説明

溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法

【課題】電源の容量を大幅に増加させることなく、安定的に厚肉電縫鋼管の溶接欠陥の発生を抑制することが可能な、溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】肉厚tが15.4mm以上の厚肉の鋼板又は鋼帯の側部の端面に、開先深さα[mm]と肉厚との比α/tが0.03以上、開先テーパー角θ[°]が4〜86°である開先を設け、肉厚t、開先深さα及び開先テーパー角θが、α/t < 3.43/θを満足することを特徴とする溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法。開先テーパー角θ[°]は、60°未満であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管は、素材である鋼板又は鋼帯(以下、総称して鋼板という。)をロール成形により管状に成形し、端部同士を突合せて、加圧しながら誘導加熱や通電加熱によって溶接し、製造される。鋼板の端部は、スクイズロールの直前で近接し、例えば、通電加熱によって鋼板の端面を溶融させ、スクイズロールで加圧し、溶接後、冷却される。
【0003】
鋼板を、例えば、コンタクトチップで通電加熱すると、端面の角部が優先的に加熱されるものの、通常、電縫鋼管を製造する際には、肉厚の中央部分の温度も上昇する。そのため、端面同士を衝合して応力を加えた際に、酸化物等が溶接部から押し出され、溶接欠陥を生じることはない。
【0004】
しかし、鋼板の肉厚が増加すると、肉厚の中央部の加熱が不十分になり、溶接部に未溶着部が残存し易くなる。また、端面同士を衝接する際に酸化物等が溶接部から十分に排出できず、ペネトレータと呼ばれる欠陥が残存するという問題が生じる。
【0005】
このような問題に対して、鋼板の側部の角部を面取し、テーパー形状の開先を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献1〜5)。この方法は、酸化物を溶接部から排出するために有効である。しかし、特に、肉厚を厚くした場合には、酸化物や未溶着部が残存し、溶接部の清浄度が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−164909号公報
【特許文献2】特開2007−160382号公報
【特許文献3】特開2007−874号公報
【特許文献4】特開2007−307566号公報
【特許文献5】特開2008−100277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼板を通電加熱すると、端面の角部が優先的に加熱されるため、肉厚が15.4mm以上になると、電縫鋼管を製造する際に、溶接の安定性が低下する。更には、肉厚が19.1mmを超える電縫鋼管を製造する際には、肉厚の中央部の近傍に溶接欠陥が生じやすくなる。そのため、鋼板の端部の加熱温度を高めるために、電源の容量を大きくすることが必要になる。しかし、交流通電加熱の場合には逆起電力が発生するため、電源の容量を非常に大きくしなければならない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、鋼板の側面の端部に適正な形状の開先を設け、電源の容量を大幅に増加させることなく、厚肉電縫鋼管の溶接欠陥の発生を抑制することが可能な、溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特に、鋼板を管状に成形し、端面を突合せて通電加熱する際に、鋼板の肉厚の中央部の近傍も加熱されるように、適正な形状の開先を設け、端面全体の温度を上昇させ、溶接欠陥の発生を抑制する方法であり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 電縫鋼管の製造方法において、肉厚tが15.4mm以上の厚肉の鋼板又は鋼帯の側部の端面に、該鋼板又は鋼帯の肉厚t[mm]に対する開先深さα[mm]の比α/tが0.03以上、開先テーパー角θ[°]が4〜86°である開先を設け、前記肉厚tに対する開先深さαの比α/tと、前記開先テーパー角θとが、下記(式1)を満足することを特徴とする溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法。
α/t < 3.43/θ ・・・ (式1)
(2) 前記開先テーパー角θ[°]が60°未満であることを特徴とする上記(1)に記載の溶接部性状に優れる電縫鋼管の製造方法。
(3) 鋼板又は鋼帯の肉厚tが19.1mm超であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の溶接部性状に優れる電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定的に、電源の容量を大幅に増加させることなく、溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法を提供することが可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の鋼板の端部の開先形状を示す図である。
【図2】肉厚t、開先深さα及び開先テーパー角θと溶接部性状との関係を示す図である。
【図3】肉厚t、開先深さα及び開先テーパー角θと溶接部性状との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、本発明の厚肉電縫鋼管の素材である鋼板の端部の模式図を示す。図1に示したように、鋼板の角部にテーパー1を設ける。本発明の最大の特徴は、開先テーパー角θと開先深さαとの関係を、鋼板の肉厚に応じて、制御することである。
【0013】
開先深さαが肉厚tに対して小さすぎると、中央部2が長くなり、特に肉厚の中心では温度が上昇せず、溶接欠陥が生じる。本発明者らは、α/tが0.03未満になると、表皮効果による電流の集中が得られず、テーパーが無い場合と同等であることを見出した。したがって、肉厚tに対する開先深さαの比α/tを0.03以上とする。一方、開先深さαが肉厚tに対して小さすぎると、中央部2が短くなり、スクイズロールの直前で鋼板同士の端面を精度良く突合せることが難しくなる。
【0014】
また、開先テーパー角θが小さすぎると、端面の角部に電流が集中する。開先テーパー角θが4°未満では、肉厚の中心の温度上昇が不十分になり、溶接欠陥が生じる。一方、開先テーパー角θが大きすぎると、テーパー1が長くなり、溶接時に、鋼板の中央部2に電流が集中する。開先テーパー角θが86°を超えると、鋼板の外面角部3の温度が上昇しなくなり、鋼管の外面に窪みを生じることがある。したがって、開先テーパー角θを4〜86°とする。
【0015】
次に、本発明者らは、角度を90〜180°(180°は直線状)とした鋼板の角部への電流密度を調査した。その結果、角度が大きくなると電流密度は減少し、角度が150°以上になると、180°、即ち、平坦である場合とほぼ同等になることがわかった。鋼板の外面角部3の角度は、90+θであるから、開先テーパー角θが60°以上になると、外面角部3は150°以上になる。したがって、テーパーの外面側の電流密度を高めて、温度を上昇させるには、開先テーパー角θを60°未満にすることが好ましい。
【0016】
また、開先テーパー角θ及び開先深さαの両者を大きくすると、テーパー1が長くなり、外面角部3の加熱が不十分になり、鋼管の外面に窪みが生じることがある。一方、開先テーパー角θ及び開先深さαの両者を小さくすると、テーパー1の効果が著しく小さくなる。したがって、開先深さαと開先テーパー角θとの積、α×θは、溶接性状に極めて重大な影響を及ぼすと考えられる。
【0017】
そこで、本発明者らは、肉厚tが、4、8、12、16、20、22mmである鋼板の端部に、開先深さα[mm]及び開先テーパー角θ[°]を変化させ、切削加工して開先を設け、電縫鋼管製造試験を実施した。各鋼板について、3回の試験を行い、そのうち、1つでも未溶接部や外面の窪みが確認された場合は、不合格とした。
【0018】
なお、未溶接部は、溶接線に沿って破断させるために、低温でシャルピー試験を行い、破断面を顕微鏡で観察して評価を行った。破断面の空孔の断面積の合計を画像解析によって測定し、破断面の断面積に対して、空孔の合計の断面積が0.1%を超えた場合に、未溶接部が発生したと判断した。外面の窪みの有無は、目視で判断した。
【0019】
結果を図2に示す。図2の横軸は、肉厚であり、縦軸は「α×θ」(開先深さα[mm]と開先テーパー角θ[°]との積)である。図2の「○」は未溶接部及び外面の窪みが発生せず、溶接部性状が良好であることを意味する。一方、「▲」は、鋼管の外面に窪みが発生したこと、「■」は、未溶接部が発生したことを意味する。
【0020】
図2に示したように、「α×θ」と肉厚tとは比例関係にあり、
α×θ < 3.43t ・・・ (式2)
を満足すると、未溶接部及び外面の窪みが発生しないことがわかった。上記(式2)を、肉厚tに対する開先深さαの比α/tと、開先テーパー角θの関係に整理すると、
α/t < 3.43/θ ・・・ (式1)
となる。
【0021】
図3に示したように、肉厚tに対する開先深さαの比α/tと、開先テーパー角θの関係が、上記(式1)を満足し、α/tが0.03以上、θが4〜86°の範囲内であると、良好な溶接部性状が得られる。なお、図3に示したように、α/tが0.5を超えると、未溶着部が発生し易くなるため、肉厚tに対する開先深さαの比α/tは、0.5以下が好ましい上限である。
【0022】
本発明の電縫鋼管の製造方法は、鋼種や用途を問わず、鋼板の成分、組織、特性及び製造方法は規定しない。鋼板の端部の開先は、切削加工又は研削加工によって設けることができる。
【0023】
電縫溶接の方法は特に規定せず、コンタクトチップ方式、ワークコイル方式を採用することができる。
【実施例1】
【0024】
以下、実施例に基づいて、本発明について具体的に説明する。
【0025】
C量が0.24質量%であり、引張強度が620MPa、肉厚が19.2mm及び22.5mmの鋼板を素材とし、ロール成形及び通電加熱によって、電縫鋼管を製造した。鋼帯の端面には、表1に示したように、開先深さα[mm]及び開先テーパー角θ[°]を変えて開先を切削加工によって設けた。
【0026】
電縫鋼管の全長は1mであり、長さ方向の両端から0.4mの部位、長さ方向の中央部の3箇所から試料を採取し、未溶接部の空孔面積率を測定した。なお、未溶接部は、溶接線に沿って破断させるために、低温でシャルピー試験を行い、破断面を顕微鏡で観察して評価を行った。破断面の空孔の断面積の合計を画像解析によって測定し、破断面の断面積に対する空孔の合計の断面積の割合(空孔面積率)が0.1%を超えた場合に、未溶接部が発生したと判断する。
【0027】
結果を表1に示す。表1に示したように、本発明によって、未溶接の発生が防止され、溶接性状に優れた厚肉電縫鋼管を製造することができる。
【0028】
【表1】

【実施例2】
【0029】
C量が0.24質量%であり、引張強度が620MPa、肉厚が15.4mmの鋼板を素材とし、ロール成形及び通電加熱によって、電縫鋼管を製造した。鋼帯の端面には、表1に示したように、開先深さα[mm]及び開先テーパー角θ[°]を変えて開先を切削加工によって設けた。
【0030】
電縫鋼管の全長は1mであり、長さ方向の両端から0.4mの部位、長さ方向の中央部の3箇所から試料を採取し、実施例1と同様、未溶接部の空孔面積率を測定した。
【0031】
結果を表2に示す。表2に示したように、本発明によって、未溶接の発生が防止され、溶接性状に優れた厚肉電縫鋼管を製造することができる。
【0032】
【表2】

【実施例3】
【0033】
C量が0.24質量%であり、引張強度が620MPa、肉厚が15.4mm、19.2mm、22.6mmの鋼板を素材とし、ロール成形及び通電加熱によって、電縫鋼管を製造した。鋼帯の端面には、表1に示したように、開先深さα[mm]及び開先テーパー角θ[°]を変えて開先を切削加工によって設けた。
【0034】
電縫鋼管の全長は1mであり、長さ方向の両端から0.4mの部位、長さ方向の中央部の3箇所から試料を採取し、窪みの発生の有無を目視で確認した。
【0035】
結果を表3に示す。表3に示したように、本発明によって、窪みの発生が防止され、溶接性状に優れた厚肉電縫鋼管を製造することができる。
【0036】
【表3】

【符号の説明】
【0037】
1 テーパー
2 中央部
3 外面角部
4 鋼板
t 肉厚
α 開先深さ
θ 開先テーパー角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電縫鋼管の製造方法において、肉厚tが15.4mm以上の厚肉の鋼板又は鋼帯の側部の端面に、該鋼板又は鋼帯の肉厚t[mm]に対する開先深さα[mm]の比α/tが0.03以上、開先テーパー角θ[°]が4〜86°である開先を設け、前記肉厚tに対する開先深さαの比α/tと、前記開先テーパー角θとが、下記(式1)を満足することを特徴とする溶接部性状に優れる厚肉電縫鋼管の製造方法。
α/t < 3.43/θ ・・・ (式1)
【請求項2】
前記開先テーパー角θ[°]が60°未満であることを特徴とする請求項1に記載の溶接部性状に優れる電縫鋼管の製造方法。
【請求項3】
鋼板又は鋼帯の肉厚tが19.1mm超であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接部性状に優れる電縫鋼管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−240721(P2010−240721A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94408(P2009−94408)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】