説明

溶接部特性の良好な電縫管の製造方法

【課題】電縫溶接直前の幅端部形状を適切な形状とすることができ、それによって、電縫溶接時に十分な溶鋼排出がなされて、ペネトレータが確実に取り除かれ、溶接部特性の良好な電縫管を得ることができる電縫管の製造方法を提供する。
【解決手段】ブレイクダウン第1スタンド3の出側に、帯材20の左右両幅端部の上表面側および下表面側にテーパ形状を付与するための研削手段11を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部特性の良好な電縫管の製造方法に関わり、特に、油井のラインパイプ向けなどの溶接部靭性が要求される管あるいは油井のケーシングパイプなどの溶接部強度が要求される管を製造する方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
通常、管は溶接管と継目無管に大別される。溶接管は、電縫鋼管を例とするように、板をロール成形等によって丸めて幅端部を突き合わせて溶接して製造し、継目無管は、材料の塊を高温で穿孔しマンドレルミル等で圧延して製造する。溶接管の場合、一般に溶接部の特性は母材より劣ると言われ、管の適用に当たって、用途ごとに溶接部の靭性や強度の保証が常に議論されて問題となってきた。
【0003】
例えば、原油や天然ガスなどを輸送するラインパイプでは、管を寒冷地に敷設されることが多いため低温靭性が重要であり、また、原油採掘の油井では採掘管を保護するためのケーシングパイプが必要とされ、管の強度が重要視される。
【0004】
通常、管の母材となる熱延板は、管製造後の母材特性を考慮して成分設計や熱処理等が行われて、母材の靭性や強度等の特性は確保される。
【0005】
しかし、溶接部の特性は、母材の成分設計や熱処理等以上に、溶接方法によって大きく左右されるため、特に、電縫溶接の場合は溶接技術の開発が重要であった。
【0006】
電縫溶接の不良原因としては、ペネトレータと呼ばれる被溶接帯材の幅端部に生成する酸化物が、電縫溶接時に溶鋼とともに端面から排出されずに残留し、この残留したペネトレータを原因として靭性が低下し強度不足になる例が多かった。
【0007】
そこで、従来、電縫溶接不良の主原因であるペネトレータを溶接部から除くため、被溶接帯材の幅端面から積極的に溶鋼を排出する技術が鋭意検討されてきた。例えば、特許文献1や特許文献2などに、被溶接帯材の幅端面の形状について検討した例が記載されている。すなわち、通常、被溶接帯材の左右両幅端面はスリットや端面研削によってほぼ矩形を呈しているが、この左右両幅端面の上表面側と下表面側に対してロール成形の前においてそれぞれテーパ加工を施し、そのテーパ加工した幅端部形状によって電縫溶接時の溶鋼排出を良好にすることを目的としている。
【特許文献1】特開2001−170779号公報
【特許文献2】特開2003−164909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電縫管を製造する際には、帯材をロール成形した後に電縫溶接される。このロール成形では、帯材を管にするために幅端部近傍に円周方向の曲げを加える工程や、あるいは、電縫溶接での幅端部同士の突き合わせ精度を良好に保つために、丸めた板端部を拘束して真円に近い形状とするフィンパス成形工程が必要である。
【0009】
したがって、上記特許文献1、2に記載のように、ロール成形の前に帯材の幅端面に対してテーパ形状を付与したとしても、例えばロール成形途中で幅端部近傍に曲げが加わると、ロール成形前に付与したテーパ形状がゆがんでしまい、いびつな形状となってしまう可能性がある。その結果、電縫溶接時に十分な溶鋼排出ができず、ペネトレータを確実に取り除くことができないということになる。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、電縫溶接直前の幅端部形状を適切な形状とすることができ、それによって、電縫溶接時に十分な溶鋼排出がなされて、ペネトレータが確実に取り除かれ、溶接部特性の良好な電縫管を得ることができる電縫管の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有している。
【0012】
[1]帯材をロール成形し幅端部を突き合わせて電縫溶接し管とする電縫管の製造方法において、ロール成形途中または電縫溶接直前で、帯材の幅端部の上表面側および下表面側にそれぞれテーパ形状を付与するに際して、前記テーパ形状は、帯材の幅端面から上表面あるいは下表面に向けての傾斜角度が25°〜50°であり、帯材の幅端面におけるテーパ開始位置と上表面あるいは下表面との帯材板厚方向の距離が帯材板厚の20%〜40%であることを特徴とする溶接部特性の良好な電縫管の製造方法。
【0013】
[2]切削または研削によってテーパ形状を付与することを特徴とする前記[1]に記載の溶接部特性の良好な電縫管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、ロール成形途中または電縫溶接直前で、帯材の幅端部に適切なテーパ形状を付与するようにしているので、電縫溶接直前の幅端部形状が適切なテーパ形状に保持される。その結果、電縫溶接時に十分な溶鋼排出がなされて、ペネトレータが確実に取り除かれるので、溶接部特性の良好な電縫管を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
前記特許文献1、2に記載の技術は、いずれもロール成形前に帯材の幅端部にテーパ形状を付与するものである。これは、ロール成形前の帯材の幅端面が平坦な状態なため、幅端部をテーパ加工しやすいという理由であるが、反面、前述のように、ロール成形途中の曲げ等によって幅端部が変形し、電縫溶接直前の幅端部形状を所望の形状とすることが非常に難しい。そこで、本発明者らは、幅端部のテーパ加工をこれらの問題のない工程で施すことにより、電縫溶接直前の幅端部形状が所望のテーパ形状に保持されるようにした。
【0016】
すなわち、帯材の幅端部近傍の曲げ加工はロール成形の初期段階で行われる。したがって、このロール成形初期段階での板端部の曲げが行われた後に帯材の幅端部にテーパ加工を施すと、曲げによるテーパ形状のゆがみがほとんどなく、電縫溶接直前まで適切なテーパ形状が保持できる。
【0017】
または、ロール成形後の電縫溶接直前に帯材の幅端部にテーパ加工を施すようにすれば、確実に所望のテーパ形状を得ることができる。
【0018】
なお、その際の帯材の幅端部にテーパ加工を施す手段としては、切削または研削を用いることが好ましい。テーパ形状を所望のとおり付与するには、切削または研削によって不要な部分を除去するか、孔型圧延ロール等によって塑性変形させるかであるが、塑性変形させる方法では、発生する余肉部分が除去できないために、周辺に余肉の盛り上がり部分が生じるので、その余肉部分も考慮して所望のテーパ形状を得ることは容易ではない。これに対して、不要な部分を除去する方法であれば、余肉部分の影響を考慮する必要はなく、所望のテーパ形状を容易に得ることができる。
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態において用いる電縫管製造ラインを図1に示す。この電縫管製造ラインは、帯材20を、アンコイラ1から払い出し、レベラー2で平坦に矯正し、ロール成形機5で帯材20を徐々に丸めていき、丸めた帯材20の左右両幅端部を、誘導加熱部6とスクイズロール(電縫溶接部)7からなる電縫溶接機で電縫溶接して管30となし、管30の溶接ビード部をビード部切削機8で切削し、切削後の管30を、サイザー9にて外径調整した後、管切断機10で所定長さに切断するという基本構成を有している。なお、ロール成形機5は、前段に帯材20の幅端部近傍の曲げ加工を行うブレイクダウン第1スタンド3を備え、最後段に丸めた板端部を拘束して真円に近い形状とするフィンパス成形スタンド4を備えている。
【0020】
そして、この実施形態においては、上記の基本構成に加え、ブレイクダウン第1スタンド3の下流側(出側)に、帯材20の左右両幅端部の上表面側および下表面側にテーパ形状を付与するための研削手段11を備えている。その研削手段11は、図2に図1のA−A矢視図を示し、図3にその部分詳細図を示すように、ロール状の研削砥石(研削ロール)11aをモータ11bで回転させるものである。それを帯材20の左右幅端部に上下一対ずつ計4台設置し、そのロール軸を所定角度α傾斜させることによって、帯材20の左右両幅端部の上表面側および下表面側にそれぞれ所定のテーパ形状(幅端面から上表面に向けての傾斜角度α、幅端面における開始位置の上表面からの板厚方向距離β)を付与するようになっている。
【0021】
そして、帯材20の左右両幅端部に付与するテーパ形状については、帯材20の幅端面から上表面あるいは下表面に向けての傾斜角度αが25°〜50°で、幅端面におけるテーパ開始位置と上表面あるいは下表面との帯材板厚方向の距離βが帯材板厚の20%〜40%としている。
【0022】
なぜなら、傾斜角度αが25°未満であると、帯材板厚中央部からの溶鋼排出が不十分となってペネトレータが残留して不良となり、電縫溶接後の靭性や強度が低下し、傾斜角度αが50度を超えると、電縫溶接後にもそのテーパ形状が製品の管の疵として残留し問題である。また、距離βが板厚に対して20%未満であると、板厚中央部の溶鋼排出が不十分となってペネトレータが残留しやすくなり、距離βが板厚に対して40%を超えると、電縫溶接後にもそのテーパ形状が製品の管の疵として残留し問題である。
【0023】
上記のように構成された電縫管製造ラインにおいては、ブレイクダウン第1スタンド3で帯材20の幅端部近傍の曲げが行われた後に、帯材20の幅端部に所定のテーパ形状を付与するようにしているので、曲げによるテーパ形状のゆがみがほとんどなく、電縫溶接直前まで適切なテーパ形状が保持される。その結果、電縫溶接時に十分な溶鋼排出がなされて、ペネトレータが確実に取り除かれるので、溶接部の靭性や強度等の溶接部特性が良好な電縫管を得ることができる。
【0024】
なお、この実施形態においては、帯材20の幅端部に所定のテーパ形状を付与するために、研削手段11を用いているが、それに替えて、切削手段を用いることでもよい。すなわち、図4に横断面図(図2に対応)を示し、図5に図4のB−B矢視図を示すように、切削バイト12aを帯材20の左右幅端部に上下一対ずつ計4台設置し、それによって帯材20の左右両幅端部の上表面側および下表面側にそれぞれ所定のテーパ形状(幅端面から上表面に向けての傾斜角度α、幅端面における開始位置の上表面からの板厚方向距離β)を付与するようにしてもよい。
【0025】
また、非常に精度よいテーパ形状を得たい場合には、その形状をオンラインで直接観察しつつ切削または研削するのがよい。
【0026】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態において用いる電縫管製造ラインを図6に示す。この電縫管製造ラインは、前述の第1の実施形態において用いた電縫管製造ラインとほぼ同様であるが、第1の実施形態では、ブレイクダウン第1スタンド3の下流側に、帯材20の幅端部にテーパ形状を付与するための研削手段11を備えていたが、それに替えて、この実施形態では、ロール成形機5と誘導加熱部6の間(すなわち、電縫溶接機の入側)に、帯材20の幅端部にテーパ形状を付与するための切削手段12を備えている。
【0027】
その切削手段12は、前述の図4、図5に示したように、切削バイト12aを帯材20の左右幅端部に上下一対ずつ計4個設置し、それによって帯材20の左右両幅端部の上表面側および下表面側にそれぞれ所定のテーパ形状(幅端面から上表面に向けての傾斜角度α、幅端面における開始位置の上表面からの板厚方向距離β)を付与するようにしたものである。
【0028】
そして、この実施形態においても、帯材20の左右両幅端部に付与するテーパ形状については、帯材20の幅端面から上表面または下表面に向けての傾斜角度αが25°〜50°で、幅端面におけるテーパ開始位置と上表面あるいは下表面との帯材板厚方向の距離βが帯材板厚の20%〜40%となるようにする。
【0029】
なぜなら、傾斜角度αが25°未満であると、帯材板厚中央部からの溶鋼排出が不十分となってペネトレータが残留して不良となり、電縫溶接後の靭性や強度が低下し、傾斜角度αが50度を超えると、電縫溶接後にもそのテーパ形状が製品の管の疵として残留し問題である。また、テーパ開始距離βが板厚に対して20%未満であると、板厚中央部の溶鋼排出が不十分となってペネトレータが残留しやすくなり、テーパ開始距離βが板厚に対して40%を超えると、電縫溶接後にもそのテーパ形状が製品の管の疵として残留し問題である。
【0030】
なお、電縫溶接直前では帯材がほぼ円形状に近くなっており、左右の幅端部が著しく近接しているため、狭い空間でも加工が可能な切削バイト12aを用いてテーパ形状を付与するのが適切であるが、研削ロールを小型化し、それを用いてテーパ形状を付与することも可能である。また、同一横断面に4個の切削バイトや研削ロールを配置することが難しい場合には、それらの位置を帯材20の進行方向にずらして千鳥状に配置してもよい。
【0031】
このようにして、この実施形態においては、電縫溶接直前に帯材20の左右両幅端部に所定のテーパ形状を付与するようにしているので、付与された所定のテーパ形状がそのまま電縫溶接に供されるため、幅端部からの溶鋼排出が十分行われて、ペネトレータを確実に除去できる。結果、溶接部の靭性や強度などの溶接部特性が良好な電縫管を得ることができる。
【0032】
ちなみに、上述の第1、第2の実施形態においては、帯材の上表面側と下表面側とが板厚中心面に対して対称となるテーバ形状を付与しているが、これに限らず、帯材の上表面側と下表面側とが板厚中心面に対して非対称となるテーパ形状を付与してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて説明する。
【0034】
ここでは、板幅1920mm×19.1tmmの帯材(鋼帯)を用いて、φ600の電縫管を製造した。そして、製造した電縫管の溶接部から試験片を切り出してシャルピー試験を行い、性能を評価した。シャルピー試験片は、管長手方向の相違する10点から1本ずつ、試験片長さ方向を管円周方向に平行にし、ノッチ長さ中心を溶接部肉厚中心位置として採取し、JIS5号の2mmVノッチ衝撃試験片として、−46℃での衝撃試験を行い、吸収エネルギー、脆性破面率を測定した。なお、吸収エネルギーは125J以上、脆性破面率が35%以下を性能許容範囲とした。
【0035】
(本発明例1)本発明例1として、前述の第1の実施形態に基づいて上記の電縫管を製造した。その際、帯材の左右両幅端部の上表面側および下表面側に付与するテーパ形状として、傾斜角度αを30°、テーパ開始距離βを5mmとした。
【0036】
(本発明例2)本発明例2として、前述の第2の実施形態に基づいて上記の電縫管を製造した。その際、帯材の左右両幅端部の上表面側および下表面側に付与するテーパ形状として、傾斜角度αを40°、テーパ開始距離βを6mmとした。
【0037】
(比較例1)比較例1として、帯材の左右両幅端部の上表面側および下表面側に付与するテーパ形状として、傾斜角度αを20°、テーパ開始距離βを2.8mmとし、その他は本発明例1と同一にした。
【0038】
(比較例2)比較例2として、帯材の左右両幅端部の上表面側および下表面側に付与するテーパ形状として、傾斜角度αを55°、テーパ開始距離βを8.6mmとし、その他は本発明例2と同一にした。
【0039】
(従来例) 従来例として、図1に示した製造ラインにおいて、ブレイクダウン第1スタンド3の下流側に設けられた研削手段11を取り外し、帯材20の幅端面が矩形のままで電縫溶接を行って、上記の電縫管を製造した。
【0040】
これらにより製造した電縫管の溶接部におけるシャルピー衝撃値と脆性破面率を測定した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、本発明例例による電縫管は、溶接部の衝撃強度が高く脆性破面率が小さくて、靭性が良好であって、製品の信頼性が高い。これに対して、従来例および比較例による電縫管は、溶接部の衝撃強度が低く、脆性破面率が大きくて、靭性が低下しており、製品の信頼性に乏しい。
【0043】
したがって、本発明によって溶接部特性の良好な電縫管を製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態における電縫管製造ラインの説明図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】図2の部分詳細図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における他のテーパ付与手段の説明図である。
【図5】図4のB−B矢視図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における電縫管製造ラインの説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 アンコイラ
2 レベラ−
3 ブレイクダウン第1ロール
4 フィンパス成形スタンド
5 ロール成形機
6 誘導加熱装置
7 スクイズロール(電縫溶接部)
8 ビード切削バイト
9 サイザー
10 管切断機
11 研削手段
11a 研削ロール
11b モータ
12 切削手段
12a 切削バイト
20 帯材
30 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯材をロール成形し幅端部を突き合わせて電縫溶接し管とする電縫管の製造方法において、ロール成形途中または電縫溶接直前で、帯材の幅端部の上表面側および下表面側にそれぞれテーパ形状を付与するに際して、前記テーパ形状は、帯材の幅端面から上表面または下表面に向けての傾斜角度が25°〜50°であり、帯材の幅端面におけるテーパ開始位置と上表面あるいは下表面との帯材板厚方向の距離が帯材板厚の20%〜40%であることを特徴とする溶接部特性の良好な電縫管の製造方法。
【請求項2】
[2]切削または研削によってテーパ形状を付与することを特徴とする請求項1に記載の溶接部特性の良好な電縫管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate