説明

溶液中ウラン濃度分析方法および溶液中ウラン濃度分析装置

【課題】ウランおよびウラン化合物のいずれかのイオンを測定対象イオンとし、測定対象イオンの濃度を測定する場合に、較正を容易にし、廃棄物の量を低減する。
【解決手段】溶液中ウラン濃度分析装置において、測定対象イオンを励起するレーザー光1を照射するレーザー光発生器21を備え、レーザー光1の行路に測定対象溶液2が注入される試料容器20と、測定対象イオンが所定の濃度で含有される固体の較正用標準試料であるウランガラス4を配置する。試料容器20に注入された測定対象溶液2またはウランガラス4から放出される蛍光3は、スリット10を介してレンズ5に到達して集光された後、分光器6を介して光電子増倍管7によって検出される。第1回目の較正では、試料容器20に溶液標準試料を注入して較正を行うが、第2回目以降の較正では、ウランガラス4のみを用いて較正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象溶液に含まれるウランおよびウラン化合物のいずれかのイオンを測定対象イオンとし、この測定対象イオンの測定対象溶液での濃度を測定する溶液中ウラン濃度分析方法、および、その分析に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中にウランを溶解させる湿式のウラン廃棄物処理などにおいては、処理プロセスの工程管理のために、高濃度から低濃度までの高濃度範囲の溶液中ウラン濃度をリアルタイムで高精度に分析する手法の確立が望まれている。
【0003】
従来、溶液中のウラン濃度の測定は、サンプリング試料が高濃度の場合は適正濃度に希釈を行い、低濃度の場合は濃縮するなどの前処理工程を経た後に、その試料溶液をオフラインで定量する方法が採用されている。この定量には、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法(たとえば非特許文献1参照)などが用いられる。
【0004】
しかし、この手法ではサンプリングから分析結果を得るまでに数時間を要し、リアルタイム監視は出来ない。このため、ウラン廃棄物の化学反応処理工程を高精度で効率よく管理するための濃度モニタリング手法としては不十分である。
【0005】
また、レーザー励起時間分解誘起蛍光分析法が開発されていて、非特許文献2には、実験室レベルでの分析方法・装置が開示されている。この分析法は、ウラン溶液中のウラニルイオンにレーザー光等のパルス光を照射して対象イオンを励起し、その励起分子が基底状態に緩和するときに放出するウラン特有の波長の蛍光を検出するものである。この分析法により、溶液中のウラン濃度の定量がリアルタイムで実現可能となってきている。
【非特許文献1】大道寺英弘、他編、「原子スペクトル測定とその応用」、学会出版センター、1989年、p.87−p.91
【非特許文献2】Laurent Couston、外3名、"Speciation of Uranyl Species in Nitric Acid Medium by Time-Resolved Laser-Induced Fluorescence"、Applied Spectroscopy、Society for Applied Spectroscopy、1995年、Volume 49、Number 3、p.349−p.353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザー励起時間分解誘起蛍光分析法は、溶液中ウラン濃度を、サンプリング試料の濃度調整の前処理なしで、リアルタイムに分析する手法として開発された。この分析法を用いる場合には、既知の濃度に調整されたウラン含有溶液の複数の標準試料を用いて予め較正曲線を作成して、分析装置の定量性能を保持する必要がある。このため、装置を使用する度に較正が必要である。
【0007】
また、数ヶ月から数年にわたり連続運転する場合には、一定期間ごとに再較正を繰り返し行うことが必要である。前回の較正用に調整した標準試料の濃度を長期間にわたって保っておくことは難しく、同一試料を繰り返し用いるのは精度上問題がある。このため、再較正の度に、標準試料を新規に調整する必要がある。
【0008】
さらに、標準試料濃度が品質劣化を起こさずに、かつ、濃度が一定であったとしても、分析用に照射するレーザーの出力変動や蛍光量測定用の検出器の感度変動の影響により、較正曲線が変化してしまい、定量精度が低下してしまう。
【0009】
このため、分析機能本体と装置較正機能部とを組み合わせた、従来のレーザー励起時間分解誘起蛍光分析法では、ウラン溶液のような放射化学的に活性な試料を定量するための較正は、標準試料調整が煩雑で、標準試料導入後の残留試料の洗浄のための所要時間が長いという課題がある。また、長期連続運転中に必要な再較正の度に、同一標準溶液を繰り返し使うことは出来ず、廃棄物が大量に発生するという課題がある。さらに、気温などの分析装置設置環境の変化に伴うレーザーの出力変動や蛍光量測定用の検出器の感度変動による較正曲線の変動を補正できないという課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、較正が容易で廃棄物の量を低減できる溶液中ウラン濃度分析方法および溶液中ウラン濃度分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、ウランおよびウラン化合物のいずれかのイオンを測定対象イオンとし、測定対象イオンの濃度を測定する溶液中ウラン濃度分析方法において、測定対象溶液に前記測定対象イオンを励起する励起光を照射し、前記測定対象溶液中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を蛍光検出器で検出する蛍光検出工程と、前記測定対象イオンを含有する固体の較正用標準試料に前記励起光を照射し、前記較正用標準試料中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を前記蛍光検出器で検出して前記蛍光検出器の較正曲線を作成する較正曲線作成工程と、前記較正曲線に基づいて、前記蛍光検出工程で検出した蛍光の強度から前記測定対象溶液中の前記測定対象イオンの濃度を求める濃度決定工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、ウランおよびウラン化合物のいずれかのイオンを測定対象イオンとし、測定対象イオンの濃度を測定する溶液中ウラン濃度分析装置において、前記測定対象イオンを励起する励起光を照射する照射手段と、前記励起光の行路に配置された測定対象溶液が注入される試料容器と、前記励起光の行路に配置された前記測定対象イオンが所定の濃度で含有される固体の較正用標準試料と、励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を検出する蛍光検出器と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、較正が容易で廃棄物の量を低減できる溶液中ウラン濃度分析方法および溶液中ウラン濃度分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る溶液中ウラン濃度分析装置の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
[実施形態1]
図1は、本発明に係る実施形態1の溶液中ウラン濃度分析装置の平面図である。
【0016】
溶液中ウラン濃度分析装置は、レーザー光発生器21、スリット10、レンズ5、分光器6、光電子増倍管7、高電圧電源9およびコンピュータ8を有している。また、レーザー光発生器21から発生されるレーザー光1の行路には、試料容器20および複数のウランガラス4が互いにレーザー光1を遮らないように配置されている。
【0017】
レーザー光1の行路の外側には、レーザー光1とほぼ平行な平板に貫通孔22が形成されたスリット10が配置されている。また、スリット10を挟んで、試料容器20およびウランガラス4の反対側にはレンズ5が配置されていて、レンズ5を挟んでスリット10の反対側には分光器6が配置されている。分光器6には光電子増倍管7が取り付けられている。光電子増倍管7には、高電圧電源9およびコンピュータ8が接続されている。
【0018】
この溶液中ウラン濃度分析装置は、紫外波長領域のパルス状のレーザー光1を、測定対象に照射して測定対象イオンを光励起し、その励起イオンが放出する蛍光3を検知して定量分析を行う装置であって、時間分解レーザー誘起蛍光分析法による分析を行う。なお、測定対象のウラン溶液試料はギ酸ウラニル溶液2で、ギ酸溶液中に含まれるウラン(ウラニルイオン;UO2+)の濃度を定量分析する場合を例として説明する。
【0019】
一般に、二酸化ウランを溶解した酸性溶液中のウラニルイオンは、可視から紫外波長領域(約200〜約500nm)に光吸収波長帯を有しており、短波長領域の方がその吸光度も大きい傾向にあることが知られている。このため、パルスレーザー光1としては、たとえばNd:YAGレーザーの第4高調波(波長266nm)または第3高調波(波長355nm)、もしくは、窒素レーザー(波長377nm)などで、パルス時間幅が10ns程度のものを用いることができる。たとえばウラン燃料製作工程で生成した廃棄物を除染した回収廃液の分析を行う場合、ギ酸ウラニル溶液2は、数規定のギ酸溶液中に約0.01〜10000ppm程度の濃度でウランが含有される。
【0020】
なお、照射する光はレーザー光1に限定されるものではなく、測定対象イオンを励起するものであればどのようなものであってもよく、ランプ光でも構わない。
【0021】
パルスレーザー光1のビームの行路内には、測定対象溶液であるギ酸ウラニル溶液2とともに、溶液中ウラン濃度分析装置を較正するための較正用標準試料として複数の固体のウランガラス4が配置されている。ギ酸ウラニル溶液2およびウランガラス4に含有される測定対象イオンであるウラニルイオンから放出される蛍光3は、同一のレンズ5によって集光され、分光器6を介して蛍光検出器である光電子増倍管7により検出される。
【0022】
分光器6のグレーティングの傾きを連続的に走査することにより、蛍光3のスペクトルを測定することが可能である。蛍光3の測定のコントロールおよび結果の表示は、コンピュータ8で行う。光電子増倍管7が検出する光信号を電気信号として出力する際の出力ゲインは、高電圧電源9から供給される電圧で調節される。
【0023】
また、測定対象試料および複数の較正用標準試料から放出された蛍光のうち、選択された一つの試料から放出された蛍光3以外の蛍光が、分光器6の入射口に到達しないように遮光するスリット10を有している。スリット10に形成されている貫通孔22の位置は適宜移動させることができるようになっている。
【0024】
ウランガラス4は装置較正用の標準試料として用いるため、ギ酸ウラニル溶液中のウランの形態と同一のウラニルイオン(UO2+)を主成分として含有する。ウランガラス4は、溶液中ウラニルイオンの蛍光スペクトルとほぼ同様なプロファイルの蛍光スペクトルが観測されるという光学特性を有する。ウランガラス4としては、その内部のウラン濃度分布が均一であるものを用いることが好ましい。また、光散乱や吸収の原因となるウラン成分以外の不純物が低く純度の高いものがよい。さらには、ガラス表面は光学研磨されて、曇りのないものがよい。
【0025】
溶液中ウラン濃度分析装置の較正には、溶液中ウラン濃度分析装置に要求される測定濃度範囲のレンジ(オーダー)に対応する濃度範囲で、含有ウラン濃度が異なる複数のウランガラス4を用いる。たとえば、約0.01〜10000ppm程度の10に及ぶ濃度範囲でギ酸溶液中ウラン濃度を測定する場合は、10の範囲を網羅できるように、ウランガラス中のウラン濃度も10の範囲の分布を持たせる。一般に、溶液中ウランよりも固体中ウランの方が明るく蛍光を放出する傾向があるので、たとえば、測定濃度範囲よりも低めの0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10、100ppmの7濃度の較正用標準試料を選べばよい。なお、図1にはウランガラス4を4つしか記載していないが、ウランガラスの数は4つに限定されるものではなく、適当な数のウランガラス4を用いる。本実施形態では、7つのウランガラス4をレーザー光1の行路に配置している。
【0026】
装置の第1回目の較正だけに用いる溶液標準試料として、溶液中ウラン濃度分析装置に要求される測定濃度範囲のレンジを含む、0.01、0.1、1、10、100、1000、10000ppmの7濃度のギ酸ウラニル溶液標準試料を準備する。
【0027】
溶液標準試料を用いる第1回目の較正について説明する。
【0028】
まず、試料容器20に0.01ppmの濃度に調整された溶液標準試料を注入し、パルスレーザー光1が照射されている時に、その濃度に対するウラン蛍光スペクトルを測定する。このとき、光電子増倍管7の感度を確保するために、高電圧電源9から高電圧が供給される。また、スリット10は、溶液標準試料からの蛍光3を効率よく集め、ウランガラス4からの蛍光を混入しないような幾何学配置となっている。
【0029】
次に、ウランガラス4のうちの標準試料0.0001ppmについてウラン蛍光スペクトルを測定し、このときスリット10は、0.0001ppmのウランガラス4からの蛍光3のみを集光するように設定し、なおかつ、溶液標準試料の蛍光スペクトルとウランガラス4の蛍光スペクトルの強度すなわち感度が一致するように、スリット10からのウランガラス4の距離を調整する。このようにして溶液標準試料のウラン濃度と測定されたウラン蛍光スペクトルが第1の較正点となる。
【0030】
このようにして、高電圧電源9から供給される電圧を一定としたまま、順次第2、第3、…、第7の較正点について、溶液標準試料とウランガラス4の蛍光スペクトル強度(感度)が一致するようにウランガラス4の配置の調整を行う。
【0031】
図2は、実施形態1における高電圧電源から供給される電圧が違う場合のウラン蛍光量と光電子増倍管出力の関係を示すグラフである。
【0032】
高電圧電源9から供給される電圧を高電圧V1で一定とし、低濃度の溶液標準試料から順次高濃度にまで較正点を設定していくと、較正直線が飽和する場合がある。すなわち、溶液標準試料のウラン濃度を増加させると、図2の点線Aで示す場合のように、光電子増倍管出力信号は、ウラン濃度がC2以下の比例直線の較正直線から、やがてウラン濃度C2以上の飽和状態になり、ウラン濃度と出力信号の直線性が崩れる。
【0033】
高電圧電源9から供給される電圧を高電圧V1として飽和状態となった較正点においては、設定電圧を下げて中電圧V2に設定する。これにより、図2の破線Bで示す場合のように、ウラン濃度がC2〜C3の範囲においても較正直線の直線性を確保することができるようになる。さらに、順次高濃度にまで較正点を設定していき、較正直線に再度飽和状態が現れた場合は、高電圧電源9から供給される電圧を、中電圧V2より低い低電圧V3に再設定して同様な較正方法を繰り返す。これにより、図2の一点鎖線Cで示す場合のように、ウラン濃度がC3以上の範囲においても較正直線の直線性を確保することができるようになる。
【0034】
図3は、実施形態1における高電圧電源から供給される電圧が違う場合のウラン蛍光の波長と光電子増倍管出力の関係を示すグラフである。また、図4は、実施形態1における光電子増倍管出力の直線性を補正した較正直線を示すグラフである。図3および図4において、点線Aは高電圧電源9から供給される電圧が高電圧V1の場合、破線Bは高電圧電源9から供給される電圧が中電圧V2の場合、一点鎖線Cは高電圧電源9から供給される電圧が低電圧V3の場合をそれぞれ示す。
【0035】
上述のように高電圧電源9から供給される電圧を調整することにより、図3に示すようにウラン蛍光スペクトルの強度(感度)を調整し、最終的に、図4のような複数の較正直線を得ることにより、すべての較正点の濃度を含む較正直線を得ることができる。
【0036】
第2回目以降の較正においては、第1回目の較正で調節したウランガラス4の配置のまま、ウランガラス4を用いて較正を行うことにより、試料容器20に溶液標準試料を注入して較正することと同等の較正を行うことができる。つまり、第2回目以降の較正では、7つの異なる濃度の固体のウランガラス4の中から1つ1つ順次スリット10により濃度選定して較正点を得ることで精度の高い較正直線を得ることができる。
【0037】
このように、本実施形態の溶液中ウラン濃度分析装置の較正には、固体のウランガラス4を用いるため、溶液標準試料での較正を1回のみ行った後は、第2回目以降の較正毎に溶液標準試料の再調整を行ったり、一旦調整した標準試料を別途長期安定保存して繰り返し用いる必要はない。
【0038】
較正によって較正直線が得られた後に、試料容器20に測定対象溶液を注入して、レーザー光1を照射している間に、スリット10によって測定対象溶液から放出される蛍光3のみを分光器6に入射させる。分光器6に入射した蛍光3は、高電圧電源9によって所定の電圧が印加された光電子増倍管7によって検出される。光電子増倍管7の出力と較正曲線に基づいて、測定対象溶液に含有されるウラニルイオンの濃度を求めることができる。この際、この濃度が、高電圧電源9が供給する電圧の条件における較正直線の有効範囲を逸脱している場合には、適宜供給する電圧を下げて再検出する。すなわち、ウラニルイオンの濃度が高電圧電源9が供給する電圧が高電圧V1における較正直線の有効範囲を超えている場合には、順次、中電圧V2、低電圧V3に下げて適当な電圧を選定して再検出を行う。
【0039】
較正直線と光電子増倍管7の出力に基づいてウラニルイオンの濃度を求める作業は、この溶液中ウラン濃度分析装置の外部で人手によって行ってもよいが、コンピュータ8に行わせてもよい。さらに、スリット10の貫通孔22の位置などをコンピュータ8で制御して、較正も自動的に行うようにしてもよい。
【0040】
従来は、ギ酸ウラニル溶液2を保持する位置に、既知の濃度に調整された複数個のウラン含有ギ酸溶液標準試料を順次入れ替えて配置し、個々の濃度に対するウラン蛍光スペクトルを測定し、そのスペクトルのピーク強度、すなわち特定波長における光電子増倍管出力信号とウラン濃度との相関から較正直線を作成していた。したがって、装置の長期運転においては、定期的に較正が必要で、第1回目の較正だけでなく、第2回目の較正以降も同様の較正を繰り返して定量性能を保持する必要があった。
【0041】
一方、本実施形態では、ギ酸ウラニル溶液のような活性な試料を定量するための装置を較正するために、経年変化のない固体標準試料であるウランガラスを用いている。このため、溶液標準試料の調整のような煩雑さはない。また、固体標準試料を繰り返し較正に用いるため、較正精度が高い。さらに、標準試料導入後の残留試料の洗浄も必要なく、廃棄物を大幅に削減することができる。
【0042】
また、長期間連続して装置を運転する場合は、レーザー出力の変動や光電子増倍管の感度変化が緩やかに生じる場合がある。しかし、この場合においても、レーザー出力の変動や光電子増倍管の感度の変化が日単位ならば毎日較正し、週単位であれば毎週較正することにより、較正直線はレーザー出力の変動や光電子増倍管の感度変化を反映したものになる。
【0043】
[実施形態2]
本実施形態の溶液中ウラン濃度分析装置は、ウランガラス4を除き、実施形態1と同じである。なお、実施形態1と同様に、分析対象のウラン溶液試料がギ酸ウラニル溶液で、ギ酸溶液中に含まれるウラン(ウラニルイオン;UO2+)の濃度を定量分析する場合を例にして説明する。
【0044】
図5は、本発明に係る実施形態2の溶液中ウラン濃度分析装置の平面図である。
【0045】
本実施形態では、含有ウラン濃度が同一の複数のウランガラス4を用いる。実施形態1では、装置に要求される測定濃度範囲のレンジ(オーダー)に対応するように、較正用標準試料の含有ウラン濃度が異なるものを用いている。一方、本実施形態では、装置に要求される測定濃度範囲のレンジに対応するように、体積が異なる較正用標準試料を用いる。
【0046】
たとえば、約0.01〜10000ppm程度の濃度範囲でギ酸溶液中ウラン濃度を測定する場合は、10の範囲を網羅できるように、ウランガラス4の体積も10の範囲の分布を持たせる。一般に、溶液中ウランよりも固体中ウランの方が明るく蛍光を放出する傾向があるので、たとえば、ウランガラス中のウラン濃度を比較的低めの100ppmとし、体積比が0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10、100となる7種類のウランガラスを用いる。
【0047】
個々のウランガラス4の発する蛍光量は、濃度が一定の場合には、その体積に比例することから、実施形態1に示す含有ウラン濃度をパラメータとした場合と、体積をパラメータとした場合とは、その作用は全く等価となる。そこで、含有ウラン濃度が一定で体積が異なる7種類のウランガラス4を較正用標準試料として、実施形態1と同様の較正などを行うことにより、溶液中のウラン濃度を分析することができる。
【0048】
本実施形態によれば、実施形態1と同様に、第2回目以降の較正に溶液標準試料の調整のような煩雑さはない。また、標準試料導入後の残留試料の洗浄も必要なく、廃棄物の大量削減が可能となる。レーザー出力や蛍光検出器感度の変動による較正曲線の変動を補正することが可能となる。
【0049】
さらに、較正用標準試料中のウラン濃度が一定であるため、比較的大きな較正用標準試料を作成した後に、体積の異なる試料に切断することなどにより複数の試料を作成することもできる。また、低濃度ないしは高濃度のウランを含有するウランガラスを作成することが困難な場合であっても、適当な較正用標準試料を作成することができる。濃度の違いと体積の違いを組み合わせて、測定濃度範囲のレンジに対応する較正用標準試料を作成してもよい。
【0050】
[実施形態3]
本実施形態の溶液中ウラン濃度分析装置は、光学フィルタ11を配置していることを除き、実施形態1と同じである。なお、実施形態1と同様に、分析対象のウラン溶液試料がギ酸ウラニル溶液で、ギ酸溶液中に含まれるウラン(ウラニルイオン;UO2+)の濃度を定量分析する場合を例にして説明する。
【0051】
図6は、本発明に係る実施形態3の溶液中ウラン濃度分析装置の平面図である。
【0052】
光学フィルタ11は、試料容器20およびウランガラス4とスリット10との間に配置されている。この光学フィルタ11は、測定対象試料および較正用標準試料の放出するウラン蛍光が分光器6へ入射する強度を調整できる。
【0053】
本実施形態では、高電圧電源9によって光電子増倍管7に供給する電圧を一定として作動させる。実施形態1では、光電子増倍管7に高電圧電源9から供給される電圧が高く、較正直線が飽和した場合に、この供給される電圧を低くして、飽和状態を回避している。一方、本実施形態では、光学フィルタ11の光透過率を下げることで、高電圧電源9によって光電子増倍管7に供給する電圧を下げることと同等の効果を得ている。
【0054】
光学フィルタ11の光透過率を変化させることによって、実施形態1と同様の較正を行うことにより、図4に示すものと同等の、すべての較正点の濃度を含む較正直線を得ることができる。
【0055】
このように、溶液標準試料での較正を1回のみ行った後は、第2回目以降の較正毎に溶液標準試料の再調整を行ったり、一旦調整した標準試料を別途長期安定保存して繰り返し用いる必要はない。第2回目以降の較正では、7つの異なる濃度の固体のウランガラス4の中から1つ1つ順次スリット10により濃度選定して較正点を得ることで精度の高い較正直線を得ることができる。
【0056】
また、経年変化のない固体標準試料であるウランガラスを用いているため、溶液標準試料の調整のような煩雑さはない。また、固体標準試料を繰り返し較正に用いるため、較正精度が高い。さらに、標準試料導入後の残留試料の洗浄も必要なく、廃棄物を大幅に削減することができる。長期間連続して装置を運転する場合は、レーザー出力の変動や光電子増倍管の感度変化が緩やかに生じる場合がある。しかし、この場合においても、較正直線はレーザー出力の変動や光電子増倍管の感度変化を反映したものになる。したがって、レーザー出力の変動や光電子増倍管の感度を補正するためには、出力の変動や感度変化が日単位ならば毎日較正を行なえばよく、週単位であれば毎週較正を行なえばよい。また、実施形態1と異なり、高電圧電源9には、供給する電圧を変化させる手段を備える必要がない。
【0057】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。また、各実施形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る実施形態1の溶液中ウラン濃度分析装置の平面図である。
【図2】本発明に係る実施形態1における高電圧電源から供給される電圧の違う場合のウラン蛍光量と光電子増倍管出力の関係を示すグラフである。
【図3】本発明に係る実施形態1における高電圧電源から供給される電圧の違う場合のウラン蛍光の波長と光電子増倍管出力の関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る実施形態1における光電子増倍管出力の直線性を補正した較正直線を示すグラフである。
【図5】本発明に係る実施形態2の溶液中ウラン濃度分析装置の平面図である。
【図6】本発明に係る実施形態3の溶液中ウラン濃度分析装置の平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1…レーザー光、2…ギ酸ウラニル溶液(測定対象溶液)、3…蛍光、4…ウランガラス、5…レンズ、6…分光器、7…光電子増倍管、8…コンピュータ、9…高電圧電源、10…スリット、11…光学フィルタ、20…試料容器、21…レーザー光発生器、22…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウランおよびウラン化合物のいずれかのイオンを測定対象イオンとし、測定対象イオンの濃度を測定する溶液中ウラン濃度分析方法において、
測定対象溶液に前記測定対象イオンを励起する励起光を照射し、前記測定対象溶液中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を蛍光検出器で検出する蛍光検出工程と、
前記測定対象イオンを含有する固体の較正用標準試料に前記励起光を照射し、前記較正用標準試料中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を前記蛍光検出器で検出して前記蛍光検出器の較正曲線を作成する較正曲線作成工程と、
前記較正曲線に基づいて、前記蛍光検出工程で検出した蛍光の強度から前記測定対象溶液中の前記測定対象イオンの濃度を求める濃度決定工程と、
を有することを特徴とする溶液中ウラン濃度分析方法。
【請求項2】
前記較正曲線作成工程は、
前記測定対象イオンを所定の濃度で含有する液体の溶液標準試料に前記励起光を照射し、前記溶液標準試料中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を前記蛍光検出器で検出する基準蛍光検出工程と、
前記較正用標準試料に前記励起光を照射し、前記較正用標準試料中の励起された前記測定対象イオンから放出され、前記蛍光検出器で検出する蛍光の強度が前記所定の濃度になるように、前記検出器に対する前記較正用標準試料の相対位置を決定する較正準備工程と、
前記較正準備工程で決定した位置に配置された前記較正用標準試料に前記励起光を照射し、前記較正用標準試料中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を前記蛍光検出器で検出し、前記所定の濃度と蛍光の強度との関係から較正曲線を求める較正工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載の溶液中ウラン濃度分析方法。
【請求項3】
所定の範囲のエネルギーの蛍光のみが前記蛍光検出器に入射するようにする分光工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の溶液中ウラン濃度分析方法。
【請求項4】
前記蛍光検出器のゲインを調整するゲイン調整工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析方法。
【請求項5】
前記蛍光検出器に入射する蛍光量を調整する蛍光量調整工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析方法。
【請求項6】
ウランおよびウラン化合物のいずれかのイオンを測定対象イオンとし、測定対象イオンの濃度を測定する溶液中ウラン濃度分析装置において、
前記測定対象イオンを励起する励起光を照射する照射手段と、
前記励起光の行路に配置された測定対象溶液が注入される試料容器と、
前記励起光の行路に配置された前記測定対象イオンが所定の濃度で含有される固体の較正用標準試料と、
励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を検出する蛍光検出器と、
を有することを特徴とする溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項7】
前記照射手段はレーザー光を照射するものであることを特徴とする請求項6記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項8】
前記照射手段はランプ光を照射するものであることを特徴とする請求項6記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項9】
前記較正用標準試料は複数であって、少なくとも一つの前記較正用標準試料が含有する前記測定対象イオンの濃度は他の前記較正用標準試料が含有する前記測定対象イオンの濃度と異なるものであることを特徴とする請求項6ないし請求項8いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項10】
前記較正用標準試料は複数であって、少なくとも一つの前記較正用標準試料の体積は他の前記較正用標準試料の体積と異なるものであることを特徴とする請求項6ないし請求項9いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項11】
前記較正用標準試料は前記測定対象イオンを含有するガラスであることを特徴とする請求項6ないし請求項10いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項12】
蛍光のうち所定の範囲のエネルギーの蛍光のみを前記蛍光検出器に入射させる分光器を有することを特徴とする請求項6ないし請求項11いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項13】
前記蛍光検出器のゲインを調整するゲイン調整手段を有することを特徴とする請求項6ないし請求項12いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項14】
前記蛍光検出器への蛍光の入射強度を調整する入射強度調整手段を有することを特徴とする請求項6ないし請求項13いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。
【請求項15】
前記較正用標準試料中の励起された前記測定対象イオンから放出される蛍光を前記蛍光検出器によって検出した信号に基づいて作成された較正曲線を用いて、前記測定対象溶液から放出される蛍光を前記蛍光検出器によって検出した信号を較正する較正器を有することを特徴とする請求項6ないし請求項14いずれか記載の溶液中ウラン濃度分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−249328(P2008−249328A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87039(P2007−87039)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】