説明

溶接用トーチ及びアダプタキット

【課題】一重ノズル構造の溶接用トーチを二重ノズル構造に変換するアダプタキットを提供する。
【解決手段】一重ノズル構造の溶接用トーチ1Aに換装されるアダプタキット20Aであって、ガスケットを取り外した状態で、トーチノズル(インナーノズル)6Aを内側に挿入した状態でトーチボディ5に取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメント7Aと、トーチノズル6Aの周囲を囲んだ状態でアタッチメント7Aに取り付けられると共に、第2のシールドガスから放出するアウターノズル8Aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用トーチ及びそのアダプタキットに関する。
【背景技術】
【0002】
金属や非鉄金属などを母材として用いた構造物(被溶接物)の溶接には、従来よりTIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)又はプラズマアーク溶接等のGTAW(Gas Tungsten Arc welding)と呼ばれる非消耗電極式のガスシールドアーク溶接や、MIG溶接(Metal Inert Gas welding)、MAG溶接(Metal Active Gas welding)又は炭酸ガスアーク溶接等のGMAW(Gas Metal Arc welding)と呼ばれる消耗電極式のガスシールドアーク溶接(半自動アーク溶接とも呼ばれる。)が用いられている。
【0003】
これらの溶接方法では、一般に一重ノズル構造の溶接用トーチを使用し、電極と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。また、溶接中は電極の周囲を囲むノズルからアルゴンやヘリウムといった不活性ガス(シールドガス)を放出し、このシールドガスで大気(空気)を遮断しながら溶接が行われる。
【0004】
また、TIG溶接では、溶接部分の溶け込みを深くする目的で、アルゴンに水素を添加した混合ガスや、アルゴンにヘリウムを添加した混合ガスをシールドガスとして用いている。その他にも、例えばオーステナイト系ステンレス鋼のTIG溶接において、内側に不活性ガスを流し、外側に酸化性ガスを流す二重ノズル構造の溶接用トーチを使用することによって、溶け込み深さを更に深くすることが行われている(特許文献1を参照。)。
【0005】
一方、MIG溶接でも、内側に一次シールドガスを流し、外側に二次シールドガスを流す二重ノズル構造の溶接用トーチが使用されている(特許文献2を参照。)。
【0006】
ここで、図11A及び図11Bに示す従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Aについて説明する。なお、図11Aは、この一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Aの要部断面図であり、図11Bは、この一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Aの組立図である。
【0007】
このTIG溶接用トーチ100Aは、図11A及び図11Bに示すように、被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極101と、非消耗電極101を内側に挿入した状態で支持するコレット102と、非消耗電極101を先端側から突出させた状態でコレット102を内側に保持するコレットボディ103Aと、コレットボディ103Aが取り付けられるトーチボディ104と、非消耗電極101の周囲を囲んだ状態でコレットボディ103Aに取り付けられると共に、シールドガスを放出するトーチノズル105Aと、トーチボディ104とトーチノズル105Aとの間に配置される前側ガスケット106と、トーチボディ104との間に後側ガスケット107を配置した状態で取り付けられるトーチキャップ108と、トーチボディ104に取り付けられるハンドル109とを概略備えている。
【0008】
そして、このTIG溶接用トーチ100Aでは、溶接ケーブルCを接続した後、トーチノズル105Aからシールドガスを放出しながら、非消耗電極101と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。
【0009】
次に、図12A及び図12Bに示す従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Bについて説明する。なお、図12Aは、この一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Bの要部断面図であり、図12Bは、この一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Bの組立図である。
【0010】
このTIG溶接用トーチ100Bは、図12A及び図12Bに示すように、上記コレットボディ103Aの代わりに、ガスレンズタイプのコレットボディ103Bを備えている。このコレットボディ103Bは、トーチノズル105Bから放出されるシールドガスを整流するガスレンズ110と一体に形成されたものからなる。また、トーチノズル105Bは、このコレットボディ103Bの径の拡大に伴って、上記トーチノズル105Aよりも径が拡大している。それ以外は、上記TIG溶接用トーチ100Aと同じ構成を概略備えている。したがって、それ以外の上記TIG溶接用トーチ100Aと同等の部位については、説明を簡略化し、図面において同じ符号を付すものとする。
【0011】
このTIG溶接用トーチ100Bでは、溶接ケーブルCを接続した後、トーチノズル105Bからガスレンズ110により整流されたシールドガスを放出しながら、非消耗電極101と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。このガスレンズタイプのTIG溶接用トーチ100Bでは、トーチノズル105Bから放出されるシールドガスをガスレンズ110で整流することによって、シールドガスによる大気(空気)の遮断効果を高めることが可能である。
【0012】
次に、図13に示す従来の二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Cについて説明する。なお、図13は、この二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Cの要部を断面で示す組立図である。
【0013】
このTIG溶接用トーチ100Cでは、図13に示すように、上記トーチノズル105Aの代わりに、非消耗電極101の周囲を囲んだ状態でコレットボディ103Cに取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するインナーノズル105aと、インナーノズル105aの周囲を囲んだ状態でインナーノズル105aに取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズル105bとを備えている。それ以外は、上記TIG溶接用トーチ100Aと同じ構成を概略備えている。したがって、それ以外の上記TIG溶接用トーチ100Aと同等の部位については、説明を簡略化し、図面において同じ符号を付すものとする。
【0014】
このTIG溶接用トーチ100Cでは、溶接ケーブルCを接続した後、インナーノズル105aから第1のシールドガスを放出し、アウターノズル105bから第2のシールドガスを放出しながら、非消耗電極101と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。この二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Cでは、シールドガスを二重にすることによって、溶け込み深さを更に深くすることが可能である。
【0015】
次に、図14に示す従来の一重ノズル構造のMIG溶接用トーチ200について説明する。なお、図14は、この一重ノズル構造のMIG溶接用トーチ200の要部を断面で示す組立図である。
【0016】
このMIG溶接用トーチ200は、図14に示すように、被溶接物との間でアークを発生させる消耗電極201と、消耗電極201を案内しながら、その先端側から送り出すコンタクトチップ202と、コンタクトチップ202が取り付けられるトーチボディ203と、コンタクトチップ202の周囲を囲んだ状態でトーチボディ203に取り付けられると共に、シールドガスを放出するトーチノズル204と、トーチボディ203に取り付けられるハンドル205とを概略備えている。
【0017】
そして、このMIG溶接用トーチ200では、溶接ケーブルDを接続した後、トーチノズル204からシールドガスを放出しながら、消耗電極201と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。また、このMIG溶接用トーチ200では、消耗電極201自体をアーク中で溶融させながら溶接が行われるため、ハンドル205の内側を通して消耗電極201が自動で送給される仕組みとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−298963号公報
【特許文献2】特開昭51−50838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、上述した従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100A,100Bと、従来の二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Cとの間では、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換したり、一重ノズル構造から二重ノズル構造に変換したりすることができないため、それぞれ別個に用意しなければならず、購入コストも嵩むため、非常に不便であった。また、上述したMIG溶接用トーチ200においても、同様の不便さがあった。
【0020】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、二重ノズル構造から一重ノズル構造に容易に変換できる溶接用トーチ、並びに、一重ノズル構造の溶接用トーチを二重ノズル構造に容易に変換できるアダプタキットを安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明に係る溶接用トーチは、被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極と、非消耗電極を内側に挿入した状態で支持するコレットと、非消耗電極を先端から突出させた状態でコレットを内側に保持するコレットボディと、コレットボディが取り付けられると共に、コレットボディ及びコレットを介して非消耗電極に電力を供給する給電部と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、非消耗電極の周囲を囲んだ状態でコレットボディに取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するインナーノズルと、インナーノズルを内側に挿入した状態でトーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、インナーノズルの周囲を囲んだ状態でアタッチメントに取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備えることを特徴とする。
【0022】
以上のような構成を有する溶接用トーチでは、アタッチメント及びアウターノズルを取り外した後に、トーチボディとの間にガスケットを配置した状態でインナーノズルをコレットボディに取り付けることによって、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換される。
【0023】
また、本発明に係る溶接用トーチは、被溶接物との間でアークを発生させる消耗電極と、消耗電極を案内しながら、その先端側から送り出すコンタクトチップと、コンタクトチップが取り付けられると共に、コンタクトチップを介して消耗電極に電力を供給する給電部と、消耗電極をコンタクトチップへと送給する送給路と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、コンタクトチップの周囲を囲んだ状態でトーチボディに取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するインナーノズルと、インナーノズルを内側に挿入し、且つ、インナーノズルとの間にスペーサを配置した状態でトーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、インナーノズルの周囲を囲んだ状態でアタッチメントに取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備えることを特徴とする。
【0024】
以上のような構成を有する溶接用トーチでは、アタッチメント、アウターノズル及びスペーサを取り外すことによって、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換される。
【0025】
また、本発明に係るアダプタキットは、被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極と、非消耗電極を内側に挿入した状態で支持するコレットと、非消耗電極を先端側から突出させた状態でコレットを内側に保持するコレットボディと、コレットボディが取り付けられると共に、コレットボディ及びコレットを介して非消耗電極に電力を供給する給電部と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、非消耗電極の周囲を囲んだ状態でコレットボディに取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するトーチノズルと、トーチボディとトーチノズルとの間に配置されるガスケットとを備える溶接用トーチに換装されるものであって、ガスケットを取り外した後に、トーチノズルを内側に挿入した状態でトーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、トーチノズルの周囲を囲んだ状態でアタッチメントに取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備えることを特徴とする。
【0026】
以上のような構成を有するアダプタキットを換装した溶接用トーチでは、一重ノズル構造から二重ノズル構造に変換される。
【0027】
また、本発明に係るアダプタキットは、被溶接物との間でアークを発生させる消耗電極と、消耗電極を案内しながら、その先端側から送り出すコンタクトチップと、コンタクトチップが取り付けられると共に、コンタクトチップを介して消耗電極に電力を供給する給電部と、消耗電極をコンタクトチップへと送給する送給路と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、コンタクトチップの周囲を囲んだ状態でトーチボディに取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するトーチノズルとを備える溶接用トーチに換装されるアダプタキットであって、トーチノズルを内側に挿入し、且つ、トーチノズルとの間にスペーサを配置した状態でトーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、トーチノズルの周囲を囲んだ状態でアタッチメントに取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備えることを特徴とする。
【0028】
以上のような構成を有するアダプタキットを換装した溶接用トーチでは、一重ノズル構造から二重ノズル構造に変換される。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、二重ノズル構造から一重ノズル構造に容易に変換できる溶接用トーチ、並びに、一重ノズル構造の溶接用トーチを二重ノズル構造に容易に変換できるアダプタキットを安価に提供することが可能である。さらに、このアダプタキットを非消耗電極式の溶接用トーチと、消耗電極式の溶接用トーチとの間で共用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明のアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの一例を示す分解斜視図である。
【図2A】図2Aは、図1に示すアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの要部断面図である。
【図2B】図2Bは、図1に示すアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの組立図である。
【図3】図3は、本発明のアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの他例を示す分解斜視図である。
【図4A】図4Aは、図3に示すアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの要部断面図である。
【図4B】図4Bは、図3に示すアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの組立図である。
【図4C】図4Cは、図3に示すアダプタキットを換装したTIG溶接用トーチの変形例を示す要部断面図である。
【図5】図5は、本発明のアダプタキットを換装したMIG溶接用トーチの一例を示す分解側面図である。
【図6】図6は、図5に示すアダプタキットを換装したMIG溶接用トーチの組立図である。
【図7】図7は、図5に示すアダプタキットを換装したMIG溶接用トーチの要部断面図である。
【図8A】図8Aは、本発明のアダプタキットを換装したMIG溶接用トーチの他例を示す組立図である。
【図8B】図8Bは、本発明のアダプタキットを換装したMIG溶接用トーチの他例を示す要部断面図である。
【図8C】図8Cは、本発明のアダプタキットを換装したMIG溶接用トーチの他例を示す要部平面図である。
【図9】図9は、本発明のアダプタキットの変形例を示す要部平面図である。
【図10A】図10Aは、図8A〜図8Cに示すアダプタキットの変形例を示す要部平面図である。
【図10B】図10Bは、図9に示すアダプタキットの変形例を示す要部平面図である。
【図11A】図11Aは、従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチの一例を示す要部断面図である。
【図11B】図11Bは、従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチの一例を示す組立図である。
【図12A】図12Aは、従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチの他例を示す要部断面図である。
【図12B】図12Bは、従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチの他例を示す組立図である。
【図13】図13は、従来の二重ノズル構造のTIG溶接用トーチの一例を示し、その要部を断面で示す組立図である。
【図14】図14は、従来の一重ノズル構造のMIG溶接用トーチの一例を示し、その要部を断面で示す組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を適用した溶接用トーチ及びアダプタキットについて、図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態として図1及び図2A及び図2Bに示す本発明のアダプタキット20Aを換装したTIG溶接用トーチ1Aについて説明する。
なお、図1は、このTIG溶接用トーチ1Aの構成を示す分解斜視図であり、図2Aは、このTIG溶接用トーチ1Aの要部断面図、図2Bは、このTIG溶接要トーチ1Aの組立図である。
【0032】
このTIG溶接用トーチ1Aは、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換可能なTIG溶接用トーチである。換言すると、このTIG溶接用トーチ1Aは、上記図11A及び図11Bに示す従来のTIG溶接用トーチ100Aに、本発明のアダプタキット20Aを換装することによって、一重ノズル構造から二重ノズル構造に変換されたTIG溶接用トーチである。
【0033】
具体的に、このTIG溶接用トーチ1Aは、図1、図2A及び図2Bに示すように、被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極2と、非消耗電極2を内側に挿入した状態で支持するコレット3と、非消耗電極2を先端側から突出させた状態でコレット3を内側に保持するコレットボディ4Aと、コレットボディ4Aが取り付けられるトーチボディ5と、非消耗電極2の周囲を囲んだ状態でコレットボディ4Aに取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するインナーノズル6Aと、インナーノズル6Aを内側に挿入した状態でトーチボディ5に取り付けられるアタッチメント7Aと、インナーノズル6Aの周囲を囲んだ状態でアタッチメント7Aに取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズル8Aと、トーチボディ5との間に後側ガスケット9を配置した状態で取り付けられるトーチキャップ10と、トーチボディ5に取り付けられるハンドル11とを概略備えている。
【0034】
非消耗電極2は、例えばタングステンなどの融点の高い金属材料を用いて形成された長尺状の電極棒からなる。
【0035】
コレット3は、例えば銅又は銅合金などの電気伝導性及び熱伝導性に優れた金属材料を用いて形成された概略円筒状の部材からなる。このコレット3は、軸線方向に貫通する貫通孔3aを有し、この貫通孔3aの内側に挿入された非消耗電極2を軸線方向にスライド可能に支持する。また、コレット3の先端側には、複数のスリット3bが周方向に並んで設けられている。これら複数のスリット3bは、コレット3の先端から軸線方向の中途部に亘って直線状に切り欠かれている。これにより、各スリット3bの間の先端部分3cが縮径方向に弾性変形可能となっている。また、コレット3の先端部には、漸次縮径されたテーパー部3dが設けられている。一方、コレット3の基端部には、その周囲よりも拡径された拡径部3eが設けられている。
【0036】
コレットボディ4Aは、銅又は銅合金などの電気伝導性及び熱伝導性に優れた材料を用いて形成された概略円筒状の部材からなる。このコレットボディ4Aは、軸線方向に貫通する貫通孔4aを有し、この貫通孔4aの基端側から挿入されたコレット3を内側に保持する。また、コレットボディ4Aの貫通孔4aは、トーチボディ5側から供給された第1のシールドガスが流れる流路を形成している。また、コレットボディ4Aの先端部は、貫通孔4aと共に漸次縮径されており、貫通孔4aの先端部からは非消耗電極2のみを突出させることが可能となっている。さらに、コレットボディ4Aの先端側には、第1のシールドガスを噴出される複数の噴出孔4bが周方向に並んで設けられている。そして、このコレットボディ4Aは、その基端側をネジ止めによってトーチボディ5に着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0037】
トーチボディ5は、上述したコレット3やコレットボディ4Aよりも熱伝導率が低い導電性金属材料、例えば軟鋼やステンレス鋼などの鋼材又は真鍮等を用いて形成された本体金具12を有し、この本体金具12が絶縁樹脂により被覆された構造を有している。
【0038】
本体金具12は、コレットボディ4A及びコレット3を介して非消耗電極2に電力を供給する給電部を形成するものであり、また、その内側がコレットボディ4Aに向かって第1のシールドガスを供給する流路を形成している。
【0039】
本体金具12は、概略円筒状に形成された部分(以下、円筒部分という。)12aの一端側(先端側)にコレットボディ4Aと、それとは反対側(後端側)にトーチキャップ10とを、それぞれネジ止めにより着脱自在に取り付けることが可能となっている。また、本体金具12は、この円筒部分12aの中途部から下方に向かって概略管状に延長された部分(以下、延長部分という。)12bの先端に接続部12cを有し、この接続部12cに溶接ケーブルCをネジ止めにより着脱自在に接続することが可能となっている。溶接ケーブルCは、外部電源から本体金具12に電力を供給する給電ケーブルと、本体金具12に第1のシールドガスを導入するホースとが一体化されたものからなる。
【0040】
インナーノズル6Aは、上記コレットボディ4Aの噴出孔4bから噴出された第1のシールドガスの整流を行うと共に、溶接時に飛散するスパッタの混入を防ぐものであり、耐熱性に優れたセラミックなどを用いて概略円筒状に形成されると共に、その先端側が漸次縮径されたノズル形状を有している。そして、このインナーノズル6Aは、コレットボディ4Aの外周部にネジ止めにより着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0041】
アタッチメント7Aは、アウターノズル8Aと共に本発明のアダプタキット20Aを構成するものであり、上記図11A及び図11Bに示す従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Aの前側ガスケット106の代わりに、トーチボディ5とインナーノズル6Aとの間に挟み込まれた状態で取り付けられている。
【0042】
アタッチメント7Aは、例えば絶縁性の樹脂材料や金属材料等を用いて概略円筒状に形成された部材からなる。このアタッチメント7Aは、軸線方向に貫通する貫通孔7aを有し、この貫通孔7aの基端側からコレットボディ4Aを挿入した状態で、この貫通孔7aの先端側からコレットボディ4Aの外周部にインナーノズル6Aを取り付けることが可能となっている。
【0043】
また、アタッチメント7Aには、第2のシールドガスを供給する流路13と、第2のシールドガスを噴出する複数の噴出孔14と、第2のシールドガスを導入するホース(図示せず。)が接続される接続部15と設けられている。このうち、流路13は、アタッチメント7Aの内部で貫通孔7aの周囲を囲むようにリング状に形成されている。一方、複数の噴出孔14は、アタッチメント7Aの前面側の貫通孔7aの周囲を囲む位置に等間隔に並んで設けられている。そして、各噴出孔14は、アタッチメント7Aの前面側から軸線方向に延長されて流路13と連通されている。一方、接続部15は、アタッチメント7Aの外周部に設けられて流路13と連通されている。また、この接続部15には、ホースの接続を容易にするため、例えば流量調整式のワンタッチカプラーが取り付けられている。
【0044】
アウターノズル8Aは、上記アタッチメント7Aの噴出孔14から噴出された第2のシールドガスの整流を行うと共に、溶接時に飛散するスパッタの混入を防ぐものであり、インナーノズル6Aほど熱の影響を受けないため、例えばステンレス鋼などの金属材料等を用いて概略円筒状に形成されている。そして、このアウターノズル8Aは、アタッチメント7Aの外周部にネジ止めにより着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0045】
また、インナーノズル6Aとアウターノズル8Aとの間には、アウターノズル8Aから放出される第2のシールドガスを整流するガスレンズ16が配置されている。このガスレンズ16は、金属製のメッシュ部材からなり、リング状に形成されてインナーノズル6Aを挿通させた状態でアウターノズル8Aの内側に保持されている。なお、このガスレンズ16は、必ずしも必要なものではなく、場合によって省略することも可能である。
【0046】
トーチキャップ10は、後側ガスケット9と共にトーチボディ5の後端側を封止するものであり、非消耗電極2の後端側を内側に収納するように概略キャップ状に形成されている。また、このトーチキャップ10は、トーチボディ5の本体金具12に取り付けられたとき、その先端部がコレット3の基端部に当接しながら、コレット3を先端側に向かって押圧する。このとき、コレットボディ4Aの貫通孔4aに挿入されたコレット3の先端面(テーパー部3d)が貫通孔4aの先端面に押し付けられることによって、このコレット3の先端部分3cが縮径方向に弾性変形する。これにより、コレット3の先端部分3cが非消耗電極2を挟持し、この非消耗電極2をコレット3内に固定した状態とすることができる。
【0047】
ハンドル11は、使用者が把持する部分であり、概略パイプ状に形成されて、トーチボディ5の延長部分12bに取り付けられている。そして、溶接ケーブルCは、このハンドル11の内側を通して上記トーチボディ5の接続部12cに接続可能となっている。
【0048】
以上のような構造を有するTIG溶接用トーチ1Aでは、インナーノズル6Aの先端から第1のシールドガスとして、例えばアルゴンやヘリウムといった不活性ガスを放出し、アウターノズル8Aの先端からガスレンズ16により整流された第2のシールドガスとして、例えばアルゴンに水素を添加した混合ガスや、アルゴンにヘリウムを添加した混合ガスを放出しながら、非消耗電極2と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。
【0049】
この二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ1Aでは、シールドガスを二重にすることによって、溶け込み深さを深くすることが可能である。また、このTIG溶接用トーチ1Aでは、アウターノズル8Aから放出されるシールドガスをガスレンズ16で整流することによって、シールドガスによる大気(空気)の遮断効果を高めることが可能である。
【0050】
本発明では、上記本発明のアダプタキット20Aを構成するアタッチメント7A及びアウターノズル8Aを取り外すことによって、この二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ1Aを一重ノズル構造のTIG溶接用トーチに変換できる。すなわち、このTIG溶接用トーチ1Aでは、上記本発明のアダプタキット20Aを構成するアタッチメント7A及びアウターノズル8Aを取り外した後に、上記図11A及び図11Bに示す前側ガスケット106をトーチボディ5とインナーノズル6Aとの間に配置する。これにより、このTIG溶接用トーチ1Aを二重ノズル構造から一重ノズル構造に容易に変換できる。
【0051】
また、本発明では、上記図11A及び図11Bに示す従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Aに、本発明のアダプタキット20Aを換装することによって、二重ノズル構造に変換できる。すなわち、上記TIG溶接用トーチ100Aでは、上記前側ガスケット106を取り外した後に、上記本発明のアダプタキット20Aを構成するアタッチメント7A及びアウターノズル8Aを取り付ける。これにより、このTIG溶接用トーチ100Aを一重ノズル構造から二重ノズル構造に容易に変換できる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態として図3、図4A及び図4Bに示す本発明のアダプタキット20Bを換装したTIG溶接用トーチ1Bについて説明する。
なお、図3は、このTIG溶接用トーチ1Bの構成を示す分解斜視図であり、図4Aは、このTIG溶接用トーチ1Bの要部断面図であり、図4Bは、この溶接要トーチ1Bの組立図である。
【0053】
このTIG溶接用トーチ1Bは、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換可能なTIG溶接用トーチである。換言すると、このTIG溶接用トーチ1Bは、上記図12A及び図12Bに示す従来のTIG溶接用トーチ100Bに、本発明のアダプタキット20Bを換装することによって、一重ノズル構造から二重ノズル構造に変換されたTIG溶接用トーチである。
【0054】
具体的に、このTIG溶接用トーチ1Bは、図3、図4A及び図4Bに示すように、上記コレットボディ4Aの代わりに、ガスレンズタイプのコレットボディ4Bを備えている。このコレットボディ4Bは、インナーノズル6Bから放出される第1のシールドガスを整流するガスレンズ17と一体に形成されたものからなる。また、インナーノズル6Bは、このコレットボディ4Bの径の拡大に伴って、上記インナーノズル6Aよりも径が拡大している。また、本発明のアダプタキット20Bを構成するアタッチメント7B及びアウターノズル8Bも、インナーノズル6Bの径の拡大に伴って、サイズ変更が行われている。それ以外は、上記TIG溶接用トーチ1Aと同じ構成を概略備えている。したがって、それ以外の上記TIG溶接用トーチ1Aと同等の部位については、説明を簡略化し、図面において同じ符号を付すものとする。
【0055】
以上のような構造を有するTIG溶接用トーチ1Bでは、インナーノズル6Bの先端からガスレンズ17により整流された第1のシールドガスとして、例えばアルゴンやヘリウムといった不活性ガスを放出し、アウターノズル8Bの先端からガスレンズ16により整流された第2のシールドガスとして、例えばアルゴンに水素を添加した混合ガスや、アルゴンにヘリウムを添加した混合ガスを放出しながら、非消耗電極2と被溶接物との間でアークを発生させて溶接が行われる。
【0056】
この二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ1Bでは、シールドガスを二重にすることによって、溶け込み深さを深くすることが可能である。また、このガスレンズタイプのTIG溶接用トーチ1Bでは、インナーノズル6B及びアウターノズル8Bから放出されるシールドガスをガスレンズ17,16で整流することによって、シールドガスによる大気(空気)の遮断効果を高めることが可能である。
【0057】
本発明では、上記本発明のアダプタキット20Bを構成するアタッチメント7B及びアウターノズル8Bを取り外すことによって、この二重ノズル構造のTIG溶接用トーチ1Bを一重ノズル構造のTIG溶接用トーチに変換できる。すなわち、このTIG溶接用トーチ1Bでは、上記本発明のアダプタキット20Bを構成するアタッチメント7B及びアウターノズル8Bを取り外した後に、上記図12A及び図12Bに示す前側ガスケット106をトーチボディ5Bとインナーノズル6Bとの間に配置する。これにより、このTIG溶接用トーチ1Bを二重ノズル構造から一重ノズル構造に容易に変換できる。
【0058】
また、本発明では、上記図12A及び図12Bに示す従来の一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100Bに、本発明のアダプタキット20Bを換装することによって、二重ノズル構造に変換できる。すなわち、上記TIG溶接用トーチ100Bでは、上記前側ガスケット106を取り外した後に、上記本発明のアダプタキット20Bを構成するアタッチメント7B及びアウターノズル8Bを取り付ける。これにより、このTIG溶接用トーチ100Bを一重ノズル構造から二重ノズル構造に容易に変換できる。
【0059】
なお、上記TIG溶接用トーチ1Bに上記本発明のアダプタキット20Bを換装する場合には、例えば図4Cに示すように、上記アタッチメント7Bと上記インナーノズル6Bとの間にスペーサ21を配置した構成としてもよい。
【0060】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として図5、図6及び図7に示す本発明のアダプタキット30を換装したMIG溶接用トーチ40について説明する。
なお、図5は、このMIG溶接用トーチ40の構成を示す分解側面図であり、図6は、このMIG溶接用トーチ40の組立図であり、図7は、このMIG溶接用トーチ40の要部断面図である。
【0061】
このMIG溶接用トーチ40は、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換可能なMIG溶接用トーチである。換言すると、このMIG溶接用トーチ40は、上記図14に示す従来のMIG溶接用トーチ200に、本発明のアダプタキット30を換装することによって、一重ノズル構造から二重ノズル構造に変換されたMIG溶接用トーチである。
【0062】
具体的に、このMIG溶接用トーチ40は、図5、図6及び図7に示すように、被溶接物との間でアークを発生させる消耗電極41と、消耗電極41を案内しながら、その先端側から送り出すコンタクトチップ42と、コンタクトチップ42が取り付けられるトーチボディ43と、コンタクトチップ42の周囲を囲んだ状態でトーチボディ43に取り付けられると共に、第1のシールドガスを放出するインナーノズル44と、インナーノズル44を内側に挿入し、且つ、インナーノズル44との間にスペーサ45を配置した状態でトーチボディに取り付けられるアタッチメント46と、インナーノズル44の周囲を囲んだ状態でアタッチメント46に取り付けられると共に、第2のシールドガスを放出するアウターノズル47と、トーチボディ43に取り付けられるハンドル48とを概略備えている。
【0063】
消耗電極41は、溶接ワイヤーからなり、この溶接ワイヤーは、アーク中で溶融しながら消耗される。このため、MIG溶接用トーチ40は、この溶接ワイヤー(消耗電極41)を自動で送給するための送給装置(図示を省略する。)を備えている。なお、消耗電極41の材質については、被溶接物の母材に合わせて従来公知のものの中から最適な溶接材料からなるものを適宜選択して使用すればよい。
【0064】
コンタクトチップ42は、例えば銅又は銅合金などの電気伝導性及び熱伝導性に優れた金属材料を用いて形成された概略円筒状の部材からなる。このコンタクトチップ42は、軸線方向に貫通する貫通孔42aを有し、この貫通孔42aを通して消耗電極41を先端側へと送り出すことが可能となっている。また、コンタクトチップ42の貫通孔42aは、トーチボディ43側から供給された第1のシールドガスが流れる流路を形成している。さらに、コンタクトチップ42には、第1のシールドガスを噴出される複数の噴出孔42bが周方向に並んで設けられている。そして、このコンタクトチップ42は、その基端側をネジ止めによってトーチボディ43に着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0065】
トーチボディ43は、上述したコンタクトチップ42よりも熱伝導率が低い導電性金属材料、例えば軟鋼やステンレス鋼などの鋼材又は真鍮等を用いて形成された概略円筒状の本体金具(図示せず。)を有し、この本体金具が絶縁樹脂により被覆された構造を有している。
【0066】
本体金具は、コンタクトチップ42を介して消耗電極41に電力を供給する給電部を形成するものであり、また、その内側がコンタクトチップ42に向かって消耗電極41を送給する送給路を形成している。さらに、その内側がコンタクトチップ42に向かって第1のシールドガスを供給する流路を形成している。そして、この本体金具の一端側(先端側)にコンタクトチップ42をネジ止めにより着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0067】
インナーノズル44は、上記コンタクトチップ42の噴出孔42bから噴出された第1のシールドガスの整流を行うと共に、溶接時に飛散するスパッタの混入を防ぐものであり、耐熱性に優れた金属材料等を用いて概略円筒状に形成されたノズル形状を有している。そして、このインナーノズル44は、トーチボディ43の外周部にネジ止めにより着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0068】
スペーサ45は、アタッチメント46をトーチボディ43の外周部に取り付ける際に、アタッチメント46とトーチボディ43との間に形成される隙間に挿入されるものであり、例えば、絶縁性の樹脂材料や金属材料等を用いて、全体が円筒状に形成されると共に、その基端側に全周に亘ってフランジ部が設けられた形状を有している。また、スペーサ45には、アタッチメント46をトーチボディ43の外周部に取り付けるためのネジ孔45aが周方向に複数(例えば3箇所)並んで設けられている。
【0069】
アタッチメント46は、例えば絶縁性の樹脂材料や金属材料等を用いて概略円筒状に形成された部材からなる。このアタッチメント46は、その中心部を軸線方向に貫通する貫通孔46aと、その外周部において周方向に並ぶ複数(例えば3箇所)のネジ孔46bとを有している。そして、このアタッチメント46は、貫通孔46aの基端側からスペーサ45を挿入した状態で、各ネジ孔46bをスペーサ45の各ネジ孔45aと一致させた状態で、これらネジ孔46b,45aに螺合されたネジ(図示せず。)の先端部をトーチボディ43の外周部に当接させることによって、このトーチボディ43の外周部に着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0070】
また、アタッチメント46には、第2のシールドガスを供給する流路49と、第2のシールドガスを噴出する複数の噴出孔50と、第2のシールドガスを導入するホース(図示せず。)が接続される接続部51と設けられている。このうち、流路49は、アタッチメント46の内部で貫通孔46aの周囲を囲むようにリング状に形成されている。一方、複数の噴出孔50は、アタッチメント46の前面側の貫通孔46aの周囲を囲む位置に等間隔に並んで設けられている。そして、各噴出孔50は、アタッチメント46の前面側から軸線方向に延長されて流路49と連通されている。一方、接続部51は、アタッチメント46の外周部に設けられて流路49と連通されている。また、この接続部51には、ホースの接続を容易にするため、例えば流量調整式のワンタッチカプラーが取り付けられている。
【0071】
アウターノズル47は、上記アタッチメント46の噴出孔50から噴出された第2のシールドガスの整流を行うと共に、溶接時に飛散するスパッタの混入を防ぐものであり、インナーノズル44ほど熱の影響を受けないため、例えばステンレス鋼などの金属材料等を用いて概略円筒状に形成されている。そして、このアウターノズル47は、アタッチメント46の外周部にネジ止めにより着脱自在に取り付けることが可能となっている。
【0072】
また、インナーノズル44とアウターノズル47との間には、アウターノズル47から放出される第2のシールドガスを整流するガスレンズ52が配置されている。このガスレンズ52は、金属製のメッシュ部材からなり、リング状に形成されてインナーノズル44を挿通させた状態でアウターノズル47の内側に保持されている。なお、このガスレンズ52は、必ずしも必要なものではなく、場合によって省略することも可能である。
【0073】
ハンドル48は、使用者が把持する部分であり、上記トーチボディ43の他端側(後端側)に設けられた接続部に着脱自在に取り付けられている。そして、このハンドル48の内側を通して上記トーチボディ43の接続部に溶接ケーブルDがネジ止め等により接続可能となっている。
【0074】
溶接ケーブルDは、外部電源から上記トーチボディ43の本体金具(給電部)に電力を供給する給電ケーブルと、本体金具(流路)に第1のシールドガスを導入すると共に、本体金具(送給路)に消耗電極41を送給するライナーとが一体化されたものからなる。
【0075】
以上のような構造を有するMIG溶接用トーチ40では、インナーノズル44の先端から第1のシールドガスとして、例えばアルゴンにヘリウムと炭酸を添加した3種混合ガスを放出し、アウターノズル47の先端からガスレンズ52により整流された第2のシールドガスとして、例えばアルゴンを放出しながら、消耗電極41と被溶接物との間でアークを発生させて、このアーク中で消耗電極41を溶融させながら溶接が行われる。
【0076】
この二重ノズル構造のMIG溶接用トーチ40では、シールドガスを二重にすることによって、アルゴンより高価なヘリウムの消費量を低減でき、溶け込み深さを深くすることが可能である。また、このMIG溶接用トーチ40では、アウターノズル47から放出されるシールドガスをガスレンズ52で整流することによって、シールドガスによる大気(空気)の遮断効果を高めることが可能である。
【0077】
また、上記第2のシールドガスとして、例えばアルゴンと水素の混合ガスを用いた場合には、水素の還元作用により溶接ビードの酸化を低減することができる。
【0078】
本発明では、上記本発明のアダプタキット30を構成するアタッチメント46、アウターノズル47及びスペーサ45を取り外すことによって、この二重ノズル構造のMIG溶接用トーチ40を一重ノズル構造のMIG溶接用トーチに変換できる。すなわち、このMIG溶接用トーチ40は、上記本発明のアダプタキット30を構成するアタッチメント46、アウターノズル47及びスペーサ45を取り外す。これにより、このMIG溶接用トーチ40を二重ノズル構造から一重ノズル構造に容易に変換できる。
【0079】
また、本発明では、上記図14に示す従来の一重ノズル構造のMIG溶接用トーチ200に、本発明のアダプタキット30を換装することによって、二重ノズル構造に変換できる。すなわち、上記MIG溶接用トーチ200では、上記本発明のアダプタキット30を構成するアタッチメント46、アウターノズル47及びスペーサ45を取り付ける。これにより、このMIG溶接用トーチ200を一重ノズル構造から二重ノズル構造に容易に変換できる。
【0080】
以上のように、本発明によれば、二重ノズル構造から一重ノズル構造に容易に変換できるTIG溶接用トーチ1A,1B及びMIG溶接用トーチ40、並びに、一重ノズル構造のTIG溶接用トーチ100A,100B及びMIG溶接用トーチ200を二重ノズル構造に容易に変換できるアダプタキット20A,20B,30を安価に提供することが可能である。
【0081】
また、本発明では、上記TIG溶接用トーチ1A,1Bと、上記MIG溶接用トーチ40との間で、上記アダプタキット20A,20B,30を共用することも可能である。すなわち、上記TIG溶接用トーチ1A,1Bに換装されるアダプタキット20A,20Bと、上記MIG溶接用トーチ40に換装されるアダプタキットとは、基本的に同じ構成を有している。一方、上記TIG溶接用トーチ1A,1Bと上記MIG溶接用トーチ40との間で、上記アダプタキット20A,20B,30を共用する場合は、その外径の違いに合わせて、上記スペーサ21,45を配置し、ネジ止め等により一体化して使用することが可能である。
【0082】
同様に、既存のTIG溶接用トーチやMIG溶接用トーチ等の中にも外径の異なるものがある。したがって、これら既存の溶接用トーチに上記アダプタキット20A,20B,30を換装する場合も、その外径に合わせたスペーサ21,45を配置することで、外径の異なる溶接用トーチの間で上記アダプタキット20A,20B,30を共用することが可能である。
【0083】
なお、本発明は、上記第1乃至第3の実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0084】
具体的に、本発明では、例えば図8A、図8B及び図8Cに示すようなアダプタキット30Aを換装したMIG溶接用トーチ40Aとすることも可能である。
このMIG溶接用トーチ40Aは、アダプタキット30Aを構成するアウターノズル47Aが、溶接後の溶接ビードの周囲を囲むアフターシールド構造を有する以外は、上記アダプタキット30を換装したMIG溶接用トーチ40と同様の構成を有している。したがって、それ以外の上記MIG溶接用トーチ40と同等の部位については、説明を簡略化し、図面において同じ符号を付すものとする。
【0085】
具体的に、このアウターノズル47Aは、図8A、図8B及び図8Cに示すように、上記アウターノズル47の代わりに、上記アタッチメント46の外周部に取り付けられたものであり、上記インナーノズル44の周囲を囲む位置から溶接線方向の後方に向かって溶接ビードの周囲を囲む位置まで、概略楕円筒状に形成されている。
【0086】
また、このアウターノズル47Aと上記インナーノズル44との間には、アウターノズル47から放出される第2のシールドガスを整流するガスレンズ52Aが配置されている。そして、このガスレンズ52Aは、上記インナーノズル44を挿通させた状態でアウターノズル47Aの内側に保持されている。なお、このガスレンズ52Aは、必ずしも必要なものではなく、場合によって省略することも可能である。
【0087】
以上のような構造を有するMIG溶接用トーチ40Aでは、このアウターノズル47Aから放出される第2のシールドガスによって、溶接直後に形成される溶接ビート及びその近傍を大気(空気)から遮断しながら、溶接を行うことが可能である。
【0088】
また、このアフターシールド構造を有するアウターノズル47Aの形状については、上記図8Cに示す形状に限らず、例えば図9に示すアウターノズル47Bのように、上記インナーノズル44の周囲を囲む位置から溶接線方向の後方に向かって溶接ビードの周囲を囲む位置まで、概略矩形筒状に形成されたものであってもよい。
【0089】
また、上記TIG溶接用トーチ1A,1B及び上記MIG溶接用トーチ40,40Aでは、何れも空冷式のアウターノズル8A,8B,47,47Aを備えた構成となっているが、このような空冷式に限らず、例えば図10A及び図10Bに示すような水冷式のアウターノズル8C,47Cを備えた構成とすることも可能である。
【0090】
具体的に、これら水冷式のアウターノズル8C,47Cには、冷却液(水)を供給する供給口53aと、冷却液(水)を排出する排出口53bとが設けられている。そして、これら供給口53aと排出口53bとの間で、アウターノズル8C,47Cの内部を冷却液(水)が流れることで、アウターノズル8C,47Cを強制的に冷却(水冷)することが可能となっている。
【0091】
なお、上記アウターノズル8A,8B,8C,47,47A,47B,47Cについては、上記形状(例えば径の大きさなど。)のものに必ずしも限定されるものではなく、また、自製のものに限らず市販のものを使用してもよい。これにより、上記アウターノズル8A,8B,8C,47,47A,47B,47Cを容易且つ安価に提供することが可能である。
【0092】
また、上記TIG溶接用トーチ1A,1B及びMIG溶接用トーチ40では、第2のシールドガスを導入するホースを固定するためのバンド等の保持具をトーチボディ5,43に取り付けることも可能である。さらに、上記図2A,2B、図4A,4B及び図5に示すアタッチメント7A,7B,46の接続部15,51は、このアタッチメント7A,7B,46の上方に配置された構成となっているが、このような構成に必ずしも限定されるものではなく、このアタッチメント7A,7B,46の下方等に配置することも可能である。
【0093】
なお、上記MIG溶接用トーチ40,200は、上述した不活性ガスに炭酸ガスを添加したシールドガスを用いることによって、MAG溶接用トーチとして使用することも可能である。
【0094】
また、MAG溶接用トーチとして使用する場合には、上記第1のシールドガスとして、アルゴンと炭酸の混合ガスを用いることで、この混合ガスの使用量を低減し、その結果、炭酸より高価なアルゴンの使用量を減らすことができる。また、一般的な一重ノズル構造のMAG溶接用トーチを使用した場合と同様に、スパッタ低減効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
なお、本発明は、上述したハンドルタイプの溶接用トーチに限らず、ペンシルタイプの溶接用トーチに本発明を適用することが可能である。また、上述した空冷式や水冷式に限らず、さらに、手動型や(半)自動型の溶接用トーチといった本発明が適用可能な溶接用トーチに対して、本発明を幅広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1A,1B…TIG溶接用トーチ 2…電極 3…コレット 4…コレットボディ 5…トーチボディ 6A,6B…インナーノズル 7A,7B…アタッチメント 8A,8B,8C…アウターノズル 9…後側ガスケット 10…トーチキャップ 11…ハンドル 16,17…ガスレンズ 20A,20B…アダプタキット 21…スペーサ 30,30A…アダプタキット 40…MIG溶接用トーチ 41…消耗電極 42…コンタクトチップ 43…トーチボディ 44…インナーノズル 45…スペーサ 46…アタッチメント 47,47A,47B…アウターノズル 48…ハンドル 52…ガスレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極と、
前記非消耗電極を内側に挿入した状態で支持するコレットと、
前記非消耗電極を先端側から突出させた状態で前記コレットを内側に保持するコレットボディと、
前記コレットボディが取り付けられると共に、前記コレットボディ及び前記コレットを介して前記非消耗電極に電力を供給する給電部と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、
前記非消耗電極の周囲を囲んだ状態で前記コレットボディに取り付けられると共に、前記第1のシールドガスを放出するインナーノズルと、
前記インナーノズルを内側に挿入した状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、
前記インナーノズルの周囲を囲んだ状態で前記アタッチメントに取り付けられると共に、前記第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備える溶接用トーチ。
【請求項2】
前記アタッチメント及び前記アウターノズルを取り外した後に、前記トーチボディとの間にガスケットを配置した状態で前記インナーノズルを前記コレットボディに取り付けることによって、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換されることを特徴とする請求項1に記載の溶接用トーチ。
【請求項3】
前記アタッチメントは、前記トーチボディと前記インナーノズルとの間に挟み込まれた状態で取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接用トーチ。
【請求項4】
前記トーチボディの前記コレットボディが取り付けられる側とは反対側に位置して、前記非消耗電極を固定するトーチキャップが、前記トーチボディとの間にガスケットを配置した状態で取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の溶接用トーチ。
【請求項5】
前記トーチボディに取り付けられるハンドルを備え、このハンドルの内側を通して、前記給電部に電力を供給する給電ケーブルと、前記流路に第1のシールドガスを導入するホースとが一体化された溶接ケーブルが、前記トーチボディに設けられた接続部に接続されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の溶接用トーチ。
【請求項6】
被溶接物との間でアークを発生させる消耗電極と、
前記消耗電極を案内しながら、その先端側から送り出すコンタクトチップと、
前記コンタクトチップが取り付けられると共に、前記コンタクトチップを介して前記消耗電極に電力を供給する給電部と、前記消耗電極を前記コンタクトチップへと送給する送給路と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、
前記コンタクトチップの周囲を囲んだ状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、前記第1のシールドガスを放出するインナーノズルと、
前記インナーノズルを内側に挿入し、且つ、前記インナーノズルとの間にスペーサを配置した状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、
前記インナーノズルの周囲を囲んだ状態で前記アタッチメントに取り付けられると共に、前記第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備える溶接用トーチ。
【請求項7】
前記アタッチメント、前記アウターノズル及び前記スペーサを取り外すことによって、二重ノズル構造から一重ノズル構造に変換されることを特徴とする請求項6に記載の溶接用トーチ。
【請求項8】
前記トーチボディに取り付けられるハンドルを備え、このハンドルの内側を通して、前記給電部に電力を供給する給電ケーブルと、前記流路に第1のシールドガスを導入すると共に、前記送給路に前記消耗電極を送給するライナーとが一体化された溶接ケーブルが、前記トーチボディに設けられた接続部に接続されることを特徴とする請求項6又は7に記載の溶接用トーチ。
【請求項9】
前記アタッチメントには、前記第2のシールドガスを導入するホースが接続される接続部が設けられていることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の溶接用トーチ。
【請求項10】
前記インナーノズルと前記アウターノズルとの間に配置されて、前記アウターノズルから放出される第2のシールドガスを整流するガスレンズを備えることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の溶接用トーチ。
【請求項11】
前記コレットボディは、前記インナーノズルから放出される第1のシールドガスを整流するガスレンズと一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の溶接用トーチ。
【請求項12】
前記アウターノズルは、前記インナーノズルの周囲を囲む位置から溶接線方向の後方に向かって溶接ビードの周囲を囲むアフターシールド構造を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の溶接用トーチ。
【請求項13】
被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極と、
前記非消耗電極を内側に挿入した状態で支持するコレットと、
前記非消耗電極を先端側から突出させた状態で前記コレットを内側に保持するコレットボディと、
前記コレットボディが取り付けられると共に、前記コレットボディ及び前記コレットを介して前記非消耗電極に電力を供給する給電部と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、
前記非消耗電極の周囲を囲んだ状態で前記コレットボディに取り付けられると共に、前記第1のシールドガスを放出するトーチノズルと、
前記トーチボディとトーチノズルとの間に配置されるガスケットとを備える溶接用トーチに換装されるアダプタキットであって、
前記ガスケットを取り外した後に、前記トーチノズルを内側に挿入した状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、
前記トーチノズルの周囲を囲んだ状態で前記アタッチメントに取り付けられると共に、前記第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備えることを特徴とするアダプタキット。
【請求項14】
被溶接物との間でアークを発生させる消耗電極と、
前記消耗電極を案内しながら、その先端側から送り出すコンタクトチップと、
前記コンタクトチップが取り付けられると共に、前記コンタクトチップを介して前記消耗電極に電力を供給する給電部と、前記消耗電極を前記コンタクトチップへと送給する送給路と、第1のシールドガスを供給する流路とが設けられたトーチボディと、
前記コンタクトチップの周囲を囲んだ状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、前記第1のシールドガスを放出するトーチノズルとを備える溶接用トーチに換装されるアダプタキットであって、
前記トーチノズルを内側に挿入し、且つ、前記トーチノズルとの間にスペーサを配置した状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、第2のシールドガスを供給する流路が設けられたアタッチメントと、
前記トーチノズルの周囲を囲んだ状態で前記アタッチメントに取り付けられると共に、前記第2のシールドガスを放出するアウターノズルとを備えることを特徴とするアダプタキット。
【請求項15】
前記トーチノズルと前記アウターノズルとの間に配置されて、前記アウターノズルから放出される第2のシールドガスを整流するガスレンズを備えることを特徴とする請求項13又は14に記載のアダプタキット。
【請求項16】
前記アウターノズルは、前記トーチノズルの周囲を囲む位置から溶接線方向の後方に向かって溶接ビードの周囲を囲むアフターシールド構造を有することを特徴とする請求項13〜15の何れか一項に記載のアダプタキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−31885(P2013−31885A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255163(P2012−255163)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2012−539100(P2012−539100)の分割
【原出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】