説明

溶液中のアスパラギナーゼ活性の増加方法

安定なアスパラギナーゼ溶液か開示されている。一態様において、飲料水を処理して塩素の濃度を減少させて、アスパラギナーゼの残存酵素活性を高める。処理は、塩素成分を除去するか、塩素の濃度を減少させる添加剤を供給することによって行うことができる。添加剤としては、還元剤および塩素捕捉剤が挙げられる。除去技術としては、活性炭の使用、イオン交換、エアストリッピングが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルアミド前駆体であるアスパラギンの食品中での量を減少させるための方法に関する。より詳細には、本発明は、溶液中の酵素アスパラギナーゼの安定性を高めることに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において検討されているように、アクリルアミドは、アスパラギンを含んだ熱処理された食品中で見つかっている。食品の調理前に該食品に酵素アスパラギナーゼを添加することにより、形成されるアクリルアミドの量を減らすことができるものもある。
【0003】
アスパラギナーゼのようなアクリルアミド低減酵素を、バッチスケールではなく、商業スケールで食品に添加することには、いくつかの課題がある。たとえば、酵素アスパラギナーゼは、アスパラギンの加水分解を易化するために遊離のアスパラギンと接触しなければならない。酵素は典型的には比較的濃縮された形で供給されるので、酵素は理想的には、食品を酵素溶液に接触させる前に水性溶液中に混合および希釈される。たとえば、食品の酵素溶液への接触は、生地を作成することと、この生地に酵素溶液を混合することとを含んでいてよい。
【0004】
酵素活性を定量するための既知の方法は、酵素をユニットに換算して記載することによる。酵素活性の1ユニットは、1分間に1マイクロモルの基質を転化させるのに必要な触媒としての酵素の量である。したがって、食品中のアスパラギンなどの基質または化合物の相対濃度と、食品の量とがわかれば、所望の化合物、この場合はアスパラギンを異なる化合物に転化させるのに必要なアスパラギナーゼなどの酵素のユニット数を算出することができる。
【0005】
以前より理由はわからないのであるが、過剰用量(食品中のすべてのアスパラギンを転化させるのに必要な数学的に予想される量を超える量という意味)のアスパラギナーゼ酵素をマッシュポテトやコーンマサなどの食品中で用いた場合であっても、依然として生地中に測定可能な濃度のアスパラギンが残っていることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7037540号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ある種の食品が熱処理される際に形成されるアクリルアミドの量を減らすことが望ましいため、商業スケールで製造される食品中のアクリルアミド前駆体を減らすために用いられる酵素の効率を最大化する装置および方法を手に入れることが望ましいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一態様において、水から塩素を除去することにより飲料水から安定なアスパラギナーゼ溶液を調製する方法に向けられている。一態様において、塩素は、イオン交換、逆浸透、活性炭によって、および/またはエアストリッピングによって除去される。一態様において、還元剤および塩素捕捉剤などの添加剤を用いて飲料水を処理する。一態様において、処理した水をアスパラギナーゼと混合して、アスパラギナーゼ溶液を調製する。本発明の上記およびさらなる特徴および利点は、下記の詳細な説明において明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1a】飲料水の種々の処理後の残存酵素活性を示すグラフである。
【図1b】種々の塩水混合物の残存酵素活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を特徴づけると確信する新規の特徴は、添付の請求項に記載する。しかしながら、本発明自体、ならびに、その好ましい使用の形態、さらなる目的および利点は、添付の図面と合わせて以下の詳細な説明を参照することにより、最もよく理解されるであろう。
【0011】
一実施形態において、本発明は、アスパラギナーゼの安定性を高め、アスパラギナーゼ活性を保護する水性溶液を提供することに向けられる。アスパラギンがアクリルアミドの前駆体であることから、アスパラギナーゼ活性の強化は、食品中でのより効果的なアクリルアミド低減と言い換えることができる。本明細書中で用いる「酵素活性」は、ユニット数で表す。1ユニットのアスパラギナーゼは、1分間に1マイクロモルのアスパラギンを加水分解することができる。
【0012】
一実施形態において、熱処理によって形成されるアクリルアミドの量を減らすことが望ましい食品は、生地から製造される。「加工スナック」という用語は、元の改質されていないデンプン質出発材料以外の何かをその出発成分として用いるスナック食品を意味する。たとえば、加工スナックとしては、脱水ポテト製品を出発材料として用いる加工ポテトチップスや、コーンマサをその出発材料として用いるコーンチップスが挙げられる。ただし脱水ポテト製品は、ポテト粉、ポテトフレーク、ポテト顆粒、または脱水ポテトの他の存在形態であってよい。これらの用語のいずれかが本願で用いられる場合には、これらの変形のすべてが含まれるものとする。例示にすぎず限定することはないが、アスパラギナーゼ溶液を添加することのできる「加工食品」の例としては、たとえば、トルティーヤチップス、コーンチップス、ポテトフレークおよび/または新鮮なマッシュポテトから製造されるポテトチップス、マルチグレインチップス、コーンパフ、小麦パフ、米パフ、クラッカー、パン(ライ麦、小麦、オート麦、ポテト、精白小麦粉、全粒、および混合粉など)、ソフトおよびハードプレッツェル、ペストリー、クッキー、トースト、コーントルティーヤ、フラワートルティーヤ、ピタパン、クロワッサン、パイ生地、マフィン、ブラウニー、ケーキ、ベーグル、ドーナツ、シリアル、押し出しスナック(extruded snacks)、グラノーラ製品、小麦粉、コーンミール、マサ、ポテトフレーク、ポレンタ、バターミックスおよび生地製品、冷蔵および冷凍生地、再構成食品、加工および冷凍食品、肉および野菜につけるパン粉、ハッシュブラウン、マッシュポテト、クレープ、パンケーキ、ワッフル、ピザクラスト、ピーナツバター、刻んで加工したナッツを含む食品、ジェリー、フィリング、マッシュ果物、マッシュ野菜、ビールやエールなどのアルコール飲料、ココア、ココアパウダー、チョコレート、ホットチョコレート、チーズ、犬や猫の食料などの動物食品、および、シーティングまたは押し出しにかけられるか、または生地または成分の混合物から製造される、他の任意の人または動物用食品が挙げられる。
【0013】
本明細書中の「加工食品」という用語は、上記に定義したような加工スナックを含む。「食品」という用語は、前述の定義したようなすべての加工スナックおよび加工食品を含む。
【0014】
本明細書でいう熱処理された食品には、アスパラギナーゼ溶液で処理することのできる食品、限定はされないがたとえば、加工スナックおよび加工食品の例としてあげた前述のすべての食品、ならびに、フレンチフライ、薄切りポテト、ヤムイモフライ、他の根菜類、調理したアスパラガス、タマネギ、トマトなどの調理野菜、コーヒ豆、ココア豆、調理した肉、乾燥果物および乾燥野菜、熱処理した動物の餌、タバコ、茶、焙煎または調理したナッツ、大豆、糖蜜、バーベキューソースなどのソース、プランテンチップス、リンゴチップス、バナナフライ、および他の調理した果物が挙げられる。
【0015】
このような実施形態のいくつかによれば、生地を作るための所望の成分を水と一緒に混合して、所望の量のアスパラギナーゼも処理後の水とともに混合して、アスパラギナーゼ溶液を調製する。アスパラギナーゼ溶液は、その後、生地に加えてもよい。一実施形態において、アスパラギナーゼ溶液を所望の成分に直接混合して、生地を作る。その後、その生地を熱処理された食品にしてもよい。
【0016】
商用施設においては、生地およびアスパラギナーゼ溶液を作るために使用される水は、その施設で容易に入手可能な水であり、典型的には、各地の都市給水から末端利用者に供給される飲料水である。本明細書において用いる「飲料水」とは、限定はされないが、たとえば都市水道からの水を含む、飲用に適した水道から供給される水を意味する。ほとんどすべての米国の都市水道は、飲料水が蛇口において残留塩素を含むのに十分な塩素を飲料水に添加している。多くの都市水道管区では、飲料水にクロラミンを添加しているが、これはクロラミンが塩素よりもさらに安定であるからである。本明細書において塩素とは、塩素の酸化型として定義され、限定はされないが、たとえば、クロラミンおよび次亜塩素酸塩が挙げられる。同様に、塩酸(HCl)や塩化ナトリウム(NaCl)によって提供されるような、塩化物イオンの非酸化型は、この定義からは除外される。
【0017】
本願発明者は、飲料水の特定の特徴、たとえば、塩素の存在が、アスパラギナーゼ酵素の活性を、食品製造に対する商用設定において有用でなくなる点まで低下させることを発見している。本明細書中で用いる「残存酵素活性(%として示す)」とは、対照の酵素活性をサンプルの酵素活性で割ったもののことをいい、様々な試験条件下での酵素活性の相対測定値を提供する。本願発明者はまた、飲料水の酵素活性への影響を軽減し、アスパラギナーゼの残存酵素活性を商用設定において有用であるように保護するための方法及び装置を確認した。以下の実施例は上述のことを説明するものである。
【実施例1】
【0018】
アリコートから4つの溶液を調製した。各アリコートには等しい初期アスパラギナーゼ(Novoenzymes、A/S)活性が加えられており、各アリコートは各溶液が約50mLの全体積を有するように蒸留水または飲料水にて希釈した。溶液番号3および4に対する飲料水は、ノーステキサス地方給水区(North Texas Municipal Water District)からプレーノ(米国テキサス州)へ供給される飲料水とした。各溶液において用いた水の種類を下記の表1aに示す。
【0019】
【表1】

溶液番号2〜4のそれぞれを約35℃にて40分間加熱してから、溶液番号1を残存酵素活性比較のための対照として用いて、酵素活性およびpHを測定した。溶液番号1は、約10℃の温度で約40分間冷蔵した。
【0020】
測定値を下記の表1bに示す。
【0021】
【表2】

酵素活性および残存酵素活性に対する試験は、本開示の最後に記載する試験方法を用いて行ったことを明記したい。溶液番号1(対照)と比較して、溶液番号2は、酵素活性を全く損失しなかった。溶液番号3は、pHが約8.22で、わずかにアルカリ性であり、アスパラギナーゼ酵素は約35℃で約40分後にその活性の約62%を失っていた。希塩酸を飲料水(溶液番号4)に添加することにより、pHが約7.55に下がり、アスパラギナーゼは、約35℃で約40分間加熱後にその活性の約48%を失っていた。したがって、溶液番号3のアルカリ度が、酵素活性のある程度の損失に関与していると思われる。pHはアスパラギナーゼ活性に影響し、アスパラギナーゼ活性はpHが約4〜7の間である時により高くなると一般に理解されている。
【実施例2】
【0022】
アリコートから4つの溶液を調製した。各アリコートは等しい初期アスパラギナーゼ(Novoenzymes、A/S)活性を有しており、各アリコートは各溶液が約50mLの全体積を有するように脱イオン水または飲料水にて希釈した。各溶液において用いた水の種類を下記の表2aに示す。
【0023】
【表3】

溶液番号2〜4のそれぞれを約35℃で約40分間加熱してから、塩素濃度、水硬度、pHおよび酵素活性を測定した。対照は加熱しなかった。測定値を下記の表2bに示す。
【0024】
【表4】

本データは、塩素が残存酵素活性に対して持つ負の影響を明確に実証している。たとえば、溶液番号1(対照)は、塩素を一切含まず、最も高い残存酵素活性を有していた。溶液番号2は、残存酵素活性が最も低くて、遊離塩素および全硬度のレベルが最も高かった。
【0025】
溶液番号3は、遊離塩素が比較的低い濃度であり、硬度が中程度であり、残存活性は80%を超えていた。溶液番号4は、溶液番号3と比較して、同様の遊離塩素濃度を有し、硬度が低く、わずかに高い残存活性を示した。表2bは、アスパラギナーゼの残存酵素活性が、塩素の濃度に反比例することを実証している。
【実施例3】
【0026】
アリコートから4つの溶液を調製した。各アリコートは等しい初期アスパラギナーゼ(Novoenzymes、A/S)活性を有しており、各アリコートは各溶液が約50mLの全体積を有するように脱イオン水または飲料水にて希釈した。各試料において用いた水の種類を下記の表3aに示す。
【0027】
【表5】

溶液番号2〜4のそれぞれを約35℃で約40分間加熱してから、遊離塩素、水全硬度、pHおよび残存酵素活性を測定した。測定値を下記の表3bに示す。
【0028】
【表6】

上記表3bが示すように、溶液2によって示されるように脱イオン水に塩素を添加するか、溶液3によって示されるように飲料水中に塩素が存在することで、アスパラギナーゼ酵素の残存活性が明らかに低下する。さらに、溶液1における脱イオン水中の酵素の残存活性レベルによって実証され、溶液4におけるBRITA濾過した水中の残存酵素活性によって実証されるように、塩素を除去するか、塩素が存在しない場合には、酵素の活性が明らかに増加する。溶液2に対する塩素濃度は測定されなかったが、これは、次亜塩素酸ナトリウムの形の塩素を溶液に加えたからである。また、飲料水であったので、溶液3における塩素の相対濃度は、飲料水とほぼ同じ濃度であることがわかっていた。
【実施例4】
【0029】
本試験は、飲料水中に見られる量の塩素を、塩素を含まない脱イオン水に加えて、アスパラギナーゼ活性に対する塩素の影響を確かめることにより、酵素活性に対する塩素の影響を分析することを目的とする。
【0030】
アリコートから4つの溶液を調製した。各アリコートは等しい初期アスパラギナーゼ(Novoenzymes、A/S)活性を有しており、各アリコートは各溶液が約50mLの全体積を有するように脱イオン水または飲料水にて希釈した。各試料において用いた水の種類を下記の表4aに示す。
【0031】
【表7】

溶液番号2〜4のそれぞれを約35℃で約40分間加熱してから、塩素、pH、および残存酵素活性を測定した。溶液1は加熱しなかった。測定値を下記の表4bに示す。
【0032】
【表8】

上記表4b中のデータは、塩素が単独で水に加えられた場合には、残存アスパラギナーゼ活性が実質的に低下することを実証している。しかしながら、比較的低い濃度では塩素の残存酵素活性に対する影響は小さい。
【実施例5】
【0033】
飲料水への修飾がアスパラギナーゼの残存活性に与える潜在的影響を確かめるために、5つの溶液を準備した。各溶液は、アリコートから調製し、各アリコートは等しい初期アスパラギナーゼ(Novoenzymes、A/S)活性を有しており、各アリコートは各溶液が約50mLの全体積を有するように脱イオン水または飲料水にて希釈した。溶液をわずかに酸性にするためにクエン酸を加えた。各溶液において使用した水の種類を下記の表5aに記載する。
【0034】
【表9】

溶液番号2〜5のそれぞれを約35℃で約40分間加熱してから、遊離塩素、全塩素、pHおよび残存酵素活性を測定した。溶液1は加熱しなかった。測定値を下記の表5bに示す。
【0035】
【表10】

図1aは、飲料水の種々の処理後の残存酵素活性を示すグラフである。酵素活性は、棒グラフの棒によって示し、全塩素濃度は線(150)によって示す。このデータから明らかなように、チオ硫酸塩(飲料水中の塩素濃度よりも約5倍の濃度で添加)は、塩素濃度を減少させ、酵素活性を86%(140)に増加させた。1.2ppmの全塩素を有する飲料水は、わずか12%(110)の比較的低い残存活性を有していた。クエン酸は、飲料水における塩素の濃度を低下させ、酵素活性を32%(120)まで増加させた。
【0036】
EDTAを含む飲料水中の酵素活性(130)は、脱イオン水中の酵素活性(100)と同等であったが、EDTAは、全塩素をわずかに減少させただけであった。理論と結びつけることなく、出願人は、EDTAが酵素を被覆することにより塩素から保護しているか、EDTAが塩素と結びつくか、のいずれかであると確信している。たとえば、試験時には塩素が目立っているが、反応、すなわちEDTAと塩素の間の可逆反応が、塩素の酸化を防止する、またはアスパラギナーゼとの反応を防止するのかもしれない。したがって、EDTAは塩素を不活性化すると思われる。結果として、一実施形態において、塩素がアスパラギナーゼの活性を低減することを防止する添加剤、および/または塩素を不活性化する添加剤を加えることができる。
【実施例6】
【0037】
飲料水中によく見られる硬水成分の潜在的影響を確かめるために、5つの溶液を準備した。各溶液をアリコートから調製し、各アリコートは等しい初期アスパラギナーゼ(Novoenzymes、A/S)活性を有しており、各アリコートは各溶液が約50mLの全体積を有するように脱イオン水または飲料水にて希釈した。各塩溶液は、プレーノ(テキサス州)からの飲料水中に見られる炭酸カルシウムの濃度の約2倍である、5mM(5ミリモル)の塩濃度となるように加えられた塩を有するようにした。たとえば、上記の表3bを参照して、溶液番号3(プレーノ飲料水)に対する全硬度は、約2.28mMに対応する228mg/Lである。各溶液において使用した種々の種類の塩を下記の表6aに記載する。
【0038】
【表11】

溶液番号2〜5のそれぞれを約35℃で約40分間加熱してから、残存酵素活性を測定した。測定値を下記の表6bに示す。
【0039】
【表12】

図1bは、種々の塩と水との混合物の残存酵素活性のグラフであり、上記表6bからの結果を示すグラフである。添加された塩は酵素安定性に何ら明白な効果は有しなかった。したがって、塩素はアスパラギナーゼ活性の損失の大半に関わっていると確信される。
【実施例7】
【0040】
等しいアスパラギナーゼ初期活性を有する2つのアリコートを同等に脱イオン水(セル1)と水道水(セル2)で希釈して、第1のアスパラギナーゼ溶液と第2のアスパラギナーゼ溶液を調製した。各溶液を室温に30分間保持した後、各アスパラギナーゼ溶液をコーンマサに加えた。マサ中のアスパラギンを、酵素をマサに加えてから5分後および10分後に測定し、測定値を下記表7に示す。
【0041】
【表13】

上記表7に示したコーンマサ中のアスパラギンの濃度は、得られたアスパラギン濃度が、根底にある希釈アスパラギナーゼ溶液に大いに依存していることを実証するものである。上記に示した実施形態において、そのレベルの差は、脱イオン水による処理後と飲料水による処理後で、コーンマサ中のアスパラギン濃度で約一桁であった。
【0042】
上記に示したデータは、アスパラギナーゼの残存活性を最大化するためには、活性塩素濃度を下げなければならないことを明確に示すものである。脱イオン水および蒸留水は高価であるので、本発明は飲料水または他の水源から塩素を選択的に除去するか、および/または不活性化することにより、残存酵素活性を最大化する方法を提供する。
【0043】
飲料水中の酵素活性低減成分の濃度を低下させることのできる当該技術分野において知られるあらゆる方法を用いることができ、それには、限定はされないが、飲料水を、活性炭を通した濾過、エアストリッパー(塩素を揮発させる)、逆浸透系、および/またはイオン交換樹脂により、その活性低減成分の濃度を低減するように処理することが含まれる。飲料水は、安定な酵素溶液を調製するために活性低減成分の濃度を低下させるのに十分な量の脱イオン水または蒸留水と同飲料水とを混合することにより、処理してもよい。
【0044】
本明細書中で用いる「捕捉剤」とは、塩素と反応することによって酵素活性を保護する任意の添加剤のことをいう。したがって、酵素低減成分に対する捕捉剤を飲料水に加えてもよい。たとえば、一実施形態において、塩素に対する捕捉剤であるチオ硫酸塩を飲料水に添加する。さらに、他の添加剤を用いて塩素を不活性化してもよい。たとえば、塩素は強力な酸化剤であるので、還元剤を飲料水に加えて塩素と反応させることもできる。還元剤は、酸化還元化学において、電子供与体となる化合物であることが知られており、酸化剤は電子受容体であることが知られている。したがって、一実施形態において、1つ以上の還元剤(たとえば、電子供与体)を飲料水の供給源に加えて、塩素を不活性化または中和してもよい。還元剤の例としては、限定はされないが、塩化第一スズ二水和物、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)、アスコルビン酸誘導体の塩、鉄、亜鉛、第一鉄イオン、およびその組み合わせが挙げられる。
【0045】
一実施形態において、本発明は、全塩素濃度を約0から約0.5ppm未満、好ましくは0から約0.1ppmの濃度に減少させる。
一実施形態において、アスパラギナーゼを処理水と混合して、安定なアスパラギナーゼ溶液を調製し、その後アスパラギナーゼ溶液を食品と混合するようにしてもよい。一実施形態において、飲料水は十分に処理され、処理飲料水に酵素が加えられてから、少なくとも30分間の間、より好ましくは少なくとも約4時間の間、残存酵素活性が少なくとも約80%であり、より好ましくは少なくとも約90%であれば、安定な酵素またはアスパラギナーゼ溶液ができている。一実施形態において、残存酵素活性は、アスパラギナーゼ溶液が生地に混合されるのに必要な時間の間、少なくとも約90%である。
【0046】
本開示を手引きに、当業者は、所望の残存酵素活性を得るために必要な水組成を確認し、提供することができるであろう。
アスパラギナーゼ溶液を添加することのできる食品としては、限定はされないが、たとえば、生地、スラリー、およびアクリルアミド濃度を下げることが望まれる任意の他の消耗品が挙げられる。たとえば、一実施形態において、アスパラギナーゼ溶液をポテトフレークから作ったポテトスラリーに加える。一実施形態において、ポテトスラリーは、アスパラギナーゼ溶液をポテトフレークに加えることによって調製される。一実施形態において、アスパラギナーゼ溶液は、添加される水に対して用いられ、生地を作るための粉混合物に加えられる。一実施形態において、アスパラギナーゼ溶液は、コーンマサに加えられる。
【0047】
一実施形態において、本発明は、アスパラギンを有する食品成分に加えることのできるアスパラギナーゼの安定な溶液を提供するための装置を含む。一実施形態において、装置は、水を処理するための処理系を含む。処理系は、活性炭を通して、または他の上記に列挙した除去方法によって塩素のような成分を除去することができるか、および/または、処理系は、アスパラギナーゼの活性を、添加剤未添加の場合よりも高いレベルに向上させる、限定はされないがたとえば、還元剤、塩素捕捉剤、またはEDTAを含む添加剤を提供することができる。処理水は、その後、混合槽に送られて、ここでアスパラギナーゼを該水で希釈して、安定なアスパラギナーゼ溶液を調製することができる。その後、アスパラギナーゼ溶液は計量供給などにより、加工食品製造用の生地に加えられるか、上述のように熱処理される。その後、当該技術分野において周知のように、生地をさらに加工(たとえば、押し出しやシーティングによる成形や熱処理)してもよい。当業者であれば、本開示を手引きにして、アスパラギナーゼ溶液が食品中のアクリルアミドの濃度を低減することが望まれるあらゆる場面において本発明が使用可能であることを理解するであろう。
【0048】
一実施形態において、本発明は、飲料水の供給源およびアスパラギナーゼの供給源と、処理水中のアスパラギナーゼの活性を未処理の場合よりも高いレベルに向上させる処理系と、処理飲料水およびアスパラギナーゼを混合する送達系と、を含む装置からなる。一実施形態において、送達系は、処理系からの処理水とアスパラギナーゼとを受け入れる混合槽を含む。
【0049】
本願の実施例に対してアスパラギナーゼ活性決定に用いた試験方法を以下に示す。
I.背景 アスパラギナーゼ活性に対するSIGMAの手順は、pH8.6のトリスバッファ(SigmaカタログA4887)を用いた。食品グレードのアスパラギナーゼはpH8.6において低い活性しか有さないので、アッセイはMOPS(3−モルホリノプロパンスルホン酸)でpH7.0に変えて行った。
II.原理
【0050】
【化1】

III.条件:T=37℃、pH=7.0、A436、光路=1cm
IV.方法:分光光度ストップレート判定
V.試薬
a.100mMのMOPSナトリウム塩(3−モルホリノプロパンスルホン酸)。2.09gのMOPS(SigmaM5162)を秤量する。室温において約60mLの脱イオン水に溶解する。水酸化ナトリウムを加えて、pHを7.0に調整する。脱イオン水で100mLにメスアップする。使用時以外は冷蔵庫にて保存する。
【0051】
b.189mMのL−アスパラギン溶液。0.25gのL−アスパラギン無水物を秤量し、10mLの脱イオン水に溶解する。使用時以外は冷蔵庫にて保存する。冷蔵後、使用前に超音波処理してアスパラギン結晶を溶解させる。
【0052】
c.6mMの硫酸アンモニウム標準溶液(NHSO標準)。0.079gの硫酸アンモニウムを化学天秤の上に計りとり、0.0001gまで記録秤量した。脱イオン水で溶解し、100mLの体積にまでメスアップする。使用時以外は冷蔵庫にて保存する。
【0053】
d.1.5Mトリクロロ酢酸(TCA)。2.45gのトリクロロ酢酸を秤量する。脱イオン水で溶解し、10mLまでメスアップする。
e.アンモニア色試薬:Ammmonia Nitrogen High(ネスラー法、ラモッテ(LaMotte)コード3642−SC,VWRカタログ番号34186−914)に対するテストキット。試薬番号2は水銀を含む。
【0054】
f.アスパラギナーゼ酵素溶液:使用直前に、室温の脱イオン水中に2.0〜4.0ユニット/mLのアスパラギナーゼを含む溶液を調製する。酵素が凍っている場合には、希釈のためのアリコートをとる前に、生ぬるい水中で完全に溶かす。典型的な酵素濃度に対しては、0.1mLの酵素溶液を50mLに希釈するとよい。
VI.手順:
a.バイアルに対する加熱ブロックを37℃に設定する。
【0055】
b.調節可能なマイクロピペットを用いて、次の試薬をバイアル(mL)に移す。
【0056】
【表14】

c.バイアルに蓋をし、37℃の加熱ブロックに配置する。加熱ブロックの攪拌を開始する。
【0057】
d.30分後、加熱ブロックからバイアルを除去する。バイアルの蓋をとり、TCA試薬を迅速に加え、混合する。次に、試薬F(酵素溶液)を酵素ブランクに加える。酵素試験溶液については、バイアルを加熱ブロックから外してからTCAを加えるまでの時間ができるだけ短くなるようにすべきである。TCAを加えた後、アンモニア測定までの時間は重要ではない。ブランクと標準についてはバイアルを加熱ブロックから外してからTCAを加えるまでの時間は重要でない。
【0058】
【表15】

e.0.2mLの各溶液をピペットで試験管またはバイアルにとる。4.30mLの脱イオン水、4滴のラモッテ試薬番号1および0.50mLのラモッテ番号2を加える。溶液を混合し室温に10〜20分間放置してから、1cmセル中の436nmにおける吸光度を読む。脱イオン水にて分光光度計のゼロ合わせを行う。
VII.結果の計算
f.アンモニアに対する較正曲線から酵素活性を計算する(マイクロモル/0.2mL)。
【0059】
g.計算段階の説明
i.硫酸アンモニウム標準溶液濃度の計算:
mM=(0.0809g)*(1000mM/M)*(2NH/NHSO)/((132.14g/モル)*(0.1L))=12.24mM=ミリモル/L=マイクロモル/mL
0.0809gが標準に対する硫酸アンモニウムの重量である場合:
ii.2.2mL標準中のNHのマイクロモルは次のように算出される。
【0060】
2.2mL標準中のNHのマイクロモル=(標準溶液のNHマイクロモル/mL)*(標準のmL)
iii.0.2mLあたりのNHのマイクロモルは次のように算出される。
【0061】
0.2mLあたりのNHのマイクロモル=(2.2mL中のNHのマイクロモル)*(0.2mL)/(2.2mL)
iv.回帰曲線を
x=A436
y=0.2mLあたりのNHのマイクロモル
を用いて計算する。
【0062】
v.較正曲線から、0.2mLあたりのNHのマイクロモルを計算する。
0.2mLあたりのNHのマイクロモル=(勾配)*(A436)+切片
vi.希釈酵素溶液の活性を次の式によって計算する。
【0063】
酵素のユニット/mL=(遊離したNHのマイクロモル)*(2.20)/(0.2*30*0.1)
ここで:
2.20mL=ステップ1からの体積(ステップ1は酵素アッセイ溶液)
0.2mL=ステップ2において用いたステップ1の体積(ステップ2は色展開)
30分=アッセイ時間の分数
0.1mL=使用した酵素の体積。
【0064】
vii.希釈係数は、50mLを50mLに希釈された濃縮酵素の体積で割ったもの。
viii.希釈前の酵素溶液の濃度=(希釈溶液のユニット/mL)*(希釈係数)
本発明は、いくつかの実施形態を参照して詳述してきたが、当業者であれば、溶液中の残存アスパラギナーゼ活性を保護するための他の種々の手法を、本発明の精神および範囲から逸脱しない限りで行ってよいことを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中のアスパラギナーゼ活性を増加させる方法であって、前記方法は、
a)飲料水を処理して、塩素濃度が約0.5ppm未満の処理水とする工程と、
b)アスパラギナーゼを前記処理水と混合して、アスパラギナーゼ溶液を調製する工程とを含む方法。
【請求項2】
飲料水を酸で処理することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
飲料水を活性炭を用いて処理することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程a)における前記処理水は、イオン交換樹脂を用いて処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程a)における前記処理水は、逆浸透を用いて処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記処理水は、エアストリッピングによって処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アスパラギナーゼ溶液は、少なくとも約80%の残存活性を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記処理水は、還元剤によって処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤は、塩化第一スズ二水和物、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)、アスコルビン酸誘導体の塩、鉄、亜鉛、第一鉄イオン、およびその組み合わせから選択される1つ以上の物質を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記処理水は、約8.0未満のpHを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記飲料水は、塩素の最終濃度を、添加剤未添加の場合よりも低い濃度にまで減少させるのに十分な添加剤で処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記処理水は、塩素捕捉剤によって処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記添加剤はチオ硫酸塩を含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
飲料水から安定な酵素溶液を調製する方法であって、前記飲料水への酵素の添加後、同飲料水からの1つ以上の活性低減成分を、少なくとも約30分にわたって残存酵素活性を与えるような量で、不活性化することによる、方法。
【請求項15】
前記活性低減成分は塩素を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記塩素は、前記飲料水を活性炭に通すことによって除去されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記飲料水にEDTAが加えられることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
飲料水の供給源と、アスパラギナーゼの供給源と、アスパラギナーゼとの混合前に飲料水を処理する処理系と、処理飲料水とアスパラギナーゼとを混合する送達系と、を含む装置。
【請求項19】
前記処理系は塩素を除去することを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記処理系は塩素を不活性化することを特徴とする請求項18に記載の装置。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2010−536344(P2010−536344A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521123(P2010−521123)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/072921
【国際公開番号】WO2009/023674
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(500208519)フリト−レイ ノース アメリカ インコーポレイテッド (51)
【氏名又は名称原語表記】FRITO−LAY NORTH AMERICA,INC.
【Fターム(参考)】