説明

溶接装置を制御及び/又は調節するための方法並びに溶接装置

【課題】溶接プロ接中の熱入力を制御して薄板や低融点材料の消耗電極溶接などへ適用範囲を拡大する溶接装置を提供する。
【解決手段】少なくともいくつかの短絡段階33中に、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uの極性が切り替えられ、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uの振幅は所定値に調節され、溶接ワイヤ13の溶融と短絡ブリッジとをそれぞれ防止するが、溶接ワイヤ13を加工物16から持ち上げるときの電気アーク15の安全な再点火が、短絡段階33の終わりに又は電気アーク段階36の初めに、溶接電流I及び/又は補助電圧なしの溶接電圧Uのみによって電気アーク15を再点火することによって可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極と溶接ワイヤとをそれぞれ用い、溶接装置と溶接電流源とをそれぞれ制御及び/又は調節するための方法であって、電気アークの点火後に、コールドメタルトランスファー(CMT)溶接プロセスが行われ、前記溶接ワイヤが、該溶接ワイヤが加工物に接触するまで前記加工物の方向に運搬され、その後に、短絡の形成後に、短絡段階の間に、前記ワイヤの運搬方向が反対にされ、前記溶接ワイヤが、前記短絡の開放まで前記加工物から離され、溶接電流及び/又は溶接電圧のための電流フローが、電気アーク段階の間に前記溶接ワイヤが融解するように、すなわち液滴形成が起こるように調節される方法に関する。
【0002】
また、本発明は、溶接電流源、制御装置及び溶接トーチを備えた溶接装置であって、異なる溶接パラメータを調節するため、及び、熱収支又は加工される加工物への熱導入のための少なくとも1つのパラメータを調節し選択するための入力及び/又は出力装置、及び/又は、リモートコントロールを更に備えた溶接装置に関する。
【背景技術】
【0003】
溶接電流源を制御するための方法が、欧州特許出願公開第1384546A2号から知られており、そこでは、溶接電流の波形は、少なくとも1つの電気アーク、及び/又は、アーク部と短絡部を有している。溶接プロセス中に、短絡段階は、溶接ワイヤが加工物に接触するまで溶接ワイヤを前方へ移動させることにより導入され、電気アーク段階は、溶接ワイヤを後方へ引くことにより導入される。溶接ワイヤの短絡部は、電気アークを形成するために溶接ワイヤが加工物から持ち上げられる前に、短絡段階の間に適用される。これに関連して、前記短絡部は、短絡段階において溶接ワイヤ及び加工物を介して高電流が流れるように溶接電流の継続期間において最大電流を有する。電極が電気アークの形成を受けて後方へ引かれるとき、量に関してより低い溶接電流を有するアーク部が適用される。このように、溶接電流の波形は、溶接ワイヤの後方への移動と合わせられ、溶接電流の波形は、いくつかの異なる段階を有している。
【0004】
この文献では、全ての可能な溶接方法が示されているが、これらの溶接方法が、溶接ワイヤを移動することに関してどのように用いられ得るかについて全く記載されていないという欠点を有している。
【0005】
また、先行技術の一部である溶接電流源は、欧州特許出願公開第1384547A2号から知られている。溶接ワイヤを運搬するための方法及び装置は、欧州特許出願公開第1384548A1号から知られている。ワイヤ運搬装置は、欧州特許出願公開第1384549A2号から知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術から知られている方法及び装置では、溶接プロセスへの熱導入を制御及び調節することが、限られた範囲においてのみ可能であるという欠点を有することが分かる。溶接電流は、電気アークが消されないように溶接プロセスのときの各時点においてあるレベルに保持される必要があるので、加工物の溶接スポットの領域に相当な熱導入がある。加工物は、適用される電流の強さにより溶接スポットの領域において強く加熱され、短絡段階では量についてより高い溶接電流を有する短絡部が適用されるので、このことは、特に短絡段階において溶接接合部に悪影響を与える。従って、溶接プロセス中における熱導入、特に熱低減を制御するための可能性が周知の方法では限定される。これは、例えば数ミリメートル又はデシミリメートル間の範囲の厚さを有する薄い金属シート、及び/又は、例えばアルミニウム合金などの低融点を有する材料が、不完全に溶接されるのみであるか全く溶接されないかのいずれかであり得る。
【0007】
本発明の目的は、溶接プロセス及び溶接電流源を制御及び/又は調節するための方法を付与することであり、その方法は、加工物への熱導入及び溶加材の熱導入を制御するためのより多くの種々の可能性を可能にし、溶接プロセス及び溶接装置の応用分野を拡張することができ、前記溶接プロセスをより柔軟な形で設計することができる。特に、溶接プロセス中に現れる熱エネルギーは低減されることとなる。
【0008】
さらなる目的は、前述した溶接装置を付与することであり、前記溶接装置を用いて加工物への熱導入及び溶加材の導入を柔軟な形で実行にすることができ、それにより、応用分野を拡張することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記方法において、発明の目的は、溶接プロセスの少なくともいくつかの短絡段階の間に、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uの極性が所定値に調節され、それにより、溶接ワイヤの溶融と短絡ブリッジとがそれぞれ防止されるが、溶接ワイヤを加工物から持ち上げるときの電気アークの安全な再点火が、短絡段階の終わりに又は電気アーク段階の初めに溶接電流I及び/又は補助電圧なしの溶接電圧Uのみによって電気アークを再点火することにより可能とされることが達せられる。これに関連して、溶接される加工物への入熱及び/又は溶融浴内へ導入される溶加材の量は、特に一定の溶接電流レベルにおいて、溶接電流Iの極性を変えることにより制御可能である。特に、この入熱は、例えば薄い金属シートなど僅かな肉厚を有する加工物、及び/又は、例えばアルミニウムなど低融点を有する材料又は金属合金からなる加工物を溶接又は半田付けすることができるように、必要に応じて最小値まで低減することができる。これは、加工物への溶加材の実質的に無電流の移動によって可能であり、電流の極性の逆転のときの時点において起こる。さらなる利点は、電流フローの極性の逆転が、溶接ワイヤの移動と協働されることである。溶接電流の極性は、短絡中に、例えば溶接ワイヤが加工物に接触するときなどに変えられ、そのため、電気アーク燃焼段階中に極性の逆転が必要であるが、更なる補助電圧源が電気アークの新しい点火のために必要ではない。これは、短絡段階に、イオン化される保護ガス柱が存在しない、すなわち電気アークが存在しない限りにおいて可能であり、電気アークは、溶接ワイヤが持ち上げられるときに溶接電流により点火され、この溶接電流は、溶接電流及び/又は溶接電圧の特有の波形により調節される及び/又は所定のレベルに制限される。補助電圧源が必要でないので、溶接装置の費用効果及び簡単な構造を可能にする。
【0010】
請求項2の方法によれば、溶接ワイヤの融解による安全な液滴形成が達せられる。さらに、溶加材の溶落ち量、すなわち液滴サイズは、必要に応じて電気アーク段階に適用される電流強度により有利に決定することができる。
【0011】
請求項3の方法はまた、液滴形成のための溶加材の量がまたそれにより影響されるので有利である。例えば、短絡段階中にそれに続く電気アーク燃焼段階において適用されるより多くの電流を用いて、より大きい溶融液滴が、同じ電気アーク電流を用いて形成され、それによって、より大きい量の溶加材を、それに続く短絡段階において溶融浴に導入することができる。この効果は、高比抵抗を有する溶加材において特に強い。
【0012】
請求項4の方法は、適用される溶接電流が低い、及び/又は、ない状態で、同時に、加工物と直接的に接触することにより信頼性のある液滴分離を可能にし、それによってスパッタの形成を回避する。
【0013】
請求項5及び6の方法によればまた、入熱及び/又は導入される溶加材の量を多くの種々の方法で変えて制御することができ、それによって、溶接プロセスは、より多くの種々の溶接接合部及び材料の組み合わせ並びに材料の厚さにおいて使用することができるので、有利である。
【0014】
請求項7の特徴による方法は、溶接電流の周期的に繰り返す波形が、制御についてほとんど労力をかけず、溶接プロセスについて、多くの場合に絶えず一定の品質である溶接接合部を作ることができるので、有利である。
【0015】
請求項8の方法は、溶接電流の極性の不規則な逆転により、溶接プロセスの調節をさらに柔軟にすることができ、溶接プロセスの順応性を、同時外乱及び/又は時々のみ起こる外乱及び/又は外部影響の場合に改良することができるので、有利である。例えば、溶接プロセスのための現在検出される値が所望の値に追従していない場合、必要に応じて、制御装置は、溶接電流の極性の逆転を決定することができる。
【0016】
請求項9に記載の方法によれば、溶接プロセスの自動化された個々のパラメータ化が有利に達せられる。
【0017】
請求項10の方法によればまた、溶接電流の波形が、手動で調節されるユーザ設定に基づいて独立して調節されることにより、溶接装置の簡単な使用が保証され、使いやすさが実質的に拡大されるので、有利である。
【0018】
請求項11の方法はまた、溶接電流の極性の逆転が、外部から制御されることを可能にするので、有利である。
【0019】
請求項12の方法はまた、異なる極性において、ワイヤ送り速度の速度用の種々の設定値及びこれらの値により規定される、例えば溶加材の溶落ち速度などのプロセスパラメータは、それぞれ制御装置により調節又は規定することができ、それによって、実質的に改良されたプロセス安定性が達せられ、溶接プロセスをより多様な方法で行うことができるので、有利である。
【0020】
さらに、請求項13及び14の方法はまた、電気アーク段階において溶接電流の極性切り替えがまた可能であることにより、前記パラメータを溶接作業により良く適用することができるので、有利である。従って、前記溶接プロセスは、種々の用途の場合により正確に最適化することができる。
【0021】
請求項15及び16の方法によれば、改良されたギャップブリッジ能力(gap bridgeability)及び/又はより良い溶接溶込みが達せられ、それによって、特に、溶接される加工物における許容差を補償することができるので、有利である。
【0022】
本発明に係る目的は、前述した溶接装置により達せられ、制御手段が、入力及び/又は出力装置、及び/又は、リモートコントロールに関連し、前記手段が、熱収支又は熱導入のための少なくとも1つの調節された又は選択されたパラメータに基づいて、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uの極性変化のときの時点を規定するために設計されている。これは、熱エネルギー及び/又は溶加材の導入が、その時点に応じて溶接電流の極性を決定することによって前述した設計の制御手段による現在の溶接状況に非常に正確に且つ個別に調整することができるという利点がある。溶接電流の極性変化に依存する調節の更なる利点は、前記及び下記の記載から得ることができる。
【0023】
請求項18から20において、溶接装置の有利な設計が記載され、それを用いて溶接装置を全体として改良することができ、溶接装置の構造を、簡単でメンテナンスがしやすいように、例えばソフトウェアのアップデートを行うことができるように設計することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】溶接機械又は溶接装置を示す概略図である。
【図2】本発明に係る1つの実施例の溶接プロセス中における溶接電圧、溶接電流及び溶接ワイヤの作動線図の時間変化を示す図である。
【図3】本発明に係る第2の実施例の溶接プロセス中における溶接電流及び溶接ワイヤの作動線図の時間変化を示す図である。
【図4】本発明に係る第3の実施例の溶接プロセス中における溶接電流及び溶接ワイヤの作動線図の時間変化を示す図である。
【図5】本発明に係る第4の実施例の溶接プロセス中における溶接電流及び溶接ワイヤの作動線図の時間変化を示す図である。
【図6】本発明に係る第5の実施例の溶接プロセスとして、溶接電流、溶接ワイヤの作動線図の時間変化、及び、溶接ワイヤ送り速度用制御信号の図式化した時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、添付概略図を用いてより詳細に説明される。
【0026】
図1には、例えばMIG/MAG溶接又は電極溶接方法、ダブルワイヤ/タンデム式溶接方法又は半田付け(soldering)方法など、それぞれ消耗溶接電極、特に溶接ワイヤ及び溶加材を用いたより多くの種々のプロセス及び方法のための溶接装置1又は溶接設備がそれぞれ示されている。
【0027】
溶接装置1は、電力素子3を備えた電流源2と、制御装置4と、電力素子3及び/又は制御装置4と関連したスイッチ素子5とを有する。スイッチ素子5及び/又は制御装置4は、制御バルブ6と接続され、該制御バルブは、ガス貯蔵部9と溶接トーチ10又はバーナーとの間において、ガス8、特に、例えば二酸化炭素、ヘリウム又はアルゴンなどの保護ガスのための供給ライン7内にそれぞれ配置される。
【0028】
また、ワイヤ送り装置11はさらに、該送り装置がMIG/MAG溶接において特に一般的である制御装置4を介して作動させることができ、溶加材及び/又は溶接ワイヤ13は、供給ライン12を介して送りドラム14又はワイヤコイルから溶接トーチ10の領域へ供給される。確かに、先行技術から知られているように、ワイヤ送り装置11を、図1に示されるように付属装置として設計することなく、溶接装置1、特に基礎ハウジングに一体化することが可能である。
【0029】
また、ワイヤ送り装置11は、溶接トーチ10の外部にある溶接ワイヤ13及び/又は溶加材を加工部位に供給することできる。さらに、ワイヤ送り装置11は、別の駆動ユニットを備えていてもよく、駆動ユニットは、例えば、溶接ワイヤの出口、特に溶接トーチ10において溶接ワイヤの出口及び/又は加工物上の溶接スポットの領域に配置されていてもよく、さらなる駆動ユニットが、送りドラム14の領域に位置付けられていてもよい。ワイヤパファ(wire puffer)が、前記駆動ユニット間に設けられていてもよく、このパファは、特に溶接ワイヤ13が後方に運搬される場合に、随意的に溶接ワイヤ13の可変長さ部分を受け取る。
【0030】
電極と加工物16との間に電気アーク15、特に作業アークを確立するための溶接電流は、溶接ライン17を介して電流源2の電力素子3から溶接トーチ10、特に電極に供給され、特に数個の部品により形成される溶接される加工物16はまた、溶接装置1を用いて、特に電流源2を用いて、さらなる溶接ライン18を介して結合され、それにより、電気回路は、溶接プロセスのための電気アーク15を介して確立することができる。
【0031】
溶接トーチ10を冷却するために、溶接トーチ10は、流量コントローラ20が介設される冷却回路19を通じて液体貯蔵部、特に水貯蔵部21に接続することができ、冷却回路19、特に水貯蔵部21に存在する液体のために使用される液体ポンプは、溶接トーチ10が作動される場合に起動され、それにより、溶接トーチ10の冷却効果を生じさせることができる。
【0032】
溶接装置1はさらに、入力及び/又は出力装置22を備えることができ、この入力及び/又は出力装置22を介して、溶接装置1のより多くの種々の溶接パラメータ、作業モード又は溶接プログラムを設定し呼び出すことができる。これに関連して、入力及び/又は出力装置22を介する溶接パラメータ、作業モード又は溶接プログラムの設定は、制御装置4に送ることができ、その後、溶接設備又は溶接装置1の個々の構成部品が作動され、調節又は制御のために要求される対応する値が、前記制御装置4によって予め決定される。
【0033】
加えて、説明される例示的な実施形態では、溶接トーチ10は、ホース本体23を介して溶接装置1又は溶接設備とそれぞれ接続される。ホース本体23内において、溶接トーチ10への溶接装置1の個々のラインが位置調節される。ホース本体23は、連結装置24を介して溶接トーチ10と接続され、ホース本体23内の個々のラインは、メスコネクタ及び/又はプラグインコネクタを介して溶接トーチ1の個々の接触部と接続される。ホース本体23の適正な張力緩和を確保するために、ホース本体23は、張力緩和装置25を介して、ハウジング26、特に溶接装置1の基礎ハウジングに接続される。当然、同様に溶接トーチ1に接続するための連結装置24を使用することができる。
【0034】
基本的に、前述した構成要素を全て、種々の溶接方法、又は、例えばMIG/MAG装置などの溶接装置1のためにそれぞれ使用し用いる必要はないことに言及すべきである。例えば、溶接装置10を空冷式溶接トーチ10として設計することも可能である。
【0035】
図2には、本発明に係る溶接プロセスの例示的な実施形態が、線図27から29として概略的に示されている。線図27は、溶接電圧Uの時間変化を示し、線図28は、溶接電流Iの時間変化を示し、線図29は、加工物16に対する溶接ワイヤ13の出口側端部の運動及び位置を示している。その過程は、消耗電極及び/又は溶接ワイヤ13を用いて、溶接装置1及び/又は溶接電流源2を制御及び/又は調節するための方法を示している。これに関連して、加工物16及び溶接ワイヤ13の融解は、溶接ワイヤ13と加工物16上の電気的対極との間に確立される電離プラズマ柱及び/又は電気アーク15を介して引き起こされる。
【0036】
電気アークの点火は、あらゆる方法、例えば先行技術から周知であるリフトアーク(lift arc)の原理によって行うことができ、開回路電圧が、点火段階31中に溶接ワイヤ13に印加され、次に、溶接ワイヤ13は、加工物16に接触するまで前方へ移動され、その結果生じる短絡が、溶接ワイヤ13の運搬方向を反対にすることにより短絡段階中に開放され(open)、電気アークは、溶接ワイヤ13が加工物16の方向に移動されるようにワイヤ運搬方向の新しい逆転が起こるまで、その溶接が後方へ運搬される通路を介して確立される。1つの又はいくつかの段階を有する点火段階31では、電流Iは、溶接ワイヤ13の溶融が起こることがないように制限される。さらなる可能な実施形態の変形においては、電気アーク15の第1の点火は、高周波電圧信号、所謂高周波点火によって行うことができる。
【0037】
電気アーク15の点火後、所定期間にわたって増大したエネルギー入力を用いる第1の短絡プロセス段階31bをまた、適切な溶接プロセスの前に適切に行うことができ、続いて、溶接プロセス段階を周期的に繰り返すことにより確立される溶接プロセスを行うことができる。高エネルギー入力を用いるこの短絡プロセス段階31bによって、電気アーク15の安定化が達せられる。さらに、溶接ワイヤ13は、点火プロセスにより加熱され、従って、その次の溶接プロセスが予熱された溶接ワイヤ13を用いて開始することができ、それにより、溶接品質が実質的に改良される。
【0038】
点火段階31及び/又は前記プロセス段階31bの後に、前記適切な溶接プロセスが起こり、本発明に従ってコールドメタルトランスファー(CMT)溶接プロセスが行われる。CMTプロセスでは、溶接ワイヤ13は、加工物16に接触するまで加工物16の方向に運搬され、その結果、時間32の時点における短絡の形成後に、短絡段階33が開始し、ワイヤ運搬方向が反対にされる。短絡段階33では、溶接ワイヤ13は、短絡を開放するまで、例えば電気アーク15が形成するまで、及び/又は、所定距離34及び/又は所定期間が達せられるまで、加工物16から離され、時間35の時点において、ここでは電気アーク段階36と称するプロセス段階が開始する。電界アーク段階36では、溶接ワイヤ13は、溶接ワイヤの端部において液滴が形成するように融解される。溶接ワイヤの移動方向は、上死点37においてもう一度反対にされ、溶接ワイヤ13は、加工物16の方向に移動される。溶接電流I及び/又は溶接電圧Uは、電気アーク段階36において、溶接ワイヤ13が溶けて落ちることなく、溶接ワイヤ13の融解、すなわち液滴形成が生じるように調節される。
【0039】
溶接ワイヤ13は、溶接プロセス中、周期的に振動する形で移動する。ワイヤ送り装置11は、負の信号が存在する、及び/又は、短絡段階33において溶接ワイヤ13が後方へ運搬され、電気アーク15が確立されるように、また、正の信号が存在する、及び/又は、溶接ワイヤ13が加熱される、及び/又は、電気アーク段階36において、溶接ワイヤ13が加工物16の方向に前方へ運搬され、液滴形成のために融解される(図6の線図20参照)ように実質的に計時される。しかしながら、溶接ワイヤ13の移動方向の計時は、電気アーク段階36が、例えば溶接サイクルにおいて電流レベルを調節することにより特定のエネルギー入力によって溶接ワイヤ13の後方への移動中に既に引き起こすことができるので、電気アーク段階36及び/又は短絡段階33の発生と必ずしも相関関係を有するとは限らない。すなわち、電気アーク15が既に存在する場合においても、溶接ワイヤ13はまた、時間及び/又は距離において所定の時点が達せられるまで加工物16から離すことができる。例えば、ワイヤ送り装置11は、30Hzから100Hzまで、特に約50Hzから70Hzまでの溶接ワイヤ13の振動数を用いて作動される。
【0040】
前記死点37が達せれた後に、溶接ワイヤ13は、加工物16、特に溶融浴に接触するまで前方へ移動される。溶接ワイヤ13上の液滴の表面張力、及び/又は、前記液滴上において有効であるさらに周知の物理的影響のため、前記液滴は、溶接ワイヤ13から分離されて加工物16に拘束され、これは、液滴の落下運動がないため溶接スパッタ又は他の現象がなく起こる。その後、短絡段階33が再び開始され、溶接ワイヤ13の後方への移動は、液滴分離を促進させる。溶接電流Iの増加、特にパルス状の増加は、液滴分離を助勢するために短絡段階33において行うことができる。CMTプロセスの継続期間において、短絡段階33と電気アーク段階36とは、示される例示的な実施形態では互いに周期的に交代する。
【0041】
CMTプロセスの方法に関するより詳細な情報は、このプロセスが、溶接ワイヤ13及び/又は加工物16に一定の極性を用いる溶接プロセスについての先行技術から既に周知であるので、ここでは付与されていない。
【0042】
本発明によれば、溶接プロセスに影響を及ぼすより多くの可能性を付与するために、短絡段階33の全て又は一部の間に、電流フロー、特に電流I及び電圧Uの極性が切り替えられ、電流Iのための所定の振幅が、溶接ワイヤ13及び/又は短絡ブリッジ(short-circuit bridge)が溶融することが防止されるが、電気アーク15の再点火が、溶接ワイヤ13が加工物16から持ち上げられる場合に安全に達せられるように設定されることが提供される。
【0043】
図2に示すように、溶接電流Iは、周期的に変化する極性を有する波形及び/又はパルスシーケンスを有し、規則的な溶接プロセス中の極性は、溶接電流Iの各半期間(semi-period)を用いて変化する。正の極性を有する電流Iの期間40の時間は、負の極性を有する電流Iの期間41の時間に実質的に対応する。
【0044】
また、溶接電流Iは、少なくとも1つの一時的に非周期的に変化する極性を有するようにしてもよい。これに関連して、正及び負の極性を有する電流Iの期間40、41の長さは、図5の記述の中で、より詳細に以下に説明されるように、ある期間にわたって異なる。
【0045】
電圧U及び/又は電流Iは、時間32における時点を超えると、電気アーク15の安全な再点火を確実にする第1のレベルまで高められる。随意的に、このレベルは、短絡段階33及び電気アーク段階36の全体の間、一定に保持される動作レベルとして規定することも可能である。しかしながら、好ましくは、溶接電流Iの正又は負の期間及び/又は期間の部分は、線図38に示されるように、第1の部分である基本電流38と、少なくとも1つの更なる部分である動作電流39とを有する。例示的な実施形態では、示される基本電流38及び動作電流39が一定である。基本電流38及び/又は動作電流39は、時間に関して変化させることができる。特に、基本電流39は、適時な過程において増加させることができる、及び/又は、動作電流39は、適時な過程において減少させることができる。
【0046】
基本電流38は、好ましくは動作電流39と比べて比較的小さく、動作電流39は、基本電流38より、例えば1.5倍から10倍、特に4倍から8倍高いものであってもよい。基本電流38が、例えば5Aから50A、特に約10Aから30Aであり、動作電流39が、例えば50Aから500Aであってもよい。
【0047】
本発明によれば、極性が、電極及び/又は溶接ワイヤ13並びに加工物16に適用され、前記極性は、少なくとも一時的に第1の極性に変わる又は変えられ、後に溶接電流Iの負の部分として言及され、図面において溶接電流Iの負の期間41として表され、前記第1の極性は、後に溶接電流Iの正の部分として言及され、図面において正の期間40として表される。この電流Iの負の部分は、溶接電流Iの正及び負の部分を交互に適用することによって、複数の溶接プロセスのための制御及び/又は調節のための可能性を可能にする。溶接電流Iの負の部分は、加工物16並びに電極及び/又は溶接ワイヤ13に溶接電流Iの正及び負の極性を適用する特性及び期間を対応して調節する場合にエネルギー収支が非常に正確に且つユーザが具体的に決定することができるように溶接プロセスにおいて更なる影響因子を形成する。これに関連して、この電気エネルギー供給の制御は、制御装置4によって行われる。
【0048】
溶接電流Iの極性は必要に応じて変えられるので、加工物16上の熱影響領域の温度は、極性が一定である溶接プロセスに比べて実質的に低減される。他方、これは、時間32における時点において溶加材の理想的無電流移動により達せられ、それによって、液滴分離時に、熱影響部、特に溶融浴及び溶加材の冷却を生じさせることができる。先行技術から周知であるCMTプロセスに比べて、本溶接プロセスでは、溶接電流Iが、負に分極した電気アーク段階36において一定の溶落ち量で低減されるので、熱導入を、好ましい形で低減することができる。加工物16への入熱を低減することにより、より薄い肉厚及びより低い融点を有する材料さえも溶接することができる。
【0049】
正の極性の溶接電流Iが溶接ワイヤ13に適用される場合、電極は、負の極性を有する場合よりも加熱される。この周知の効果は、負の極性の溶接ワイヤ13を用いるより正の極性の溶接ワイヤ13を用いて、より大きい材料量を溶接ワイヤ13上に融解することをもたらす。正の極性を有する加工物16の場合には、より多くの熱エネルギーが、加工物16の溶接スポット領域に導入され、それにより、逆の極性と比べて、加工物の熱影響領域が拡大される、及び/又は、加工物16における貫通深さが増大される。本発明に係る方法は、必要性に応じて、又は電流源2によって設定される調節に応じて、極性切り替えを制御することにより、これらの効果を具体的に利用することができる。
【0050】
図2に示される実施形態の変形によれば、短絡段階33と電気アーク段階36とを有する正の期間40の後に、短絡段階33と電気アーク段階36とをまた有する負の期間41が続き、それらは、この順で互いに周期的に続く。
【0051】
有利な方法の変形において、電気アーク段階36で溶接電流Iが変えられ、特に増加され、それにより、溶接ワイヤ13の液滴形成及び/又は融解が達せられる。これに関連して、溶接電流Iは、前述した動作電流Iに対して、好ましくは短絡段階33において適用される溶接電流38より増加される。さらに、電極及び/又は溶接ワイヤ13と加工物13との間の距離を縮める場合に電気アーク圧力の最小値を得るために、溶接電流Iは、概略的に例示されるように、溶接ワイヤ13の短絡段階33より前に、より小さいレベルに低減される及び/又はゼロまで低減される。このようにして、電気アーク段階36から短絡段階33へのスパッタのない移行が可能になる。
【0052】
図3は、溶接電流Iが短絡段階33において時間について変えられる更なる方法の変形を示している。線図28は、溶接電流Iの時間変化を示し、線図29は、溶接ワイヤ13の運動及び位置の時間変化を示している。以下では、溶接電圧Uの時間変化は、前記電圧が変更可能である及び/又は別の波形を有し得るので、線図29に示される溶接電流Iの曲線の進行を保護するために示されていない。
【0053】
短絡段階33に適用する基本電流38は、例えば時間32における時点から一定に増加され、それにより、短絡段階33では、溶接ワイヤ13は、既にかなり予熱される、又は必要に応じて融解される。このようにして、溶加材の融解速度を増加させることができる。従って、例えば、接合される加工物16の部分間のより広範なギャップを溶加材で埋めてブリッジさせることができ、これは、大きい及び/又は不規則なギャップ幅を有する突き合わせ溶接により2つの部分を接合するのに特に有利なものである。
【0054】
短絡段階33中の溶接電流Iの増加は、例えばランプ関数に従って一定(実線)又は段階的(鎖線)であってもよい。
【0055】
溶接ワイヤ13の送り速度はまた、別のプロセス段階中に所定の一定値に規定することができる、あるいは可変的に再調節することができる。この送り速度は、別のプロセスパラメータに依存し、ワイヤ送り装置11の調節は、好ましくは制御装置4によって自動的に行われる。例えば、この送り速度は、溶接電流Iが、短絡段階33及び/又は電気アーク段階36にある場合より高い。溶接電流Iが変えられる場合、送り速度は、好ましくは電流源2及び/又は制御装置4に予め設定された所望の値に従うことができるように、対応する形で適合させられる。
【0056】
図4には、更なる方法の変形が示されている。ここでは、溶接電流Iの極性切り替えが、溶接プロセスのいくつかの短絡段階33においてのみ、好ましくは同一極性の溶接電流Iを有する所定回数の短絡段階33と電気アーク段階36との後に起こる。短絡段階33と電気アーク段階36とは期間40を形成する。図に示されるように、溶接電流Iは、2つの続いて起こる期間40において同一極性を備えたままであり、その後、溶接電流Iの極性変化が起こる。それから、所定回数の期間40の後に、溶接電流Iの極性が再び切り替えられる。例示的な実施形態では、正の期間40の回数は、溶接プロセス中の負の期間41の回数に比例して実質的に対応する。
【0057】
図5には、溶接電流Iの極性切り替えが制御装置40によって規定される回数の期間40の後に起こる更なる方法の変形が示されている。これに関連して、正の期間40の回数は、負の期間の回数に対応せず、溶接プロセス中に、例えば、比較的より多くの正の期間40が存在する。負の期間41は、溶接ワイヤ13又は加工物16の負の極性のため、導入される熱がより小さく、影響される要素における熱エネルギーが低減される限りにおいて、溶接プロセスに影響を与える。熱収支は、負の期間41により決定的に左右され得る。負の期間41の波形は、逆転した正の期間40に対応していてもよく、あるいは負の期間41中に溶接電流Iは、曲線の形に変えられる、及び/又は、量に関して正の期間40の間における量と比べて変えられる、特により高く又は低くされてもよい。例えば、溶接電流Iは、一定の溶接ワイヤ13の融解速度においてより低く選択することができ、低い溶接電流Iのために加工物16へ導入される熱エネルギーが少ない。
【0058】
制御装置4は、不規則に又は必要に応じて溶接電流Iの極性変化を決定することができる。例えば、溶接ワイヤ13の溶落ち量が非常に高い場合及び/又は加工物16への熱導入が非常に高い場合には、制御装置4は、閉ループ内の対応するセンサを用いてこれを検出することができ、その後に、溶接電流Iの極性切り替えが温度を下げるために行われる。
【0059】
更なる方法の変形は、詳細に示されていないが、溶接電流Iの期間40又は41が、別に分極した期間41又は40より短い又は長い継続期間を有するものである。例えば、正の期間40の継続期間が1つの負の期間41より短い。従って、正の期間40の間に生じる熱エネルギーが負の期間41の間に生じる熱エネルギーに適合させられ、それによって、溶接電流Iの極性が変化するときに、溶接ワイヤ13において一定の溶落ち量を達成することができる。当然、負の期間41の間における溶接電流Iは、別の極性を有する溶接電流Iの場合に熱導入の変化を等しくすることができるように正の期間40の間における電流Iと比べて変えられる、特に増加される可能性もある。
【0060】
図6には、更なる方法の変形が示されている。ここでは、溶接電流Iの極性は、期間40、41の間に少なくとも2回変えられる。例えば、溶接電流Iの第1の極性切り替えが短絡段階33において起こり、溶接電流Iの第2の極性切り替えが電気アーク段階36において起こる。溶接ワイヤ13が短絡段階33において後方へ移動されるとき、負の極性の溶接電流Iが、例えば溶接ワイヤ13に印加され、時間35における時点において、溶接電流Iの極性が変えられ、電気アーク段階36において溶接ワイヤに正の極性の溶接電流Iが印加される。
【0061】
このような方法は、短絡段階33中に溶接ワイヤ13に生じる熱エネルギーが少ないので有利であり、電気アーク段階36において溶接ワイヤ13の正の極性により溶加材の高い融解速度を達成することができ、加工物16の負の極性により加工物16への少ない熱導入を達成することができる。必要に応じて、溶接ワイヤ13及び/又は加工物16の極性は、随意的にポジティブな方向で特有の溶接プロセスに影響を及ぼすために、確かに逆もまた同様であり得る。
【0062】
一般に、図2から6に記述される実施形態の変形に関して、適時に制御される溶接電流Iの極性切り替えが、例えば熱導入についてのパラメータ、溶接電流Iについてのパラメータ、溶接電圧Uについてのパラメータ、材料導入及び/又は材料充填についてのパラメータ、加工物16における溶接ギャップについてのパラメータなどのパラメータに基づく期間内に決定することができることに注目すべきである。このため、先行技術から周知である、検出部品及び/又はセンサ、調節部品、オペレータ設備及び/又はリモートコントロール、データメモリ、例えばソフトウェア及び/又はプログラムロジックなどの制御手段などは、制御装置4に付与することができ、そのため、後者のものは、対応して調節過程において所定値及び/又は補正変数を検出し決定することができる。
【0063】
例えば、溶接される加工物16のギャップが検出され、ギャップ幅及び/又はギャップ高さに応じて、溶接電流Iの大きさ及び/又は極性が調節される。さらに、溶接溶込み、特に所謂溶接ルートの深さを検出することができ、対応して溶接電流Iの極性変化を調節することができる。
【0064】
また、熱収支を調節するために加工物16の温度を検出し溶接装置1に所定の熱導入を予め設定することにより、溶接電流Iの極性変化、及び/又は、個々の期間40、41の数及び/又は継続期間を自動的に調節することが可能である。そこで、加工物16の検出される温度は、溶接装置1の制御装置4に転送され、その後に、前記装置4は、溶接電流Iの極性及び/又は特性が変えられるかどうかを決定する。
【0065】
溶接装置1は、溶接電流源及び/又は電流源2、制御装置4及び溶接トーチ10を備えている。別の溶接パラメータは、前記溶接装置における入力及び/又は出力装置22を介して又はリモートコントロールを介して調節することができる。熱収支又は加工される加工物への熱導入のための少なくとも1つのパラメータは、この溶接装置1の入力及び/又は出力装置22において及び/又はリモートコントロールにおいて選択することができる、及び/又は、熱収支及び/又は加工される加工物への熱導入を調節するための調節部品を配置することができる。
【0066】
制御手段は、入力及び/又は出力装置22、又は、リモートコントロールと連繋し、熱収支及び/又は熱導入の調節に基づいて溶接電流Iの極性変化のときの時点を規定するために設計されている。溶接電流の曲線の形は、熱収支及び/又は熱導入のためのパラメータに基づいて前記制御手段によって決定される。
【0067】
調節されるパラメータは、溶接装置1の制御装置4に転送され、その後に、前記装置は、適切な溶接プロセスを制御及び/又は調節する。例えば、溶接電流I、及び/又は、溶接電圧U、及び/又は、ワイヤ運搬速度V、及び/又は、熱導入のための溶接パラメータ、及び/又は、溶接される加工物16の材料、及び/又は、溶接ワイヤ13の材料、及び/又は、使用される溶接ガスなどの溶接プロセスのための非常に多くの種々のパラメータを、入力及び/又は出力装置22において調節することができる。
【0068】
調節設定は、ディスプレイにおいて見ることが可能である。示される入力及び/又は出力装置22の場合、この調節は、ボタン、回転型スイッチ又は電位差計によって形成され得る選択及び/又は調節手段を介して行われる。例えば、溶接電流13の厚さは、第1のボタンを用いて調節することができ、対応する調節をディスプレイに示すことができる。第2のボタンの配置では、例えば、溶接ワイヤ13の材料を選択することができ、調節される材料の組み合わせを更なるディスプレイに示すことができる。溶接プロセスの種類は、溶接電流Iの極性を周期的又は非周期的に変えることにより第3のボタンの組み合わせを介して調節され、第3のディスプレイに示される。
【0069】
例えば、変化するワイヤ運動の周波数及び/又は溶接電流Iのゼロ公差は、これらのパラメータに比例するパラメータを介して直接的な形で又は間接的な形でユーザが具体的に調節することができる。
【0070】
また、熱収支及び/又は加工物16への熱導入は、ユーザが、一般の溶接プロセスを設定し、例えば、ディスプレイに示され、ボタンを介して選択可能である熱導入などの更なるパラメータを付加的に設定することにより熱収支を決定するようにして調節することができる。ここで、ユーザは、制御装置4が好適な制御及び/又は調節を引き起こすように、例えば、低い、中間の、又は高い熱導入があるかどうかについて、簡単な方法でディスプレイにおける選択により決定することができる。起こり得る個々の部分に対応するデータ及び/又は計算モデルは、自動的に決定することができるようにメモリに保存される。
【0071】
例えば、溶接電流IのAC曲線の形、電流値、周波数などのデータ、又は、溶接ワイヤ13のワイヤ運動経路及び/又は振動数は、各溶接プロセス用に溶接装置1に一体化されるメモリに保存することができ、このデータに従って、前記制御装置は、溶接方法を制御する。さらに、制御手段は、好ましくは、書換可能なメモリにソフトウェアの形で保存することができ、前記手段は、入力及び/又は出力装置22、及び/又は、リモートコントロールにそれらが互いに作用するように連結され、前記手段は、溶接電流Iの極性変化及び振幅を決定する。
【0072】
従って、ほんの僅かの調節が、溶接プロセス前にユーザにより行われる必要があり、その後、制御装置4は、溶接プロセスを自動的に調節する。詳細には、熱収支及び/又は加工物16への熱導入は、溶接ワイヤ13のための材料及び溶接される加工物16を選択することにより決定される。これに関連して、溶接ワイヤ13及び加工物16用の非常に種々の材料において対応する値をメモリに保存することができ、そのため、選択された材料に応じて、溶接プロセスの交互に起こる段階の関係が制御装置4によって規定される。例えば、アルミニウムを用いた溶接プロセスにおいて必要とされる加工物16への熱導入は、鋼を用いた溶接プロセスにおいて必要とされる加工物への熱導入よりもより少ない。従って、加工物16へ導入されるエネルギー量が低くなるように、アルミニウムにおいて鋼と異なる値が保存される。
【0073】
確かに、溶接電流Iの極性変化はまた、パルス及び/又は期間40、41の数を指示することにより、又は、継続時間を予め設定する又は規定することにより、あるいはトリガー信号により起こさせることができる。
【0074】
当然、前述したそれぞれの調節の可能性が互いに組み合わせられる、及び/又は、いくつかの調節の可能性が溶接装置1に備えられることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤ(13)を用い、溶接装置(1)と溶接電流源(2)とをそれぞれ制御及び/又は調節するための方法であって、電気アーク(15)の点火後に、コールドメタルトランスファー(CMT)溶接プロセスが行われ、前記溶接ワイヤ(13)が、該溶接ワイヤが加工物(16)に接触するまで前記加工物(16)の方向に運搬され、その後に、短絡の形成後に、短絡段階(33)の間に、前記ワイヤの運搬方向が反対にされ、前記溶接ワイヤ(13)が、前記短絡の開放まで前記加工物(16)から離され、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uが、電気アーク段階(36)の間に前記溶接ワイヤ(13)が融解するように、すなわち液滴形成が起こるように調節される方法において、
少なくともいくつかの短絡段階(33)の間に、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が切り替えられ、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの振幅が所定値に調節され、前記溶接ワイヤの溶融と前記短絡ブリッジとがそれぞれ防止されるが、前記溶接ワイヤ(13)を前記加工物(16)から持ち上げるときの前記電気アーク(15)の安全な再点火が、前記短絡段階(33)の終わりに又は前記電気アーク段階(36)の初めに前記溶接電流I及び/又は補助電圧なしの前記溶接電圧Uのみによって前記電気アーク(15)を再点火することにより可能とされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶接電流Iが前記電気アーク段階(36)の間に変えられる、特に増加されることにより、前記溶接ワイヤ(13)の端部において液滴形成及び/又は融解が起こることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記短絡段階(33)の間に前記溶接電流Iが変えられ、前記溶接電流Iを増加させる間に前記溶接ワイヤ(13)により形成される溶加材が前記加工物(16)の溶融浴に導入され、前記溶接電流Iを減少させる間により少ない溶加材が前記加工物(16)の前記溶融浴に導入されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
短絡の形成後に、前記ワイヤの運搬方向が反対にされ、前記溶接ワイヤ(13)が、自由に選択可能である又は所定の距離(34)が存在するまで前記加工物(16)から離されることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階(33)と1つの電気アーク段階(36)とにより形成されるそれぞれの期間(40、41)の後に切り替えられることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階(33)と1つの電気アーク段階(36)とによりそれぞれ形成されるいくつかの期間(40、41)の後に切り替えられることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が、所定の又は調節可能である数の期間(40、41)の後に切り替えられることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が、変化可能である及び/又は変更可能である数の期間(40、41)の後に非周期的に又は不規則に切り替えられることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性を切り替えるときの時点が、溶接プロセスの前に調節される又は溶接プロセスの間に検出される、例えば前記溶接電流I、熱導入のためのパラメータ、前記加工物(16)の材料、前記溶接ワイヤ(13)の材料、使用される保護ガス及び/又は前記加工物(16)における溶接ギャップなどの少なくとも1つの溶接プロセスパラメータに基づいて自動的に決定されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの溶接パラメータが、前記溶接装置(1)において手動で選択され調節され、前記短絡段階(33)について前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性を切り替えるときの時点が、この少なくとも1つの溶接パラメータに基づいて前記制御装置(4)により規定されることを特徴とする請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性を切り替えることが、所定の期間に基づいて又はトリガー信号により作動されることを特徴とする請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶接ワイヤ(13)の送り速度Vが変えられ、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性に基づいて決定されることを特徴とする請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
短絡段階(33)及び電気アーク段階(36)により形成される期間(40、41)の間に、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧の極性が、少なくとも二回制御されて切り替えられ、特に、極性変化が、前記電気アーク段階(36)の間と前記短絡段階(33)の間に起こることを特徴とする請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
期間(40、41)の間において適時に制御された前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性切り替えが、例えば、熱導入のパラメータ、前記溶接電流I、前記溶接電圧U、材料導入のパラメータなどの溶接プロセスパラメータに基づいて制御されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの振幅及び/又は極性が、溶接される前記加工物(16)間において検出されるギャップの幅及び/又は高さに基づいて調節されることを特徴とする請求項1から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの振幅及び/又は極性が、検出される溶接溶込み、特に所謂溶接ルートの深さに基づいて調節されることを特徴とする請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
溶接電流源(2)、制御装置(4)及び溶接トーチ(20)を備えた溶接装置(1)であって、異なる溶接パラメータを調節するため、及び、熱収支又は加工される加工物(16)への熱導入のための少なくとも1つのパラメータを調節し選択するための入力及び/又は出力装置(22)、及び/又は、リモートコントロールを更に備えた溶接装置(1)において、
制御手段が、前記入力及び/又は出力装置(22)、及び/又は、前記リモートコントロールに関連し、前記手段が、熱収支又は熱導入のための前記少なくとも1つの調節された又は選択されたパラメータに基づいて、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性変化のときの時点を規定するために設計されていることを特徴とする溶接装置(1)。
【請求項18】
少なくとも1つの選択又は調節手段が、正又は負の極性を有する前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの期間(40、41)の数又は持続時間、又は前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの振幅を直接的に又は間接的に調節するために配置されていることを特徴とする請求項17に記載の溶接装置(1)。
【請求項19】
前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uのための溶接パラメータ設定、特に交流曲線の形、期間持続時間などを保存するためのメモリを備えていることを特徴とする請求項17又は18に記載の溶接装置(1)。
【請求項20】
前記制御手段が、前記制御装置(4)の前記データメモリにそれぞれ保存されたソフトウェア及びプログラムロジックにより形成され、前記データメモリが、前記メモリに保存された前記データを変更する又は呼び出すための前記入力及び/又は出力装置(22)に接続されていることを特徴とする請求項17から19の何れか一項に記載の溶接装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−130970(P2012−130970A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−21164(P2012−21164)
【出願日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【分割の表示】特願2007−556460(P2007−556460)の分割
【原出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(504380611)フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (65)
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
【Fターム(参考)】