤ25をコンタクトチップ先端から送り出す。そうすると、このワイヤ25はチップ本体21の前部32aのワイヤガイド31にてチップ本体21に接触して給電され、被溶接部50との間でアークを発生する。このとき、被溶接部50とコンタクトチップ20との間のワイヤ25の周囲は、Arガスに覆われており、更にノズル40と被溶接部50との間は、このArガスの周囲がCOガスにより覆われている。これにより、二重ガスシールドの状態でアーク溶接が行われる。従って、CO溶接のような溶滴短絡移行によるスパッタ発生の問題が回避され、溶滴のスプレー移行により溶接が進行するので、スパッタの発生が防止される。しかも、COガスとArガスとを混合するのではなく、別の流路から溶接部に供給するので、シールドガス等のコストが低い。
【0023】
しかも、本実施形態においては、コンタクトチップ20のチップ本体21の先端は、チップノズル22の先端から、Dだけワイヤ送給方向の後方にあり、トーチ先端の位置においては、ノズル40の管端とチップノズル22の管端とのみが存在する。このため、チップノズル22の開口部の大きさと、ノズル40とチップノズル22との間の開口部の大きさは、十分に大きく、アーク溶接時にスパッタが発生しても、このスパッタ粒子は、トーチ先端に付着することはなく、前記開口部を閉塞させてしまうことはない。また、トーチ先端にワイヤに給電するチップ本体21が存在せず、チップノズル22及びノズル40のみが存在するので、トーチ先端部の構造が簡素であり、また装置の小型化が可能である。
【0024】
このように、本発明においては、ワイヤ25をガイド及び給電するためのチップ本体21(従来のチップに相当)と不活性ガスを流すためのチップノズル22(従来の二重ノズルの内ノズルに相当)を一体化したもので、以下に示す利点がある。
【0025】
本発明の二重構造チップのノズル部分の先端からAr等の不活性ガスを流して、従来の二重ノズルトーチのような環状のガス流ではなく、円柱に近い層状のガス流になりやすい。これにより、溶滴のスプレー移行を安定させ、スパッタの発生を抑制することができる。
【0026】
本発明の二重構造チップのノズル部分の先端の断面積を、従来の二重ノズルトーチの内ノズルとチップで形成された環状断面積と比べて、1/2以上小さくすることができ、従って、同じガス流量の場合、本発明の二重構造チップのノズル部分から流れるガス流速が従来より2倍以上速い。これによりスパッタはノズルに付着しようとするとき、速いガス流速(又は、高いガス圧力)で、ノズルに付着しにくくなる。一方、溶滴のスプレー移行を確保するために、ワイヤ周りに流す不活性ガスは、外側のCOの混入を防止できなくてはいけない。そのため、ワイヤ周りに流す不活性ガスにおいて、ある程度の強さ(流速)を持つ層流を求められる。同じガス流量の場合、本発明の二重構造チップのノズル部分の流速は従来の二重ノズルより速いので、高価な不活性ガスの流量を減らすことができる。
【0027】
本発明の二重構造チップは、チップとCOが流れるノズル(従来の二重ノズルの外ノズルに相当)との隙間が普通のトーチ構造と同じく大きいので、スパッタは溶融池を保護する外側のCO流路を詰まらせることなく、気孔やブローホールの無い溶接ができる。
【0028】
本発明の二重構造チップのチップノズルの材質は、セラミックス製又はカーボン製のものを使えば、スパッタの付着を一層防止できる。
【0029】
本発明の二重構造溶接チップにおいて、チップ本体の先端からチップノズルの先端までの距離Dを5乃至15mmとすることが好ましい。この距離Dが5mmより小さいと、スパッタはチップ本体とチップノズルとの隙間に付着して、この隙間を詰まりやすくする。また、Dが15mmより大きいと、チップ本体の先端から母材まで(ワイヤの突出し長さという)の距離が長くなり、ワイヤの抵抗熱による溶融が多くなり、溶滴が大きくなりやすく、スパッタが発生しやすい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の範囲に入る実施例の特性を、本発明の範囲から外れる比較例と比較して、本発明の効果を具体的に説明する。外側のシールドガスとして炭酸ガスを、内シールドガスとしてアルゴンを使用し、平板上にビードオンプレートの溶接を行った。4500駒/秒の高速度ビデオカメラによる溶滴移行形態を撮影するとともに、溶接電流・アーク電圧の波形も記録し、溶滴移行形態を確認し、比較的安定にスプレー移行がしやすい溶接条件を見出し、溶接実験を行った。
【0031】
この溶接条件は以下のとおりである。
ワイヤ:ソリッドワイヤYGW12(直径1.2mm)
溶接電流:300A
アーク電圧:35V
溶接速度:37cm/分。
後述の実施例においては、特にことわらない限り、この共通溶接条件で溶接した。
【0032】
先ず、スプレー移行のための最低限のアルゴンガス流量について試験した(実験例1)。外側のシールドガスを炭酸ガスで15L(リットル)/分とし、内側のシールドガスはアルゴンガスで流量を種々変化させた。そして、4500駒/秒の高速度ビデオカメラの撮影によって溶滴移行形態を確認した。スプレー移行のためには、アルゴンガスが多い方がよいが、このとき、スプレー移行に必要な最小限のアルゴンガスの流量比(COガスとアルゴンガスとの総量に対するアルゴンガスの量の比率)rが、r≦25%であれば、高価なアルゴンガスの流量が少なくて足りるので、評価を「◎(優秀)」とし、25%<r<35%であれば、評価を「◎〜○(やや優秀)」とし、35%≦r≦50%であれば、評価を「○(良好)」とした。一方、r>50%又はアルゴンガスをいくら流してもスプレー移行にならない場合は、評価を「×(不可)」とした。
【0033】
下記表1及び表2は夫々本実施例に用いた本発明の二重ガスシールドチップ及び従来の二重ガスシールドノズルの形状、ガス流量及び流速を示し、スプレー移行のために必要な最小限のアルゴンガス流量を評価した結果を示す。但し、これらの表1及び表2において、dは二重構造チップのノズル部分の先端外径(図1,2の二重構造チップの場合)又は内側ノズル先端の外径(図6の二重ノズルの場合)である。また、dは外側ノズルの先端内径である。更に、dは二重構造チップのノズル部分の先端内径(二重構造チップの場合)又は内側ノズル先端の内径(二重ノズルの場合)である。更にまた、Dは軸方向で二重構造チップのノズル部分の先端とチップ本体部分の先端との距離差(二重構造チップの場合)又は軸方向で内側ノズルの先端とチップ先端との距離差(二重ノズルの場合)である。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
次に、スプレー移行で気孔発生せずに連続溶接できる時間について評価した。外側のシールドガスを炭酸ガスで15L/分とし、内側のシールドガスはアルゴンで流量は実験例1で行った実験結果により、スプレー移行ができたものだけ対象とした。溶接中は、溶接ビードにシールド不良による気孔が発生しているかどうかを常に確認するとともに、3分ごとに溶接電流・アーク電圧の波形を10秒間測定し、短絡が5回以上発生しているかどうかを確認した。溶接ビードにシールド不良による気孔が発生した時点、又は短絡が5回以上発生した時点で、溶接を直ちに終了し、その連続溶接の時間を記録し、評価した。
【0037】
下記表3は連続溶接時間の評価結果を示す。評価基準としては、連続溶接時間が2時間超えると、評価を「◎(優秀)」とし、MAG溶接と同等で長時間溶接可能と判断した。連続溶接時間は1.5時間〜2時間であれば、評価を「◎〜○(やや優秀)」とし、MAG溶接ほど長時間溶接できないが、従来の二重ノズルガスシールド溶接より倍以上長く連続溶接できると判断した。連続溶接時間は1.0時間〜1.5時間であれば、評価を「○(良好)」とし、従来の二重ガスシールド溶接より長時間溶接可能と判断した。連続溶接時間は0.5時間〜1時間であれば、評価を「△(普通)」とし、従来の二重ノズルガスシールド溶接と同等と判断した。連続溶接時間は0.5時間以下であれば、評価を「×(不可)」とした。
【0038】
【表3】

【0039】
次に、上記表3に記載の実施例及び比較例について、二重ガスシールド溶接の効果及び実用価値について、トーチ簡素性、アルゴンの使用比率、溶接経時安定性(連続溶接時間)の3つの観点からMAG溶接及び比較例と比較して、総合的に評価した。その評価結果を下記表4に示す。評価方法としては、総合評価係数S=a×t×(1−r)で評価する。但し、この式中、“a”はトーチ簡素性係数で、トーチ構造の簡素化順を示す。この“a”は、MAG溶接の場合は「3」とし、本発明の二重構造チップは「2」とし、従来の二重ノズルは「1」とした。“t”は連続溶接時間で単位は分である。“r”はアルゴンの使用比率で、単位は%である。総合評価係数Sの値は大きければ大きいほど、実用価値が高い。各実施例61乃至81の総合評価係数Sは、表4に示すように、比較例82乃至86に比べて高く、特にDが5mm〜15mmのものは、総合評価計数Sが更に高く、MAG溶接の場合とほぼ同じか、それ以上である。
【0040】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明のコンタクトチップを用いた二重ガスシールド溶接法は、MAG溶接と同様にスパッタの発生を防止した溶接方法として、極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の溶接トーチの断面図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係るコンタクトチップのチップ本体の構造を示す断面図、(b)は同じくその端面を示す側面図、(c)は(a)のA−A線及びB−B線に示す断面図である。
【図3】(a)は同じく本実施形態のコンタクトチップのチップノズルを示す断面図、(b)はその端面を示す側面図である。
【図4】(a)は同じく本実施形態のノズルを示す断面図、(b)はその端面を示す側面図である。
【図5】特許文献1に開示された従来の二重管構造のノズルの端面を示す図である。
【図6】特許文献2に開示された従来の二重管構造のノズルを示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
20:コンタクトチップ
21:チップ本体
22:チップノズル
27:孔
30:ガス流路
31:ワイヤガイド
40:ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部を溶接用ワイヤが挿通してこの溶接用ワイヤをガイドすると共に前記溶接用ワイヤに給電するチップ本体と、このチップ本体にチップ本体を外嵌するように取り付けられ先端が前記チップ本体よりもワイヤ送給方向前方に突出しているチップノズルと、前記チップ本体の内面と外面とを連通する孔とを有し、前記チップ本体の内部に供給されたガスが前記孔を介して前記チップノズルと前記チップ本体との間の間隙に供給され、前記チップノズルの先端から吐出されることを特徴とする溶接用コンタクトチップ。
【請求項2】
前記チップノズルの先端は、前記チップ本体の先端から、ワイヤ送給方向前方に5乃至15mm突出していることを特徴とする請求項1に記載の溶接用コンタクトチップ。
【請求項3】
前記チップノズルの材質は絶縁性セラミックス又はカーボンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接用コンタクトチップ。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンタクトチップと、このコンタクトチップを取り囲むように環状をなしトーチに取り付けられたノズルと、を有し、前記ノズルの先端と前記コンタクトチップのチップノズルとの間の間隙からガスを吐出することを特徴とする溶接用トーチ。
【請求項5】
前記チップノズルの内側から不活性ガスを吐出し、前記ノズルと前記チップノズルとの間の間隙から炭酸ガスを吐出することを特徴とする請求項4に記載の溶接用トーチ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−167879(P2007−167879A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366753(P2005−366753)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】