説明

溶液または廃水の処理

有機物質または無機物質を含む廃水の流れを処理するための方法であって、前記廃水の流れを生物電気化学システムのアノードまたはカソードに移動させる工程を含み、それによって、前記廃水の流れのpHが、a)溶解したカチオンの沈殿を最小化または抑制するように、前記アノードに移動した流れのpHを低下させるか、またはb)アルカリ性の流れを生成するように、前記カソードに移動した流れのpHを増加させるか、またはc)酸性の流れを生成するように、前記アノードに移動した流れのpHを低下させる、ように変化する、方法を提供する。一実施形態において、苛性ソーダ溶液がカソードにおいて生成され、貯蔵およびその後の使用のために回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一態様において、本発明は廃水の流れを処理するための方法に関する。別の態様において、本発明は酸性溶液またはアルカリ性溶液を生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工業は、それらを稼動するために相当量の苛性ソーダおよび/または塩酸を必要とする。苛性ソーダは、典型的に、塩素アルカリプロセスにより製造され、ここで、NaClブラインが電解される。これに関して使用される3つの主な方法、水銀電池プロセス(Castner−Kellnerプロセスとも呼ばれる)、隔膜セルプロセスおよび膜電池プロセスが存在する。後者は、カソードおよびアノード反応を分離するためにナフィオン(Nafion)カチオン交換膜を使用する。ナトリウムイオンおよび一部の水のみが使用される膜を通過する。
【0003】
塩酸は工業的に2つの方法により生成される。第1に、塩素アルカリプロセスの間に、塩酸はアノードで生成される。ここで、塩化物は塩素に変換され、水素と混合されて、HCl:Cl+H→2HClになる。塩酸はまた、例えばテフロン(登録商標)およびPVCの生成の間の副産物として有機的に合成され得る。苛性ソーダおよび塩酸の両方は、工業において広範に使用され、しばしば、廃水の流れのpHを修正する。例えば、紙およびパルプ工業はカルシウムスケーリングを防止するために相当量の塩酸を使用し、一方、苛性ソーダも専用リアクタ中のカルシウムを除去するために使用される。
【0004】
微生物燃料電池および微生物電界セルなどの生物電気化学システムは一般に、廃水に存在する有機物質からエネルギーを生成するための将来有望な技術とみなされている。工業、農業および家庭内の廃水は、通常、環境中に排出される前に除去を必要とする溶解した有機物を含有する。通常、それらの有機汚染物質は好気性処理によって除去され、エアレーションのために多量の電気エネルギーを要し得る。
【0005】
最近、生物電気化学廃水処理は、廃水からエネルギーを生成するための潜在的に興味のある技術として出現している。生物電気化学廃水処理は、電気化学的に活性な微生物の使用に基づき、それにより、廃水中の有機物質を酸化(およびそれにより除去)している間に電子を電極(アノード)に移す。生物電気化学廃水処理は、微生物のバイオアノードを、還元反応を実施する対電極(カソード)に電気的に結合することにより達成され得る。アノードとカソードとの間のこの電気的接続の結果として、電極反応が発生することができ、電子がアノードからカソードに流れることができる。生物電気化学システムは、燃料電池(この場合、電気エネルギーが生成される)として、または電解セル(この場合、電気エネルギーが生物電気化学システムに供給される)として作動してもよい(非特許文献1)。
【0006】
生物電気化学システムにおけるアノード反応はプロトンを生成するか、またはヒドロキシルイオンを消費し、それにより、アノード周囲のバイオフィルムを酸性にし、生物電気化学システムの性能に悪影響を及ぼし得る。電極に緩衝剤を添加するか、または生物電気化学システムに使用される電極の緩衝強度を増加することにより、生物電気化学システムから得られる電流密度の顕著な増加が生じ得ることが示唆されている(非特許文献2)。従って、従来の見解は、生物電気化学システムのアノード区画における電極の酸性化を回避しようとしている。ある研究において、酸性化/アルカリ化に起因するアノードおよび/またはカソードにおける起こり得る静菌効果が、逆浸透濃縮に関連して述べられている(Clauwaertおよび共同研究者、Applied Microbiology and Biotechnology 2008)。
【0007】
この問題に対する1つの可能性のある解決策が、特許文献1(その全内容は相互参照により本明細書に組み込まれている)に提案されている。この特許文献1において、廃水がアノードチャンバに供給され、続いてアノードチャンバからカソードチャンバに移される、微生物燃料電池が記載されている。溶液の酸性化は、アノードチャンバにおいて生成され得る酸性度がカソードチャンバにおける競合反応によって破壊されることにより回避された。特許文献1に記載されている装置および方法は、生物化学電気システムにおいて廃水の流れを処理することによって電力を生成するのに非常に適切な装置および方法を提供している。
【0008】
別の広まっている解決策は、アノードおよびカソードを分離する膜の削除である(非特許文献3)。それは、流体間を混合することを改善し、アノードとカソードとの間の低いpHの差を生じる。そのシステムは、通常、アノードからカソードへの燃料のクロスオーバーを被る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2008109962号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rozendal,R.A.,H.V.M.Hamelers,K.Rabaey,J.Keller,およびC.J.N.Buisman.2008.Towards practical implementation of bioelectrochemical wastewater treatment.Trends in Biotechnology 26:450−459
【非特許文献2】Liuら,Environmental Science and Technology 2008
【非特許文献3】Liu,H.,およびB.E.Logan.2004,「Electricity generation using an air−cathode single chamber microbial fuel cell in the presence and absence of a proton exchange membrane」,Environmental Science & Technology 38:4040−4046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明のいくつかの実施形態の目的は、廃水の流れを処理して、有機物質の含有量の低下および塩含有量の低下または溶液中に溶解したイオンが沈殿する傾向の低下などの他の所望の特徴を有する廃水の流れを生成するための方法を提供することである。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態の目的は、還元的プロセスにより化学物質および/生化学物質を微生物により産生するための方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の実施形態の目的は、酸性溶液またはアルカリ性溶液を生成するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様において、本発明は、有機物質または無機物質を含む廃水の流れを処理するための方法であって、廃水の流れを生物電気化学システムのアノードまたはカソードに移動させる工程を含み、前記生物電気化学システムは、1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるカソードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードおよびカソードの両方を有し、それによって、廃水の流れのpHが、
a)溶解したカチオンの沈殿を最小化または抑制するように、アノードに移動した流れのpHを低下させるか、または
b)アルカリ性の流れを生成するように、カソードに移動した流れのpHを増加させるか、または
c)酸性の流れを生成するように、アノードに移動した流れのpHを低下させる、
ように変化する、方法を提供する。
【0015】
当業者によって理解されるように、本発明に使用される生物電気化学システムは、アノードまたはカソードのいずれかに付随する電気化学的に活性な微生物を含む。
【0016】
本発明の一実施形態において、生物電気化学システムは、当業者に公知のようなイオン透過膜によって隔てられているアノードチャンバおよびカソードチャンバを備える。本発明の使用に適切なイオン透過膜には、生物電気化学システムに使用され得る任意のイオン透過膜が含まれる(Kimら,Environ.Sci.Technol.,2007,41,1004−1009;Rozendalら,Water Sci.Technol.,2008,57,1757−1762)。そのようなイオン透過膜は、カチオン交換膜およびアニオン交換膜などのイオン交換膜を含んでもよい。また、精密濾過膜、限外濾過膜、およびナノ濾過膜などの多孔質膜も、本発明に使用される生物電気化学システムに使用されてもよい。イオン透過膜は、正および/または負に荷電したイオンの膜を通過する輸送を促進し、アノードからカソードへの負に荷電した電子の流れを補償し、従って、このシステムにおける電気的中性を維持する。また、パーベーパレーション膜および膜蒸留に使用されるような膜が使用されてもよい。
【0017】
アノードおよびカソードは電気回路によって互いに接続される。一実施形態において、電気回路は非常に低い抵抗を有する導体を備えてもよく、それによって、一部の場合において、導体はアノードとカソードとの間の短絡として作用する。別の実施形態において、電源が電気回路に含まれてもよい。この電源は、システムに電圧を印加するために使用され得、発生する電気化学反応の速度を増加させる。アノードとカソードとの間の電源を用いて印加される電圧は、0〜10V、好ましくは0〜2V、より好ましくは0〜1.0Vであり得る。これにより、生物電気化学電池の0〜10,000A/m、好ましくは生物電気化学電池の10〜5,000A/m、より好ましくは生物電気化学電池の100〜2500A/mの容積測定の電流密度、および/または0〜1,000A/mの膜表面積、好ましくは1〜100A/mの膜表面積、より好ましくは2〜25A/mの膜表面積の特定領域の電流密度が生物電気化学電池において生じ得る。
【0018】
本発明の種々の実施形態において、以下の流れまたは溶液が生物電気化学システムに供給され得る。
【0019】
i)廃水の流れがアノード区画に供給され、かつ廃水の流れがカソード区画に供給され得る。これにより、アノード区画において酸性化した廃水の流れが生じ、カソード区画において高いアルカリ度の廃水の流れが生じる。カソード区画に供給される廃水の流れは、アノード区画に供給される廃水の流れと異なってもよい。あるいは、単一の廃水の流れが分裂され、一部がアノード区画に供給され、一部がカソード区画に供給されてもよい。この実施形態において、アノードおよびカソードの両方が、電気化学的に活性な微生物によって生体触媒されてもよい。
【0020】
ii)廃水の流れがアノード区画に供給され、かつ水または水性の流れがカソード区画に供給され得る。カソード区画に供給される水性の流れは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムカチオンなどのカチオンを含み得る。この実施形態において、カソード区画から出ていく生成物の流れは、高いpHを有するアルカリ性の流れを含み得る。この実施形態において、アノードは電気化学的に活性な微生物によって生体触媒され得る。カソードは従来のカソードを含んでもよい。
【0021】
iii)廃水の流れがカソード区画に供給され、かつ水または水溶液がアノード区画に供給され得る。アノード区画に供給される水性の流れは、塩化物、硝酸塩、リン酸塩または酢酸塩などのアニオンを含み得る。この実施形態において、アノード区画から出ていく生成物の流れは、低いpHを有する酸性化した流れを含み得る。この実施形態において、カソードは、電気化学的に活性な微生物によって生体触媒され得る。アノードは従来のアノードを含んでもよい。
【0022】
iv)水または水溶液がアノードおよびカソードの両方に供給され得る。
【0023】
本発明の第1の態様の一実施形態において、廃水の流れは生物電気化学システムのアノードに移動される。これにより、廃水の流れの中の有機物質の酸化が生じ、廃水の流れの中の有機物質の量または濃度を低下させるように作用する。また、プロトン(Hイオン)が形成され、それらにより、廃水の流れのpHの低下が生じる。適切には、この実施形態は、廃水の流れのpHが、カチオン(特にカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンまたはストラバイトイオン)の沈殿または沈殿反応が最小化または抑制されるレベルまで低下するように作用する。多くの廃水の流れが溶解したカチオンを含み、廃水の流れのpHが増加すると、多くのカチオンが炭酸塩を形成するので、および/またはpH値が閾値以上に増加すると水酸化物が沈殿するので、それらの溶解したカチオンが沈殿する傾向があることは理解されるだろう。この値は水溶液の組成にいくらか依存する。通常、炭酸塩および/または水酸化物の沈殿、特に炭酸カルシウムは、溶液のpHが6.5以上になると形成するようである。他の場合、pHが閾値レベル以上に増加すると、沈殿反応が起こり、ストラバイトなどの多くの複合沈殿物の沈殿が生じ得る。廃水の流れからの炭酸塩および/または水酸化物の沈殿などの沈殿は、処理用パイプおよび器の顕著なスケールの形成を生じ得る。当業者によって理解されるように、スケールの形成は、処理用の器に多くの有害な結果を生じ得、スケール除去のために処理用器を完全に停止させることを必要とすることを含む処置が生じ得る。実際に、スケールにより、著しく大きな程度まで処理用器が動作不能になる可能性がある。これは非常に深刻な結果となり得る。例えば、処理用器が水処理プロセスに使用され、その処理用器が停止した場合、処理されていない廃水を効果的に排水する必要があり得る。これは、環境に有害な結果をもたらす可能性があり、プラントの稼動者がその稼動免許を剥奪される危険性があり、また、プラントの稼動者が廃水の流れを廃棄するための高額な廃棄費用を支払う危険性がある。
【0024】
一実施形態において、廃水の流れはpHが7以下まで低下するように処理される。
【0025】
本発明のこの実施形態において、別の廃水の流れが、生物電気化学システムのカソードに供給されてもよい。あるいは、異なる流れがカソードに供給されてもよい。例えば、比較的きれいな水がカソードに提供されてもよいか、または塩溶液、逆浸透濃縮または塩水がカソードに供給されてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、アノードにおける電気化学的に活性な微生物の活性により、アノードに供給される廃水の流れの酸性化が生じ、pHが約5〜5.5以下に低下する可能性がない。なぜなら、pHがそのレベルに低下すると、細菌の活性が止まるからである。
【0027】
別の実施形態において、本発明の方法は、カソードに移動する流れのpHが増加するように作動され、それによって、アルカリ性の流れが生成される。このアルカリ性の流れはカソードから回収され、その後、他の目的のために使用されてもよい。この実施形態は上記の(b)に対応する。
【0028】
本発明のこの態様の一実施形態において、カソードは電気化学的に活性な微生物によって生体触媒され、カソードにおける電気化学的に活性な微生物の生物活性により、カソードに供給される流れのpHの増加が生じる。このような実施形態において、カソードに供給される流れのpHは8〜8.5を超える可能性はない。なぜなら、pHがそのレベルを超えると、微生物の生物活性が止まる傾向にあるからである。この特定の実施形態は、カソードから出ていくアルカリ性の流出物を生成するのに有用であり、pHは所望の下流のプロセス特性を得るために調節される。
【0029】
一実施形態において、カソードで生成されるアルカリ性の流れは、苛性ソーダ(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)または実際に他の目的に使用され得る任意の他の水酸化物を含む溶液を含んでもよい。望ましくは、カソードで生成されるアルカリ性の流れは、溶解した水酸化物塩を含む。これは、アノードとカソードとを隔てるイオン透過膜を有する生物電気化学システムを提供することにより達成され得、そのイオン透過膜はカチオンを選択的に通過させる。
【0030】
一部の実施形態において、イオン透過膜はカチオンを通過させるが、そのイオン透過膜を通過するアニオンの流れは制限する。この方法において、一部の荷電平衡のみがプロトンにより回復され、それによって、カソードにおける液体のpHの増加を確実にする。そのようなカチオン交換膜は、当業者に公知であり、CMI−7000(Membranes International)、Neosepta CMX(ASTOM Corporation)、fumasep(登録商標)FKB(Fumatech)、およびNafion(DuPont)などの膜が挙げられる。一部の実施形態において、イオン選択性膜は、一価のカチオンを選択的に通過させるカチオン選択性膜を含んでもよい。この実施形態において、カソード溶液に存在する水酸化物塩は、水酸化物塩を含む一価のカチオンであるようである。例としては、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられ得る。この実施形態において、膜を通過する二価のカチオンが制限されるので、例えば生物電気化学システムのカソード側に沈殿する炭酸カルシウムの可能性も低減され得る。
【0031】
1つの特定の実施形態において、廃水の流れはアノードに移動し、水性の流れまたは水はカソードに移動する。廃水の流れは、溶解したナトリウムおよび/またはカリウム、および/または他のカチオンを含んでもよく、それらは、アノードとカソードとの間のイオン選択性膜を通り、それによって、生物電気化学システムのカソード側で水溶液中に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを形成する。
【0032】
別の実施形態において、カソードに移動する水性の流れは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの溶解したカチオンを含んでもよい。例えば、カソードに移動した水性の流れは、塩溶液または塩水または海水を含んでもよい。
【0033】
この実施形態において、カソードから出ていくアルカリ性の流れのpHが10より大きく、より好ましくは12より大きく、さらにより好ましくは13より大きくなるようにプロセスが作動され得る。アルカリ性の流れは、貯蔵または他の目的に使用するために輸送するために回収され得る。例えば、アルカリ性の流れは、食品加工工業または飲料もしくは瓶詰め工業において使用される容器またはパイプまたは処理用器の洗浄に使用されてもよい。本発明の使用の1つの例は、ビールの瓶詰めプラントまたは醸造所における発酵槽を洗浄するために使用されるアルカリ性の流れを生成することである。
【0034】
本発明のさらなる実施形態において、アノードに移動する流れのpHが酸性の流れを生成するように低下するように方法が作動される。この実施形態は上記の(c)に対応する。適切には、pHは、4以下、より好ましくは2以下、さらにより好ましくは1以下まで低下する。酸性の流れは、適切には、貯蔵または他の目的に使用するために回収される。
【0035】
この実施形態において、アノードに供給される流れは、水あるいは溶解した塩を含む水溶液、塩水、逆浸透濃縮溶液または海水などの水性の流れであり得る。この実施形態においてアノードに供給される水または水性の流れは、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩またはそれらの2つ以上の混合物などのアニオンを含んでもよい。
【0036】
低いpHの酸性化した流れがアノード区画に形成される本発明の実施形態において、生物電気化学システムは、アニオンに選択的に透過する膜を含んでもよい。そのようなアニオン交換膜は当業者に公知であり、AMI−7001(Membranes International)、Neosepta AMX(ASTOM Corporation)、およびfumasep FAA(登録商標)(fumatech)などの膜が挙げられる。
【0037】
第2の態様において、本発明は、酸性溶液またはアルカリ性溶液を生成するための方法を提供し、その方法は、アノードおよびカソードを有する生物電気化学システムを提供する工程であって、前記生物電気化学システムは、1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるカソードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードおよびカソードの両方を有する工程と、水性の流れを前記アノードに供給する工程と、水性の流れを前記カソードに供給する工程と、前記アノードにおいて酸性溶液を生成する工程、または前記カソードにおいてアルカリ性溶液を生成する工程と、前記酸性溶液または前記アルカリ性溶液を回収する工程とを含む。
【0038】
回収された酸性溶液またはアルカリ性溶液は貯蔵するために送られてもよい。あるいは、回収された酸性溶液またはアルカリ性溶液は別のプロセスに使用するために輸送されてもよい。酸性溶液またはアルカリ性溶液は、生物電気化学システムから他の貯蔵を介入せずに別のプロセスに直接輸送されてもよい。あるいは、酸性溶液またはアルカリ性溶液は、他の目的に使用される前に貯蔵のために輸送されてもよい。
【0039】
一実施形態において、アノードに侵入する水性の流れは、製紙工場または紙再利用プラントまたは紙およびパルププラントからのカルシウムイオンを含む廃水である。廃水はアノードにおいて酸性化される。カソードにおいて、アルカリ性溶液が生成される。このアルカリ性溶液が、カルシウムイオンを沈澱させるために廃水に加えられてもよい。
【0040】
上記のプロセスの一実施形態において、廃水は嫌気性消化槽を通過する。嫌気性消化槽の流出物はアノードに移動する。カソードにおいて、アルカリ性の流れが生成される。
【0041】
好ましい実施形態において、嫌気性消化槽から来る廃水は反応器に移動し、カルシウムイオンが沈澱する。反応器の流出物はアノードに移動し、その流出物は酸性化する。アノードの流出物の一部または全ては、直接または間接的に嫌気性消化槽に戻る。カソードにおいて、アルカリ性の流れが生成されて、反応器に輸送され、カルシウムイオンが沈澱する。
【0042】
別の実施形態において、カソードの流体がアルカリ性になり、同時に、酸素またはヒドロキシルイオンの還元の結果として過酸化物がカソードにおいて生成される。この生成物は、他の場所で使用するために輸送されてもよい。
【0043】
別の実施形態において、醸造用タンクまたは醸造所のタンクの洗浄プロセスからの廃水が、アノード区画のための流入物として使用され、一方、カソードにおいてアルカリ性溶液が生成される。アノードの流出物は嫌気性消化槽に送られてもよい。この実施形態の変形において、逆浸透濃縮、塩溶液または塩水が、カソード区画のための流体として使用されてもよいか、またはカチオンを提供するためにアノード流入物に加えられてもよい。
【0044】
本発明の全ての態様において、アノードから出ていく電解液の流れはカソードに送られないことが好ましい(逆もまた同様である)。例外として、1ミリメートルより小さい、好ましくは0.1mmより小さい、さらにより好ましくは1マイクロメートルより小さい微粒子のみが通過できる膜が、アノードとカソードとの間に配置され、アノードからカソードへの流体の一部または全てがその膜を通過できる(逆もまた同様である)。
【0045】
本発明の一部の実施形態において、アノードおよびカソードは、イオン輸送を可能にする膜、好ましくはカチオンまたはアニオン交換膜、一価のカチオンまたはアニオン交換膜、あるいはイオンの通過を可能にする任意のセパレーターによって隔てられている。
【0046】
本発明の一部の実施形態において、カソード材料は、炭素ベースの材料、グラファイト、炭素繊維、ステンレス鋼、鋼、鉄、またはカソードに供給される流体に存在する酸素、水もしくは化合物の還元を可能にする任意の材料からなる群より選択されてもよい。
【0047】
本発明の一部の実施形態において、アノード材料は、炭素ベースの材料、グラファイト、炭素繊維、ステンレス鋼、またはアノードに供給される流体に存在する水、有機物質(微生物が存在するかしないかに関わらず)、塩化物もしくは化合物の酸化を可能にする任意の材料から選択されてもよい。
【0048】
本発明の一部の実施形態において、アノードおよび/またはカソードに流れる流体は膜に対して垂直であり得る。これは、例えば、膜を通して流体を送ること、または膜と、アノードおよび/またはカソード電極との間に間隔もしくはスペーサーを導入することによって達成され得る。このようなスペーサーは当業者に公知である。
【0049】
本発明の一部の実施形態において、アノードに供給される流体は、発酵液体または酢酸、プロピオン酸、酪酸、メタノール、エタノールおよび当業者に公知の他のものなどの脂肪酸および/もしくはアルコールを含む液体を含んでもよい。アノードの酸性化した流出物は、ストリッピングカラムまたは膜交換ユニットにもたらされてもよく、あるいは気体流が、脂肪酸および/またはアルコールを回収するために流体に送られてもよい。あるいは、脂肪酸および/またはアルコールは、アノードからカソードまで膜を通過し、アルカリ性のカソード溶液に溶解する。一部の実施形態において、膜はパーベーパレーション膜である。
【0050】
上記の好ましい実施形態において、カソード流体中の脂肪酸および/またはアルコール濃度は、1グラム/リットル以上、より好ましくは5グラム/リットル以上、最も好ましくは50グラム/リットル以上である。
【0051】
本発明の一部の実施形態において、生物電気化学電池の容積測定の電流密度は、0〜10,000A/mの生物電気化学システム、好ましくは10〜5,000A/m、より好ましくは100〜2500A/m、および/または0〜1,000A/mの膜表面積、好ましくは1〜100A/mの膜表面積、より好ましくは2〜25A/mの膜表面積の特定領域の電流密度が得られ得る。
【0052】
電力は、1mの生物電気化学システム当たり0〜10キロワットの電力密度で生物電気化学システムから回収され得るか、または生物電気化学システムに供給され得る。
【0053】
別の実施形態において、カソードに侵入する流体は、酸性鉱山排水または溶解した金属を含む酸性溶液であってもよい。カソード流体は、水、酸素、硫酸塩および酸性溶液に存在するかもしくは当業者に公知の他のものなどの電子受容体の電気化学または生物電気化学還元のいずれかによってpHが増加し得る。
【0054】
上記の好ましい実施形態において、カソードのpHは、金属イオンが流体から沈澱するレベルまで増加する。例としは、金属硫酸エステルまたは金属水酸化物がある。金属イオンは、カソード流体がカソード区画から出ていった後に沈殿し得る。例えば、沈殿は沈殿器内で起こり得る。
【0055】
上記の別の実施形態において、アノードの流れは、有機物質を含む流体、または水もしくは硫化物および当業者に公知の他のものなどの電子供与体を含む流体である。
【0056】
上記のさらに別の実施形態において、カソードについての還元力は、ソーラーパネルによって、または電力を生成する別の手段によって送達されるか、または高められる。
【0057】
別の実施形態において、アノードは注入口を有さず、むしろ、電子供与体を含む流体に浸される。アノードは、カソードを含む膜を少なくとも部分的に囲んでもよい。
【0058】
同様に、一部の実施形態において、カソードは注入口を有さず、むしろ、電子受容体を含む流体に浸される。カソードは、アノードを含む膜を少なくとも部分的に囲んでもよい。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、有機物質および/または無機物質を含む廃水の流れを処理するための方法であって、廃水の流れを生物電気化学システムのアノードまたはカソードに移動させる工程を含み、前記生物電気化学システムは、1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるカソードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたはカソードの両方を有し、それによって、
a)溶解したカチオンの沈殿を最小化または抑制するように、アノードに移動した流れのpHを低下させるか、または
b)アルカリ性の流れを生成するように、カソードに移動した流れのpHを増加させるか、または
c)酸性の流れを生成するように、アノードに移動した流れのpHを低下させる、方法を提供する。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、アルカリ性の水性の流れを生成するための方法であって、
生体触媒されたアノードを有するアノード区画と、カソードを有するカソード区画とを備える生物電気化学システムを提供する工程であって、アノード区画およびカソード区画はイオン透過膜によって隔てられており、アノードおよびカソードは互いに電気的に接続されている、工程と、
廃水の流れの中の有機物質および/または無機物質が酸化されるように、廃水の流れをアノード区画に供給する工程と、
水性の流れをカソード区画に供給する工程と、
カソード区画からアルカリ性の水性の流れを除去する工程と、
を含み、カチオンがイオン透過膜を通過するが、イオン透過膜を通るアニオンの流れを制限し、アルカリ性の流れがカソード区画において生成される、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、本発明における使用に適切な生物電気化学電池の一般的な構成を示すプロセスの流れ図を示す。
【図2】図2は、膜を通過する流体の部分的な流れが発生し得る本発明の一実施形態のプロセスの流れ図を示す。
【図3】図3は、本発明の一実施形態が、パルプおよび紙処理プラントに組み込まれているプロセスの流れ図を示す。
【図4】図4は、生物電気化学システムが、嫌気性消化装置および沈殿器に組み込まれている本発明の一実施形態のプロセスの流れ図を示す。
【図5】図5は、実験室での稼動1についての電流対時間のグラフを示す。
【図6】図6は、実験室での稼動2についての電流対時間のグラフを示す。
【図7】図7は、醸造所での稼動についての電流対時間のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図面は、本発明の好ましい実施形態を例示する目的のために与えられていることは理解されるだろう。したがって、本発明は、図面に示される特徴に限定されるとみなされるべきではないことが理解されるだろう。
【0063】
図面の各々は、共通する特徴の番号を有し、便宜上のため、図面の各々において同様の参照番号は同様の特徴を記載するために使用される。
【0064】
図1を参照すると、本発明における使用に適切な生物電気化学電池の一般的な構成を示すプロセスの流れ図が示され、図1に示す装置は、カソードチャンバ内に位置するカソード4およびアノードチャンバ内に位置するアノード5を備えることが見られ得る。イオン透過性である膜6が、カソードチャンバとアノードチャンバとの間に位置する。当業者に知られているように、アノード5およびカソード4は、互いに電気的に接続される。
【0065】
カソードチャンバは、流体入口1および流体出口9を備える。アノードチャンバは、流体入口7および流体出口8を備える。
【0066】
図2に示す実施形態は、流体の部分的な流れが膜6を通過することを除いて、全体的に図1に示すものと同様である。したがって、アノード区画に流体入口を有さなくてもよい。
【0067】
図1および2に示す本発明の一実施形態において、廃水がカソード入口1に供給される。この実施形態において、カソード4は生体触媒カソードである。例えば、カソードは、炭素またはグラファイトカソードであり得る。水または水性の流れはアノード入口7に供給され得る。この実施形態において、酸性化した流れ8はアノード区画から除去される。酸性化した流れは1未満のpHを有し得る。
【0068】
本発明の別の実施形態において、廃水の流れはアノード入口7に供給され、水または水性の流れはカソード入口1に供給される。この実施形態において、アノード5は生体触媒アノードを備える。酸性化した廃水の流れはアノード出口8から除去され、アルカリ性の流れはカソード出口9から除去される。アルカリ性の流れは、後の使用または貯蔵のために回収されてもよい。アルカリ性の流れは13より高いpHを有し得る。
【0069】
図3は、パルプおよび紙処理プラントで実施される本発明の実施形態のプロセスの流れ図を示す。図3において、廃水の流れ1は嫌気性消化槽2に供給される。廃水の流れ1はパルプおよび製紙工場からの廃水の流れであり、かなりの量の溶解した有機物質を含む。
【0070】
嫌気性消化後、処理された廃水の流れは、炭酸カルシウムならびに/または他のカチオン塩および水酸化物がpHの増加により沈殿する、結晶化リアクタ3に供給される。pHはカソード4から生じるアルカリ溶液を使用して高くなる。
【0071】
晶析装置3から出ていく廃水の流れは、次いで、図1に示すものと同様の生物電気化学装置のアノード区画に供給される。アノードは生体触媒アノードである。これにより、さらに、廃水の流れに残存している無機物質/有機物質の分解が生じる。同時に、水または水性の流れ10が、カソード4を収容するカソード区画に供給される。これにより、強アルカリ性の流れ11が生じ、このアルカリ性の流れは、パルプ処理への供給物質として使用され得るか、または上記のように、沈殿器において沈殿させるためにライン12を介して沈殿器3に供給され得る。
【0072】
アノード区画から出ていく処理した廃水の流れは、ライン14を介して嫌気性消化槽2に戻ってもよい。あるいは、その廃水の流れは廃棄するために送られてもよい。アノード区画から出ていく廃水の流れは、晶析装置3から出ていく廃水の流れより低いレベルの汚染物質を含み、アノード区画から出ていく廃水の流れの処理費用はより低くなるはずである。さらなる利点として、アノード区画から嫌気性消化槽2へ再利用される廃水の流れは、いくらか酸性化され、それによって、嫌気性消化槽において生じる望ましくない沈殿物の可能性を減少させる。
【0073】
図4は、本発明のさらなる実施形態のプロセスの流れ図を示す。図4において、廃水の流れ30は、生物電気化学システム32のアノード区画31に供給される。アノード区画31は、生体触媒アノード33を含む。
【0074】
生物電気化学システム32はさらに、カソード35を含むカソード区画34を備える。水性の流れ36はカソード区画34に供給される。イオン透過膜36は、アノード区画31とカソード区画34とを分離する。アノード33およびカソード34は、概略的に示す電気回路37によって電気的に接続される。
【0075】
アノード区画31において、廃水の有機物または無機物は微生物により酸化される。これによりプロトンが生成されるので、アノード区画31における廃水のpHは低下する。ナトリウムイオンまたはカリウムイオンなどの廃水からのカチオンは、イオン透過膜36を通過し、カソード区画34に入る。カソード反応はプロトンを消費するので、カソード区画34中の水溶液のヒドロキシルイオンは増加する。ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンのイオン透過膜36を通過する移動に加えて、このヒドロキシルイオンの増加により、カソード区画34に形成される水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウム(およびほとんどの場合、同様に他の水酸化物)を含むアルカリの流れが生じる。
【0076】
アノード流出物は、流れ38を介してアノード区画31から出ていく。アノード流出物は、さらなる処理のために嫌気性消化槽39に流れる。アノード区画から出ていく廃水の流れのpHはアノード区画において生じる反応により低くなっているので、カルシウム化合物および他の化合物の沈殿が、嫌気性消化槽において抑制または最小化される(カルシウム化合物は高いpHで沈殿する傾向があることは理解されるだろう)。従って、嫌気性消化槽39への供給の流れとしてアノード流出物を利用することにより、嫌気性消化槽39において生じる可能性のあるスケーリングの量を抑制または最小化する。
【0077】
嫌気性消化槽39から出ていく処理された廃水は、流れ40を介して沈殿器41に流れる。カソード区画34において生成されるアルカリの流れは、流れ42を介してカソード区画から除去される。さらなる実施形態において、このアルカリ性の流れが沈殿器41に提供されてもよく、これにより、ライン40を介して沈殿器41に供給される処理された廃水のpHの増加が生じる。この結果として、カルシウム化合物および他の化合物が沈殿器41内に沈殿する。沈殿器が固体分離をしない場合、沈殿した固体と液体の混合物は、流れ43を介して沈殿器41から取り除かれて、固体/液体分離器44に流れ得る。固体を含有する流れ45は、廃棄物処理器または固体回収器に送られる。液体の流れ46は液体処理器または液体回収器に送られる。
【0078】
図4に示すように、アノード区画31から出ていく流出物は、再利用されてもよいか、または再循環ライン50を介してアノード区画31に戻って循環されてもよい。同様に、流れ42を介してカソード区画34から出ていくアルカリの流れもまた、再利用されてもよいか、または再循環ライン51を介してカソード区画34に戻って循環されてもよい。アノード流出物のpHは、再循環ライン50を通して流れる物質の再循環速度を調節することによって調節され得ることは理解されるだろう。同様に、カソード区画34から出ていくアルカリの流れのpHは、再循環ライン51を通って流れる物質の再循環速度を調節することによって調節され得る。例えば、カソード流出物のpHを増加させるために、再循環ライン51を通る物質の再循環の量を増加させてもよい。
【0079】
図1〜3に示されないが、これらの図において、生物電気化学システムがまた、アノード区画、カソード区画、またはその両方のために再循環ラインに設けられてもよい。
【実施例】
【0080】
微生物燃料電池(MFC)は、ここ数年でかなり注目を集めるようになってきている。簡潔に述べると、MFCは、アノードにおいて有機(無機)電子供与体を酸化するための生体触媒として微生物全体を使用する。アノードから、酸化により得られた電子が、カソードの方へ伝達され、カソードはより高い電位を有する。電子は低電位から高電位に流れるので、電力が生じる。最近、MFCは、一般に、生物電気化学システム(BES)といわれている。BESが直面している1つの特定の複雑な問題は、アノードに供給される廃水または他の原料中のナトリウムおよびカリウムなどのカチオンの存在によって引き起こされる。それらのカチオンの濃度は、通常、プロトン濃度より非常に高いので、それらは、通常、BESのカチオン交換膜を通って高い程度まで輸送されて、アノードとカソードとの間の荷電平衡を回復させる。結果として、アノード反応におけるプロトン生成に起因してアノードは酸性化し、一方、カソードは、カソード反応におけるプロトン消費に起因してアルカリになる傾向がある。これを回避するために様々な戦略が開発されている。Liuら(Liu,H.;Logan,B.E.,Electricity generation using an air−cathode single chamber microbial fuel cell in the presence and absence of a proton exchange membrane.Environmental Science & Technology 2004,38,(14),4040−4046)は、総じて膜を除去しているので、そのシステムの高くなったオーム抵抗およびpH勾配は低下する。しかしながら、そのようなアプローチは、アノード燃料またはカソード酸素のクロスオーバーを引き起こす場合があり、クーロン効率の低下を生じる。Torresら(Torres,C.I.;Lee,H.S.;Rittmann,B.E.,Carbonate Species as OH− Carriers for Decreasing the pH Gradient between Cathode and Anode in Biological Fuel Cells.Environmental Science & Technology 2008,42,(23),8773−8777)はBESのカソードに炭酸塩を与え、それにより、アノードとカソードとの間のアニオン交換膜とともに、アノードのpHをより平衡にさせた。Freguiaおよび共同研究者ら(Freguia,S.:Rabaey,K.;Yuan,Z.G.;Keller.J.,Sequential anode−cathode configuration improves cathodic oxygen reduction and effluent quality of microbial fuel cells.Water Research 2008,42,(6−7),1387−1396)による第3の戦略は、アノード流出物をカソードの方に、またはその反対に向け、アルカリ度および塩の再利用を導くことに関する。MFCおよび窒素を除去するBESにとって魅力的であるが、そのようなアプローチは、有機物、酸素消費および最終産物の汚染のクロスオーバーに起因してカソードにおける重要な化学物質の生成を妨げる可能性がある。
【0081】
カソードのpH増加に対処するよりむしろ、本発明の実施形態はカチオン溶液を収集することに利点がある。実際に、カソードへのナトリウムおよび/またはカリウムの輸送に加えて、カソード反応におけるプロトン消費により、ナトリウム、カリウム、および他の水酸化物を含む、アルカリ溶液が生成する。少しのきれいな水の流れがカソード流出物として導入される場合、アルカリ溶液が収集されてもよい。苛性ソーダは、地球上で最も広範に使用される化学物質の1つである。苛性ソーダを使用する最も大きな工業部門の1つは、パルプおよび製紙工業であり、それらは、パルプ化および漂白段階の間に、この化学物質を主に必要とする。醸造所および酪農工場などの他の工業は、プロセス用機器の代わりに清浄化するための苛性ソーダを大量に使用する。上述の工業の全ては、通常、利用可能な十分な生分解性廃水を有し、BESへのアノード燃料供給を可能にする。
【0082】
上記のことを考慮して、廃水処理の間に苛性ソーダを生成するために、BESの電位を調べる実験を行った。薄板状のレイアウトを有するリットルスケールのリアクタを構築した。このBESを、高電子密度を供給するために高アノードスループットで操作した。同時に、制限されたカソードへの流量を、工業において使用される濃縮した苛性ソーダの流量を得るために供給した。目的のパラメータは、達成可能な電流、エネルギー必要量、有機物の除去、および合成実験での供給よりむしろ実際の廃水を使用する効率であった。
【0083】
方法
薄板状の型のリアクタを、1cm厚の2つの溶接したカチオン交換膜(CMI−7000、Membranes International Inc.)のエンベロープ(170×200mm)を作製し、第3のアノードチャンバのための1つのシート膜を使用することにより構築した。BESは3つのカソードチャンバおよび3つのアノードチャンバを有する。8mmのスリットを囲む、底部および上部の溝で膜を固定し、接着(Bostix、豪州)した。膜エンベロープの内側の両側に、グラファイトフェルトアノードを挿入し(164×200mm)、波形のステンレス鋼メッシュ(6mmメッシュ)(Locker、豪州)を挿入することにより両側に固定した。カソードとして、波形のステンレス鋼メッシュ(5mmメッシュ、6mmワイヤ)のみ、またはこのメッシュに加えて2つの目の細かいステンレス鋼メッシュ(Locker、豪州)をカソードスリーブ(164×200mm)に挿入した。全ての波形のメッシュを、ステンレス鋼ロッド(5mm直径)の側に溶接し、それらを、アノードまたはカソードコレクター板(316SS、3mm厚)のいずれかに接続した。次いで、リアクタを再循環および給電回路に接続した。
【0084】
リアクタ操作および培地。リアクタの初期の開始のための接種を、ラボスケールの微生物燃料電池から得て、醸造所の廃水処理プラントの混合タンクから廃水を供給した。アノードに2つの培地の混合物を供給した。塩基性培地(最初に6.9L d−1)は、Rabaey,K.;Ossieur,W.;Verhaege,M.;Verstraete,W.,Continuous microbial fuel cells convert carbohydrates to electricity.Water Science and Technology 2005,52,(1−2),515−523に以前に記載されている1リットル当たり:0.1gのNHCl、0.1gのKHPO、0.1gのMgSO.7HO、0.02gのCaCl.2HO、および1mlの栄養溶液を含んだ。リアクタの状況に応じて標的電流密度を達成することが必要な場合、酢酸ナトリウム(必要に応じて、電流を増加させるために3.93g L−1で開始する)およびNaHCO(流入濃度の中性を確保するため)を含む濃縮物をこの培地に加えた。この濃縮物の流量を異なる負荷速度(開始速度は0.7L d−1であった)を達成させるように変化させた。アノードもまた、0.7L h−1で再循環させ、これはほぼ1/1の再循環を示す。カソードに塩溶液(1gのNaCl L−1)を3〜30L d−1の速度で連続的に供給し、この同じ速度で再循環する。操作期間を3つの実施に分ける:(i)第1の実験室ベースの実施(ii)第2の実験室ベースの実施(iii)醸造所ベースの実施。第1の実施の間、カソードは、カソードとして波形のメッシュおよび電流コレクターのみを含んだ。このシステムを64日間操作し、その間、アノード供給を、濃度および流量の両方を増加させることによって徐々に増加させた。ガス生成による機能停止の後、実験をすぐに終了した。アノードとカソードとの間の不完全な密閉が観測されたので、リアクタを分解し、再構築した。この段階(第2の実験室ベースの実施)で、電極として機能するように微細なメッシュをカソード内に挿入し、次いで電流コレクターとして波形のメッシュを挿入した。このシステムを第1の実施と同様に46日間操作した。この期間の後、リアクタをFosters醸造所(Yatala、豪州)に移し、ここで、「混合タンク」廃水をリアクタに供給した。流入する廃水の組成を表1に示し得る。実験段階の終わりに、高いpHの流入および十分なアルカリ度を達成するために、流入物を、嫌気性消化槽の流出物とともに混合した。カソード流量は0.71L d−1であり、アノード流入物の流量は51〜702L d−1の間で変化させた。
【0085】
表1.醸造所で得た混合タンク廃水の組成(週に1度、操作可能な変動に起因して平均は得られない)。全ての濃度の値をmg L−1で示す。
【0086】
【表1】

【0087】
電気化学モニタリングおよびデータ表示。測定および計算を実施した。定電位測定およびコントロールを、実験室においてPAR VMP−3 Potentiostat(Princeton Applied Research、USA)、および野外研究においてBank−IC KP307 potentiostat(Bank−IC、Pohlheim、独逸)を用いて実施した。リアクタのオーム抵抗を、−0.300V対Ag/AgClの設定アノード電位でVMP3システムに取り付けられたFrequency Response Analyzerを用いて(実験室条件において)測定した。
【0088】
化学分析
サンプリング後すぐに、アノードおよびカソード区画から得たサンプルを、0.22μmの滅菌濾過器で濾過した。揮発性脂肪酸(VFA)含有量を、0.9mLのサンプルに0.1mLの10%ギ酸を加えることによって測定し、続いて、140℃で極性キャピラリーカラム(DB−FFAP)および250℃で水素炎イオン化検出器を用いるガスクロマトグラフィー法により分析した。重クロム酸カリウム法に従ってCOD測定を実施した。13以上のpH値をより正確に測定するために、サンプルを純水で100倍に希釈した。
【0089】
結果および考察
図5は、第1の実験室での実施についての電流対時間のグラフを示し、図6は、第2の実験室での実施についての電流対時間のグラフを示し、図7は、醸造所での実施についての電流対時間のグラフを示す。
【0090】
第1の実験室での実施。開始後(EAN=−0.12V対Ag/AgCl)、リアクタは、15日の長い誘導期を有した。この期間の後、電流は急速に増加し、19日目にアノード電位は、EAN=−0.30V対Ag/AgClに低下した。この期間の間、原料供給は徐々に増加し、1日当たり9.89gまでの酢酸塩を供給し、これは、1.5Aの最大総電流と同等であった。カソードのpHは高い値に到達しなかった。すなわち、最も高い値は10.57であった。これは、ヒドロキシルイオンの逆拡散またはカソードへの一部のアノード流体のクロスオーバーにより生じた。リアクタを検査する際に、少しの漏れが、アノードとカソードチャンバとの間の密閉している膜において発見された。リアクタはさらに、等しい流速でカソード流入物および流出物の両方についてのポンプを用いて操作して、カソードへのアノード流体のクロスオーバーを防いだ。時間とともに、電流は62日で1.015Aまで増加した。その時点で、BESに印加した電圧は1.77Vであり、−2.08V対Ag/AgClの算出されたカソード電位を得る。カソードは別の参照電極に与えられなかったので、この値は、システムのオーム抵抗とずれている。
【0091】
第2の実験室での実施。カソードのステンレス鋼メッシュ電極をカソード区画に挿入し、再構築後、アノードとカソードとの間の十分な水力分離を観測した。このシステムは、徐々に供給される第1の試験での実施と同様であり、46日間にわたって電流生成を必要とされる場合、十分に供給した。驚くべきことに、第1の試験での実施に使用されるアノードをこの第2の試験での実施に再利用したが、電流が増加し始める前に約18日の誘導期を観測した。この第2の実施において、電流のかなりの一致した増加が得られ、36日目に平均0.977±0.039A(最大1.054A)に到達した。これらの値に到達した後、定電位制御は安定しなくなり、アノード電位は、EAN=−0.350V対Ag/AgClまで低下して、電流を制限した。
【0092】
アノード流出物のpHは7.00±0.35でかなり一定のままであった。流入物および流出物の濃度に基づいて、実験の期間にわたって酢酸塩の除去は61±20%であった。カソード液体のpHは、徐々に増加し(誘導期の後、平均12.5±1.6)、42日目に13.93の値に到達した。これは、NaOHとしてヒドロキシル基の3.4%の濃度に相当する。その日に、生成した平均電流は0.710±0.100Aであり、電流効率はその日に96%のアルカリ性の変換を導いた。アノードにおいて、酢酸塩酸化についてのクーロン効率は63%(75%除去)であり、酢酸塩全体は61%のアルカリ性のクーロン効率を導いた。予想されるように、陰極液の伝導率は、時間とともの顕著に増加し、33日目に利用可能な伝導率計(約50mS cm−1)のスケールを超えた。
【0093】
醸造所の敷地での薄板状のリアクタの操作
実験室の酢酸塩での操作の46日後、リアクタを醸造所に移し、混合タンク流出物に最初に接続した。混合タンク流出物は、嫌気性消化槽流出物および発酵酒の混合物であり、混合をプラント操作により実施して、消化槽供給物のpHを改良する。1週間サイクルにわたって、醸造所の敷地での活性の異なるレベルに起因してpHおよび脂肪酸含有量はかなり変化する。pHおよび有機物含有量のこの変化は、電流の循環挙動を導いた(図7)。その週の残りの間、より高いベースライン電流を可能にするために、嫌気性消化槽の流出物(pH約6.8)を1/1の比で既存の供給物と混合した。表2は、醸造所の敷地で操作した実験から得たデータを示す。
【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
BES上の電圧は、時間とともに比例的に電流より増加した。これがカソードでのスケーリングに起因しているか否かを調べるために、このシステムを停止し、1Mの塩酸溶液を、5分間、カソードを通して再循環させた。BESを再開する際に、システム上の電圧は、匹敵する電流についてかなり低く、これは、カルシウムスケーリングがこの高いpHで発生し得ることを示す。アノードを通過する流入量は多く、カルシウム含有量は低いので、アノードの流入物および流出物の差は正確に測定できなかった。従って、カルシウム平衡をこの実験で得ることはできなかった。カソードにおける起こり得るスケーリングは、カソードの外観からクロスオーバーを評価することをさらに防ぐ。
【0097】
実験室および野外条件の両方における高電流密度の達成
ここで展開したシステムのスケールに関して、得られた電流密度は、特に、1リットルスケール以上のリアクタについて以前に報告されているものを超えた。この主な理由は、(i)電流収集に焦点を当てている改良されたリアクタ設計、(ii)再循環におけるアノードオフガスの使用、(iii)平衡アノード電位を用いるBESの操作、および(iv)実際の醸造所廃水について、アルカリ度を増加させる嫌気性消化槽流出物の使用である。
【0098】
改良したリアクタ設計。ここで、このアプローチにより、このシステムのオーム抵抗を妥協せずにBESのスケールアップが可能となる。実際に、測定したオーム抵抗は、約0.1Ωのみであった。この主な理由は、アノードとカソードの連続した近接した間隔、およびアノードの低い伝導率を補償するための電流コレクター(ステンレス鋼)の使用である。後者は典型的にグラファイトベースであり、鋼より約2オーダー低い程度の伝導率を有する。
【0099】
再循環のためのガスの使用。より高い電流を達成する際に、このシステムにおけるガス生成をかなり増加させた。続いて、このガスを、再循環回路(1/1再循環)で停止させた。リアクタに侵入する際に、気泡は液体より乱流する。短いタイムスケールにおいて、これらの気泡の作用が、ガスまたは液体がリアクタを通過する場合、電流の変動を観測することにより確認できた。
【0100】
流入pHおよび供給アルカリ度を制御するための嫌気性消化槽流出物の使用。その場の混合タンクの流れの流入物のpHは、1週間の間、6.1〜6.5の間で変動した。この廃水に利用可能な制限されたアルカリ度を考慮すると、これにより、排水1ユニット当たりに生成され得る電流が非常に制限され得る。嫌気性消化槽の操作に関して、消化槽の流出物は、非常に多くの場合、予め酸性化された廃水と混合するために再循環される。これにより、消化槽についての十分な流入物のpHが確保され、この実施はまた、この研究に使用される醸造所の敷地内でも行われる。本発明者らは、混合タンク流出物と混合した消化槽の流出物の割合を増加させることによってBESの流入物について同じ戦略を適用した。これにより、本発明者らは、電流生成を増加させることを達成した。
【0101】
この発見は、BESの将来の適用にかなり有意義である。アノードを介して現れる酸性化BESが、既存の消化槽システムとともに使用され得る。さらに、使用可能な苛性ソーダの流れの生成が実証されている。
【0102】
当業者なら、本発明は具体的に記載されたもの以外の変更および改変を受ける余地がある可能性があるということはわかるであろう。本発明は、その技術思想および範囲の中に入るすべてのこのような変更および改変を包含するということを理解されたい。
【0103】
本願明細書全体を通して、用語「含む」およびその文法上の等価物は、文脈から明らかにそうではないとわからないかぎり、包含的な意味を有すると解釈されるものとする。
【0104】
出願人は、本願明細書中で論じられる先行技術は豪州または他の地域での一般的な普通の知識の一部を形成すると認めるわけではない。
【0105】
用語「有機(または無機)の」は、無機物質および有機物質の両方を指すと解釈されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質または無機物質を含む廃水の流れを処理するための方法であって、前記廃水の流れを生物電気化学システムのアノードまたはカソードに移動させる工程を含み、前記生物電気化学システムは、1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるカソードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードおよびカソードの両方を有し、それによって、前記廃水の流れのpHが、
a)溶解したカチオンの沈殿を最小化または抑制するように、前記アノードに移動した流れのpHを低下させるか、または
b)アルカリ性の流れを生成するように、前記カソードに移動した流れのpHを増加させるか、または
c)酸性の流れを生成するように、前記アノードに移動した流れのpHを低下させる、
ように変化する、方法。
【請求項2】
酸性溶液またはアルカリ性溶液を生成するための方法であって、アノードおよびカソードを有する生物電気化学システムを提供する工程であって、前記生物電気化学システムは、1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるカソードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードおよびカソードの両方を有する工程と、水性の流れを前記アノードに供給する工程と、水性の流れを前記カソードに供給する工程と、前記アノードにおいて酸性溶液を生成する工程、または前記カソードにおいてアルカリ性溶液を生成する工程と、前記酸性溶液または前記アルカリ性溶液を回収する工程と、を含む方法。
【請求項3】
i)廃水の流れが前記アノードに供給され、かつ廃水の流れが前記カソードに供給されるか、
ii)廃水の流れが前記アノードに供給され、かつ水または水性の流れが前記カソードに供給されるか、
iii)廃水の流れが前記カソードに供給され、かつ水または水溶液が前記アノードに供給されるか、または
iv)水または水溶液が前記アノードおよび前記カソードの両方に供給される、
供給の流れを利用する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有機物質および/または無機物質を含む廃水の流れを処理するための方法であって、前記廃水の流れを生物電気化学システムのアノードまたはカソードに移動させる工程を含み、前記生物電気化学システムは、1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるカソードまたは1つ以上の反応が微生物によって生体触媒されるアノードおよびカソードの両方を有し、それによって、
a)溶解したカチオンの沈殿を最小化または抑制するように、前記アノードに移動した流れのpHを低下させるか、または
b)アルカリ性の流れを生成するように、前記カソードに移動した流れのpHを増加させるか、または
c)酸性の流れを生成するように、前記アノードに移動した流れのpHを低下させる、
方法。
【請求項5】
アルカリ性の水性の流れを生成するための方法であって、
生体触媒されたアノードを有するアノード区画と、カソードを有するカソード区画とを備える生物電気化学システムを提供する工程であって、前記アノード区画および前記カソード区画はイオン透過膜によって隔てられており、前記アノードおよび前記カソードは互いに電気的に接続されている、工程と、
廃水の流れの中の有機物質および/または無機物質が酸化されるように、前記廃水の流れを前記アノード区画に供給する工程と、
水性の流れを前記カソード区画に供給する工程と、
前記カソード区画からアルカリ性の水性の流れを除去する工程と、
を含み、カチオンが前記イオン透過膜を通過するが、前記イオン透過膜を通過するアニオンの流れを制限し、アルカリ性の流れが前記カソード区画において生成される、方法。
【請求項6】
前記アルカリ性の流れが、前記カソードにおけるプロトンの消費によって生成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
イオン選択性膜がカチオン選択性膜を含み、前記カチオン選択性膜が、一価のカチオンを選択的に通過させ、前記カソード区画から除去された前記アルカリ性の水性の流れが、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液またはその両方を含む、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カソード区画から出ていく前記アルカリ性の水性の流れのpHが、少なくとも11であり、より好ましくは12.5より高く、さらにより好ましくは14までである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記廃水の流れが前記生物電気化学システムの生体触媒されたアノードに移動し、それによって、前記廃水の流れの中の有機物質の酸化が、前記排水の流れの中の有機物質の量または濃度の低下を生じ、プロトン(Hイオン)も形成されて、前記廃水の流れのpHの低下を引き起こし、前記廃水の流れのpHが、カチオン(特にカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンまたはストラバイトイオン)の沈殿または沈殿反応が最小化または抑制されるレベルまで低下する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
pHが7以下まで低下するように前記廃水の流れが処理される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カソードが、電気化学的に活性な微生物によって生体触媒され、前記カソードにおける前記電気化学的に活性な微生物の生物活性が、前記カソードに供給される流れのpHの増加を生じる、請求項1〜4または(請求項1〜4に従属する)請求項9および10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記カソードから除去された流れのpHが約8〜8.5である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記カソードに移動する水性の流れが、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムから選択される1つ以上を含む、溶解したカチオンを含有する塩溶液または塩水または海水を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードに供給される流れのpHが、4以下、より好ましくは2以下、さらにより好ましくは1以下のpHを有する酸性の流れを生じるように低下し、前記アノードに供給される流れが水または水性の流れを含み、前記生物電気化学システムがアニオンを選択的に透過させる膜を含み、貯蔵または使用するために前記酸性の流れを回収する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アノードに侵入する前記水性の流れが、製紙工場または紙再生プラントまたは製紙プラントおよびパルププラントからのカルシウムイオンを含有する廃水であり、前記廃水が前記アノードにおいて酸性化され、アルカリ性溶液が前記カソードにおいて生成され、前記アルカリ性溶液が前記廃水に加えられてカルシウムイオンを沈殿させる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記廃水が嫌気性消化槽を通過し、前記嫌気性消化槽の流出物が前記アノードに移動する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記嫌気性消化槽からの流出物が、カルシウムイオンを沈殿させる反応器を通過し、前記反応器の流出物が前記アノードに移動し、前記アノードにおいて前記流出物が酸性化され、前記アノードからの流出物の一部または全てが、直接または間接的に前記嫌気性消化槽に戻り、カルシウムイオンを沈殿させる前記反応器に供給されるアルカリ性の流れが前記カソードにおいて生成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
醸造用タンクまたは醸造所のタンクの洗浄工程からの廃水が、前記アノードへの供給の流れとして使用され、前記カソードにおいてアルカリ性溶液が生成される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記アノードが生体触媒され、前記廃水の流れが前記アノードを通って流れ、それによって、前記廃水の流れのpHが低下し、低下したpHの処理された廃水の流れを含むアノード流出物が嫌気性消化槽に供給され、前記嫌気性消化槽に供給される前記アノード流出物の低下したpHが、前記嫌気性消化槽における沈殿を抑制または最小化する、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項20】
前記カソードから出ていく流出物の流れがアルカリ性の流れを含み、前記アルカリ性の流れが前記嫌気性消化槽からの流出物の流れに加えられて、前記嫌気性消化槽の流出物からの化合物の沈殿を生じる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アルカリ性の流れおよび前記嫌気性消化槽からの前記流出物の流れが、別の器の中で混合される、請求項20に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2012−505733(P2012−505733A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531301(P2011−531301)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001356
【国際公開番号】WO2010/042987
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(505167565)ザ ユニバーシティー オブ クイーンズランド (20)
【Fターム(参考)】