説明

溶液中の亜塩素酸イオンの測定方法

【課題】殺菌、消毒、漂白、酸化、電位調整等の処理溶液使用時において、該処理溶液中の亜塩素酸イオン濃度を現場にて簡易的に測定する方法を提供すること。
【解決手段】試料溶液中に含有された亜塩素酸イオンの濃度を測定する方法であって、光源ランプより波長範囲250〜300nmから選ばれた波長の単色光を出力させ、該単色光を、石英製セルに入れた試料溶液に照射した際の透過率から吸光度を測定することで、該試料溶液中の亜塩素酸イオンの濃度を算出することを特徴とする亜塩素酸イオンの測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の亜塩素酸イオンの測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜塩素酸イオンは酸化剤であり、殺菌効果、消毒効果、漂白効果、酸化効果、電位調整効果等に優れた特性を有し、広範な処理用途で使用されている。特に殺菌、消毒処理用の食品添加物として、安全性が高く、作業環境にも優しいことより、現在主流である次亜塩素酸イオンの代替として期待されている。
【0003】
たとえば、生食用野菜の殺菌処理に用いる場合、通常、亜塩素酸ナトリウム濃度として200〜500mg/L(亜塩素酸イオン濃度として149〜373mg/L)に調整した処理液を使用するが、その簡易的な濃度測定方法がなく、濃度管理が困難であるという実状がある。そのため、現場にて簡易的に測定または監視するための亜塩素酸イオンの測定方法が望まれている。
【0004】
従来、亜塩素酸イオンの測定方法としては、酸性下にてヨウ化カリウムと反応させ遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定するヨードメトリー法、またはイオンクロマトグラフィー法が知られているが、前者の場合は種々の試薬及びメスフラスコ、ホールピペット、ビューレット等の器具が必要となり、その煩雑な操作を人手に頼らざるを得ず又時間がかかるうえ、現場にて短時間で測定することが困難である。また、後者の場合は高価なイオンクロマト分析装置が必要となり、また、高濃度の試料溶液の場合、相当な希釈操作が必要となりこの方法についても現場における簡易測定には不向きである。
【0005】
簡易的な亜塩素酸イオンの測定方法として、特許文献1にはポーラログラフィーを用いた方法が記載されているが、原理的に複雑であり、高価な計器となる。また、使用対象が二酸化塩素による浄水処理における残留亜塩素酸イオン濃度測定であり、低濃度領域では有効であるが、上述の生食用野菜処理液等の高濃度亜塩素酸イオン含有溶液を測定する場合に適用できるか不明である。
【0006】
食品添加物公定書解説書には、亜塩素酸ナトリウムの水溶液はpH8において波長258〜262nmに極大吸収部があると記載されているが、本内容はあくまでも他の同類物質(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)と識別するための確認試験として採用されているにすぎない。
【0007】
【特許文献1】特開平6−249832号公報
【非特許文献1】食品添加物公定書解説書 第7版(1999/06)D−2亜塩素酸ナトリウム 注2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した現状に鑑み、殺菌、消毒、漂白、酸化、電位調整等の処理溶液使用時において、該処理溶液中の亜塩素酸イオン濃度を現場にて簡易的に測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、下記(1)〜(3)に示される亜塩素酸イオンの測定方法により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)試料溶液中に含有された亜塩素酸イオンの濃度を測定する方法であって、
光源ランプより波長範囲250〜300nmから選ばれた波長の単色光を出力させ、
該単色光を、石英製セルに入れた試料溶液に照射した際の透過率から吸光度を測定することで、該試料溶液中の亜塩素酸イオンの濃度を算出することを特徴とする亜塩素酸イオンの測定方法。
【0011】
(2)前記試料溶液が、殺菌処理、消毒処理、漂白処理、酸化処理及び電位調整処理からなる群から選ばれた少なくとも一つの処理用溶液であることを特徴とする前記(1)に記載の亜塩素酸イオンの測定方法。
【0012】
(3)前記処理用溶液の亜塩素酸イオン溶液の濃度が50mg/L〜5000mg/Lであることを特徴とする前記(2)に記載の亜塩素酸イオンの測定方法。
【発明の効果】
【0013】
亜塩素酸イオン処理において、現場にて簡易的に亜塩素酸イオン濃度を測定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、亜塩素酸イオンを含有する各種処理溶液の測定方法において、波長範囲250nm〜300nmの光源、石英製セル、検出器、演算手段及び供給電源を具備した測定器を用いることにより、現場にて簡易的に亜塩素酸イオン濃度を測定する方法に関する。
【0015】
亜塩素酸イオンを含有する水溶液は殺菌効果、消毒効果、漂白効果、酸化効果及び電位調整効果が期待され、食品添加物として食品の殺菌用溶液、漂白用溶液として認可されている。また、酸化効果を利用して、プリント配線板として主流となっている銅箔の酸化処理剤として使用されている。更には、亜塩素酸イオンを活性化させることにより発生する二酸化塩素と併用してパルプ又は繊維の漂白用途で使用されている。
【0016】
本発明の亜塩素酸イオンの測定方法の原理としては物質固有の光吸収理論を利用する。すなわち、溶液中における光の透過率の減衰が溶質濃度と光路長に比例するランベルト・ベールの法則を利用するものである。その時に用いる係数をモル吸光係数と言い、この係数が物質固有であり波長により定まっている。亜塩素酸イオンは水溶液中において波長261nmにモル吸光係数として158の極大吸収を持ち、波長250nmでモル吸光係数120であり、波長350nmでモル吸光係数12である。この吸収を利用することにより発色試薬等を使用しないで直接亜塩素酸イオンの濃度を測定することが可能である。
【0017】
本発明の吸収測定に用いる波長は単色光であることが好ましく、その波長範囲は250nm〜350nmから選ばれることが好ましい。
光源として、波長250nmより短波長では、光源の入手が困難になり、また、波長制御の際のゴーストピークの不安があるため好ましくない。また、波長350nmより長波長では、亜塩素酸イオンの吸収強度が小さくなりすぎて好ましくない。
尚、食品添加物等の使用については殺菌又は漂白効果の促進を目的として有機酸等の酸を添加してpHとして3〜5で処理する方法が推奨されており、その際に微量に発生する二酸化塩素(最大5mg/Lが想定される。)の影響を考慮すると、光源の波長範囲として250nm〜300nmがより好ましい。
【0018】
その理由として二酸化塩素水溶液は、波長360nmにモル吸光係数として1160の極大吸収を持ち、波長350nmでモル吸光係数1090、波長300nmでモル吸光係数280である。参考として二酸化塩素の影響を試算する。亜塩素酸イオン濃度500mg/L、二酸化塩素濃度5mg/Lの混合液の場合、光源波長350nmの場合、二酸化塩素5mg/Lが亜塩素酸イオンとして455mg/Lにカウントされ、亜塩素酸イオン濃度表示として955mg/Lとなる。(プラス誤差91%)一方、光源波長300nmの場合、二酸化塩素5mg/Lが亜塩素酸イオンとして12mg/Lにカウントされ、亜塩素酸イオン濃度表示として512mg/Lとなる。(プラス誤差2%)このことからも、二酸化塩素が含有する系であれば、光源の長波長範囲としては300nm以下が好ましいことが分かる。
【0019】
本発明では、光源の他、波長330nmより短波長の光はガラスに吸収されるため、石英製セルを用いる。また、受光部として光源に適した検出器(フォトダイオード)が用いられる。更に、光の透過率の減衰を濃度表示に演算する演算手段を用いることができる。
【0020】
光源は目的の波長範囲の光が出力されれば良い。一般的に近紫外領域の波長範囲の光が出力できる光源としては、重水素(D2)ランプ、水銀ランプ、蛍光ランプ、近紫外発光ダイオード等があるが、これらにこだわる必要はない。
【0021】
測定する亜塩素酸イオン濃度は測定した時の吸光度により決定され、吸光度はモル吸光係数により決定される。原理的に吸光度として0.1から1.5程度が使用可能であり、好ましくは0.3から0.7である。モル吸光係数は測定波長により異なるため、250nm〜350nmの波長領域におけるモル吸光係数を濃度換算すると、亜塩素酸イオンの濃度としては、50mg/L〜5000mg/Lまでの測定が可能となる。
【実施例】
【0022】
実施例1
光源としてD2ランプを用い、スリット及びフィルターを用い波長260nmの輝線に調整した。光路長10mmの石英製セルを用い、該光源にマッチしたフォトダイオードを設置し、モル吸光係数158としてランベルト・ベールの式により演算して濃度表示させた。
【0023】
約500mg/Lの亜塩素酸イオンを含む水溶液を測定液として準備し、ヨードメトリー法及び該方法にて濃度測定を行った。測定はそれぞれ3回行い平均を求めた。また、pHを8、5、3に変化させ測定した。
【0024】
結果を表1に示す。再現性も良く、ヨードメトリー法との値とも非常に良く一致しており実用レベルと判断される。pHを変化させると若干pHの低い方が高い数値で測定されているが、微量に発生した二酸化塩素の影響と判断される。
【0025】
実施例2
約100mg/Lの亜塩素酸イオンを含む水溶液を測定液として準備する以外はすべて実施例1に準じた。
【0026】
結果を表1に示す。再現性も良く、ヨードメトリー法との値とも良く一致しており実用レベルと判断される。pHを変化させてもほとんど測定値に差がなく、二酸化塩素の発生がないと判断される。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、殺菌、消毒、漂白、酸化、電位調整等各種処理用途で使用されている高濃度亜塩素酸イオン含有溶液の処理現場にて簡易的に亜塩素酸イオン濃度測定または監視するための方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中に含有された亜塩素酸イオンの濃度を測定する方法であって、
光源ランプより波長範囲250〜300nmから選ばれた波長の単色光を出力させ、
該単色光を、石英製セルに入れた試料溶液に照射した際の透過率から吸光度を測定することで、該試料溶液中の亜塩素酸イオンの濃度を算出することを特徴とする亜塩素酸イオンの測定方法。
【請求項2】
前記試料溶液が、殺菌処理、消毒処理、漂白処理、酸化処理及び電位調整処理からなる群から選ばれた少なくとも一つの処理用溶液であることを特徴とする請求項1に記載の亜塩素酸イオンの測定方法。
【請求項3】
前記処理用溶液の亜塩素酸イオン溶液の濃度が50mg/L〜5000mg/Lの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の亜塩素酸イオンの測定方法。

【公開番号】特開2009−69110(P2009−69110A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240798(P2007−240798)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】